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#82

軍事衝突の危機・・・改めて確認!!イラン情勢の緊迫

イラン情勢の緊迫が続いています。イラン核合意から離脱した米国は、制裁を緩めず、現地の米軍を増強しています。2019年6月2日のBS朝日『日曜スクープ』は、イラン情勢について、米国との対立の原点にさかのぼり、特集しました。

■米軍は空母を派遣 核合意“離脱”の理由

山口

武力衝突寸前まで来ているのではないかと言われているイラン情勢を考えていきます。日本にとっては原油輸入量の5%はイランが占めていたのですが、今、イランからの原油の輸入は日本へはストップしています。そして、日本にとって非常に重要なのがイランの南側、ホルムズ海峡ですが、その幅はおよそ33kmしかありません。日本に来る原油の8割はホルムズ海峡を通る、天然ガスの2割がここを通るということで、仮にもし情勢が緊迫して海峡を封鎖されるようなことがあれば、日本経済にも非常に大きな影響が出てきます。そして、安倍総理大臣は、6月12日からイランを訪問して直接会談するのではないか、トップと会談するのではないかと言われています。果たしてイラン情勢がどうなるのかをしっかり読み解いていこうと思います。ゲストの方々をご紹介いたします。共同通信社でテヘラン支局長、そしてワシントン支局長を歴任されました特別編集委員の杉田弘毅さんです。お隣は中東情勢がご専門の放送大学名誉教授の高橋和夫さんです。どうぞよろしく願い致します。

先日行われました日米首脳会談から見ていきましょう。冒頭の発言でトランプ大統領はイランについて「体制転換を求めているわけではない、要求しているのは核放棄だ」と語りました。一方、安倍総理は「日米で緊密に連携しながら現在のイラン情勢を巡る緊張状態を緩和していきたい」と話したんですね。緊迫するイランを巡る動きが先月から動きが激しくなっているんです。まず、アメリカのシャナハン国防長官代行は「イラン政府による軍事的脅威の兆しがある」と発言しました。先月12日にホルムズ海峡でサウジアラビアなどのタンカーが何者かに攻撃を受けました。アメリカ側はイランなのではないかと見ています。さらに14日、イランと関係のある武装勢力がサウジアラビアの油田を攻撃しました。19日、イラクのアメリカ大使館付近でロケット弾による攻撃がありました。アメリカ政府はこれもイランの関与を疑っているんです。こうした状況を受けて、アメリカ側は先月6日、空母エイブラハムリンカーンや、B52爆撃機などを中東に派遣しました。さらに先月15日、イラクのアメリカ大使館職員らへ退避命令を出しました。24日には中東にアメリカ兵1500人を増員することを決めたわけです。そして、トランプ大統領は「もしイランが戦いたいならそれはイランの正式な終わりとなるだろう。アメリカを二度と脅すな!」とイートしているんですね。杉田さんに伺いたいのですけれども、5月以降、日に日に緊張感が高まっているようにも見えます。杉田さんはザリフ外相が日本に来て安倍総理と会いました。あの時にザリフさんにインタビューしたそうですね。

杉田

共同通信のインタビューですけれども、5月16日にザリフさんは突然、日本に来たんですね。インドに行きまして、その後、中国に寄る予定だったんですけども、日本政府の招きで東京にやって来たということです。おそらくその時に安倍総理のイラン訪問とそれについての話があったんだと思うんですけども、私の印象では非常ににこやかに、ちょっと緊張状態が少し先に光が見えてきたなと、そういった雰囲気でありましたね。

山口

緊張しているのか、そうではなくて、山を越えているのか、この後、さらに詳しく伺おうと思うんですが、お話を進めていきます。まず、対立の発端が何だったのか確認したいんですね。トランプ大統領がイランとの核合意から一方的に離脱することを表明したのは去年の5月でした。そもそも合意していたものは何だったのか。2015年イラン核合意がありました。結んでいたのはイランとアメリカ、イギリス、フランス、ドイツ、中国、ロシアの6カ国、さらにEUです。合意内容は「イランは核兵器に転用できる高濃縮ウランや兵器級プルトニウムを15年間生産しない。貯蔵している濃縮ウランや遠心分離機を削減する」その見返りとして「イラン産原油の取引制限などを解除する』というものだったんです。ところが、トランプ大統領は、このイラン核合意について「アメリカ史上最悪のディール(取引)だ」と不満を露わにしました。その理由が「弾道ミサイルの開発が規制されてない」「最長で15年という期限があるではないか」。だからこそ最悪のディールだということで、一方的にアメリカが離脱しているという状況が生まれているわけです。IAEAは先月31日、2日前ですね、「イランが(現時点でも)核合意を遵守している」という報告書を出しています。それでは、なぜ一触即発の軍事衝突が懸念されるほど今緊張が高まっているんでしょうか。高橋さんはトランプさんの動きどう見ますか。

高橋

本当に一方的ですよね。イラン核合意はイランとアメリカだけじゃなくて、安保理常任理事国5カ国とドイツ、合わせて6カ国とイランという枠の中で、一人だけ「俺は抜けるぞ」というわけですよね。そもそも、この合意はミサイルの話はしていないので、入ってないのが当たり前で、ないものねだりですよね。15年先が見えないじゃないか、ということですけども、国際政治で15年と言ったら大統領4期ぐらいなので、15年先は15年先に考えればいいのではないか、というのが議論で、15年経ったらイランは核兵器を作って良いという合意ではないので、15年経ったらまた話し合えばいいことなのにトランプさんはおそらく、この合意を読んでいない。二つ目は、オバマ大統領がやったことは気に入らない。三つ目は、トランプさんと非常に親しいイスラエルのネタニヤフ首相がこの合意ではイランを止められない、何とかしろ、そういうことじゃないかと思いますね。

山口

川村さん、日本にとってこのイランの核合意というのは日本も支持しているものだったということでよろしいでしょうか。

川村

基本的には、高橋先生がおっしゃったように、国連の安保理5カ国とドイツ。ドイツを入れることによってヨーロッパとイラン、そしてアラブという意味では、ご存知のようにオバマ前大統領のフルネームがバラク・フセイン・オバマ。ある意味、アラブ諸国もオバマさんに対する親近感が当初からあったわけですよね。最悪のディールというのは、オバマ前大統領イコール最悪というような形ですから、本当の中身というものがどういうものか、なぜ離脱をしなきゃいけないのかは根拠がないんです、アメリカの場合。だけど、日本の場合には、アメリカとは同盟関係にあるけれども、対イランとの歴史的な関係も含めれば、どちらかと言えば、イランに対する親近感はずっと持ってきたということですから、本来仲介ということであればアメリカに対してもきちんと厳しい事を言わなければいけない。それが今後の課題だと思いますけど。

(安倍総理がイランのロウハニ大統領と会談した翌日の6月13日、ハメネイ師と会談を控える中、ペルシャ湾岸で2隻のタンカーが攻撃を受けました。うち一隻は、日本企業が運航していました。アメリカはイランの関与を主張していますが、イランは「イランへの妨害工作」と反論しています)

■“最強の経済制裁”体制転換が狙いか

山口

アメリカですけれども、イラン核合意から離脱はしたんですが、新たにイランに求めている合意内容があるのです。「核計画の完全な開示と永続的な放棄」「ウラン濃縮の停止とプルトニウム生産の完全な断念」「核弾頭が搭載できるミサイルの打ち上げ拡散の停止」など12項目ですね。これができなければ、と制裁を打ち出しているのです。その制裁を史上最強の制裁だと、トランプ大統領は表現しているんです。本当の狙いは体制の転換ではないかとも言われているんですね。では、イランに対する制裁の中身を見ていきます。原油の取引、自動車部品の取引、金や貴金属、鉄鋼原料などの取引など色々あります。中央銀行との決済などもあるのですが、こうした中でこの制裁によってこんな事もありました。ファーウェイの孟晩舟CFO、イランの制裁違反容疑で身柄を拘束されました。この制裁がどれほどイランにダメージがあるのか、大木さんお願いします。

大木

イランの生命線ともなっているのが原油です。歳入のおよそ6割が原油の輸出に頼っているイランに対して、アメリカは昨年11月に輸入を禁止する経済制裁を発動。この時、日本や中国など8つの国と地域は適用除外としていました。しかし、これを5月1日アメリカが打ち切りにしました。いよいよ全面禁輸となったわけです。原油の輸入の5%がイラン産原油だったため、日本も影響を受けています。高橋さん、ポンペオ国務長官が「行動を180度転換させるか、経済の崩壊を見るかのどちらかだ」と話しているんですが、イランは経済制裁に耐えられるんでしょうか。

高橋

厳しいですね。通貨は本当に落ちていますし、物価は上がっている、国内ではデモがあるということですから、かなり厳しい、追い詰められている。ただ、イランが「ごめんなさい」と言って、白旗を挙げてくるとは、ちょっと思えないですね。イランとしてはひたすら我慢して、次の大統領選挙でトランプが負けないかなと祈っていると思いますね。

山口

杉田さん、どうでしょうか、アメリカはイランの体制転換を狙っているという指摘がありますよね。どうご覧になりますか。

杉田

大きく言って、アメリカ政府の中には2つのグループがありまして、一つは、体制転換まで求めているボルトン安全保障担当大統領補佐官のグループですね。もう一つは、そこまでやるのは、戦争するしかないというので、そんなことまではできないでしょうというグループです。私は、トランプさんは後者の考えだと思うんですよね。現在アメリカ政府の中ではその二つのグループの綱引きが行われているところだと思います。軍事的緊張が高まったというのはなぜかと言いますと、米国から空母と戦略爆撃機が出たわけですよね。それはオマーン沖でのタンカー攻撃があったためです。この辺までは明らかにボルトンさんが主導権を握ってアメリカのイラン政策を決めて戦略爆撃機と空母を出すとなったわけです。ところが、それについてトランプさんは具体的に、戦略爆撃機と空母を足すことが何を意味するかということをしっかりと、その影響も含めて理解していなかった可能性があると思うんですね。つまり両国の軍事力がペルシャ湾海域でにらみ合いとなる。一触即発で武力衝突が起こりうる状況となる、ということをトランプさんは十分理解していなかったんだと思うのです。それで非常に緊張が高まったということで、アメリカはイランと本当に戦争を始めるんですか?というような疑問がアメリカ国内でも出たし、国際社会もその辺を不安に思ったということで、トランプさんは初めて気づいて、これはやりすぎたなと冷静考え出したという状況だと思うんです。問題は、これからボルトンさんがどこまで自分の考える政策案、つまり軍事衝突も辞さないという方針を貫けるかということです。それに対してトランプさんは米兵が外国で犠牲になるような戦争を強く嫌っていますから、阻止に動くのだと思います。ですから、今後の展開は、アメリカ政府の中における“ボルトン派”対トランプさんのせめぎ合いというのが大きな注目点となってくると思います。

川村

トランプ大統領は、日本に来た時もイラン問題について話した時に、アメリカはイランの体制を転覆する意図はないと。攻撃をするということが前提ではないということを言っているんですね。つまりは非核化だけなんだと。これはちょっと北朝鮮の状況とも似ていて、トランプさん対ボルトン。つまり、ある意味ではトランプ大統領にとってみればボルトンさんのような強硬派一辺倒で行くよりは、相手がトランプ大統領の言うことに従ってくれれば、つまり反米的な行動をやたら挑発的に取らないというような形であれば、再選が有力視される。イラン危機のある一つの側面は、トランプ大統領の再選に向けて作り出されているっていう側面もあるっていうことですね。

山口

そのアメリカ政府内のトランプさんと強硬派のボルトンさんたちとの温度差もある。そこには再選に向けたトランプさんの思惑もあるということですよね。

川村

再選戦略という形では北朝鮮もそうですし、イラン危機も、その裏側では、これから出てくるかもしれませんけれども、ネタニヤフ政権、つまりはイスラエルを支援するという流れがやっぱり大きいんだろうと思いますね。

山口

それではこの後を見ていこうと思うんですけれども、イラン国内がどういう状況にあるのか。体制を確認していこうと思うんですね。まずイランの今、最高指導者はこの方、ハメネイ師です。そして大統領は、ロウハニ大統領ということになるわけですね。イランは現在、人口がおよそ8200万人。イスラム共和制でシーア派が多数を占めています。アメリカとイランは、対立の歴史がずっと続いてきたんです。まず1979年、親米派でありましたパーレビ国王の政権だったんですが、ホメイニ師を中心とする人たちによってイラン革命が起こされました。まずこれが原点ということになります。そして、この後です。テヘランのアメリカ大使館が占拠されたということもありました。そして、1980年には国交が断絶されました。さらにブッシュ大統領が「悪の枢軸国」としてイランを指定したということもあったわけですね。高橋さん、ハメネイ師とロウハニ大統領、実際に国を動かしているのはどちらと見ればいいんですか?

高橋

実際に権力を持っているのはハメネイさん。ハメネイさんがやりなさいということで、ロウハニさんが動けるということですね。外から見ているとちょっと難しいですよね。でも、二人の力関係では明らかにハメネイさんが上にいる。ただ、ハメネイさんは直接選挙で選ばれていないんですよね。ロウハニさんは選挙で選ばれているからロウハニさんの方が実は民意を反映している。それゆえに、ハメネイさんも、あまり冷淡にロウハニさんを扱えないという、そういう微妙なところですよね。ですから、独裁体制ではないんですよね。でも、我々が理解するところの完全な民主主義でもない。ですから、他の中東の独裁国家に比べればはるかに民主的ですけど、それでもまだ最高指導者が最後は権力を握っているという体制は変わらないですね。

■核合意に反対したイスラエル

山口

イランの中東諸国の中における立ち位置を見て行こうと思うんですね。まず、イランはイスラエルとの関係ですけれども、対立していますよね。さら大国のサウジアラビア、こことも激しく対立しています。サウジアラビアがスンニ派ですよね。イランがシーア派ということが対立の背景にあるとも言えると思うんですが、さらに、このアラブ首長国連邦ですね、こことも対立しています。一方で、カタールとは友好関係にあるんですよね。この中東におけるイランの立ち位置を見ていきますと、やっぱりイランがアメリカと対立する背景には杉田さん、このイスラエルの存在が大きいんでしょうか?

杉田

そうですね。2015年の核合意にも一番強く反対したのがイスラエルですよね。イスラエルはなぜそれに反対するかと言うと、要するに、イランを信用していないので、こういった合意の裏で隠れてイランはどうせ核兵器を作るはずだというのが一つ。二つ目は、イランがイスラエルの北側にあるレバノン、シリアにいる、ヒズボラというイラン派の武装勢力、これが対イスラエル、武装闘争をずっとやっているわけですけれども、この人たちを支援している。ですので、イランの力を弱めたいというのがありますね。もう一つは、イランは非常に大きな国ですので、核合意が履行されて本当に制裁が全部解除されると、イランの経済がすごく大きくなってしまい国際的にも完全復帰しで影響力を持つ。そうすると、イランがイスラエルを非難するような色んな発信をして、それはイスラエルにとっては避けたいシナリオだということだと思うんですね。

山口

それでは、イランの大きな特徴を確認しておきます。イランは「中東屈指の軍事大国』だと言われています。具体的にどういうことか。兵力ですが、およそ54万人。予備役を含めますと100万人とも言われています。そして、核兵器がどうなっているのか、開発疑惑が持たれています。さらに弾道ミサイルです。射程数千キロの弾道ミサイル、そして巡航ミサイルを保有していると指摘されています。そしてアメリカが恐れている精鋭部隊の存在があります。イスラム革命防衛隊ですね。このイスラム革命防衛隊をアメリカ政府はテロ組織に指定しました。外国の軍をテロ組織に指定するのは異例のことだということです。なぜなのか、軍事ジャーナリストの黒井文太郎さんはこう分析しています。「核兵器とミサイルの開発に関わっている」という疑惑があるからだということですね。そして、もう一つ、「シリアやレバノンなどへの進出」。この辺りもその背景にあるのではないかということですよね。そして、イスラム革命防衛隊のトップであります ホセイン・サラミ指導官がこういう発言をしているんですね。「敵国との全面対決に近づいている」という発言をしていまして、非常に物騒な内容になっているわけですけれども。高橋さんどうでしょうか、このアメリカの狙いですよね。イスラム革命防衛隊をテロ組織に指定しました、この辺りどう見ますか?

高橋

イスラム革命防衛隊がやっていることは昔から変わらないのに、突然のテロ組織指定でしたね。なぜ、その時期なのかと言うと、実はイスラエルの総選挙前でした。ネタニヤフ首相がイランを叩いている。ネタニヤフ首相を応援するためにイスラム革命防衛隊はテロ組織だよ、とトランプ大統領が言うことによってネタニヤフ首相が「アメリカは俺の言うことを聞いてくれるだろう」と言える。やっぱり俺がいないとアメリカはイスラエルの言うこと聞いてくれないんだという、トランプさんからの応援演説だったんですね。イランは人工衛星を打ち上げるぐらいの力はあるんですけど、でも、射程は1500キロぐらいまでのミサイルしか実験してないんですよ。それ以上伸ばすとヨーロッパとかアメリカが脅威を与えるということである意味自制している。難しいところは、アメリカはイランが戦争の準備をしているからといってどんどん兵力を送るわけですけど、それを見てイランは、アメリカが本当に仕掛けて来るのではないかと。お互いに怯えて戦争になってしまう。そういう雰囲気が出ている気がするんですよね。

山口

危機が煽られているようだとより良くないですよね。川村さんはホルムズ海峡が問題になっていますが、ここも取材されましたよね。今回もこのホルムズ海峡の重要性が出てくると思うんですけど、いかがでしょうか?

川村

当時からやっぱり日本の原油の輸入80%程度をイランから輸入していましたから、イラン・イラク戦争の中でイスラム革命防衛隊、高速ボートで日本のタンカーなどを狙っているんではないかという情報がアメリカからあって、すべて日本のタンカーはコンボイを組んでホルムズ海峡からペルシャ湾に入っていた。そのコンボイの中の一つの石油タンカーに乗り込んだり、その上をヘリコプターでずっと取材した時に、高速ボートがレーダーに映るんですよ。しかし、その時は直接攻撃はしてこなかった。ただ、アメリカは、はっきり言って狙って撃ったのか、あるいは誤射だったのか、わからないんですけれども、ホルムズ海峡上空でイランエアー、イランの民間機が飛んでいたのを誤射し、ミサイルで攻撃をして墜落したという事件があったんです。この時、一色触発でイランが何らかの報復をするのではないかということだったんですけれど、イラン側が自重して、その時は収まったということもありますので、何らかの一触即発の状況があっても、戦争はお互い避けたいということがあるんだろうと思います。

大木

アメリカが核合意から離脱したのは、一つに弾道ミサイルの存在があったということですが、高橋さんがさっきおっしゃった射程距離を考えると、杉田さん、イスラエルにとって脅威になるというところがアメリカにとって一つの大きな理由でしょうか?

杉田

そうですね、やっぱり特に、トランプさんは、国内におけるエヴァンジェリカルズと呼ばれているキリスト教福音主義の人達の票をあてにしています。その人達はやっぱり、プロ・イスラエルですのでイスラエルを守ってあげているということがアメリカにおける来年の大統領選挙でトランプさんにとって、プラスになるというところがありますよね。

大木

結局、裏に選挙が見え隠れするというのが大きいところですね?

杉田

そうですね、そこはもうトランプさんは国内政局を唯一見ているということで、外交をいかに自分の政権にプラスに使っていくかということですね。

川村

ユダヤ票もありますからね。キリスト教福音派の人たちの固定票とユダヤ票っていうことで言うと、やっぱり、現体制のネタニヤフ政権を維持してもらいたいというのがアメリカのトランプ政権の意向だと思うんですけれど。ところが、ここにきて、イスラエルの内閣9月に再選挙をやるということもありますので、この再選挙の期間までの間にイランとの衝突も避けるという方向に行くのではないかという見通しがあるんですよね。

■イランが名指しするボルトン補佐官

山口

アメリカが強硬な動きを見せている中で、イランのザリフ外相がこういう発言をしているんです。「ボルトン補佐官、イスラエル、サウジアラビア、UAEがトランプ大統領をイランとの戦争に引きずり込もうとしている」ということで、先ほど皆さんから色々なご指摘があったのですが、他の国と並べる形でやっぱりこのボルトン大統領補佐官が中心にいるのではないか、と指摘をしているんですよね。つまり、黒幕ではないかとされている。この名指しされたボルトン大統領補佐官ということになるわけです。イランから名指しで批判されたボルトン大統領補佐官、こういうことがありました。去年、ウォールストリートジャーナルからイラン攻撃の作戦案を作るよう要請していたと言われているわけですね。そして、17年前に遡りますけれども、2002年ブッシュ政権でこのボルトン大統領補佐官は国務次官でした。その時に、このブッシュ政権は、まさにこのイランを『悪の枢軸国』と名指ししているわけです。ですから、イランを敵視する中枢に、まさにボルトンさんがいるというふうにも見えてくるわけですよね。杉田さんどうでしょうか?やっぱりこのイランへの強硬姿勢は、先ほどもありましたけれども、トランプ大統領よりもむしろこのボルトンさんが黒幕というふうにも言っていいのでしょうか?

杉田

ボルトンさんはもうここ20年ぐらいずっと、イランの政権転覆とか政権交代を実現すべきだということを言っていますよね。いわゆる保守タカ派の真ん中にいる人ですし、それから、イスラエルとも関係が非常に深い人ですので、トランプ政権の中でこの人が一番、イランに対する強硬派だと思うんですよね。ただ一つ、注意しなくちゃいけないのは、ボルトンさん、最近トランプさんと溝ができているんですね。一つは、先ほど言いましたように、イラン情勢の対応の仕方でイランに頭を下げさせて核問題などで譲歩させるには、アメリカは過激な軍事的緊張を煽る必要があるとの判断で、そうした緊張な政策をトランプさんに進言して、トランプさんがOKして進めたら、本当に緊張を煽ってしまった。これは戦争を避けたいトランプさんからすれば、まずいと感じた。もう一つは、ベネズエラで今、反体制派の人たちがデモやっているんですけども、ボルトンさんはその反体制派を支援して、アメリカ軍を送るべきだということをトランプさんに進言したわけですね。トランプさんも反体制派を支援するような発言を沢山してしまった。ところが、その反体制派はベネズエラ国内では力がなく、いと、彼らは政権に対する武装蜂起を煽ったんですけども、それが不発に終わった。つまり、トランプさんからすると、非常にみっともない。国際社会が見ている、みんなが見ている中で、自分が支援した反体制がつぶれてしまった、自分の言葉が空振りに終わっちゃったということがあって、トランプさんは、今はボルトンさんの言うとおりに動くと失敗する、ボルトンを信用すべきでない、彼とはちょっと距離を置こうとしているんですよね。その辺がイラン政策だけでなく、北朝鮮政策も含めて、ボルトン要素がどれくらい実際の政策の中で実現されていくのか、というのは注目点だと思うんですよね。

大木

トランプ政権の中枢の人が次々と辞任っていうことが今まであって、ボルトンさんはそこまでは行ってないですか?

杉田

そこが注目されているんですよ。ボルトンさんも近々、ある日突然Twitterで何の根回しもなくクビになるのではないかということを言われているのですよね。でも、ボルトンさんは、北朝鮮の政策も、この前の2月のハノイでの米朝首脳会談で非常にアメリカが厳しい動きに出て、そして立ち去りましたよね。あれもやっぱりボルトンさんの筋書きということになっていてですね。依然トランプさんに対してある程度影響力はあるんです。

山口

それでは、ボルトンさんをもうちょっと見ていこうと思うのですが、2年前、2017年の7月。この「モジャヘディーネ・ハルク」の集会というものがありました、イランの反体制派ですね。ここに参加をして演説をしていたんです。ボルトンさんが反体制派と実は繋がっていたということなんですよね。高橋さん、これはどのように見たらいいでしょうか?

高橋

「モジャヘディーネ・ハルク」というのは、ずっと昔からあるイランの反体制派で、イラン・イラク戦争のときはサダム・フセインが囲っていたんですね。サダム・フセインが倒れてスポンサーがいないはずなのにお金持っていて、おかしいなと思っていたら、実は、サウジアラビアが裏からお金を出していました。「モジャヘディーネ・ハルク」の集会でボルトンさんが「イランの今の体制をひっくり返すべきだ」と演説していて、その謝礼が何百万円だったとイギリスのガーディアン紙なんかが伝えているんですよね。ですから、お金をもらったからそう言ったのか、元々そう思っていることを言って、ついでにお金をもらっちゃったのかは別として、サウジのお金が裏から回ってきて、それを受け取っているボルトンがイランを潰そうとしている。ちょっとアメリカの外交の中に外国の影響力が入り過ぎているのではないかという批判を呼んでいるわけですよね。

山口

こうした中で今、中東も動きが活発になっています。昨日までサウジアラビアで緊急首脳会議が開かれていました。参加しているのはアラブ連盟の21ヶ国と一つの機構。そしてカタールも参加していた。イランと親密な関係のカタールも出ていたんですね。この場所でサウジアラビアのサルマン国王がこう呼びかけました。「イランによる犯罪行為に対峙するため、各国が結束する必要がある」ということなんですよね。これ見ますとどうでしょうか?川村さん。やっぱり、サウジアラビアとイランも、相当緊張が高まっているんですね?

川村

国交もないですからね。さらに言えば、カタールも今、サウジアラビアと国交がないんですよね。そこにカタールも参加した上で、イランに対してまとまって、体制転換とか、そういう批判をある程度、サウジが中心になって進めていこうとしても、やっぱりそこはまとまらなかったというのが今回の首脳会議の結果です。つまり、カタールはアルジャジーラというアラブ・中東のニュースを細かくフォローしている放送局があるところですけれども、もう少し客観的に見ようという声が他のアラブ諸国の中からも出てきているというのが実態だと思いますね。

■安倍総理が訪問・・・問われる日本の外交力

山口

こうした中で、日本への仲介の期待が出てきているわけですよね。アメリカ国務省のオルタガス報道官です。先月29日、日本やヨーロッパの同盟国に限らず緊張状態の緩和に向けたあらゆる国の動きを歓迎すると発言しました。さらに、このイランのロウハニ大統領ですが、「アメリカが制裁を解除して交渉の席に戻るのであれば道は開けている」とも話しているんですよね。そして、安倍総理の訪問の日程です。今月の12日から14日にもイランを訪問するのではないかと見られています。どうして日本がこの仲介役に今、名乗り出ているのか。その背景に何があるのかを見ていこうと思うんですが、今までのイランとの関係があるのです。今年で外交関係樹立90年ということになるんですね。順番に見ていきましょう。1960年には現在の上皇さまが皇太子時代に、実際にイランを訪問されました。それから1978年です。当時の福田赳夫総理がイラン訪問しています。さらに1983年、安倍晋太郎当時の外務大臣、今の安倍晋三総理のお父さんですよね。やはりこのイランを訪問。まさに今までも非常につながりの深い歴史があったわけです。それから、災害などもイランでも多いですから、その時にお互いに支援をしていたということもありました。この二国間関係の歴史の中で、今回の安倍総理の訪問につきましてイラン側は「この重要な訪問は日本とイランの二国間関係の歴史の中で転換点となる」と非常に重要なことなのだと話しています。そして、世界が注目する中で今後の展開にも関心が高まっているわけです。つまり、アメリカとイランの危機が高まっています。アメリカとイランの会談の橋渡しになれるのかどうか、ここが最大の注目のポイントなわけですが杉田さん、今回の安倍総理のイラン訪問どういうふうに分析していますか?

杉田

日本の現時点における最大の強みは、やはり安倍総理がトランプさんと大変良い関係を持っているっていうことだと思うのです。核合意はP5プラスワンつまりドイツ。どちらかと言うと、アメリカおよびヨーロッパで作った合意で、日本は入ってなかった。ところが、今、トランプさんとヨーロッパの国々の首脳は大変仲が悪いということで、あまり役に立つような橋渡し役はしてもらえないだろうと。特にヨーロッパはイラン側についていますから。その中で日本の場合は、比較的ニュートラルというか、色が付いてないということだと思うんですけど、そういう意味でイランをめぐる外交の動きの中で役割が期待されているということですよね。それから二つ目は、双方の発言を聞いてみると、双方共に戦争はしたくないと言っていますよね。戦争はしたくない、だけれども交渉はしたくない、ということを言っているので、そこの部分をどうやってつなげられるのか、大きなギャップがあるわけですよね。そこをどうつなげられるのかということが安倍さん、日本外交の正念場だと思う。一つ、私が気になるのは、イラン側が「この重要な訪問は日本とイランの二国間関係の歴史の中で転換点となる」という言い方をしていますよね。これはちょっと日本に対して期待しすぎじゃないかなと思うんですが、つまり、ひょっとするとイランは、日米同盟あるいは日米関係というものを、少し距離を置いて、少し薄くしても、イランのために動いてくれるのではないかというような、もしもそういう期待をしてるのであれば、日本としてはそういうことは、おそらくできないと思いますので、期待倒れに終わってしまうということがあると思うんですよね。トランプさんはおそらく、安倍さんが行きたいと言うならばどうぞ行ってらっしゃいと、宜しくお願いしますということだと思うんですけれど、あんまり期待しないということではないでしょうか。イラン側は非常に大きく期待している。ここの間のギャップをどうやって埋められるのかというのはなかなか難しいところですよね。

山口

実際にこのアメリカとイランの会談の橋渡しができるのかどうか、そこはどう思いますか?

杉田

おそらく2020年の大統領選挙までは、大きな動きはないと思うんですね。イランが何で今回、安倍さんを受け入れたりするということになったかと言うと、私はおそらく、トランプさんが再選されるというふうにイランは見越したのではないかと思うんですよ。つまり、それは2020年から4年間またトランプ政権が続くということであれば、こういう制裁の中であと5年半も生きていくのは大変だと。その事もあって、イランとしては降りられるような余地があるならば降りてでも、アメリカと新しい合意を結びたいと。でないと、また大変なことになるというような読みをしたのではないかと思います。ですので、ここで安倍さんが橋渡しをしてくれるということであるならば、それに期待したいということではないかと思うんです。トランプさんも、とにかく彼は難しい国、中国とかロシアとかイランとかあるいは北朝鮮。そういう難しい国の首脳と直に会って交渉して、何らかのディールを作るというのを大変好む人ですので、おそらく2020年以降であるならば、イランとの直接のディールというのは可能性があると思います。

山口

なるほど。高橋さんはどうですか、今回の安倍総理のイラン訪問。アメリカとイランの緊張緩和に何らかの橋渡しができるのかということについてどう思いますか?

高橋

「アメリカはこう思っていますよ」ということを言ってもしょうがないわけで。それはメッセンジャーボーイがやることで、行くからには、トランプさんから何らかの情報を得ていてアメリカがこう言っていると。だから付き合ってくれと。日本はODAをこれだけ出すし、石油ももう1回買ってあげるよ、とかね。お土産がない限り、手ぶらで行って、イラン観光して帰ってきても恥をかくだけですから。安倍さん、実はお父さんが行かれた時について行っていますからね。イランについてはかなり詳しい。日本外交もイラン国内についても非常に詳しい情報を持っている。ですから何らかの勝算がない限り行くはずはないというのは私の見方です。

川村

安倍総理は、安倍晋太郎さんが外務大臣の時に一緒にイランに行った時は、もう既にイラン革命で、安倍外務大臣と一緒に写っているイラン側の人は、ラフサンジャニさんという国会議長をされた方です。一方で、ハメネイさんとロウハニ大統領の言葉を聞いていると、ロウハニさんの方はなるべくアメリカと交渉をしていきたい。その前提条件として経済制裁の解除ということを具体的に言っているわけですけど、ハメネイさんの方は、アメリカは言葉ではなく行動で示してほしいということを言っていて、お互い、多少、強硬派、穏健派というような形で、役割が分担されている可能性もあるわけです。その時に日本の安倍総理大臣が向こうに行って、どういう話ができるかと言うと、中身のある話をする場合にはハメネイさん。会って話をするときにアメリカがディールの条件としているものをきちんと伝えることができるか。具体的に何か結果が出せるのかどうかということが問題だと思います。

(6月13日、ハメネイ師は安倍総理との会談で、核兵器について「宗教的に禁じられており、核兵器を開発も製造も保有もしない」と述べました。さらに、「あなた(安倍総理)とは対話を行うが、トランプ大統領には何もメッセージはない」と述べ、トランプ大統領との直接の対話は否定しつつも、仲介者への意思表示には含みを持たせました)


(2019年6月2日放送)