雅楽師であり作曲家である東儀秀樹は、旅人でもある。訪れる先々の文化や人々との触れ合いが、活動の新たな原動力となるのだ。その東儀が篳篥(ひちりき)を手に、京都、石川、青森の三カ所の旅に出た。

京都は東儀ゆかりの地。祖先と関わりのある上賀茂神社では、世界遺産の文化財を前に、 宮司から東儀のルーツについて話を聞いた。学生を中心とした雅楽を愛する人たちのグループ「いちひめ雅楽会」の練習にも参加し、 雅楽の素晴らしさ、奥の深さを話した。さらに、学生たちの熱気に自ら篳篥を演奏し、直接指導も。

石川では、金沢の伝統工芸として名高い水引の専門店「津田水引」を訪問し、優美な結納品の数々に目を見張った。 隣の白山では、女性3人の太鼓奏者ユニット「炎太鼓」の練習場を訪ねた。3人には事前に東儀の雅楽のCDを送り、 「雅楽に太鼓のリズムを加えて欲しい」と伝えておいたのだ。初対面にもかかわらず、話がはずむ。やがて、太鼓と篳篥のセッションが始まった。はたして…。

青森では、ねぷた絵師の勇壮な筆致に感嘆し、津軽地方の幾何学模様を布や着物に刺した「こぎん刺し」を体験。 次に訪れた三内丸山遺跡では、津軽三味線の名人・山上進さんとの再会が待っていた。2人はこの地で共演したことがあったが、当時は時間がなく、 多くの話をすることはなかった。同世代の伝統音楽に携わるアーティスト同士、楽器を手に音楽談義が始まった。

晩秋から初冬にかけての旅路。東儀は訪れる先々で心に感じる思いを演奏で表現。美しい風景をバックに、繊細でドラマチックな篳篥のメロディーが流れる。