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#178

半導体の競争激化 日本の戦略は!? 甘利明・議連会長に問う

スマートフォンや家電、車などあらゆるものに搭載されていて、“産業の米”とも言われる半導体。国際的な競争が激しくなる中、日本も、半導体産業の整備に国家事業として取り組むと表明しました。2021年6月6日『BS朝日 日曜スクープ』には、自民党の半導体戦略推進議連、甘利明会長が出演、日本の戦略を特集しました。

■「民主主義陣営と権威主義陣営が熾烈な戦い」

上山

最近、「半導体不足」とか「半導体争奪戦」といったニュースが急に多くなっています。アメリカと中国の綱引きが激しくなってきたためですが、その中で日本はどう対処するのでしょうか?ゲストは、自民党の半導体戦略推進議員連盟、甘利明会長です。宜しくお願いします。

甘利

よろしくお願いします。

上山

そして、朝日新聞編集委員、峯村健司さんにも、解説をお願いします。

峯村

よろしくお願いいたします。

上山

日本における半導体産業は、1980年代に日本の生産が世界シェアの50%を占めていました。しかし、現在は10%にまで落ち込んでいます。デジタル化の進展で、半導体の世界市場は、2030年には9000億ドル、100兆円近くに達すると予想ですが、将来的には、日本のシェアはほぼ0パーセントになる恐れがあるということです。この事態に対して国が動き出しました。

菅原

経済産業省はおととい、半導体の開発や生産体制強化に向け、海外の受託製造企業と連携して工場設立、日本国内の製造能力を整備すると発表しました。梶山経産大臣は「デジタル産業基盤は国民生活に必要不可欠で国家事業として取り組む」としています。

上山

甘利さん。国家事業という言葉が出てきて急に打ち上げられたような感もありますけれども、政府の政権の重要課題や予算編成についての方向性を示す『骨太の方針』。去年のものを見てみると、この半導体に関しては、そのワードというのがない。でも、ここに来て、国や甘利さんが会長を務めてらっしゃる議連の動きを見ていると、現在の状況はかなり切迫しているということでしょうか。

甘利

デジタルトランスフォーメーション(DX)というのは、今、世界中が競争で取り組んでるわけですね。デジタル変革というのは神羅万象、ありとあらゆる個々が持っている情報、もうそれこそ気象情報からあらゆる研究のデータに至るまで、全てがデジタル化してデータとして集められて、それの解析から出てくるソリューションを社会実装していくという仕組みがDXなんです。デジタルトランスフォーメーションの中でデータを取り扱うのはですね、全て半導体の仕事なんです。だからデータが動かしていく社会、データドリブンのソサエティーとか、データドリブンのエコノミーですね、全て産業の力も社会の高度化も、データを集めて解析してソリューションを出してくところから始まるんですけれども、それを具体的にやる作業は全て半導体の仕事なんです。だからDXが進むってことは、半導体の競争が進むということと表裏一体なんですね。そのことを我々はしっかりと理解をしていただくように、表裏一体の関係だっていうことを知らしめるために、色々動きをしているんです。

上山

その半導体で主導権を握ることがやはり国の行く末にもかかってくると…。

甘利

国の行く末とですね、このDXって言うのは、そのスペック、どういう仕様で社会を動かしていくのか。これは一国対一国と言う前に、陣営と陣営が、どちら側のスペックが国際標準になるのかという競争になっているんですね。

上山

陣営というのは。

甘利

だから自由と民主主義、人権、プライバシーと法の支配、それ等をベースとした価値観を持っている民主主義陣営と、権威主義の下にスピード感と効率性、それを掲げて、しかしデータは全て政権が握る、それを国家統治のツールとするという権威主義陣営と、自由民主主義陣営のどちらの考え方を国際標準にするかという戦いがもう熾烈に始まってるんです。

■「半導体を制する者は世界を…」日本の強み

上山

すでに世界各国の状況を見てみましても、もう巨額の資金を投じて、自分の国でこの半導体を生産する、その強化に取り組んでいます。

菅原

各国のデジタル産業への支援策を見てみます。アメリカのバイデン大統領は520億ドル、日本円でおよそ5兆7000憶円の半導体産業への投資を含む法案を進めています。中国は政府系の半導体ファンドを設置、5兆円を超える投資に加え、地方政府にも合わせて5兆円を超す基金があります。欧州は2030年に向けたデジタル移行で17兆5000憶円の投資、最先端の半導体の世界シェアを引き上げる目標を掲げました。台湾や韓国も、自国の半導体産業への支援策を打ち出しています。

各国こぞって半導体に国力を注いでいます。甘利さん、中でもアメリカと中国は、深刻化する対立の中で、半導体支援を世界戦略として捉えている、ということでしょうか?

甘利

その通りですね。まさにソフトバンクの孫さんが、21世紀はデータを制する者は世界を制すると言いましたけども、そのデータは半導体が制するんですね。半導体を制する者は世界を制すると言っても過言じゃないと思います。

上山

今、半導体を制する者は世界を制するという言葉がありましたけど、世界が注目している、半導体の製造企業があるんです。私たちがよく使うスマートフォン、その制御や演算処理などを行うCPUに使われる「ロジック半導体」の生産で、世界一のシェアを誇る台湾の「TSMC」です。TSMCは2019年、世界全体の50%を製造しており、まさに一強の状態です。このTSMCは、半導体を設計する企業から依頼を受けて、製造だけを専門に請け負っています。最新の動きでは、TSMCは中国・南京の製造工場を拡張する一方で、アメリカ・アリゾナ州に最新鋭の製造工場新設にも着工しています。ただ、日本の半導体関連の産業でも、圧倒的な強みを持つ分野があります

菅原

今、映ってるものは、シリコンウエハーという半導体の基盤となるものなんです。この薄いものにナノ=10億分の1メートル単位で複雑な電子回路を焼き付けます。ですから、これを作るためには、限りなく完全に平坦にする高い技術が求められています。

日本はこうした分野、半導体の材料とか、半導体を作る製造装置では、非常に高いシェアを誇っています。ちなみに、このシリコンウエハーですけれども、日本企業のシェアは世界の50%に達しています。そして、回路の形成に不可欠なレジストと呼ばれる感光剤は、90%に達しています。続いて、製造装置のシェアを見て行きますと、工程ごとに分かれているんですが、ウエハーに感光剤を塗って現像する装置、こちらも世界の90%を超えています。さらにウエハーを切り分ける装置、ダイシングソーというものでも90%近くのシェアを占めています。

■「米国は日本企業も誘致の対象に」

上山

本当に日本も特定の分野では圧倒的なシェア、強みを持ってます。ところが、実は峯村さんの最新の取材では、あることが判明したということなんです。峯村さんどんなことが分かったんでしょうか。

峯村

先日、アメリカの商務省の当局者と電話取材をする機会がありました。バイデンさんが5兆円を投資すると言った中身について、この当局者に質問しました。このTSMCの誘致におよそ1兆円弱かかるという説明だったんですね。では、残りの4兆円は何に使うんだと聞いたら、「それはTSMC以外の、他国の優れた企業も含めて誘致します」という答えだったんですね。

上山

他国?

峯村

他国です。台湾以外ということですね。それについて、じゃあ日本企業も含まれますかと聞いたら。「もちろんイエスだ」という答えだったんです。日本が実はシリコンウエハーだけではなくて、チップを切るダイシングソーとかは100%のシェアを持っているというところを考えると、これはひょっとしたら、このような先端技術を持った日本企業がアメリカに行ってしまう可能性もあると危惧しています。この辺りは甘利会長、どのように日本側としては、この日本企業つなぎとめることをお考えなんでしょうか。

甘利

私が一番、懸念していたことなんですよね。要するに、アメリカに製造拠点、しかも、まだ実現してない2ナノとか、もっと細かな線幅の狭い最新鋭の半導体を作るとなると、そこの最新鋭の製造やノウハウが集積するところに企業としては行った方が自分も伸びるんですよね。だから、世界中の色んな、上流から下流にかかるところが全部アメリカに糾合されたら嫌だなと。日本もマザーマシンとか、半導体材料というのは、世界に冠たるものですけども、それがアメリカに全て吸い寄せられたら嫌だなと思っていることが、今の峯村さんの話だとですね、現実になるわけですね。もちろん、アメリカに拠点があるのはいいことですよ。権威主義との戦いでこっちが勝たなきゃいけないんですから、ただ、日本が空洞化してしまったら何の意味もないわけです。

上山

そうですね。

甘利

日本にも拠点を作って、アメリカほどではないけども、それに匹敵するぐらいのですね、色んな周辺企業が集積するという、集積場所にしなきゃならないんですね。そのために戦略を立ててお金を投じて、日本にいることの魅力を関係するメーカーに知らしめなきゃなんないし、投資の支援をしなきゃならないと思っていたところですから、アメリカにあんまり派手にやられると嫌だなというところですね。

■日本空洞化の懸念「1位3位連合の重要性を」

上山

アメリカと中国の対立がある中で、日本はどのようにして自国の半導体産業の強化をしていくのか。先ほど、朝日新聞の峯村さんから指摘がありました。アメリカは国際的に競争力のある日本の製造装置や素材メーカーの誘致に、巨額の資金を投じる構えだというお話だったわけですけれども、ただ、そこで甘利さんは、それは一番懸念しているとおっしゃっていました。日本の強いメーカーの工場がアメリカに持っていかれてしまうんじゃないかと懸念されていた。産業の空洞化というのを懸念されているというお話があったんですけれども、その工場が誘致されるだけでなくて、会社ごと買収されるということは考えておいた方がいいものなのでしょうか。

甘利

拠点を作る際に、どういう要求が出されるかですよね、日本に拠点を作るとしたら、他国の企業が来ることも大事ですけども、できるだけ日本側のですね、そこの誘致企業に対する日本側の影響力が入っていった方がいいに決まってるんですね。だから、ただ、そこに来てもらって製造工場を作るよりも、日本の企業の資本が入った合弁の方が日本の戦略に引き込みやすいことは確かですから、アメリカもその裏、逆をついてくるということは当然あります。要は、アメリカは上から下まで、世界最強チームを集めようとしているわけなんですね。マザーマシンから材料から、それから設計をするところから、それを受けて製造するところから、そして、その製造したものが販売される先、お客さんはアメリカに沢山ありますから。ハイエンドの半導体というのは、スーパーコンピューターであるとか、スマホの5G、ポスト5Gとかですね、ハイエンドのユーザーが沢山ありますから、お客さんがある。そこに最強チームを全部、結集させる、お金を投ずる、これ無敵になっちゃいますから。そうすると日本は、会社はあるけども日本には拠点はないよねと、これは最悪のケースですから。日本には、半導体を構成する世界最強のパーツがいくつかありますから、そこを使って日本に一つの、上流から下流まで色々な役割の企業が結合、集合する、そういう拠点を作んなきゃいけないと、我々は思っているわけですから、それを先に、欧米に巨額の投資でやられちゃうとですね、日本の出る幕はないということですから、ここはしっかりそれを踏まえてですね、迅速な対応が必要だと思います。

上山

峯村さんいかがですか。甘利会長としても非常に懸念している情報だという話でしたけれども。

峯村

そうですね。私もすごく懸念しております。先日、朝日新聞で「経済安保 米中のはざまで」という企画の一環で甘利会長にインタビューさせていただきました。その時に会長がおっしゃっていたことで非常に印象に残ってるのが、新型コロナ以降は「一国を殺すにはミサイルいらない、マスク1枚あればいい」という言葉です。それは、うちの見出しにもなったんですけれども、まさにその裏を返すとですね、この米中対立の経済安全保障という観点を考えれば、この半導体というのは、まさにF15とかと同じ、同盟国としての戦略物質だと考えれば、もう少し同盟国としての日米がもっと協調して相手陣営と対抗していくというような、もっと戦略的な議論をした方が良いように思うんですが、その辺はいかがお考えでしょうか。

甘利

おっしゃる通りですね。主張すべきはアメリカだけに集中することの、むしろその弱点ですね。逆に日本とアメリカが組むというのはすごく大事で、何が大事かと言うと、GDPで言うとイチサン連合なんです。1位3位連合です。中国の力が大きくなってきてますから、1位が2位とぶつかって単独で2位を制御するということはもうできなくなってきているわけです。おそらく、あと10年以内に経済の規模だけでは中国がアメリカを追い抜くと言われているわけですから、だから、アメリカは中国と、1対1でなかなか対峙しきれなくなる。だから1位3位連合というのが凄く重要になるわけですね。その日本を衰退させてしまったら、1、3位連合の意味がないわけですから、アメリカと日本が組む戦略上の意義ということを共有すべきで、だから半導体でも世界中、全部アメリカに集めてしまったら戦略上意味がないよと。アメリカと日本が強力な二本の軸であるということの意義を共有していかなきゃいけないですから、政府はそういう点でもアメリカと、この半導体では1、2位連合、経済では1、3位連合を保つということの重要性を今から説いていく必要があると思います。

■中国市場に進出している日本企業は…

上山

ただ一方でですね、そのようにアメリカと日本の間でタックを組んで強力に推進していくとなると、今度、中国に対しては関係が悪化する可能性もあって、今、おっしゃったように中国としては今後 GDP が世界一になる可能性もある、日本の企業も沢山、進出している中で、この中国とはどのように付き合っていったらいいのか。この辺り、どうお考えですか。

甘利

これは日本企業だけじゃなくて、アメリカの企業も、世界中がそうなんですけども、うちだけは何とか両方とうまくやりたいという考え方でいるんですね、商売としてはね。アメリカの関係の商圏でもちゃんと商売したいと、そして中国を捨てるわけにもいかない、必ずこう言われるんです。それでいいですけども、その両方を失う危険性もありますよと。つまり、中国と商売をしているということは、アメリカとの商売に関するデータ、機密情報が中国に流れる恐れがあるとアメリカが判断したら、アメリカへの納入を止めますからね。現実に、日本のあるエレクトロニクスの企業で、そのサイバーセキュリティがアメリカの求める標準を満たしていないという理由で、どうやら国防総省が契約を切ったという噂もありますから。つまり、アメリカと付き合っている企業は、中国の付き合い方は相当、気をつけなきゃいけないですよね。これは、アメリカチームと中国チームが完全にファイアウォールで、こっちのデータがあっちに抜けることは絶対ないということを明らかにして、アメリカの承認をとるということが出来ないと。中国に出ること自身でね、中国はもちろん出てきてもらったら、そこの企業のノウハウを全部抜き取りたいと当然、思いますから、そうすると中国に出ることによって、得るものよりも自分の虎の子を失うというリスクの方が大きいということを認識して出なきゃいけませんよと。つまり、丸腰で出たら丸裸にされますよと、これは今では世界の常識ですから。だから、自分で武装して、中国の市場をある程度、取っていきたい、でも、きちっと、こちらの各種データ、製造工程秘密等が抜けないように防衛できるという自信がない限りですね、行かないほうがいいと思いますと。

上山

この点、やはり、その安全保障という観点もあると思うんですけど、河野さんはどのようにご覧になっていますか。

河野

実は私、甘利先生が出演された別の討論番組を見てまして、その中の出席者の一人の方が、日本がこれだけ半導体産業が落ちたのは、やはり日米半導体交渉で、あれは交渉ではなく命令だったと、アメリカ側の。最終的にはアメリカは何を言ってきたかというと、その方が言うには、だって日本は俺たちが守ってやってるんだろうということで、一言も言えなくなったっていうことを言われたんですよ、日米安保条約ですね。従って、究極はそこに行きつくんだと思ったんですが、ただ、あれは1980年代の話なんです。今はもう、安全保障法制は出来ましたし、台湾問題も協力してやっていこうということになりましたし、そこら辺は、もう相当、双務性に近くなってきているので、今後はしっかりアメリカにも、ものを言っていただきたいなと思います。

■日米が台湾の最有力企業TSMCと連携する意味

上山

アメリカの戦略にも注目したいと思うんですけれども、先ほど話題になりましたTSMCという企業、この企業について気になることというのがまだあるわけなんですよね。峯村さん、アメリカは、TSMCという製造工場の持っている会社をアメリカに誘致しようとしたと。これは、やはり、この台湾の企業だということで、台湾の有事、それから地政学上のリスクを考えて、アメリカとしては台湾の企業を自分の国内に工場を誘致したと考えていいんでしょうか。

峯村

その通りで、それも一つの一因だと思っています。ここ最近の中国と台湾をめぐる緊迫度というのは、おそらくこの数十年の間で最高と言ってもいいでしょう。私も、アメリカや日本の、研究機関とか政府によるいわゆるウォーゲームという、シミュレーションにいくつか参加したことがあります。その中で言うと、やはり最初、中国軍が何か行動を起こす時には、いわゆる海上封鎖というものですね、台湾の周辺に軍艦とかを派遣して、普通の船が行き来できないようにするというのを何ヶ月かやるというシナリオがあります。こうなってくると、今、台湾に頼っている半導体が全く輸出できなくなる、日本にとってみると輸入できなくなる状況が長期化します。おそらく車から、電子部品を使った車から何から、全く生産できなくなった、サプライチェーンが全て壊れてしまうということも考えられます。

上山

甘利さんは、やはりTSMCが台湾の企業ということで色々とリスクもあるだろう、この辺り、どういうふうにお考えになってますか。

甘利

中国のハイエンドの半導体を作る力と、台湾のTSMCの差というのは、10年間あると言われているんです。つまり、どんなに頑張っても、10年間、TSMCのレベルまで中国の半導体製造企業が追いつくにはそれだけかかると。そしたら、私が中国の当事者だったら、TSMCを台湾ごと接収しちゃうのが一番手っ取り早いなわけですよ、そっくり。当然そういう行動に入ってくると。そうすると、アメリカとしては、それを阻止するためにも、台湾との関係をがっちり握っておくと。だから、技術を守るために、そう簡単に台湾を自由にさせないぞということになると思うんですね。台湾側も、自身を中国の脅威から守るためにアメリカの力が必要ですから、だから、この世界最高の製造技術を持っているTSMCがアメリカとより強固な関係なるということは、台湾にとっての安全保障上の意味があることだと思うんです。同じ理由で日本にTSMCが来るということも意味があると思うんです、安全保障上のね。そういう意味で、我々は台湾のTSMCをしっかり組み込んで、技術力の高さとですね、それから台湾有事というものを現実化させないという意味でも、アメリカと日本が台湾の最有力企業に直接絡んでくることは、意義があるんだと思います。

■「『日の丸半導体』には絶対反対」

上山

アメリカと中国の狭間で日本の半導体産業、さらに強めるためにということで、きょうのゲスト甘利さんは、自民党の半導体戦略推進議員連盟の会長として、3日、木曜日に菅総理に議連の決議を提出しています。

菅原

その決議の内容を見ていきます。安全保障にも直結する死活的に重要な戦略基盤技術であると。まさにおっしゃっていましたが、「“半導体を制するものが世界を制する”と言っても決して過言ではない」ということで、「前例のない異次元の支援による半導体の国内製造基盤強化を求めていく」ということです。甘利さん、これはいわゆる『日の丸半導体』の復活を目指していくということで認識は良いんでしょうか。

甘利

それ、全くそうなっちゃダメだって。

菅原

そういうことなんですね。

甘利

今まで色々国がテコ入れして、『日の丸半導体』作ろうとしてみんなダメになっています。日本の半導体製造が50%から10%まで来てしまったのは、いくつかの理由があります。アメリカに通商交渉でコテンパンにされちゃったっていうことと、それから時流の変化、大型コンピューターからパソコンに変わっていって、とにかく安くメモリーやCPUを供給するという方向にみんな舵を切ったときに、品質にこだわって、何十年保証というのにこだわって、大型コンピューター用の発想で時流の変化に乗り遅れたとかね。

上山

ニーズを上手くつかみ切れなかった。

甘利

そうです。それから相変わらず、垂直統合で設計から製造まで全部、自前でやろうと。強いところ同士が水平分業でコラボレーションを組んで、より良い物を、という風に流れが変わって行ったのに、相変わらず、昔の名前で出ているというのを強化しようとして失敗してるんですね。だから、まさに、また、従来型の『日の丸半導体』にチャレンジするんだったら私は絶対反対だということで、そうならないように、しっかり、そのガイドラインの役割をするために議連を作ったんですけど。

上山

でも、その議員連盟の設立総会で、「ジャパン・アズ・ナンバーワン・アゲイン」とおしゃっていて、それはつまり、そのお話になるかもしれないですけど、『日の丸半導体』ではないということで。

甘利

日本が、かつて半導体の分野で世界をリードしていました。それが需要の変化を読み違えて、加えてアメリカを脅かし過ぎてですね、アメリカは二番手が自国を脅かす程になると必ず叩きますからね、凌げなかったってことがあります。今回はですね、デジタルトランスフォーメーション、デジタル変革で社会全体が変わって行こうとしているんですね。40年前の半導体戦争というのは、当時の半導体の役割は、個々の製品の高機能化なんです。現在の半導体戦争は、社会全体の高機能化競争なんです。これに負けると、国家の高機能化競争に負けということになりますから、意味合いが全く違っているんですね。そこでは、強いもの同士の水平連合ということをしっかり組もうということと、さらに日本には垂直統合出来るニッチの部分もあります。そこはさらにブラッシュアップして、日本がなければ世界は困るという、戦略的不可欠性の要素にしていこうということです。この半導体、戦略をしっかり立てて、そこに資本投入をしっかりしていくということを考えなきゃいけないということです。

■支援に必要な金額 菅総理に聞かれて…

上山

峯村さんはいかがでしょうか、甘利さんに対してご質問等ありますか。

峯村

こういう動きというのは、戦略的にもコンセプトとしても非常に前向きないい動きだと思っております。ただ、こういう動きをするには先立つもの、つまりお金がどうしてもついてくるという思っています。やはり、アメリカと中国が、まさに5兆円という単位で色んなお金を使って半導体育成しようとしている中でですね、ちょっと日本について調べてみたんですけども、日本はこの経済産業省が出している2000億円というのが一つの予算にあてがわれていると書いてあるんですね。

これ、ちょっと私、2兆円なのかなと思って、一瞬。最近、老眼が進んで見間違えたのかと思ったんですけど、あれっ2000億円だった。正直拍子抜け感があります。アメリカなんかこの5兆円という、彼らもお金に凄く機敏に動くので、この5兆円という予算で、業界団体から政府から地方政府までどんどん今、動いている状況にあるという中で、日本の予算についてはどのようにお考えでしょうか。

甘利

私も、「あれっ2000億と、兆じゃないのか、億か」と。それで、この間、総理に提言を出した時に、「いくらぐらいかかるの」って聞かれたんですね。それで、「とにかく手付金みたいなものは何千億です」と。でも、「こんなんじゃとても製造拠点は出来ません」と。「それってどれくらい」と聞かれたんですね。だから答えにくかったんですけどね、「まあ兆が付きますよね」と、いう話は致しました。

上山

その時、菅総理はどんなリアクションだったのですか。

甘利

「そうかーっ」て感じだった。

■「まずは『骨太の方針』に半導体戦略が大事と」

上山

そうですか。今回、甘利さんが動かれたということも『骨太の方針』が念頭にあると思われるんですけれども、そこにやはり予算規模、書いていかれるのではないですか。

甘利

『骨太』はですね、あまり細かいことは書かないんです。方向性だけ書くんですね。『骨太』の裏打ちをする成長戦略に、もっと色々詳しく書かれるわけですね。先ずは『骨太』に半導体戦略が大事だというのを書かないとですね、要するにお墨付きをもらうみたいな話ですから、そこに間に合わせなきゃいけないということで、議連を立ち上げないと間に合わないということで。政府とすり合わせをしながらも、提言書を出す前に、その主旨が書き込まれるようにすり合わせしながら進めてきましたから。成長戦略には、より具体的に大きい基金が必要だと、各国に引けを取らないぐらいの、と。

上山

いくらぐらいを考えてますか。

甘利

兆円単位ですけども、具体的に何兆円とは書いてないですけど、世界に伍する規模の半導体の基金が必要だということは書いております。

上山

河野さんは、この日本の半導体戦略についてはどんなご意見をお持ちでしょうか。『アンカーの眼』でお願いします。

河野

「経済と防衛」と書いたんですが、この半導体については、甘利先生のリーダーシップで進めて頂きたいと思います。特に防衛装備にとっても半導体っていうのは不可欠なので、これが止まるともうアウトということになります。今のワクチンと同じことになる。従って、そういう防衛という意味でも、半導体は非常に重要ですので、是非、安定確保できる体制を整えて頂きたいなと思いますのと、それとやっぱり経済安全保障という観点では今回の視点とは違いますけど、やっぱり日本の国内の防衛産業の育成ですね。これはやっぱり、まだ非常に脆弱なので、ここのテコ入れも合わせて考えていただければなと思います。

上山

いかがですか、甘利さん。

甘利

アメリカはDOD=国防総省が将来技術の研究開発に、相当な予算を取って民間に出しているんです。日本は、防衛省の研究開発に関わるのがアカデミアからすると、タブーだという認識を出している。これは絶対、間違いなんです。一昔前まで、デュアルユース、つまり一つの技術は、民生にも使えるし、軍事にも使えるという考え方。今、デュアルユースも越えちゃっていまして、全く区別がない、もう全て先端技術は、どっちにも使えると、元からそういう発想ですから、世界は。だから未だに、これは軍事だからダメ、使われる恐れがあるからダメとか、あるいは軍事から出ている研究予算にはアカデミアは関与すべきでないとかですね、そんな発想をしているのもう日本だけですよ。

■「日本にも半導体の製造拠点を」

上山

米中対立が鮮明になる中で、「産業の米」、戦略物資ともされる半導体。その技術も含めて今、争奪戦となってるわけですけれども、甘利さん。今後の重要ポイントをお願い致します。

甘利

半導体に関して言えば、それぞれの強みをよりブラッシュアップする、より強化していくためにですね、どういう組み合わせがいいかということを戦略的にまず組み立てることです。それから、日本はやっぱり製造拠点が無いんです。特にロジック、ロジックというのは、人間の脳の役割をする半導体です。その脳の役割をする半導体、ハイエンドの物を作る、その製造現場というのをやっぱり持ってなきゃいけないんです。情報では、TSMCと東京大学とがコラボして、その設計から製造開発についての研究拠点は作るということになった、と。そうすると、言ってみれば試作工場みたいな物ができるわけです、そこに。それを本格生産工場に拡大できれば、まさに製造拠点になるんですね。

上山

今は研究開発拠点ですけれども、いずれ、やはりTSMCと製造拠点を作るということですか。

甘利

TSMCと研究開発拠点で、ただ、それは研究だけじゃなくて、物を作る試作工場みたいなのが出来ますから、それが無いと研究拠点になりませんから、開発拠点に。それを製造に拡大して行くという戦略は一つ大事なところだと思います。

上山

そうなりますと、日本にそもそも半導体を供給するマーケットがあまりないような気がするんですよね。アップルのような企業は無いですよね。

甘利

そこは凄く大事で、TSMCの強みというのは、開発の能力のために資金を投入しているのと、固定客をしっかり持っていることです。やっぱりそこは日本の中だけの固定客では足らないですから、世界を見据えて固定客をしっかり取っていくという戦略が大事だと思います。

(2021年6月6日放送)