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#238

ロシアがヘルソン撤退…ウクライナ奪還 次の主戦場は!?

ロシアがヘルソン州のドニプロ川西岸から撤退。ウクライナが8カ月ぶりに州都ヘルソンを奪還しました。2022年11月13日の『BS朝日 日曜スクープ』は、ロシア軍から見ると、侵攻開始以来、最大の敗北となる“撤退”を詳報し、次の主戦場がどこになるのか、分析しました。

■「解放」に歓喜するヘルソン市民たち

飯村

ロシア軍がヘルソン市を含むドニプロ川西岸から撤退しました。ロシアにとって侵攻後、最大の敗北となる撤退に大きな衝撃が広がっています。ウクライナ侵攻の大きな分岐点となるのか、詳しく見ていきます。それでは本日のゲストをご紹介します。まず元モスクワ支局長で朝日新聞論説委員 駒木明義さんです。よろしくお願いします。

駒木

よろしくお願いします。

飯村

そして、もう一方、ロシアの軍事安全保障がご専門の防衛省防衛研究所山添博史さんです。よろしくお願いいたします。

山添

よろしくお願いします。

上山

では、最初のテーマがこちらです。「ロシア軍撤退 8ヶ月ぶりの解放に沸くヘルソン市」詳しく見ていきます。

まずヘルソン市が解放された時の映像からご覧ください。これは11月9日、ロシアが撤退を表明したヘルソン市に、ウクライナ軍が到着した時の映像です。周りを見ますと、多くの住民がウクライナ軍を出迎えている様子が分かります。

兵士を歓迎して抱え上げている様子も映っています。

そして、女の子がウクライナ国旗を羽織っていますが、兵士に花束をプレゼントしています。

ヘルソン市に住む祖母の元に駆け寄る、ウクライナ兵の姿もありました。このように2人は抱き合ったまま座り込んでいました。

駒木さん、ロシアに支配されていた8か月間、ヘルソンの住民の方々は、反ロシアだとみなされると、拷問も受けていたという情報も入っています。それを経ての解放、喜びということになると思うのですが、本当胸が熱くなります。どうご覧になっていますか。

駒木

やはり、非常に感動的な光景だと思いますね。今まで、ほかの占領地、ハルキウとかキエフの北方でもそうですけれども、ロシアが占領していたところでは、非常に残虐な行為が行われていました。今、ご指摘のあったような拷問とか、あるいは拉致とか、そういうものの実態もこれからわかってくると思うんですね。

一方で、積極的にロシアの占領に協力して、むしろ内通してという人たちが責任を問われるのは当然なんですけれども、やむにやまれず、ここに残ってロシアの占領当局の圧力を受けて、ロシア国籍を取得したり、あるいは協力的とも言える立場をとった人たちが激しく非難されるような動きも広がっています。そこは非常に心配で、やはりもちろん、責任のある人たちは批判されるべきですけれども、やむを得ず、そういうことを強いられた人たちもいるわけで、そういう分断をこれからどうやって癒していくのかというのは、ロシアの占領地域、あらゆる場所での、今後の大きな課題になると思います。

上山

山添さん、映像を見ていると、皆さん喜んでいらっしゃるんですけれども、ただ、この方々の家族、それから友人の中には、亡くなった方も沢山いらっしゃると思うんですよね。これは、ロシアが撤退という形になっていますけれども、裏を返せば、これはもうロシアからの奪還ですね、ウクライナ国民が奪い返したということも言えそうですが、いかがですか。

山添

ウクライナ軍が長い時間をかけて、奪い返せるようにやっていた。それは、ロシアがそもそも不利な状況にあったということですね。川を渡って補給線を絶たれていくような場所で戦わざるを得なかった。ロシア軍はさらに西に、オデーサ、ミコライウの方に進もうとしていたんですけど、そこもウクライナ軍が防いだ。そして、ロシア軍を追い詰めていった。それでロシアが撤退するという決断をした。

私が危惧していたのは、このときに大規模な市街戦とか、撤退するときに人道被害が大規模に起こるとか、これからまだあるかもしれませんが、今、このヘルソン市中心部については、今のところ、平穏に市民がウクライナ軍を迎えることができた。この点については、危惧していたよりは良いという感想を持っています。

■ゼレンスキー大統領「ヘルソン市民は待っていた」

上山

ロシア軍の撤退を受けてのゼレンスキー大統領の演説です。「ヘルソン市民は待っていた。ウクライナを決して諦めなかった。私は、人々が占領者からの様々な『脅威』『弾圧』『虐待』の中、人々がウクライナの国旗を保管し、ウクライナを信じていたことを幸せな気持ちで見ている」と、このように語りかけました。

では、改めて侵攻後のヘルソンはどういう状況をたどったのか見ていきたいと思います。まずロシア軍が侵攻を開始したのが2月24日で、それからわずか1週間、3月2日にはヘルソン市はロシアに支配されてしまいました。その後、5月には通貨がルーブルに移行されるなど、ロシア化が進められました。さらには9月、住民投票が強行されまして、そして今から1カ月半ほど前、9月30日には、一方的に併合宣言というのが出されました。こうした苦しい時期、8カ月余りを経てヘルソン市解放ということで、市民の方々の喜びにつながりました。駒木さん、ヘルソン市は侵攻開始直後、短時間で支配されてましたが、当時このように11月にヘルソン市が解放されることは想像されていましたでしょうか。

駒木

あまり想像はつかなかった事態ですね。

特に、色んな意味でヘルソンというのは重要で、州都であるということももちろんそうですし、あるいは、ドニプロ川をコントロールすることによってクリミア半島への水源を確保するという意味でもそうですし、あるいは、当初ロシア側が狙っていた黒海沿岸地域を全部占領すると、オデーサをはじめとして、あるいはモルドバへの回廊を確保するという意味でも、ヘルソンというのは手放せない、政治的にも軍事的にも非常に重要な拠点だったわけで、そこをこういう形でロシアが撤退することになろうというのは、なかなか予想がつかなかった事態だと思います。

上山

私たちも杉田さん、8月29日にウクライナ軍は反撃開始を発表していました。この8カ月、ロシアに支配されていたヘルソン市の解放、まさにこのウクライナ侵攻の象徴が変わったということになるんですけれども、この辺りどのようにご覧になっていますか。

杉田

この撤退が何を意味するかというのは、もちろんロシア軍が弱体化したために支えきれなかったということで、ウクライナ軍が優勢だということは間違いないと思うんですけれども、やっぱりドニプロ川を隔てて、北と南あるいは東と西にウクライナ軍とロシア軍で区域が分かれたと、軍事専門家の方がおっしゃっています。ロシア軍の狙いの一つの見方としてはここで東側に撤退することで、陣地を再構築して、そこで西からのウクライナ軍の渡河作戦、つまり川を渡ってくるウクライナ軍を迎え撃つという作戦をとっているのではないかという見方もありますよね。

米軍の統合参謀本部議長は、これからは非常に膠着するんじゃないかということを言っていますよね。ですので、ウクライナ軍がこれまでの勢いで、ドニプロ川のいわゆる東側、あるいは南側の現在ロシア軍が支配している地域をどんどん奪還できるのかどうなのか、そこはちょっと疑問です。ヘルソンの陥落があまりにも早かったので、ドニプロ川の東側でロシア側が態勢を立て直そうという意図あるのかなと、そういう思いもしています。

■「『3日間の撤退』かなり無理がある」

飯村

続いてのテーマはこちらです。「ロシア侵攻後最大の敗北 プーチン政権のダメージは?」これを詳しく見ていきます。

まず、ウクライナ南部の地図、クリミア半島があって、そしてドニプロ川西側から東側にロシア軍が撤退したということなんです。この拠点となるヘルソン州の州都、ヘルソン市。ここで市民が喜ぶ姿というのが先ほどご覧いただきました。ここも含めて、西側がウクライナ統治の青色に変わったわけなんですけれども、こちらをご覧いただきたいんです。

これは戦争研究所の分析ですけれども、11月4日、ドニプロ川の西側は、ロシア支配を示す赤色のところが多いのですけれども、わずか1週間後、11月11日には、その辺りも全て青くなっています。

先ほどからお話に出ているように大変重要な拠点がウクライナ側に奪還されたということで、ロシアとしては、どのように評価しているのかということですが、撤退成功を主張しているということなんです。11月11日、ロシア国防省です。「ロシア軍はドニプロ川西岸から完全に撤退した。そしてロシア軍は退却中に人員、武器、軍事、装備の損失を被らなかった」。撤退が非常に上手くいったんだと言っているんですよね。

上山

そのロシア軍の撤退の様子。一体どういう状況だったのか、詳しく見ていきたいと思います。こちら、撤退直前の支配地域を表した地図です。青い矢印はウクライナ軍の進行方向。それに対して、赤い矢印はロシア軍の撤退を表しています。このように、激しい戦いが続いていた北東方面と北西方面の前線を放棄。東岸に渡る4つ橋が損傷していたのですが、主に2か所からドニプロ川を渡ったのではないかと分析されています。

その撤退についてアメリカの戦争研究所は「ロシアの情報筋は、撤退は3日間続いたと指摘し、2万人のロシア兵と3500ユニットの軍事装備がドニプロ川を渡って移動したと主張している」。さらに元特殊部隊の軍事ブロガーは「10日~11日にかけてほぼ全ての防御陣地は放棄され、ロシア軍がドニプロ川を渡るフェリー地点に集結した」。このように分析しています。

山添さん、撤退前には西岸にいたロシア軍は、精鋭部隊を含めておよそこの3 万人とされていますが、それがこの数日で本当に東岸に撤退していったのか。この辺りはどうお考えでしょうか。

山添

私もずっと疑問でして、2日間ぐらい色々調べたり、昨日は陸上自衛隊の元指揮官だった方と話し合って相談してみたんですけど、試算してみると、3 万人が1列になって橋を渡ったりするとなると75時間かかる、例えばですね。それは間隔を空けて渡らないといけないということです。複数の橋とか、複数の手段を使えばそうではないかもしれませんが、ともかくずらっと続いて数十時間かかる。ではウクライナ側が黙って見ているのかというと、そこで妨害が必ず起こる、損害が大きくあるわけです。

これは兵員だけの話でして、ほかに3500のユニット、あの重い装備品があるとすれば、それも重くて時間もかかるし、狙われやすいということですので、ちょっとこの3日ではかなり無理があるのではないか。これから後で、こんなに損害を与えましたとか、そういうのが出てくるのかもしれないので、まだ続報を待たないといけないんですが、この3日で、あるいは、11月9日に撤収するという国防省の発表から2日間、48時間でこれが成し遂げられたとはとても思えないです。もともと3万人いなくて、既に精鋭のかなりの部分を撤収させていたとか、あるいは、まだ残っている人々が沢山いるとか、色んな考え方をするしかないのかなと思っています。

上山

なにかしら事前に準備なども行われていたのではないかというご指摘ですね。さらにこのロシア軍の撤退の最中、このような情報も入っています。ウクライナ軍がドニプロ川西岸でロシア軍に精密攻撃を加え、ロシア兵30人以上が死亡、戦車2台、トラック4台を破壊したということです。

つまり、逃げていくロシア軍に対してウクライナ軍がある種、掃討作戦、完全に排除するような作戦、こういったものを繰り広げているのかという情報ですが、こういった理解でよろしいでしょうか。

山添

まず西岸でも、やはり残っている兵士がいるとか、渡りかけのところでの攻撃というのがあって、一部こうやって情報が出てきているということだと思いますね。

■「ロシア軍が大規模な作戦行動をできない状態に」

上山

本当にロシア軍全員が撤退していったのかどうか、これについては、このような情報があるんです。 ウクライナのナショナル・レジスタンスセンターの発表では「ヘルソンの様々な地区で、私服を着たロシア軍が目撃されている。兵士は置き去りにされ、制服と装備をゴミ箱に隠しているが、武器は保管しているという」。撤退しきれずに、私服で民間人に紛れ込んでいるとしています。そして、こうしたロシア兵は州内に散らばって撤退を試みているという情報もあります。

山添さん、ドニプロ川西岸については、ロシア軍の精鋭部隊が展開されていた。その後、入れ替わりとして、経験の浅い動員されたばかりの兵士がここに配備されていて、その人たちが一体どうなるのかといったことを危惧されていましたが、結局、この精鋭部隊の撤退が優先されて、動員兵が一部残っている可能性は、どのようにお考えでしょうか。

山添

この撤収が明らかになった11日の数日前、色んな現地からの証言でも、これまでのプロフェッショナルな兵士とちょっと違う形の制服の人々が目撃されているとか、ちょっと構成の違うロシアの武装部隊がいるという証言もありましたので、やはり精鋭部隊を先に引いて動員兵を残しているということは想像ができるところですね。

それから、この地図ですけど、戦争研究所が10日の翌日の11日に一気にこの水色にしてしまっているわけなんですけれども、普通、そんな1日で完全な制圧は起こらないんですね。戦争研究所のレポートの説明では、これはロシアが支配力を及ぼせる段階ではなくなったので、ウクライナの色にしているということで、実際にはカホフカの発電所かつ橋のところ、この辺りまではウクライナ軍がまだ到達してないという話もあります。

上山

一部、水力発電所のこの辺にはウクライナ軍が届いていない可能性があると。

山添

到達はしていないということが、今は言われています。いずれロシアは支配できなくなるという判断で、戦争研究所も水色にしているんですけれども、つまりはロシアが継続的に抵抗を続けられる、存在し続けられるという状況ではないということです。ゲリラ部隊を置いているとか、そういう可能性もあるんですけれども、それでもロシア軍の部隊がそこで大規模な作戦行動を続けられるという状態ではなくなったという意味で、動員兵なり、散らばった兵士が逃げるか抵抗するかで残っている可能性があります。抵抗する兵士であれば、ウクライナ軍は掃討をする必要があるということです。ちょっとしばらく、そういう過程が続くと思います。ウクライナ軍が支配できていくというのが確実になっている。それは判断していいと思います。

■ロシア軍は兵器、装備も「撤収」できたのか

飯村

今、兵士についてのお話を伺いましたけれども、一方で兵器、装備などはどうなっているのか、ロシアの国防省は、退却中に損失はなかったと発表しましたが、ただ、こういった情報もあるんですね。ロシア軍が去った西岸、どうなっているのか。先ほども出てきた元特殊部隊の軍事ブロガーです。ヘルソンで焼けた対砲兵レーダーが発見されたと。カウント中だが数百台の戦車や車両、大砲や兵器が放棄された可能性があるとしているんですね。そして、もう一つの情報です。これは複数のSNSで発信されていたのですが、ロシアがS-300防空システムを残していったと。

こういった情報があるということで、山添さん、先ほど、人員もなかなか移動するのは難しいというお話がありましたけれども、この辺りに、相当、本来は入っていた兵器、戦車、こういったものは今、どのようになっていると考えられますか。

山添

撤収できるものは撤収したいはずで、それで残さざるを得ないものから残していたということだと思います。完全に撤収させることは人よりもかなり大きなものですし、橋が壊されている状況ですから難しいということなので、ロシア軍も損失というのは実際にはあるはずです。ただ、ロシアの国内の説明としては、人の命、優秀な兵士たちの命、これが最優先であると言っていますので、それで人員を優先して、兵器の損失もそんなにありませんよとは主張はしているんですけれども、やはり実際には破壊されているとか残しているというものはあると思います。

飯村

駒木さん、武器がどのぐらい残っているかとか、そういうことによってロシア軍の本当のダメージとか実態がわかってくるということなんでしょうか。

駒木

ダメージというか、どれだけ組織立って退却できたかということですよね。つまり、ハルキウで9月から退却したときには、全ての軍備とか武器、弾薬を掘り出すようにして逃げていったわけで、それが全てウクライナ側の手に落ちるというロシア軍にとっての失態を演じたわけです。

今回はそれに比べるとかなり組織立って動いているようで、精鋭部隊の代わりに動員兵を置き換えて、徐々に引いているようなところが見受けられるんですけども、そうであるならば、そういう装備を対岸にできるだけ持っていく。持っていけないものはウクライナ側に利用できないように破壊するということのはずなんですが、それがやっぱりやりきれていない、残ってしまったものがあると。組織立ったように見えても、そこに混乱があるとか、あるいは軍の統制がとれていない部分があるとか、そういうことなのかなと思います。

■ロシア軍は「撤退」時に橋を完全破壊

上山

そして、撤退する中でロシア軍が行ったとされる、このような映像も入ってきました。これはドニプロ川のカホフカ水力発電所ですが、画面が一瞬白くなりまして大きな爆発が起こったんですね。撤退するロシア軍が攻撃を行ったと見られています。

これはミサイルなのか地雷なのか、わかりませんが、相当な規模の大きな爆発、ダメージを与えるような爆発が起きている様子がわかります。今、ご覧いただいた場所、爆発が起きた場所が、こちらの地図で見て見ますと、ちょうどこの辺りになります。ヘルソン市から見ると、ドニプロ川上流にあるカホフカ水力発電所です。

この水力発電所、ダムでもあり、そして東岸に渡る橋でもあります。この橋の部分をロシア軍が攻撃、衛星写真では、崩落して通行できなくなっている様子がとらえられました。ロシア軍は他にもダリイフカ橋、そして鉄道用のアントニフスキー橋、そして車輛用のアントニフスキー橋、全てを攻撃して崩落させたとみられます。この4本の橋が崩落すると、ヘルソン州でドニプロ川を西岸から東岸に渡る陸路はなくなります。

CNNによりますと、ロシア軍は24時間で7本の橋を破壊したということです。山添さん、ことごとく撤退の時に橋を破壊していくロシア軍の狙い、これについてはどうお考えでしょうか。

山添

これは、ウクライナ軍がさらに橋を渡って進撃してくるのを防ぐという意図です。橋は元々かなり損壊しているわけですけれども、それを確実に復旧がしにくいようにしています。さらに大きく壊すということは、引いて防御する側としては利益になりますね。

■計画的な撤退か「防御陣地構築の可能性も」

上山

これまでウクライナ軍が攻撃していたのは、橋を損傷させるという形でしたけれども、完全に川の中に落ちてしまっていますから、意図的に、もう本当に使えなくさせるという状況でしょうか。

山添

そうですね、ここはまだロシア軍が支配していたときに、大量の爆薬をこの橋の下に設置するとか、そういうことは可能でありますし、そういうものが報じられた場面も他のところではありました。設置しておいて一気に爆発するというのはロシアが引く場合には可能です。実際にロシアがキーウ周辺に攻めてきたときに、ウクライナが橋を爆破して進軍を止めたという例もありますし、これは軍事的には至極自然なことだと思います。

上山

ただ、CNNが伝えているように、24時間で7本の橋をロシア軍は崩落させていた。こういうことがすぐに機動的にできるようなものなのか。その辺りはどうでしょうか。2~3日のうちにできるんでしょうか。

山添

やはり遠くからミサイルで狙うのと違って、あらかじめ爆薬を仕掛ける。それも大量に仕掛けることが可能な状況ですので、それを起爆させるということですからそれほど時間はかからないですね。

上山

つまり事前の準備として、こういった橋は地雷など爆薬を仕掛けておいて、機会が来たらそれを一気にという。

山添

そうですね。そういうふうに準備していたものと思われます。

上山

杉田さん、ロシアとしては今回、計画的に撤退したという形をとっています。かなり用意周到な準備があって撤退ということなのか。この辺りはどのようにお考えですか。

杉田

今のお話を伺うと、これまでの例えばハルキウからの撤退とか、あるいは緒戦におけるキーウ郊外を包囲した後の撤退とはだいぶ性格が違って、それなりの意図を持って、計画性を持った撤退と考えるべきだろうなと思います。問題は、先ほどお話がありましたけども、西岸に残っているロシア兵が、いわゆる残置部隊というんですかね、そういう形でゲリラ活動に出るような能力を持っている部隊なのか。それとも単に置き去りにされて、もうどうしていいかわからないという兵士なのか。そこがやはり今後、ウクライナ軍が作戦を遂行するのにおいて影響が出てくるのかなという気がしています。

それから、精鋭部隊がいち早く東側に逃げたということであるならば、彼らがやっぱり防衛陣地をきちんと作ることになると思いますので、これは今後のウクライナ軍の作戦がなかなか難しくなるのかなと。もちろん、上から徹底的に砲撃してから川を渡るということを考えるんでしょうけれども、それはまたそれで、この辺りに沢山の市民が生活しているとなると、そこの部分の犠牲をウクライナ軍としてどのように考えていくのか。またそれをアメリカなり、イギリスなりがそういう作戦を認めるのかどうかという、なかなか難しい色々な局面に直面しそうだなという気がしています。

■「時間かけ訓練度の高い兵員を撤退」

飯村

そして今回の撤退ですけれども、侵攻後、最大の敗北とも言われておりまして、これはプーチン政権にとっても非常に大きな重要な意味を持つ選択ということです。実は、このためにその準備が先月から始まっていたんじゃないかということが言われているんです。

撤退が始まったのはいつなのかということなんですが、12日のイギリス国防省「10月22日にヘルソンの親ロシア派当局が民間人に都市からの退去を促した時点で、すでに撤退作業が始まっていた可能性が高い」。つまりは11月9日に「撤退」発表ということになっていますけれども、その20日ぐらい前、先月22日から始まっていたんじゃないかということなんです。

そして実際に、親ロシア派当局の公式テレグラムがインターネット上で告知を、みんながわかるような形で行っていたということなんですね。10月22日、「ヘルソンの民間人及び行政の全ての部門と省庁は、きょうドニプロ川東岸に渡らなければならない。西側にレチポートという町があるんですが、ここから東側に行くことができる。そこからオレシキーの町まで船が出ます」ということで、集合場所のちゃんとした住所も公開していて、この民間人の中に、もしかしたらロシア兵も混じっていたんじゃないかという指摘もあるわけなんです。

さらに10月22日の4日前、ロシアのスロビキン総司令官です。10月18日、「ヘルソン市について非常に困難な状況にある。最も難しい決断も排除しない」と言いまして、これが本当なのかどうなのか、ロシア軍が市街戦を準備しているなど、撤退か抗戦か情報が錯綜していました。

山添さん、先ほどから出ているハルキウとか東部から撤退したときは、戦車も置いていってというような状態でした。今回は、そことは違う準備が行われていたのかなということなのでしょうか。

山添

住民に退去しなさいということは、かなり危険ですよということ。この警告を、時間をかけて言っていたという意味もありますし、それから、ご指摘があったように、優先して退避させたい兵員、訓練度の高い兵員を撤収させるということを、時間をかけてやっていたと考えることができると思います。

■「ロシア軍は戦い方を変えた」

飯村

駒木さん、東部から撤退したときは、9月から10月。今回はそれから1カ月ぐらいたったとすると、その中でロシア軍に何か変化があったということなんでしょうか。

駒木

戦い方を変えたんだろうと思うんですね。つまりハルキウの撤退後、直後のプーチン大統領の記者会見、9月16日、その時には、まだ我々はドネツクを少しずつ解放しているということで、ロシア軍は前進しているんだという言い方だったんですけれども、その後、プーチン大統領の口からも、そういう言い方は消えて、守っているんだと、長い防御線を守るために部分動員をしなきゃいけないんだということを言うわけですね。

したがって、プーチン大統領の言葉自身、どこまで信じられるかということも、もちろんあるんですけども、それ以降、明らかに、当面は守りに徹すると、ウクライナ軍をどこで食い止めるか線を引いた上で、そこを守るということに当面の姿勢を変えたと。その場合、南部ではドニプロ川を1つの防御ラインにするという判断を、9月のかなり後半ぐらいの段階でしたのではなかろうかという印象を受けます。

飯村

そして今回の撤退、やはり世論、国民からの声、それから政治的に言えば強硬派の反発も予想されるとされています。その反発封じ、これを入念に根回しで行っていたんじゃないかという形跡があります。11月9日、撤退の発表の時、ロシア中に中継されていた映像ですけれども、スロビキン総司令官からこんな提案がショイグ国防省になされました。「ドニプロ川東岸に沿って防衛を行うことを提案します」。西側じゃなくて東岸にということですね。「これが非常に難しい決断であることは理解しています」。でも、もう撤退してしなきゃいけないんだということを言いました。それに対してショイグ国防相、「あなたの結論と提案に同意する。我々にとってロシア軍兵士の生命と健康は常に優先事項だ」と承認しました。

この中で、撤退理由が3つ述べられました。その1つ目が「ヘルソン市と隣接集落の補給が機能していない」。2つ目が「西岸の民間人が激しいウクライナの砲撃にさらされている」。そして3つ目、「ウクライナ軍がカホフカダムへ攻撃を行えば、大規模な洪水が生じる」。こういった理由を述べて撤退しなければいけないとしました。

この番組でもこれまで何度か取り上げてきた、ロシアの下院国際問題委員会のスルツキー委員長、何といっても強硬派ですね。この撤退に反対するのかと思いきや、「西岸からの軍の撤退は強制的な決定であり、軍人の命を守るために行われた正しい決定だ。我々は必ずヘルソンに戻り、近い将来必ず勝利する」。理解を示していました。駒木さん、色んなところで相当根回していたことも考えられそうですね。

駒木

もう明らかに、その辺は非常に準備されたストーリーも含めてですね。つまり、カホフカダムの話なんか典型ですけれども、ウクライナ側に壊すメリットはないわけですよね。つまり、ドニプロ川を越えて、これから攻めて行こうという側にとって、そのドニプロ川を越えにくいような状態にするダムの破壊というのは、ウクライナ側にとっては必要ないはずだけれども、そういうフェイクの情報を流して、守るための撤退なんだと。非常に早い段階からそういうストーリーを作っていた。それがもちろん、そういう有力者、国会議員なども含めて周知されていたということだと思います。

■「取り返しのつかない失敗はヘルソン州編入」

上山

ロシア軍の今回の撤退の発表について、発言力が強まっている2人の人物も反応しています。

民間軍事会社「ワグネル」の創設者プリゴジン氏は「スロビキンの判断は容易なものではないが、責任を恐れない者として行動した。彼はその決定の重みにおびえることなく、きちんとした態度でこれを実行した」。このように撤退を評価しました。さらにチェチェン共和国のカディロフ首長は「スロビキン将軍はすべてのメリットとデメリットを考慮した上で、声高に主張するための無意味な犠牲と貴重な兵士の命を救うという、困難だが正しい選択をしたのである」。やはり撤退を評価しています。

この対応は、前回の東部ハルキウ州での敗走の時と大きく異なっています。東部リマンの敗走の時、プリゴジン氏は当時のラピン司令官に対し「このろくでなしどもは、全員裸足で機関銃を持って前線に行くんだ」と批判。さらにカディロフ首長も「もし私のやり方なら、ラピンを二等兵に降格させ、報酬も取り上げ、最前線に送り込み、ライフルを手に恥をかかせるところだった」。痛烈に司令官を批判していました。駒木さん。この2人はなぜこのように前回と今回で評価を変えてきたのか。この辺りはどういう事情があるんでしょうか。

駒木

この2人は基本的にプーチン政権、プーチンを頂点とする権力構造の中で、どうやって自分を目立たせ、どうやって自分がのし上がっていこうかということを考えている人たちです。軍事的な作戦の失敗成功というのもないわけではないんですけど、それよりもむしろ、プーチン政権という構造自体が壊れることは望まないわけですよね。プーチンあっての彼らなわけで、プーチン大統領の言うことについては絶対服従するわけです。したがって今回の撤退、それに伴うストーリー、それはもうクレムリンから降りてきたものであって、それを前提とした役どころを彼らは演じているということだと思います。

同じ強硬派でも、ドゥーギンという思想家の人とか、あるいは様々な軍事ブロガーからは、今回の撤退について非常に批判的な言動、言葉が出てきています。やっぱり違うのは、プーチン政権の構造を壊してでも、ロシアの勝利を求める本物の強硬派か、あるいは、こういう体制の中でのプーチン政権を支えながら軍部を批判することによって、自分たちの存在を際立たせようとする人たち、そこの違いだと思います。

上山

この2人が口を揃えて評価をしているということは、裏を返せば、今回のドニプロ川からの西岸の撤退。これがかなり深刻な状況であるから、プーチン大統領に批判が及ばないようにプラスの評価をした。こんなことは考えられるのでしょうか。

駒木

プーチン大統領、あるいはクレムリンから示されたストーリーに沿った発言をしていることは間違いないですね。今回の撤退が深刻なのは、軍事的な意味でもそうですけども、軍事的には戦争すれば勝つこともあれば負けることもある。しかし、それ以上に取り返しがつかない失敗というのは、ヘルソン州をロシアに編入してしまったことですよね。今やロシア領土として、ロシア憲法にも書かれている。そこの州都を失ったと。そういうロシア領土すらロシア軍が守れないことが明らかになってしまった。これは明らかに、政治的にはプーチン大統領の大失態だと思うんですけれども、そこに焦点が当たらないように、非常にコントロールを強いられているという気がいたします。

■プーチン政権の生き残りと「特別軍事作戦」

上山

山添さん、2人はプーチン大統領を守ろうとしているということなんですけれども、果たしてこの特別軍事作戦を成功させるために発言しているのかどうか。この辺りはどういうふうにご覧になりますか。

山添

非常に大きくて大事な質問なんですけれども、この特別軍事作戦はどうやったら成功するのかは、今、誰がわかっているのか、非常に疑問ですね。彼らがどうしたらいいかは、まずはそれよりもプーチン政権の生き残りということですね。今、駒木さんのお話に引き続いて申し上げますと、東部のリマンの陥落は、プーチン大統領、政権としては守りたかった、守ってそこで抵抗したかったときに失敗した。それは軍人の失敗だということで、軍のパフォーマンスが悪いということで、プリゴジンもカディロフも責める、自分たちの方が政権の中で正しいことを言っているということで、それが過去、10月1日の話。

それに対し今回は、やむなくプーチン政権としても撤退せざるを得ないと。ここでロシア軍が壊滅するとか、これまで準備してきた精鋭たちを、みすみすウクライナ軍の餌食にしてしまって壊滅させる、そういったことよりも、それを保全する方が大事だということでした。ただ、これは政治的決断としてプーチン大統領が言ったのではなく、あくまでスロビキン司令官の作戦上の動きであるという形です。一旦引いて、次にまた戦えるようにする作戦上の動きであるという形にはしているんですが、実際にプーチン政権として、ここで引くんだということなので、政権の判断をカディロフもプリゴジンも支持しているということのように思えます。それによって、この手はやらざるを得なかったけれども、ここから後はプーチン政権がしっかり生き延びていくと、国内で批判が広がり過ぎないように生き延びていくということを、この2人は支持しているのかなと思います。

上山

そういった2人の狙いがありそうということですが、杉田さんはここまでいかがですか。

杉田

今、駒木さんと山添さんの発言は、本当に重大な意味があるなと感じています。1つは、ロシア軍の戦い方が変わったという指摘があって、これは言うなら、防御線、防御するところをきちんと防御する、あるいはロシア軍の保全ということを考える。これは重要な変化、作戦のシフトだと思うんですね。とにかくキーウも含めて落とすんだと。あるいはできるだけ多くの領土を取るんだということで、前に前にということだったロシア軍が、段々それができなくなって、今回に関しては、ある意味、計画的な、あるいはプーチン政権のプリゴジンとかカディロフとか、あの辺の人たちも巻き込んだシナリオをつくった上での、きちんとしたというか秩序立った撤退になっているということですよね。これまでと確かに戦い方が変わったんだなと、防御線に移ったんだなということがよくわかりました。

それからあともう1つは、お2人の話に出てきていた、特別軍事作戦を成功させる術が見えてこないということがあったんですけども、特別軍事作戦の戦い方が変わったということになれば、特別軍事作戦の目的自体も変わったんじゃないのかなと。つまり、この作戦を2月24日に始めたときは、当然キーウを落とすと、あるいはゼレンスキー政権を親ロシア派の政権に変えるということを、究極的な目的として始めたわけですけども、戦い方が変わった、ということになると、それは、おそらくロシア側としては、今の状況からして、当初の目的達成は無理だと。であるならば、ロシア側として今、取れるものを、今、できるものは何なのかということの練り直しの末の新しい線引きというんですかね、ここまではロシアは取りたいけれども、これ以上は取れないという結論に達したというメッセージを、「撤退」を通して、ウクライナあるいはアメリカに伝えているのかなという印象も持っています。

■ドニプロ川はさみ両軍対峙 今後は…

上山

このように戦況が混沌とする中で、この先、どういった展開が予想されるんでしょうか。続いてのテーマがこちらです。「撤退のロシア軍 次の戦場は」、詳しく見ていきたいと思います。

新しくこちらのフリップを用意しました。こちらは、撤退した後のヘルソン州の状況ということで、ドニプロ川の西岸はウクライナ軍が支配していることを示す水色のエリアになっています。ウクライナ軍とロシア軍、川を挟んでにらみ合うような形になっているわけです。

お伝えしたように、この撤退するロシア軍は、西岸から東岸に渡ることができる橋を全て破壊していきました。ドニプロ側の川幅ですけれども、600メートルから広いところでは1キロメートル以上ある、非常に大きな川で、簡単には渡ることができない状況になっているわけです。ドニプロ川を挟んでにらみ合う状況、これについてウクライナ軍のナザロフ報道官は「ロシア軍は、ウクライナ軍が奪還した地域に対して砲撃を行っている」。対岸から砲撃行っていることを明らかにしました。さらに、ウクライナ大統領府のポドリャク顧問も「ロシア軍が集合住宅や下水道など、いたるところに地雷を仕掛けている」ということで、「ドニプロ川の東岸からの砲撃で、ヘルソン市を廃墟にする計画」だと、つまり東岸からヘルソン市を破壊しようとしているんだと主張しています。

山添さん、ロシア軍としては撤退しましたけれども、川幅600メートルから1キロのドニプロ川が両軍の間には横たわっているわけですけれども、ウクライナ側としては、西岸が平和になるというわけではないということですか。

山添

その地図で言うと、ザポリージャ州のロシアが占領している側にザポリージャ原発がありますよね。エネルホダルという町ですけども、そこの近くから対岸のニコポリというところには、かなりずっと撃っているわけですね。ロシア軍が拠点を置いているところからは、やはり川を越した砲撃というのは続くと思われます。

そしてヘルソン市も重要なターゲットになってしまうと思います。一方、ウクライナ軍も大砲を前進させることができますので、やはりハイマースとかをうまく使ってロシアの弾薬をたたく装備品をたたくといったこともやります。無抵抗ではないですけれども、やはりロシアからは、ドニプロ川西岸への攻撃というのは、やはり続くということだと思いますし、今、実際に攻撃が行われています。

上山

今、山添さんからはハイマースのお話も出てきていますけれども、確かに当然、ウクライナ軍としてはハイマースでの反撃というのも考えられるわけですね。そこで、このような分析というのも出てきているんです。

ウクライナが奪還したドニプロ川の西岸からヘルソン市を中心にして、例えばハイマースで撃った場合に、どこまで弾が届くのかといったものを表すものです。ハイマースの射程を示したものですが、現在、提供されているハイマースではブルーのライン、ここまで弾が届く。つまり、クリミア半島の北部のところが届くかどうかという射程になっているわけです。ただ、もしアメリカが今後、ATACMSというより射程の長いものを提供した場合、弾の届く範囲が一番外側、緑のラインに広がるということになるんです。こうすると、クリミア半島が全て射程の範囲になるという分析が出ています。山添さん、ウクライナ軍がドニプロ川西岸を奪還したと。そこからハイマースなどを使って新たに攻撃を加える場合、クリミア半島も射程に入ってきそうなんです。戦況に影響もありそうなんですがどうお考えですか。

山添

やはり、ウクライナ軍が前進させた部分だけかなり大きな面積の土地に前進していますので、そこからハイマースを使えば、ロシア軍をたたける範囲というのもかなり広がるわけですね。ですから、ロシア軍の主力は、やはりかなり後ろに引かざるを得ないと思いますね。防衛線は川のところで持っておいて、ロシア軍の重要な集積拠点というのは後ろに置かないといけない。そうすると、ロシア軍がドニプロ川の東側の岸で防御するための資源というのがやっぱり尽きてくる。ウクライナ軍が砲撃を続けることによって、ロシア軍の防衛もかなり難しくはなってくるので、それをうまくやれば、ウクライナ軍がさらに進軍することができる。そういうことをそこに集中するのであれば、ウクライナ軍としても作戦として可能性がありますね。

上山

川をまたいでも、そういった形なら可能性としてはあるんじゃないかというお話ですね。

山添

はい。

■ザポリージャ州の拠点都市メリトポリも焦点に

飯村

それではロシア軍としては、どのように立て直しを図っていくんだろうかということで、ロシア軍の動きです。

11月11日、戦争研究所「ロシア軍はドニプロ川の東岸に第1、第2防衛線を準備し、今後数日間、東岸の陣地を固める努力を続けるようである」ということです、さらに、ロシア軍の動き、2つ目です。これは10日のウクル・インフォルム通信、つまりウクライナ側の情報になりますが、「ロシア軍はヘルソン州のドニプロ川東岸とザポリージャ地域の占領地域で陣地を強化している」。つまりヘルソン州プラス、ザポリージャでも強化をしているんじゃないかということなんです。

そこで出てきたのが、ウクライナ側の次の標的、こちらじゃないかという分析、CNNです。「ロシア軍は、ヘルソン州でのウクライナの反転攻勢が、ロシア占領下の拠点都市、メリトポリに向かうことも、ロシア軍は警戒している」ということなんですね。山添さん、次の戦場はどういったところになると考えられますか。

山添

1つは先ほど少し触れました、ドニプロ川をヘルソン州で南東に渡るという方向ですね。それも考えられます。他に、やっぱり川を渡るっていうのは非常に困難な作戦でありますので、川を渡らずにザポリージャ州の、ザポリージャ市の支配地域から南下するルートであれば、これは河を渡らなくて済むわけですね。もしここにウクライナ軍が集中して南下してメリトポリを攻撃することができれば、メリトポリは東西の鉄道の線、他の交通の線の十字路にもなっていますし、メリトポリ市ではかなり長い間、抵抗運動もやっています。もしロシア軍がここを使えなくなれば、北西にあるザポリージャ原発のあるエネルホダルのあたり、ここもロシアが保てなくなるわけです。ウクライナ軍のターゲットとしては、メリトポリというのはかなり自然なものになると思います。それを予想するとロシア軍はそこに至るルートを防御するべきだと考えるのが自然だと思いますので、そういった動きがあるのだと思います。

飯村

そしてロシア軍はこちらの防御を固めるのに加えて、クリミアの方も警戒しているんじゃないかという話があるんです。こちらもCNNです。ロシア軍がアルミアンスクの近くに塹壕を新たに築いている衛星写真が公開された。1週間前にはなかった動きということで、駒木さん、クリミア半島は2014年からロシアが支配していますけども、そこまで来るんじゃないかという警戒もロシアはしているということでしょうか。

駒木

それも考えられますね。この動きは。現実的にクリミア半島の奪還に直ちにウクライナ軍が取り組むかと言うと、なかなか難しいとは思うんですけども、ロシア側から見るとクリミア半島を攻められるというのは悪夢でしかないわけです。プーチン大統領の功績というものが全て無に帰するような大きな損失になりかねないということで、備えをせざるを得ない状況に追い込まれているということかと思います。

 
(2022年11月13日放送)