SHISEIDO presents エコの作法
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バックナンバー

2013年4月5日・19日
「遇う×美しい日本の宿」 

水ぬるむ春。
暖かい日差しに背中を押されて旅に出たくなる季節です。
桜の花を追って、北へ旅するも良し、萌える緑を求めて南へ行くも良し。
そんな旅に欠かせないのが、宿。
旅先で偶然見つけた宿での時間が一生の思い出となることもあるはず。
日本の宿は、自然とともにある暮らしの心地よさを思い出させてくれます。
土地ごとに、人ごとにもてなしの形はさまざまですが、そこには必ず日本ならではの美しさがあります。

「湯宿・さか本」。
宿の主人曰く、「いたらない、つくせない宿」。
お客から聞かれる迄は、宿の説明なども一切ありません。
部屋に案内されたら、あとは夕食迄、好きに過ごすだけ。
部屋には、テレビも電話もありません。エアコンもなければ。歯ブラシもない。
周りには、観光名所どころか一軒の家もありません。
あるのは、春を待つ木々や小さな川の流れ…。裏には竹林。
自然そのままのように見えますが、すべて宿の主人が作った庭です。
散歩するも良し、ぼーっとするも良し。「おすすめ」なんてありません。
宿のどこで過ごすのも自由。
料理目当てに、やって来る人も多い、さか本のもうひとつの顔です。
使うのはほとんどこの宿の周りでとれたもの。
特別なものは何もありません。地元の素朴な食材ばかりです。
しかしこれが、料理人の手で、洗練された一皿に変わります。
過剰な装飾や味付けがないから、ひとつひとつの料理がみずみずしく、凛とした表情をしています。
その土地で当たり前のことを心を込めて、丁寧にやる。その先にあるものこそが、本当の贅沢。なんにもないからこそ見えて来る美しさがありました。

日本の家の楽しみのひとつは、庭を愛でること。さらに、自然の風景を取り入れ、借景とするのが特徴です。そんな借景の美しい宿があります。
「庭園の宿・石亭」。
庭の向こうに横たわるのは…宮島。ここは、宮島を借景にした宿なのです。
どの部屋から見るかで、この風景の見え方は変わってきます。
この風景を、くつろいで堪能してもらえるよう、宿のご主人がこだわっているのが、椅子。
日本の伝統家屋は、座敷に正座した目の高さで見る景色が最も美しくなるように設えるのが基本。だから、窓際の椅子は、低いものにしています。
海外の文化を取り入れながら、自らの文化を形作って来た日本人。
日本の家と西洋の家具を融合させて生まれた快適な空間。
そこから眺める景色はとても美しいものでした。

「歴史の宿・金具屋」。
昭和11年に建てられた「斎月楼」は現在では建築が困難な木造4階建て。
当時の大工の奇抜な発想が建物のいたるところに見てとられ、国の登録有形文化財にも指定されています。
館内は、まるでアミューズメントパークのようでした。
夜店のように明かりが並ぶ廊下は町並みをイメージして作られています。
窓の上にはちゃんと屋根がついていて、その上には青空が…。
それぞれの部屋は、一軒家のような作りです。
窓には細かな竹細工。さらに、その上を見ると、庇に乗っかっているのは…なんと鮑の貝殻。漁村で見かける石葺きの屋根を真似しました。長野の温泉宿で漁村の風景に出会えます。
面白ければ何でもありです。面白いと思ったことは何でもやってみるのも日本文化のある意味、伝統かもしれません。
みんなを驚かせてやろう。そんな思いが最も伝わって来るのが建物の高さです。
当時、このそびえ立つ楼閣は人々を圧倒しました。建物を支えるのは、地面から屋根まで貫く長さ15メートルもの杉の通し柱です。壁にたよらず、柱と梁だけで建物を支える伝統工法。木造4階建てを、この柱13本が支えています。
もてなしてくれているのは、今の宿の人々だけではない…。
文化財の宿はそんなことも気づかせてくれるのです。

会津東山温泉の宿「向瀧」。
宿にある4つの建物は、すべて国の登録有形文化財に指定された名建築。
24室ある部屋は全てつくりが異なります。
この宿の魅力は、建物の素晴らしさだけではありません。
館内をみると どこもピカピカに磨き上げられています。
実は、この宿では「磨くこころ」が守られているのです。
お客を気持ち良く迎える。その原点は「磨く」こと。
毎日の掃除は昔ながらの道具を使って、すべて客室係と番頭さんで行います。
作業はあくまでも手で行い、建物が傷む掃除機は使いません。
磨くというのと「掃除」はちがいます。掃除は、汚れたものを元にもどすことですが、「磨く」とは、元のもの以上に輝かせること。実際に客に接する本人が「磨く」ことで、建物だけでなく、もてなしの心も磨かれます。
「磨く」ことに込められているのはものを大切にする心。
そしてそれは、人や自然を思いやる心にも繋がります。

湯宿・さか本

石川県珠洲市上戸町寺社15-47
TEL:0768-82-0584
http://www.asahi-net.or.jp/~na9s-skmt/

庭園の宿 石亭

広島県廿日市市宮浜温泉3-5-27
TEL:0829-55-0601
http://www.sekitei.to

歴史の宿 金具屋

長野県下高井郡山ノ内町 渋温泉
TEL:0269-33-3131
http://www.kanaguya.com

向瀧

福島県会津若松市東山町大字湯本川向200
TEL:0242-27-7501
http://www.mukaitaki.com

アーサー・ビナードさん


<プロフィール>
アメリカ合衆国、ミシガン州生まれの詩人・俳人、随筆家、翻訳家。
20歳でヨーロッパへ渡り、ミラノでイタリア語を習得。ニューヨーク州コルゲート大学英米文学部を卒業。卒業論文を書く際に漢字・日本語に興味を持ち、1990年6月に単身来日。来日後、通っていた日本語学校で教材として使用された小熊秀雄の童話『焼かれた魚』を英訳した事をきっかけに、日本語での詩作、翻訳を始める。現在は活動の幅をエッセイ、絵本、ラジオパーソナリティなどに広げており、全国各地で講演活動等も行っている。
詩集『釣り上げては』で中原中也賞を受賞。