イタリアへ・・~須賀敦子・静かなる魂の旅~

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スタッフノート

制作スタッフが、イタリア・須賀さんへの想いと、
番組がどのようにして作られたか、見どころなどを語ります。




【脚本・演出 重延浩より】
実はこの第2話は須賀さんの恋の物語なのです。
これまで須賀さんと結婚にいたったペッピーノとの恋物語はあまり語られたことがありませんでしたが、脚本重延浩が全集第8巻にある須賀さんの個人史や手紙を分析、ちょうど須賀さんがアッシジに旅していたころに重なる須賀さんの恋物語を脚色しました。
すべて事実に基づいた物語で紛色はありません。
須賀さんはコルシア・デイ・セルヴィ書店のペッピーノことジュゼッペ・リッカを尊敬していました。カソリック左派といわれるコルシア書店のリーダーだったダヴィデ神父に紹介され、ペッピーノとの交際がはじまります。ペッピーノは書店の運営とその活動の中心人物のひとりでした。イタリア文学についての造詣も深く、須賀さんにとってはまさに文学研究の師でした。
そんなペッピーノとの間に次第に深まっていく恋の物語とアッシジへの繰り返しの旅が時を同じくしているのです。須賀さんは清貧のフランチェスコの教えに導かれるとともに、フランチェスコの下に参加するために世俗を捨てた聖キアーラを同性として深く尊敬していました。キアーラはフランチェスコを信じ、貴族の娘としての身を捨て、生涯をフランチェスコの教えに捧げ、サンダミアーノ教会で「イエスの小さい姉妹の友愛会(クラリッセ会)」を育て、修行と献身の宗教活動を続けていました。そんなキアーラの友愛の精神に心惹かれた須賀さんは、そうした宗教的慈愛に自分のこれからの道を見るのか、文学や恋に本当の自分の姿があるのか考え、迷います。それがアッシジへの繰り返しの旅でした。
そして須賀さんは、ひとりの友人との語り合いの中から、愛のある人生を選び、その種を撒く道を選びます。そしてアッシジの坂道をまるでフランチェスコやキアーラのように下りていくのです。
それを包む夕景を、美しく撮影するのが演出家、撮影監督の仕事でした。近くの山で切り出されるうす桃色の石でつくられたアッシジの家や教会に陽が当たり町全体が桃色に、そして紫色に変化していく姿はとても美しいものでした。それが須賀さんの好きな風景でもありました。
最後に須賀さんの実妹北村良子さんがそっと教えてくれた須賀さんの逸話を披露します。
須賀さんは妹が娘を産んだとき、名付け親を頼まれたそうです。そして「キアラはどう?」と言ったそうです。今回の脚本を読み北村さんははじめて、なぜ姉が「キアラ」という名を挙げたか分かったといいます。
フランチェスコが死んだ時、その遺体はひとときキアラのいたサン・ダミアーノ教会に運ばれました。ジョットの壁画では、その時の様子が感動的に描かれています。
尼僧キアーラがフランチェスコを抱擁しているではありませんか。尼僧の抱擁の姿は実話に基づいた絵画でほとんどみることがありません。そんな感動の奇蹟が生まれるアッシジなのです。
番組の最後に、サン・ダミアーノの尼僧が夕陽の中、じっと壁に向かって3分以上祈り続ける1カットの映像があります。この長い長い「祈り」こそ、番組の主題です。みなさんも祈りながら見てください。

須賀敦子さんの文章を朗読するのは原田知世さん。恋の手紙を読む原田さんの情感はすばらしいものでした。ナレーションの清水紘治さんは、まるでフランチェスコのように、説得力のある声で番組もまとめてくれました。 そして音楽です。
音楽は、一枚のCD「エプソンクラシックCD『祈り』TYMK-022」から選び抜いて番組のいくつもの場面に流れます。
世界的ヴィオラ奏者今井信子さんのCDです。特に1曲目のG.F.ヘンデル作曲、細川俊夫編曲「私を泣かせてくださいLascia ch’io pianga」が番組の精神的主題曲になります。原曲はジョージ・フレデリック・ヘンデルのオペラ《リナルド》。第2幕で、とらわれのヒロイン(ソプラノ)が自由を求めて歌うアリアです。歌詞は「過酷な運命に涙し、自由を求め憧れることをお許しください。私のこの苦しみをどうか憐れんでください。どうかこの苦悩を打ち壊してくださいますように」という神への嘆願の曲。この番組のテーマそのものです。
そして9曲目のJ.Sバッハ作曲、細川俊夫編曲「人よ、汝の罪の大きさを嘆け」がアッシジの美しい景色を彩るテーマ曲になっています。番組にとって、この音楽、この演奏しかありえないという選曲です。 お楽しみください。

撮影は重本正、技術は井納吉一という、20年以上も共にチームを組む、最高の美学のチームです。また河出書房新社の協力で制作されました。イタリアのコーディネートは文化のコーディネーターとして随一のローマ在住大貫真弓さん、制作はテレビマンユニオン三戸浩美が務めています。皆、須賀敦子さんの愛読者です。

【プロデューサーより】
昨年の11月「イタリアへ・・須賀敦子静かなる魂の旅 トリエステの坂道」を放送した後の、視聴者の皆様からの反応は予想を上回るものでした。

BSデジタルだからこそ出来る番組を作りたいという演出家・重延浩さんの強い思いから「テレビエッセイ」というスタイルに挑戦しました。
出演者は起用しない。
テレビ画面に映るのはイタリアの風景と人々だけ。
須賀敦子さんのエッセイの中に込められた「魂」の軌跡を、丁寧に追いかけたい。
通常のテレビ番組での文法とは違うアプローチでの表現を求めました。

放送終了後、須賀敦子さんの世界観に魅せられた視聴者の方々から多くの反響が寄せられ、その演出手法の手応えを感じ、今年の第二弾へと繋がりました。

今回の第二弾は須賀敦子さんの青春の日々を過ごしたアッシジ、ペルージャが舞台となっています。須賀さんが20代の若さで十数回も繰り返し訪ねたという街をカメラは丁寧に切り取り、須賀さんの情熱の意味を映し出します。

カトリックである須賀さんが訪れた聖フランチェスコ大聖堂の壮麗さ。小鳥に説教をしたという伝説の聖人・フランチェスコへの想い。
裕福な貴族の娘でありながら、全てを捨ててフランチェスコの信仰を追った聖人キアラの人生。そして須賀さんが最も心惹かれた場所であるサン・ダミアーノ修道院での悲しいエピソード。

若き頃の須賀敦子さんが見たであろう心象風景をハイビジョンでお届けします。
番組後半にある3分を超える1カットこそ、今回の番組のクライマックスです。
是非、秋の夜長にご覧ください。

BS朝日 有賀史英

【スタッフ】  
出典・著者 須賀 敦子
朗読 原田 知世
ヴィオラ演奏 今井 信子
ナレーション 清水 紘治
   
脚本・演出 重延 浩
撮影 重本 正
制作プロデューサー 渡辺 誠
  三戸 浩美
   
プロデューサー 有賀 史英
  重延 浩
   
企画 テレビマンユニオン
製作 BS朝日 テレビマンユニオン