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ダレルにご用心

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2010年のお正月はいかがでしたか? 私はサイアクでした。

番組をご覧頂いている視聴者の方々の中には、お仕事で外国人と対等に渡り合うビジネスマンの方も多いことと思います。実は私事ながら、外国諸国でコメディの舞台を行っています。ま、私の場合はエンターテイメントの世界ですので、皆様のようにカッコイイ感じではなく、時にはズルズルのユルユルの世界であります。が、それゆえに、困ったことに巻き込まれがちです。


3年ほど前、あるアメリカ人男性に仕事を頼んだことがあります。最初、彼はやる気マンマンで「オレに任せれば大丈夫!」とか「YES、I CAN」とか「5年前のテキサスで経験済みだ」とか、ウザいぐらい大アピールをしてきました。辞書に「謙遜」という文字がない漫画のようなアメリカ人です。

初めての仕事で彼はその言葉通り大活躍してくれました。私は内心疑っていた自分を恥じました。

が、2回目にはなぜかテンションが下がり機嫌も悪い。そして3回目。彼から1本の電話が「ゴホン、ゴホン、ソーリー。風邪ひいちゃった」。森進一のモノマネのような声色でした。耳が遠いウチの祖母が聞いても分かるぐらい明らかな仮病です。ナメてんのか? とムカつきましたが、そんな男を頼りにした私の責任。客に頭を下げて謝りまくり、返金したのは言うまでもありません。その男の名は「ダレル」でした。

このお正月、約15万円をダマし取られそうになりました。その相手がまた「ダレル」、今度はイギリス人です。


昨年夏、ワハハ本舗の芸人さんがイギリスの舞台に立つのをお手伝いしました。世界最大の芸術祭「エジンバラ・フリンジ」。1ヶ月間の長い舞台です。



パントマイムなど無声で笑いを作り出す彼らは、初めての海外ステージにもかかわらずコメディ・アワードにノミネート。受賞こそ逃しましたが、3000組の芸人の中から、わずか3組に選ばれたのです。ダレルはかれらが出ていた劇場の支配人でした。当初、他の芸人ばかりチヤホヤしていましたが、ノミネートされるや否や、掌を返したように、190近い身長の腰を折ってゴマをすりすり。ショーの最終日には、とうとう劇場に子供まで連れてきて「一緒に写真撮ってやってもらえない?」。何なんでしょうか。彼の存在がコメディです。

そしてチケット清算から売り上げの支払いとなるわけです。

その支払いが遅れる遅れる! 彼は「アンビリーバブル、銀行に4回も行ったけど、またダメだった」とか「SWIFTコード(国際銀行コード)は何番だっけ?」とか言ってきます。すべての銀行情報は既に送ってあるのにです。海外送金ってそんな大変なんスかぁ? と、ブリトニー浜田口調で言ってやりたい気持ちをグッと抑え「前にも送ったけど、もう1回送るね」と送ってあげました。すると今度は「IBAN(ヨーロッパ銀行コード)は何番?」って。IBANってヨーロッパの銀行コードでしょ? うちは「みずほ銀行」ですけど・・・「お前、ちゃんとググって勉強しろ」と言ってやりました。こっちの怒りが伝わったのか、やっとこのお正月4日に振り込まれたのです。

ところが! ところがです。事件が起たのです。金額がなんと1000ポンドも足りないのです。なんで? と聞くと税金だとか。「いやいやダレル君、紙渡したでしょ!」。紙とは「タックス・リデュース(税金減免)」の書類のこと。こちらは舞台をやるのに飛行機・宿泊代など相当な経費がかかってハッキリ言って大赤字。なので事前に経費相殺によるタックス・リデュースの申請をして、その書類を彼に渡していました。ところが彼はメールで「知らない」「もらってない」と。こっちが強く「渡したよ!」と言い張ると、「あ~アレかぁ!」だって。しかも言うに事欠いて「もらったけど、そんなこと書いてなかったよ」。え~~~~~~!!

実はイギリスの国税庁からもらった文章には、私程度の英語力では分からない単語が使われていました。"nil"って何? 帰国子女の友人に聞いても分からない。仕方なくアメリカで弁護士をしている友人に聞くと「No」と同意だとか。つまり、僕らに納税の義務はないという文書なのです。思うに、ダレルはこの難しい"nil"をいいことに、極東の黄色い猿をダマしてやろうと思ったのでしょう。「さぁ。そんなの書いてないよ」とバックれる。あげくの果てには「君を信用しないわけじゃないけど、あの紙は本当に国税庁の文書なの? 書こうと思えば誰でも書けるんじゃない?」2回目のえ~~~~~!!です。

私は全ての証拠を固めるべく、アメリカにいる弁護士に再確認し、正月早々イギリス国税庁に電話して申請の正当性を確認後、彼にその文書をPDFで再送。そうです。再送するのは最後のカードだったので、とっておいたのです。もちろん、そのメールには「弁護士」「国税庁に電話で確認」とも書いて。

1分後、速攻でメールーが返ってきました。その最初の一文はなんと「YES SIR」。なんという掌返し!おそらく数日後には、ミツヤ卿に入金があることでしょう。


皆さんもダレルという名の西洋人による"ダレダレ詐欺"にご注意を。日本語で書くと「ダレる」ですから...おそまつ。

PS. もちろん立派なダレルもいると思います。

photos by Yasushi Tsugihiro

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