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#72

突然の“総裁4選論”…“ポスト安倍”有力候補・岸田政調会長に聞く

自民党の二階俊博幹事長の発言で急浮上した“安倍4選論”。2019年3月24日のBS朝日『日曜スクープ』には、岸田文雄政調会長が生出演し、「誰が見ても早い。総理も戸惑っているのではないか」と述べました。元鳥取県知事で総務大臣の経験もある片山善博氏もゲスト出演し、党則の信頼性にかかわると指摘しました。

■連続で戦後最長の外務大臣在任

山口

ゲストのご紹介です、自民党、岸田文雄政調会長です。次期総理の有力候補とみられています。ぜひ今日は宜しくお願いします。そして、片山善博(よしひろ)さんにも加わっていただきます。まず岸田政調会長のプロフィールを改めて紹介します。大木さんお願いします。

大木

岸田政調会長は1957年生まれで現在61歳。初当選は1993年で以来、当選9回、2007年に初入閣し、2012年からは宏池会の会長に就任。同じく2012年から、連続としては戦後最長の4年8か月に渡って外務大臣を務めました。憲政史上初めて防衛大臣を兼務した時期もありました。そして、2017年からは自民党政調会長を務め、ポスト安倍の有力候補として名前があがる、立場でもあります。

山口

番組では岸田さんが仮に将来総理大臣になったらどんな日本を作りたいのか?そのあたりを詳しく伺いたいと思いますが、まずは外交からです。岸田さん、非常に長い間外務大臣を務められました。その中で例えば日韓関係、米朝関係、いろいろなことがあると思うんですが、今、米朝関係が非常にまた難しい状態に来ていますよね。トランプ大統領が合意ができなかったということがありました。今のトランプ大統領の北朝鮮との向き合い方、どのように見ていらっしゃいますか?

岸田

米朝会談、今までで2回行われてきました。そして2回目の会談、結局物別れになったという評価になっているわけですが、私はやはり中途半端な妥協や譲歩をするよりは毅然とした対応と、これは評価できるのではないかなと思っています。問題は、これから次にどうつなげていくのか、ここが大事だと思っています。中途半端な妥協・譲歩によって相手に間違ったシグナルを与えてはならない。これは大事なことだと思いますが、是非こうした対話、議論は進めることによって結果に繋げていく努力、これはしっかり続けていく必要があると思っています。

山口

岸田さんが外務大臣の時期、北朝鮮と、日本もそうなんですけど、非常に緊張した状態でしたよね。確か岸田さんが防衛大臣を兼務した、その日にミサイルの発射などもあったと思うんです。あのころは相当厳しかったですよね。

岸田

私が外務大臣務めていたのは4年8か月近くですが、その間においてもいろんな動きがありました。日朝の間でストックホルム合意という合意に基づいて調査を再開するなど、こういった動きもありました。その一方で後半は北朝鮮がかなりの数のミサイルを発射し、我が国の排他的経済水域の中に着弾させるなど、大変深刻な事態が続いた、こういったことでもありました。波はありますが、なかなか対話という雰囲気には程遠いそんな状況だったと思います。

山口

岸田さんといいますと、やはり平和外交というところがすごく私たちは思いが至るんですね。その象徴が広島が地元で、オバマさんの広島訪問を実現しました。あの意義はどんな風に考えてらっしゃいますか?

岸田

昭和20年、原爆が投下されてから広島の街も復興し、今日に至っているわけですが、その間、広島市民、多くの人たちがいつかアメリカの現職の大統領に広島に来て、被爆の実相を見てもらいたい、こういったことを言い続けてきました。ただ半分は実現するのは不可能だなとそんな思いで会話をしていた。こういったことだったと思います。この半分は無理かなと思っていたものが現実に起こった。現職のアメリカ大統領が被爆地を訪問して被爆の実相に触れてもらい、そして世界に向けて軍縮不拡散に向けてスピーチを行った。このことは広島市民にとっても大変大きな出来事だったと思うし、日本国民、そして世界に向けても大きなメッセージにもなったと思います。

■「日本は合意の中身すべて実行」

山口

引き続き、自民党の岸田政調会長にお話しを伺っていきます。今の日本の外交でいいますと、やっぱり日韓関係が非常に厳しい状況にあるわけですよね。今の状況をまとめてみました。2018年10月から元徴用工訴訟、その後レーダー照射、さらに今年に入ってからも慰安婦財団の法人認可取り消し。そして韓国の文喜相議長による天皇陛下への謝罪を求めるという発言もありました。岸田さんの外務大臣在任中と、ガラっと変わっていると思うんですが、今の日韓関係どうとらえていますか?

岸田

大変残念な状況、厳しい状況になっていると思っています。徴用工問題・慰安婦の問題、さらにレーダー照射問題、これ以外にも竹島への上陸問題などですね。様々な動きがあるわけですが、韓国側の対応を見ていますと、大変感情的な対応が見られます。また、言っている説明あるいは主張がころころ変わる。こういった事態も随分見ることができます。どうも未来志向で物事を考えるという姿勢が見られない。これから来年は韓国において総選挙も予定されている。そして韓国国内大変経済が厳しい。こういったことを考えますと日本に対して厳しい対応、まだしばらく続くのではないか、こんな心配をしています。

大木

片山さんは、現在の日韓関係をどう思われていますか?

片山

とっても厳しいと思いますね。岸田さん言われたように、どうも先方が感情的になったりしますよね。我々の方は、またこっちも感情的になることはなくて言うことをきちっと言う、という態度が必要だと思いますね。あと日韓関係で言うと、基本的にそんなにいい時は長くはないんですよね。私は昔、自治省という役所で今、総務省ですけど、国際交流を担当していたことがあります。そこで日韓の自治体間交流を随分進めたんですが、その時のアドバイザーが須之部量三さんといって、外務事務次官、駐韓大使をやられた方でとっても立派な方だったんですよ。その方がですね、日韓関係は賽の河原の石積みのようななとこがあるんだと。うまくいっていると思ったら、すぐ誰かが出てきて壊してしまうんだと。だから長い目で見なきゃいけないし、忍耐が必要だとしきりにおっしゃっていましたけどね、本当にその通りだと思いますね。

山口

今おっしゃったように、うまくいったかと思うとまたひっくり返るということの象徴の一つがですね、ちょうど岸田さんが外務大臣をされていた時に合意された日韓の慰安婦問題なんですよね。2015年の日韓慰安婦合意の内容です。

●日本政府は責任を痛感する
●安倍総理は心からのおわびと反省の気持ちを表明する
●大使館前の少女像は韓国政府が適切な解決に努力する
●日本政府が10億円の資金を拠出し韓国政府が慰安婦支援の財団を設立する
●最終的かつ不可逆的な解決を確認する
特にこの最終的かつ不可逆的だったはずなんですよね。岸田さん当時の韓国政府はこのあたりしっかり理解していたと捉えていいんでしょうか?

岸田

もちろんです。慰安婦問題についても、この2015年の段階に至るまでも色んな動きがありました。色々な努力はされてきたわけですけど、日本側から言わしてみれば、ゴールポストが次々とずらされていく。こういった感情を強く持っていました。ですから今回こそ、最終的・不可逆的に解決しようと強い意志で臨みました。そして合意の中身、両国の外相がテレビカメラの前に立って自らの言葉で世界に向けて宣言する、こういった形を取りました。そして両国の外相の発言は、会見の前に発言の文言、綿密に両国で打ち合わせて、この通り両国は発言するということを確認した上で会見に臨んだ。この発言の中身も念入りに両国の間で打ち合わせをして会見に臨んだ。その上で最終的、不可逆的にこの問題を解決する。今後、両国政府は国際場裡において、この問題に関して相手を非難することはもうしないと宣言した。こういったことでありました。これを世界の人々が映像を通じて見聞きした訳です。そしてそれを高く評価した。これがその合意の評価であったと思います。やはり世界が高く評価した合意の中身、実行するのは両国の責任だと思います。日本は合意の中身すべて実行しました。韓国にも引き続き、合意の中身、実行してもらうべく、引き続きしっかりと働きかけ続けていかなければいけないと思います。そして、こうした両国のありようについて、この合意を評価した国際社会にしっかり見てもらってそして今の状況をどう考えるか。これを考えてもらう、こういった取り組みも大事なんじゃないかと思います。

山口

慰安婦合意の中で特に慰安婦財団ですね、日本が10億円を拠出してできた。これを韓国側が法人認可取り消し、つまり解散しようという動きに出ています。これはいかがでしょうか?

岸田

これは日本としては絶対に受け入れられない行為だと思っています。先ほども言いました、世界が評価した合意の中身、日本はすべて実行しました。韓国にもすべてこれをしっかり実行してもらう。こういった努力をしてもらわなければならないと思っています。

■「徴用工問題は歴代韓国政府も解決済みと」

大木

そして現在、差し迫っている問題というのが元徴用工問題です。岸田さん、2015年の慰安婦問題で合意に達した時というのは、韓国政府は元徴用工の問題に関しては問題にはしていなかったということですよね?

岸田

当然です。日本と韓国の間の請求権の問題。これは、1965年の日韓請求権協定において最終的に解決したということで合意に至っています。徴用工の問題も、その解決したものの中に含まれる。よって個人の徴用工の方々に対する対応は韓国政府が行うというのが歴代韓国政府の考え方だったはずです。これはたびたび確認されています。慰安婦問題については、1965年の請求権協定が議論された段階においてまだ広く知られていなかった、議論の対象になっていたんだろうか、こういった疑問があったがために、その後、慰安婦問題について議論をするということになったと理解していますが、間違いなく徴用工の問題は、請求権協定の対象であるということを日本も認識していましたし、歴代韓国政府もその認識に立っていたと私は理解しています。

山口

つまり、徴用工に関しては解決済みであるという認識が日韓ともにあったと思うんですが、現実的には日本企業への賠償金問題というのが出てきていまして、実際に心配されるのが、日本企業に実害が及ぶことなんですよね。改めて、こちらで確認しておきたいんですけれども、まず現状です。まず2月15日なんですが、新日鉄住金の韓国内の資産売却手続き開始が宣言されました。そして3月7日には三菱重工の韓国内の資産差し押さえ手続きが始まりました。つまりこのままいきますと日本国民の財産が侵害を受けるという事態にもなりかねないわけです。そうなった場合には、じゃあどうするんだということが自民党の中でも色んな議論が出てきていますよね。例えば経済制裁を科そうというような強い意見も出てきているという風に聞いています。岸田さんは今どんな風に感じていますか?

岸田

条約の中身には当事国の政府のみならず、司法も含めて全体が拘束されるというのが国際法の考え方です。よって1965年の請求権協定によって、拘束されるのは韓国政府だけではなくして、韓国の司法も含めて国全体が拘束されるという考え方が国際法の考え方ということです。よって、この条約の考え方からして、司法の今回の判断、韓国の司法の判断、これ自体がとても受け入れられるものではない。こういったことなんだと思います。ですから、国際法の考え方、条約の考え方、これをしっかりと訴えて、どうあるべきなのか、日本はまずそれを主張しなければなりません。ただ、現実、日本の企業に不利益が生じるということになったならば、これは日本政府として、黙っているわけにはいかない。現実は対応を考えなければいけない。こういったことだと思います。ただ、まずは基本的な部分、国際法における考え方、これをしっかり訴えて、国際社会に日本の考え方・立場を訴えていく。これがまず第一であると思います。それを中途半端にしたまま、現実の対応に議論を矮小化させてしまうと、これはまさに泥仕合になってしまう。ですから、この両方をしっかりと考えていかなければいけない。このように思います。

山口

そのところで具体的に伺いたいんですが、今、日本側は日韓請求権協定に基づいて協議を要請していますよね。ところが韓国側は応じていません。結局そうすると韓国側を交渉のテーブルにつかせるためにはどうしていけばいいんだという風にお考えですか?

岸田

協定に基づく協議の仕方、これが定められています。これに基づいて日本は協議を求めているわけですが、それでも協議に応じないということであるならば、国際司法の枠組み、国際司法裁判所をはじめとするさまざまな枠組みを検討していかなければいけない。ただ、これとて技術的にはなかなか相手国の合意が必要になってくるとか、色々なハードルがあります。国際世論にしっかりと訴えていかなければいけない。それはしっかりと進めた上で現実への対応も並行して考える。これが日本としては取るべき道なのではないかと思っています。

■1月に「一強状態からの脱却」と発言

山口

今度は岸田さんにぜひ国内の内政についてお話を伺っていきたいんですね。岸田さんが正月、初詣の時にこういう発言をされているんです。1月4日の発言なんですが、「政治の安定、信頼回復という観点からいわゆる一強状態からの脱却、こういったことを考えていかなければならないのではないか。世の中で言われている政治の一強と言われる状況は官邸の立場に立っても、党の立場に立っても、決して好ましい状況だとは受け止めていない。」ということでこれはもうずばり〝ポスト安倍〟としてのご決意かと思ったんですが、いかがですか?

岸田

この意味は議院内閣制において、政府と与党の関係、これは車の両輪であるはずだということです。与党と政府が車の両輪として、もちろん連携もしなければいけないわけですが、お互いに相手をしっかりと監視する、チェックをする、あるいは補う。こういった関係をしっかりと続けていくことが政府与党全体の信頼につながるという風に思うんですが、その中で一強、片方だけ強いという事になりますと、結局、政府与党の車の両輪が上手く機能していない。結果として、全体の信頼を損なうことになってしまうのではないか。よって一強の状態だと言われるのであれば、この弱いとされる党の方がより力をつけて、発信力を高めてバージョンアップする事によって車の両輪のバランスを取ることが大事だと。そういう事によって政府与党全体の信頼を高めていこうではないか。今年の正月の議論はそういう意味で申し上げました。

山口

なるほど。その他にも岸田さん非常に綺麗におっしゃるので、すごく「なるほどな」とは思うんですが、もっといろいろ伺いたいお話がありまして、岸田さんが会長を務めている宏池会ホームページにも色々な発言が載っているんですね。まずはこちらです、これは岸田さんが望んでいる、作ろうとする政治の姿だと思うのですが、「トップダウンからボトムアップへ」「対症療法から持続可能性へ」「自立した個人、個性多様性を尊重する社会へ」というようなことが書かれています。さらに去年6月の発言にいきましょうか。「官邸に力を集めて日本もトップダウンで素早い判断ができるように努力を行ってきた。しかし最近官僚が委縮してしまっているのではないかという指摘がある」さらに、これは今年2月の発言なんですが、「トップダウンは効きすぎてしまうと色々な弊害が指摘されている。国内政治を見ればそういったことも感じる」という事で、やっぱり今の政権、安倍総理は非常にうまくやっている面があると思います、私たち国民としても。ただ一方で、やっぱり官邸主導が行き過ぎる、トップダウンが行き過ぎるといろんなところに問題も生じるのかなと思うんですが、どんな風にお感じになっていますか?

岸田

政治において物事を決める際にトップダウン、すなわちリーダーが物事を決めてそれを下に徹底させるこういった手法とボトムアップ。みんなで議論してそれぞれの意見を積み重ねていく事によって結論を出す。こうしたトップダウンとボトムアップ2つの手法があります。トップダウン、世の中が物凄いスピードで大きく変化する中にあって物事を決断する際にはこのトップダウンが大変重要だという事です。一方でトップダウンが効きすぎてしまうと、一人一人の意見、下から積み上げる意見、これが蔑ろにされてしまう。こういった事にもなりかねません。要はこれ、バランスが大事ですし、そして政治の判断をする際にどこでトップダウンを使うか。そしてどこでボトムアップを使うのか。この両方の手法を賢く使い分ける政治、これが結果として国民から信頼される政治、そして一方で結果を出せる政治に繋がっていく。こういった事なんだと思います。トップダウン、強いリーダーシップを発揮する、これは大事なことだと思いますが、このバランスが崩れると逆に信頼を損ねてしまう事にもなりかねない。また民主主義において国民の不満にも繋がりかねない。この辺のバランスは大事だという事を様々なところで申し上げた。今、紹介頂いた発言はそういった事だと思っています。

山口

片山さんはこのあたり、安倍さんの一強体制についてはどんなご意見お持ちでしょうか?

片山

例えば官僚の人たちと接しますとやっぱり昔に比べますと、それこそさっきありましたけれど萎縮していますね。考えなくなっている、例えば本当は政策を考えないといけないですよね?ところが「もうこれ上からの指示だからこれでいいんだ」というような、いささか投げやりな態度が見られますよね。「それじゃいけないんじゃないか」と後輩の人たちに言っても「そんなこと言ってられないんですよ」というようなところが見られます。これはやっぱり良くないですよね。それから自民党も、例えば昔、私、税の仕事をやっていたんですが、自民党税制調査会というのは本当にボトムアップでして、徹底的に議論したんですね。最近その税調の幹部の方に話を聞くと、「もう決まっちゃっているんですよ、議論する前に」という所が見られたりします。あともう一つ自治体なんですけど、草の根で自治体からいろんな政策課題が上がってきたり、解決のヒントが上がってきたりしなきゃいけいのですけれど、ここもまさにトップダウンで中央官庁の言う通りに従うというような、そういう傾向がやっぱり気になりますね。

山口

だからやっぱりいろんな組織の在り方ってあると思うんです。トップダウンが確かに動きも早いですし、決断しなきゃいけないってこともあると思いますが、あんまりそれが行き過ぎると下の組織でみんながやりたいことがあるんだけど、それを考えなくなっちゃうっていう所がどうしても弊害として組織論ですけど出てくる面もあるとは思うんですね。実際、自民党内でも「もっとこういう事やりたいんだけど」とか「こういう事考えているんだけどだけど上からこう言われるんで」っていうような不満とかないんでしょうか?

岸田

日本の国は、かつては、ボトムアップが効きすぎて、この時代の変化に十分ついていけない。こういった批判を浴びた時代がありました。その後、橋本内閣、橋本行革の時代からより官邸の権限を強める。トップダウンの手法を大事にしていく、こういった傾向が強まってきた、こういった歴史があります。しかし、現状においては、トップダウンとボトムアップのバランスが悪くなっているのではないか。このように認識をしています。ですから今自民党の中でも、今、私は政務調査会長を務めていますが、政務調査会の改革を進めていかなければいけないということで、様々な組織のスリム化ですとか、年末の予算も予算大綱という文章を自民党はまとめるわけですが、具体的な数字を見ずに大綱をまとめているとかというような部分があったんで、昨年末は大臣折衝の前に具体的に我々が数字を見た上で、しっかり議論しなければいけないということで、その議論の充実に努めたり、それから選挙の公約を、やはり党としてこの選挙に臨む国民との約束の重要性を考えた時に、しっかり議論しなければいけないのではないかという事で公約政策評価委員会、公約作成委員会、こういった物を自民党の中に作って議論を進めるなど、やはり自民党の中でボトムアップで、しっかりとした結論を出していく、こういった仕組みを充実させる。こういった取り組みを通じてトップダウンとボトムアップのバランスをしっかり取っていく。こうしたことを政調改革という形で進めている。これが今の自民党の現状です。

■“安倍4選論”「総理も戸惑われたのでは」

山口

岸田さんにズバリ伺っていきたいんですが、まずは二階幹事長の先日のこの発言です。

自民党・二階俊博幹事長 3月12日
Q.総理の4選を可能にするということについて幹事長としてはどのように思っていますか?
「この状況においては十分にありうることだと思いますが、今から申し上げることではありません。」
Q.総裁任期を延長することによってそういう懸念というのは、どのように考えますでしょうか?
「余人をもって代えがたいという時には何ら問題は無いと。」

山口

というように、二階幹事長は安倍総裁の4選は十分にありうるんだという発言でした。安倍総理は正真正銘3期目が最後の任期になると、4選については否定してはいるんですが、岸田さんは、この二階さんの発言どう捉えていますか?

岸田

ご発言の趣旨は、ご本人しか分からないと思いますが、安倍総理の3期目の任期始まってまだ半年しかたっていません。この段階で4選の話が出てくる、やはり誰から見ても少し早いなという印象を持つ。こういったことだったんではないかと思います。やはり政治の世界一寸先は闇です、今年も選挙の年という事でこれから統一地方選挙、衆議院の補欠選挙、参議院選挙があります。また様々な政策課題もあります。色んな事がこれからあるんだと思います。その中で任期が始まって半年しか経っていない段階で次の任期の話が出てきた。安倍総理自身も戸惑われたのではないのかなと思います。それが安倍総理の発言にもなっているのではないかと、想像しています。

大木

この発言の後に、二階幹事長にはお会いにはなりましたか?

岸田

自民党の総務会とか役員会とか色々なところで、隣り合わせで座っております。

大木

目は合わせましたか?

岸田

この話題でお話したことはありません。

山口

その真意を聞いたりはしなかったんですか?

岸田

していません。

山口

片山さんはどうですか、この二階さんの発言このタイミングで言ったことについてどう感じていますか?

片山

真意はご本人しか分からないでしょう。ただ政治の場合はこの発言を真意とは別に、その時の政治の文脈で勝手に解釈しますから。そういう意味で言いますと例えば、自らの存在感を示したかったのかなとか。あるいは次期総裁候補にちょっと再あてこすりをしとこうかな、と思ったとか、ひょっとしたら安倍総理自身に対する再あてこすり、かも知れませんね。今の時期に4選を言ってご本人に良い事は無いじゃないですか、なんか贔屓の引き直しのようなことで。

山口

逆効果かもしれませんね。

片山

色んな解釈があると思います。私は一つだけ気になるのが自由民主党と言う公の党の幹事長という大幹部が党則などは合って無きが如し、融通無碍な振る舞いをされていることです。それは自由民主党の信頼を大きく傷つけるものがあるのではないか、党則というのは自民党のものですから、自民党で処理されたらいいんですけど、外から見て自民党と言うのはこういう政党なんだなと、それは党是とか綱領とか党則を、幹部がどうにでもできるんだ、というような事は、組織のあり方としてやっぱりちょっと外から見ていて異様な感じを受けますよね。

山口

確かに、そういう風に思った国民の方も多いのではないかなと思いますけどね。この流れで伺って行きたいんですけども、岸田さんはタイミングがいつになるか。これは別に置いておいて、やっぱり総理大臣になりたいという思いは思ってらっしゃいますよね。

岸田

安倍総理の発言、先ほども出ましたが3期目の任期をしっかり全うするというという事をご本人もおっしゃっています。そうすると、次の時代誰かが担わなければいけないとしたならば、是非担える一人になるべく、しっかり努力をしなければいけない。政策を磨き、そして何よりも、それを実現する力を持たなければいけない。そういった努力はしていきたいと思っています。

山口

その中で一つ伺っていかなければいけないのが、去年9月の総裁選に岸田さんが出馬を見送られました。自民党の中の派閥の数の力関係とか色んな事があったのではないかと勝手に想像するんですが、岸田さんがなぜあの時、総裁選出馬を見送られたのか、いかがですか。

岸田

私も何度か申し上げていますが、あの時点の政治状況、それから日本の置かれている国際的な状況考えた時に、その時点で総理を変えるべきなのかどうか。これを考えなえればいけないという事で判断したという事です。経済の状況、アベノミクスという政策を進めて経済の好循環を完成させるために生産性革命をはじめ、あと一歩の努力が続けられている。あと国際社会に置いても日米関係、日中関係、あるいは日ロ関係、こうした首脳間の信頼関係に基づく、様々な動きを考えた時にあの時点で総理を変えるべきなのかどうか。いや、その時点では総理を変えるべきではない、こういった判断に基づいて私自身は見送ったこういったことです。

山口

そのタイミングでは総理を支えるべきだという判断だという事ですよね?

岸田

そう思って決断をしました。

■率いる派閥『宏池会』の目指すもの

山口

ここで、自民党内の派閥勢力について改めて確認しておきたいんですね。やはり突出して多いのが細田派ですね、96人。そのあとに麻生派、竹下派と来て、岸田さんの派閥49人で4番目の勢力という事になるわけです。ただ現段階で4番目ではありますが、もちろん岸田さん率いる宏池会。これは自民党の保守本流、非常に伝統のある会であるわけですよね、その歴史について、大木さん。

大木

岸田さんが率いる“名門派閥”とありますが、自民党で最も古い派閥、宏池会になります、吉田茂氏の流れを汲む池田勇人氏が1957年に自らの後援会として結成しました。その池田勇人氏は1960年、内閣総理大臣となり所得倍増計画を打ち出します。以来、宏池会からは大平正芳氏、鈴木善幸氏、宮沢喜一氏4人の総理大臣を輩出しています。去年「大宏池会の逆襲」と言う本を出された作家、大下栄治さんに宏池会について伺いました。

大下栄治さん
Q.自民党派閥政治の歴史とは?
「自民党は国の力を強くする思想の清和会とリベラルであり現実主義の宏池会が二本柱でバランスよく政権運営をしてきたが今は崩れている。」
Q.宏池会の特徴とは?
「知性派の人が多いがお公家集団ともいわれる。自らの刃で闘って政権を取るのは不得手。」

大下さんのお話で出ましたもう一つの柱というのが、こちら、清和会です。やはり自民党内で長い歴史をもっている清和政策研究会の事なんですね。1962年に福田赳夫氏を中心に結成されまして歴代総理としましては福田赳夫氏、森喜朗氏、小泉純一郎氏、福田康夫氏、そして現在の安倍総理を輩出しています。

山口

確かに大下さんが指摘するように二本柱があった方がいいじゃないかという指摘があります。その一方で宏池会の特徴として、お公家集団なんじゃないかという厳しい指摘もありました。岸田さんはどのように受け止められました?

岸田

自民党が昭和30年に結党されてから、その後長く単独政権を維持してきました。その一つの要素として党内での政権交代、要は党内における幾つかのグループの流れがあり、その中で政権交代を行う事で政権を維持してきた。こういった事が指摘をされています。派閥にはそれぞれ特徴があり、そして人材がいます。それが切磋琢磨することによって、結果として自民党が政権を維持してきた、これはもうおっしゃる通りだと思います。そのバランスが国民からの信頼を繋ぎとめるという事にも繋がったんだと思いますし、こうした党内においても様々な考え方が、切磋琢磨するという事。これは自民党にとってこれからも大事な事なのではないか、このように思います。お公家集団という指摘については、これは先輩方が今日までいろいろ努力してきた結果ですので、これは私がどうこう言うのは僭越でありますので、あまり何か言うのは控えたいと思いますが、ただそういった指摘は謙虚に受け止める事は大事なのではないかと思います。

山口

確かに今のお答えの中にすごくヒントがあったと勝手に言いますが、岸田さん達の宏池会が目指す思想として、例えば、違う意見に対しても受け入れる。それをリスペクトする包容力だったり、それから池田勇人さんが掲げていた「寛容、忍耐」だったり、丁寧さ謙虚さ。そこから来る国民からの信頼という事でもあると思うんですね。そこがやっぱり、国民から見てもっと信頼できるというところに繋がることを目指しているのかなと勝手に受け止めましたけど、いかがですか。

岸田

宏池会の歴史、まずスタートの段階では、当時の私たちの先輩方がやはり戦時中の大変息苦しい時代を経験して、やはり自由という物に対する強い思いというものがあった。この辺がその後リベラルという体質に繋がったんだと思います。そして合わせて具体的な政策においては、特定のイデオロギーとか考え方に捉われるのではなくして、極めて現実的で、そして、国民が今何を求めているのか、これに的確に応えていく、こういった政策をとってきた。そして、その中で今おっしゃったように多様性ですとか、様々な意見を丁寧に汲み取る、こういった手法を大事にしてきた、これが宏池会の歴史だと思います。是非そういった政治の在り方、考え方、これは今日においても大事なのではないかと我々は思っていますし、そういった考え方について是非多くの国民の皆様にも理解をして頂き、共感して頂ければと願っています。

(2019年3月24日放送)