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#266

“ロシアの脅威”長期化必至 NATO戦略での議論

ウクライナの反転攻勢、領土奪還への支援と並行し、“ロシアの脅威”が長期化することを前提にNATOの戦略を模索する議論が熱を帯びています。2023年6月4日『BS朝日 日曜スクープ』は、欧州の国際会議に参加した日本経済新聞の秋田浩之氏をスタジオに招き、安全保障のあり方を特集しました。

■「プーチン大統領はあきらめない」

上山

続いてのテーマはこちらです。

「たとえウクライナ勝利でも“ロシアの脅威”なくならない……NATOの戦略は」

ウクライナが、近く本格化させる反転攻勢で勝利してもロシアの脅威は長期化する、そのことを前提に戦略を模索する議論も活発になっています。

上山

ロシアと地理的に近いヨーロッパ各国の間では、ロシアによる侵略の脅威が長期化することを前提にどのように対応するべきか、という議論も激しくなっています。ここからは、日本経済新聞・本社コメンテーター 秋田浩之さんに加わっていただきます。宜しくお願いします。

秋田

宜しくお願いします。

上山

まず、こちらをご覧ください。NATO、北大西洋条約機構のストルテンベルグ事務総長の発言です。

「戦争を終えた後、ウクライナの安全を将来にわたって保証する取り決めをしなければならない」

つまり、NATOは、新たな安全保障の協定を策定し、ウクライナの安全を担保する案の議論に入ることを取り決めました。ウクライナの本格的な反転攻勢はこれからですが、すでにロシアの脅威が長期化することを見越した議論が活発になっているのです。

ゲストの秋田さんは5月12日から14日までバルト三国の一つエストニアの首都タリンで行われた「レナート・メリー会議」という国際会議に参加しました。世界中の著名な政策立案者、政治家、軍関係者らが集まり外交・安全保障の問題を議論する会議です。

この会議では、世界の安全保障情勢が話し合われたということですが、参加した秋田さんは、切実なロシアに対する危機感・警戒感を感じたということです。まずそこから伺いたいのですが、どういうことなのでしょうか。

秋田

ウクライナを侵略しているロシアをいかに撤退させるか。言わば「フェーズ1」の、戦争でどう勝つかということが今、話題になっていまして、世界中はそこに注目しているわけですけども、ここの会議でもう一つ議論になったのは、仮にロシアを撤退させたとしても、プーチン大統領はウクライナを支配するという野心を捨てるわけじゃありませんから、そういう意味では脅威は消えない。むしろ逆に強まる危険もある。そういう議論になっていました。

【秋田浩之】日本経済新聞 本社コメンテーター 北京,ワシントン駐在,英FT紙論説委員など歴任 論評コラム「Deep Insight」で安全保障を担当

■バルト三国“苦難の歴史”からの言葉

上山

今回の侵略を失敗したとしてもロシアはウクライナの支配を諦めないという、非常に強い言葉だと思うんですけれども、中でも秋田さんが印象に残ったのが、会議に参加していたバルト三国の中の一つ、ラトビアのカリンシュ首相から直接、聞いた言葉です。

「欧州に恒久的な平和をもたらすには、ロシアを徹底的に敗北させ1945年以降のドイツのような内部変化を起こすしかない。それが難しければ、長い将来にわたりロシアの脅威を封じ込め、抑止する政策が必要になる」

このようにバルト三国からは、ロシアに対して非常に厳しい見方の発言がありました。その背景には悲痛な歴史があります。

ロシアの西に位置し、バルト海に面したエストニア・ラトビア・リトアニアは、通称「バルト三国」と呼ばれています。3ヵ国合わせても、日本の約半分の国土です。その近代は、大国ロシアとの戦いの歴史でした。もともと独立国だったバルト三国ですが、18世紀末までに、次々と帝政ロシアの支配下に置かれます。

そしてロシア革命後の1918年、それぞれ独立を果たしました。しかし、独ソ不可侵条約の時に結ばれた「秘密議定書」による一方的な取り決めで、1940年、ソ連がバルト三国を武力で併合します。

その後、ソ連の占領下で共産主義が導入され、財産も国有化されます。さらにバルト三国の国民は、シベリアに強制移住させられる一方、ソ連からの入植も進められました。バルト三国では、当時の人口600万人のうち100万人が強制移住など、弾圧の対象になったとされています。

それから、およそ50年を経て、ようやくソ連から独立を果たし、2004年にはNATOとEUに3ヵ国とも加盟しています。

上山

秋田さん、バルト三国は、ロシアによって度々支配されてきて、ロシアに対して、より強く警戒している。だからこそ厳しい見方をしているということでしょうか

秋田

そうですね。一言で言えば、国家にはDNAというものがあって、文化とか地理とか、立地条件とかがそれを形作ると。バルト三国と、さらにはポーランドもそうですけれど、彼らから見えるロシアという国家のDNAは、別にプーチン大統領に始まったことではなくて、帝政ロシアの時代に侵略されたり、さらにはその後のボリシェヴィキ政権、ソ連になってから、もう1回侵略され、そして組み込まれてということです。

プーチン大統領が出てきてから何かが始まったわけではなくて、ずっと、そういう拡張の歴史の被害にあってきたわけですから、彼らは、後出しじゃんけんではなくて、本当に前から「プーチン政権は2014年のクリミア併合にとどまらないで拡張する」ということを言っていた。ですからポーランドやバルトの専門家は、自分たちはそんなに驚かなかったということを、後付けというよりは切実に言っています。彼らが今、言っていることは、脅威を非常に高めに見ているように映るわけですが、去年の教訓からすると、今、彼らが言っていることを真に受けたほうがいい面もあるのではないかと私も思います。

■「ロシアはG8入りした時期もあったが…」

末延

秋田さん、かつてプーチン大統領は、G8に入って西側により接近するのではないかと言われた時期がありました。その時期も含めて、バルト三国では、ロシアに対する見方が変わってないということですか。

【末延吉正】ジャーナリスト/東海大学教授 元テレビ朝日政治部長 永田町、霞が関に独自の情報網 湾岸戦争など世界各国で取材 国際情勢に精通

秋田

そうですね。人間というのは、行動は変わると思うんですよね。ですが、性質・性格、性格というよりは性質ですね、それは顕在化することもあれば、顕在化しないこともあるわけですが、変わらない。という意味では、G8に入っていた時のプーチン大統領が率いていたロシアも性質が、バルトから見れば変わっていないのですが、その時は行動が穏便だったに過ぎないというように映るんだと思います。

山添

2005年のことですけど、その頃はロシアもまだ西側諸国と関係が良かったんですが、プーチン大統領の教書演説で、イギリス・アメリカには協調しましょうと言っていて、その同じ演説の中でも、バルト三国の中のロシア系住民の取り扱いが悪いことを問題視していました。バルト三国の側からは、協調的にふるまっていたときのロシアでさえ、自分たちには威圧的であったわけで、常にロシアからの脅威というものを(他国とは)違うようにとらえる理由がありました。

【山添博史】防衛省防衛研究所 米欧ロシア研究室長 ロシア安全保障等を研究 共著「大国間競争の新常態」を2023年3月に出版

末延

そういう強権的なDNAというのは全く変わってないと。

秋田

変わってないと、彼らは強く主張しています。

上山

さらに言うと、プーチン大統領がたとえ変わったとしても分からないということですよね。

秋田

そうですね。ポーランドやバルトから見ると、はっきりと打ち出してはいませんが、ウクライナへの侵略を始めてしまったプーチン政権を変える、これはもう最低限やらないと、おそらく脅威はなくならない。それでも後から出てくる人たちが、国家のDNAを体現した人たちが出てくる可能性もありますから、やはり、先ほどのラトビアの首相の発言にあるように、長期的に封じ込めていくしかないんだというのが、彼らの視点だと思います。

■ウクライナ支援のGDP比も…バルト三国の危機感

菅原

バルト三国の、ロシアに対する厳しい見方にはゲストの山添さんも注目しています。こちらをご覧下さい。ウクライナに対する支援額の多い国です。1位はアメリカで、今年1月時点で731億ユーロ、日本円で約11兆円です。2番目はEU、3番目はイギリスになります。

しかし山添さんは、こちらの数字も押えておくべきと指摘します。それぞれの国の支援額の、GDPに占める割合で見てみます。1位はエストニア、2位がラトビア、3位がリトアニアと、ベスト3がバルト三国で占められています。

山添さん、こういったところからも強い危機感を感じられるということでしょうか?

山添

はい。そうですね。このエストニアが約100万人ですね、ラトビアが約200万人、リトアニアが約300万人という、それぐらいの小さな人口で、GDPもそれに応じたものなんですけれども。やはり、その中からもこれだけの貢献をすると。これはウクライナの問題もありますし、NATOの中で、我々はこれぐらいの危機感を持っていて、自分で本当に支払って守るつもりがあるんだと。

後で本当に、ここにロシアが攻めてきた場合という時にも、ここでしっかりと出しておかないといけない。さらにエストニアは、GDP比、国防費2%の基準をかなり早期にクリアしている国でもありますので、国防の意識、投資すべきという国民の一致は強いものがあります。

■ウクライナ勝利でも消失しない“ロシアの脅威”

上山

バルト三国の警戒感が伝わってきますが、今、お話にもありましたロシアによる侵略の脅威は、長年にわたってヨーロッパ全体を揺るがすと、警戒する議論が強まっています。

今年4月に秋田さんが出演した時には、ウクライナの反転攻勢がどうなるかで、アメリカの今後の支援が変わりうる、という解説をしていただいたのですが、今回は、反転攻勢の結果次第で、ロシアの脅威がどうなるのか、という視点での分析です。

まず「シナリオC」、これはウクライナから見ると最悪のシナリオです。ロシアが侵略を加速させ、ウクライナ守勢のままで停戦すらも実現しない場合です。ロシアの脅威は継続し、ロシアによるウクライナでの占領が固定化されかねないばかりか、他の欧州の国への脅威も拡大します。

次に「シナリオB」、これはロシアからの領土奪還が不十分なまま、ひとまず停戦するというものです。やはりロシアの脅威は継続し、停戦は長く続かず、戦闘再開の危険が高いとしています。

そしてウクライナにとってベストなのが「シナリオA」です。去年2月のロシアの侵略以降に奪われた領土をウクライナが取り返して、クリミア奪還にも道筋が見えた場合です。こうしたウクライナ勝利の場合でもロシアが軍事力を回復すれば再侵略の恐れがある、準戦時の緊張が続くということです。つまり秋田さん、ウクライナが勝利して領土を奪還しても、ロシアの脅威はなくならない、脅威は続くということですね。

秋田

一言で言いますと「シナリオA」ベストシナリオは、第二次世界大戦を勝利に導いて終わらせたノルマンディー上陸作戦ではないということですね。むしろ我々が今いる場所は、第二次世界大戦が始まった1939年のナチスドイツのポーランド侵攻。それに今、抵抗していると見るべきなんだと思うのです。

従いまして「シナリオA」というものが成功したとしても、それは、その後、第二次世界大戦がずっと続いたように、再びロシアが軍事力を回復すれば…。ロシアは、自分の国が攻められているわけではないですから、攻撃は受けていますけど、攻め込まれているわけでもないので、軍事力を回復すると思うのですよね。そうなった時には、よほどプーチン大統領が考え方をガラリと変えることはあり得ないと思うのですが、そうでもしない限り、再びウクライナを侵略して支配しようとするわけですから、全然脅威は消えない。というのが、私がバルトやポーランドの人たちと話していて、そうなのではないかと思わされたのが今の印象です。

■ロシア再侵攻の懸念「ミンクス合意では…」

上山

1939年のナチスドイツのポーランド侵攻以降の状況を考えてほしいというお話ですが、気になりますのが「準戦時の緊張が続く」という指摘です。私たちにはイメージしづらいのですが、どのような状態を想定しているのですか。

秋田

このイメージは、「シナリオA」が成功したとしたら、ロシアは一旦、体力が本当衰えて、軍事的にはこれ以上動けなくなって、一旦負けるわけですね。撤退するわけです。そうすると、その翌日から再び、軍事侵攻するということは論理的には難しいと思います。そうすると、回復に2年とか3年とか、色んな年数はあるでしょうけどもかかる。

その間、平和が訪れるかと言えば、「準戦時の緊張が続く」という意味で、具体的には、インフラへのサイバー攻撃、そして激しい情報工作、さらには暗殺、要人の暗殺とか、比較的小規模なドローン攻撃とか、そういったことを続けると思うのです。そうすると、やはり、少なくともすぐ「戦時」が再び来るわけではないにしても、「準戦時的な緊張」といったものが続くであろうということになります。

上山

秋田さんのエストニア取材では、ロシアの軍事力回復を具体的に分析する意見もありました。エストニアのサルム国防次官です。

「ロシア軍は予備役を動員 訓練しており、人員的には2年以内に侵攻前の水準に戻せる。ロシア軍は装備にも再投資し、以前よりも戦力を高めるに違いない」

その上でこのように結論づけています。

「周辺国の安全保障の環境は、良くなるどころか悪化していく」

このエストニアのサルム国防次官の分析「人員的には2年以内に侵攻前の水準に戻せる」という、計り知れないロシアの回復力というのを感じさせますが、山添さんはどのようにご覧になっていますか?

山添

2年とは限らないと思うんですね。高級軍人をかなり失っているので、同じようには戻らないとは思うのですけれど。2年以内にこの侵攻を再び企てるような戦力を持ち出すということはありうると思います。

先ほどの1939年の例えもありますけども、直近で分かりやすいのは2015年2月、ミンスク合意の2回目ですね。ロシアはこれ以上、ウクライナの中をやっていかないよと、ここで小康状態にしますよと言って、それから7年後に全面侵攻になったわけですので、時間があればロシアとしては資源を投入して、こういうことをやりうるということだと思います。

■ロシアの脅威…NATO戦略“2つの論理”

上山

では、そのようなロシアに対して、NATOはどのような戦略を現在考えているのか。秋田さんの分析はいかがですか。

秋田

今、お話があった、サルム国防次官の発言は、会議での発言ではなくて、個別でインタビューした時に、そういう発言をしておりました。正確に言えばそういうことです。その上で、このような悲観的な前提に立った時にNATOはどのようにしようとしているかというのがこのパネルになります。

やはり会議の状況、議論をまとめると、2つの戦略論に分かれると思います。「戦略①」は強硬論。これは当然ながらバルト三国やポーランド、そしてイギリスなどに強い意見であると思います。それはどういうことかと言いますと、言ってしまえばロシア性悪説。要するに、ロシアは必ず再侵略するであろうという、性善説ではなくて性悪説に立つとすれば、弱体化、ロシアが再侵略する国力、軍事力を弱体化するしかないでしょうというのがこの強硬論のエッセンスです。単に追い出すだけではなくて、弱体化していく。具体的には、重い制裁や軍事圧力を、これからも強めていくと。

「戦略②」は、そこまで強硬ではない中間的な対処で、フランス・ドイツなどに多いように思います。これはどういうことかと言うと、ロシアを弱体化するというところまで追及するのではなくて、まずはウクライナからロシアを撤退させる。そして再侵略を防ぐような手立てを講じながら安全を保っていくと。ある意味では重複するもので、完全に水と油ではないのですが、そういうニュアンスの違いがあるなとは思います。

上山

この戦略的に中間的な対処のスタンスをとるドイツ・フランスですが、この2つの国は、逆に、ロシアを弱体化させないほうがいいと考えているように見えるのですが、この辺りはどうなのでしょうか?

秋田

会議でこの違いについて、ポーランド駐在のドイツ大使が分かりやすい説明をしていました。どのように言ったかというと、それぞれの国にとっての悪夢、最悪の悪夢は何かということを考えると、我々の温度差がはっきりすると。彼から見ると、バルト三国とポーランドにとっての悪夢は併合。ロシアに併合されてしまうのが最悪の悪夢。これは避けたい。一方で正直、ドイツにとっての悪夢は大戦。戦争、大戦争になっちゃう。これを避けたい。

従いまして、この違いが、やはりバルトやポーランドから見ますと、次にロシアが拡張してきたときには、国土を失うかもしれないという恐怖があるわけですね。ですから弱体化するところまでやらないと安心できない。ところが、ドイツとかフランスから見ると、そこまでやった時には緊張が高まって欧州大戦になっちゃうかもしれない。そういうことになるとドイツやフランスは安全じゃないわけですから、そこまでやるのかという躊躇いがある。この違いではないでしょうかね。

上山

ロシアに対してどこまで厳しく向き合っていくのか、悩ましい状況が伝わってきますが、山添さんは、どのようなスタンスでロシアに対して臨むべきとお考えですか?

山添

私も、ロシアがいかに、どう変わったとしても、しばらくしたら力を回復して、ウクライナは特に勢力下に置きたいということがありうると思うので、それが現れるのを遅らせるために、ロシアが弱体化したほうがいいというのは、近隣諸国としては言えると思うんですね。

この違いがあるとはいえ、大戦争にはしないことと、ウクライナの領土奪還というのは追及すべきだ、ここは一致があると思うので、今はそれに進んでいって、その次にどうなるかというので違いが見えてくることなのではないかと思うのです。まずはウクライナからロシア軍をできるだけ排除するということでは一致していると思いますね。

■「NATOが軍事的優位を維持することで…」

上山

ここまで、ロシアへの対応をどうしたらいいのかというNATO内の戦略には、2つの考えがあるという秋田さんの分析をご紹介してきました。秋田さんは、ロシアに対してどう向き合うべきとお考えでしょうか?

秋田

ここまではバルト三国などの意見を紹介しながらお話をさせていただいたのですが、私の考えはやはり、NATOが圧倒的な軍事バランスの優位を長年にわたって維持することで、プーチン政権もしくはロシアが再侵略をしたくても無理だと、心理的に思うような状態を維持し続けるしかないと思います。

会議に、アメリカの戦史研究家の大家の人が来ていて、彼に言わせると、1980年代にレーガン政権が徹底的な軍拡をして、あとはステルス爆撃機とかですね、色んなものを導入したことによって、あとで振り返ると、ソ連はこれ以上アメリカと軍事競争しても勝てないと悟り、それが後のゴルバチョフの米ソ軍縮交渉に繋がっていったというようなことを言っていました。従って、圧倒的な力を見せ続けるしかないのかと、ロシアに対して、と思います。

上山

それは具体的にはNATOとしてどういう力を持ちうる…。

秋田

例えば、具体的には現在もかなりの戦力を展開していますけれども、よりバルトやポーランド、ウクライナに近いところに常設の部隊をもっと配備するとか、爆撃機とかですね、そういったものをさらに展開するとか。

あとは訓練ですね、ウクライナに対する訓練や軍事支援。できればウクライナをNATOに加盟させることについて、目標として掲げるのが理想だと思いますが、これはやはりアメリカや欧州の中でも意見があるので、そこまで行かないにしても、ウクライナに何らかの安全保障を供与していくことは7月の首脳会議でNATOが決めるべきだと思います。

上山

山添さんはこの秋田さんのご意見、いかがですか?

山添

ちょっと注意しないといけないのは、レーガンの神話化ということを、研究者の中では指摘している人がいて、レーガンが軍拡で強かった時もあるのですが、それに対してアンドロポフ政権は凄く危機感を持って、宣戦、ミサイル攻撃をしそうになったとか、そういう説もあります。ゴルバチョフ政権の最初も緊張関係があったんですね。そのあと、レーガン政権と時間をかけて対話が進んでから、軍縮というのが進んでいきました。

軍事圧力、その能力を持っておくことは必要条件の1つですが、それと、ソ連が生きていけるようにしたと。ロシアがこれからも生きていける、安心していけるような道、その両方が必要だと思うので。ただ、これを今、追求するのは、すぐには難しいので、やはりロシアが侵略を次にやろうとしても、勝てないですよと。まずは、ウクライナの軍事能力はどんどん飛躍的に伸びていきますよと、これからも伸び続けます、ウクライナにロシアは今も勝てないし、これからも勝てないですよというのが大事ですね。

■「ロシアの“誤った発想”は…」中国の強大化

末延

秋田さんの報告を聞いて、そういうことかと。大事なことは2つあって、今、世界がなぜこういうことになるかと言うと、1つ目はロシアの誤った歴史認識や勢力圏の発想がある。しかし、それが許されているのは、もう1つ、中国が強大になって核大国化していき、そしてジュニアパートナーに格落ちしたロシアを支えている。

その中国とアメリカが、きょうまでやっていたシンガポールでの『シャングリラ・ダイアローグ』でも、やはり激しく言い合っている。だとすると、欧州でのぶつかり合いがどう終わるかも重要なのですが、アメリカに余力がないときに、台湾問題を抱えている東アジアで中国がどう動くのか。この核大国(中国)の動きですよね。軍備管理も含めた中国ファクター、米中関係、アメリカがどう動くのか。ここをかなり細かく見ていかないと、全体の流れを誤ってしまうのではないかということを伺いたいのですが。秋田さん、いかがですか?

秋田

第2次世界大戦は、ヨーロッパでナチスが侵略を始めて、それを見てナチスと、そしてイタリアも入れて、日独伊三国同盟を組んだ日本がいて、日本が真珠湾攻撃をして、欧州の戦争がアジアに広がって第二次世界大戦になりました。同じような第三次世界大戦は絶対に避けなければいけないので、具体的には、ウクライナを支援しながら台湾海峡での抑止力を強めていくことが極めて大事だと思います。

末延

日本国内ではいまだに抑止力そのものを否定する考え方が、アカデミズム、ジャーナリズムの中にあります。現下の危機的状況に対して、軍拡はもちろん良くないことですが、抑止力を認めたうえでの外交を考えていかないと現実的な政策が打てないんじゃないかと思うのですが。このあたり、秋田さんに重ねて聞きたいのですが、いかがですか?

秋田

アメリカはオバマ政権時代に、世界に同時に2つの紛争に対処する態勢は放棄しました。したがって、よほど欧州とアジアの同盟国、アメリカの同盟国が抑止力を強めないと、2つの戦争が同時に起きてしまうリスクが高まると思いますので、まったくおっしゃる通りだと思います。

末延

山添さん、核の管理を考えたとき、中国をどうやって取り込めるのか。ここが大事だと思うんです。この点はいかがですか?

山添

米ソの間であれば、ソ連がアメリカに均衡を持つようになったときに、話し合いになりましょう、お互いに減らしましょうとなり始めたわけなので、そういうことしか前例として思い浮かばず、この3か国の交渉はかなり難しいと思います。前例を我々は持ってないので、かなり独創的なアイデアを出していくしかないんだと思います。

末延

そのあたりの現実的な議論を日本で、もうちょっと深めていかないといけないと思います。

■ウクライナ情勢 今後の重要ポイント

上山

ウクライナ情勢について今後の重要ポイントを伺っていきたいと思います。山添さんは戦況も含めてどこに注目されてますか?

山添

ロシアは待っている状況なんですね。ウクライナが出てきたら、それを最大限叩いて、ウクライナの戦力を叩いて、屈服させようというのを今は狙っている状況だと思うのです。それでウクライナがしっかり反攻をして、逆にロシアの戦力を叩いてどれだけショックを与えられるかと。

それに応じて、ロシア国内にも違った形で打撃をやるんじゃないかと思うのですけれども、その時に支援国の支持を得られるような正当なものであるかどうか。今はちょっとかなりまずい、民間人にも被害の出るやり方もやっているわけで、これが許容限度を超えると非常にウクライナにとって、ウクライナの将来にとってもまずいことになります。そのあたりが、非常に気になる1点ですね。

上山

秋田さんはどんな点に注目していますか。

秋田

先ほどもコメントいただきましたけれども、一生懸命、ウクライナ内の戦況に集中して、分析することが大事だとは思うんですが、やはり、この欧州の戦争をアジアに拡大させないことが非常に大事なことで、それが第三次世界大戦を防ぐということだと思います。

そういう意味では、中国が台湾に対しても似たような誘惑を抱かないように、繰り返しになりますが、アメリカは二正面の対応はできませんから、こちら側は日本とオーストラリアなどが中心、あと韓国ですね、欧州側はヨーロッパがもっと力を入れて、抑止力を強めるということが大事だと思います。

上山

末延さんは、いかがですか。

末延

アメリカが大統領選に入りますから、ここでアメリカの世論が割れると危ない。このあたりで長期化するのを避けなきゃいけないと見ています。

 

(2023年6月4日放送)