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#102

ロシア議会“重要人物”インタビュー全編公開

BS朝日『日曜スクープ』は、ロシア連邦院のコンスタンチン・コサチョフ国際問題委員長がG20国会議長会議で訪日したのに合わせて独自取材し、11月17日、放送しました。
コサチョフ委員長は、ロシア外交の“論理”を世界に発信してきた重要人物です。安倍総理とプーチン大統領が「日ソ共同宣言を基礎に平和条約交渉を加速」と合意してから1年。コサチョフ委員長のインタビュー全編をお伝えします。

コサチョフ委員長のインタビュー全編の動画は、こちらでご覧になれます。

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【独自】ロシア重要人物インタビュー1 日本への期待

【独自】ロシア重要人物インタビュー2 米国への懸念

■「平和条約こそ、あらゆる問題に道を開く」

Q.

今回の訪日にあたっての、ロシアの立法府としてのメッセージをお願いします。

ロシア連邦院 コサチョフ国際問題委員長

これまで何度も日本を訪問している。ロシア議会の同僚たちも両国にとって両国議会の協力が大きな役割を果たしていることを確信している。このことはすべての政治勢力が認めている事だ。ロシアにとって日本は強力な貿易経済分野でのパートナーだ。G7の国々とも国際問題やアジア太平洋地域の問題でロシアは共通点を見出す努力をしている。様々な機会を利用して議会間の共同活動を進めている。私はロ日議会間・地域間協力支援協議会の会長を務めている。これはロシア連邦院により創設され、両国の地域機関と日本の協力関係を推進するために緊密に連携している。その成功例として、長期間の空白を経て復活した両国の知事会議がある。今年、モスクワで知事会議が開催された。来年は、両国の首脳の音頭で地域間交流年が開催されることになっており、そこでは、この知事会議が中心的役割を果たすはずだ。

Q.

ロシア国内で反発がある中で、ロシアが平和条約を目指す意義は、どのようにお考えか?

ロシア連邦院 コサチョフ国際問題委員長

第二次世界大戦後のロ日両国の関係を調整するうえで基礎となる唯一の文書は、1956年の日ソ共同宣言だ。この文書は両国議会によって批准されており法的効力を持つ国際法によって認められた国際文書だ。両国関係の進展を目指すロシアや日本の様な大国にとってこの文書だけでは十分でないことは明らかだ。強力で大型の条約が必要になる。それは予定通り平和条約と呼ばれるものになるだろう。それは現在そして長期的展望に立っての二国関係に関する広範囲な文書となる。我々が(真の)パートナーになるまで、両国にとって間違いなくこの条約は必要だ。両国にこれを疑う者はいない。ご存じのようにプーチン大統領と安倍総理は平和条約締結に向けての準備を促進する事を基本的に決定した。昨年12月には両国の外務大臣に対しこの作業を調整するよう指示をだした。これは両国が平和条約の制定の意義を認めている事を示している。したがってこの文書(平和条約)が必要であることは間違いない。この文書が私たちの生きている間に日の目を見ることを確信している。1956年の共同宣言にはもう一つ世論を喚起する問題がある。それは島の問題だ。これ(領土問題)が平和条約締結の障害となっている。ロシアの立場はこの問題の段階的解決だ。これこそが1956年の共同宣言の論理だ。平和条約こそが両国関係のあらゆる問題に道を開く。どのような問題か、については今、触れることではない。将来の平和条約の内容に関する交渉が現在行われており、両国外務大臣に指示されたことだ。平和条約の必要性は、ロシア国民の一定層からのコンセンサスは得られていないものの、両国間の基礎としての条約締結自体への反対はまったくない。

■「日本の立場に変更ない」

Q.

日本が2島返還へ方針転換したことをロシアは評価しないが?

ロシア連邦院 コサチョフ国際問題委員長

直接それにお答えする前に一言。私も中年を迎え、よく覚えているが、島々を巡る領土問題は、ソ連にとって存在しなかった。1956年の日ソ共同宣言にも拘らず1991年までソ連は一貫してこの問題の存在も議論の余地も認めなかった。1991年にソ連邦が崩壊し民主的ロシアが誕生したときに、この問題が動き出したと私は理解している。我々のパートナーである日本がこれを問題視しているのなら、ロシアが問題の存在を無視せず話し合いを始めるべきだと思っている。もう30年も前の話だが、それが交渉の始まりだった。ソ連邦とは異なる新生ロシアは文書が国際法上効力を保有することを認め、1956年の共同宣言の内容に立ち戻る事に同意した。私は交渉の当事者ではないが、いまのところ日本のスタンスは基本的な変更はない。少なくとも私は4島返還から2島返還への変更を示すいかなる正式確認書も見ていない。このテーマをめぐり議論が行われ、新聞に掲載され、政治評論家などの発言もあるが、繰り返して言うが、日本の新たな公式姿勢(方向転換)を示すものを見たことが無い。もしそれが出たら我々は協議する準備がある。私が理解する限り、日本は、2島はすでに1956年に決定済みだから残る2島について協議しようという姿勢だ。ロシアは日本のこの姿勢に同意してこなかったし、今も同意しない。日本の姿勢に前進があったとすれば、島の数について協議するのではなく、平和条約や今後の関係正常化について協議しようとする点だ。平和条約か領土問題解決かでなく。安倍政権以前の歴代政権は、1956年の共同宣言に関して進展がない限り、関係正常化も経済協力もあり得ないと言ってきた。現政権が大規模なロシアとの協力関係に踏み切った点では大きく姿勢を転換させたと言える。平和条約締結もされず領土問題も解決していない状況にもかかわらず姿勢を転換させた安倍政権を歓迎する。両国間に横たわる複雑な問題の解決は上(トップ)からの政治的信念ではなしえないからだ。ロシアまたは日本にどれほど強いリーダーがいようとも、どれだけ強い政府や議会が存在しようとも、どんな決定もその国の国民が下すべきだ。現在(島を巡る)ロシアと日本の世論が正反対(真っ向から対立している)であることを我々は認識している。これほど大きく対立している状況下で、領土問題解決にむけての現実的可能性はないというのが私の個人的見解だ。相手国を友好的で互恵の協力関係にあると理解するなかで国民の意識が変わり真の協力関係を確立する事が可能になる。幸い、ここ数年この方針に沿っての前進がみられる。60年、65年前とは大違いだ。

Q.

日本政府の大きな方針転換の話が出たが、経済協力が必要か?

ロシア連邦院 コサチョフ国際問題委員長

数十年前、私が学生だったソ連時代、当時は、日本は非友好国であると学んだ。恐らく日本もソ連に対し同じ考えだったはずだ。それ以来30年、ロシア、日本ともに人々の意識に変化が起こったはずだ。人々は互いをより深く理解するようになり、互いの懸念(心配事)を受け止めるようになった。間違いなくそうなっている。いま大多数のロシア人は日本を非友好国とも敵対国とも思っていないはずだ。日本の人々も我々に対し同じであることを願う。まだ大多数の国民が相手国を友好的とはとらえていないが、意識の変化が起これば交渉中の問題も解決するだろう。

Q.

確認だが、日本とロシアの平和条約について、これを妨げているのは何だとお考えか?

ロシア連邦院 コサチョフ国際問題委員長

私は交渉の当事者ではないので、自分の個人的見解だが、交渉の主な支障となっているのは、ロシアが国際的に認められた第二次大戦の結果として、南クリルの帰属が決まったことを基礎に交渉に臨んでいることだ。これは国際法で保障された第二次世界大戦の結果だ。日本は第二次世界大戦の結果の部分を否定し認めようとしない。この部分を訂正すべきだと日本は主張する。これが基本的な姿勢だ。日本語では分からないが、ロシア語でいう、ペレダーチャ(引き渡し)とボズブラット(返還)と言う言葉には大きな違いがある。ボズブラットは自分のものではないものを本来の持ち主に返すという意味だ。1956年の日ソ共同宣言にもボズブラットという言葉は一切使われていない。これがロシア側の原則的な姿勢であり、これを日本側は依然として否定している。これが交渉の前進、そしてロ日関係全体の進展を妨げる深刻な要素だ。

■「朝鮮半島での軍事増強には反対」

Q.

東アジアの安定化について、伺います。北朝鮮の非核化について、ロシアはどう考えるか。

ロシア連邦院 コサチョフ国際問題委員長

ロシアの姿勢は終始一貫している。北朝鮮の核開発計画をロシアは断固非難する。これは国連安保理の決議違反であり核不拡散の精神に反する。北朝鮮は核不拡散条約を無視しているが。いずれにしろ、現代社会において核不拡散政策を断固支持するべきだ。ロシアと中国はこの点で同じ見解だが、アメリカとその同盟国が北朝鮮の核開発問題で制裁を加え朝鮮半島における軍事増強をはかることには反対だ。これは解決策にはならない。北朝鮮を好きだろうが嫌いだろうが、主権国家であり独立国である。自国の安全と主権を保障する権利がある。ロシアと中国が共同で国際社会と6か国協議の各国に提案した、同時進行論が唯一正しいと考える。これは北朝鮮の核開発計画を縮小し朝鮮半島の緊張緩和を図り、並行して、アメリカ軍の削減、韓国や日本との行動(演習)の縮小を意味する。北朝鮮は軍事的動向(軍事演習)が縮小され、制裁が緩和されれば、それに応えるはずだ。その第一歩が数か月前に行われた米朝首脳会談であり、我々も歓迎した。現在また空転しているが。この同時進行論以外、事態を前進させる方法はないとロシアは考える。

Q.

6月にトランプ大統領と金正恩委員長の会談が行われたとき、コサチョフ国際問題委員長は「会談が緊張緩和に繋がれば、誰にとってもプラスだ。朝鮮半島における非核化問題を長期的に解決するには、ロシアと中国の関与なしには不可能だ」と発言した。ロシア議会は北朝鮮の非核化についてどう考えるか。また、日本とロシアは解決のため協力できるか。

ロシア連邦院 コサチョフ国際問題委員長

ロシアは北朝鮮の核開発問題で、世界のリーダーになろうとは思わない。ロシアは他国の行動に嫉妬する事は無い。米朝首脳会談の開催をロシアは心から歓迎した。北朝鮮が韓国や中国など他の国々と接触するのを歓迎する。日本はこの面ではそうでもないが。(積極的ではない)ロシアは北朝鮮との首脳会談に毎回真剣に臨んでいる。その回数も多い。此処で重要なのが議会間の接触(交流)だ。ロシアは北朝鮮、韓国との間に対等な善隣関係がある。我々は積極的に話し合いを続けており、毎回両国の同僚たちと直接対話するよう努めている。数週間前の10月に北朝鮮の最高人民会議議長がモスクワを公式訪問した。話し合いの内容をすべて明らかにはできないが、この交流が韓国と北朝鮮の交流に寄与した。ロシアの姿勢を北朝鮮は認め、韓国も感謝の念をもって受け止めた。

■米ミサイルのアジア配備に懸念

Q.

INF中距離核戦力全廃条約が失効した。核の心配のない世界つくりにロシアはどのような役割を果たすのか?

ロシア連邦院 コサチョフ国際問題委員長

INF全廃条約が締結されたのは、ソ連時代の1987年のことだ。当時は冷戦の真っただ中であり、緊張緩和の兆しが見え始めた時期だ。これはすべてのタイプの核兵器の廃絶を目指し両国が締結した初めての条約だ。その理由はこれが最も危険な兵器だからだ。中距離ミサイルが危険なのは飛行時間が短いため迎撃準備が困難だからだ。同時にこのミサイルを使用することで、発射側の環境へのダメージが大きい。危険が大きいのだ。そのため両国は、このミサイルの全廃を決めた。原則的にミサイルは全廃された。

今回アメリカはINF条約から脱退した。脱退の理由はロシアの協定義務違反にあるという、全くのこじつけだった。そんな違反は無かったと強調したい。ロシア側に条約違反があったことを示す証拠は一切ない。9M729ミサイルの検査視察をロシアが求めても西側諸国は無視した。脱退の理由は9M729ミサイルでもロシアでもなく、彼ら(アメリカ)が配備の必要があると考える地域に中距離ミサイルを配備できないと困るからだ。いまアメリカは中短距離ミサイルをヨーロッパではなくアジアに配備するつもりだ。アジアには北朝鮮の脅威そしていくつかの火種があるという。私が推測するに、火種とは中国を指すのではないか。だからアメリカは中国に近い日本や朝鮮半島、その他のアジア太平洋地域の国々に、中距離ミサイルを配備しようともくろんでいる。アメリカの地政学的問題を解決するのが目的だ。もしこれらの国々にミサイルが配備されたら、ロシアにとって脅威となるのは明らかだ。この脅威を取り除くために対応するのは当然だ。中距離ミサイルが配備される国は、それにより報復攻撃の標的となり得ることを理解すべきだ。これはロシアの攻撃性を示すものではない。中国も同じ措置を執るはずだ。いかなる措置にも対抗措置がつきものだ。これは安全保障の基本だ。この種の兵器の配備を受け入れた国は、その判断を下した限りそれがもたらす結果も理解すべきだ。今の所、アメリカは中距離ミサイルのヨーロッパ配備について何も言ってないが、彼らに何の義務もない。将来これが現実になるかもしれない。ロシアは関係諸国に対し中距離ミサイルの配備に猶予期間を設けることを提案した。
この提案はロシア大統領の公式提案として文書化されている。この提案に対し回答はない。ロシアに他意は無く、INF条約の保持を望んでいた。この条約の失効により、安全保障分野における軍事対立が激化するリスクをを望まない。これがロシアの原則的立場だ。今後は、日本を含む韓国やNATO加盟諸国の姿勢にかかっている。これらの国々はアメリカに対し自国への中距離ミサイルの配備を拒否するべきだ。ロシアは日本をはじめとする関係諸国の動向を注意深く見守る。

Q.

つまり日本はミサイル配備を拒否すべきと?

ロシア連邦院 コサチョフ国際問題委員長

ロシアの姿勢については十分述べたと思う。ロシア周辺国に新しいタイプのミサイルが配備され、その射程からロシアの安全が脅かされるとすればロシアは自動的に対抗措置を執る。ロシアが最後通告を提示する事は無い。共存のための条件を強いる事はしない。ミサイル配備の決定を下せば、どんな結果を生むか慎重に見定めてほしい。これは誠実で公正な善隣的アプローチで、脅威も脅迫も対立もない。

■「領空侵犯が発生したはずない」

Q.

ロシア軍機の竹島付近通過を日本はどうとらえるべきか?

ロシア連邦院 コサチョフ国際問題委員長

この演習の地理的座標を注視する必要がある。この演習の様子をロシアは注意深く見守った。それは国際空域の範囲内だった。韓国を含む、他国への領空侵犯は一切無かった。であるから周辺国に脅威をもたらすことのない通常事態と受け止めるべきだ。紛争(領土)にある日本と韓国に対する領空侵犯とロシア側はみていない。ロシアと中国の合同軍事演習は、領土問題とも、国家の主権問題とも関係のないものだった。防空識別圏は、国家の領空とは別の概念であり、対空防衛システムは遠距離範囲で領空侵犯を意味するものではない。領空侵犯が発生したはずもない。ロシアと中国の軍人たちは厳格な監視のもと演習に参加したからだ。

■米大統領選「両党ともに反ロシア」

Q.

来年はアメリカ大統領選挙。委員長ご自身は、どちらの政党から大統領が出るほうがロシアにとって望ましいとお考えか。

ロシア連邦院 コサチョフ国際問題委員長

アメリカの民主党も共和党もロシアに対する姿勢においては残念ながら大きな差はない。アメリカ議会は、両党ともに反ロシアで一致している、共和党であれ民主党であれ選出された大統領でもロ米関係を妨害する深刻な要因だ。ロシアに対する制裁はすべてアメリカ議会が発動している。政党を問わずどの大統領もアメリカ立法府によって根本的に行動が制限づけられている。この法律を変えない限り突破口はない。したがってロシアはアメリカの予備選挙戦のたびに一喜一憂はしない。各選挙区でニュアンスの差こそあれ、議員たちによってロ米関係は今後も弊害されるだろう。2016年にトランプ氏に敗北した民主党は、その原因をロシアのせいにした。ロシアは、アメリカの大統領選には全く無関係だが、残念ながら2国関係、そしてアメリカ政権に長期間影響が出ることだろう。

■建国30年のロシア連邦「国際社会全体の利益を目指す」

Q.

ロシアは建国30年を迎えるロシアの国際的役割は?

ロシア連邦院 コサチョフ国際問題委員長

ソ連が崩壊後、国連安保理でのロシアの立場は弱体化した。弱い国家であり、1990年代全体を通して国際政治のなかで他国に依存していた少なくとも1990年代前半、アメリカやヨーロッパの国々に気に入られればすべてうまくいくだろう、と思っていた。残念ながらそれは幻想だった。ロシアの国益を譲歩するだけで得るものはなかったのだ。その後、ロシア政府、そしてプリマコフが外務大臣に就任してロシアの外交政策は自主性を取り戻した。ロシア独自の国益を追求するようになり,多極的世界でどうあるべきか考えるようになった。プリマコフ時代の1990年代から2000年代当初、ロシア経済は依然として弱く、理想を実現する事が出来なかった。しかしここ15~20年で事情が変わった。ロシアは国家として国益を追求し、強い国として認めさせることができるようになった。ロシアの見解を示すのは誰かに対抗する為ではない。国際法を守り、例外なくすべての国の主権を守りたいのだ。だが決して他国の主権を侵害することはしない。シリア、ウクライナなどの国々に対して主権を侵害することはしない。ロシアの世界情勢への影響力は拡大した。現にシリアではロシアが影響力を発揮している。我々は日本をはじめとする国際社会全体の利益を目指して行動する。自国の利益の為だけではない。これがロシアの国際政治におけるスタイルだ。

ロシア連邦院のコサチョフ国際委員長を取材したのは、11月4日。東京都内で、『日曜スクープ』林和伸と朝日新聞国際報道部・佐藤達弥の質問に答えました。

コサチョフ委員長のインタビュー全編の動画は、こちらでご覧になれます。

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【独自】ロシア重要人物インタビュー1 日本への期待

【独自】ロシア重要人物インタビュー2 米国への懸念