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#224

近代戦争史から考える”ウクライナでの戦争”の今後

2022年7月3日の『BS朝日 日曜スクープ』は、近代戦争の歴史を踏まえつつ、ウクライナでの戦争の今後を議論しました。ゲストは、『独ソ戦』著者の現代史家、大木毅さんと、防衛省防衛研究所 防衛政策研究室長の高橋杉雄さんです。

■「疲弊戦略」に突入する両国

菅原

本日のゲストを紹介します。累計18万部のベストセラーとなった「独ソ戦」の著者、大木毅(おおき・たけし)さんです。よろしくお願いします。

大木

よろしくお願いします。

菅原

そしてもう一方、国際安全保障、現代軍事戦略がご専門の防衛省・防衛研究所、高橋杉雄さんです。よろしくお願いします。

高橋

よろしくお願いします。

上山

今後のウクライナ情勢に大きく関わるNATO首脳会議が6月29日、30日に行われました。会議では、今後10年間の指針となる「新戦略概念」を採択。ロシアの位置づけを「戦略的パートナー」から「最大かつ直接の脅威」へと変更しました。そして、ウクライナ軍の兵器の近代化を図る「包括的支援策」を決定しました。

菅原

NATO、そしてアメリカは、ウクライナへの軍事支援を強化していますが、ロシアは無差別攻撃まで繰り返しており、今後の展開は予断を許しません。こちらの年表は、20世紀以降の戦争をまとめたものですが、ここからは、これまでの戦争の歴史を踏まえながら、ウクライナでの戦争の今後を考えていきたいと思います。

中でも、こちら、日露戦争から第1次世界大戦、さらに、第2次世界大戦が始まった時期に様々なヒントが隠されているときょうのゲスト、現代史を研究する大木毅さんは指摘しています。

上山

ではまず、ロシアとウクライナ、これまでの両国の戦いを理解する上で、大木さんは2つの戦略をあげています。ひとつは「圧伏戦略」これは大規模な戦闘で勝利し、戦争全体を決定づけてしまう、という戦略です。もうひとつは、「疲弊戦略」これは幾多の戦闘を長期的に戦い抜く戦略、ということです。大木さん、この2つの戦略が今回のロシアとウクライナの戦いにどう当てはまるのでしょうか?

大木

まずお断りしておきますと、正確には私が言ったことではなくて、ドイツの歴史家・軍事史家で、政治家でもあるハンス・デルブリュックという人がいます。1848年に生まれて、1929年に亡くなっておりますが、クラウゼヴィッツの影響を受けて、彼は、二種類の戦略概念を立てました。一つは圧伏戦略、原語はNiederwerfungsstrategyですね。旧陸海軍の訳だと、殲滅戦略というきつい言葉になっていますが、殲滅を表すには Vernichtungなる別の単語がありますので、必ずしも適当ではない。それで圧伏戦略と訳してみました。具体的にはナポレオンの戦略などを想定した概念です。たとえば、1805年の対オーストリア戦。ナポレオンは、オーストリア軍と来援したロシア軍をアウステルリッツ会戦で撃破し、戦争そのものの行方を決めました。

上山

このアウステルリッツの戦いで、ナポレオンの采配が非常に光ったということです。それで大きく勝ったということです。

大木

そういった決戦によって戦争全体を決するやり方ですね。一方の「疲弊戦略」。これも旧軍が「消耗戦略」とか訳しているんですが、Erschöpfungsstrategieドイツ語なんですけど、文字通り、疲れさせる戦略なんですね。だから決定的に勝つということではなくて、延々と勝たず、しかし負けずに戦争を続けていって、相手がもう戦争を続けられなくなる状態に追い込む。私が原語のニュアンスから「圧伏戦略」、「疲弊戦略」と訳してみました。

そういった決戦によって戦争全体の結着をつけるやり方ですね。もう一つは疲弊戦略、旧軍は消耗戦略と訳しているんですが、原語は Ermattungsstrategyで、文字通り疲れさせる、疲弊させるという意味合いが強いのですね。決定的に勝つということではなく、延々と負けない状態を続けていって、相手が継戦意志を失うところまで持っていく。

今回、ロシアは、当初のキーウ攻撃からもわかるように、デルブリュックの分類でいう圧伏戦略を取って、短期で決着をつけることを狙っていたと思うのですけれども、ご存じのようにうまくいかなかった。一方のウクライナ軍も圧伏戦略でロシア軍を倒すことはできません。ロシア領内へ攻め入ることはもとより、ウクライナ国内での戦闘で決定的な勝利を得ることも難しいでしょう。したがって、ロシア軍・ウクライナ軍ともに疲弊戦略を取らざるを得ない。個々の戦闘で決勝を得るのではなく、戦争を続けることによって、相手が戦争を継続できない状態に持っていくことを狙うでしょう。

■「”戦闘での勝利イコール戦争の勝利”とは限らない」

上山

今のお話にもつながってくることだと思うんですけれども、さらに大木さんなんですが、戦争の勝敗というものについてこういった指摘をなさっているんですね。まさに「”戦闘での勝利イコール戦争の勝利”とは限らない」ということなんです。今のお話にも近いものがあると思うんですけども、これは大木さん、どういう意味があるんでしょうか。

大木

たとえば、第一次世界大戦のドイツは、開戦当初にロシア軍が東部地域に進入するということはありましたが、基本的には自国の領土外で戦った。ベルギーに攻め入り、フランスに攻め入り、常に敵地で戦って、ドイツ国内に敵を入れるということをしなかった。ところが、1914年から1918まで総力戦を遂行し、食料統制や勤労動員など、国民に負担をかけているうちに、その継戦意志が失われてしまった。

その結果、ドイツ海軍の主要根拠地であるキール港で水兵反乱が起こり、これが労働者のストライキや蜂起とつながって、革命に至る。ドイツ帝国は滅び、当然のことながら戦争は継続できなくなってしまった。つまり、戦闘に勝利しても、決定的に戦争を終結させるようなものでない限りは、勝って勝って、勝ち続けても、戦争を継続できなくて敗北するということはあり得るのです。

上山

今回のロシアとウクライナの戦争に関しても、同じことが言える可能性があるというわけですよね。ロシアにしてみれば、ウクライナに戦闘で押されるような展開になったとしても、ロシアとウクライナ、国力を考えればウクライナには国力には限りがあると、ロシア側としてはそのように見て戦争、戦闘を長続きさせることで、ウクライナの疲弊させていく。そういったことも頭にはあるのではないかということですか。

大木

ロシアがそこまで考えているかどうか、現時点では確証がありませんが、仮に戦闘で負けてロシア軍が押し返されたとしても、戦争を継続すること自体でウクライナに圧迫をかけるという選択肢が残ります。ウクライナは開戦時に総動員をかけて大軍を編成したわけですけれども、その状態を維持すれば、やがては経済が行き詰まるのは眼に見えている。だとすれば、ロシアは、たとえ戦闘に勝てなくとも、ウクライナに居座って、戦争を続けることによって、相手を疲弊させることができるのです。先ほどから議論になっているように、ロシアの戦争目的が判然としない以上、これも推測にすぎませんが、理屈で考えると疲弊戦略に出る可能性は高いと思います。

■「ウクライナを諦めさせる戦いに」

上山

高橋さんはどのようにお考えですか。今、大木さんから提示されたような見方がありますけれども。

高橋

元々ロシアがウクライナ全土を占領して支配するというのは、事実上不可能なんですよね。というのは歴史的に言われている敵性国民を支配する上で必要な兵力数があるんですけど、その計算を当てはめるとウクライナ全土の支配には80万人必要です。80 万人というのは一応ロシア正規軍いますけど、全部ウクライナに駐留させるようなことになるので実際は不可能です。ウクライナを全部占領して戦争を終わらせることはできないという状況で戦争始まっているんですね。

だとするとどこかでウクライナを諦めさせるという戦いにどうしてもなると。まさに軍事力を軍事目標に対してではなく、ウクライナの社会、経済、国民をターゲットにすることで、ウクライナを諦めさせる。そういう戦い方に最初からなっていたんだと思うんですよね。そういうことでいうと消耗戦にウクライナを引き込んでいって、しかもロシア側の認識としてはロシアはまだ総動員をかけていないのだからロシアにはまだ余力があると、少なくともロシア側は認識しているので、そういう状態でウクライナ側に消耗を強いていくと。どこかの段階でウクライナに諦めさせるというのが今の彼らのゲームプラン、戦い方の計画だというのは十分可能性はあると思いますね。

上山

ウクライナの国民そのものをある意味疲弊させる、疲れさせるというのが、今の攻撃の大きな目的であると。

高橋

そうだと思います。それを妨害するのが西側からの援助なんです。経済援助を含めたということで。ですからそれをやめさせたいというのがロシアの考え方だと思います。

■「日露戦争は消耗戦を政治が回避」

上山

河野さんはこの議論、どのようにお考えですか。

河野

第一次世界大戦の時はそうではなかったんですけど、今回ロシアが世界的に経済制裁を食らっているわけですよね。したがって、ロシアも長くなれば長くなるほど、経済制裁が効いてくるわけだから苦しくなるわけですね。戦闘での勝利は戦争の勝利とは限らないと、これはまさにそうですね。これは日本の戦史でも小牧・長久手の戦いというのがあるんですが、これは豊臣秀吉と徳川家康の戦いなんですけど、戦闘では徳川家康が勝ったんですよ。勝ったんですが、豊臣秀吉がうまく戦略的に徳川家康を包囲して、結局、徳川家康が豊臣秀吉の軍門に下るという。戦闘に勝っておきながら、こういうことですよね。

だから、まさにこれは、もう万国共通するなと思いましたのと、あと日露戦争の時は、奉天の会戦、ここでギリギリ日本が勝ち、続いて、日本海海戦で勝ったんです。このままズルズル消耗戦にいくことを避けて、この時は外交、政戦略が一致をしてここで打ち止めにしたんです。ギリギリのところで打ち止めにして。賠償金は取れなかったんですが、日本がその後、大国として進んでいく足がかりになったということで、日露戦争の時は消耗戦に持っていくことをぎりぎり政治が防いだということです。

上山

日露戦争は18カ月間ぐらい続いたんだけれども、その膠着状態の中で日本側としてもきっかけを見つけて。

河野

あのまま続けていれば結構消耗戦になってきたんですね。日本にとって非常にいいことではなかったわけですが、ぎりぎり打ち止めたということですよね。そこは非常に政戦略が一致した例だと思います。

■ロシア革命を踏まえた”プーチン政権の対策”

上山

ウクライナでの戦争については長期戦が避けられない状況になってきていますが、近代戦争の歴史を振り返ってみますと、戦争によって国内で革命が起こるということが繰り返されてきました。そしてロシアでも、戦争が引き金になって革命が起こっていました。プーチン政権はこうした革命の歴史も踏まえた上で、ある対策を講じていると大木さんは指摘をしています。

菅原

1904年から1905年にかけて起こった日露戦争、そしてその後の第1次世界大戦の影響です。日露戦争はロシア第1革命を引き起こした、とされています。日露戦争下の首都で皇帝に“パンと平和”を求めた労働者・市民のデモに軍隊が発砲、いわゆる「血の日曜日」事件が起こります。労働者は代表会議ソビエトを設立、政府は日露戦争の継続が困難になり、国会の開設を約束しました。

そして第1次世界大戦の影響をみてみます。第1次世界大戦の影響でロシアでは2月革命が起こりました。大戦は総力戦になり、それが国民生活を圧迫します。そして首都で大規模なストライキが発生、ロシア臨時政府が樹立されニコライ2世が退位し、300年以上続いたロマノフ王朝が終焉を迎えたのです。

影響はそれに留まらず史上初の社会主義国家の誕生に至ります。それが10月革命でした。レーニンやトロツキーが武装蜂起しロシア臨時政府を倒し、史上初の社会主義国家であるロシア・ソビエト共和国を樹立します。そしてソビエトはドイツと単独講和し第1次世界大戦から離脱するのです。

このように日露戦争、そして第一次世界大戦と民衆の不満が国内で溜まっていきまして革命が起きる、戦争が続けられなくなったといったことが起きたわけですね。大木さん、今回のウクライナ侵攻も長期化すると見られていますけれども、今後ロシア国内にどういった影響が出てくると見ていらっしゃいますか。

大木

ロシアはまだ総動員をかけていない、これからだと述べているわけですが、はたして、「血の日曜日」事件や革命を経験した国で、第一次世界大戦のような総力戦ができるかどうか。総力戦というのは、体制にとっての負荷試験、負荷をかけてどれだけ耐えられるか、そういう強靱さがあるかというテストだといわれます。今回、ロシアが耐えられるか、私は疑問に思います。一方で体制支持を失わないよう国民の機嫌を取りつつ、戦争を継続できる程度の動員はかけなければならない。マクドナルドもどきの店をつくってみたり、コーラやファンタの類似品を発売してみたり……公には戦争と称してはいないとしても、なぜ軍事作戦中にそんなことをするのか。結局はそれをやらないと、体制が持たないということだと思います。

ナチスドイツについて、あれは「福祉国家以後の独裁」であるということがいわれます。ヴァイマール共和国という福祉国家を経験したあとの独裁であるから、国民の生活水準を下げるような無理な政策は取れない独裁だというのですね。それをもじっていえば、プーチンの専制というのは、まがりなりにも民主化を経験したのちのこと、「民主化以後の専制」ですから、国民に深刻な犠牲を強いるような動員はできないんじゃないでしょうか。そこで何をやるかというと、ウクライナの占領地から食料、原料、労働力等々を収奪して、ロシア国民の負担を減らしつつ、戦争を継続するのではないかと思っています。

■ウクライナからの「収奪」と国営放送での軍批判

菅原

今も穀物だったり、金だったり。それから市民も一部ロシアの国内に連れていかれる、こういったことがあると聞いています。これがその一環だということですか。

大木

そうだと思いますね。ウクライナ側はマリウポリから70万トンの穀物が持ち去られたと発表している。話半分で35万トンだとしても、どうやって運んだのか。船や貨車、自動車を準備していたのか。とても即席でできることではない。前々から準備していたとしか思えないですね。ただ、よくわからないのは、おそらくロシアは当初、たとえば「プラハの春」を鎮圧したように、ほとんど抗戦することなく、場合によっては無血でやれるんじゃないかと思っていたらしいので、そうして占領したあとに収奪するつもりだったのかどうか。それが戦争が長引いたので、占領したところだけでもと収奪にかかったのか、これは不分明です。ただ、今後も、物、人、金を持っていくことはやるんじゃないかと思います。

上山

ウクライナからの収奪で、ロシア国民の不満を解消しようとするのも理不尽極まりないと思いますが、実はロシアの国営放送が、これまでの戦いを批判する放送を行いました。「60ミニッツ」というトーク番組でのことです。出演者が軍事作戦について言及し「計画性がない」「目標が過大である」「戦術が愚か」など、ウクライナ侵攻について批判しました。高橋さん、国営放送の番組で、このような批判が出てきているということは、ロシアの国民の負担が重いような戦い方が行われているということなんでしょうか。どのようにご覧になっていますか。

高橋

あるいは上手くいっていない理由は、軍人が悪いのであると。つまりプーチン大統領の戦略が間違っているのではなく、プーチン大統領の指示を受けてそれを実行している軍人が悪いのであるというような、ある種の印象操作である可能性もあると思います。ちょうどドボルニコフ司令官が更迭されたというような情報もあるわけで、しかも更迭された理由の中に、例えば酒の飲み過ぎだとかそういうのが挙げられているという報道もありますから。だとするとそういう形で軍の一部をスケープゴートとするような動きがあるのかもしれないという見方もあると思います。

■「ロシアが得をする形で終わらせてはならない」

上山

責任の矛先を軍の方に向ける手段ではないかという話もありましたが、ウクライナ情勢の今後についてなんですけれども大木さんはさらにこういったことも指摘されています。ロシアが得をする形で終わらせてはならないということで、大木さんは特にこの点重要視されているということなんです。

大木

ロシアが「得をする」というよりも、侵略は見合う、間尺に合うと思わせてはいけないということです。たとえば、領土拡張であったり、傀儡政権の樹立であったり、ロシアが何らかの形で利益を得る、つまり、核で威嚇して、軍事力にものを言わせれば、国益を貫徹できるという結論に持っていくことは、何としても避けなければなりません。今回非常に難しいのは、平和を回復するだけでは充分でなく、冷戦終結以後積み上げてきた国際秩序・規範を乱すことは許さない、さらに乱すことは決して得にならないという形で終わらせなければならない点だと思います。

上山

高橋さんはどう覧になっていますか。今、大木さんからはロシアが得をする形で終わらせてはならないというお話がありましたけれども。

高橋

もちろん得をさせてはいけない。例えば領土的な野心を満たされるようなことがあってはいけないと思うんですけど、同時に政治的に見ると、「得」をどう定義するのかっていうのは難しい問題です。例えば1950年から1953年の朝鮮戦争の時に中国が人民解放軍、人民解放義勇軍という形で軍事介入するんですけれども、それを決めた一つの大きな理由は、要するに中国のすぐそばに米軍が来た場合には中国は力を持って立ち向かうということをアメリカに認識させる、あるいは世界に認識させるということが当時の毛沢東の判断の大きな理由だったんです。

上山

中国のパワーを見せつけるためだった。

高橋

はい。そうすることで、それから先に似たようなところに軍事介入させるのを阻止するというところがあったわけです。実際その時の毛沢東の軍事介入は、その後のアメリカに非常に大きな影響をもたらしていて、それはある意味、政治的には得になっているんですよね。ですから今回のケースで言うと、ウクライナとかジョージアに手を出すとロシアは攻めるということをまた改めて前例をつくったわけですから、それに対して西側あるいは国際社会がロシアの主張をある程度受け入れるようなことになると、結局ロシアが得をしてしまうということになるので、その辺りまで考える必要がおそらくはある。つまり、どこかの段階でウクライナをNATOに入れるということは、テーブルに乗せざるを得ない。得をさせないのであれば、ということですね。そういうような意味合いが含まれていると思います。

上山

ロシアのウクライナ侵攻については河野さん、大木さんがロシアが得をする形で終わらせてはならないと提示してくださいました。これについてはどういう風にお考えでしょうか。

河野

あるロシアの高官が「経済制裁はいつかは終わるけども、領土は永遠に残る」と、こういったと言うんですよね。やったもん勝ちにしちゃいけないということで、今、西側から”ウクライナ疲れ“とかいう言葉が出だしているようなんですが、ここはやはり、西側は絶対、根気負けしちゃいけないということだと思います。

■戦争の連鎖を断つためには…

上山

20世紀に入ってからの戦争の歴史というのを振り返ってみますと、戦争が新たな戦争を引き起こしてきたという側面は否めません。どうすれば、戦争の連鎖を断ち切れるのか?戦争が次の戦争を引きおこしたケースとしては、第一次世界大戦後のベルサイユ条約が挙げられます。

敗北したドイツは「植民地をすべて失う」などの様々な条件の他に1320億マルク、現在の価値で200兆円以上という多額の賠償金の支払いを求められました。そのことが、ドイツ国民の生活を困窮させ、ヒトラーの独裁を生み第2次世界大戦につながった、という指摘があります。そうした近代戦争の歴史を踏まえて、大木さんの指摘はこちらです。「負ける側の国民に敗戦をどう認識させるか?」です。大木さん、どういったことでしょうか?

大木

第一次世界大戦でドイツは国内に敵を入れないままに、しかし敗れました。その結果、ドイツ軍は負けてはいない、背中からユダヤ人や共産主義者に背中から刺されたのだという議論が横行した。ドイツは裏切りによって負けたという他罰的な議論ですけれども、これが非常に強くなりました。もちろん、ヒトラーとナチスもそうした見解を共有しております。その復讐をしなければならないというのが、第二次世界大戦の遠因の一つとなりました。

ウクライナ侵略戦争でも、ロシア国民の認識として、自分たちは馬鹿なことをした、ウクライナに兵隊として出ていった父親も夫もわが子も帰ってこなかった。そこまで犠牲を払って得たものはない、まったく見合わないじゃないかという状況で終わらせなければならないんだと思います。ロシア国民が、こんな馬鹿なことは二度とやらない、やろうとするような指導者は選ばない。自ずからそう思うような終わらせ方をするのは、非常に難しいことです。しかし、努力しなければならない。われわれの時代だけではなくて、子供にも孫にも平和を用意しようというのであれば、戦争は割に合わないという状況をつくらなければならないのでしょう。

菅原

高橋さんはこの敗戦をどう認識させるかというのはどうお考えでしょうか。

高橋

やはり自国が戦場にならない戦争で、かつ生活がほとんど変わらない戦争で敗戦を認識するのは難しいと思うんですよね。例えばアメリカはイラクで負けたわけですけど、少なくとも勝てなかったわけです最終的には。もう二度とああいう戦争はやるものかと多分アメリカ人は思ってますが、ただそれは勝てなかったという認識によるものなのかどうかというとやや疑問があると。今回もロシアも同じような結論に至ればまだいい方で、全くそうもならない可能性は十分にあるのではないかというように思いますね。

■「ロシアの火力にどう対応できるか注目」

上山

ゲストのお二方には、これからの展開で注目しておくべきことを伺いたいと思います。高橋さんはどんな点に注目されていますか。

高橋

この1カ月ほど、ロシアの戦い方がかなり変わっていて、自分たちの優位である火力ですね。砲兵火力を重視する戦い、例えば24時間とか48時間火砲を打ち続けて、それから前進する。止められたらまた火砲を打ち続けるという、ある意味ロシア側にとって安全な戦い方をしています。それを今ウクライナ側がうまく止められていないわけで、そこで今の劣勢があるんですけれども、これに対してウクライナ側が何らかの対応策を思いつくことができるか、それを支えるような装備品を西側が供給できるかと。そうすることでまた戦況が変わってきますから、そういう意味でロシアの火力戦の展開とその火力戦へのウクライナの対応ですね。そこをちょっと注目したいと思います。

上山

なるほど、大木さんがどんな点に注目されていますか。

大木

私はむしろ機甲戦力を重視しています。戦車ですね。今のウクライナは、泥濘期が終わって地面は乾燥し、戦車を運用するには絶好の季節なのです。また、日本人にはなかなか実感しにくいのですが、ちょうど日の長い季節で、夜の九時、十時まで明るい。すなわち、戦闘に使える時間が長いということがあります。そういう状況にもかかわらず、両軍とも、陣地突破の支援程度にしか戦車を使っていない。本来ならば、大機動戦が展開され、きわめて流動的な戦況になっていてもおかしくないはずですが。今後、そのような戦車の機動戦が展開されるのか、されないとしたらなぜなのかということが、一つの大きなポイントであるかと思います。

上山

高橋さんはこの辺り、機甲戦が展開される可能性はいかがですか。

高橋

4月の下旬の攻勢では、ロシア側が1日あたり20両以上の損害を出しているんですよ。かなり戦車を使っていた傾向がある。でも今のロシア側の損害が1日あたり10両を切っているので、やはりなぜか使っていない。そこの理由をどう考えるかというのは私も同意しますね。

(2022年7月3日放送)