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#293

中国の台湾統一シナリオは… 総統選は民進党が勝利

2024年1月13日の台湾総統選挙は、対米関係を重視する与党、民進党の頼清徳氏が勝利し、次期総統に決まりました。中国の習近平政権は、台湾統一を目指すと公言していますが、どのような統一シナリオを描いているのか、2024年1月14日『BS朝日 日曜スクープ』は特集しました。キヤノングローバル戦略研究所の峯村健司氏は、「中国は、死傷者ゼロの『新型統一戦争』を検討している」と指摘。一方、明海大学教授の小谷哲男氏は、台湾有事について「米中両国が全面戦争に至ることも想定して備えが必要」と分析しています。

こちらの特集では、元外務審議官の田中均氏と元統合幕僚長の河野克俊氏が台湾有事の可能性を議論しています。合わせて是非、ご覧ください。

■2021年4月4日

米中対立の中での日米首脳会談 台湾有事のとき日本は…

■民進党 頼清徳氏が当選 どう動く中国

上山

小谷さん、アメリカは、今回の台湾総統選挙(2024年1月13日投開票)の結果を、どのように見ているとお考えですか。

小谷

私はちょうどワシントンから帰ってきたばかりですが、台湾の選挙の話でもちきりでした。ただ、政権に入っている人も政権外の人も共通して言っていたのは、どの候補も現状維持を目指していて、その点に関してアメリカは安心しているということでした。頼清徳氏が有利であるという見立てはあったわけですけれども、彼が必ず勝つということでもないという見立てだったので、誰が勝ってもおかしくないということですが、誰が勝っても現状維持という方針なのでアメリカとしては付き合っていくということでした。

印象的だったのが、アメリカ政府の高官の1人が、「自分は今年、台湾海峡の問題は心配していない。むしろ朝鮮半島のことを心配している」ということでした。ちょうど、アメリカに中国共産党の高官も来ていましたし、米中の軍事対話も行われていましたので、かなり綿密にアメリカと中国は対話を継続している。台湾問題があっても、万が一にも紛争にならないように、相当調整をしているなと感じました。

【小谷哲男】
明海大学教授「日本国際問題研究所」主任研究員 米国の外交関係・安全保障政策の情勢に精通

上山

質問を重ねますが、今年はないとなると、来年以降はまだ分からないということになるのでしょうか?

小谷

それは今年、アメリカの大統領選挙がありますので、来年以降どうなるかというのは、今の段階では読めないということですね。

上山

台湾については、中国の習近平国家主席は去年の年末、「祖国統一は歴史的必然だ」としたうえで、「台湾海峡両岸の同胞は手を携え、民族復興の偉大な栄光を分かち合うべきだ」と改めて台湾統一への意志を示していました。杉田さん、こうした発言を踏まえ、民進党の政権が維持された結果を、どのようにご覧になっていますか?

杉田

政権運営は相当難しいと思います。議会を国民党に握られてしまったし、総統選での票も蔡英文時代より減ったということで、習近平氏、中国が言う通り、台湾世論のメインストリームが頼清徳氏なのかどうかよく分からないです。馬英九氏のあの発言がなかったら、結果がどうなっていたかよく分からない。

小谷さんがおっしゃっていたように、アメリカと中国の関係が色んな対話、去年11月のサンフランシスコでの米中首脳会談も含めて最近は深まり、間違っても軍事的な衝突に発展するような誤解を解く方向に動いています。そういう米中両国の関係の深化に挟まれて、台湾、頼清徳総統が動ける範囲は非常に小さくなっていると思う。ですので、台湾の次期政権は、不安定政権ではあるけれども、地域の安全保障環境から考えると、ある程度動きを封じ込められている。それを中国がとりあえず歓迎して見ているという状況なのかな、と思います。

頼清徳総統の誕生は、中国にとっては喜ばしいことではないでしょうが、しかし、米中両国がコミュニケーションをとる中で、台湾が独立という動きを取りにくくなっているという全体の枠組みは中国が望むような動きになっているのかなと思います。

【杉田弘毅】
共同通信社 特別編集委員 テヘラン支局長、ワシントン支局長、論説委員長などを歴任 明治大学で特任教授 「アメリカの制裁外交」「国際報道を問いなおすーウクライナ戦争とメディアの使命」など著書多数

上山

今の杉田さんのご指摘にもありましたけれども、峯村さん、改めて気になるのは中国側の動きです。民進党は、中国と距離を置き、対米関係を重視してきましたが、中国はやはり、新政権に対しても厳しい態度で臨んでくるのでしょうか?

峯村

中国から見ると、頼清徳さんは蔡英文さんよりも台湾独立志向が強い、としています。さらに、副総統の蕭美琴さんも中国政府から2度制裁対象になっている。新政権のワンツーが中国からみれば「台湾独立分子」と認定していることから、蔡英文政権よりもより強い圧力をかけてくるでしょう。昨日(1月13日)、中国政府は、今回の総統選について「台湾の主流の世論じゃない」と批判するコメントを出しました。いわゆる台湾の人たちは認めてないんだというネガティブ・キャンペーンをどんどんやっていく。

しかも民進党は議会の過半数をとれていないので、重要政策を野党に否決されると、政権運営が難しくなる。さらにそれに追い打ちをかけるように経済・軍事の両面から頼政権に圧力をかけていくでしょう。

例えば安全保障とかも、アメリカの武器を買いたいというのを反対されて買えなかった、なかなか国を守れない、経済もうまくできない、そうやってどんどん支持率が落ちて、頼政権の統治の正統性を揺るがしていくことを狙っていると見ています。

【峯村健司】
キヤノングローバル戦略研究所主任研究員 米中両国に独自の取材ネットワーク 『中国「軍事強国」への夢』監訳

■習近平氏ブレーン「我々が有利なタイミングで開戦を」

飯村

では、ここからのテーマはこちらです。峯村さんが予測する中国による台湾統一シナリオです。峯村さんは、台湾がどんな政権になっても中国は統一へ動くと分析していますが、そのことを明言している重要人物がいます。中国国防大学教授、上級大佐の劉明福氏です。この人物は、習近平国家主席のブレーンで、習氏が2012年に提唱した政治スローガン「中国の夢」に影響を与えたとされる人物です。

その劉明福氏が中国で出版した著作は、『中国 「軍事強国」への夢』(文春新書)として峯村さんが翻訳の監修を行い、日本でも出版されました。その中では、中国では掲載されなかった部分に、このようなことが書かれているのです。中国による、台湾統一への武力行使についてです。

「我々が武力行使をする上で、最も有利なタイミングを見計らって、開戦しなければならない。台湾独立勢力が礼儀正しく振る舞っていたとしても、我々にとって情勢や時機が有利な状況ならば、我々は断固として武力行使すべきなのだ。」

台湾の動きとは、今回の総統選なども含まれるとみられますが、それとは関係なく、台湾統一のため有利な状況ならば、中国は開戦すべきと主張しているわけです。

今回、新総統になった頼清徳氏は、台湾の「独立」は唱えず、中国との関係は、あくまで「現状維持」としています。さらに、アメリカのバイデン大統領自身も、改めて「台湾の独立は支持しない」と述べています。峯村さん、それでも中国は統一への動きを強める可能性はありますか?

峯村

我々から見ると、いいじゃない、現状維持だし、平和統一だったらいいよねと思うのですが、中国から見ると、また違う。習近平政権が考える「現状維持」の捉え方を分析する必要があります。劉明福氏は、「現状維持」に問題があったと指摘しています。中国から見ると、「現状維持」とは国家の「分裂状態」を意味するのです。さらに、劉氏は『中国「軍事強国」への夢』で、「平和的統一」というのはアメリカによるプロパガンダであり、統一を阻む「罠」であるとも指摘しています。つまり、そのアメリカのプロパガンダである「平和的統一」をずっと我々が受け入れていたがために、結果として台湾を統一できていない。だからこそ、最近の習近平氏の演説では「主導権は我々にあるんだ」と強調しているのです。

「主導権」はアメリカにあるわけじゃなくて、中国が自分たちで計画を立てて、自分たちの戦略に基づいて統一をしなければいけないというのが、最近の習近平政権、特に3期目以降の方針。そのベースになったのがまさにこの『中国「軍事強国」への夢』なのです。この本がもともと中国で出されたのが2020年なんですね。この頃から、台湾統一における「主導権」という言葉を習近平氏らが頻繁に使うようになったことを考えても、この本が習政権の政策決定に与えている影響はあると思います。

飯村

そうすると杉田さん。今のお話ですと、「現状維持」というのは中国の考え方とは違うんだと。中国なりの理論、理屈、論理になるわけですが、これはどのようにご覧になりますか?

杉田

峯村さんのおっしゃられること、本当によく分かります。「現状維持」ということは統一できないということなので、それは中国共産党、あるいは、習近平氏が掲げる大きな課題が実現しないということです。それでは習氏としては何のために3期目、あるいは4期目をやるのか分からないという結果になってしまうので、その手には乗らないというのがまさに習近平氏の考えなんだと思うのです。

しかし、そうは言っても、これからお話が進むと思いますが、台湾統一は障害も大きいので、果たして実現可能性はどれくらいあるのかということで疑問はついて回る。それから国際社会から見ると、やはり中国側が台湾との対話の窓口を閉ざしているという認識になっている。中国は台湾の政権が変わったにもかかわらず、同じように対話の窓口を閉ざし続けるということであると。やはり中国にとっては、マイナスの国際イメージになってくるだろうなと思います。

飯村

そして劉明福氏が、著書で展開した、台湾統一の戦略には大きな特徴があるそうです。峯村さん、どういった特徴でしょうか?

峯村

自分でも訳しながら「んっ」と思ったのですが、お手本にしている戦争があるんだと書いています。その戦争はアメリカだと。1861年から始まった、アメリカの南北戦争こそが、我々の教科書であると書かれていたんです。劉さんのロジックで言うと、南北戦争は分裂を統一するための戦争、アメリカの統一戦争なんだという理論の立て方をしているのです。

【南北戦争 1861年~1865年】
アメリカ合衆国が奴隷制度の存続などをめぐり南北に分かれて戦った戦争 死者60万人以上

峯村

自分たち中国はリンカーン率いる北軍であると、それがどのように錦の御旗を立てて、どのように外部勢力を、当時で言うと、ヨーロッパのイギリスとかフランスの介入を防いで統一したかというロジックを立てているのがこの本の特徴です。ただ、この時、南北戦争では60万人という、アメリカの南北戦争以外の戦争足しても多いぐらいの犠牲者が出たので、劉さんは台湾併合の際には、こうしたやり方ではなく、「新型統一戦争」をすると言っているのですね。これはどういうことかと言うと、まず死傷者は出さない。インフラも壊さない。さらには財産も破壊しない。「3つのゼロ」であるというのがこの本の中に書かれています。つまり何をやるかと言うと、「敵の心を、武力を使って潰すやり方」だと。巧みに戦って、敵を諦めさせると書いてあるんです。死傷者は出さないというところが、この「新型統一戦争」のポイントだと思います。

■中国が検討する死傷者ゼロ「新型統一戦争」とは…

飯村

では中国による「新型統一戦争」とは、どのような形で進んでいくのか?峯村さんが、これまでの取材を基に予測する、中国の台湾統一シナリオの一例をご紹介します。

まず、2024年、今年の11月に行われるアメリカの大統領選挙でトランプ前大統領が当選、返り咲きを果たすことを前提とします。そしてトランプ氏は翌年2025年1月、大統領に就任。対中政策の見直しを宣言したと想定します。

具体的には、中国に対し貿易の優遇措置を撤廃。さらに台湾に対して戦闘機やトマホークミサイルを売却するとします。つまり、台湾防衛のために中国に対し強硬策に出るということなのですが、当然、中国は猛反発をします。

そして峯村さんの予測するシナリオでは、中国が対抗措置をして、このような動きに出ます。中国による「国家統一法」の制定です。これは「『一つの中国』を法制化して、中国政府の管轄権が台湾領海や領空に及ぶことを明記する」というものです。「中国政府の管轄権が台湾領海や領空に及ぶ」とはどういうことなのか、これから説明する中国の対応で鮮明になります。

2025年2月、まず中国は、台湾海峡を含む東シナ海一帯で「特別重要軍事演習」を2週間実施。合わせて、先ほどの「国家統一法」に基づき、中国の防空識別圏を拡大し、台湾の防空識別圏も吸収します。地図上ではこちら、オレンジの線で囲った部分が台湾の防空識別圏です。さらに国家統一法によって、台湾海峡では中国海警局、つまり、軍でなく警察力により海峡を通る船舶の臨検、船舶の検査を実施します。中国は、こうした行動が自国の領土、領海内での法執行であることを主張する、と峯村さんは見ています。峯村さん、こうした一連のシナリオでの中国の狙いとは一体、どのようなことでしょうか?

峯村

先ほど、台湾の選挙と有事はそんなに関係ないと申し上げたのは、中国が見ている相手というのは、台湾ではなくアメリカの動きだからです。アメリカが有事の際に参戦してこなければ、今の中国と台湾の軍事力の関係で言うと、中国の方が圧倒的に強いので、アメリカがいなければ台湾を奪取できると中国側は見ています。なので、最初のトリガーとしては、トランプ氏が1期目と同じような強硬姿勢になるだろうというところを口実に、展開していくシナリオを作りました。

実はポイントとしては、元々台湾は国際的には曖昧な存在ですけど、中国は「これはうちのものだ」と、「一つの中国」原則と言っているわけです。これは曖昧じゃなくて、しっかり法律を作る。中国が得意な「三戦」と呼ばれている、法律戦と呼ばれているやり方です。法律を作って、曖昧性を打ち消して「一つの中国」原則を法制化する。つまり、台湾というのは中国の領土なんですと明記したうえで、周りの領海とかも我が国の領海なんですと決めます。その上で、台湾の物流や交通を止めていくというやり方なのです。この時も、中国軍が軍艦をバーンと出すと、国際法上は戦争行為となる「海上封鎖」と呼ばれているものになってしまいます。これでは、たとえばアメリカ軍が反撃、解除しやすいようになってしまうのですが、あえて軍艦ではなくて、政府の船、海警局の船を出すことによって、これは「あくまで自分たちの領海の中で法執行しているのです」という建て付けをするのです。こうすることで、アメリカ側がなかなか手を出しづらい形で、段々台湾を締め上げていく。さらに空も、防空識別圏というものを作ったりして、できるだけ台湾を発着する飛行機が飛びづらくするという形で、人とモノの流れを止めていくやり方ですね。

そうなってくると、台湾は日本と同じ島です。食料自給率が30%切っており、発電の3割くらい依存している天然ガスも備蓄が2週間弱と言われています。石油に関しても、90日がMAXだと言われている。先ほどのやり方で封鎖をやっていくと、台湾の燃料もなくなる、食料もなくなる。(中国国防大学教授の)劉明福氏が言っていた、「台湾の人たちの戦う心を潰す」という、まさにそのやり方をするわけです。もうこれ以上戦うのをやめましょうという反戦ムードが出てくると、じゃあ頼清徳政権は何やっているんだと。もともと今回の得票率が低いわけですが、頼清徳さんの支持率をどんどん低下させていくように仕向ける。そして、頼政権を追い込むことをやるのではないかというのがこのシナリオのポイントになってきます。

飯村

そうすると、例えば燃料・食料、海とか空とか封鎖して、戦う意思を潰していく。その上で、中国はどういう出方をするんでしょうか?

峯村

そこで台湾の人々のエネルギーや食料が亡くなってくると、いわゆるウクライナが、黒海でやっている人道回廊という形で生活必需品を輸送できる海路を頼清徳政権は設けます。あくまで人道的なものであり、たとえば、北東部の台北の横にあるキーロンっていう港があるんですが、この辺りに人道回廊を作る。それを各国も認めてくださいとよびかけるわけです。中国が「いいよ、認めてあげるけれども、その代わり我々と統一に向けた話をしましょう」という交換条件を出してきた場合、頼清徳政権はどうするのか。普通に言ったら、ふざけるなという話なんですけれども、もう段々食べ物もなくなって、医療品もなくなっていて、このままいくと犠牲者がでるかもしれないというところで、どうするんだと。まさに死傷者は出してない段階の、ギリギリの、これが平和的とは言えないですけれども、鍵括弧がついた中国的な「平和的統一」を目指すというやり方ではないかというのが、これまでの中国軍の演習や文書の研究を元に作成した私のシナリオになります。

■トランプ氏“返り咲き”時の対中政策

飯村

峯村さんの予測するシナリオでは、トランプ氏が大統領に返り咲くことを前提にしていますが、現在、バイデン大統領とトランプ氏の一騎打ちになった場合の支持率がこちらです。トランプ氏のリードは、一時ほどではないもの、今年に入ってもバイデン大統領を上回っています。

小谷さんは、トランプ氏が大統領になった場合、中国に対し、どのような方針を打ち出すとお考えですか。台湾情勢には、どこまで向き合うのでしょうか。

小谷

1期目のトランプ政権を見ていると、中国には強硬姿勢に舵を切りました。それまでの政権による関与政策から戦略的競争相手に変えましたし、台湾に関してはいち早く、トランプ氏は16年の当選後に当時の蔡英文総統と電話会談をした。台湾と国交を断絶してから初めてのことです。さらにオバマ政権で停滞していた台湾の武器売却も、トランプ政権でアップグレードしました。こうしたトランプ政権1期目の政策から、対中強硬そして親台湾というイメージが定着しています。

しかし、これは当時のトランプ大統領の周りに親台湾派の側近たちの影響力によるものでした。おそらく2期目のトランプ政権では、親台湾派のアドバイザー達が入らないか、あるいは影響力が限定的になると見ています。対中強硬をリードした当時の高官らも、21年1月6日の議会襲撃のときに全員辞めていますので、その人たちは政権には入れないということになります。

じゃあトランプ大統領は中国とか台湾とかどう考えているか。トランプ氏にとっての、中国との最大の問題とは対中貿易赤字なんですね。貿易赤字こそが諸悪の根源であり、関税をかけて貿易赤字を減らす。それによってアメリカの労働者を救ったという姿勢を引き続き重視しています。しかも台湾に関しては、最近、トランプ氏がテレビのインタビューで、「アメリカの素晴らしい半導体産業を奪った敵だ」と批判をしています。だから台湾を守ろうなんて気持ちはトランプ氏にはないので、2期目のトランプ政権になったときは、台湾というのは中国への赤字減らしのためのカードに使われると考えたほうがいいと思います。

飯村

そうすると今、話しているような、台湾有事の際への介入というのは、トランプ氏が大統領になったとしたら、どうなのでしょうか?

小谷

これはトランプ氏の発言ではないのですが、ミニトランプと言われているラマスワミ氏。彼が言っているのは、28年までにTSMCの工場はアメリカに移させて、そして28年になったらアメリカが半導体を自前で生産できるようになる。自前で生産できるようになるまでは台湾を守るけれども、28年に台湾の半導体技術がアメリカに渡れば、もう台湾を守らないということを言っています。このラムスワミ氏の発言は、トランプ支持者の意見を完全に吸い上げて作っているものなので、こういう考え方は、トランプ政権になったときに本当に政策になる可能性があると思います。時間を区切って、台湾防衛をするかしないか決めるかもしれません。

飯村

杉田さんはどうでしょう。トランプ氏が大統領になった場合の対中政策というのは。

杉田

私も小谷さんとほぼ同じ考えで、トランプさんは、第1期政権で自由とか民主主義人権について、ほとんど関心を示さない人だった。第2期政権では、益々その傾向が強まりそうなるのではないでしょうか。台湾はアメリカの経済を長年痛めてきたアジアの、日本とか韓国とか色んな国々の1つという認識をトランプさんは持っているのでしょう。

小谷さんがおっしゃたように、経済の面で言うと、敵であるという認識だと思う。台湾の人は、そうしたトランプ氏の台湾観を心配していると思いますし、我々もトランプさんを台湾有事、台湾防衛という事態にはあまり期待してはいけないと考えています。

飯村

峯村さんはいかがでしょうか?トランプ氏が強硬策に出ないで、例えば中国に対して宥和策に出る場合も含めて、トランプ氏が大統領になった場合は?

峯村

実はですね、ご紹介いただいたシナリオは第4段階で終わっていますが、第5段階という続きがあるんです。先月、私が所属するキヤノングローバル戦略研究所で、いわゆる政策シミュレーションとよばれる政策演習を主催し、国会議員や官僚ら数十人が参加しました。そのシナリオでは、第5段階で何が起こるかと言うと、先ほどお2人がおっしゃっていたような、「超はしご外し」があったんです。対中強硬策をしていたトランプ氏が突然、訪中して習近平氏と首脳会談をやる。そして中国から貿易赤字を減らすぐらいアメリカ製品を買うと。その代わりに「1つの中国」原則を認める、という合意が両首脳間で交わされました。これを習近平氏が台湾問題をめぐる「米国の暗黙の了解を得た」と判断して、先ほどの「新型統一戦争」を着手していくのです。

【米国の「一つの中国」政策】
アメリカは台湾が中国の一部だとする中国政府の立場に異を唱えない。一方で「台湾関係法」を制定し、台湾の安全にも関与する姿勢を打ち出している。

峯村

これには実は布石があってですね、皆さんご記憶にあると思うのですが、香港デモが2019年にあったとき、あの時は結構アメリカ側がピリピリして、中国軍が香港の近くまで押し寄せて、さあアメリカはどう動くんだ、という事態となりました。その時のトランプ政権の側近の1人から聞いたのですけれども、トランプさんに「香港は大事ですから、アメリカとしても、もっとアクションを出しましょう」と話したら、トランプさんは一言、「香港っていったい人口は何人だ」と聞いたらしいですね。「700万ちょっとです」と答えると、「そりゃ13億の方が大事に決まっているだろう」と即答した。つまり人口で判断して香港をあっさり切ってしまったわけです。結局、トランプが強硬姿勢に出ないとわかった習近平政権は、デモを強烈な手段で弾圧をしたわけです。

ワシントンでトランプをずっと見てきていた私からみると、香港と台湾とが非常に重なるんです。トランプ政権2期目も最初はこの強いポーズを、1期目みたいに強硬姿勢を打ち出しながら、あとで、はしご外しをやって習近平氏とディールをする。そして実は私こそが、中国と台湾の危機を仲介して和解をしたんだという宣伝する狙いがある。先日、トランプ氏の側近が言っていたのですが、やはりトランプ氏の次の目的は何かと言うと、1期目で出来なかったノーベル平和賞を取りたいというのがあるらしいんですね。すでに公約で言っているように、ウクライナへの援助も中止してロシアと和解させる。そのうえで、台湾の危機も私が解決したんだとなると、ノーベル平和賞が取れるかもしれない。そういう第5シナリオは、私は実は結構あるんじゃないかと見ています。

■「米中“全面戦争”想定しての備えを」

上山

ここまでは、峯村さんの予測をもとにしながら、中国の台湾統一シナリオについて見てきました。中国はこれまで台湾について、平和的統一を強調しています。小谷さん、仮の話ですが、中国が武力を用いて統一に動く場合、どのようなシナリオを想定していますか。

小谷

私が所属している日本国際問題研究所も含めて、日本とかアメリカ、様々なシンクタンク、各国の軍も、台湾有事のシミュレーション、ウォーゲームというのをやっていると思います。私も自分が取材しているのを含めて、いくつか参加したことがありますけれども、ほとんどの場合において全面的な武力紛争に至るということになってしまいました。それはどういうことかと言いますと、これは、よく皆さんもご覧になるものだと思いますが、中国は80年代から第1列島線、それから第2列島線というものを想定して、ここに米軍を近づけないという戦略をずっと取ってきたわけですね。やはり台湾をどのような形で統一するにせよ、米軍の介入を何としてでも阻止しなければならないと考えるわけです。

かつて日本軍が真珠湾攻撃を行いましたけれども、あれは、日本が東南アジアを攻めるためだったわけです。東南アジアに手を出せば、必ず米軍が介入すると考えて、先に米軍の拠点である真珠湾を叩いたわけです。ですから、台湾を仮に中国が武力で統一しようとすれば、やはり米軍の介入を阻止するために第1列島線、第2列島線に存在する米軍の拠点を叩くということになる。第1列島線、第2列島線、これは日本の領土も含まれているわけですし、在日米軍基地も含まれてきますから、そうなると日本に対する攻撃にもなってくるということになります。

この台湾有事シナリオ、シナリオを作ってやるのではなくて、チームに分けて、チームがそれぞれ戦略を立てて、その相手の出方に応じて、こちらのやり方を変えるという、インタラクティブなものをやっています。毎回、中国チームの攻勢を変えるのですけれども、最初は限定的な攻撃であったり、海上封鎖であったり、あるいは、いきなり大規模な侵攻という、様々なものがありますが、結局は、米中の全面的な軍事対立に至るということになります。そういう意味で、やはり軍事的な紛争に至るということも想定した上で、我々は様々なシナリオを考えて、それに備えるとことが必要だと思います。

上山

そちらの地図には、第一列島線のそばに尖閣諸島が記されています。抑止力の観点からも尖閣諸島への侵攻というのも、想定していたほうがいいとお考えでしょうか?

小谷

尖閣諸島にいきなり攻めてくるということは、あまり想定はされておりませんが、ただ、中国の主張では、尖閣諸島は台湾の一部だということになっているわけです。台湾を取るという時に、仮に尖閣諸島も取れるということであれば、取りに来てもおかしくないということだと思います。

我々が行うウォーゲームで、主戦場は東シナ海とそれから台湾の東部の海域になります。中国が東シナ海での海上優勢を取れて、さらに南西諸島を占領し、そこを軍事拠点化する際に、尖閣諸島がぽっかり防衛されずに空いていれば、これは重要な政治的目標になりますので、尖閣諸島も同時に取ってしまうということはありえます。そういう意味で東シナ海の海上優勢をしっかりと日本が取っておくということは、台湾の防衛だけでなく、尖閣諸島の防衛にも関わってくると考えられます。

上山

ここまでで杉田さんは、どのようにお考えですか?

杉田

議論は要するに、アメリカがどういう態勢でこの問題に臨んでいくかと。特にバイデン大統領は何かの形でコミットメントがあるので、台湾防衛するということを公の場で明言していますし、バイデンチームの人たちは、おそらく、そういう態勢で臨んでいると思うのですが、問題はトランプさんになった時に、どうなるかということですよね。おそらく米軍なり、アメリカのインスティチューションというか、組織としては、やはり台湾を奪われることがアメリカの発展にとって大変、大きな打撃になるということは理解しているでしょう。これまでウクライナにも米軍は送らずに、何故かと言うと中国の方がより大事だから。中東においても、戦力を減らしてきている、これも中国であると。

そういうことにもかかわらず、台湾における軍事的な対立、あるいは峯村さんがおっしゃたような台湾封鎖に対して、アメリカが動かないとなると、これは同盟国である日本も含めて、あるいはNATOも含めて、アメリカは頼りにならないと。グローバルサウスも含めて、それこそアメリカは信頼できないし、アメリカの権威失墜ということになると思うのです。それはやはり、軍なり、アメリカの外交なり、安全保障やっている人たちは、それは避けたいと。ですから、そこは色んな形で抑止力も強化して、実際ことが起きた時もそれなりの態勢を取るんだと思います。ただ、問題は政治のトップ、大統領にトランプ氏が就いた場合、そういったアメリカの歴史的な位置とか社会における地位を反映したうえで、決断を下すかどうかということです。そのこと次第によって、台湾におけるシナリオが非常に大きく変わってくるし、中国もそこを一番見ているのだろうなと思います。

■台湾有事 そのとき米国の対応は…

上山

それでは今、お話にも出ました、アメリカ側の対応というのを見ていきます。峯村さん、小谷さんが警戒する、中国の台湾統一シナリオでは、お二人とも、台湾の封鎖がカギを握るとしています。この台湾封鎖を想定しているのではないかと注目を集めた中国の軍事演習があります。2022年8月、アメリカの当時のペロシ下院議長が台湾を訪問したときのことでした。中国は、台湾を取り囲むように6か所の海域で軍事演習を実施したのです。台湾からは、事実上の海上封鎖だと反発の声があがりました。

このとき中国は、統合封鎖、対海上・地上攻撃、制空作戦、空中偵察、対潜戦などを行ったと発表。さらに事前に設定した訓練エリアに対し計9発の弾道ミサイルを発射しました。小谷さん、このときアメリカは、どのような対応だったのですか。

小谷

1996年、最初の台湾総統選が行われたときの台湾危機を、第3次台湾海峡危機と言いますが、この2022年に関しては第4次台湾海峡危機と言われます。95~96年の危機の際には、アメリカは空母を台湾の近海に派遣して、中国を牽制して、中国はそこで下がらざるを得なかった。

ただ、この2022年の時点では、アメリカの空母はむしろ台湾から離れるということになりました。それは中国が今、対艦弾道ミサイルを含めて、アメリカの空母を直接攻撃できる能力を持っているからです。まさに台湾に米軍を近づけないという、中国の戦略が現実のものとなっているということになります。ただ、この海上封鎖というのは武力行使でもありますので、仮に実際に演習ではなく、本当に中国が台湾の海上封鎖をしたとなれば、アメリカは黙っていないと思います。今、紅海でフーシ派がミサイルを撃って、商船の航路を妨害しています。これにようやくアメリカもフーシ派に攻撃をすることになりましたが、航行の自由、通商の自由というのは、アメリカにとって非常に重要なものですので、台湾を海上封鎖することになれば、アメリカは黙っていなくて、それが米中の軍事的な衝突につながるということが十分考えられると思います。

上山

この点は、峯村さんはどのようにお考えですか?

峯村

「新型統一戦争」は、中国側が絵に描いた餅なわけですよね。これで上手くいって取れれば、無傷で取れればいいな、半導体も取れるという理想的な戦略なのです。ただ、改めて強調しておきますが、私も全面戦争が起こらないと言っているわけではありません。先ほどの封鎖演習の後、昨年の春ですね、蔡英文さんとマッカーシー下院議長が会った時に、軍事演習と併せて、台湾海峡のところで、福建省の政府の海警局の公船が展開しています。これは海上臨検を想定した動きだと見ています。こうした一連の演習をみても、軍事演習と臨検をあわせた「封鎖」をできる能力を整えていると見たほうがいいでしょう。ではなぜこのやり方が、私が先ほど、絵に描いた餅かと申し上げたかと言うと、劉明福氏に2019年にインタビューした時に、「武力行使を辞さないんだ」と私に言った。

これに対して、私は「参戦しますよね」と言ったら、「いやそれはしない。何故ならば、台湾はあくまで中国を封じ込めるためのアメリカの1枚のカードに過ぎない。そんなもののために、核兵器を持った我が国と全面戦争をするわけがない」と断言していました。まさに今回のウクライナにバイデンさんが取った態度を予言していたわけですよね。

私もそれを聞いて、すぐに、当時のトランプ政権の安全保障担当の補佐官をやっていたH.R.マクマスター氏にその話をぶつけたら、マクマスターさんは「それはありえない」と。「我々は歴史を見ても、いつでも必ずそこは参戦して、アジアだろうがなんだろうが、同盟国なり友好国を助けに行くんだ」と劉氏の見解を否定しました。そう考えると、まさに、双方の見立てに大きな隔たりがあるわけです。過去の戦争を調べても、こうした2カ国間に誤解や認識のギャップがあるときこそ戦争が一番起こりやすいことがわかります。「新型統一戦争」だからと言って戦争が起こらないというわけではなくて、逆に全面戦争に発展する可能性が十分あるのです。

上山

小谷さんはいかがですか?アメリカは動かないのではないかと中国側は見ているという話も含めてですが…。

小谷

中国の問題は、中国で戦略を作っている人たちというのは出てこない。当然メディアにも出てこないですし、米中の戦略対話をやってもそこには出てこないので、本当に中国が何を考えているかはよく分からないんです。しかし、戦略的に、あるいは軍事的に考えたときに、アメリカが、台湾が中国の一部になるのを黙って見ているということはありえないと考えるのが普通だと思うんですね。ですから、アメリカが介入しないだろうというのは希望的観測で、実際には介入するということに、戦略を作っている人たちは備えている可能性が高いと思います。

上山

この辺り、杉田さんはいかがですか?

杉田

中国にはアメリカと全面戦争はしたくないという思いがボトムラインとしてあると思うんです。それで中国が台湾に関して、海上封鎖であろうと、本格的な軍事侵攻であろうと、そういう動きをするならば、アメリカがきちんと対応をして、場合によっては全面的な戦争になりますよと。そのことは中国にとってどういう意味を持つのですかということを、明確にメッセージとして伝えていく必要があると思います。もちろん曖昧戦略というのは、葬る必要はないと私は思っているのですが、ただ、色んな米中の軍事対話、防衛対話、あるいは外交関係の対話の中でも、やはりアメリカの意志、レッドラインは何かということをきちんと示して、それを言葉で言うだけでなくて、実際の行動、抑止力という形で示していく。これがいわゆる双方の誤解を防ぐ、最も重要な策になっていくと思います。

 

(2024年1月14日放送)

こちらの特集では、元外務審議官の田中均氏と元統合幕僚長の河野克俊氏が台湾有事の可能性を議論しています。合わせて是非、ご覧ください。

■2021年4月4日

米中対立の中での日米首脳会談 台湾有事のとき日本は…