SHISEIDO presents エコの作法
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バックナンバー

2013年9月13日・9月27日放送
「待つ×月と暦」 

秋風がそよぎ夜空が冴え渡れば、そろそろ、お月見の季節です。毎日、少しずつ姿を変え私たちに微笑みかける月。月明かりに浮かび上がる景色は別世界。人々は月が作り出す世界の美しさに酔い…欠けてゆく月の儚さを思い…日々、月の出を待ちました。月からは数々の文化が生まれましたが、その中でもっとも身近なものが「暦」です。月と太陽の動きを観察して作られた旧暦は、自然をみつめることの大切さを教えてくれます。

今年の中秋の名月は9月19日。その年の旧暦の8月15日にあたる日です。まさに十五夜。実は旧暦の日付はその日の月の形を表しています。旧暦の一ヶ月とは新月から次の新月までの間。月半ばの15日が必ず満月で月末にふたたび月は姿を消します。月初めの1日を「ついたち」と読むのは月が再び現れる「月立ち」という言葉から来ています。毎月3日は三日月。月末を、晦日というのは三十日目の月ということ。この字を「つごもり」とも読むのは月が隠れる「月隠り(つきごもり)」の意味。月の形を見れば日付が分かる。それが「一ヶ月」という単位の由来。

月を眺めることは風流人の証し…。月見の文化が息づく京都で今でも最高の月見ができる場所…美山荘。この宿では月ももてなしのひとつです。豊穣祈願のお月見の設え。ススキは稲に見立てています。その秋の収穫に感謝し、とれたばかりのお米の粉で作られたという月見団子。野菜は全て近隣の野山でとれたばかりのもの。丸い十五夜は芋名月といわれ里芋をお供えします。昔は「月待ち」と言って十五夜に限らず月見をしました。月待ちが夜遊びの口実になったんだとか。

美山荘のこの日の月は上弦。月を見ながらいただく料理は、行く夏を惜しみ、来たる秋を先取りしたもの。季節ごとに移り変わる自然の恵は月の満ち欠けのように新しい季節が来たことを教えてくれます。自然の声に耳を澄ませた後には尺八演奏のもてなしが。耳を澄ませると一緒に虫の音も聞こえてきます。人の奏でる音が自然の音と融け合い風景と融け合う…。お月見とは月だけではなく周囲の風や香り…、聞こえて来る音…、月が照らし出す風景すべてを感じるもの。もちろん待っている時から月見は始まっています。

旧暦を使っていた人々は日付を見ればその日の月がすぐに言い当てられました。そんな暮らしが一変したのが明治の改暦です。旧暦の明治5年12月3日が新暦の明治6年1月1日となりました。月と日付の関連もなくなり空を見上げることもずいぶん減りましたが、今も旧暦は生きていました。

熊野三山と吉野を結ぶ山岳信仰の聖地、霊峰大峰山。その山あいにたたずむ天川村。ここでは今でも多くの伝統行事が旧暦で行われています。日本の三大弁天のひとつ天河大辨財天社こと天河神社。この日は8月13日。旧暦だと7月7日の七夕にあたり、ここ天河神社では七夕祭りが行われます。有名な天の川での灯籠流し。しかし訳あって去年からは境内で供養燈火を行っています。その理由はおととしの9月紀伊半島を襲った台風12号が天川村に甚大な被害をもたらしたからです。天の川は崩れた土砂で覆い尽くされいまだ復旧していません。境内を埋め尽くした燈花の灯り。まるで天の川のようです。ここでは七夕といえば先祖供養の祭りです。旧暦のお盆は7月15日。その直前の七夕はもともと先祖供養と結びついたお祭りでした。しかし今の暦に変わってからお盆と七夕との結びつきは忘れかけられています。天河神社では桃の節句や端午の節句など五節句の行事は旧暦で行われています。

1000年以上もの間、日本人の暮らしを支えて来た「旧暦」。北鎌倉の「たからの庭」。8月の暑い日、旧暦の七夕を祝う会が開かれていました。お祝いのしつらえは行事の由来にちなんだものを飾るのがならわし。機織りの道具は織姫にあやかったもの。お琴で使う琴柱に7本の赤い糸を結んでいます。嘘偽りの無い心「赤心慶福」を赤い糸で表し、習い事の上達を願うお飾り。中国で熱病除けのまじないとして食べる索餅(さくべえ)というお菓子。これが日本では、索麺、素麺と変化し、七夕に素麺を食べる習慣として一部の地域に残っています。

二十四節気という言葉はご存知ですか?春分や秋分、夏至や冬至も二十四節気のひとつです。地球が太陽を一周する間に四季は一巡しますが、その一周を24に分けて、より細かく季節を表したもの。実は旧暦とは月の満ち欠けによる太陰暦と太陽の動きに基づくこの二十四節気を組み合わせた暦のこと。月の満ち欠けはひと月29、5日。12ヶ月では354日で徐々に季節がズレてしまいます。そこで太陽の動きに基づいた二十四節気を併用して季節を正確に知ったのです。例えば現在、9月半ばの節気は「白露」。早朝、草花に小さな白い露がおり始める頃です。この二十四の節気をさらに3つに分けたのが七十二候。白露の節気、鶺鴒が鳴いた5日後にはつばめが南に帰りはじめます。

季節に導かれた日本の文化についてお話を伺ったのは染色家の吉岡さん。染色とは自然の中に隠された色を見つけ出す作業です。平安時代の人々はこの自然の色を使って季節の風景を再現しました。それが襲(かさね)の色目です。太陽の光が生み出す微妙な色の変化の中に季節のうつろいを感じる・・・。二十四節気とはそんな太陽の動きをもとに作られた季節のものさし。月待ちの「まち」という言葉は古くは神様の側にいることを意味したと言われます。信仰の対象でもあった月はやがて暦となり文化を花開かせ、私たちの暮らしを支えてくれました。月を待つことは、自然と繋がること…。さあ、空を見上げてみてください。

美山荘

〒601-1102
京都市左京区花脊原地町大悲山375
TEL:075-746-0231

http://miyamasou.jp/

天河神社

〒638-0321
奈良県吉野郡天川村坪内107
TEL:0747-63-0558

http://www.tenkawa-jinja.or.jp/

たからの庭

〒247-0062
鎌倉市山ノ内1418-ロ
TEL:0467-25-5742

http://takaranoniwa.com/

染司よしおか工房

〒605-0088
京都市東山区西之町206-1
TEL:075-525-2580

http://www.sachio-yoshioka.com/

エバレット・ブラウンさん


<プロフィール>
1959年、アメリカ・ワシントン州生まれ。epa通信社日本支局長。「Kyoto Journal」寄稿編集者。1988年から日本定住。タイム、ニューズウィーク、ニューヨーク・タイムズ、ロンドン・タイムズ、ル・モンド紙など国内外の主要なメディアで定期的に作品を発表。ドイツのGEO誌で「ピクチャー・オブ・ザ・イヤー」に選ばれたほか、世界的な写真展「M.I.L.K Moments of Intimacy, Laughter & Kinship」で入賞。作品展の開催も多数。