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ロシアのウクライナ軍事侵攻「大規模作戦も可能な態勢」
■「この数日で一気に動いた」「ロシア軍は国境近くに」
上山
ここからは、世界中が注視しているウクライナ情勢について、現地からの生中を交えてお伝えしていきます。ゲストは、ロシアの軍事・安全保障政策に詳しい東京大学先端科学技術研究センター・専任講師の小泉悠さんです。宜しくお願いします。
小泉
よろしくお願い致します。
上山
今、かなり事態は緊迫してきていると見た方が良いでしょうか。
小泉
そうですね、特にこの数日で一気に動いた感じがありますね。先週には西側との対話路線だとか、部隊を引くという感じで、だいぶ情勢を沈静化させるのかなと思いましたが、結果的に、全く軍隊を引いていないですし、むしろ、より国境に近いところに部隊を展開するとか、核部隊の演習をやるとかですね、さらに緊迫度が増してきたと思っています。
上山
きょうは、そのあたりの分析を伺いたいと思います。それでは「時事論考」最初のテーマ、こちらです。「『プーチン大統領は侵攻を決断』とアメリカは確信、軍事的な危機の度合いは?」です。まず、確認としてロシア軍の配備状況です。
菅原
中央がウクライナ、東側にロシア、そして、ウクライナの北側、ロシア軍が軍事演習を行なっているベラルーシです。ロシア軍は、ウクライナを取り囲むように配備されていて、アメリカ側の分析によれば最大19万人とされています。一方のウクライナは、現役軍人が20万人という規模です。
上山
しばらく前にはロシア軍10万人という数字ありましたけれども、今、お伝えしたように現段階では、アメリカの分析では19万人にまで膨らんできています。小泉さん、2月15日に撮影された衛星写真では、ウクライナとの国境近くのベラルーシのプリピャチ川というところに、橋が架けられて、注目を集めていると聞きましたが…。
小泉
実は軍事演習でベラルーシにロシア軍が入っていることは、公式にロシア側も言っているのですけども、そもそも演習エリアに含まれていなかったはずの土地を切り拓いて、よくロシア軍が川を渡る時に使うポンツーン橋というやつなんですけれども、すぐに臨時で作れる橋ですよね。こういうものも架けたと。これは一回撤去したんですけれども…。
上山
撤去したのですか?
小泉
はい、撤去したのですが、昨日(2月19日)またかかっていたということで、やっぱりどうもロシア軍が活発にこの川を渡るような活動をしているらしいということなんですよね。
上山
それはなんでしょう?前線に対して物資を補給しているような、兵站なようなことなのでしょうか。
小泉
兵站なのか、部隊を移動させているかです。ロシア軍の装甲車両は大体、浮航能力を持ってますので、自分で川を、水陸両用車みたいに渡っていけるんですけども、戦車ですとか、物資を運ぶような大型トラックはそれができないので、この橋を架ける必要があるんですね。場所は、もう本当にウクライナ国境のすぐそばなので、こういう活動が行われているとすると、大規模な部隊の移動とか、おっしゃるように兵站が行われているんじゃないかと当然、疑われますよね。
上山
演習が行われていたとされていた地域よりも、さらに南側に来ている可能性があるということなんですよね。
小泉
もう少し奥まったところの、従来からある演習場でやってるはずなんですけれども、ずーっと国境に近いところで、どうもロシア軍が活動しているんじゃないかと思います。
■「大量の戦死者を出す事態を想定」
上山
衛星写真によれば、ベラルーシのオシボヴィチというところでは、ロシア軍の演習場に野戦病院ができている。この意味はどういうことでしょうか?
小泉
私、何回かロシアの武器展示会で、ロシア軍の野戦病院ユニットを実際、見たことあるのですけれども、まさにこれ、そのものなんですよね。細長いエアテントみたいなのを繋いで、中に診察室とか手術室があると。軍事演習ですと、多少ケガ人は出るかもしれませんけど、そんなに膨大な死傷者は出ることはないですから、大規模に野戦病院を作ることはあまりないはずなんですが、今回は、かなり大きな規模の野戦病院がこれだけじゃなくてあちこちに作られている。それからアメリカが最近言っているのは、緊急輸血用の血液をウクライナ周辺のロシア軍部隊の周りに集めてるんじゃないかという話もあるんですよね。実は、今年2月1日からロシア国家規格が一部改訂されまして、緊急時の遺体大量埋葬手順が改定されるということもありました。全体的に、大量の戦死者を出すような事態は想定しているんじゃないかという傍証がいくつか見られるんですよね。
上山
演習の枠を超えて、死傷者が出るようなことも想定している気配があるということなのでしょうか。
小泉
従来、部隊がたくさん集まってきていたんですが、やはり、まだ野戦病院なんかもできてないし、本当に戦争準備じゃないんじゃないかという意見もあったんですよね。それに対して、まさに野戦病院ができてきたということで、アメリカの軍事専門家は、これはやっぱり本当にやるんじゃないかと、意見を変えてきました。
上山
そして、BBCよりますと、ベラルーシのジャブロフカ空軍基地というところには、対戦車用のヘリコプター20機が新たに配備されているということです。小泉さんは、演習の範囲内なのか否か、このあたりはどうですか?
小泉
ベラルーシに関しては、きょう(2月20日)まで実際に、演習を大規模にやってますので、ヘリ部隊が追加展開してくるのはおかしくないと思うのですが、ベラルーシでの演習が今回、非常に異常なのは、東部軍管区の部隊が来ているんですね。これまではベラルーシで演習する時というのは、すぐ東隣にロシア軍の西部軍管区がありますので、
ロシアのヨーロッパ部分にいる部隊が入ってきて演習すると、これは全然、普通なんですよ。でも今回は、一番東側から1万キロ、鉄道で機動させてきて、3万人と言われる部隊とこの航空部隊を丸ごとベラルーシに持ってきている。それから東部軍管区司令官もベラルーシに入ってるんですよね。おそらく司令部まるごと東部から持ってきているんじゃないかという感じがしますし、それから、私たちも独自に衛星画像を使って見ているんですけど、その他の地域、ウクライナ周辺のロシア領内、ここにも相当数のヘリコプターが集まって来ています。クリミアですとか、それから普段、全然使ってない予備飛行場にも、ヘリとか航空機なんかが大量に集まってきているということが確認されますので、これも普通の動きじゃないですね。
上山
ヘリコプターは軍事侵攻の時、どのようにオペレーションに関わってくるのですか?
小泉
どんな軍事作戦するにしても、必ずヘリコプターは大量に使いますけども、特に近年のロシア軍は、ヘリコプターで大量に兵隊を急速に移動させる戦術を演習なんかでは相当、実施しています。シリア作戦でもヘリ部隊、非常に運用しているんですよね。大量にヘリ集めているということは、やるかやらないかということはもちろん、現時点で言えませんけれども、やろうと考えたらできるだけの能力が相当集まりつつあるということを示していると思います。
上山
総合的に見たときに、ロシアとしては撤退しているという発表もありましたけれども、撤退しているのかどうか、このあたりについての判断はどうですか?
小泉
全体として見ると、撤退しているとはいえないと思いますね。ごく一部の部隊が元の駐屯地に戻っていくという動きは確かに見られるんですけど、主力は動いていないですし、新たにウクライナ国境に到着している部隊もある。それから、駐屯地に戻ると言っても、そもそも、その駐屯地がウクライナとの国境近くにあったりするんですよね。
全体として見ると、やっぱりウクライナの周辺にいる部隊の数は減っていない上に、従来、ロシア軍が集結してるぞと言っても、多くは周りにあるロシア軍基地に集まっていたんですよね。ところが最近、先々週ぐらいからの動きは、基地から出てきて、本当に国境のすぐそばまで展開していく。この数日はさらに、従来はウクライナ国境そばの平原地帯にいっぱいキャンプを作りましたが、この数日は完全に森の中に部隊が隠れ始めまして、衛星画像で追えなくなった。
上山
それは何を意味するのですか?
小泉
普通に考えれば、攻撃準備に入っている。
■「ロシアがキエフを破壊することないと信じる」
上山
緊迫しているウクライナ国内の状況というのが非常に気になりますが、ここで現地ウクライナから生中継でお伝えします。中継する場所は、ウクライナの首都キエフからは西側に離れた、リビウという都市になります。ここは、首都キエフから日本大使館の機能も一部移転してきています。では、このリビウで取材しているANNロンドン支局の山上暢記者と中継を繋ぎます。
山上さん、よろしくお願いします。今、事態が緊迫してきているんじゃないかというお話もありましたけど、山上さんとは1週間前にもこの番組で中継を結びました。1週間経って、ウクライナ国内の状況、雰囲気の変化は感じるものがあるのでしょうか?
山上
今、私がいるのは、リビウの市街地です。ちょうど今、午後1時を過ぎたところですので、例えば食事に出かける人であったり、散歩をする人であったり、そういった人の姿が多く見られます。特に、このあたりはですね、美味しいレストランが立ち並んでいたりですとか、お土産物屋さんがあったりする、そういった場所なので、非常に今、賑わっている状況なんですね。こちら、ウクライナの国内から観光で来る人もいれば、お隣のポーランドやそしてトルコなどからも団体の観光客の姿がこの週末は見られましたし、ちょうど今、先ほども申し上げた通り、お昼すぎということでですね、皆さん、街に出てきて繰り出して観光を楽しんでいると。地元の人に聞いても、ここ数日、特にこの街中はですね、「普段とは変わらない、いつもとは変わらない日常が流れているよ」と話してくれていますし、緊張の高まりなどを、こういった市街地の様子からですね、受け取ることはあまりないというような状況です。
上山
この西側に関しては、ポーランドとの国境は閉鎖されていないということになるのでしょうか?アメリカ側は、近日中にも侵攻と指摘していますが、これは現地ではどのように受け止められているのでしょうか?
山上
はい、そういった報道も、こちらに、もちろん流れてきていますし、皆さん、把握はしてますけれども、それでもやはり基本的には、冷静な受け止めをされています。ただ、例えばアメリカのバイデン大統領が「プーチン大統領が侵攻を決断したと確信している」という発言もありましたし、特に先週は、16日に侵攻の可能性があるのではないかと具体的な日付を出してまで、そういった侵攻の可能性がメディアなどから伝わってきました。こういった状況に対して、地元メディアの反応を見てますと、当事者であるウクライナを抜きにした、外交交渉のゲームになっているというような批判的な目も最近は出てきているんです。そういったバイデン大統領の発言などの背景には、何らかの根拠があるはずだけれども、それが一体何なのか具体的な説明がないと、そして、そこにウクライナ政府がどのように関与しているかもわからないということで、当事者であるウクライナを抜きにしたゲームの一つになっているというような不信感も募っています。
上山
ウクライナの国民の方々はロシアに対してどういった感情を持ってらっしゃるのでしょうか?
山上
この状況に対してですね、すべてのウクライナに人たちがロシア憎しかと思えば、そうではないのですね。ある世論調査がありまして、ロシアに対して好意的に思うかどうかという問いがありました。これは1月の調査ですが、その問いに対して、大体34%のウクライナ国民の人たちが好意的だと答えたんです。11月の調査の段階から5ポイントほど下がってはいるんですけれども、それでもなお、この状況でも3割以上の人がロシアに対して好意的だと見ているんですね。この背景には様々な事情があります。例えば家族や親戚がロシアに住んでいるという人も、ウクライナ国内かなり沢山いるわけです。他にも、我々リビウで話を聞いてみると、ウクライナの地元の人たち、キエフの美しい街並みを、ロシアの人たちも大好きなはずだから、美しい街を破壊するなんてあり得ない。そんなことは絶対にしないと信じていると話してもいたんです。家族の繋がりですとか、あとは文化的・歴史的の繋がりの深さ、両国間の繋がりの深さがより複雑な感情を生み出していると感じますね。
上山
現地にいて、様々な情報が錯綜しているかと思うのですけども、何かデマのようなものが出回っていたり、そういったことはないのですか?
山上
はい、例えば我々のスマートフォンとかに、電話のテキストメッセージとかで、デマとかフェイクニュースが流れてきたりとか、そういったことはありません。ただ一つ、こんなことがありました。今月18日にドネツクの親ロシア派の武装勢力のリーダーがロシア系の住民に対して、避難をするように呼びかけているんです。その理由が、ウクライナ側からの攻撃が増してきているというのを挙げてはいるんです。確かに、その前日17日から、ウクライナ東部では交戦が激しさを増していて、親ロシア派はウクライナによる攻撃だと。対するウクライナ側はそれを否定してロシア側からの攻撃だと、そういう非難の応酬があったんですけれども、その動画、ドネツクの親ロシア派武装勢力のリーダーが避難を呼びかけている動画のデータを解析すると、それが16日、つまり交戦が激しさを増すよりも前に撮られていたことがわかったんですね。他にも、このウクライナ東部で、ドネツクでインフラ設備を破壊したとされる映像、これが2月前半に、同じく動画解析のデータで2月前半に撮られていたことがわかったりしているんです。こうしたことからですね、特に欧米各国はですね、ロシア側が周到に用意したシナリオ通りに事を進め始めているのではないかという見方をして、警戒を強めています。
上山
はい、ウクライナ・リビウから中継でお伝えしました。山上記者ありがとうございました。気をつけて取材してください。ありがとうございました。
■「マーケットが注目しているのは…」
上山
緊迫しているウクライナ情勢についてお伝えしています。木内さんはこの緊張状態、マーケットという観点から、どのように注目していますか?
木内
はい、ちょっとお話が長くなってしまいますけども、ご覧の通り、非常に神経質になっていまして、マーケットは今年入ってから、アメリカの利上げで非常に不安定になっているところに、このウクライナ問題が重なってきているという状況で、おそらく週明け後も、もっと不安定な動きになってくるのかなと思います。市場というのは、単に地政学リスクに反応するというよりは、地政学リスクの後に経済にどういう影響があるかというところを見て反応するので、例えば北朝鮮がミサイル撃っただけで反応しなくなっているんですけども、今回の件は、やはりロシアがエネルギー供給の大国であることが関係しています。市場が見ているのは、軍事行動があるかどうかも、もちろんそうなんですけれども、その後の制裁措置ですね、先進国が今、やると言って、制裁措置がどういうものが出てきて、さらにそれに対してロシアが報復の制裁をどういう形でやってくるかということに注目しています。
おそらくアメリカなどは、ロシアが石油、天然ガスの供給としては世界第一位・第二位なわけですけども、そこを直接、輸出を規制するということは、まずしないだろうと言われてますが、一方で、例えば銀行の取引を規制する、貿易の決裁が一部、できないようにするとか、あとハイテクの輸出を制限するとか、そういうことなんですが、それに対して、ロシア側が報復措置として、これもよく言われてますが、ヨーロッパ、EUに対する天然ガスの供給を絞るんじゃないか、今も絞ってると思いますけども、さらに絞ると。そうすると、ヨーロッパは、天然ガスは基本、4割はロシアに依存しているということなので、これは困ってしまうということで、他の地域から天然ガスを調達しようとしていて、日本も供給するということになってるのですが、その結果として天然ガスが上がり原油の価格が上がるという話でですね。
上山
また原油価格が上がる?
木内
さらにエネルギー価格が上がって、世界経済とかに打撃が出てくる。ですから、先進国側も制裁措置をすると、結局、自分の所に返ってくるというブーメラン効果があるので、どういう制裁をしようか、まだ迷っているところはあるんじゃないかなと思います。
上山
それは日本も同じで、遠くの国で起こっていることではなくて、いずれ日本にも影響があるということだと…。
木内
大きな影響が出てくるはずだと思いますね。
■“東部での攻撃”「すでに第1段階か」
上山
今ウクライナ国内の状況というのをお伝えしてきたのですけれども、こういった中で続いて見ていきたいテーマいうのがこちらです。「情報戦激化で緊迫!ロシアの侵攻計画は?」
アメリカのブリンケン国務長官は、国連の安全保障理事会で17日、ロシア軍の侵攻で想定される段階的シナリオを非常に具体的に説明しました。まず、第1段階として〝テロ事件の捏造などによりウクライナ侵攻のための「口実」を作る〟。つまり、たとえば、誰が起こしたかわからないようなテロ事件が、ウクライナの東部地方で頻発して、あるいは情報が錯綜して、地域が不安定になることで介入するための口実づくりが行われる、とアメリカはしています。そして、第2段階として〝ロシア政府の最高幹部が「緊急会議」を開催する〟プーチン大統領だけでなく、幹部による会議がおこなわれる。そして、次の段階、第3段階、〝ウクライナのロシア系住民らの保護を宣言し、ミサイル発射やサイバー攻撃に続いて地上侵攻する〟というもの。標的としては、首都キエフも含まれると、こういった形で軍事侵攻が行われていくのではないかと、アメリカ側は表しています。
上山
ここで注目したいのが第1段階として、「テロ事件の捏造などによって、ウクライナ侵攻のための『口実』を作る」という部分なのですが、実はこのあたりすでに始まっている恐れがあるのです。ウクライナ東部で特に緊迫した状況になってきているんです。
菅原
まず改めまして、ウクライナ東部にはドネツク州とルガンスク州、ドンバス地域という所がありますが、そこには、親ロシア派が実効支配している地域がありまして、2つの「人民共和国」が成立しているとロシアは主張しています。このドンバス地域で謎の「攻撃」が相次いでいます。
まず17日、ルガンスク州ですね、ウクライナ政府の支配地域で幼稚園が砲撃されまして、建物に被害が出たほか、職員3人がけがをしました。さらに18日には、ドネツク州の親ロシア派の支配地域で、政府庁舎付近で車が爆発、そして、先ほどの中継でもありましたが、このドネツク州では親ロシア派の指導者が住民70万人の退避計画も発表しています。
さらにドンバス地域では、散発的な銃撃が続いていまして、19日、ウクライナ軍が2人死亡、4人が負傷したと発表しました。親ロシア派側はウクライナ政府軍が市民の居住区域に迫撃弾を打ち込んだと主張しています。そして親ロシア派は、徴兵のために「総動員令」を出すとともに、18歳から55歳までの男性が実効支配地域から出ることを禁じました。つまり戦闘に備えよという動きが見られるわけですね。小泉さんはこの一連の動き、どう見ていらっしゃいますか?
小泉
そうですね、まさにアメリカ側が言うところの「第1段階」を我々は見てるんだろうという感じがします。
菅原
侵攻の『口実』を作りという…?
小泉
先ほどの現地レポートにもありましたけれども、これらの事件かなり怪しいと言われているんですよね。事前に仕込まれていたんじゃないかという疑惑はすでに言われていますし、今、思い返すと、アメリカ政府が少し前にロシアがこういう映像を作成しているんだというようなことも発表していたんですよね。だから、アメリカ側は結構、早い段階で、こういった仕込みを行っているということを、何らかの形で把握したんじゃないかと思います。問題はですね、じゃあ、ある程度の侵攻の口実作りというのは、この数日でバタバタっと行われて、実際に次のフェーズにいくのかどうかということですよね。
つまり、アメリカ政府の言い方でいうと、「第2段階」は何か緊急会議を開くんだということなのですが、これについては実は、ロシアで昨日(2月19日)ですかね、この数日中に『緊急会議』開くということが言われていますので、実際それに近い形で進んでいると思います。
■「キエフ占領のような大規模作戦も可能な態勢」
上山
これはプーチン大統領と最高幹部が集まって、何らか決議をする?
小泉
はい、上院を集めると言ってますね。ロシア軍を投入する時は上院の決議が必要なので、それなんじゃないかという話もあります。まだ全然わからないです。もう一個は昨日、プーチン大統領がロシアでも動員令を出していますね。
上山
ロシアで動員令?
小泉
はい、ロシア人の予備役にある男性を動員すると。
上山
それはどういう意味なのでしょうか?
小泉
普通、これも戦争準備ですよね。昨年も実は大規模な予備役動員を行ったんですけれども、今回の場合はその大統領令が公開されてまして、ただ、何万人動員するということが書いた部分は機密扱いになって、公表されていないのですけれども、もしかすると大規模にやるのかもしれないということなので、やはり残念ながら、このシナリオにかなり近い形で事態が推移していると考えざるを得ないと思うんですよね。
上山
今、注目が集まっているのは、ドンパス地域にロシア軍として侵攻するのではないかということですが、事態はアメリカ側の指摘するこのシナリオ通りに進むということですか?
小泉
それはまだ全然わからないですね。ルガンスクとドネツク、これはまだロシアは正式に国家承認していないんです。今、ロシアの国会で、これを国家承認してしまおうという決議を出して、プーチン大統領に一任しますというところまでは行っているんですよね。だからドネツク、ルガンスクを巡って圧力をかけていることは間違いないのですが、ただ、ベラルーシからウクライナ側にかけて展開するロシア軍の規模を見ると、より大規模な、アメリカが言うようにキエフを占領するような大規模作戦もやろうと思ったらできないことはないということです。現状、大体考えうる全部の軍事オプションができる体制が整っていて、どこまでやるのか、あるいは、実際にやるのかどうかというのがプーチンさん次第なんですよね。そのプーチンさんの頭の中がわからないので、非常に不確定であるというのが現状だと思うんです。
■プーチン大統領が強調した”歴史的一体性”
上山
緊迫の度合いを強めるウクライナ情勢を読み解くにあたって、 ロシアのプーチン大統領が去年7月に発表した論文に注目します。
この論文で、プーチン大統領は「ウクライナの真の主権はロシアとのパートナーシップによってのみ実現可能と確信している」と結論付けており、1000年前からの、ウクライナの歴史に言及しています。ウクライナは、「キエフ大公国」を起源としています。この「キエフ大公国」とは、9世紀後半に創設され、11世紀末には、例えば神聖ローマ帝国やフランス王国と並ぶ、強大な国となりました。
この「キエフ大公国の首都」が、現在のウクライナのキエフだったんです。そして「キエフ大公国」の領土にはモスクワも入っていたんですね。宗教という点でも重要な場所だったと言えそうです。ロシア正教の重要な寺院「聖ソフィア大聖堂」もキエフにあります。13世紀に、モンゴル帝国のチンギス・カンの侵攻を受けて、崩壊しますが、プーチン大統領は、このキエフ大公国をロシアの起源と強調しています。こういった背景もあるということでしょうか。
2016年、プーチン大統領はクレムリンの近くにキエフ大公国をキリスト教国にしたウラジーミル大公の銅像を設置していました。高さが17メートルにも及ぶ巨大なものです。小泉さん、プーチン大統領の意図ですが、ウラジーミル、プーチン大統領と同じ名前の偉人の銅像を建てることで、ロシアとウクライナ切り離せないんだということを強調していることになるんでしょうか?
小泉
ウラジーミルっていう人はロシアにもウクライナにも大勢といるので、そこの名前はあれかもしれないですけど、いずれにしてもプーチンさんは7月の論文の中で強調しているのは、まさにこの点なわけですよね。歴史をずっと我々は共有してきている、同じ国だったんだ、同じ民族なんだと。だから今こうやってバラバラに分かれているのは不自然であるということなんですよね。それから一昨年、ロシアは憲法改正してますけども、この中でまさにロシアは1000年信仰に基づく国家であると言っているわけなので、ウラジーミルの時にキリスト教化して以来の、我々の伝統なんだということを憲法にも書いたわけですよね。
そういった歴史的な一体性に基づいて、本当は我々は一緒じゃなきゃいけないのに、バラバラになっちゃって、なおかつ、今のキエフ側は西側の毛先になっているのではないかということをプーチンさんは言うんですよ。だからお前らは今、西側によって主権を奪われている、主権が不安定な状態になっているので、ロシアの側に戻ってこないと本当の主権は取り戻せないんだぞということがこの論文の結論であったわけですから、この銅像の件もそうですし、憲法の件も、プーチンさんの論文の件も、全体として見ると、やはり目先の軍事的な話とか政治的な話、経済的な話だけではなくて、やはりロシア人のナショナリズムの問題として、ウクライナを自分たちの側に引き寄せないと気持ち悪いと、ロシアという存在が完全に実現されていない、そんな感じを持ってるんじゃないかという気がするんですよね。
■「ロシアと中国が接近も」「マスキロフカ(偽装)に警戒」
上山
ロシアにとっては、ウクライナというのは非常に特別な場所とも言えそうなのですけれども、木内さんはこのウクライナの巡る情勢、どのように向き合っていくべきだとお考えでしょうか?『アンカーの眼』でお願い致します。
木内
先ほど制裁の話をしましたけども、制裁をするとエネルギー価格の上昇という形で先進国に返ってきてしまうということを言いましたが、それともう一つ不可欠なのは中国がどう動くかということでして…。
上山
中国が?
木内
ロシアがエネルギーを輸出できないような状況になった時に、中国がもっと買ってあげるとかですね、あるいはロシアの銀行がスイフト(SWIFT)というドル建ての国際送金をする仕組みから排除されて、貿易決済ができなかった時に、中国が独自に持っている貿易決済を使って、ロシアの貿易を助けてあげようと。こういう可能性がこれは色んな見方がありまして、そうすると制裁をしてもですね、抜け道になってしまうということなので、そこも考えて制裁をしていくということですし、そうなった場合にはですね、ロシアと中国がより接近してくという新しい局面に入っていくのかなと。
上山
このウクライナ情勢、小泉さんは今後を想定する中で何が一番注目していらっしゃいますか?何が起こると考えますか?
小泉
今のロシア軍の態勢を見ていると、いわゆる大規模な軍事作戦の準備をやってるように見えてしまうんですよね。やるかどうかというのは、やはりプーチンさんの腹一つなので、プーチンさんの頭の中がわからない以上は何とも言えないのですけれども、実際にできる態勢、能力が整ってる以上は、そのことを注目して見ていなければいけないというフェーズに、残念ながら入ってしまっていると思いますね。
上山
あるとしたらタイミングとしてはどういったことを想定されるのでしょうか?
小泉
よく言われるのはオリンピックが終わった後、つまり、きょう終わるわけですけれども、終わったら遠慮なくやるんじゃないかということも言われたりしますよね。実際、ウクライナに最初に介入した時は、ソチオリンピックの閉会式終わって、翌日の深夜には始めちゃいましたので、本当に危ないと思います。ただ同時に、ロシアの軍事思想の中では、伝統的にずっとマスキロフカ、つまり”偽装”っていうことが非常に重視されてきたので、相手がこうだろうと思うことを、タイミングかもしれないし、場所かもしれないし、方法かもしれません、裏をかこうとするわけです。我々がこうだと思っていると、別の形で始まるという可能性もやはりこれもまた考慮していかなければいけないと思います。
上山
今後の事態、侵攻は避けてほしいと思います。ありがとうございました。
(2022年2月20日放送)
ロシアは2022年2月24日、ウクライナに対して軍事侵攻を開始しました。ロシア軍は、ウクライナ国内の空港や軍事拠点を砲撃するとともに、首都キエフにも向かっています。2月20日の『BS朝日 日曜スクープ』では、東京大学先端科学技術研究センターの小泉悠・専任講師が「ここ数日で事態が一気に緊迫度が増した」「キエフを占領するような大規模作戦も可能な態勢」と指摘。ロシアの軍事侵攻の恐れに警鐘を鳴らしました。