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#218

ウクライナ侵攻が「絶滅戦争」に…『独ソ戦』著者の懸念

ロシアによるウクライナ侵攻から3か月。ベストセラーとなった『独ソ戦』著者、大木毅さんは、第二次世界大戦での独ソ戦と同様、ウクライナでの戦争がイデオロギー優先の「世界観戦争」「絶滅戦争」の様相を呈しつつあると指摘します。2022年5月22日の『BS朝日 日曜スクープ』は、大木毅さん、さらに防衛研究所の山添博史さんをスタジオに招き、プーチン大統領の言動を分析しました。

■相次ぐ民間人虐殺…強まる「絶滅戦争」の様相

上山

続いてのテーマがこちらです。「終わりが見えないウクライナ侵攻 見え始めた絶滅戦争の姿」。

きょうのゲストの大木毅さんが、ウクライナ侵攻に対する見方を変えた、きっかけが、こちら民間人の虐殺です。4月3日に発表され、410人の方が犠牲となったことが確認されました、このブチャの虐殺被害以外にも、周辺で次々と被害が明らかになっています。

この虐殺にはロシア軍の関与が疑われていますが、すでに裁判では民間人の殺害を認めているロシア軍の兵士もいます。大木さんは、なぜ、この民間人の虐殺被害をきっかけとして、ウクライナ侵攻への見方が変わったのでしょうか。

大木

当初、私はおそらくドニプロー川から東、それからキーウくらいを押えて傀儡政権を作って、NATOとの緩衝地帯にする。それくらいが戦争の目的ではないかと思っていたんですが、このブチャや、その他を見て、これは果たして現場の兵士が、戦争が上手くいかないので、補給が来ないので、住民が敵対的なので、すさんだ気分になってやったのかと言うと、どうもそうではなさそうだ。

と言うのは、発見された遺体が埋葬された時に、埋葬用の資材を、どうもロシア軍が持ち込んでいたらしいとわかったからです。これはどうも初めから、ロシアにとって、望ましくない分子を殺害するなり、あるいは強制連行して、彼らが言うところのウクライナのロシア化を始めると、開戦前から計画していた。そうでなければ、そんな埋葬用の資材とかを持ち込むわけがない。そこから考えて、実は通常のNATOとの間の緩衝地帯を作りたいとか、そういうこともありましょうが、それだけではなくて、どうも本気でウクライナ全土を征服して、ロシア化するということを考えていたんではないかと思うようになりました。

上山

こういった虐殺は、やはりかつての独ソ戦のようなところから、何か類推できるようなものはあったんでしょうか。

大木

独ソ戦の場合も、本来なら、あんな大国に攻め入るんですから、軍事に全てのリソースを投入すべきなのに、住民虐殺のためのアインザッツグルッペン、移動殺戮部隊ですけれど、そういったものに人員と資材を投入して住民殺害を準備したりしている。独ソ戦とは、ヒトラーにとって、ナチス・ドイツにとって、通常の利害、例えば領土の割譲であるとか、賠償金を取ることとか、そういうことが目的ではなくて、イデオロギー上の、相容れない敵、これを殲滅する。そういう目的を持った戦争であったわけですが、どうもそれと似たようなことが今、ウクライナで起こりつつあるのではないかと私は危惧しております。

■独ソ戦の“根底”に「世界観戦争」

上山

改めて、かつての「独ソ戦」です。

菅原

第2次世界大戦下で行われましたナチス・ドイツとソ連の戦争、いわゆる独ソ戦ですが、1941年6月独ソ不可侵条約をナチス・ドイツが一方的に破り、ソ連に侵攻、1945年まで続きました。その結果、ソ連側の被害、戦闘員、民間人含めておよそ2700万人が死亡したとされています。人類史上最悪規模の戦争とも言われています。

この独ソ戦の詳しい経緯は、後ほど大木さんが作成していらっしゃいます両軍の配置図を交えながらお伝えしていきたいと思います。

上山

このように独ソ戦は、人類史上最悪規模の戦争だったと言われているわけですが、なぜここまで凄惨な状況なったのか。大木さんは、「世界観戦争」が根底にあったからと指摘しています。

大木さんが指摘する「世界観戦争」、これは「イデオロギーの対立」によって起こる戦争ということなんです。そして、独ソ戦ではまさにナチスのイデオロギーのもとで民間人の虐殺を正当化する「絶滅戦争」、さらには「収奪戦争」。つまり占領した土地の労働力や食料を含めた資源を根こそぎ奪ってしまう、こういった「収奪戦争」の要素が強まっていったということなんです。

一方の「通常戦争」というのは、いわゆる領土などが目的ということですから、つまり領土を獲得する、賠償金を得るといった目的が達成されれば、戦争としての落としどころが見つかる、講和に至ることが可能ということなんです。大木さんは今回のウクライナ侵攻がこちらの通常戦争ではなくて、イデオロギーの対立、ぶつかり合いである「世界観戦争」、さらには「絶滅戦争」、「収奪戦争」へと近づいていると警告しているわけです。そして、大木さんは、プーチン大統領の言動からも、絶滅戦争へと事態が悪化する恐れを見ているんです。

■「収奪戦争」を綿密に計画していたナチス・ドイツ

上山

きょうのゲストの大木毅さんは、ロシアによるウクライナ侵攻がかつての独ソ戦と同じように指導者のイデオロギーに支配された「世界観戦争」、あるいは「絶滅戦争」になりつつあると指摘しています。では独ソ戦がどう展開されたのか、この大木さんが書かれたベストセラー「独ソ戦~絶滅戦争の惨禍」をもとに確認したいと思います。菅原さん、お願いします。

菅原

まずこちらから見ていきたいんですけれど、ナチス・ドイツがソ連侵攻にあたって打ち立てた「バルバロッサ作戦」の図です。

短期間での電撃戦を目論んでいました。1941年6月22日、独ソ不可侵条約を破り、総兵力330万人の大軍がバルト海から南の黒海まで、およそ3000kmに及ぶ戦線をドイツが敷きまして、一斉に攻撃にかかりました。矢印がドイツ軍の動きになっておりまして、目標を大きく分けて北、中央、そして南に分けていました。北の目標はここ、レニングラード。中央の目標が首都のモスクワ、そして南がキーウ、ハルキウとありますように、現在のウクライナ、当時のソ連の南部。この3つに大きく分かれて進軍をしていきました。

ドイツは消耗しながらも、勝利を重ねていったんですが、その後、首都モスクワの攻略を目指す「台風」作戦に移行していきました。こちらの地図、ドイツ軍がモスクワに迫って行く様子です。11月にはドイツ軍、モスクワまで30kmのところまで接近しましたが、そこで「冬将軍」が到来したんです。当時の異常気象ともいえる寒さだったということで、マイナス30度近い、それ以上ともいわれる気温の中、雪も沢山降りました。さらにソ連軍の反撃にも遭いまして、ナチス・ドイツは攻撃を中止せざるを得ないという状況に陥っていきます。

そして、次の年1942年にはナチス・ドイツ、モスクワへの進軍よりも今度は南、こちらへの進軍を優先させました。の時、モスクワではなく、なぜ南部への作戦を優先したのか。南部には石油などの資源が豊富だったということで、南部を選んだとも言われています。要衝であるスターリングラード、それから黒海の沿岸部の石油施設などがあるこういった地域などへと進軍して行ったと。こういった2つの動きがあったということなんです。大木さん、著作も拝見したんですけれど、この辺りからドイツが物資を奪っていくということも顕著になっていく、「収奪戦争」の要素が強まっていったのもこの時期と見ていいんでしょうか。

大木

実は始める前から「収奪戦争」については綿密な計画を練っていました。軍事的な作戦計画というのは、攻めていけば鎧袖一触だ、くらいの、かなり楽観的な、あえて言えば、ずさんなものだったんですが、その一方で「飢餓計画」と呼ばれるような「収奪計画」、石油からジャガイモまで、ロシアの現地の住民が飢え死しようが構わないから全部奪ってドイツへ持っていく。どうやって、どういう機関を使って、どんなリソースを使って……、そういった綿密な計画が実は開戦前から練られていました。

ただし、この42年の「青号(ファル・ブラウ)作戦」に関して言えば、再び政治的、軍事的な重要目標であるモスクワを突こう、突くべきだという国防軍、軍部の側と、いやいやそうではない、コーカサスやウクライナの資源地帯を取りに行くべきだというヒトラーの意見が対立しまして、結局ヒトラーが勝ちました。つまり政治的、軍事的な目標よりも経済を重視する方向に、ここから向かったと言ってもいいと思います。

菅原

さらに、独ソ戦の経緯を見ていきますと、スターリングラードに攻め入ったナチス・ドイツですが、ここで独ソ戦の大きな転換点を迎えていきます。

スターリングラードにドイツの主力部隊である第6軍が向かっていた、留まっていたところに、南側から、そして北側から今度はソ連軍が進撃して、このように完全に包囲をしてしまったんです。その結果、1943年1月から2月にかけて、第6軍は投降に追い込まれたんです。

さらにソ連軍の攻勢が続きます。翌年の1944年夏、大木さんの表現をお借りしますと「ドイツ軍にとって大敗の季節」となりました。終戦を迎える1年前ということになりますけど、ソ連軍がドイツ軍をソ連領からほぼ追い出していったんです。侵攻前のラインまで戻していっただけではなく、ポーランドのワルシャワまで追いやってったことになります。そして45年の1月にはドイツ本土に進軍。ご存じの通り、4月30日にはヒトラーが自殺し、5月8日ドイツが無条件降伏、独ソ戦が終結しました。この4年近くに及ぶ独ソ戦を「大祖国戦争」とソ連は呼んでいまして、その勝利は国民の誇りとされてきたんです。

■「戦争の大義名分、国家を動かすのは…」

上山

人類史上最悪規模の、これほどの激しい戦いが繰り広げられた、その根底にあるという理由の1つが、『独ソ戦』著者の大木毅さんは、イデオロギーによる対立、「世界観戦争」、さらには「絶滅戦争」の様相を呈していたからだったとしています。その大木さんなんですが、プーチン大統領の最近の言動からも絶滅戦争への事態悪化を感じたということです。

例えば、5月9日に対ドイツ戦勝記念日で行われたプーチン大統領の演説です。「我々の責務はナチズムを倒し、世界規模の戦争が繰り返されないよう油断せず、あらゆる努力をするよう言い残した人たちの記憶を大切にすること」だと、このように話していて、これはナチスを倒した先人たちを讃えるとともに、今もロシアの責務というのはそのナチズムを繰り返さないことだと、つまりウクライナ侵攻も正当性があるんだと、プーチン大統領はアピールしたようにも感じました。この辺りは大木さん、やはりプーチン大統領、自らの正当性を重ね合わせているような気がしたんですけれど、いかがですか。

大木

これは後知恵になるんですけれど、2019年のことが思い起こされます。1939年にヨーロッパで第2次世界大戦が始まったわけですが、それから80年、欧州議会でこういう議論がなされました。ドイツがポーランドに攻め入って、それがヨーロッパの戦争の始まりになったわけなんですけど、その前に実はソ連と不可侵条約を結んでいる。つまりソ連と不可侵条約を結ぶことによって、ソ連を味方につけて、イギリスとフランスが介入してくるのを防いで、戦争をポーランドに対する戦争だけに限定して、という計算だったんです。しかし、だとすれば、ナチス・ドイツ、ヒトラーのドイツに協力したソ連にも第2次世界大戦に道を開いた責任があるんじゃないかというので、欧州議会で、第2次世界大戦の開戦にはヒトラーのドイツだけではなくて、スターリンのソ連も責任があるという批判がされました。

その時、プーチン、あるいはロシア政府は何を持ち出したかと言うと、いやいやそれはヒトラーのドイツをいずれ迎え撃つために、防御を固める時間を稼ぎ、態勢を整えるためにやむなく不可侵条約を結んだというような議論です。実際には、その後バルト三国を併合したり、フィンランドに戦争を仕掛けたり、これが防御のための政策なのかと言いたくなるようなことをやるんです。しかも、独ソ不可侵条約には付属の秘密の議定書がありまして、中央ヨーロッパ、東ヨーロッパを独ソの勢力圏に分割することを約束したりしていました。プーチンはそれに対して、そうじゃないと、独ソ不可侵条約というのは、やがてヒトラーのドイツと対決するための態勢を作るために必要だったのであり、さらに、そのナチスを倒して第2次世界大戦を勝利に導いたのはソ連であると、いわゆる「大祖国戦争」史観ですね、ロシアはソ連の後継者であると、というような言い方をしていました。今、思うと、既にあのころから思想的な戦争準備をしていたんだなと思いますけれど、プーチンのロシアがそういうことをしていく。

もっとも、この「大祖国戦争」史観、ソ連こそは第2次世界大戦の主役だったというような史観というのは、実はプーチン、そのまま受け入れているわけじゃない。なぜなら、かつてのソ連では、ファシズムというのは資本主義が危機に瀕した時に現れる、普遍的な現象で、それがドイツで現れたり、イタリアで現れたりするということを言っていました。だからドイツ・ファシズムという言い方をするんです。あるいはファシスト・ドイツ。ところが、プーチンはあえてファシストとは言わなかった、ナチスだと。これは、おそらくロシア国内、あるいはロシア側が国外に対して、自分たちの敵はナチスなんであると。これはドイツ・ファシストと言うよりは、ナチスと言った方がよっぽど訴求力がありますから、そのようにすり替えて、我々の敵はウクライナに今、巣食っている、新しいナチスである。これを倒す我々には、正義もあれば、義務もあるというような論法ですね。これは最初、国民を統合したり、戦争の大義名分にするための手段だったと思うんですけれど、ナチスのユダヤ人迫害と同じで、手段だったはずのものが、目的に化けてくる。犬がしっぽを振るんじゃなくて、しっぽが犬を振り回すようになってくる。

かつてナチス・ドイツに起きたような現象が今、プーチンのロシアに起こっている。ウクライナにナチスが巣食っている、これを倒さなければロシアは危ないと、誰が聞いても妄想じみた話なんですけれど、しかし、それが独り歩きして戦争の大義名分となる。国家を動かすという事態が今、起こっているんではないかと危惧します。

上山

戦争の大義名分が、国民にとって訴求力があるように、大祖国戦争を思い起こすナチスという言葉をプーチン大統領は使ったけれど、実はプーチン大統領がナチスと使ったことに今、プーチン大統領が振り回されているような状況かもしれないということは…。

大木

こういうのは国民統合のためには便利な概念で、実際には都市と農村、経営者と労働者、社会的な階層の違い、様々な格差とかいうものは厳然としてあります。ところが、こういった色々と都合の悪い事態をもたらしているのは、ウクライナのナチスであると。我々はロシア人であるというだけで正当であると。実際には、それで社会的な問題が解決されるわけではないんだけれど、ロシア人であれば誰でも尊い。ウクライナのナチス、さらに敷衍して言えば、ウクライナ人というのは、それに反対する倒すべき対象であると動き出してしまうわけです。

■ロシアが“ナチスとの戦い”強調するのは!?

菅原

山添さんはプーチン大統領がナチスとの戦いを強調していることについては、どう分析されていますか。

山添

大祖国戦争の史観であれば、ナチスが絶対悪で、それを倒したソ連が国連を作り平和を作ったということになっています。全ての正当性のもとにナチスの悪というものがあるので、そこから出発すると色々言いやすいというので、このようになっていると思います。

菅原

利用している側面があるということですね。

上山

片山さんは今までのお話、どのようにご覧になりましたか。

片山

世界観ということで言いますと、例えばナチス・ドイツはアーリア民族の優越性を主張したわけです。ドイツというものを、オーストリアと分かれていましたから、これも大ドイツということでオーストリアを併合しました。これはあっという間に併合したわけですよね。そういう意味で言いますと、プーチンもおそらく、最初はウクライナが西側に行くのを阻止して、大ロシアとして、ロシア、ウクライナ、ベラルーシでまとまろうという、そういう発想はあったと思うんです。ウクライナも簡単に併合できると思ったんだと思いますが、いかんせん非常に強い抵抗にあって、却って憎悪は燃え上ってくるし、そうすると、さっきから話が出ていますように、段々と考え方が変わって相手を絶滅しなきゃいけないとかですね。不倶戴天の敵だ、みたいなところまでエスカレートしてしまったのかなという気がしますね。特にナチズムとの戦い、ナチスとの戦いと言い出した以上、誰がナチスかっていうことを国内向けにも言わなきゃいけないので、とうとうウクライナの政権とか、ウクライナの、全部じゃないでしょうけど国民をナチスと呼ばざるを得ないようになって、矛盾だらけになってきたなという印象を持ちます。

■絶滅戦争を終わらせることは出来るのか

上山

続いてのテーマがこちらです。「絶滅戦争を終わらせることは出来るのか?独ソ戦の歴史から学ぶこと」。

ウクライナ侵攻に果たして終わりというのはあるんでしょうか。実は5月17日、ロシアのルデンコ外務次官が、ウクライナとの停戦交渉について「現在いかなる形でも行われていない」と発言しまして、ウクライナのポドリャク大統領府顧問も交渉中断を認めたわけです。

大木さん、現在、停戦交渉というのは暗礁に乗り上げている状態です。今回、大木さんがご指摘されているように、今回のウクライナ侵攻が「絶滅戦争」の様相を呈していると捉えると、果たして終わり方、終わらせる方法はあるんでしょうか。

大木

非常に少ない。終わらせる可能性は非常に少ないと思います。この後、NATOから給与された兵器で戦力が上がり、ウクライナが反攻に出て、失地回復する可能性があると思いますが、逆説的なことですけれど、ウクライナが善戦すればするほど停戦ということは考えにくくなります。なぜならばロシアは、ウクライナという絶対悪に対する正義の戦いだと、この戦争を捉えていると思われているからで、だとすれば、ウクライナから叩きだされてしまった、これ以上戦争を継続することは難しい、もう諦めました、停戦しましょうということになるでしょうか。とても、そうなるとは思えない。

上山

つまり領土を取った取られたの問題ではなく、ウクライナが悪だということであれば、本当にそれを殲滅するまで終わらないんじゃないかと、そういうことですか。

大木

総力戦という言葉は、割と日本語で簡単に使われますけど、あれは本来、非常に厳しい、国民や経済に大きな負担をかける戦いです。ドイツの歴史家は、総力戦というのは体制にとっての負荷テスト、体制にどんどん負荷をかけていって、どこまで保つか試しているようなもんだと言うんです。だとすれば、総力戦までいかないとしても、動員をかけていくことによって、ロシアの経済がいつまで保つのか。あるいはプーチン体制がいつまで保つのか。一方、ウクライナの方は既に総動員体制でギリギリまでやっていますから、これで1年も2年も3年も戦争が続いて、果たしてウクライナは保つのか。そう見ていくと、独ソ戦のようにどちらかの首都が占領されて、文字通り体制が転換されて終わるということも、もちろん考えにくいですが、どちらかの体制が保たなくなってという形でしか、どうもこの戦争は終わらないんではないかという、嫌な予感を持っています。

上山

まさにお互いが消耗戦をしていて、どちらかがもう消え入りそうになったところまでいかないとこれは先が見えないんじゃないかということでしょうか。

大木

言いたくないですけど、そういうことだと思います。

■「悪が行われていることを見逃さない」

上山

戦争の長期化が言われていますが、そういった中で、大木さんとしては日本を含めて、国際社会が出来ることがあるのかどうか、あるとすればどんなことなのか、大木さんはどんなことを考えますか。

大木

これはもう我々に出来ることというのは、イデオロギーによる虐殺、あるいはウクライナ人であるからといって殺してしまう、強制連行する。そういったことはやるなと。もしやっていたら、こんなことをやっていると叫び続け、糾弾し続け、さらに軍事以外の経済的な制裁であるとか、ギリギリまでロシアに圧力をかけることを続ける。それを怠らないことだと思います。

第2次大戦ではアウシュヴィッツをなぜ連合国は知っていながら爆撃しなかったか、これはよくイスラエルが国連とかアメリカの批判に使うんですけど、実はアウシュヴィッツでユダヤ人が殺されているということは、アメリカやイギリス、知っていたんですね。じゃあなぜ爆撃して、アウシュヴィッツに繋がる鉄道を叩くなりしてくれなかったのか。色々な理由があってやらなかったんですけれど、今度の戦争で言うならば、実際に爆撃するわけじゃないですけど、そういった悪が行われていることを見逃さない、許さない、こんなことはあってはならないと、出来る限りのことを叫び、制裁を加えていくことだと思います。

上山

片山さんは今の大木さんのご意見、いかがですか。

片山

その通りだと思います。振り返れば色々ありますよね。例えばヒトラーがチェコスロバキアのズデーテン地方を要求した時、チェンバレンはミュンヘンで宥和政策、妥協しました。これでヒトラーも満足して収まるだろうと思ったら全然そんなことではなかったですね。今回も2014年のクリミア併合で制裁を科しましたけど、やはり今から思えば弱い制裁でしかなかった。そんなことも含めて、第二次大戦わけても独ソ戦などの教訓をこれからも踏まえるべきだと思います。

■注目すべき今後の重要ポイント

上山

ずっと独ソ戦をご覧になってきた大木さんからすると、今後のウクライナ侵攻についてはどの点に注目されていますか。

大木

ロシアがどの程度、動員をかけるかということだと思います。先ほど、総力戦というのは、体制にとっての負荷試験だと申し上げましたが、かつて第1次世界大戦で、あるいは独ソ戦で、ロシア、ソ連がやったような動員がかかるのか、私は疑問に思っていて、おそらく国民の反応を見ながらの動員になると思います。しかし、その際、国民の支持を失わないために生活水準を下げるわけにはいかない。だとすれば、おそらくナチス・ドイツがやったように、ウクライナから穀物その他の資源を収奪することによって、戦争遂行と国民の支持を確保するという二兎を追うようになるのではないでしょうか。しかし、これは許されないことだと思います。これはよく注目して、よく批判しなければならないのではないかと思っています。

上山

実際にロシアは小麦を収奪しているという事案もあります。

大木

70万トンというからね。

上山

山添さんはどの辺が注目ポイントに思われていますか。

山添

ロシアのプーチン大統領がこれをやめるかどうかというのが一番大きなポイントになるわけですけれど、我々の知っているような合理性に彼が至るとすれば、2通り考えられて、このまま続けても仕方がないと徐々にトーンダウンさせていくと、そういうような兆候。例えばフィンランドとスウェーデンがNATOに入ったこと自体は問題ではない。軍事的脅威をもたらすことだけが問題だというようなトーンダウンを少し感じられますね。逆に別の合理性、軍事を強くするというような合理性になってしまった場合、今、ロシア軍の軍人の叱責とかもあるわけなんですけど、そうなった場合には、本格的にロシア軍は立て直して、さらに強い攻勢になってくる。これはかなり長引く可能性があります。

(2020年5月22日放送)