[BS朝日開局10周年特別番組]ダ・ヴィンチの指紋

初回放送:2010年12月5日(日)夜9:00~10:54放送

…きっかけは一枚の絵だった。 ニューヨークで落札された無名の絵画にレオナルド・ダ・ヴィンチの 指紋が…!果たして「知られざるレオナルド・ダ・ヴィンチの作品」 なのか。俳優・玉木宏が、世界美術界を揺るがす 21世紀最大のミステリーに迫る!

原案:「美しき姫君」マーティン・ケンプ/パスカル・コット(草思社)

ナビゲーター&ナレーション 玉木 宏

(c) Lumiere Technology – Pascal COTTE

「レオナルド・ダ・ヴィンチ」、その名前はいつも、美術界最大の事件———。
きっかけは一枚の絵だった。1998年にニューヨークの美術商に落札された、羊皮紙に女性の横顔を描いた小品。19世紀のドイツ人画家の作品と思われた絵は、1万9千ドル(約250万円)で取引され、収集家の手に渡った。しかしそこからミステリアスなドラマがはじまる。
謎を生んだのは絵の左上に残る「指紋」。この小さな指紋の主が、かのルネサンスを代表する万能の天才・レオナルド・ダ・ヴィンチその人のものだ、と発表されたのだ。
絵に残された指紋は鑑定の結果、バチカン美術館に残る「聖ヒエロニムス」に残されたものと一致。
放射線による年代測定の結果、絵の制作年代は15世紀から17世紀と、ダ・ヴィンチの生きた時代と重なることもわかった。
驚くべき大発見…しかし、本当にこの絵はダ・ヴィンチが描いたものなのか?巧妙に仕組まれた贋作の可能性はないのか?そして、描かれたのはいったい誰なのか?
番組では、大人のための知的ミステリーとして、21世紀に突如現れた「ダ・ヴィンチの新作」の正体を、最新情報を元に検証する。
もし真作であれば1億ポンド(約130億円)は下らないという世紀の大発見だ。万能の天才・レオナルド・ダ・ヴィンチが遺した作品はわずか17点。そのすべてが天文学的な価値を持つ。そして今、その中に一枚の絵が加わるかもしれない。

原案:「美しき姫君」マーティン・ケンプ/パスカル・コット(草思社)

謎に満ちた絵画『美しき姫君』の姿に迫る

絵のオーナー、シルバーマン

1998年、ニューヨーク、クリスティーズのオークションに、「ルネサンスのドレスを着た少女の横顔」が出品された。クリスティーズの見立ては、19世紀のドイツ人画家によるルネサンス風の絵。その頃ドイツでは、習作としてルネサンスの画法で描くことが流行していた。
しかし、その場に居合わせたカナダ人のコレクター、ピーター・シルバーマンは、その見立てを信じなかった。「この繊細なタッチは、19世紀ドイツのものではなく、間違いなくルネサンスのもの」…そう睨み、オークションに臨んだが、惜しくも競り負け、肖像画は、1万9千ドル(約250万円)で他の画商の手に落札されてしまった。
9年後の2007年、シルバーマンは、ある展示会で再びその絵と出会った。絵を競り落とした画商が、9年前と同じく19世紀のドイツ人画家による作品という触れ込みで、絵を売りに出していたのだ。
「再び出会ったのは、きっと運命…」シルバーマンは、当時の落札額と同じ1万9千ドルで、その絵を手に入れた。
その後、多くの専門家たちの検証を経て、絵画は間違いなくルネサンス時代に描かれた作品であることが立証されていく。しかも多くの専門家が、「描いたのは、かのレオナルド・ダ・ヴィンチだ」と異口同音に唱え始めたのだ。
『美しき姫君』と名付けられた作品に出会うべく、番組ではヨーロッパのとある街を訪れる。オーナー、シルバーマンの許可を得て、厳重に保管された謎の絵画『美しき姫君』の姿に迫る…!

世界的ダ・ヴィンチ研究家が語る『美しき姫君』の真実

ダ・ヴィンチ研究の権威 オックスフォード大 マーティン・ケンプ教授
絵の復元に取り組む画家、サラ・シンブレットさん

『美しき姫君』は、本当にルネサンスに描かれた作品なのか。そして、作品を描いたのは誰なのか…それを知るべくシルバーマンが鑑定を依頼したのは、オックスフォード大学教授のマーティン・ケンプ。世界的ダ・ヴィンチ研究家として知られる彼の元には、毎週のように鑑定依頼が舞い込む。中には明らかな偽物ものも多いという。
しかし、シルバーマンからの画像データを一見して、ケンプは「これはいつも送られてくるガラクタとはわけが違う」と直感したという。
ケンプの目を引いたのは、左利きの画家によって描かれた繊細なハッチング(陰影)。ルネサンス時代、左利きの画家といえば、ダ・ヴィンチをおいて他にはいないという。
では、なぜこの絵が左利きによるものと言い切れるのか?番組では、ケンプ教授と共にオックスフォード大学で教鞭をとる画家、サラ・シンブレットと共に、『美しき姫君』の模写に挑戦。画家独自の視点も織り交ぜながら、絵に秘められたダ・ヴィンチ固有の特徴に迫る。

テクノロジーが迫る絵の真実

リュミエール・テクノロジー社 パスカル・コット氏

『美しき姫君』は、ダ・ヴィンチの作品である可能性が高い…ケンプ教授の示唆を受け、次にシルバーマンが絵を持ち込んだのは、フランス・パリの「リュミエール・テクノロジー社」。代表のパスカル・コットは、2億4千万画素という高解像で絵を撮影するマルチスペクトル・カメラを開発。かの『モナリザ』をも詳細に解析したこのカメラは、紫外線から赤外線まで不可視光線も含めて解析可能で、サンプルを採ることなく、何層にも分けて1ピクセルごとに色素の配分を解析できるのが特徴だ。
マルチスペクトル・カメラで『美しき姫君』を解析したコット。2億4千万画素の高画質が、肉眼では知りえなかった数々の証拠を炙り出していく。そしてカメラは驚くべき証拠を炙り出した。ダ・ヴィンチの指紋…!?

謎の指紋~真実へのキーワード

『聖ヒエロニムス』が発見された靴屋の工房

絵の左上にある指紋。それと同じ指紋が別の絵にもあったのだ。
バチカン美術館所蔵の『聖ヒエロニムス』。ダ・ヴィンチの作品中もっとも謎めいた物語をもつ傑作。実在の聖人ヒエロニムスの伝説を題材にしたこの絵は、実は、19世紀、首の部分が無残に切り離された状態で発見されたのだ。後に意外な場所から発見された首の部分の圧倒的な緻密さから、徹底した復元・検証が進み、現在ではダ・ヴィンチの代表作の1つに数えられている。
『美しき姫君』、『聖ヒエロニムス』…2つの謎に満ちた絵画から炙り出された指紋は、何を意味するのだろうか…。

検証~ミラノ時代のダ・ヴィンチを追え!

ルドヴィーコ・スフォルツァの城 スフォルツェスコ城

科学分析によれば、『美しき姫君』が描かれたのは、1400年代後半。当時、ダ・ヴィンチはミラノ公、ルドヴィーコ・スフォルツァに召し抱えられ、ミラノにいた。科学技術や兵器開発、医学など自らの多才ぶりを売り込んだダ・ヴィンチだが、ルドヴィーコはダ・ヴィンチの画才を熱烈に支持。スフォルツェスコ城に今も残る、ダ・ヴィンチの手による巨大な壁画が、その事実を物語る。さらにルドヴィーコは、当時のキリスト教界ではタブーだった人体解剖を、ダ・ヴィンチに奨励。人体や自然界を圧倒的な正確さで写しとるダ・ヴィンチの画才はミラノで花開いた。…遺された代表作群に刻まれたダ・ヴィンチの筆跡と『美しき姫君』のそれを比較検証する。

『美しき姫君』とは、誰なのか?

クロ・リュセの館

炙り出された証拠の数々は、我々にもう1つの疑問を提出する。
もしこれがダ・ヴィンチの作品だとすると、描かれた人物は誰なのか…。
可能性があるのはミラノ公、ルドヴィーコ・スフォルツァにまつわる女性たち。答えを得るべく、ミラノ時代のダ・ヴィンチの足取りを追う中で、一人の悲劇的な少女の存在が明るみに出た。一体、彼女とダ・ヴィンチとの間に何があったのか…ダ・ヴィンチと“美しき姫君”を巡る謎に迫る。