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#81

三つの箱がしっかり支える 信州飯田の明治の家

中央アルプスと南アルプスに挟まれた長野県飯田市。中心部には、川下りで有名な天竜川が流れ、懐かしい田舎の風景が広がる緑豊かなところです。
 今回訪ねたのは、そんな天竜川の向こうに中央アルプスの山々を望む贅沢な景色を持つお宅。こちらにお住まいのHさんご夫妻は、共に飯田市のご出身です。ご主人の仕事の都合で、東京を始め国内を点々としていましたが、定年を迎え、終の住みかを考えるようになりました。東京に暮らす娘さんと同居することも考えましたが、お二人が生まれ育った飯田の地に戻ってくることを決断。ご主人の実家となるこの家は、かつて養蚕が行われていた築およそ120年の建物です。建築当初は、田の字型の間取りをした、典型的な和風のつくりでしたが、度重なる増改築により建物のバランスが崩れていたため耐震面で不安があり、また増築部分が視界を遮って天竜川と中央アルプスを望むせっかくの景色が全くいかせていなかったのです。さらに、寒さの厳しい飯田の冬を過ごすには断熱面でも問題がありました。そこで、建築家である娘さんに相談。青春時代を過ごしたこの家に詰まった思い出を残しながら、耐震、断熱、そしてバリアフリーにも配慮した、奥様と二人で安心して暮らせる家へとリモデルすることにしたのです。
 繰り返された増改築により、建物全体のバランスが崩れていたH邸。まずは建築当初の田の字型をしたシンプルな構造に戻すことからリモデルが始まりました。課題であった耐震補強は、元の骨組みに壁などを増やすと再びバランスを崩しかねないため、3つの箱を既存の家に差し込むことで、耐震補強をはかったのです。3つの箱はそれぞれ寝室、キッチン、水まわりと役割を異にしており、これらがリビングを介して既存の建物に挿入されたことで、耐震性と快適さの両立を実現しました。箱の周囲は外壁に用いられる下見板張りで覆われているため、室内にいてもまるで外にいるかのような感覚を楽しめます。さらに箱と箱のあいだはガラス張りになっているので、その隙間からは庭の緑がのぞけ、自然と一体になった開放感も演出しています。また箱と母屋のつなぎ目は段差を解消し、水まわりも広々とした設計にするなど、バリアフリー対策も施しました。
 生まれ育った故郷に戻り、家庭菜園や庭造りなど、悠々自適の暮らしを送るHさんご夫妻。東京から遊びにくるお孫さんにとっても、おじいちゃんおばあちゃんの家は大のお気に入りです。リモデルで新たな喜びをみつけ、毎日が一層色鮮やかなものになったようです。
 
タステン アトリエ
https://www.tasten-a.com/

【平面図】

before

after