大人になってしばらく美術館や博物館からとおざかっていたのですが、ようやくその楽しみ方がわかってきたのか、最近暇があるとブラリと美術館に寄ってみたりすることが多くなりました。東京にいて嬉しいのはそういう「時間ができたからちょっと行ってみようか」という距離に、魅力的な美術館がたくさんあることです。
年末、恵比寿にある東京都写真美術館に行って来ました。お目当ては「木村伊兵衛とアンリ・カルティエ=ブレッソン 東洋と西洋のまなざし」。大写真家二人を同時に展示する展覧会です。
木村伊兵衛(1901-1974)は今では一般的には新人写真家を対象とする「木村伊兵衛賞」という賞で知られているのかもしれませんが、ぼくが子供の頃(1960年代、70年代)はザ・写真家という存在、誰もが顔を知っている写真家でした。もちろん今でも多くの人から尊敬を受けている偉大な芸術家です。
そしてアンリ・カルティエ=ブレッソン(1908-2004)。20世紀を代表する写真家、そして国際写真家集団「マグナム・フォト」の創設メンバーです。
マグナム・フォトのことは、以前STYLEBOOK でも取り上げたことがあります。2006年秋に開催された「GINZA PHOTOGRAMM 2006~瞬間を銀座から」というイベントで、マグナムのメンバーが東京を写した写真を数十点、INAXと大日本印刷の技術でタイルに焼き付け数百年残る形にして、銀座の大通りに屋外展示するという試みでした。(さらに、この催し自体、翌年の東京都写真美術館で開かれた「マグナムが撮った東京」のプレイベントでした)
その中でも、カルティエ=ブレッソンが1965年来日時に撮影した「日比谷」は特に印象的でした。映画の看板を前にすれ違う男女。一枚の写真の中に色々なドラマを感じることができる。見る人全てに物語を感じさせる写真です。番組でも特集のオープニングに使用しました。
今回の東京都写真美術館の展覧会は、同時代に生き互いに意識しあっていた二人の写真家を並べることで、作家としての個性だけでなく「近代的写真表現が絶対的普遍的でありながら、同時にいかに個別的相対的なものであったかということを見ようとする試み」(パンフレットより)です。
特に面白いと思ったことが2つあります。
1つは、コンタクトプリントの展示。コンタクトプリントとはいわゆるベタ焼き。撮影したフィルムをそのまま焼いて、OKカットを選ぶために使うものです。それを見ることで様々なアングル、タイミング、テイク違いの中から、なぜこの最終カットが選ばれたかを想像し、写真家の仕事を追体験できます。
もう1つは、不思議なことに同じ日本の、写された時代や場所も知っている木村伊兵衛の作品よりも、カルティエ=ブレッソンの作品の方が、ぼくにとって「身近」に感じたこと。見ながらも、帰ってからもずっとなぜだろうか考えていたのですが、思いついたことがあります。それはぼくたちが今観る様々な映像、写真やテレビや映画が西洋的な構図を手本にしていること。自分の目が何を心地よいと感じるかという訓練が、しらずしらずのうちにヨーロッパ文化の影響を受けているのではないか、ということです。
ぜひご自分の目でお確かめください。
2010年2月7日(日)まで
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