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#63

東京地検特捜部VSゴーン被告 両者の戦略とは!?

東京地検特捜部は、日産前会長カルロス・ゴーン被告を特別背任や金融商品取引法違反の罪で追起訴しました。一方、ゴーン被告は、それに先立ち、法廷で自ら「私は無実だ」と訴えていました。2019年1月13日のBS朝日『日曜スクープ』は、元特捜検事の高井康行弁護士と、経済ジャーナリストの井上久男氏とともに、特捜部とゴーン被告の今後の戦略を探りました。

■「保釈の可能性は1%」

山口
それでは、本日のゲストの方々をご紹介いたします。まずは弁護士で元東京地検特捜部検事の高井康行さんです。そして、自動車業界を長年取材しゴーン氏へのインタビューも何度も行ってきました、ジャーナリストの井上久男さんです。どうぞよろしくお願い致します。お二人はゴーン被告の問題で3回目のご出演という事で非常にわかりやすくて好評なので、今日もどうぞ、よろしくお願い致します。一昨日の金曜日(2019年1月11日)ですね、ゴーン被告は追起訴されました。その内容を見て行きましょう。まずは金融商品取引法違反ですね、報酬を過少記載した。この2010年からの5年分が先月10日に起訴されていたわけですが、今回は、2015年から2017年度の3年分が新たに起訴されました。さらに、本丸とされている特別背任罪、子会社を通じまして知人の会社に不正に金を支出したなどとする、この特別背任罪で起訴されたということになるわけです。この一週間なんですが、非常にめまぐるしく動きました。それを見て行きましょう。まず8日の火曜日なんですが、ゴーン被告本人が出廷しました。そして勾留理由開示の手続きを行いました。その理由の説明を裁判所に求めたわけですね、そして同じ日にこの弁護側が記者会見も行ったわけです。さらに金曜日なんですれけども11日、検察側が追起訴をしたんですが、同じ日に弁護側が保釈請求を行いました。となりますと、この後、いま3連休に入っていますから、連休明けの火曜日15日頃に保釈があるのかどうか、大変注目されるわけですけども、あらかじめ高井さんに伺いました。ゴーン被告の保釈の可能性はどのぐらいなのか。ズバリこうです、1%ということなんですね。その理由につきましてこういう点を挙げて頂きました。例のサウジアラビアの実業家ハリド・ジュファリ氏の取り調べが出来ていないから1%なんだと。高井さん、説明してもらえますか?

高井
仮に保釈にすると、ゴーンさんがジュファリさんと接触して自分に都合のいい供述をしてくれるように頼む、あるいは、そういう資料を作り上げる可能性は、具体的な危険性として存在しているわけですね。ですから、従来の最高裁の保釈に関する考え方を前提にすれば、当然、保釈は認められないということになるわけですね。

山口
やはり、証拠隠滅がされるのではないかというあたりが非常にカギになってくるということですよね。それでは、この後、一体どのぐらい勾留が続くのか、気になるんですが、ここはいかがですか?

高井
結論的に言うと、公判前整理手続きで両者の争点がある程度明確になった時点では、保釈は認められるのではないかと思います。普通は、その段階ではあまり認められない事が多いんですが、今回は、ゴーンさんの特殊な立場であるとか、諸々検討して、結局は、公判前整理手続きのある程度の段階で保釈は認められる。

山口
具体的な時期としてはどのぐらいだと思いますか?

高井
公判前整理手続きが始まって2~3か月先だと思います。

大木
井上さん、日産側としては勾留期限が来るたびに「ゴーンさん出てくるのではないか」と内心ビクビクというか、落ち着かない気持ちはありますよね?

井上
そうですね。保釈されると、おそらく記者会見するでしょうから、そうするとまた無罪であるとかですね、非常にしゃべりが上手いというか、説明が上手い方ですのでアピールすると。メディアも大きくそれを捉える事になると、日産の社内には少なからず動揺が走ると私は見ています。

山口
なるほど、そして弁護側の戦略というのもここで確認していきたいと思います。仮にですよ、仮に可能性が少ないですけれども、保釈するならば、やはりあの人物に注目するべきだということでこのジュファリ氏なんですね。ジュファリ氏の供述は、取れていないんですけど、既存の証拠は左右されないと判断した場合は保釈がありうると、これは、高井さんどういう事でしょうか?

高井
ジュファリさんの供述がないことは確かなんですが、仮に裁判所が保釈を認めるとなると、仮に保釈にしても、ジュファリさんと打ち合わせをしたとしても、そのジュファリさんの供述の内容によって検察が集めた既存の証拠は信用力が左右されない、信用力が落ちないと。我々の言葉で言えば証拠が固いと裁判所が判断したという場合が一つですね。

山口
なるほど、ただ、その可能性が低いということになるんですか。

高井
普通はそういう事はあまり考えられないと思います。

山口
そして、もう一点です。こちらです。ルノーですよね。ルノーの経営への影響を考慮する場合ということですが、ここは高井さんどういう事でしょうか?

高井
原則的には、先ほど来申し上げているように、保釈は認められないはずなんですが、いわいる外圧にもし万が一裁判所が負けて、保釈の許可をするということは絶対ないかと言われれば、それは、絶対ないとは言えないというふうに思いますね。

山口
外圧と言うのはつまりフランス側のという事ですか?

高井
そうです。本来、裁判所と言うのは激流にたつ巌であるべきなんですね。元最高裁長官の石田さん(第5代最高裁長官 石田和外氏)もそのようにおっしゃっているわけで、それが本来、裁判官であり裁判官の権威の源なんですが、それを揺るがせにするということになりかねないと。仮に証拠が安定してないのに、ルノーの経営への影響等が配慮して保釈を認めたということがあるならば、今、言ったような“巌”では、もうなくなってしまったと。そういう判断をせざるをえないと思います。

山口
いずれにしても、高井さんおっしゃっているように保釈の可能性は1%なんだということがポイントだと思います。井上さんにも伺っておきたいんですが、このルノーの問題、ルノーは実際にゴーン被告の不在ということで、これは経営への影響は出ているんでしょうか?

井上
出ていると思います。ゴーン被告は、重要事項は自分ですべて決めているという独裁体制を、日産だけじゃなくて、ルノーでも作っているわけですから、重要事項がなかなか決められない状況にあるのではないかなというふうに私は推測しています。

■ゴーン被告の法廷での主張を読み解く

山口
保釈の可能性は低いということなんですが、この一週間、弁護側が色々な動きを見せているんですね。勾留理由開示の手続きが行われました。そこでゴーン被告本人が訴えました。「私は人生の20年間を日産の復活に捧げてきた。昼夜を問わず地上でも機上でも取り組んできたんだ」と話したんです。さらに、こうした事も話しました。「私は無実だ。私は確証も根拠もなく容疑をかけられ不当に勾留されている」と語ったんですね。高井さん、こうした被告本人の主張は、これは保釈にプラスになるのかどうか、いかがでしょうか?

高井
基本的にはプラスにはならないということですね。もう少し詳しく理由を言いますと、基本的に、特にここに書かれているようなことは非常に抽象的なことで、こういうことを言うだろうということは皆さん想像していたことですよね。例えば、「(日産に)貢献してきた」という話。これは、言い換えてみれば、ゴーンさんが日産の資産は私の物と思う、思ってもおかしくない背景を説明しているというふうに理解することも可能な訳ですね。

山口
逆にとられてしまう。

高井
それから、無実だとおっしゃっているわけだけども、具体的に事実関係はほとんど説明されていないわけですね。項目的な説明はあるけども、我々が考えている、例えば「いついつ、どこどこでこういう目的のために、こういう判断でこういう経緯でこれだけ払っている」というような、具体的な説明がほとんどない。そうなると基本的に説得力がないわけですね。ですから、そういう意味では皆さん、ゴーンさん痩せているということで、みんな驚かれているかもしれませんが、そういう効果しかない。そういう事ですね

山口
確かに、イラストを通してかなりやつれた感じという事は伝わって来たんですけども、あまりこの保釈には影響はないということですよね。そして、そうしたゴーン被告の身になんですけれども異変が見られていると。つまり体調不良があるのではないかということなんですね。その内容見て行きます。こちらです。9日なんですけど38℃を超える高熱を出したということです。ゴーン被告の状態につきまして奥さんのキャロルさんがこういう事を話しています。「これほどひどい状況と不当な扱いに耐え続ける中で回復が難しくなるのではないかと強く心配している」。当然奥さんの立場からは、こういう心配の声も上がるわけですけれども、これは繰り返しになってしまいますが、体調面の不良というのも保釈には影響はない?

高井
この程度の一時的な体調不良は、全く影響はないですね。手術を要するような重病になれば話は別ですけども、この程度の、いわゆる風邪ひきましたという程度では全く影響しないです。

山口
そうですか。川村さんどうでしょうか、弁護団の会見というのは外国人特派員協会で行われましたよね。ということは今、日本の司法制度が世界からちょっとどうなんだってと言う指摘もあるわけで、そうした批判を追い風にしようとした戦略なのではないかとも見えますが、いかがでしょうか?

川村
そうだと思います。外国人記者クラブで会見をするというのは、国際的なアピールをしたいというところが狙いで、要するに、いま一番国際的な関心を持っているメディア、ヨーロッパ、アメリカ、中東含めて、その人たちが拠点としている日本外国人特派員協会で会見をするというのは、このタイミングでもう既に予定をしていたんだと思いますね。一応、私も会員ですからアージェントで急きょ会見をすることになりましたと。そのため沢山、会員が会見に来ると思いますので、この時間のいわば喫茶といいますか、カフェはすべて会場に合併をして広くとりますので、何時までに来てくださいというようなアナウンスはありましたけども。例えば国際的に関心があると言えば、先日このスタジオに来ていただいた、安田純平さんの会見などは日本記者クラブで、まず、日本国籍でもありますし、国際的な関係もあるので、日本記者クラブで会見をした後、外国特派員協会でも会見をした訳ですね。ところが、今回は最初から外国特派員協会で会見をするということですから、もしかしたら、今度また勾留が見送り、勾留が長引くという事になると、今度は日本のメディアに向けて、日本人の方々に、これっておかしくありませんかという形で、弁護士の方で、日本記者クラブで会見をしたいと言ってくる可能性はありますけどね。まずは国際的なアピール。その目的は達したと思いますね。

■中東ルートの不透明な資金の流れ

山口
様々な疑惑がまたこの一週間ほどの間に次々と出てきているので、それを見て行こうと思うんですね。まず、新疑惑の1つ目です。およそ16億円のキックバックということなんですね。これ、どういう事なのかと言いますと、中東日産からここです。これまでは機密費という風に報じられていたんですが、日産社内ではCEOリザーブというふう呼ぶそうです。このCEOリザーブから、中東日産から35億円が支出されて、オマーンのゴーン被告の知人の会社に渡ったんではないか。このオマーンの知人の会社から見返りかなと。およそ16億円、不透明な送金がいわばキックバックのようにゴーン被告側に渡っていたのではないかということなんですね。一部の報道では、この用途につきまして、こういう事が言われています。大型クルーザーを購入する為だったのではないか。この疑惑と言うのは、まだ事件化されていません。井上さんはこの疑惑どんな風に見ますか?

井上
これが事実だとすれば、これも特別背任の匂いはしますよね。私は言語道断だと。大型クルーザーを購入する理由は、私は(日産には)ないと思います。

大木
特別背任の匂いがという井上さんからのお話がありましたけど、高井さんはこれどういうふうに捉えますか?

高井
外形的には極めて特別背任の疑いが強いというふうに言えますね。外形的にはね。特に、16億円を戻すために、そもそも35億円を出しましたという関係にあるならば、これはもう特別背任以外の何物でもないでしょう。しかし、35億円を出したことについては別途適切な理由があり、16億円をゴーンさんに支払ったことについても別途特別な理由があると言うんであれば、その場合に限っては特別背任は成立はしないという事になりますが、そうでない限りは極めて特別背任チックですよね。

山口
かなり怪しいという事ですよね。そして、こうした疑惑というのは今、オマーンを見たんですけども、実はオマーンだけではないんです。中東ネットワークとありますが、今、オマーンが35億円という話がありましたよね。それだけではなくて、サウジアラビア。これは最初からあったやつですね。今回の特別背任罪となりました12億5千万円。さらにはレバノン、17億円。つまり、総額で64億円という支払いの疑惑というのが次々と浮かび上がってきているわけです。この支払い先につきまして、社内ではこんな名称もつけられていたという話が出てきました。それが「フレンド・オブ・ゴーン」(FOG)つまりゴーン被告の友人。非常に直接的なそのものだという名前の付け方なんですけど、彼らのへの支払いにつきまして中東日産の担当者はこんな事を語っているそうです。「販売実績に応じた必要経費は中東日産の判断で支払っていたが、ゴーン被告から別途〝支払え〟との指示があった。提供の趣旨が不明確だった」と語ったという新聞報道がでています。井上さんどうでしょうか。ゴーンさんレバノン出身ですよね。こうした不明瞭な金のやり取りが出てきているわけですけど、どんなふうにご覧になりますか?

井上
そもそも日産は、中近東のウェイトというのは販売台数2.4%くらいなんです。世界で580万台ぐらい売っているんですけど、中近東8か国で2017年は大体14万台なんですね。サウジアラビアだけ見ると3万数千台しか売れていなくて、単純計算しますと、日産の利益が大体5700億円ですのでそれを0.6掛けると30億円ぐらいの営業利益なんですね、単純計算するとですよ。そんな30億円ぐらいしか利益が出ないようなところに、こんなお金を入れるということ自体が非常に不自然。額もでかすぎる。もちろん使い道も私はおかしいというふうに私は見ていていますけど。額も非常に不自然ですね。

山口
こうした、いろいろな疑惑が中東諸国で浮かび上がってきているわけですけれども、捜査当局としては、こういう国々にも協力を求めて、今後捜査を続けて、それぞれの疑惑で逮捕していく可能性があるのかどうか。高井さん、いかがでしょうか?

高井
レバノンとかいろいろ言うのはアレだから(国名を仮に)ABCと言いますね。たとえば3種類同じような形で支払いが行われているということになると、その中でAは特別背任だと言って起訴したわけですが、じゃあ残りのB、Cはどうなんだと。B、Cは、例えばレバノン、オマーンの分は、これは適正だったということになると、同じ形態のサウジアラビアの分も適正だったのではないかという一般的な推測が働くことになる。ですから、捜査当局としては、レバノンの分もオマーンの分もきちっと捜査して、適正なものなのか違法なものなのかをはっきりさせると。違法なものであれば当然追起訴する。適正なものであれば、レバノンとオマーンの適正な分と、サウジアラビアの分はどう違うのかということをきっちり説明できるようにしておかないと、サウジアラビアの分の公判の維持に支障が出てくる可能性があるということですね。

山口
ということは、このあたりの国もしっかりやっていくということですね。

高井
そうです。もう1つ気になっているのは中近東というのは王族の国ですよね。王族の国ですから、王族関係者に対する工作が必要になるという可能性が十分にあって、そのためにその金が必要になってくるとなると、中東日産の社員の知る範囲を超えているわけですね。ですから、中東日産の社員が不明確だと言っても、もしかしたら、そういうような機密にあたる交渉があって、それに対する報酬として払われていると言い出しかねない。先ほどお話がありましたけれども、確かに今は、おっしゃるように売り上げは大したことはない。逆に言うと、売り上げが大したことがないからこそ、工作をしたんだというような弁解も可能になるわけですね。ですから問題はやはり、17億円、35億円に見合うような動きが実際にゴーンさんのお友達の中で行われているのか、ということをきちっと把握するのが本来のあり方。

山口
シェアは非常に少ないということなんですけど、このゴーン被告の動きというのを推測していくと高井さんがおっしゃったようなことがやっぱりあり得るのかどうか。井上さん、どんなふうにご覧になりますか?

井上
中近東これから拡大していくためにお金を使ったんだということを言うかもしれないですけど、実際伸びていないですよ。実際伸びていないですし、それほど、そこにお金を販売促進とかロビー活動のためにそれほど使う必要性はあったのかなと。額も私は多すぎるんじゃないかなというふうに思いますね。確かに王族に対するロビー活動は、必要なケースはあると思うんですけど、ゴーン氏忙しいですから、実務をやっている人が中東日産のトップなり幹部が知らないということは、通常ありえないんじゃないかなというふうに思いますね。

■非開示の10億円 さらに側近にも

山口
また疑惑が次々と出てきているんです。2つ目の新疑惑に移りましょう。「非開示の10億円の報酬」。どういうことかと言いますと、1回整理します。まずゴーン被告は日産、三菱、ルノー、この3社からそれぞれ巨額の報酬を得ていました。合わせますと合計約20億円という額になるんですね。ところが、これ以外に発覚したことがあるんです。それが「日産・三菱B・V」という会社、これは日産と三菱が出資して作った会社なんですが、2018年4月から11月の7カ月分として、約10億円がゴーン被告側に支払われていた。非開示で行われていたということなんです。ちなみに、この会社の取締役になっている日産と三菱のそれぞれのトップの報酬はあったのかどうか。西川さんや益子さんに関しては報酬はなかったということなんですよね。では「日産・三菱・BV」というのはどんな会社なのか見ていきます。ますはこの会社の目的です。2017年に両者のシナジー、つまり相乗効果ですね。その探求と促進の目的で設立されました。しかし、設立したとき、メディアへの発表はなかったんです。さらに、業務形態はどうでしょうか。会議は数えるほどしか行われていなかったということで、これを見ていきますと、井上さんどうでしょうか。いわゆるペーパーカンパニーかなとも見えてくるんですが。

井上
おっしゃる通りです。私はペーパーカンパニーで報酬を取るための会社で投機的に作ったということだと思いますね。日産も三菱も日本の会社で、多くの役員や幹部は日本にいるわけですから、なぜオランダでそういう会社を作る必要があるのか。そうそもそういうところが不思議ですし、発表もしていない。なぜ発表していなかったのか。ゴーン被告は、シナジーについてはさかんに発表するんです、こういう効果が出ますと。そういう効果が出ますと言うと自分の実績にもなりますし、株価にも影響するかもしれませんから。そういうことを今まで開示してきたのに、これについては開示していないというのは不自然ですね。

大木
高井さん、(「日産・三菱・BV」は報酬を)開示しなければならないという義務はないようなんですが・・・ただ、ここまで見ていると、ゴーン被告は非開示で報酬を受け取りたいと、隠しでもらいたいと、そういう意図を感じてしまうんですが、その辺はどうお感じになりますか?

高井
多分、隠してもらいたいという気持ちがあったのは事実でしょうね。ただ、それが犯罪になるかならないかというのは別の問題で、今回の、この10億円が確かに不明朗な支払いだとは思いますが、果たして犯罪を構成するものなのか、また日本に捜査権があるものなのかどうか。そこはこれから詰めないとわからないでしょうね。

山口
続いて3つ目の疑惑に移ります。これです。「ルノー幹部に〝隠し報酬〟が支払われていたのではないか」ということが浮上しているんです。その内容を見ていきましょう。こちらです。ルノー、日産、三菱、この3社連合の統括会社から、ムナ・セペリさん、ルノーの執行副社長ですね。この方に2012年~2016年の5年間で約6200万円の〝隠し報酬〟が支払われていたのではないか。そして、この支払いをゴーン被告が指示したのではないかという疑惑が浮上しているんです。このムナ・セペリさん、経歴は一体どんな方なのか確認していきますね。
1963年生まれ、イランの出身です。国籍はフランスとイランとなっています。
1990年にパリとニューヨークで弁護士活動をしていました。
1996年にルノーに入社、2011年に執行副社長に就任しています。
このムナ・セペリさんがもらっていた報酬につきまして、ルノーがこんなコメントを発表しているんですね、大木さん。

大木
ルノーは10日に行われた幹部会議の内容としまして、「2017年と2018年の会計を内部監査した結果、幹部の報酬に問題はない。今回セペリ副社長に支払われた2016年までについては今後調査を進める」としています。

山口
ということでこのムナ・セペリさんをめぐる疑惑というのは浮上しているわけですけれども、さらに、日産とルノーの幹部が協力して、(ルノーからの)ゴーン被告の報酬隠しを計画していたという報道、フランスの新聞の報道なんですけれども、日産側のケリー被告と一緒に報酬隠しを計画していた人物がいるんです。それは、最終的には断念されたんですけども、この人物が井上さんによりますと、このムナ・セペリさんではないかということなんですね。井上さん、このムナ・セペリ副社長とはどんな人なんですか?

井上
日産の社内では「ルノーのケリー」という言い方をしています。経歴も似てる。弁護士の資格も持っていますし、ゴーン氏の側近の一人として実は、今、暫定CEOであるボロレさんよりも権力を持ってるんじゃないかと。広報、総務、取締役会事務局など、管理部門の中枢を担っている方でして1999年の提携の時からゴーン被告のそばにいる。当時は法務部のマネージャーだったんですけど、提携交渉にもかかわっている方でして、日産との関係も詳しいという事でして、日産の内部調査でもムナ・セペリ氏が怪しいという事が浮上していますね。

山口
実際、今、このセペリさんをめぐる疑惑が浮上していますよね。これがあることによって、例えば、今、ゴーン被告は、まだルノーの会長ですけど、この立場というものに影響を与えるのかどうか、そこいかがでしょうか?

井上
これが直接影響を与えるということはないと思うんですけども、日産・三菱・BVからお金をもらっていたとか、ゴーン被告の指示でもらっていたというようなことになっていますよね。そうすると、やっぱりフランスの政府やフランスの社会が非常に厳しい目で見始めていますので、それでルノーCEOの解任という方向に近づいていくんじゃないかなというふうに思いますね。川村さんは、ここまでご覧になって、どう感じますか?

川村
基本的に、我々がまだ日本のメディアを含めて知らないことが検察の内部で既に、たとえばの話ですけど、中東日産についてのある種、調査が入っていて、こういうことをしていたんだっていう輪郭が分かってきていれば、今、直ちに明らかにならなくても、公判維持できるんじゃないかっていう、そういうある種の確証が持たれているのかどうかというのが気になりますよね。

■異例の会見 ゴーン被告弁護団の戦略

山口
それでは、今後の特捜部とゴーン被告側、これから長い戦いになると思われますが、争点を考えていこうと思います。まず、その内容が少しずつ見えてくるんですが、そのきっかけとなるのがこの弁護側の8日に行われました会見でした。その概要を確認しておきます。お伝えしていますように日本外国特派員教会で行われました。時間は2時間。質疑応答もありました。ここではこの特別背任罪について大鶴弁護士がこういう発言をしているんです。

大鶴「私たち弁護団は全く嫌疑がない。犯罪の容疑がないと考えています。3者間、つまりゴーンさんと銀行と日産の間の合意があるわけですから、日産に損失が付け替えられるはずがないのに、なぜ裁判所はこれが犯罪だと、検察官の請求する通りに認定するのか非常に疑問、不満に思ったわけです」

山口
ということなのですが、もう一回確認しますね。「我々弁護団は全く嫌疑がないと考えています。ゴーン被告と日産と新生銀行の間の3者の合意があるので損失は付け替えられない」という風に話している。そもそものところをもう一回確認していこうと思うんですね。今回の特別背任の起訴事実っていうのはこうでした。まずゴーン被告が金融商品の運用で18.5億円の評価損を抱えてしまった。この評価損のある契約を日産に付け替えたということなんですよね。これで日産に損害を与えたということが発端になっています。ただ、この付け替えが問題視されたことによって、ゴーン被告側にこの評価損の契約を戻したわけですね。このときに協力したのがこのサウジアラビアのハリド・ジュファリ氏で、このハリド・ジュファリ氏に対して中東日産から12.5億円、当時のレートで、この巨額のお金が協力した報酬として支払われたのではないかと見られているわけなんですが、大鶴弁護士はここで重要な事実があると、この付け替えに関して言っているわけです。それがこちら。損害を与えない3者合意があったんだということなんです。どういうことかと言いますと、ゴーン被告と日産、そしてこの新生銀行の間で「No cost to the company」 つまり損害を与えないという約束が交わされていた、合意があった。つまり、どれだけ損害があったとしても日産は1円も支払う必要はない。損害が出ない状態だったということなので、そもそも特別背任という嫌疑すらないと大鶴弁護士は主張しているわけなんですね。この主張、高井さんいかがですか?

高井
まず正確に申し上げると、評価損のある契約当事者としての地位を付け替えたということになるわけですね。大鶴さんは「3者の合意があるから損失は付け替えられない」と言っているわけですが、これが実損を意味しているのであれば特別背任罪においては実損が発生する必要はないので、これは反論したことにならないんです。問題は評価損。評価損を含む地位を付け替えることが特別背任罪でいう損害に当たるかどうかということでそれは評価損が実際化するリスクをどの程度に考えるか、特背で言うようなリスクに該当するかどうかということになるわけで、そのリスクがあると判断するかどうかの上では、3者合意というのは一定の材料にはなるんです。ですから、大鶴さんが言っているように「まったく嫌疑がない事は明らかである」、「3者の合意があるから嫌疑がないのは明らかだ」というのは言い過ぎであると。ただし、この3社の合意が特背の成立にまったく影響しないのかといえば、それは、この3社の合意の、特に契約書ですね、3社の契約書の中身でどういう条項があるかということについては、この特背でいうところのリスクに該当するかどうかという判断の上で重要な材料にはなります。

山口
つまりこの評価損ですね、この契約を付け替えた時点で、そもそも、どうなんだということなんですか?

高井
そういうことです。そういうところで、もうリスクが、特背でいう損害に該当するリスクが発生した、というふうに見ることができればこれはもう特背は成立するということです。

山口
それでは、こういう3者合意ということについて、これが金融の世界では実際にあるのかどうか、金融アナリストの田淵直也さんに伺ってみました。そうすると、こんなお答えをいただきました。「非常にまれなケース。銀行にとってみれば関係のない話。つまり損失が発生した場合は(銀行は付け替えた時点で)日産に請求することができる。損失を誰が負担するかは、日産とゴーン被告の間で決めればいい話なので、銀行にとってみれば関係のない話だ」これはその通りのだと思うんですよね。このあたり井上さんいかがですか?

井上
これはですね、私、思うんですけど、最終的には裁判官が判断するんですけど、この商品は非常に投機的な商品で、円安に振れるとかなり儲かっているわけですね。円高に振れると損するような商品でして、儲かっているときは自分がもらって、損しそうになると会社に付け替えようとしたというふうに私は見ているんですね。そういった意味で、ちょっと身勝手なんじゃないかなという感じがしますね。

山口
確かに円高局面で評価損が出たということですけど、その前もあったんじゃないかということですね?

井上
その前もあったわけですね。多くの富裕層はこういう商品を買って、実は、リーマンショックのあと損しているわけですね。実際、苦しんでいた人たちというのは取材したことあるんですけど、結構いたんですね。ゴーン被告はかなり張っていた額が大きかったから、損した額も逆に大きかったんじゃないかなというふうに私は見ています。

山口
続いてなんですが、まず投機目的ではないということを大鶴弁護士側は主張しています。「ゴーン被告から投機目的で契約したわけでなく、ドルとして払ってほしいので契約したと説明を受けたんだ」と話しているんですね。ただ、そうだとしても残された疑問があります。両替目的の取引で18.5億円もの損失が出るものなのか、確かに巨額ですよね。このあたり金融アナリストの田淵直也さんに伺ったところ、18.5億円の損失が出るということは、100億円くらい運用しているんではないかということなんです。これどうなるかというポイントを考えてみたんですが、田淵さんによりますと、仮に2~3年の契約だと、投機目的だろう。これが10年の契約だと両替目的なんじゃないか。確かにゴーン被告の当時の日産からの報酬がだいたい年10億円なので、10年だとするとおよそ100億。この100億円くらいの運用というのは数字が合ってくるわけで、このあたりの契約期間がポイントになるんではないか、ということなんですね。さらに、です。大鶴弁護士側は「(ハリド・ジュファリ氏への)12.5億円は日産のために工場の許認可や投資の手助け、日産に対する勧誘をしてあげた正当な対価です」という主張をしています。ここがポイントなんですよね。「検察はゴーン被告を逮捕する前に取り調べをしていない」「このハリド・ジュファリ氏を取り調べていない」ということを問題にしているんです。このポイントなんですが、高井さんいかがですか?

高井
取引が投機目的であるかどうかは、特背の成否にはまったく何の関係もない。両替目的の取引で損が発生したらそれ付け替えていいのかという話になりますから、これは何の反論にもなっていないということですね。それから2つ目のジュファリさんの取り調べをしていない。これは確かに大鶴さんの言う通りなんですね。本来の特捜であれば、当然逮捕する前にゴーンさんを取り調べているはずなんですね。いろんな事情があってやらなかったかもしれませんが、特捜としては、先ほどちょっと話が出ていますが、中東日産の会社側の社長等の供述、あるいはメールその他の間接事実で、ここでゴーンさんが言っているような主張は実際とは違うということが立証できるというふうに思って起訴に至っているというのは間違いないと思います。ただその見込みがその通り当るかどうかが1つ問題ではあるわけですけれども。

山口
そしてこのジュファリ氏ですが、特捜部に不満を漏らしています。「日本の検察官から質問書が送られてきたんだけれども、自分が犯行に関わっているという検察の見方は名誉棄損だ」と非常に厳しい声が出てきているんですよね。このあたり高井さん、いかがでしょうか?

高井
その程度の話、しかもこれ伝聞ですよね?多分これは今の段階では特背の成否に何の影響もない。ただ、ジュファリさんから具体的な宣誓供述書が出てくるような事態になると、それは一定の効果は持つということですね。

山口
このぐらいだったらまだ問題はないんじゃないかと?

高井
何の意味もないですね。

山口
そして最初の逮捕容疑、金融商品取引法についてはどうなのか、大鶴弁護士はこういう話をしています。「金融商品取引法違反についてはいろんな考え方はあるかなというところもあり、つまり検察のように考える考え方もあるかな」とも漏らしているんですが、このあたり、高井さんはいかがでしょうか?

高井
大鶴さんの非常に生真面目な性格がそのまま出た発言なんですが、要約すれば、事実関係ははっきりしているんだと。そこは基本的には争わないと。それは評価が違うんだと。そこは裁判所に決めて頂きましょうと。そういうことを言っているということですね。

山口
この後の検察とゴーン被告の争いがどうなるか、非常に注目が集まるところです。ここまで高井さんと井上さん、どうもありがとうございました。


(2019年1月13日放送:ゴーン被告の弁護人だった大鶴弁護士は2月13日に辞任、新たに弘中惇一郎弁護士が選任されました)