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    エッセイ

    『ミセン-未生-』と林檎

    ミセンを見た時、思い出した日本のドラマがある。山田太一の『ふぞろいの林檎たち』(1983)。

    個性や生い立ちの異なる男女3人ずつ6人を軸に展開する青春群像ドラマだ。パート4まで制作されたが、パート1で描かれた学生生活と最終回の就職活動、パート2で社会人となり世の中の矛盾にもがき奮闘する姿が私の中でミセンと重なる。

    大きな違いは“林檎”が“三流大学”のコンプレックスを持つ男子学生をメインに配置したのに対し、ミセンはプロ囲碁棋士を目指して挫折したグレを主人公に据えたという設定だ。

    囲碁で培った思考力や判断力が会社でも役立つ姿が痛快で「勉強すれば一流大学に行けた頭脳の持ち主ではないか」と思わせたあたりが、日本以上に深刻と言われる学歴社会の韓国で受け入れられた設定の妙ではないかと想像する。

    ところで、その山田太一と対談した脚本家で『すいか』『Q10』などの作品がある木皿泉(妻鹿年季子)が「5年ぐらい時間経過に耐えられるドラマを書きたい」と話していたのが印象的だ。

    2014年に韓国で放送された『ミセン-未生-』が2020年の日本で受け入れられるかどうか不安がなかった訳ではない。しかし、こんなお便りを目にすると、編成して良かったと思う。

    「今、仕事で落ち込み悩んでいましたが、ミセンを見るようになり今の悩みが大した事ではないように思えるようになりました。感謝します。過去にも見ましたが、また違う気持ちで見ることができます」(30代女性)
    「コロナ禍で就活をしている息子と重ね合わせて視聴しています。チャン・グレのように打たれ強くなって欲しい。そして、願わくばオ・サンシクの様な、あたたかい上司に恵まれますように…」(50代女性)

    少しだけ統計も紹介しておきたい。
    韓国における非正規雇用の比率は2014年8月に32.2%だったが、2019年8月には36.4%に増えている。追って出る2020年8月のそれはコロナウィルスの影響を受け、さらに増えることも予想される。非正規雇用の問題は日本にとっても決して他人事ではないはずだ。

    『夢千代日記』『花へんろ』の脚本を手掛けた早坂暁は「ドラマは心の報道だ」という名言を残しているが、私にとってミセンは“心の報道番組”だった。

    最後に韓国ドラマに良くある演出で、各話の最後が静止画になることについて触れておきたいエピソードがある。

    『ふぞろいの林檎たち』の各話タイトルは初回の「学校どこですか」から始まり、全て“問いかけ調”で統一されている。最終回は「胸をはっていますか」だった。

    中井貴一・時任三郎・柳沢慎吾が就職面接に臨むと、“一流大学”の学生は別室の立派な椅子に座り、違う扱いを受けている・・・と柳沢が騒ぐ。それに対して時任が「胸はってろ、胸はってりゃいいんだよ」と前を見据えて言う。

    三人の名前が呼ばれたのだろう。パイプ椅子から立ち上がって胸をはる3人それぞれのシーンが静止画となる。サザンオールスターズの『いとしのエリー』のメロディーと共に、今も時々弱気になる私を勇気付けてくれる。

    (つづく)

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