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#238

ロシアの思惑が外れた!?米中間選挙とウクライナ支援

アメリカの中間選挙は、事前の予測に反して、トランプ前大統領の推薦する候補が苦戦し、民主党が善戦しました。2022年11月13日「BS朝日 日曜スクープ」は、ロシアがどのような思惑をもって、アメリカの中間選挙を見ていたのかに焦点を当て、選挙結果が今後のウクライナへの支援に及ぼす影響を議論しました。

■共和党“失速”はトランプ前大統領が原因か? 

上山

ここからは、中間選挙後のアメリカの政治状況がウクライナ支援に対してはどのような影響があるのか。そこにロシアの思惑、どう絡んでいくのかを見ていきたいと思います。ここからはもう1方、ゲストに加わっていただきます。現代アメリカ政治と外交がご専門です。上智大学教授の前嶋和弘さんです。前嶋さんどうぞよろしくお願いいたします。

前嶋

よろしくお願いします。

上山

それでは最新のアメリカの中間選挙の状況というのを見てみましょう。これは日本時間の11月13日午後7時の段階の状況です。

事前の予測では共和党の圧勝だというふうに言われていましたが、蓋を開けてみますと民主党の善戦という形になっています。上院はきょう、民主党が議席を1つ上積みして50、そして共和党が49。これによって上院では民主党が多数派を維持することになりました。下院の議席については現時点では民主党が204、そして共和党が211ということで、過半数が218ということを考えますと、下院は共和党が優位と言えますが、事前の予測で言われていたように共和党の圧勝とは言えない状況です。

こういった中間選挙の結果について、バイデン大統領は「報道や専門家は、巨大な赤い波、つまり共和党の圧勝というのを予測していたが、それは起こらなかった」としています。この予測が外れた原因の1つとも言えるのが、実はトランプ前大統領が推薦した候補者、こういった人たちの苦戦です。

飯村

「Make America Great Again Inc.」という政治活動委員会によりますと、トランプ氏は上下院、知事選など合わせて330人以上を推薦していたということです。

しかし、激戦区で共和党の候補が敗れるケースが目立ちます。ネバダ州ではラクサール氏がきょう(11月13日)、そしてアリゾナ州できのうマスターズ氏が落選確定。すでにペンシルベニア州でもオズ氏落選。知事選でマストリアーノ氏が落選しました。またジョージア州、こちらは3人候補が出ていましたが、共和党のウォーカー氏、50%を獲得できなかったということで、50%いかないとジョージア州の規定で決選投票ということですが、12月6日、2人による決選投票が行われる、そこまで結果は分からないということになっています。

上山

中間選挙はまだ結果としては確定しているわけではないんですけれども、ただ、共和党としては圧勝するのではないかという予測があった中で、結局、かなり民主党と競り合う形になっている。前嶋さんは、国民の投票行動に何の影響があったのか。どうお考えでしょうか。

前嶋

この数字をどう見るかなんですが、8月の世論調査の数字に戻ったんですね。何だったのかと言うと、6月に、妊娠中絶を禁止することを認めた最高裁の判決が出た、49年ぶりの大きな変更です。これに民主党自身はすごく怒っていたわけです。

それから3か月、何となく怒りがおさまっていたところにトランプ登場。選挙の前日にトランプ前大統領が15日に重大発表をすると宣言した。重大発表というのは出馬宣言だと、再出馬宣言だと捉えられたわけですが、「妊娠中絶を禁止に追い込んだやつは誰だ」「トランプに他ならない」ということになるわけですね。

「最高裁の判事を3人保守派にしたあの男が帰ってくるんだったら」ということで、もう1回妊娠中絶とトランプがくっついた形です。もちろん、世論調査はここまで追えなかったわけです。ただ、もう1点、とはいえやはり下院は共和党が多数派になることでバイデン大統領がやりたいこと、その中には、きょうのテーマである、ウクライナの支援も潤沢にというところが少し変わってきます。

上山

今、お話にありましたけれども、杉田さん、中絶禁止に対する皆さんの問題意識がトランプ前大統領と結びついている。この辺りが影響したということですけれども。

杉田

そうですね。実は私は、この選挙はインフレの問題とか経済の問題とか、犯罪の多発の問題とか、あるいは移民の問題について、野党である共和党が政権の政策、対策の不足を責めるということで、アメリカ人にとって非常に重要な政策について論争が深まるという、ある意味、健全な、言うならば政策論争のいい選挙となっていたと途中まで思っていたんですね。

その結果、共和党が勢いを持っていたわけなんですけれども、前嶋先生がまさにおっしゃった通りで、やはり途中から、共和党の調子がいいということがあって、レッドウェーブというようなことを人々が喜んで話し出したりとか、あるいは、さらにはトランプさんが出馬表明を示唆するということで、再び一時、政策の影に隠れたトランプさんがまた出てきてしまって、それに対して、政策はバイデン政権うまくいっていないけれども、やっぱりトランプさん、あるいはトランプさん的な、2年前の大統領選の結果を否定するという人たちが力を持つよりは、まだ今の方がいいのかなと。民主党の方がまだいいのかなというような、そういう判断が最終的に、投票直前の段階で、有権者の多くがそういう判断をとったということかなと思います。

上院(定数100)は、12月6日のジョージア州の決選投票で民主党現職のラファエル・ワーノック議員が勝利し、民主党が51議席を確保しました。その後、民主党では、キルステン・シネマ上院議員が9日、離党して無所属になる意向を表明しましたが、シネマ氏が離党しても民主党が上院の多数派を維持しています。下院(定数435)は、共和党222議席、民主党213議席で、共和党が過半数に達しました。

■「ロシアが期待したのはトランプ氏“復活”」

上山

トランプ前大統領が出てきて追い風になるかと思ったら、逆に減速要因になってしまったということのようなんですけれども、アメリカの中間選挙に関して、実はロシアでは、ある期待感というものがあったということなんですね。その一例がロシア上院のボンダレフ国防安全保障委員長のSNSへの投稿です。

「共和党が上下両院で勝利すれば、ウクライナは軍事支援の重要なパイプの一つが止められてしまう可能性が高い」と投稿しているということで、つまり、共和党が大きく勝つようなことがあれば、ウクライナへの軍事支援というのは先細る、こういったことをロシア側が期待するようにもとれる発言が投稿されていました。

ここで見逃せないのがプーチン大統領と、そしてトランプ前大統領の関係です。トランプ前大統領は、プーチン大統領との親密さをこれまでアピールしてきました。トランプ前大統領は、4年の在任期間、2017年から2021年の間、ロシアのプーチン大統領と5回対面で会談をしていて、トランプ前大統領は「お互いファーストネームで呼び合う仲だった」とも語っていました。駒木さん、この2人は、ウラジミール、ドナルドと互いに呼び合うような関係だったことですが、ではロシア側がトランプ前大統領に対して何を期待していたのか。そして今回の中間選挙の結果、これは思惑としては外れたように見えるんですけれども、これについてはロシア側どう考えているんでしょうか。

駒木

今回の結果については非常にがっかりしていると思いますね。ヘルソンからの撤退を発表したのは11月9日。つまり中間選挙の投票日の直後ということで、それまで撤退の発表を待っていたと思われるんですね。ヘルソンの撤退という、ロシアにとっての敗北が明らかになると、バイデン政権が手柄として強調するんじゃないかということを恐れたのでは、という見方ができるんですね。

上山

バイデン大統領がロシアは撤退したんだということを振りかざしてして選挙戦でアピールすると。

駒木

それが実際に、どれだけ影響するかわかりませんが、そういう構図を、少なくともロシア側は避けようとしたのではないかと見られています。ただ、共和党が勝ったからといって、直ちにロシアにとって都合がよく事が運ぶかというと、そこまでは期待していなかったと思うんです。やはり期待をしていたのはトランプ前大統領の復活ですね。

やはり一番印象に残っていたのは、2018年7月の、象徴的な、ヘルシンキのプーチン大統領とトランプ大統領の会談です。そこでトランプ大統領が「プーチン大統領は、選挙への介入はしていなかったと、非常に力強く私に答えた」と言う。つまり、アメリカのインテリジェンス機関よりもプーチン大統領を信頼するようなことを言うわけです。そんなことを期待できる大統領は、トランプ前大統領しかいないわけですよね。あともう1つは、NATOとか、あるいは日米同盟とか、そういうロシアが一生懸命、弱体化させようとしているアメリカの同盟関係を、トランプ前大統領は自ら破壊するような言動をしてきたということで、やはり前大統領の勢いが今回、失われたということを、ロシアとしては一番、思惑違いと受け止めていると思います。

上山

山添さんはどうお考えですか。ロシアはアメリカの中間選挙に対して、どういう思惑があったとお考えですか。

山添

ロシア側の期待は、2016年から色々見ていますと、過剰な期待ということは多いんですけれども、少なくとも混乱は期待したいはずですね。共和党が出てきて、バイデン政権の意思決定が難しくなるとか、トランプ前大統領の勢いが出てきて内政が混乱するとか、そういうことは喜んで見るということはロシアとしてはあるんですね。

ただ実際に、バイデン政権がやることにそれほど変化があって、ロシアが有利になるかと、そこまで期待していたたかどうかというのは、ちょっとよくわからないですね。支援が今、強くならないとしたら、ウクライナは苦しくなるわけですけども、それだけでロシアが勝てるわけでもないので、それほど甘く期待していたのではないとは思うんですけれども、アメリカが混乱するのは喜んで期待していたと思います。

■「米国に“ウクライナ疲れ”まだない」

上山

それでは中間選挙の結果で、ウクライナへの支援に影響が出るのかどうか、この辺りを見ていきたいと思います。

飯村

まずアメリカの支援額なんですけれども、これが大変なものになるんですね。各国の支援額を見ますと、アメリカがおよそ7兆7,600億円。全体の中でいうと半分近くを占めるそうです。日本は1%未満ということなので、どれだけアメリカが多いかがわかります。

こういった支援額に対して、共和党の重鎮はどう見ているのか、こんな発言がありました。共和党の下院のトップ、マッカーシー院内総務です。「アメリカが景気後退に入れば、ウクライナに白紙の小切手を出すことはない」。中間選挙後は支援の内容をチェックする必要性を指摘したということです。

それでは一方、バイデン大統領をどうかと言いますと、ウクライナへの支援の質問を受けて、「超党派の支援継続を望んでいる」としながらも、「だからといって垂れ流しにするつもりはない」。前島さんどうなんでしょうか。中間選挙の後、支援というのは少し絞り込まれるのか、スピードは遅くなっていくのか。この辺りどうなんでしょうか。

前嶋

マッカーシーさんは院内総務であって、共和党が多数派になるので、下院議長となって全体まとめていく立場になります。ただ、このマッカーシーの発言は、どこまで深い発言かどうか、ちょっと微妙なんですよね。「バイデンというのは、もう色々無駄遣いして、とんでもないんだ」という、選挙のPRのための話の中で出てきたんです。ただ、この話をワシントンポストで報じられたりして、欧州でも、そして日本でもかなり大きくなって独り歩きしているところがあります。。アメリカ国内でも、かなり独り歩きし出して、果たしてこれでマッカーシーが本当に下院議長になって大丈夫だろうか、という懸念もあるんです。

上山

今のお話ですと、本当に下院の数字次第で、誰がリーダーになるのかといったことで大きくウクライナ支援なども影響が出そうだということなんですけども、前嶋さん、そもそも共和党はウクライナへの支援に対してはロシアが期待しているように消極的というふうに見ていいんでしょうか。

前嶋

消極的な人は議会の中には共和党に集中しています。「ウクライナ疲れ」とよく日本で言いますが、それはアメリカにまだないと思えます。議会の中にも全体としてはないと言っていい。

ただ民主党の中の一部、10月の段階で民主党の中の「革新議連(プログレッシブ・コーカス:(Progressive Caucus))が手紙をバイデン政権に送って、「ウクライナは軍事支援も重要だけれども、外交をしっかりやって、何らかの形で終わりを見ていかないといけないんじゃないか」と、停戦・和解を意識し、何らかの形で最終ゴールを見て動かないといけないんじゃないかと言ったら、民主党の中でも大きな反発があり、「何を言っているんだ、ロシアを勝たせるのか」ということになって、すぐ引っ込めたんですよね。そもそもこの書簡、6月くらいに書いていたもので、「なんで10月に出すんだ」という話もありました。ただ、すぐに引っ込めたように、民主党側は固まっている。

一方で共和党の中の一部、例えば20%ぐらいがウクライナに対して結構、否定的です。この動きはもしかしたら政治的な駆け引きの中で、「やはりウクライナじゃなく、ウクライナに出すお金はアメリカで使え」みたいな議論が、この分極化と、この拮抗、均衡の中でやっぱり出てくるかもしれません。

共和党の下院議員団は11月15日、マッカーシー下院院内総務(57)を次期下院議長候補に選出しました。賛成188反対31の賛成多数での決定で、保守強硬派のビグス下院議員を上回りました。マッカーシー氏が下院議長に正式に選出されるのは、1月に新議会が成立した後になります。マッカーシー氏は、この議長選挙で下院の過半数218の支持を得る必要があり、共和党議員ほぼ全員の支持獲得を目指すことになります。

■「選挙結果に懸念後退」「民生支援も重要な力に」

上山

杉田さんはどのようにお考えですか。今後の支援、滞ってしまうのか、どうご覧になっていますか。

杉田

選挙の前は、共和党が勝って民主党が惨敗するという予測だったので、当時出ていた話は、新議会が来年1月初旬から始まりますので、その前までにウクライナ支援の、今ついているお金を徹底的に使って、ウクライナに兵器装備をどんどん出してしまおうと。新議会が始まると共和党のチェックが入って、ウクライナ支援が滞る可能性はあるから、その前に使って兵器を送ってしまおうという、抜け道みたいな議論も民主党内ではあったようですけど、選挙結果から、その心配は消えました。

上山

新議会というのは来年の1月から。

杉田

1月3日から始まる議会ですね。

上山

その前に使い切ってしまうと。

杉田

その前は旧議会で、今の民主党有利の議会ですので、現在の議会では共和党が何を言っても共和党は少数派なのでストップできないと。新議会になる前に使ってしまおうという、そんな議論もあったんですけども、ただ、まさに前嶋先生が言われたように、仮に下院で共和党が多数派を取っても非常に僅差になるし、共和党の中では、当然ウクライナ支援をもっとすべきだという人たちも多数います。それは多数派であると思いますので、そういう意味では、政権としては、今のこの上院下院、特に下院の結果を見て余裕が出てきたというわけです。つまり、ウクライナ支援を今後も今と同じような量、スケール感、スピードで続けていけるということだと思います。

上山

共和党の中で、支援に反対するのは一部ではないかというお話なんですけれども、山添さん、ウクライナの支援をめぐって、NATOからこのような発言というのも出ています。ストルテンベルグ事務総長、9日、「ロシア軍のヘルソンの撤退は、NATOによるウクライナへの支援が成功しているもの」。だからということでしょう。「継続的な支援の重要性を示している」。確かにこの支援の継続がやはり、今後も戦況の鍵ということになりそうなんでしょうか。

山添

ただ高価な弾薬、兵器というものだけが支援ではなくて、訓練の支援とかそういうものもありますし、作戦を立て直すための支援、それから指揮、統制のための支援、それから情報の支援、こういったものもあって、そういうものも受けてウクライナがこれまでの能力を達成しているということです。それから民生支援ですね、そういった支援を得て、ウクライナの人々にとって、このように未来のある社会、EUやNATOが支援をしてくれていると、我々には未来があると、そういったことも、非常に重要な、ウクライナが戦える力になっていると思います。そういった総合的な支援、民生的なものをアメリカの費用ではなくて、よりヨーロッパからの支援が出てくるという話になってくるのであれば、そういったものも非常に効果があると思います。

■「仲介国」外相から杉田氏が引き出した秘話

上山

実はアンカーの杉田さんは今回の停戦交渉でずっと仲介役を果たしてきたという、ある国の外務大臣か、停戦交渉の裏側で何があったのか直接、お話を聞いたということです。これが今後の展開の鍵になりそうなんです。

上山

アメリカではここのところ和平交渉に関する情報というのが多く出てきています。11月5日付のワシントンポストは「米政府がウクライナに対し、ロシアとの和平交渉に前向きな姿勢を示すよう、水面下で働きかけている」と報じました。

ウクライナのゼレンスキー大統領は、7日に公開した動画の中で、停戦交渉再開には「領土の回復」や「ロシアが2度と侵攻しないことを保証する」などという5つの条件を挙げています。

9日には、米軍制服組トップのミリー統合参謀本部議長が、ロシア軍はウクライナでの戦争の結果、10万人以上の死傷者を出し、ウクライナ側の死傷者数も同様の水準の可能性が高いとしました。その上で、「戦争での勝利は軍事的手段によって達成できないかもしれず、他の手段を検討すべきだという相互認識が必要だ」として、停戦協議の可能性に言及しました。

こういった停戦交渉の話というのは、これまで何度も言われてきたわけですけれども、杉田さんは、実はトルコの外相から停戦交渉の裏側に関する話を直接、聞いたと伺っています。トルコは、ロシアの侵攻開始以来、仲介役を果たしてきました。その外務大臣からどういった情報がもたらされたのでしょうか。

杉田

トルコのチャヴシュオール外務大臣が、9月末に安倍晋三元総理の国葬に出席するために来日したんです。その場で私は彼と色々、話をしました。その頃、黒海からの穀物の輸送再開合意の仲介をトルコが行ったので、トルコは大変重要な役割を果たしましたねという話をしたら、実は停戦交渉も色々やっているんだという話を外務大臣はしていました。

いつ停戦ができそうですかと聞いたら、今はだめだと。9月、あるいは10月、あの頃はだめだった。ただ、実は1回OKのチャンスがあったんだと。それは3月だと言うんですね。なぜかと言うと、そのときロシアは、キーウは取れないと悟った。それからゼレンスキー大統領も、ウクライナは将来中立を守るとか、あるいはクリミアについては、ウクライナは取り返さなくてもいいと思っているということを示唆するような、現在に比べると非常に、いわゆる弱気の姿勢を示していたんですね。

ところが、そのときに、そういう方向でまとめようとしたら、アメリカが反対したんだと外務大臣は言っていました。この状況は今も変わらなくて、結局はアメリカが賛成しない限り停戦はあり得ないと言うのです。我々は、アメリカも含めてウクライナが停戦交渉に乗り出すかどうかが大事なんだ、ウクライナ次第なんだと言っているけれども、実はそれは、本当のところを言うと、アメリカ次第なんだと。アメリカがウクライナに対する武器を止めれば、それはもうウクライナは停戦に応じざるを得ないんだという、そんな発言をされていましたね。

■米国が停戦に反対した理由は…

上山

なぜ3月の段階でアメリカ側としては反対したんでしょうか。

杉田

アメリカとしては、これからウクライナに武器や装備を提供することによって、ロシアを占領地域から撤退させる、もう少し力を削ぐ、弱体化させると、そういう長期的な戦略があったのだと思います。

それは今も、実際そうではあるんですけれども、先ほどのミリー統合参謀本部議長の発言などを見ると、やっぱり、なかなかアメリカ国内でも揺れているなという感じがしていますね。

上山

ということは戦況次第では、アメリカ側としては停戦交渉に応じるというか、イエスを出す可能性は今後あるんでしょうか。

杉田

あると思います。ミリー統合参謀本部議長の話はどういうことかと言うと、彼のこの発言の中で、第1次大戦を見てみなさいと言っているんですね。第1次大戦というのは、緒戦の段階で戦況が膠着して、その後は双方が消耗戦になって双方とも猛烈な人数の兵隊が死んでいった、それはまさに無駄死にだったと言うわけです。

結局、それだけ死んだにもかかわらず戦線は長く動かなかったと。これが今、実はドニプロ川を挟んで起きているのではないかとミリー議長は言っているんですね。これから膠着状態になってしまうと。ですので、さらには戦争の長期化は世界経済への負の影響もあるので、今、何かチャンスが生まれるのであれば掴んだ方がいいというのがミリー統合参謀本部議長の発言ですね。

■ウクライナ戦況と米ロの今後

上山

9月末の段階では、トルコの外相、今は難しいんだと言っていましたけれども、今、ロシア軍がヘルソン市からは撤退したと。そして川を挟んで膠着状態になる、かなりの死傷者も出ている。この状況で、アメリカ側が動き出す可能性、杉田さんはどのようにお考えですか。

杉田

政権の中は割れています。ミリー統合参謀本部議長は軍人ですので、軍事合理性から考えて、これからウクライナがさらにドニプロ川の東側、あるいは南部を取り戻していくことは壮絶な難しい戦いになるだろうと。それをやるべきなのかどうなのか。軍人なので、やっぱり兵士の死亡というのは一番嫌がることだと思いますので、そういう判断をしている。一方、バイデン大統領も含めて政権の文民の高官の人たちは、いやいや、まだまだウクライナを支援して戦いを続けていって、そしてもっとロシアを押し戻した段階で初めて停戦の機運が生まれるんだということで、ちょっと政権が割れている状況ですね。

上山

前嶋さん、先ほどの杉田さんのお話の続きですけれども、アメリカとしてはこのウクライナの支援を続ける。そして停戦の働きかけもするという同時進行になるんでしょうか。

前嶋

まず私が注目したいのは、中間選挙の後のアメリカの政治の状況がどうなるかということだと思うんです。2つ考えられます。民主党が善戦したから共和党側が和解でくるのか。いや、もっともっと対決姿勢で来るのか。

何となくインフレの数字を見ていって、やはりとんでもない、民主党がだめなんだというような話で、共和党側がより対決姿勢を見せてくるとするならば、ウクライナが政治の道具になります。そうすると、和解の話や支援見直しの話なども進んでいくと思います。そうしたらどうなるかと言うと、バイデン政権としても難しい選択になると思うんですね。

上山

駒木さんは今後のアメリカの中間選挙を経てのウクライナ情勢、注目しているのは、どんなところがあるんでしょうか。

駒木

少なくともプーチン大統領は、今のところ停戦というものに応じる気はさらさらないということだと思いますね。併合を宣言した4州についての、領土的要求というのは認められないということで、ウクライナ側とは全く噛み合わない。そういう中で最近の動きでいうと、9日にプーチン大統領の側近、パトルシェフ安全保障会議書記がイランに行った。そして昨日、プーチン大統領がイランの大統領と電話で会談したということで、武器の支援等について話し合っていると思うんですね。つまり、プーチン大統領が今の戦線をどうやって守るか、守れるかというところを注目したいと思います。

上山

なるほど。山添さんはどんな点に注目されていますか。

山添

ロシアがこのままのこの苦境において、内政が崩れるのでなければ、やはり東部などで成果を狙うんだと思います。成果を狙ってから、何か交渉なりなんなりするかもしれません。一方、ウクライナの方も先ほどザポリージャ州のことを申しましたが、東部での進撃、奪回も狙っているわけなんです。双方とも狙っているものがあるので、それを経てからでないと停戦の話にならないと思いますね。

 
(2022年11月13日放送)