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#202

中国・新疆ウイグル自治区“ハイテク都市化”の深謀

米中覇権争いの中、人権問題がクローズアップされる中国・新疆ウイグル自治区。2021年1月9日の『BS朝日 日曜スクープ』は、習近平政権が新疆ウイグル自治区のハイテク都市化を図っているという、遠藤誉さんの分析を特集しました。デジタル経済と「太陽光パネル」発電による急成長を狙っています。

■新疆ウイグル自治区にショールーム開設へ

上山

アメリカと中国は新疆ウイグル自治区の人権問題を巡っても対立を深めています。ここからは習近平政権が新疆ウイグル自治区で推し進めようとしている、新たな政策について分析していきます。ご指摘をなさっているのが、遠藤誉さんです。遠藤さん、今日もどうぞよろしくお願いします。

遠藤

よろしくお願いいたします。

上山

早速ですが遠藤さん、中国の政策、端的に言うとどういうことでしょうか。

遠藤

そうですね、今、国際社会で激しい人権弾圧が問題になっている、あの新疆ウイグル自治区を、なんと、まるでSFのような未来都市にしていこうという政策が中国で進められております。したがって、私たちはその事実を見逃さないようにして、警戒を怠らないようにしなければならないと思います。

上山

未来都市という言葉が非常に印象に残ります。後ほど詳しく分析していただきます。そしてもう一方ゲストです。国際ジャーナリスト、春名幹男さんにも分析をお願いいたします。

春名

よろしくお願いいたします。

上山

どうぞよろしくお願いいたします。こちらをご覧ください。電気自動車の世界トップメーカー「テスラ」は、中国にも進出して販売台数を伸ばしていますが、去年おおみそかの発表がアメリカ国内で波紋を広げています。「テスラ」は去年12月31日、中国の新疆ウイグル自治区にショールームを開設すると発表しました。

しかしアメリカでは、新疆ウイグル自治区の人権問題に対する新たな法律が去年12月23日に成立していたのです。その法律は「ウイグル強制労働防止法」。新疆ウイグル自治区で作られたものは、強制労働で生産されていないと企業が証明できる場合を除き、アメリカへの輸入ができないことになります。今年6月から発効されます。新疆ウイグル自治区は綿製品の主要生産地で、太陽光パネルの材料でも世界で大きなシェアを占めていています。国連人種差別撤廃委員会は2018年、最大100万人のウイグル人住民が刑事手続きのないまま強制収容所に入れられているという報告書を公表していました。

遠藤さんにはまずこの2つの動き、相反する動きのようにも見えます。アメリカ国内、アメリカ政府としては中国の人権問題に対してはより厳しい法律を作った。一方で民間レベルの活動、アメリカの自動車メーカーが新疆ウイグル自治区にEVのショールームを作る。この2つの動き、背景にはどんなことがあると、遠藤さんは分析されますか。

遠藤

中国のEVの販売台数は世界一です。これはアメリカの3倍ほどになります。一方、「テスラ」のEVはこれもまた世界一で、中国と「テスラ」の利害関係が一致したと考えなければならないと思います。

「テスラ」のEVの43%は、「テスラ」上海工場で生産されております。一方、「テスラ」自身も2013年から中国入りしているのですが、最初は試行錯誤がありました。しかし、2015年に習近平の母校の清華大学に顧問委員会というものがあるのですが、その顧問委員会のメンバーにテスラのCEOのイーロン・マスクさんが入りまして、それから急激な勢いを見せ始めました。したがって、習近平とイーロン・マスクはペアで動いているんだということに、私たちは注意しなければなりません。

■米国内で波紋…バイデン政権の弱体化

上山

アメリカ国内では大きな波紋が広がっています。

菅原

今月4日、アメリカのサキ報道官です。あくまで一般論としながらも「民間部門は新疆ウイグル自治区における中国人権問題に反対すべきだ」と話しました。暗に「テスラ」を批判しているとされています。さらにウォールストリートジャーナルも「テスラが大量虐殺疑惑の渦中にある中国の新疆にショールームを開設」、さらに「電気自動車メーカーは西側を巻き込んだ人権問題を巡る紛争に直面する危機も」と報道しています。

上山

民間企業ですからもちろん、基本的なビジネスの自由はあると思いますが、このあたり春名さんはいかがでしょうか。アメリカ本国での反応、どちらかというと批判の声に近いと思います。こういった声が出るということについては、どんなお考えをお持ちですか。

春名

やはりイーロン・マスクさんというのは非常に強烈な個性の持ち主なんです。新疆ウイグル自治区に対しても、実は「テスラ」は充電ステーションをいくつも設置しています。そこにショールームを作るというのは、今回、初めてですが、しかし、他のメーカーとも争っているので当然かと。ゼネラルモーターズ、GMは上海のメーカーと一緒になって電気自動車を作るということで計画しているわけです。したがって競争なんです。彼としても、やはり俺のほうが先だという態度を示したいし、バイデン大統領はあまり怖そうな人ではないと。つまり威厳のある強い大統領だと、なかなかやりにくいんですけれど、弱い大統領なので勝手に振る舞ってしまうと。

上山

それはやっぱり支持率が上向いていないというところの基盤の弱さもあるんですか。

春名

そういうことなんですよ。去年の2つですね、1つはアフガニスタンで失敗しました。もう1つはコロナなんです。トランプ前大統領の時代にコロナで死んだ人は40万人いたんです。バイデン大統領は7月4日の独立記念日にコロナを終わらせると言ったんです。ところが、終わるどころかバイデン大統領になってからも40万人以上の死者を出していますので、やはり威厳というものを、なかなか示すことが出来ないということだと思います。

■大量の太陽光パネル…電力供給の拠点に

上山

アメリカを含め国際社会が中国の人権問題に対して批判を強めているわけですが、中国としては実は、知られざる新たな対抗策を進めていると、遠藤誉さんが指摘をしています。新疆ウイグル自治区は、太陽光パネルの材料であるシリコンの生産で知られているのですが、太陽光パネルを用いた発電施設も、この自治区では数多く設置されています。その発電規模ですが、2020年の時点で新疆ウイグル自治区からは中国国内の19の省や市に対して10年間で3000億kWh以上を送電しています。いわば中国国内での、電力供給の拠点のひとつになっているということなんです。

こうした新疆ウイグル自治区の太陽光発電の1つについて、衛星から撮影した画像でも確認したいと思います。こちらは自治区の中心都市ウルムチから東に600キロの地域のあたりを撮影したものなのですが、黄色い丸で囲った部分、こちらに長方形が規則的に並んでるように見えます。この部分をさらに拡大してみますと、このようになっています。網目状に見えてますが、調べていきますと太陽光パネルを使った発電施設があるということなんです。横が7キロ、例えばイメージすると東京山手線の東京~新宿間直線で内側6キロということですので、そこにずらっとこの太陽光パネルの発電施設があるようなイメージの規模です。

菅原

山手線の内側の半分くらいのイメージですよね。

上山

ずらっと太陽光パネルのような施設が並んでいる。しかも、こういった巨大な施設が調べてみると、ここだけではなくあちらこちらにあるということが分かってきています。遠藤さん、新疆ウイグル自治区がこのような太陽光発電の一大拠点になっているということを、私自身は知らなかったんですけれど、今、この新疆ウイグル自治区では、いったい何が起こっているのでしょうか。

遠藤

おっしゃる通り、我々が想像する新疆ウイグル自治区というのは、砂漠があったり、荒涼とした僻地のようなイメージを抱きますね。ところが実際は、全くそれと異なることが進行していて、習近平は、ウイグル自治区を最先端のハイテク化したスマートシティーに持っていこうと考えております。

その一つ、ちょっとこの映像をご覧いただきたいと思いますが、ミラー塩タワーというんです。ご存じのように太陽光パネル自身には蓄電機能がなく、蓄電させるとしたら巨大なバッテリーを必要として高くつきます。そこで生まれたのが夜間用の発電装置で、これがミラー塩タワーですけれど、1.5万枚のミラー、鏡がバーッとありまして、そこに太陽光を当てて、それを反射させて真ん中にあるタワーに集光します。

そのタワーの天辺(てっぺん)には塩があるんです。塩を高温にして、その熱を利用して蒸気タービンで発熱するという仕組みです。これには13時間の蓄熱システムの機能を持ったものが付属しておりまして、それによって24時間連続して稼働が可能であると。すなわち、発電をずっと24時間滞ることなくやることができるという意味で、太陽光パネルを補完する、未来都市と言いますか、「これがウイグル?え?」っていうような光景が展開されていると、こういうことです。

■“深圳をハイテク都市化した人物”新たなトップに

上山

本当に未来都市のような光景。こういった施設も新疆ウイグル自治区にはあるということなのですが、実はこういった発電施設だけではなく、遠藤さんによりますと習近平国家主席はさらなる長期的な計画を新疆ウイグル自治区に関して練っているというんです。冒頭で去年暮れ、新疆ウイグル自治区にアメリカのテスラ社がEVのショールームを開設するというニュースをお伝えしましたが、遠藤さんが注目したのは、その発表の直前にあった中国側の動きだということです。

遠藤

これは、習近平の狙いの本丸とも言っていいような動きです。昨年12月25日に異例のタイミングで新疆ウイグル自治区のトップ交代という人事異動が発表されました。これは「テスラ」のショールームの発表とも、ハイテク化という意味で連動している動きだと見なさなければならない。というのは、新しいトップはデジタルとか、ハイテク技術に関して非常に詳しい、辣腕の持ち主だからです。

上山

今、遠藤さんがご指摘した人物がこの人です。中国メディアが去年の12月25日、新疆ウイグル自治区トップが交代して、新たに広東省ナンバー2である馬興瑞(ば・こうずい)氏が就任すると伝えました。

菅原

いったいどんな人物なんでしょうか。馬興瑞氏は元々宇宙工学が専門です。中国の宇宙開発を担っている国家航天局の局長などを経て、中国のイノベーションの中心地である広東省深圳市トップの書記を務めました。さらにその後、広東省のナンバー2副書記などを歴任しているわけなんです。遠藤さんはこの人物が新疆ウイグル自治区トップに就任したことに注目されているわけですね。

遠藤

はい、この人に関して最も注目しなければならないのは、広東省をものすごく経済発展させたということ。したがって、新疆ウイグル自治区をも経済発展させるということが狙いだろうと。しかも、中国のシリコンバレーと呼ばれる深圳を、アメリカに脅威を与えるほどまでに加速化させて、ハイテク化に向けて磨きをかけて、深圳をアメリカが恐れるハイテク都市にまで成長させた人物なのです。これはすなわちウイグルを、太陽光パネルとデジタル経済によって、アメリカに脅威を与えるようなハイテク都市に成長させていくという狙いなんだろうなということが一番注目されるということです。

上山

この人物は、アメリカが恐れるほどのハイテク都市に深圳を高めた本当に辣腕の持ち主ということなんですが、その人物を今回、新疆ウイグル自治区のトップにすることは、習近平国家主席の戦略の中で、どのように位置づけることができるのですか。

遠藤

習近平が中国共産党総書記になったのは2012年11月、その翌月の12月にまず最初に訪れたのが深圳なんです。深圳というのは実は習近平の父親の習仲勲(しゅう・ちゅうくん)が最初に「経済特区」と位置付けて開拓した都市なんです。

その後、手柄を鄧小平が持って行ってしまいましたが、実は習仲勲です。習近平にとっては父の魂が沁み込んだような、その深圳を成長させた馬興瑞をウイグルに持ってきたということには、非常に強い意志があって、馬興瑞が就任にあたってスピーチをしたんですけれど、そのときに「私は習近平総書記の熱意を込めた直接の依頼をしっかりと心に受け止めて、新疆ウイグル自治区の発展に貢献したい」という趣旨のことを言っています。何が何でも新たに新疆ウイグル自治区に行って、深圳のように、中国のシリコンバレーのように驚異的なハイテクシティにしてくれということを頼んだんだと考えられます。

■“新疆ウイグル”統治が新段階に

上山

新疆ウイグル自治区をまさに深圳のようにしてほしい。深圳に対しては、習近平国家主席としては父親の習仲勲氏への思いもあるということです。遠藤さん、これまでの新疆ウイグル自治区のトップを務めてきた陳全国氏という人物、この人物については職業機能教育訓練センターと称した施設に対して、ウイグル族の収容を進めるなど、抑圧的な政策をとったとされています。その人物から今回、馬興瑞氏に変わるということで、新疆ウイグル自治区の統治が新たな段階になるというわけですね。

遠藤

はい、そのとおりです。新たな段階に入ります。元々、新疆ウイグル自治区は中国の中でも最も監視が厳しいところで、もうこれ以上監視はできないというぐらいネットワークができているわけです。つまり厳格な監視社会なわけです。今般は監視社会というネットワーク、デジタル化されたシステムを逆に利用して、デジタル経済と太陽光パネルの基地というスマートシティーを形成していこうと考えているので、この監視が非常に強かったということは、実はデジタル社会にしていく、ハイテク化していくにあたって非常に都合がいいんです。習近平はさらにそれによって、いわゆるジェノサイド問題をかわそうとしている。ここはやはり私たちが一番見逃してはならないところなんです。中国共産党というのは、私など小さいころに長春で餓死死体の上で野宿するという経験をしたことがあるんですけれど、中国共産党が統治する中国の繁栄というのは、屍の上に成り立っていると見なしても過言ではない。天安門事件にしても同じです。中国共産党の一党支配体制が維持されるためには人命の犠牲というのはスルーされてしまう。新疆ウイグル自治区を見るときに、私たちは中国共産党の統治の仕方というものをしっかり注目しなければならないと思います。国際社会から人権問題としてどんなに非難されていようと、「なかったもの」として新疆ウイグル自治区を経済繁栄させるつもりなんです。

上山

新疆ウイグル自治区に対しては、経済繁栄というある種、果実のようなものを与えることで、住んでいる人たちについては納得させる。そんな意図もあるということなんでしょうか。

遠藤

中国人の多くは、ともかく経済を繁栄させてくれるならば、その党が正しいという考え方を持っています。したがって今、中国共産党は中国を経済繁栄させてくれているので、中国共産党を正しいと思っている若者が非常に多い。そういう人民が非常に多い。中国という国は、そういう性格を持っています。

上山

河野さんはここまでご覧になっていて、どんなことをお感じになりますか。

河野

遠藤先生が言われるとおり、共産国家において、地上の楽園とか毛沢東時代の人民公社、ソ連の集団農場のコルホーズ、ソフホーズですね。非常にモデルケースとして第一線でやったんです。でも内実は全然違ったわけです。言われた通り、犠牲の上に成り立った組織で、大変な餓死者を出すというような状況だったんです。したがって、今回についてもやはり、そこは上辺だけではなく、内情をよく見なくてはいけないと思います。

■未来都市化の長期戦略と監視社会

菅原

遠藤さんに伺いたいんですけれど、新疆ウイグル自治区のスマートシティー化、未来都市化というのはいつ頃から構想を練っていたとお考えですか。

遠藤

先ほども申し上げた通り、2015年にイーロン・マスクさんが清華大学の顧問委員会のメンバーになりました。同じような時期の2016年に国家エネルギー局という中央行政省庁があるんですけども、この国家エネルギー局が太陽光発電に関する大きな国家プロジェクトの案を発布いたしました。これは2015年に発布されたハイテク国家戦略「中国製造2025」の一環なんですね。

これらが一体となって、この国家エネルギー局が出したプロジェクトには、新疆ウイグル自治区が対象の一つになっておりますので、そういう長期的な計画に基づいて動いているとみなしていいでしょう。もともと新疆ウイグル自治区は中央アジア5カ国から石油とか天然ガスをパイプラインで引き入れて、中国全土に電力、エネルギー源を配布する役割を果たしていたんですけれど、今、そのエネルギー源を太陽光パネルに置き換えていこうとしていると、こういうふうに位置づけるべきかと思います。

菅原

この構想が完成するのはいつ頃のイメージなんでしょうか。

遠藤

完成ですか、なんともまだ完成の時期に関しては述べてませんし、また「完成」という終点があるわけでなく、どこまでも進歩させていくということを続けるでしょうけど、少なくともあと5年間、彼の任期は5年間になりますので、5年間のうちには、ある一定段階までは達成しようということになろうかと思います。彼というのは新しいトップですね。新疆ウイグル自治区の任期は5年間ですので、その意味では習近平ももちろん第3期は当然のことながらそれを務めながら、新疆ウイグル自治区のハイテク化というのを見届けるということになろうかと思います。

上山

春名さんはいかがでしょうか。

春名

やはり経済的に繁栄させるということは、遠藤先生が言われたように、さらに重要な都市になるわけです。そうすると、やはり管理社会と言われたものが、超管理社会になるんじゃないかということで、アメリカが注目しているのは、例えば警察業務のデジタル化なんです。要するに監視して犯罪者とみられる人を追跡して、犯罪に手を染める前に、予防検束のような形で捕まえると。そういった形で治安を強化していくだろうと。新たな企業、太陽光パネルだけじゃなくて、もっと、これは河野さんに聞かないとダメなんですけども、軍産複合体、軍事ミサイル技術を持っているような中国電子科技集団公司というのがあるんです。その会社がすでに進出しているんです。ここでやはり彼らがやろうとしているのは、まさに超管理社会を作ろうということだとアメリカは警戒しているわけなんです。ここから同じような独裁主義の国に対して、そういった装置を輸出するということにもなりますので、その点もアメリカは警戒していますね。

上山

未来都市、非常に煌びやかなようにも私たちは見てしまうんですけど、その裏側をしっかり見ていかないといけない。そこでは強烈な管理社会であったり、人権がある種、なかなか担保されないようなことが起こってくる恐れもあるというご指摘です。

河野

いやまさに、今もおそらく相当な監視社会になっているんですけど、こういうスマートシティーみたいになると、どんどんどんどん監視社会になっていくということは自明だと思います。

上山

これまで知られていなかった新疆ウイグル自治区のハイテク産業化。基幹産業は太陽光パネルの生産なんですけれど、特集の冒頭でお伝えしたとおり、こちらの法案ですが、アメリカは、新疆ウイグル自治区で生産されたものは強制労働で生産されていないという証明がなければ輸入を禁止するという、厳しい法律を成立させました。遠藤さん、新疆ウイグル自治区で太陽光パネルを作ったとしても、中国としてはアメリカに輸出できない可能性があると思うのですが、中国にとっては痛手とはならないのでしょうか。

遠藤

あまり痛手とはならないです。そもそも昨年6月にアメリカがウイグル自治区にある太陽光パネル関連の5企業に制裁を加えたとき、アメリカのウォール・ストリート・ジャーナルが、「痛手を受けるのはむしろアメリカの方で、アメリカで販売されている太陽光パネルの約85%は輸入品で、その多くは中国企業が製造している」とした上で、「2035年までに電力網をカーボンフリーにしたいと考えているバイデン政権にとって、中国の太陽光パネル産業を制裁ターゲットにするのは難しいのではないか」と報道しています。もっとも、これは部品に関してだと、私は思っていますが。

一方、中国は、実は国内の電力が不足していて、昨年も停電が起きたりして、非常に大きな問題になりました。電力が不足すると生産がストップしてしまいます。そこで、その足りない電力をなんとしても、今度は太陽光パネルで新疆ウイグル自治区以外の東の方に送っていこうと、そういう送電システムを作ろうとしております。したがって、習近平にとってはアメリカへの輸出に頼る必要は全くなくて、中国国内にどんどんその電力を提供して社会不安を鎮めていくということが彼にとっては重要です。

チベットとかウイグルとか、宗教性のあるところは中国共産党を信仰しないという意味において、中国政府は弾圧を強化しているわけなんですが、視点を変えると、アフガニスタンもイスラムですね。そうすると習近平としては、アフガニスタンを治めることができなかったアメリカに代わって、イスラム圏である新疆ウイグル自治区を繁栄させることによって、アフガニスタンとの交易も盛んにさせようとしています。同じイスラム同士ですからね。そして世界の統治能力というのは、中国の方があるんだぞということを見せたいという狙いがあるということが、メッセージの端々に出てまいります。

菅原

遠藤さんによりますと、春名さん、強制労働防止法は、中国側には、あまりダメージがないということなんですけれど、物が入ってこないアメリカの方にもダメージがあるということを考えられるわけです。それでも、なぜこの法律をアメリカ側は作ったのでしょうか。

春名

実はアメリカは、すでに中国からソーラーパネルをほとんど買っていないんです。かつては確かに、アメリカの市場は安い中国製のソーラーパネルが凌駕していました。というのはアメリカ政府が高い関税をかけたので、ものすごく高くなり、中国メーカーは組み立てラインを台湾から、東南アジア、マレーシアやベトナムへと移して、関税を逃れたのです。結局米国が輸入するソーラーパネルは全体の80%がマレーシア、ベトナム、タイが占める結果となりました。しかし、輸出国は変わっても、生産者は中国メーカーです。なので、トランプ前大統領は、輸入のソーラーパネルすべてに追加関税をかけることを決定したので大変なことになりました。米国の「ソーラーエナジー産業協会」(SEIA)はこのままだと、向こう2年間、米国では品不足になって、設置するソーラーパネルが約30%減ってしまうと恐れました。他方、中国企業からの輸入に反対する「中国の策略に反対する米国ソーラー製造者」(A-SMACC)は米商務省に、マレーシアやベトナム、タイで操業しているのは中国のソーラーパネル・メーカーかどうか調査するよう要請しました。しかし、商務省はそれを拒否したので、米国に十分なソーラーパネルが供給されるかどうか、不透明な状況になっていると思います。

他方、バイデン大統領は昨年6月、新疆ウイグル自治区で太陽光パネルの原料などを製造するメーカーが生産工程で「強制労働」があったとして輸入を制限する措置を発表しました。合盛珪業などの4社のほか、軍部との関係がある新疆生産建設兵団(XPCC)という団体も対象リストに加えられました。これは経済的影響を考えた措置と言うよりも、人権侵害を問題にした措置と言えます。

上山

河野さんいかがでしょうか。この米中対立の中で新疆ウイグル自治区における人権問題、よりクローズアップされてきているんですけれど、日本としてはこれどう向き合うべきなんでしょうか。『アンカーの眼』でお願いいたします。

河野

したたかさと弱さは違うということを言いたいんですけれど、人権問題を含めて対中外交ですが、今、岸田総理は、したたかな外交を展開すると言っておられるんです。これはその通りやっていただきたいんですが、これが中国側から見て、弱さと認識をされないようにしてもらいたい。というのは1989年の天安門の時は、いわば日本が西側の一番弱い環だということ、彼らは判断して、そこを断ち切ったと中国が言っているわけです。ここは、したたかさでやってもらいたい、弱さと見られるようなことは絶対にダメだということだと思います。

上山

きちんとした態度で臨んでほしいですね。

河野

そうですね、したたかさは弱さではないと思います。

■「デカップリングは痛手」「証拠を入手し国際世論に」

上山

ここまでは米中覇権争いの中で着々と進んでいた新疆ウイグル自治区でのハイテク産業化という、これまで本当に注目されてこなかった中国の計画というのを分析してきました。遠藤さんは、この新疆ウイグル自治区の人権問題に対して中国に対して効果的な策、これは何だとお考えでしょうか。

遠藤

効果的な策というのはデカップリングをすることです。サプライチェーンのです。アメリカから制裁を受けているので、日本がいるから大丈夫ということで日本に向いてニコニコしているので、ここでデカップリングをしてしまうということは非常に中国にとって痛いです。しかし日本は「政冷経熱」なら大丈夫とばかりに、日本の最大の貿易相手国は相変わらず中国です。それから日本は対中非難決議案あるいは日本版マグニツキー法というものを議決・制定するのを嫌がって、どんどんそれを先延ばしにしていますが、これは先ほど、河野さんが「したたかさと弱さ」という言葉で見事におっしゃっておられましたように、中国から見れば、まさに日本の弱さ、すなわち中国の顔色を見てからじゃないと動けない日本の弱さというふうに位置づけていますので、そういうところで、きっぱりした姿勢を日本は中国に対して見せていかないといけない。そうじゃないとお前はどちら側なんだと見なされます。それは日本の存在感にとって非常に良くないと思います。

上山

春名さんはどうお考えでしょうか、中国に対して効果的なこと。

春名

証拠というものが一番重要だと思いますね、例えば先日も、女子テニスプレーヤーの彭帥さんの問題が出ました。今、あの話はどこへ行ったのかわからないです。つまり真相がわからないんです。ウイグルについても、映像などが出てきて、こんなひどい政治犯だとか、百万人もの人たちを拘束しているといっても、見た人はいないわけです。したがって、やはり報道の力というのは大きいし、アメリカもそういう人権侵害に関する証拠を出して、世界の世論を動員するということにならないと中国はなかなか動かないと思います。

上山

河野さんはどんなことをお感じになられますか。

河野

先ほど申し上げた通り、繰り返しになりますが、中国から弱いと見られない、したたかな外交をしていただきたいと思います。

(2022年1月9日放送)

■解説者プロフィール

【遠藤誉】

中国グローバル問題研究所所長。中国革命戦を経験し、1953年日本に帰国。『習近平 父を破滅させた鄧小平への復讐』など著書多数。

【春名幹男】

国際ジャーナリスト。元共同通信社ワシントン支局長。著書『ロッキード疑獄 角栄ヲ葬り巨悪ヲ逃ス』が「石橋湛山記念 早稲田ジャーナリズム大賞」文化貢献部門で大賞を受賞。

【河野克俊】

前統合幕僚長。歴代最長となる4年半、自衛隊制服組トップを務める。著書に『統合幕僚長 我がリーダーの心得』。