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#163

真山仁が見た福島第一原発事故10年≪後半≫デブリ取り出し新たな壁

東日本大震災、福島第一原発事故から10年です。『BS朝日 日曜スクープ』は、作家・真山仁氏と番組MCの山口豊アナウンサーが廃炉作業の現場を取材し、2021年2月14日、特集でお伝えしました。特集≪後半≫では、溶けた核燃料「デブリ」取り出しの新たな壁に焦点を当てました。

 
⇒「真山仁が見た福島第一原発事故10年≪前編≫放射線との闘いの現場」はこちら
 
⇒「真山仁が見た福島第一原発事故10年≪後編≫デブリ取り出し新たな壁」の動画はこちらでご覧いただけます。
テレ朝news
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⇒取材ロケのVTRはこちらでもご覧いただけます。
■真山仁が見た福島第一原発1放射線との闘い
テレ朝news
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■真山仁が見た福島第一原発2核燃料取り出し
テレ朝news
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■真山仁が見た福島第一原発3最難関のデブリ
テレ朝news
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■デブリ取り出し 2号機で試験的に着手の方針

山口

今、福島第一原発の廃炉、最大の難関とされているのが溶け落ちた核燃料「デブリ」の取り出しです。「デブリ」の取り出しは、2号機から始められようとしています。実は、2号機と同じ構造をした建屋が敷地内にあります。こちら5号機です。この5号機では構造が同じなので、この中でこの「デブリ」取り出しの研究も行われているんです。私たちは今回、5号機の内部にも入って、取材を行いました。

■真山仁が見た“廃炉の今” 最大の難関「デブリ」

事故当時運転中だった3つの原子炉の中で唯一、水素爆発を免れた2号機。

山口

「2号機の真横にいます。2号機は建屋が壊れていないので綺麗に見えますよね。いかがですか」

真山

「一つ言えるのは、見た目がどうだかというよりは、そこに数値があることを踏まえて、現場を見なきゃいけないと思う」

これは3年前に撮影された2号機の格納容器内の映像。外観とは異なり中は大きく損傷している。床には、至る所に茶色の堆積物が。これが廃炉作業の最大の難題、核燃料デブリとみられている。核燃料デブリとは、原子炉内部の燃料が溶け、様々な構造物と混じりながら冷え固まったものだ。 強い放射線を出すため、ロボットで近づくことも容易ではない デブリの姿がとらえられたのは、事故から7年後の2018年。

2019年には、初めてデブリを持ち上げることができた。このデブリが、1号機から3号機に、800トン〜900トンほどあるとみられている。

真山

「中の状況がどうなっているかは完全に把握できてる?未知の部分もあるんですか」

東京電力 廃炉推進カンパニー 廃炉コミュニケーションセンター副所長 木元崇宏氏に聞いた。

東京電力 木元氏

「2号機のデブリの様子が下に堆積している様子が分かっているんですが、逆に圧力容器の中にあるデブリはどうかと言うと、まだどの号機も…」

真山

「わからない」

東京電力 木元氏

「わからないんですね」

このデブリをどのように取り出すのか?我々が向かったのは2号機から北に1キロほど離れた5号機。

山口

「ここ今5号機の原子炉建屋の中に入りました。」

東京電力 木元氏

「5号機は2号機同型炉ですので、同じ設備があります。」

あの日、定期点検で運転を停止していた5号機。 2号機と同じ構造をしているため、デブリ取り出し作業の「実物大の研究施設」になっている。今、ここで検討されているのは格納容器内のデブリを取り出す「気中工法」という方法。

本来メンテナンスの機材を出し入れする貫通孔の蓋を開け、そこにロボットアームを入れる。遠隔操作で、格納容器にあるデブリを取り出していくやり方だ。

東京電力 木元氏

「ロボットが入っている貫通孔がこの先にありますのでご覧いただきたいと思います。シートが被っているんですけど扉のような形でハッチがあります。ハッチをがばっと開けてしまうと中のガスが出てしまうので2号機ではこの貫通孔を使って調査をするために小さな10cmくらいの穴を開けてですね、ここからロボットを投入するルートを作りました」

2号機と同じ構造の、5号機の格納容器へ。

山口

「ここからがですね。5号機の格納容器の入り口ということになります。だいたい直径3メートルほどですね。

穴が開けられています。」

事故後も発電していない5号機でも、放射性物質は残っているため、中に入るには全面マスクなど、厳重な装備が必要だ。

山口

「今格納容器の中に入りました」

東京電力 木元氏

「狭いですので気をつけてお願いします。この中の配管ですとか、機械が結構、密集して、中に装置が入っています。」

山口

「様々な配管がありますね。」

同じ構造の2号機では、この中にデブリが堆積しているとみられる放射線量の高い格納容器に入ることが難しいため外から、取り出そうとしている。

東京電力 木元氏

「今、ぐるっと配管のところ回って来ましたけど、真正面スロープが見えてきました、『X6』と書いてあります、先ほど外から見た貫通孔です」

山口

「その穴、『X6』の穴っていうのは、さっき外から見たあの穴の内側ですか。」

東京電力 木元氏

「内側になります。」「唯一この外と内側を一直線で繋いでいる場所がこの場所ですので、今まで調査にも使いましたしデブリ取り出しの場所にも使うと、2号機では考えています。」

山口

「どのようなロボットを使おうと思っている?」

東京電力 木元氏

「関節を伸ばしながらいけるようなロボットを考えていまして、 20Mの長さまで伸ばせるアーム型のものになります」最初は畳んでいるんですけど、グーっと伸ばして下の方まで伸ばしていきます真下に行った後、さらに下に行かないといけませんので、伸ばした先端がさらに下にいくような装置をつけていまして、それで床にある堆積物を持ってくると」

しかし、取り出す方法には大きな課題があった。

東京電力 木元氏

「形状もですね、まだわかっているものは、小石状のものと下にへばり付いているもの。その状況しか分かっていませんので固さとかそういったものはこれから確認していくことになります。」

デブリの形状などわからないことが多いため、計画ではまず、一回の取り出しで、1グラム程度を採取し、分析する所から始めるという。 さらにデブリにはこんな問題が…。

山口

「原子炉の真下にきました。圧力容器の真下ですよね」

東京電力 木元氏

「そうです」

山口

「すごいたくさん突起物が出ているんですけども、これはそれぞれ何なんですか。」

東京電力 木元氏

「これ原子炉を運転しているときに中性子の量を測る中性子の計測器のケーブルになります。この上に制御棒ですね。上げ下げするための「制御棒駆動機構」というのが下の部分にあります」

漏れ出した核燃料は、ステンレス製の足場や計測器など様々な装置を溶かし混ざり合ったとみられている。そのため、どこにどんな形状のデブリがあるのか把握するのが難しいという。 全国の原発を何度も取材している真山も圧力容器の真下に来るのは初めてだ。

真山

「こんな固いものがね、落ちたり、この辺が多分いろいろなっていると、どれだけすごい熱で、しかも全部でバシャンとならないところが、厄介なところですよね。こうやって密になっているみたいな、そういう意味では、この作業がずっと見えているみたいだな」

山口

「階段が急なんですよね。この急な階段を降りていくと、格納容器の一番底の部分に繋がっているということです。これから降りていきます」

山口

「右側の配管ですね、あちこち出ています。こういう狭いところを入っていっています。」

ここがデブリが溜まっているとみられる格納容器の最下層だ。

山口

「2号機だと床面からどのくらいの厚さに溜まっているんですか。」

東京電力 木元氏

「今、こういった設備を見ると、60センチくらいではないかという」

2号機は合計237トンものデブリがあるという。

山口

「相当な量だと思うんですけど、取り出すのは時間がかかる」

東京電力 木元氏

「拙速に進めてしまってうまくいかないよりは、ちゃんとステップ・バイ・ステップでひとつひとつ問題クリアしながら最終的に取り出したいと思っています。」

ここで線量計のブザーが鳴った。放射線量が規定の数値に迫り、5号機での取材は終了。

取材終了直後、デブリ取り出しに大きな影響を及ぼす事実が発覚した。格納容器より上の部分にあるシールドプラグと呼ばれる蓋が高濃度の放射線物質で汚染されていた。

東京電力 木元氏

「やはりもともとデブリを取り出すにあたっては、そういった線量の高いところ、あれをしっかり想定していたところであります。ただ、その中で分かってないところも沢山ございますので、そこはひとつひとつクリアしてかなきゃいけない」

新たに立ちはだかる壁。改めて「デブリ取り出し」の未来について聞いた。

東京電力 木元氏

「宇宙空間の中で使っている技術カメラですとか、半導体を使っていない時代のカメラですとか、レトロな技術が実は応用できる。実は国内の企業活動乾式のカメラを小型化してデブリの調査に使えないかこういったことを研究しているところもあります。最終的には、組み合わせて、ロボットだったり、取り出し装置だったり、監視カメラだったり次のステップで作っていく必要がございます」「デブリの取り出しは、我々の世代だけでは終わりませんので、次の世代に託していかないといけないそういう意味でも次の世代に進めていっていただきたい」

■デブリはどのような場所に…

山口

福島第一原発の2号機なんですが、これは隣の1号機が爆発した時に、その衝撃で外壁の一部が剥がれまして、水素爆発は免れました。しかし、電源が途絶えてしまったために、この格納容器の中が高温になりまして、圧力が上がったんですね。その圧力を下げるためのベントと呼ばれる蒸気を外に逃がす操作をしたんですが、その際に必要な、放射線物質を取り除くことに失敗しました。これによって大量の放射線物質を放出させてしまいました。

上山

そしてスタジオには、原子炉建屋、2号機の模型を用意しました。


協力:一般社団法人『AFW』

真山仁さんと山口さんは、この2号機と同じ型の原子炉の5号機の内部に入って取材したということになります。まずは多数の制御棒が連なっている圧力容器の真下の部分に行きました。

続いてこちらの格納容器の底も取材しました。圧力容器から溶け落ちた核燃料デブリがどのような場所に堆積しているのか確認するためです。真山さんは実際に今回、中をご覧になってどんな印象を持たれましたか?

真山

そうですね。仕事柄、何か想像するのが仕事なので、ほぼ2号機と同じ型の中に入ってですね、本当は何も起きてないんですけれども、段々こう燃料が溶けて落ちていったりとか、色んな状況でどう考えたって、そんなものが起きないであろうことが起きてしまってるっていうことを、何か本当は割と短時間しかいられないんですけれども、頭の中がどんどん動いていってしまう。おそらく、これからその5号機で色んなことを試して2号機に使う人たちも、そういう想像力をどこまでたくましくして見ていくかっていうことが結構重要で、なので偶然ですけど、同じものがあって、それが何事もなく起きているっていうことで、少しはやっぱり何か助けになるんだろうなっていうのを、その場で見ながら、そういうことばっかり考えています。

上山

そこから推察していくしかないですね。

山口

本当に色んなことを考えさせられる現場だったわけですけれども、それではここで新たにゲストの方に加わって頂きます。日本原子力学会 廃炉検討委員会の委員長の宮野廣さんです。宮野さんは東芝で原発の研究開発責任者を務め、福島第一原発の改修工事も手掛けたことがあります。福島第一原発の構造を最もよく知る人物の一人です。宮野さん、どうぞよろしくお願い致します。

宮野

どうぞよろしくお願い致します。宮野でございます。

山口

そしてもう一人です。テレビ朝日報道局社会部の原発担当、吉野実記者にも加わってもらいます。

吉野さん、よろしくお願い致します。

吉野

よろしくお願いします。

山口

事故から来月で10年。いまだ溶け落ちた核燃料「デブリ」の取り出しは実現していません。ここからは、VTRでもお伝えしたように、新たに判明した、「デブリ」取り出しの壁、じっくり見ていきます。

■新たな高線量汚染 デブリ取り出しに新たな壁

上山

まずどうやってデブリを取り出すか、確認します。福島第一原発では、格納容器を水で満たす「冠水工法」は、現時点では見送っています。水は放射線を遮断するので、作業の安全確保につながりますが、格納容器が損傷し、水が漏れてしまう恐れがあるとされています。代わりに、「気中工法」と言われていますが、水で覆わずに、格納容器の横に穴を開けます。そして、ロボットアームで2号機の格納容器の底にあるデブリを取り出していく方針です。

ところが、深刻な問題が新たに判明しました。再び原子炉建屋の模型で説明します。2号機・3号機の原子炉建屋の、格納容器より上の部分が極めて高濃度の放射性物質に汚染されていたんです。「シールドプラグ」と呼ばれる、円板状の鉄筋コンクリートで直径はおよそ12メートル、厚さは60センチほどです。

上から撮影した写真が、こちらですが3枚重ねて、格納容器の上部に据え付けられています。

溶け落ちた核燃料「デブリ」が圧力容器やその下の格納容器の底の部分にたまっているとされてきましたが、上の部分も、高濃度に汚染されていたわけです。

山口

原子力規制委員会の更田豊志委員長も深刻に受け止めています。「シールドプラグの汚染は、燃料デブリと同じぐらい高い放射線量。遮蔽も非常に難しいし、完全遠隔(作業)も簡単ではない。気中工法が可能かまで戻って作戦を練り直す必要がある」と発言しています。

上山

宮野さんに伺います。どうして、格納容器より上の部分、シールドプラグにまで高濃度の汚染をしてしまったのでしょうか?宮野さんによりますと、圧力容器や格納容器のふたの部分がポイントだということですが、どういうことですか?

宮野

フタは、お椀状のもので、圧力容器のフタ、それから格納容器のフタがあります。その間(フランジ部と言う)は、通常はボルトできつく閉められているわけです。事故が起きた時は炉心の方に燃料がありまして、その燃料が1200度を超えるくらいの高温で溶けて、そして高温の温度が上の方まで伝わり、圧力容器のフタのところにあるフランジの温度も上げてしまった。そこで圧力容器のフランジの温度、加えて圧力が上がることによって、そのフランジ部にすき間が生じ、中で発生した放射線物質が外へ漏れ出してしまった。

さらに格納容器の方も温度が上がって圧力が高くなるのも加わり、同じ位置のフランジ部から放射性物質が漏れ出してきた。それで「シールドプラグ」の所では、(そこはすき間が元々、左の円のところにありますから上の方に3段になっておりますけど、3段のところのすき間から外へ漏れると)三層になってますのでこの三層の間に放射性物質が貯まってしまったということでしょう。結果、結構、沢山の放射性物質がそのシールドプラグの所にあり、高い放射線量を示していたというわけです。

上山

そのために高濃度に汚染されていたということですね?

宮野

そうです、はい。

山口

宮野さん、是非伺いたいんですけども、「シールドプラグ」の内側で高い放射線の汚染が確認された。これはつまり今、水で満たす「冠水工法」ではなくて、横から穴を開けてロボットでデブリを取り出すという気中工法をやろうとしているわけですが、この上部の方で高い放射線量の汚染が見つかったということで、宮野さんとしてはどうでしょう。「気中工法」自体が困難になったというお考えなのでしょうか?

宮野

はい。元々、「気中工法」は放射線の物質が気中で舞ってしまって、それが外に漏れてくるのではないか、もしくは作業員に影響を与えるのではないかと危惧されているわけでございます。今回、「シールドプラグ」の所でかなり濃度の高い放射線物質があると測定されたわけですけれど、それは、格納容器の中にたくさんの放射線物質があるということを推察させているわけです。ということで、これは1号機での作業でもありましたが、穴を開けて機器を入れようとした時に、中から放射線物質が漏れるということもありました。ですから、気中で作業するということは、そういう高い濃度の放射線物質が外に漏れたり、それから作業員に大きく影響を与える可能性が高いということが今回の調査からも言えるのではないかということです。

山口

なるほど。そのぐらい影響が大きいということになると思うんですけれども、今回のシールドプラグの内側で高い線量が確認されたということ。東京電力・廃炉部門トップの小野明氏はこう述べています。「いずれ、スリーマイルの事故で行った、圧力容器に水を張ってデブリを取り出す方法が必要なタイミングになるときがあるのでは」。

1979年にアメリカで起きたスリーマイル島原発事故では、圧力容器に残った、溶け落ちた核燃料を、水を張ってからデブリを取り出しました。吉野さん、「シールドプラグ」の内側で高い放射線量の汚染が見つかってきた。東京電力は今後のデブリの取り出しを含めてどのように考えているのでしょうか?

吉野

はい。「シールドプラグ」の裏にデブリ級といいますか、原子炉内級の汚染があるということは、東京電力もある程度は予測していました。しかし、この1年余にわたって原子力規制委員会が新たに調査をしたことで、数シーベルト、大体6、7シーベルトぐらいだと言われていますけれども、こうした高線量の汚染があるということがわかったわけです。そして今後なんですけれども、「気中工法」というのは、とても私の中ではできると思っていないのですけれども、やっぱり東電の幹部は、いずれにせよ、上に圧力容器の中に燃料が残っていますので、下に落ちていないやつも上にあるわけです。だからそういうものを取ることから言うと、上からいつかはアプローチしなければいけないと思っていたんですが、これで高濃度汚染が見つかったということで、ハードルが上がってしまったとショックを受けているというのが現状です。

■デブリ取り出し 工法変更は可能なのか

山口

気になることがあります。これまで、原子炉格納容器を水で満たして「デブリ」を取り出すのを見送ってきたのは、事故で破損している恐れがあるからとされてきました。やはり水が漏れてしまうんではないかというこの疑問から逃れられないんですがここはいかがでしょうか。

宮野

はい。「気中工法」を選択したというのは、「水中工法」を採用するには、水漏れを抑えることができない、なかなか難しい、時間がかかるということで選択したという経緯があります。「水中工法」をどうやってできるようにするかということを考えなければならないわけです。その一つの方法は、鋼製の格納容器本体とその外側にコンクリートがあって格納容器は構成されています。図示されている赤いところがその間の隙間です。

山口

わずかな隙間があるんですね。

宮野

その隙間は結構大きな隙間ですが、運転して高温になるとその隙間が段々小さくなるというふうになるわけですけども、その隙間に、鋼製の格納容器に小さな亀裂がちょっとでもあると、圧力がかかったりすると、水が漏れるということです。そんな大きな破壊ではなくて、どうも小さな傷、亀裂があってそこから水が漏れているようだと言われています。ですから、鋼製の格納容器とコンクリートの間の隙間に、例えばシール剤を流し込んで水漏れを防ぐ。水漏れを防ぐと言ってもゼロにする必要はなくて、管理できる水漏れにすればするという方法もシールの方法の一つです。そういったことを考えながら水の中で作業するということもこれから考えてもいいんではないかと思います。

山口

なるほど。宮野さん、確認なんですが、そうしたシール剤というのはまだ開発中ということなんですか。

宮野

高分子剤でそういったものはないわけではないですし、それからコンクリートに似た材料でも、そういったものがないわけではなくて、一部、下の方、トーラス部ではシールのために使われているところもあります。ですから全く方法がないわけではなくて、完璧な方法でなくともシールのために何ができるかということを、これからもう少し考えてみるのもいいのではないかと思うのです。

■「先端技術の進歩は速い。今、製造業では…」

山口

真山さんいかがでしょうか。今、宮野さんからは「冠水工法」にもう1回ちゃんと向き合うべきじゃないかっていう意見があったんですが、やっぱりこの廃炉作業を進めていく上で、新しい技術、技術革新というのも重要になってくると思うんですね。いかがでしょうか。

真山

最近、先端技術のヨットの小説で取材をしてるんですけども、このところ、やっぱりものすごく先端技術、進歩が速くて、はっきり言うと、もう2年先に何ができるか分からないぐらい、いい意味で進んでるんですね。現状でできないことって、もちろん沢山あるんですけども、その現状でできない、できないと悩んでもしょうがなくて、この廃炉作業に関して言うと、できないじゃなくてやるしかないわけですよ。必要に迫られると技術って進歩していく。さらに幸運なことに、今までの製造業と全く考え方の違う物作りが世界中で始まってるんですよ。だから必要がある以上、それに投資も出来ますし、その技術を利用することができるようになる可能性があるので、これはある意味、幸運なことですけれども、今までやったことのないことは、ここで試される可能性は高いんじゃないかなと思っていますけど。

山口

杉田さんどうですかね。ここまで見て、いかがですか。

杉田

宮野先生がおっしゃった、樹脂を入れるというのは、海外でも色んな組織が福島の廃炉のやり方として提言しています。おそらくスリーマイルアイランド島の原発2号機が結局、冠水をした後やってますので、そこと同じようなやり方をやればいいのじゃないかということだと思うんです。そうなると、非常に時間がかかるということで、非常に悩ましいんですけれども、やっぱり安全を重視するならば、そういう方法に結局はなっていくのかなと私は思います。

■デブリには3種類 取り出し方に影響

山口

これからどういう工法を選んでいくのか。まだ全く見えないところもあるわけですけれども、どのような工法であろうと、溶け落ちた核燃料=デブリの状態、確認する必要があります。事故から10年、デブリの取り出し、まだ実現していません。福島第一原発の、溶け落ちた核燃料=デブリについて、日本原子力研究開発機構に取材しました。どのような特徴なのか、デブリの性質を研究している倉田正輝さんによると、デブリは、大きく3種類に分かれているということです。1つ目は小石状のもの。2つ目は「半溶融の金属系」。そして3つ目、プレート状になって固くなったものです。この種類によって、取り出し方が大きく変わってくるのです。

こちらの映像は、3種類の金属デブリができる様子を再現した実験です。

日本原子力研究開発機構 倉田氏

「これがまさにメルトスルー(炉心貫通)したところですね壁を破っているんですね。弱いところが進んでいてで、今、このもともと円管だったとこにゴツゴツしたのがくっついてますね。それいわゆる小石状のものです」

日本原子力研究開発機構 倉田氏

「そのうち突き破ってですね、キノコみたいなのがにょきっとに出てくるんですが、今、出ましたね。わかります。ちょっと出ましたよね。これ、上のゴツゴツしたものと明らかに粘性が違うのが分かりますかね。これがプレート状になる元々の状態」

福島第一原発2号機のデブリは、様々なものと溶け合ったがゆえに融点の違いが出ました見た目だけではなく特性も変わることで、デブリ取り出しにどのような影響を及ぼすのでしょうか?

日本原子力研究開発機構 倉田氏

「おそらく金属デブリの融点が違いますから、全部一緒に取れるのか?3種類別々に取らなければいけないのか?別々に保管しないといけないのかこれからだんだん評価していく段階だと思います」

■「初めに行程ありきでなく…」

山口

融点の違いによって生まれたということですが、宮野さん、この3種類のうち、取り出すのが難しいのはどれですが。

宮野

はい。もちろんプレート状のものは取り出すのは大変ですね。あの金属だけで、固いプレート状にできてるものもありますし、それから格納容器の下の方はコンクリートですから、コンクリートと溶け合ってさらに固くなってるものもあります。それをどうやって取り出すのかっていうのは非常に大きな課題です。

山口

なるほど。

上山

お話を伺っていて思うのは吉野さん、この廃炉を進めていくには、やはり現場にあたっている方たちの安全確保というのは、非常に大切になってきますね。

吉野

そうですね。福島第一原発で毎日、最前線で戦っている方たちは下請け企業の方たちなんです。その方たちが毎日毎日、見えない放射線と戦って体を張ってくださってるわけなんです。そのデブリをどういう形で取り出すにせよね、取り出すということが始まって、もし事故が起きたら、これまでとはもう考えられないほど規格外の線量を、彼らが浴びるリスクが出てくるわけです。だから、やはり初めに行程ありきではなくて、安全を確保しながらしっかりと計画を作っていくことが重要だと思います。

山口

この辺り、デブリ取り出しについては、真山さんどんな意見をお持ちですか。

真山

そうですね。繰り返しですけど変な言い方ですが、実験やってるようなもんなんですよね。全部、挑戦して結果を見てからしか先に進めないわけですよね。そこに妙なスケジュールが入ってくると、それは大きな被害の元であるということからすると、もうここは腹くくることしかないと思います。

■日本原子力学会が問題提起した理由

山口

難題が次々と出題される中でいま廃炉はどこまで進んでいるのか、ロードマップを改めて確認します。現在は第2期の最終段階です。試験的なものではありますが、今年中に予定していたデブリの取り出しは、コロナの影響でロボットアームの開発が遅れ、1年先送りになりました。ロードマップでは、30~40年で廃炉を終えるとしています。

ただ、ゲストの宮野さんは、廃炉の進め方や、廃炉によってどのような状況を目指すのか 議論が足りないと指摘します。果たして、どういうことなのでしょうか。

日本原子力学会の報告書です。報告書をまとめたのは、ゲストの宮野さんが委員長を務める廃炉検討委員会です。報告書のポイントです。報告書は、40年での廃炉は「現実的に困難」としており、廃炉の今後の進め方の選択肢を示しました。

一つは、建屋をすべて撤去し、更地にする「全撤去」。2つ目は建屋の地下部分などを残して管理を続ける「地上部のみ撤去」の二通りです。全撤去の場合でも、土地の再利用には土壌を入れ替える必要があります。さらに、全撤去の場合のデメリットとして放射性廃棄物が大量に出てしまうことを挙げています。一方、地上部分だけ撤去し、地下の部分を残す場合は、廃棄物の量を減らせるものの、放射性廃棄物が地下に残り続けます。

もし、解体を先延ばしにすると、廃棄物の量をさらに減らせる代わりに、廃炉完了までに時間がかかるというデメリットがあります。報告書は「廃炉の進め方や完了後の土地利用について、今から地元と協議するべき」と提言しています。またしても、廃炉の厳しい現実を突きつけられた思いです。宮野さん、日本原子力学会は、原子力発電を推進する立場でもあったと認識しています。その立場で、政府の見解にそぐわない問題提起をしたのはなぜですか?

宮野

はい。私たちはもちろん国が示しております2050年のカーボンニュートラルには原子力発電は極めて重要だと思っております。その上で、この廃炉は国と一緒に、国のプロジェクトとして成功させることは、私たちが世界に対して負っている責務として、非常に重要な役割を持っていると思っております。そういうことで、この廃炉を成功させるために何を考えるのか、どういう選択肢があるのかということを提示するのが、私たち技術をあずかっているもの、学術をあずかっているものの集まりとしての学会としては当然のことだと思います。皆で、これら提示された技術を議論し、何を選択するのかということを決めていくわけです。そこにはやはり、地元の人も一緒に考えることが必要ですし、そして最終判断は、時の政府が決めるということでしょう。しかし、それも決めたことがずっと続けなければならないというわけではありません。先ほどお話がございましたように、技術は日進月歩です。常に新しい技術、知見が入ってきますから、ある時点では、きちんともう一度見直しをして、考え直してみようじゃないかというポイントがあってもいいわけです。これが今。1つの時(とき)だと思います。これからデブリ取り出しに本格的に入ろうという時が、もう一度考え直す時で、「それでいいのか」という事を考えるポイントだと考えるわけです。ですから、「こういう考え方がありますよ」ということ、考えられるものを全て提示した上で、じゃあ皆さんでもう一度議論をして、結論を見直してみましょうというのが提案です。

山口

廃炉について選択肢を示して議論をするべきだというのがポイントになると思います。この辺り、真山さんはどのようにお感じになりますか。

真山

そもそも未来っていうのは絶対予測できないわけですよね。今回している作業っていうのは、普通の作業ではなくて、何が起きるか全くわからない未来に挑んでいるわけですよ。ということは、そもそもこれにスケジュールを組むって本来ナンセンスなんですよ。あえてナンセンスって言いますけど。ただ、政治的な理由や予算的な問題があって、ある程度、時間を決めろというから、多分時間を決めたんでしょう。ただ40年も100年も、長くかかるっていう意味ではあんまり変わらない。だから逆に言うと、年数ではなくて、本当に納得した段階で1つ1つやることを、ミッション達成して、その度に知見を得て、それが未来に続くんだってことを、まず最優先にしなきゃいけなくて。これだから最後は政治の問題になるんですけれども、ここはやっぱり政府が本当に原発問題に関しては、いつも積極的にならないですけど、やっぱり積極的に日本のため世界のために、政治がここは本当に踏ん張って、安全を最優先するんだっていうことを、もっと早く表明してほしいですね。

上山

今、政府、政治だというお話が出てきましたが、この廃炉の進め方について政府の考え方を確認したいと思います。梶山経済産業大臣はおととい、閣議後会見で「政府の中長期ロードマップでは、2041年から2051年までに廃炉措置完了を目指して、福島第一原発の廃炉を安全かつ着実に進めていく。福島第一原発の廃炉は今後も予測も難しく、世界に前例を見ない困難な取り組みではありますが、国が前面に立って安全かつ着実に進めて参りたい」と発言しています。吉野さん、政府としては、方針としては変えない、ということなんでしょうか。

吉野

今のところロードマップというのは、大規模に変えていくというような感じではないんですけれども、いずれは変えざるを得ないんじゃないかと思います。と言いますのは、先ほどもありましたように、3号機の使用済み燃料がまもなく取り出し完了になりますけれども、これも4年遅れているんですよ。そして今、1、2号機の使用済み燃料の置かれているエリアというのは、高線量でまだ近づけません。1号機に関しては、その使用済み燃料の取り出しは、工程がもう2027年、2028年、この辺で取り出しという風に、10年後ろ倒しになってるんですね。そして、そういう事を考えて、デブリの取り出しもまだスタート地点にすら立っていないわけですから、そういう事を勘案すると、先ほども出ていますけれど、限られた年限でやるということを考えるのではなくて、いかに安全に着実に推進するかということが今後の課題になってくるんじゃないかと思います。

山口

なるほど。杉田さんはこうした今後の廃炉の議論、どう思われますか。

杉田

もう、きょうは色んなお話を伺っていて、私、ひとつ思い出したのは、20年前にアメリカのハンフォードという原子力施設を取材したんですね。ここは軍事施設でして、長崎に落とされた原爆のプルトニウムを作った所なんですね。冷戦中は核弾頭6万発分のプルトニウム作ったと言われる所なんですけども、その結果、今、アメリカで一番、放射能汚染がされている所なんですね。ここの所長と話していたら、もうちょっと自分たちの先輩たちが、政治家たちがきちんと廃炉なり、汚染のことを考えてくれてたら良かったのだけど、安全がないがしろになっていたと言うんですよ。日本のこの原子力の問題、あるいは廃炉の問題でも、政治がきちんと向き合って、政治が出てこないと、そういう大きな問題を依然引きずっているような気がいたします。

山口

本当に廃炉と正面から向き合うということが大事だと思うんですけれども、宮野さん。改めて、どういう形が最終系として私たちが考えなくてはいけないのか、そこに向き合うということが大事ですよね。いかがでしょうか。

宮野

はい。ようやくデブリを取り出すっていうことに着手するわけですけれども、最終的にどういう形にするかが、目指すところです、目指すところがあって、はじめてどういう風に(工程で)進めていくかが決まっていくわけです。ですから、まず目指すところを皆さんで議論しましょう。そこを考えたうえで、じゃあ今、何をやったらいいのかということを決めて行きましょう。それが大切なステップです。今、こういう議論を私たちは投げかけました。これからスタートしてはどうかというのが私たちの主旨です。

山口

本当にこの議論から逃げずに、しっかりと正面から向き合う事が大事だと思うんですよね。

■エネルギーに向き合う責務

山口

きょうのゲストの真山仁さんが初のノンフィクション作品を先月出版したんです。『ロッキード』です。真山さん、ロッキード事件の取材の過程で、田中角栄元総理の原発に対する考え、どのようなものが見えてきましたか。

真山

角栄さんの地元の新潟にも東京電力の原発はあるんですが、柏崎刈羽原発を誘致するときに、もちろん地元では反対運動もあったと聞いています。その時に、伝説で本人が言ったかどうかはわからないんですが、「何を言っているんだ。これから俺たちは東京の電力をずっと自分たちが発電して送るんだ。つまり東京の電気は俺たちが握っているんだ。こんな凄い事はないだろう」と言ったんです。これも政治です。

山口

本当、底深い話ですね。

真山

深い話ですね。

山口

だから私たちも、使ってる側もちゃんと意識しなきゃいけないっていう問題もあると思うんですよね。

真山

結局、政治が本当に強い場合、ある意味何でもやれる。良いことも悪いこともできる。それをいいことか悪いことかを考えるのは、本当は国民なんだと思います。

山口

なるほど。真山さん、来月で事故から10年を迎えようとしているわけです。きょう、色んなテーマを見てきたんですが、私たちが今、一番向き合わなくてはいけないこと、どんなことだと思いますか。

真山

日本は原発事故を起こした国です。間違いなく。大切なのは事故を起こしたからこそ、原発の安全を世界に訴えなきゃいけないと私は思うんですね。これは義務ではなく、未来を語ることで、もっともっとエネルギーを考えていかなきゃいけないという意味で、このミッションは廃炉が終わるまでずっと続けてほしいと思います。

山口

本当に日本人として福島第一原発の事故、色々考えさせられるところがあるわけですが、杉田さんはどんなことを今、感じていますか。

杉田

私、福島の事故が起きた直後に、イタリアの政治哲学者でアントニオ・ネグリという人をインタビューしたんですね。彼は、やっぱり原子力というのは、国の性格を変えてしまう魔物であるという表現をして、考えてみれば我々も原子力というと、私、子供のころ夢のエネルギーということで、皆が経済成長にはこれしかないと。しかし、その夢は崩れることもあるわけです。破れることもある。だから破れたからと言って、そのエネルギー源から背を向けるということは、やっぱり許されない。これは最後まで見届けて、廃炉を完遂することが我々の必要な仕事だなと思います。

山口

それを利用して来た私たちこそが、やっぱり廃炉が本当に大変であると、ここから目を背けちゃダメですよね。しっかり向き合って国民的な議論で解決を探っていくこと、大事だと思います。どうもありがとうございました。

(2021年2月14日放送)

※番組前半は、事故から10年、福島第一原発内での廃炉作業の進ちょく状況を特集しました。いずれの現場も放射線との厳しい戦いが続いていました。
「真山仁が見た原発事故10年≪前半≫放射線との闘いの現場」はこちら