曺国（チョ・グク）前法相が１月17日、前釜山（プサン）副市長への特別監察を意図的に中止させたとして職権乱用罪で在宅起訴されました。

去年の大晦日にも、家族をめぐる不正で収賄など１１の罪で在宅起訴されておりこれで２回目となります。
文在寅大統領のかつての側近に対して捜査を加速させているようにも見える検察。
まさに今、大統領府と検察が生き残りをかけた戦いを繰り広げているのです。

韓国　文在寅大統領（１月１４日）

「依然として検察は、起訴権の独占状態にある。だから検察の改革は重要なんです。」

文在寅大統領が新年の記者会見で長い時間を使い、必要性を説明したのが「検察改革」でした。
去年９月９日、文在寅大統領は「検察改革」を実現するため盟友である曺国（チョ・グク）氏を法相に任命。
しかしその前後から、検察は曺国（チョ・グク）氏の子供の不正入試や、私募ファンドの問題など様々な疑惑を厳しく捜査。そして…

曺国（チョ・グク）法相（当時）　去年10月

「私は今一人の市民に戻ります。法務省の革新と検察改革の課題は私よりも優れた後任者が担うでしょう」

わずか１か月で曺国（チョ・グク）氏は法相を辞任しました。
さらに検察は先月４日元釜山（プサン）副市長に対する監察の不正打ち切り疑惑で大統領府を家宅捜索。文在寅政権の中枢に、検察の捜査が迫っていたのです。

文在寅政権に対する検察の捜査で最も注目されているのが「蔚山（ウルサン）市長選介入疑惑」です。

2018年6月に行われた蔚山（ウルサン）市の市長選挙

現職の野党・保守系の金起炫（キム・ギヒョン）氏と新人の与党・左派系の宋哲鎬（ソン・チョルホ）氏が激突。
しかしこの市長選の直前、現職の保守系、金起炫（キム・ギヒョン）氏周辺に警察の捜査が入ったのです。
この影響があってか、市長選は新人の与党・左派系の宋哲鎬（ソン・チョルホ）氏が勝利しました。
この警察の現職市長周辺への捜査。左派系候補を勝たせようとする大統領府からの指示だったという疑いが浮上したのです。
検察はこの疑惑について捜査を開始。焦点は大統領府による不正な捜査の指示があったのかどうか。
この事件の重要なカギを握るのが当時の蔚山（ウルサン）警察庁長・黄雲夏（ファン・ウンハ）氏。大統領府から指示を受け不正な捜査を行ったと告発されています。

私たちは疑惑の中心にいる黄（ファン）氏に話を聞くため韓国へ。
事務職に異動になった彼に会うことができました。

Ｑ：文在寅政権から捜査しろという指示はあったのでしょうか？

当時の蔚山（ウルサン）警察庁長　黄雲夏（ファン・ウンハ）氏

蔚山（ウルサン）警察は、大統領府からいかなる連絡ももらったことがないし、大統領府といかなる共感を持ったこともなく、選挙に介入する目的で捜査したこともなく、無理な捜査をしたこともないです。警察はただ、腐敗不正捜査、地元で起きている不正の捜査という本来の警察の活動のために、法律の手続きに基づき、合法的かつ正常な捜査を行っただけです。警察が捜査されるべき理由は何もないと思っています。

犯罪情報が大統領府から警察庁本庁に渡されたものだという話は聞きました。しかし蔚山（ウルサン）警察は、情報が警察庁本庁から蔚山（ウルサン）に来ただけで、蔚山（ウルサン）に届いた情報の元々の出所が大統領府だということは知りませんでした。

大統領府から、直接指示は一切なかったと訴える黄雲夏（ファン・ウンハ）氏。

Ｑ：蔚山（ウルサン）市長選挙への介入疑惑ですが、なぜ市長選直前の捜査だったのか？

当時の蔚山（ウルサン）警察庁長　黄雲夏（ファン・ウンハ）氏

これは市長本人に関する犯罪ではなく、市長の秘書室長に関する犯罪でした。そうすると、選挙はまだ６か月先なのに、市長の秘書室長に関する腐敗捜査を警察が遅らせるのは、それは正しい決定ではないと思います。候補者本人、市長本人であれば捜査を保留することもあるかもしれません。選挙が終わってから捜査しようと。しかし、市長の秘書室長に過ぎない人なのに、その人が腐敗犯罪の容疑があるなら、警察は、法と原則に基づいて捜査を行うのが正しいと思います。

Ｑ：黄（ファン）さん自身が大統領府とすごく仲が良い、そういう関係がある？

当時の蔚山（ウルサン）警察庁長　黄雲夏（ファン・ウンハ）氏

別に良いわけでも悪いわけでもなく、公務員は大統領府と基本的に関係がないので何とも…、関係がないという感じですね。

大統領府とは関係ない法と原則に基づいた捜査だったという黄（ファン）氏。
この私たちの取材の２日後、黄雲夏（ファン・ウンハ）氏は４月の総選挙に与党・共に民主党から出馬するため、警察に辞職願を提出。
さらにその翌日、検察から黄雲夏（ファン・ウンハ）氏に出頭要請がかかりました。

大統領府の関与を追及する検察の捜査。
一方、文在寅大統領は今月２日、新たな法相に秋美愛（チュ・ミエ）氏を正式に任命しました。
すると１週間もたたないうちに、秋美愛（チュ・ミエ）法相は、驚きの一手を打ったのです。
それは検察幹部32人を交代させる人事。

曺国（チョ・グク）前法相の捜査を率いていた韓東勲（ハン・ドンフン）反腐敗・強力部長が南部の釜山（プサン）高等検察検事補へ異動。さらに蔚山（ウルサン）市長選挙介入事件を担当していた朴璨浩（パク・チャンホ）公共捜査部長が、韓国の最南端、済州地検長に異動。そして２つの事件の捜査を統括していた裵城範（ペ・ソンボム）ソウル中央地検長は閑職と言われる法務研修院長へ異動になったのです。
大統領府へ迫っていた捜査の責任者、そろって飛ばされたのです。
さらに秋美愛（チュ・ミエ）法相は尹錫悦（ユン・ソクヨル）検事総長の力を奪うかのように右腕だった大検察庁ナンバー２や、腹心の部下もまとめて異動させたのです。

さらに文在寅大統領は「検察改革」として検事や判事などを捜査する、高位公職者犯罪捜査庁の設置法案、さらに検察と警察の捜査権調整法案などを年末から今年にかけて次々と可決。検察の権力解体に踏み込んだのです。
これまで韓国の歴代大統領の多くは、任期が終わると検察に逮捕されてきました。
曺国（チョ・グク）前法相も関わっていた、文在寅政権の法務・検察改革委員会で委員長を務めるキム・ナムジュン氏に「検察改革」がなぜ必要なのか聞きました。

法務・検察改革委員会委員長　キム・ナムジュン氏

韓国の検察は、世界で最も強力な権力を持っています。捜査権、起訴権、令状請求権など刑事司法制度の中で、裁判権を除いてすべてを持っています。一つの機関があまりにも多くの権限を持っているため、権力が乱用されやすく肥大した権力を分散させる必要があります。権力機関のけん制とバランスを備えようとしているのが、検察改革の目標です。

しかし文在寅大統領の「検察改革」には別の狙いがあるという指摘もあります。
野党・自由韓国党で法制司法委員会の余尚奎（ヨ・サンギュ）委員長は。

自由韓国党・法制司法委員会　余尚奎（ヨ・サンギュ）委員長

尹錫悦（ユン・ソクヨル）検事総長がソウル地検長の時、朴槿恵（パク・クネ）前大統領や、李明博（イ・ミョンバク）政権の人々を捕まえました。２人のかつての大統領も拘束しました。この時は、文在寅政権は何も言いませんでした。むしろ検察はよくやっていると言っていたくらいです…それが今、尹錫悦（ユン・ソクヨル）さんが検察総長になって現在の政府の不正を暴こうとしたら、検察の力を弱めようとし始めたのです。

検察改革は、左派政権延長のために行っているんだと思います。左派政権が長期間、維持・延長するために、すべての権力を掌握する必要があると考え、まず、司法権を掌握したんだと私たちはみています。
検察改革は、文在寅大統領の「左派政権20年構想」のために行われているというのです。
野党が最も問題視しているのが、年末に設置法案が可決された高位公職者犯罪捜査庁。
これまで検察が独占してきた捜査権と起訴権。これを大統領や検事、判事などの高位公職者に対する疑惑に限り高位公職者犯罪捜査庁が捜査するようにしたのです。一見、検察の権力を分散させるように見える新たな組織に問題があるというのです。

自由韓国党で法制司法委員会　余尚奎（ヨ・サンギュ）委員長

大統領自身が庁長や次長の任命に大きな影響力を持ちます。当然、現政府が、親予党の人を検事として任命するのが目に見えていて、左寄りの、進歩系の法律家の団体から多くが選ばれるでしょう。その人たちは、文在寅政権、進歩政権の人たちを捜査しないでしょう。高位公職者犯罪捜査庁が捜査する人は、結局、野党側の人たち、判事や検事の中で言うことを聞かない人たち、そういう人たちになる可能性が高いのです。

さらに大統領の捜査逃れという面もあります。検察は、大統領の捜査ができなくなります。大統領をやめた後も高位公職者犯罪捜査庁の捜査だけを受けます。この組織には自分たちの親しい人たちが庁長や次長として任命されているはずですから、現職の大統領はもちろん、退職した後もその大統領を捜査しないでしょう自分たちが検察の捜査を避けるために作った組織、誠に恥ずかしい組織なのです。

（2020年1月19日放送）