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【Episode22】“Sardinian” サルディニアン 前編

西地中海の島サルディニアは、シチリア島に次ぐイタリアで2番目に大きな島。「ヌラゲ」と呼ばれる古代の巨石建造物がいたるところに残り、牧羊が盛んな山岳地帯は、自然と共に生きる人々の暮らしが育んできた、他に類を見ない独特の美しい芸能の宝庫だ。
ヌラゲを背景に奏でる演奏は、3本の葦笛をバグパイプのように循環呼吸で操る、島固有の楽器「ラウネッダス」。紀元前3千年頃フェニキア人によりもたらされたとされ、人々が集う冠婚葬祭や祭り、民族舞踏の円舞に欠かせないものだ。
そして島の名を世界に広めたポリフォニーがCantu a tenore(カント・ア・テノーレ)だ。4人の歌い手が、古代の砦ヌラゲの形を模して円陣を組み、アカペラで低音の喉音を交えて歌うエキゾチックな多重合唱。四千年前に起源を持つと言われる。牧羊など田園生活の中で、自然との関わりに深く根ざした歌とされ、歌のそれぞれのパートは、羊や牛や風の音を表すものだという。各地域ごとに、特色ある個性的な歌が口伝されてきた。Tenores di Bitti(テノーレス・デ・ビッティ)は、時のワールドミュージック復興に貢献しその名を馳せた実力あるグループだ。
そして、厳冬の季節、山深きバルバジア地方で催される火祭を追う。聖アントニオ・アバーテの日の前夜から、Mamouada(マモイアーダ)の町で行われるMamuthunes(マムトネス)の火祭は、まるで日本の東北地方のナマハゲを思わせる怪奇な野獣の仮面を被り、巨大な鈴を担いで魔を祓い太陽の復活を願うものだ。古代の自然信仰の姿を今に伝えている。