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#232

「併合強行」でもロシア劣勢 核兵器使用の可能性は?

ロシアのプーチン大統領はウクライナの「4州併合」を宣言しましたが、その翌日、ウクライナ軍は東部ドネツク州の要衝リマンを奪還しました。2022年10月2日『BS朝日 日曜スクープ』は、ウクライナ軍が反転攻勢を続ける戦況を読み解き、ロシアによる”核の恫喝”、核兵器使用の可能性を分析しました。戦場における、戦術核の使用が意味するものに向き合います。

■4州併合の宣言「追い込まれての決断」

菅原

ウクライナ4州を一方的に、併合すると宣言したプーチン大統領。しかしその翌日、併合を宣言したドネツク州の要衝を
ウクライナ軍が奪還し、ロシアに衝撃が広がっています。ロシアが追い詰められていく中、この先どのような行動に出るのか詳しく考えます。ゲストを紹介します。元モスクワ支局長で朝日新聞論説委員、駒木明義さんです、よろしくお願いします

駒木

よろしくお願いします。

菅原

そしてもう一方、国際安全保障、現代軍事戦略がご専門の防衛省・防衛研究所、高橋杉雄さんです。よろしくお願いします。

高橋

よろしくお願いします。

菅原

一方的に4州の併合を宣言したプーチン大統領。しかし、早くも大きな問題に直面しています。

上山

最初のテーマがこちらです。「一方的な併合宣言 プーチン大統領の危険な賭け」詳しく見ていきたいと思います。

プーチン大統領が一方的に併合を宣言した「4つの州」ですが、ロシア軍が州の全域を支配しているわけではありません。ロシア軍の支配地域は、ルハンシク州で99%、ドネツク州で60%、ザポリージャ州で75%、ヘルソン州で95%となっています。ドネツク州やザポリージャ州では主要都市をウクライナが維持しています。そんな状況でロシアは一方的に併合を宣言しました。

ただ、併合するならロシアはどこを国境にして、どこからをロシアだと主張するつもりなのか。「併合宣言」があった9月30日、記者がペスコフ大統領報道官に質問しました。すると「『ドネツク人民共和国』『ルガンスク人民共和国』は、2014年の国境内でロシアに承認されている。 ヘルソン州とザポリージャ州の領土については、これを明らかにする必要がある。きょう、すべてを明らかにする」。こう話していたのですが、明らかにされませんでした。

駒木さん、州の全域を支配できていない中、併合すると言っても、どこからをロシアと主張するのか、そして治安や行政システムなど、構築できるのか。準備ができていないように見えるのですが、どうお考えですか?

駒木

今回の併合、あるいは、それに先立つ国家としての承認というのがまさにフィクションであると、何の実態も伴っていないことがここに象徴的に表れていると思いますね。実際にドネツクとかルハンシクというのは、自分たちで独立宣言して、州全体が自分たちの領土であると憲法に書き込んでいるわけですけれども、ザポリージャ、ヘルソンというのはそういうものは全くまだない。

そのルハンシク、ドネツクにしても全域をロシア側が占領しているわけじゃない。そういう中で、そこがロシア領だと言っても、現に支配してないところをロシア領だと宣言してしまったわけで、そうすると自分の国の領土さえ守れていないという状況からスタートしなきゃいけない。プーチン大統領としては、そういう中途半端な形は、本当は避けたかったんだろうと思います。

上山

本当は避けたかったけれども、宣言せざるを得ない

駒木

そうですね。追い込まれての決断だと思います。

■4州併合「宣言それ自体が目的」

上山

高橋さんはいかがでしょうか。この4つの州の中では当然、現在、激しい戦闘が行われている地域もあるわけで、日に日に支配地域というのも前後している、移動してきている状況もある。果たして統治ということができるのかどうか。この辺どうなんでしょうか?

高橋

統治はできないですよね。そもそも住民投票の票にしても、全体がフェイクだとしてもですね、自分が支配していない地域の住民の票はなかったはずで、まして、戦場ですから、そこで統治機構を再構築することなんて、できるはずがないですから、そういう目的ではないということですよね。つまり、きちんとここの地図で赤く塗られている場所を統治することが目的なのではなくて、そこはもはやロシア領なのだということを宣言すること。それ自体が目的だったということだと理解すべきだと思います。

上山

確かに駒木さん、そのロシアのメリットとしては、併合すればロシアの一部だということで、そこに、もしウクライナ軍が攻撃した場合は反撃する口実にもなるということもあると思うんです。一方でただし、この宣言後の統治がうまくいかないということになりますと、これはまた、プーチン大統領としてもリスクもあるような気がするんですけど。

駒木

そうですね。大きなリスクを伴う決断だと思いますね。おっしゃるように、全く統治できないところを自国領だと宣言してしまったということで、統治の実態がない、プーチン大統領の言葉が実現されていないということが次第に明らかになってしまうと。一方で、ここはロシア領なのだから、ウクライナ攻撃したらロシア領として反撃しますよということで牽制することはできるし、あるいはその占領したところから強制的に動員することもできる。そういうことで兵力不足を補うということはできるかもしれませんけれども、あまりに短期的、目先の利益のために大きなものを失いつつあるように見えますね。

上山

大二郎さんはこの4つの州の一方的な併合宣言は、どのようにご覧になっていましたか。

橋本

そうですね。ちょっと違った言い方をすれば、株の取引で株価が上がった時に利益を一旦確定するために株を売るということがありますよね。利益確定と言いますが、ちょうどそれに当たるようなことではないかなと、4州併合は。というのは、もともとは、東部のドネツク、ルハンシク。そして南部の2つの州を取った上で、さらに南部で言えば、さらに西のオデーサ、それから東部で言えば北の方のハルキウなどに手を伸ばそうとしたけども、それがもう全くできなくなってしまったと。このままほっておくと、どんどん、株で言えば株価が落ちていくかもしれない。そうならないうちに、その利益を確定しておこうということで、細かいところまで決めないで、まず併合を宣言してしまったということだろうと思うんですね。

■併合宣言での演説「プーチン大統領の心象風景」

上山

焦った中での策だったと言えるのかもしれませんが、「危険な賭け」ともいえる一手を打ったプーチン大統領は西側諸国に対し、攻撃的なメッセージを出しています。

菅原

9月30日に行われた一方的な併合宣言。そこでのプーチン大統領の演説には大きな特徴がありました。「西側諸国は我々を攻撃し、彼らが常に夢見てきたようにロシアを弱体化させ、崩壊させ、我々の国家を断片化し、我々の民族を互いに対立させ、貧困と絶滅に追いやるための、新しいチャンスを探し続けてきたのである」と述べ、西側諸国に対して、強い怒り、不満を表しました。

「西側諸国」という言葉は、駒木さんによると33回登場し、これは、2014年のクリミア編入時の7回を遥かに超えるものでした。さらに 「悪魔主義」「新植民地主義者」など、非常に強い言葉を使っており、ロイター通信は、プーチン氏は過去20年以上で最も厳しい口調で西側諸国を非難したと伝えました。

駒木さん、長い間、ロシアを取材されてきて、プーチン大統領がここまで西側諸国に強い不満を表明することはあったのでしょうか?

駒木

有名なのが2007年のミュンヘン演説で、国際会議でアメリカ批判をすごく展開するんですね。それは、アメリカ批判の厳しさで世界を驚かせたんですが、もっぱら軍事的な側面からのアメリカへの批判、ABM禁止条約の一方的な破棄とか、それこそNATOの東方拡大とか、そういうものを挙げてアメリカへの不満をぶちまけたんですけれども、今回の特徴は、やはり悪魔主義とか、そういう西側の価値観そのものに対するロシアの反発が非常に強く語られている。例えば、LGBTとか性の多様性とかを認めるようなものを欧米の堕落であると。そういうものからロシアを守らなければいけないんだということを非常に強く繰り返し強調していました。

それがなぜ4州の併合に結びつくのかとは、かなり距離があるように思うんですけども、その謎を解く鍵が、末尾にイリインというロシアの哲学者の言葉を引いて、演説を締めくくっているんですね。イリインというのは、ロシア革命の後にソ連の外に逃れて愛国的なロシアの、今、プーチンが言っているようなことと通じるようなことを繰り返し主張した哲学者なんです。要するに、そういう堕落からロシア守る、歴史的な使命を背負っているんだ、そのためには、ウクライナというのはロシアの分離不可分な一体となるべきものなんだということを、イリインは言っていて、それを最高の愛国者として演説の締めくくりでプーチンは紹介するわけですね。そういうような西側的なものから、我々の価値観を守る戦いの中に、今回のウクライナとの戦い、あるいは今回の4州の強制併合が位置づけられているんだというのが、今回の演説の特徴だったと思います。

菅原

まさに中盤以降は、そういった主張がふんだんに盛り込まれた演説でした。

駒木

一瞬、どこに話が行くんだろうという演説だったんですけれども、そういうところがプーチン大統領の心象風景なんだろうなと思いました。

菅原

あえて現在の戦況と照らし合わせて伺うとすれば、やはり、なかなか戦況が上手く行っていない苛立ちを、西側諸国の支援によるものだと。こういったものも、中には含まれていると考えていいですか?

駒木

そうですね。つまり、ウクライナは西側に支配されてしまっていると、操られてしまっている。だから、我々をここまで攻撃してくるんだ、それを食い止めなきゃいけないというのがプーチン大統領の主張ですよね。

■「耳を傾けるべき一片の真理もない」

菅原

橋本さんは西側諸国への言及、どうご覧になりましたか?

橋本

プーチン大統領は以前から、1991年のソビエト連邦の崩壊は20世紀最大のカタストロフだと、大惨事だという言い方をして、15の国にバラバラにされたと。それは30日の演説でも、西側諸国の企みによるものだというロジックで話しているわけですね。それはまさに、駒木さんが言われたプーチンさんの心象風景として、歴史観として、そう言うのは勝手ですけれども、それがウクライナのこととどうつながるのかというのは全く理解できないと思います。

特に30日の演説の中でも、西側諸国がその植民地時代から繰り返してきた、色んな悪行をということを挙げているわけですね。その歴史的な評価は別ですけれども、だからと言って、平和なウクライナの街や村に土足で入り込んで、そこの公共施設を壊し、学校を燃やして子供やお年寄りも殺してしまう。そこにいる女性を陵辱し、また、住民を拷問するという非業なことがなぜ許されるか。それは許されるはずがないと思うんです。その上に、住民投票という嘘とデタラメで作り上げたようなもので取り繕うとしても、そこには耳を傾けるべき一片の真理もないんじゃないかなというのが印象でした。

菅原

まさにプーチン大統領の屈辱、恨み、そういったものが今回の戦争に繋がっているのかなと思わせる部分がありましたけれども。

橋本

それはそれで、彼の思いとしてはいいけれども、ウクライナとは関係ないんじゃないかと。

■核使用「最高意思決定者が決める」

菅原

こうしたプーチン大統領の発言に対してバイデン大統領は、「アメリカはNATO同盟国と共にNATOの領土を『隅々まで』守る完全な用意がある。プーチン氏は私の言うことを誤解してはならない。『隅々まで』だ。」このように、非常に強い言葉でロシアをけん制しました。

そこで非常に懸念が強まっているのが続いてのテーマです。「ロシアが核兵器を使用するシナリオとは」。

ロシアの核兵器使用について、改めて世界が注目しています。プーチン大統領は、併合を宣言した際の演説で「私たちは自由に使える全ての力と手段で、この土地を守り、国民の安全な生活を確保するために、あらゆる手段を尽くす」。先月21日に続いて、核兵器の使用も辞さない姿勢を示しました。さらに「アメリカは世界で唯一、核兵器を2回使用し、日本の広島と長崎を壊滅させた国である」。アメリカが核兵器を使用したことについて言及しました。

今回の併合を宣言した4つの州ですが、ラブロフ外相は、4州の編入が決まれば「国家の完全な保護下」に入ると表明、核兵器使用の可能性を含む軍事ドクトリンが適用されるとの認識を示しています。

上山

そのドクトリンがこちらです。2020年に公開された文書には、ロシアが核兵器を使用する4つの状況が示されています。
その4つ目に「ロシアの『国家存続自体が非常に危機的な局面』での通常兵器による攻撃」。通常兵器の攻撃であっても国家存続が危機的な局面であれば、核で対抗する可能性があるとしています。高橋さん、これが併合を宣言したウクライナの4つの州に適用されると、ウクライナ軍が奪還しようと通常兵器で攻撃を加えたとしたら、ロシアが核兵器を使う可能性があるということになるんでしょうか。

高橋

まず4番目の項目でいう通常兵器というのは基本的にハイテク兵器です。アメリカのハイテク兵器に対して、ロシアは通常戦力で対抗できないので、それに対して核兵器で対抗するという意味ですね。ただ、ちょっと大事なことがあって、これは核抑止の専門家の常識なんですけれども、核兵器の使用の基準について、色々なことが平時や事前に言われていたとしても、その通りに使われるわけではない。実際にその通りに使われると思っているなら、それはアマチュアである。

実際の核兵器の使用は、その瞬間において最高意思決定者、つまりこの場合、プーチン大統領が決めることであって、それは事前の基準とは関係なく使う決断もあり得るし、使わない決断もあり得るということです。じゃあ何でこういう基準をあらかじめ作っておくかと言うと、それはコミュニケーションなんですよね、国内と国外に。つまり、このケースで言えば、アメリカに対して、ロシアはハイテク兵器に対して核兵器で対抗する用意があるということを伝えるという意味であって、この条件が外形的に当てはまったからといって、核兵器が使われるということではないです。

■プーチン大統領“核使用のメリットとデメリット”

上山

そうしますと、このように一応は決まっているけれども、最後に決めるのはプーチン大統領だと。例えば、プーチン大統領が追い詰められた時に使う可能性というのは…。

高橋

ロシアは核兵器を持っている国、大量に持っていて戦場で使う用意をしている国なので、核兵器が使われる可能性は常にあります、それは、いかなる状況においても。では、プーチン大統領がどういう判断をするかと言うと、核兵器を使うことによるメリットと核兵器を使うことによるデメリット、これを足した上で、メリットが大きいという判断をし、かつそのリスクを犯す必要があると決断したときですね。より現在の戦況に当てはまる形で言えば、まず一つ考えられるのは、核兵器を使用したら、この戦争に決定的に勝てる状況で、もう一つは、核兵器の使用によって決定的な敗北を避けられる状況です。

今、全体的に劣勢ですから、第2の形、つまり、核兵器を使うことによって敗北を逃れられる、かつ、それによるデメリットとは、つまりアメリカの介入ですね、そのアメリカの介入がないと判断した時には、核兵器の使用というものがプーチン大統領の前のテーブルの真ん中に来る可能性があります。そのオプションを実際使うかどうかは、本当にその瞬間に彼がどう判断するか、それも彼という人間の、その責任感であり、人格であり能力であり、全てが問われる局面なので、外の人間がその可能性云々を客観的に論じることはできないと私は思っています。ただ、そういう状況であれば、その核兵器というオプションが目の前にありますと、来ますということで、今、相当近くに来ているということは言えるんだと思うんですね。

上山

その核を使った場合にアメリカがどうするのか。この辺は後ほど、またお話を伺いたいと思うんですけども、駒木さんはどういったケース、どんな時が追い詰められた時に該当するのか。このあたりは、どのような考えをお持ちですか。

上山

その核を使った場合にアメリカがどうするのか。この辺は後ほど、またお話を伺いたいと思うんですけども、駒木さんはどういったケース、どんな時が追い詰められた時に該当するのか。このあたりは、どのような考えをお持ちですか。

駒木

非常に難しいと思うんですね。基本的にプーチン大統領がどう考えるかですけれども。しかし、非常に気になるのは、この戦争を始めた時のプーチン大統領の口実は、このままだと、ロシアという国家は存続できなくなるんだと。それで先手を打って攻撃する。そうでなければ、ロシアは破壊されてしまうということを言っているわけですね。つまり、そういう意味では、既にロシアは存亡の危機に立たされているという口実で、彼は戦争に着手しているわけで、先ほどフリップに出たような、国家の存亡に関わる状況になった場合に使う選択肢ということであれば、既にもうプーチンの中には、そういうところまで頭が行っている可能性はあるわけですよね。

ただ、それが実際の戦況に照らして、それをどこで食い止めなきゃいけないのか、どこまで追い詰められたら、現実の選択として考えるのかというのは、これは、なかなかわからないですけれども、例えばクリミアだとか、あるいはドネツク、ルハンシクの2014年に占領した地域。そこまで脅かされるようになると、少なくとも大きな敗北というか、勝ったと言い繕うこともできなくなるということで、かなりプーチン大統領は追い詰められることは間違いないと思いますよね。

上山

開戦前の状況に

駒木

そうですね。それさえ失うという状況になればですね。

■「戦術核、戦略核の区分は意味を持たない」

上山

では、ロシアが核を使う場合、どのような核兵器になるのか?今、指摘されているのは「戦術核兵器」です。

「戦術核兵器」とは、射程が500㎞以下、破壊力については、ICBMなどの「戦略核兵器」が破壊力の基準となるTNT換算で500キロから800キロトンに対して、「戦術核兵器」はTNT換算で10から100キロトンとされています。広島に落とされた原子力爆弾が15キロトンとされていますので、戦略核兵器に比べれば威力が小さいですが、戦術核兵器そのものの威力が小さいとは限らないということです。そして、ロシアがどのように使う可能性があるのか。2つのシナリオが指摘されていて、1つは、ウクライナ側の軍事目標に対して、もう1つは威嚇として無人地帯が海上などで爆発させるということです。高橋さん、ロシアが核を使うのであれば、どのような形になるのか、どうお考えですか?

高橋

それも全てプーチン大統領の判断次第なんですけど、非常によくある誤解というか、おそらく、核の専門家以外はほとんど理解してないことだと思うんですけど、核兵器を戦場で使用する場合ですね、例えば戦術核というのは、1発での効果はそんなに大きくないんです。つまり、広島の原爆であっても、それを軍隊に対して使った場合の威力の範囲というのは、1キロを多少超える程度になります。ところが、今回、例えば第2次ハルキウ反攻で最初にウクライナ軍がクピャンスクまで突破しましたが、その突破口というのは深さ50キロ、幅10キロぐらいあります。それぐらいの部隊に対して、戦術核を1発使ったとしても、ほとんど影響はないですね。例えば、冷戦期にアメリカはドイツでソ連軍の部隊を核兵器で食い止める計画をしていましたが、その時の考え方は、ソ連軍の1個師団に対して戦術核200発ですから。1発なんかではないんです。

ですから、もし戦場でウクライナ軍を撃破するために使うのであれば、ロシアの800キロトン級のICBMの弾頭を2発か3発打ち込む。そうすることで、その数10キロ範囲に展開しているウクライナ軍を無力化することができる。ですから、戦場で使う場合の方が核兵器の威力は大きくなります。逆に政治的インパクトを狙うということであれば、それは核兵器であればいいので、そのときは、それほど大きな核爆弾は必要とされない。例えば、黒海で、黒海の水上ないし水中で爆発させる、あるいは、オデーサの沿岸で爆発させるみたいなことであれば、必要なのはそれが映像に撮られて、その映像が拡散することなので、それが核兵器であればよくて、その大きな弾頭である必要はない。

上山

それは、800キロトンほどでもなくて

高橋

いわゆる戦術核でよい。ある意味、戦術核、戦略核と言われますけれども、現在の世の中では、基本的には、あらゆる核兵器の使用は戦略的なインパクトを持つんです。ですから、戦術核、戦略核という区別は意味を持たない。一方、その戦場でウクライナ軍相手に使うのであれば、その時は爆発威力が大きくある必要があって、そうすると、逆説的ですけれども、戦略核を戦場で使うという必要が出てくる。そういう状況だということは理解していただいた方がいいかと、私は思います。

上山

今回、戦術核と言われていますけれども、それよりも大きなものを、戦場であれば使う可能性を考えなければいけない。

高橋

戦術核は相対的に使いやすいはずだという理解をしている人が多いからですね。だから戦術核と言うんですが、私はこれまで核兵器の使用のリスクが高いと言ったときに、戦術核と言ったことは一度もありません。それは今回の戦場で使用するとすれば、それは戦略クラスの弾頭である可能性が高いからです。

■「動員令を出して通常兵器の再編を優先」

上山

大二郎さん、こういったお話、高橋さんからもありましたけれども、ロシアの核兵器について、大二郎さんはどういった考えでしょうか?

橋本

今のお話を伺っていて、なるほど、そうなのかと思ったんですけれども、戦場で使うという場合ですね、今の戦場は、ロシアが併合した4州などを含むところは戦場になっていますよね。そうすると、他国に何らかの理由で戦略核を使うという場合と違って、自分の国、国民になったその人たちに被害を与える、また、後遺症を与えるということを覚悟の上で使うということになりますよね。当然、そういうことを覚悟して使うんでしょうか。

高橋

あまり自国、特に今回の場合、外形的な自国ですから、一方的な宣言によるものですから、そこはほとんど気にはしないんだと思いますね。

橋本

そうなる場合に、勝つために、または、これ以上負けないためにということの判断の基準というのはないんでしょうけれども、専門家の間では、大体こういうときだなという感覚、つかめるんでしょうか。

高橋

私は、9月6日7日からのウクライナの反攻の時が、クピャンスクをほぼ支配したとき、制圧した時は、非常に核兵器の使用のリスクが高い状況だと思いましたね。その日、そういうタイミングで先週、アメリカに行ってきたんですけど、やはり同業者の友人たちも、同じリスクを、同じ認識をしていて、ただ、興味深いのは、そのタイミングでは、ロシアはプーチン大統領も核オプションに言及していないんですよ。つまり、見る人が見れば、非常に核リスクが高い状況では核兵器の使用に言及せず、2週間後に動員令と合わせて核威嚇に言及をした。動員令を出してきたということは、まずは、通常戦力の再建を優先するということです。

核オプションというのは、通常戦力で勝てない時に使うものですから、通常戦力で勝てるなら使う必要がないですから、まず通常戦力の再建を優先するということを言ったということは、今の段階で、少なくともリマン陥落の前での、プーチン大統領の頭の中では、核兵器の使用というのはファーストオプションではないということは言えます。これは見る人が見ればわかるんです。だから、おとといまでの段階では、核オプションにそれほど高い優先順位を与えているわけではないと思うんですね。

■ロシア“核の威嚇”米国の対応は…

菅原

ロシアの核兵器使用について、アメリカがどう対応するのか、これも注目されています。アメリカの情報機関、CIAのバーンズ長官は、「プーチン大統領の威嚇は非常に深刻に受け止めなければならない」と発言。さらにサリバン大統領補佐官は 「ロシアが核を使用した場合の様々な影響と、米国がとる行動について、これまでロシア側に直接伝える機会を持ってきた」と発言。アメリカは、核兵器を使ったらどういう行動に出るか、ロシアに直接伝えているということです。言い換えれば、伝える必要があるような状況だということです。

さらにこちら、アメリカの安全保障に関係する人たちが、ロシアの核兵器使用の動きについて、発言しています。ロシアの動きを見ていますよ、というメッセージにも見えますが、高橋さん、ロシアが核を使った場合、アメリカはどう動くと見ていますか。

高橋

核兵器が使われた場合のケーススタディーは、ここ何年か専門家の間ではずっと行われていて、その時に考えるべきことは、まず第一に第2撃、1発目の後の、一撃の後の後続の攻撃をどうやって阻止するか。

菅原

迎撃する。

高橋

迎撃か反撃するかということと、あともう一つは、まさに先ほどの戦争に勝つか負けるかで言えば、使うなら勝たなきゃいけない。要するに、戦争に勝つためにどう使うか。今回、アメリカが直接、戦争しているわけではないので、それが当てはまるかどうかわかりません。もう一つは、核兵器が使われたということは、その時点ですでに抑止が破れているので、その抑止を再構築するために何が必要か、つまり核兵器を撃った側が得をする形で終わらせるわけにはいかないということですね。だから、ロシアが核兵器を使って、そのままアメリカが見過ごすようなことがあれば、それは北朝鮮や中国に対して非常に良くないことになるというようなメッセージになると。

ですから、アメリカが軍事介入を含めたオプションを考えるということについては、私は、疑いはないです。ただ、これも、先ほどプーチン大統領個人の決断と申し上げましたけど、これもバイデン大統領個人の決断なんですよ。その時に核兵器が使われました。その時、アメリカも核で撃ち返すのか、撃ち返すとすれば、ロシア本土なのか、それとも戦闘部隊なのか。あるいは、核兵器を使わないけど、通常戦力で大介入をするのか。そのあたりを決めるのも、バイデン大統領という個人の人格と責任感と能力すべてが問われる中で決めるということになります。

菅原

どこまで対応するかはわからないけれども、少なくとも、核を使うことはかなりリスクなんだと思わせることが大事だというシミュレーションは当然しているということですね。

高橋

そうですね。ですから、アメリカがどう反応するかというのは、正確に伝えなきゃいけないんですよ。正確に伝えなきゃいけないので、メディアが公表して、それがメディアを通じてロシアの耳に入ることは避けなきゃいけない。だから、アメリカは直接伝えてきているんです。これは私、絶対やっているという確信がありましたし、やっているということですから。多分、それは正確にメッセージとして伝わっていて、これまで、この戦争の中で何回かロシアが核兵器を使ってもおかしくない状況がありましたけれども、あるいは、化学兵器を使ってもおかしくない状況ありましたけれども、それでも使っていないということは、ある程度、きちんとメッセージが伝わっているというように考えています。

■ロシアの核使用「米国が反撃しない選択肢ない」

菅原

こうした行動が抑止につながっているんじゃないかということですね。駒木さんは、このロシアが仮に使った場合ということになりますが、アメリカの対応をどう見ています。

駒木

髙橋さんがおっしゃることに付け加えることはいないんですけれども、しかし、そのまま見過ごすということは、やはりその後に非常に大きな禍根を残すと。使ったものに勝たせてしまうということは絶対に避けなければいけないということは当然の前提としてありますから、それは通常兵器になるのだろうと思うんですけれども、つまりNATOに入っていないので、これはウクライナがNATO加盟国だと話はがらりと変わってきますけれども、それは核の傘に入るということで、核攻撃に対して核攻撃で反撃するということで抑止しているわけですけども。しかし、入っていないウクライナにしても、核攻撃を受けて、それを看過しないで、どうやってロシアに反撃するかということですけども、それはしないという選択肢はあり得ないと思います。

菅原

大二郎さんお話を伺っていると本当に核の使用がないように、本当に、抑止の観点から、かなり高度なコミュニケーションを水面下で行われているんですね

橋本

そうですね。高度だし、しっかりと伝わらなきゃいけないという高橋さんのお話。その通りだなと思って、CNNがこう伝えましたというのがロシアに伝わっても、それほど危険な話はないということになるわけですね。だからこそ、サリバン大統領補佐官が色んな機会に自分たちがどう行動するかということについて伝えたということを言ったわけです。そこで思うのは、伝えたことは間違いなく、髙橋さんもおっしゃったように、そういうことをするだろうと。だけど、伝えたことをあえて公表する必要があるかどうかということから言うと、やっぱり公表した方がアメリカのためというよりも、安全のためいいという判断があったんでしょうか。伝えても、それを別に、アメリカとロシアの間の関係で飲み込んでおくということも選択肢としてはあると思うんですけれども。

高橋

ちょっとこれは私、話しにくいんですけど、つまり、直接伝えているんだということを知ってもらうことで、要するにアメリカ、例えばバイデン大統領はほとんど直接発言していないんです。部隊展開もそんなに大きなものはない。時々B-52が飛んでいるんですけど、その中でも、きちんとやることを伝えているかどうかについて、多くの人は、そういうものはメディアを通じて伝わると思っているわけです。そういう人に対して、ちゃんとやっているんだとことを言う必要があるというように考えたということだと思いますね。

橋本

それだけある意味、何か迫っているものがあるという、そういうことですね。

■リマン奪還「非常に大きな転換点になり得る」

菅原

水面下で何が起きているんでしょうか。続いてのテーマはこちらです。「ウクライナ攻勢止まらず プーチン政権に動揺拡大か」。

戦いが続いていた東部要衝「リマン」をウクライナ軍が奪還しました。東部の鉄道の要衝、そして何よりプーチン大統領が併合を宣言したドネツク州の要衝です。併合を宣言した翌日に、ウクライナ軍が奪還しました。ロシアは「リマン」について「包囲の恐れが高まったことから部隊はより有利な戦線へ撤退した」。ハルキウ州の地域が奪還された時は撤退という言葉を避け、再編成という言葉を使っていましたが、今回、はっきりと撤退という言葉を使いました。駒木さん、リマンをロシア軍が失った意味、どう見ていますか。

駒木

おそらく数日前からもう完全に包囲をされていて、通常であれば、もっと早く撤退をしてもよいような状況だったと思うんですけれども、おそらく今回、4州の併合宣言が30日にあるということで、それまでは絶対に、こういう発表できないし、撤退もできないということで、それによって被害も拡大したのではないかと思われるわけですけれども、非常に大きな、政治的にも非常に大きな意味がありますよね。

そして軍事的には今まで、イジュームを取られて、これまでプーチン大統領が最優先と言っていたルハンシク、ドネツクの完全占領が非常に少なくともドネツクはまだ半分ちょっとしか占領できていないのですけども、それから、さらに占領地を広げるということが非常に難しくなったと言われていましたけども、今回のリマンの陥落を受けて、逆にルハンシクのセベロドネツクとかの拠点を取り返される危険が現実に迫ってきたと。非常に大きな転換点になり得る出来事だと思います。

上山

一方的に併合を宣言した地域で、初めてのロシア軍の敗北、撤退となったわけですけれども、こちら、ウクライナ軍が制圧する直前の地図です。

ウクライナ軍がロシア軍をほとんど包囲していました。実は一方的に併合が宣言されたイベントの裏側で、ドネツク人民共和国のプシリン首長は「リマンからの報告は気がかりだ。ウクライナが我々にとって歴史的なこの日に泥を塗ろうとしている」。このような懸念を表明していました。

その戦闘ですが、リマンを守ろうとしていたロシア軍の後方をウクライナ軍が断ち切るようにして、ほぼ包囲するような状況を作り出していました。ウクライナ側の発表では、リマンには、ロシア兵が2500人から5500人残されているとしていました。さらにハイダイ知事は「リマンの占領者が撤退しようとして、ロシア軍司令部から拒否された」。こう主張していました。かなりのロシア兵が捕虜になったという情報も入っています。

■「統一された戦略」の“欠落”

上山

ロシア軍が戦略的に誤って、大きな損失を受けた可能性がある、こういう指摘ですが、高橋さんはリマンの状況について、どのようにご覧になっていますか。

高橋

つまり、ロシア側がどういう戦略をとっていたのか、ということだと思うんですね。つまり、一つの考え方としては、例えばリマンに立てこもって、例えばセベロドネツクであるとか、マリウポリのような市街戦でウクライナ軍をとにかく引きつけ続けると、その間に招集された予備役の部隊を再編して、その救援部隊を組織してロシア側から見たら、解放するというような考え方というのは作戦としてはあり得ます。また、別の考え方としては、全体として押されているので、とにかく可能な限り下がって、できるだけ部隊を保全してウクライナ軍を阻止していくという考え方とある。

今回やったことというのは、ある程度保持しようとして、撤退命令で一部降伏したという形ですから、中途半端なんですよね。時間稼ぎにもなってないし、防衛線の再構築にもなっていない。ここから類推されることは、作戦指導を、戦争指導全体として統一された戦略が立てられてないのではないか、ロシア軍が全体としてですね。要するに、このリマン攻防戦にどういう意味があって、ここは保持すべきだから死守すべきだという判断、あるいは、ここは保持できないから下がるべきだという判断ができなくて、なし崩し的に、とりあえず最初は守ろうとして、守れなくなったから撤退、降伏したというように見える。だとすれば、だから全体の作戦を効果的に立案することができていない、ウクライナと違って、ということですかね。

上山

それは、ロシア軍の、初期の頃と似たような状況ということですか。

高橋

初期の頃と似たような感じはします。5月、6月でロシアが優位だった時には、こんなことはなかったんですけれども、ちょうど初期の、いわゆるドブロニコフ将軍が総司令官になる前の、なんとなくバラバラな感じを思い出させる戦い方ではあります。

■軍批判には“ポスト狙い“の思惑も

上山

この「併合宣言」直後の敗北に、プーチン政権周辺にも衝撃が広がっています。チェチェン共和国のカディロフ首長はリマンでの「敗北」について、中央軍管区司令官、ラピン氏の失態だと痛烈に批判しました。さらに、低出力の核兵器の使用など、抜本的な措置を講じる必要性があると主張。駒木さん、ロシア内部で責任を押し付け合うような状況になり始めている?

駒木

おっしゃるように、これだけの大きな失態ですから、内部が非常に、ゴタゴタするのはある意味、当然なんですが、カディ
ロフは必ずこういう状況を利用しようとするわけですね。キーウから撤退した時も軍を批判したし、そしてハルキウの攻勢で大退却したときもカディロフは批判している。その間、カディロフは自分は首長をやめるんだという揺さぶりもしているということで、基本的にはショイグ国防相、軍を批判しているわけですよね。何をしようとしているかと言うと、おそらくゾロトフという、彼の上に立場上ある国家親衛隊の長官がいるんですけども、それをその後に押し込んで、その後に自分が収まろうとか、色々そういうことを…

上山

自分の昇進のためという?

駒木

そうですね。だから、そういうことも考えていると思うんですね。カディロフは、自分のチェチェンの住民を強制的に戦闘に投入して、プーチン大統領に恩を売っている。その報酬をよこせという立場ですから、こういうことが起きると、またそれを使って揺さぶるという、そういう側面もあると思いますね。

■南部ヘルソン“補給路攻撃”3か月に

上山

そして高橋さんが、この戦争において最も重要だと指摘し続けている、南部ヘルソンです。ドニプロ川の西岸にロシア軍が侵攻していますが、ウクライナ軍は、そのロシア軍部隊の補給路への攻撃を続けています。特に西岸の部隊へ物資を補給するための4つの橋への攻撃は、3カ月近く続いています。

この地域のロシア軍について、イギリスの国防省は「ヘルソン地域でも激しい戦闘が続いており、ドニプロ川西岸のロシア軍は依然として脆弱なままである」と分析。さらに戦争研究所によると「ロシア軍がアントニフスキー橋の機能を回復させようとしており、追加の建設資材と修理設備を橋に持ち込んでいる」。ロシアは西岸のロシア軍を守るため何とか橋を使えるようにしたい。ただ、直しても再びHIMARSなどで破壊されるという状況が続いているとみられています。さらに、ロシア軍を弱らせるように補給路を攻撃しているウライナ軍ですが、ヘルソン市まで10~25㎞の地点まで迫っているとみられます。高橋さん、まず注目されるのは「ヘルソン市」をウクライナ軍が奪還できるのか、どう分析されていますか?

高橋

ヘルソンは、今回の攻勢の中での結果として、囮のような役割になっていますけれども、ロシア側からしてヘルソン州を失うわけにはいかないので、引き続き重要であることは間違いがない。かつ、その反攻の前にロシア側がかなり有力な部隊をドニプロ川の西側に配備した形跡があるわけですね。実際、ウクライナ側の反攻が北部東部よりは、はるかに遅いスピードでしか進んでいないということからも、この部隊。ここにいるロシア軍のレベルというのは、おそらく相当なもので、クオリティが高い。

ただ同時に、その補給線が切られているので、有利な状況ではないわけですね。ですから、ウクライナとしては、この比較的レベルが高いと推定されるロシア軍を確実に撃破することが、ここでは必要です。つまり、せっかく補給線が切れているわけですから、ここできちんと撃破することが必要であると、だからそのための攻勢をしていて、できれば、やはり秋の、いわゆる泥濘と呼ばれる天候によって、地面がぬかるむ時期が来る前に、ドニプロ川西岸は奪還をしておきたいというのはあると思いますね。それを目指したヘルソン市への攻勢、少なくともヘルソン市を奪回したいというのはあると思いますね。

上山

おっしゃった泥濘期、今、10月ですけれども、もう間もなく、ウクライナ軍としてはヘルソン市を奪還する意思があるんじゃないかという分析ですか。

高橋

できればやりたいと思います。もちろん、意志はあっても、ロシア側の抵抗が厳しかったらできないので、できるかどうかはわかりませんけれども、それをやりたいのではないかと私は思いますね。

橋本

補給路を絶たれているロシア軍をウクライナ軍が撃破するという時、その道具は何なんですか、戦車なんですか。

高橋

ウクライナ側ですか。基本的には戦車と歩兵の連合戦術になります。この地域のウクライナ軍の進撃速度が遅いということは、もしかしたら戦車がそれほど無い可能性もあるんですが、ちょっと戦場の状況はそこまでは情報がないので。

上山

ドニプロ川西岸にいるロシア軍ですが、補給路を断たれたことで、レベルが高い軍隊とはいえ相当疲弊しているんですか。

高橋

そうですね。どんなに兵員のレベルが高くても、燃料がなければ戦車動かないですから、そういう意味で疲弊はしているはずです。

上山

(補給路への攻撃を続けて)3カ月、経ちました。ウクライナ軍としては…。

高橋

決着をつけたいのではないかと思いますね。

■プーチン大統領“後退しない戦略”との報道

菅原

そのヘルソンの戦いですが、ニューヨークタイムズはこのような指摘をしています。「ロシア軍がヘルソン市から撤退すれば装備を維持し、兵士の命を救うことができる。ドニプロ川東岸で少ない戦力で南部を維持できる。しかし、ヘルソン市から撤退するという現場の指揮官からの要請をプーチン大統領が拒否している」。さらに 「プーチン大統領はこれ以上後退しない戦略を要求している」としていて「勝利に見えるものをゼレンスキー大統領に渡したくない」。このようにアメリカの政府関係者が指摘していると報じています。

そして「アメリカ政府関係者によると、ここ数週間、プーチン大統領はウクライナ戦争の戦略的計画により直接的に関与している」と指摘しています。高橋さん、戦況を考えれば、ロシア軍はヘルソン市から撤退した方が良いという状況ですか?

高橋

状況から見ればそうだと思いますね。ただ、結局、橋がちゃんと使えないということで、重装備を捨てなければ逃げられないですから、その意味で捨てることのリスクも考えなきゃいけない。先ほど、橋をもう一回、建て直す動きがあるという話、もし仮に撤退するのであれば、撤退のためのタイミングに合わせて橋をつくって、ハイマースで破壊される前に何とか逃げ出すというのはあるとは思うんですけれども、その辺の判断ですね。兵員をとにかく逃がすか、重装備を残すか、何とかヘルソン市を維持するかというところの判断が必要だと思います。

菅原

ヘルソンなんですけれども、まさにプーチン大統領が併合宣言したばかりの場所であり、そしてクリミア半島の水源でもあると、さらに言いますと、侵攻直後からロシア側が制圧をしていたエリアなわけで、ロシア側からすると、かなり政治的にも重要な場所となってきたところです。やはり、ここを失うとなると、ロシア側としては非常に厳しくなるわけですよね。

駒木

そうですね。プーチン大統領が失いたくないと考えるのも当然だと思います。開戦後、わずか1週間ぐらいで制圧して、それにはウクライナ側の協力者の存在もあったと言われているわけですけれども、まさに一番有利な状況で進んできて、しかも併合を宣言したところの州の州都を失うことは、とても容認できないということがプーチン大統領の考えだと思いますね。

プーチン大統領は、今はドネツクとルハンシクの完全制圧が最優先であって、それ以外は2次的な問題だということで、ハルキウの敗戦、ダメージを小さく見せようとしているんですけれども、しかし、ヘルソンを失うということは、そういう言い訳も段々通用しなくなってくる、重みのある事態だと思います。

■さらなる戦況悪化で核使用の恐れは…

菅原

そういった中で、ロシア側は撤退なのか戦い続けるのか。どういった選択をとるのか。高橋さん。これは仮にという話なんですが、じわじわウクライナ側が進行していく中で、仮に、ヘルソン市自体を奪還するとなった場合、かなりロシア軍にとって厳しい結果になると思いますが、その場合に改めて伺いたいのは、ここで核の使用の危険性が高まっていくことになっていくのでしょうか。

高橋

もちろん。プーチン大統領の判断次第ですけど、直感的には、ヘルソンで核兵器を使うことには、なかなかなりにくいのではないか。つまり、核兵器を政治的な威嚇ではなくて、軍事的な目的で使うとすれば、使った効果をやはり物理的に拡張するための部隊が必要で、ヘルソン市を失うような事態だと、そのときヘルソン州には多分、ほとんどまともな部隊がいない状況になりますから、単純に、ほとんど嫌がらせとして使うことにしかならない。もちろん、その段階でクリミア半島の防御態勢がどうなのか。つまり、ヘルソン州の主力が壊滅し、かつ、クリミア半島が例えば、がら空きのような状態だったとすれば、そこはどうしても核兵器を使って阻止をすべきだという判断はあり得ます。

菅原

負けを確定させないようにということ?

高橋

ただ、例えばクリミア半島の防備はきちんとしていて、ヘルソン州は多少失ったとしても、クリミア半島はちゃんと守れるという状況だとすれば、そこであえて核兵器を使うべきか、使うだろうかと言うと、私はその可能性は低いのではないかと考えます。

菅原

髙橋さんは、動員令が部分的ですけども、このタイミングで出された、これも現状兵力を補充するためであって、核を使うというメッセージではないとおっしゃっていましたね。

高橋

そうですね。両方組み合わせて伝えてきたことには意味があって、これは、核兵器を持って70年間、アメリカとともに人類を滅ぼさない責任を分かち合ってきた国のリーダーとしての見識というと、ちょっと強いかもしれませんとが、思いなり、意地なりはあるようには感じます。

上山

大二郎さんはいかがですか。このウクライナ軍が例えばある都市を奪還すると、その都度、核のリスクのようなものも、今後、気にしなくてはいけないということでしょうか。

橋本

それはこちらが勝手に気にするだけであって、実際にそこで戦いやっている人たちは、それほどいちいち、動揺しながらやっているとはとても思えないんですよね。ヘルソンということで言えば、非常に重要な都市なんでしょうけれども、ロシアにとって致命的なのかと言えば、クリミアを万が一、ウクライナに取り戻されそうになるということほどの致命的なものではなかろうと思います。先ほど、ハルキウの攻防で使うかもしれないという状況がそのまま来たということから言えば、もうあえてここで核を使うかなということは見た目では思います。今後、クリミアがどうにかなるということになったときには、それは本当に、迫って核の使用ということを考えなきゃいけないのではないかなと、今のお話を聞きながら受け止めました。

 
(2022年10月2日放送)