食べたい日本の忘れ味

2011年6月18日(土)午後1:00~1:55放送

出演:石原明子(料理研究家)ナレーター:藤田弓子(女優)

ひと口食べたら、人を虜にしてしまう「ほんまもんの味」の魔力。本当にうまいものが、失われると思えば、居ても立ってもいられない。
そんな、隠れたほんまもんの味覚を追跡して、初夏の日本列島を駆けめぐる。

うなぎ料理「野田岩」

うなぎ料理「野田岩」

東京・東麻布にあるうなぎ料理の老舗「野田岩」。創業は、江戸末期寛政12年。伝統芸能家、文豪、政治家など斯界に名を馳せた人物が、芳名帳に名を連ねる名店。繁盛店でありながら、土用の丑の日は休業するのが代々の習わし。
 今もうなぎを焼く五代目金本兼次郎(82)は、国産の天然うなぎにこだわり続ける。戦前は自転車で浦安、佐原などを探しまくり、仕入れた。空襲に遭遇し、秘伝のタレも守り抜いた。
 雑誌の編集会議を「野田岩」で開いたという作家の吉行淳之介は、うな丼を好んで食べた。「うなぎはつるつるした陶器に入っていたほうがよい。(中略)重箱に入れられると漆器のかすかなにおい、もしくは幻臭が感じられてよくない」と『贋食物誌』に書いている。

和菓子「菊寿堂義信」

和菓子「菊寿堂義信」

食い倒れの街、大阪で1830年(江戸時代天保期)に創業して以来、今も当時の和菓子作りの教えと製法を守り続ける「菊寿堂義信」。東大寺の献茶祭にもこの店の和菓子が採用されたことがある。
 17代目久保昌也(58)は、きっちり1日1升の小豆しか餡を作らない。つぶ餡は、小豆の中の小豆といわれる丹波の大納言。白餡は、備中白小豆。いずれも劣らない最高級品。これも、180年間のこだわりである。
 初夏に手がけるのは、菊寿堂名物「葛ふくさ」や「高麗餅」。和菓子ひとつひとつに、長い歴史と伝統に裏付けされたこだわりの味を楽しむことができる。

料亭「行形亭(いきなりや)」

料亭「行形亭(いきなりや)」

江戸時代元禄期に創業した、新潟市「行形亭」(いきなりや)は、黒塀、母屋、湯殿などが国の登録有形文化財に指定されている。新潟駅にほど近い敷地2000坪に、樹齢数百年の黒松が生い茂る庭を囲むようにして13の座敷が離れになっている。
 食材は地元産にこだわり、料理長が新潟市漁協卸売市場に買い出しに行く。ねらいの魚は、日本海の高級魚ノドグロと、滅多に市場に揚がらないアラ。ノドグロは、脂がのった白身にほんのり甘味があって、新潟ではおめでたい席には鯛よりも珍重される。数が少ないノドグロに、競りも熱くなる。ふたりの仲買人が競り合うシーンは圧巻。