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#246

日米首脳会談で同盟“新段階”へ  安全保障の今後

岸田総理は、防衛力の増強と防衛予算増加の方針を打ち出して、米国ワシントンを訪問。バイデン大統領と首脳会談しました。2023年1月15日『BS朝日 日曜スクープ』は、新たな段階を迎えつつある日本の安全保障政策を特集。中国の軍事力増強と台湾有事の懸念を議論しつつ、国会審議の重要性を指摘しました。

■「異例の厚遇」から見える米国のメッセージ

上山

1月13日、ワシントンでは日米首脳会談が行われました。岸田政権は去年の暮れ、防衛力の増強と防衛予算増加の方針を打ち出しています。今回の首脳会談を経て、日本の安全保障政策は新たな段階を迎えようとしています。ゲストの方をご紹介します。共同通信社編集委員兼論説委員の久江雅彦さんです。どうぞ宜しくお願いいたします。

久江

宜しくお願いします。

上山

渡部悦和さんにも引き続き解説をお願いしたいと思います。どうぞよろしくお願いします。

渡部

宜しくお願いします。

上山

最初のテーマはこちらです。「中国の軍事力増強と台湾有事 日米同盟の深化で問われる覚悟」。中国の軍事力増強に対して日本とアメリカはどう対応していくんでしょうか。

まず取り上げたいのが1月13日に行われました日米首脳会談です。このように岸田総理を乗せた車がホワイトハウスに到着しました。そして、バイデン大統領が自ら玄関まで赴いて、岸田総理を出迎えました。この様子について木原官房副長官は、大統領自らが玄関で出迎えるという異例の厚遇だったとしています。

そして首脳会談では、日米同盟の深化が打ち出されました。こちらにまとめましたが、岸田総理は防衛力の強化や防衛費増額の方針を説明しました。それに対して、バイデン大統領は、日本の防衛に全面的に関与すると応じました。さらに、敵のミサイル基地などを攻撃する反撃能力の開発と運用に向けて、協力を強化することで一致しました。

岸田総理は、中国などを念頭に置きまして、「かつてない厳しい安全保障環境だ」と表明し、日米の共同声明では「台湾海峡の平和と安定の重要性」を強調しました。ここでまず久江さんに伺いたいのですが、今回の一連の日米首脳会談の内容、共同声明も含めて、どう受けとめていらっしゃいますか

久江

まず、この「異例の厚遇」というのは、当たり前ですね。というのは、これだけ5年間で43兆円、トマホーク500発買うということは、満額回答とは言わないけれども、アメリカが喜ぶことをしたわけですから、それは当然そうですよね。でも、裏返して言うと、この「異例の厚遇」の裏には、しっかりちゃんとやってくださいよという、一種プレッシャーというか、メッセージも入っているわけですよ。

別の言い方をすれば、それを補う増税を含めて、国内調整を岸田さんができるのかどうかと。そういう意味では、岸田さんが問われているということでもあります。プラスアルファ言いますと、この会談自体、その前の2プラス2、日米安全保障協議委員会もそうですけれども、その文書とか、こういう会談自体が中国に対する、まず外交的な大きな牽制であるということ。そして、日米とりわけ日本でしょうけれども、やはりRMCというんですけれども、渡部さんはよくご存じのとおり、役割、任務、能力、この協議を、自衛官を中心にこれから進めていくと、その政治的な号砲の意味合いがあるということですね。

■「国際標準の考えで国家防衛…米国は歓迎」

上山

日米関係が新たなステージに入っていく。そのスタートを切ったんじゃないかというお話ですが、渡部さんはいかがでしょうか。渡部さんは自衛隊を退官された後に、ハーバード大学でも安全保障政策を研究されてきました。そうした観点から今回の首脳会談、日米同盟のあり方にどのような影響があると思いますか。

渡部

私は長く日米共同訓練もやってきました。そして日米関係の中で、いかに密接な日米関係を構築するか、これをずっと追求してきたつもりです。この立場からすると、本当に感無量なんですよ。バイデン大統領の言葉によると、「日米間でこれほど問題がない、全く本当に同意できる、そのような関係になった」ということをおっしゃられましたけれども、全くその通りだと思うんですね。

その背景には、日本側が思い切って、5年間で43兆円の防衛費ですよ。そしてまた、反撃能力も、これは当たり前の正当防衛を行う能力のことなんですけれども、今まで踏み越えることはできなかったことを認めることはできた。アメリカとしても、これだったら、日本と一緒にやることができるということを認識できたんだと思います。

私が現役時代にずっとアメリカから言われたのは、「もうおまえたちの戦略とか計画はいい、防衛費はいくらになるんだ」ということです。まず防衛費の額だったんですよ。防衛費をGDPの2%にする、これは一番効いたと思いますよ。そして日本がやっとアメリカと一緒に、国際的な標準の考え方に基づいて、安全保障、国家防衛に当たるようになったという認識、これはアメリカにとっては本当に大歓迎だったと思います。

上山

日本の反撃能力の保有、防衛力の強化に関しては、これから国会で審議していく内容ですが、渡部さん、日本という同盟国の役割をより重視するようになったという、アメリカ側の事情、安全保障政策の考え方に変更があったのかどうか。この辺りいかがですか。

渡部

一つ言えることは、バイデン政権はIntegrated Deterrence、「統合抑止」という考え方を出してきたんですね。統合抑止という考え方は、アメリカ軍の陸海空の統合だけじゃなくて、国防省と他省庁との統合、民間企業との統合も含めた「統合抑止」なんです。

そしてさらに、統合の枠は、同盟国、あるいは同じ価値観を有する国々との協力による統合まで考えた統合抑止戦略なんです。これは一番大きいと思うんですね。その統合抑止戦略の中で、特にインド太平洋地域においては、日本を抜きにしては平和と安定を築くことはできないということを明確に理解したということなんですね。

上山

アメリカ側としては、やはり自国の負担を軽減したいとの狙いもあって、事情として変わってきた部分もあるんでしょうか。

渡部

そうですね。アメリカがもう一国だけでは全世界の警察官にはなれない。能力、金の面にしても、結局、様々な地域において有力な同盟国に、その役割を分担してもらいたいというのは、一貫してあると思います。

■台湾有事のシミュレーション「多大な損失」

上山

日本が防衛力を強化してアメリカがそれを後押しするという構図、その背景には中国の存在が大きく関わっています。この日米首脳会談の共同声明でも強調されたのが、「台湾海峡をめぐる平和と安定の重要性」です。

菅原

台湾をめぐって中国が上陸作戦に踏み切ったときに、一体何が起こり得るのか。アメリカのシンクタンクが台湾有事

こちらをご覧いただきたいのですけれども、アメリカの戦略国際問題研究所、CSISは1月9日、中国軍が2026年に台湾へ上陸作戦を実行すると想定して、独自に24パターンのシミュレーションの結果を公表しました。その中の基本シナリオでは、日本は当初は中立を保つとしながらも、中国からの攻撃を受けまして、参戦するとしています。その中国からの攻撃というのは、巡航ミサイル等で在日米軍基地、例えば嘉手納、岩国、横田、三沢、こういった米軍基地や自衛隊の施設が攻撃を受けるとしています。

その結果、日米の損失も算出していて、まずアメリカの場合3200人が死亡、そして航空機168機 から 372機、それから空母2隻、艦船7隻 から 20隻が失われる、こういった想定をしています。また日本も、航空機112機、艦船26隻などが失われるとしています。一方、中国の損失も甚大です。中国の場合はおよそ1 万人が死亡、そして155機の戦闘機、138隻の艦船などが失われるとしています。

結果として、中国の台湾侵攻は失敗に終わるとしています。ただ、このように、中国も損失が大きく、成功の見通しも立たないということで、CSISの報告書では「中国は、武力で台湾統一は行わず、外交で台湾を孤立させたり、経済的に追い詰める手段を取る」と予測をしています。渡部さん、こうしたシミュレーション結果を見ますと、中国の軍事力は日米に対してこれだけの損失を強いる、そういった水準にあるということなんですね。

渡部

まさにその通りです。私は、中国の人民解放軍もずっと研究してきましたが、多くの面において、中国の軍事力は米軍と匹敵するか、あるいは、ある地域において、例えば台湾周辺においては、数の点で中国人民解放軍が上回っているものも沢山ある。例えば、中距離弾道ミサイルは典型的です。これは米軍ゼロですよ、それを中国はもう約300基あります。

そして艦艇も、台湾周辺だけを考えたら、人民解放軍の艦艇の数は負けていない。そして航空機の数もずっと増えています。航空機の数もこの台湾周辺に限って言えば、米軍より優勢に立つ可能性が極めて高いということなんです。私が言いたいことは、実はシミュレーションをするときに、勝つ、負けるの重要な要素の中で、地理的な関係がもの凄く重要なんです。中国本土からいかに近いか、近ければ近いほど、人民解放軍が勝つ確率が高くなるということなんです。だから台湾有事というのは、米軍にとっては非常に難しい作戦を強いられるということなんです。

■「力の均衡で抑止力に…。国会で議論を」

菅原

それが今回のシミュレーションにもよく表れているということですね。久江さん、ただ日本人として、やはりショックなのは、改めて基本シナリオとして日本が攻撃を受けた場合、参戦する、これが前提になっているんですよね。やはり台湾有事となりますと、日本の参戦は避けられないと見ていいんでしょうか。

久江

まず、その前に指摘しなきゃいけないのが、CSISとかワシントンDCでは、こういうシミュレーションはよくやるんですよね。戦争になればこうだと、大変だと。それはそうなんでしょうけど、そもそも、この抑止力や防衛費の増額は、そういうことが力の均衡で起こらないよう、外交の一つの大きな手段としてあると。それは、渡部さんも同調を願えると思うんですけど、戦争はもちろん、いざとなれば、事に及んでわが身を顧みず、自衛官の方は服務宣誓をしていますけれども、これは戦争のための抑止力としてやろうとしている。それに対して賛否両論があるという、当たり前のことをまず押さえておかないといけないなと思いますよね。

このシミュレーションで言えば、中国は勝てないという部分は、もう確実にそういう結論だったんでしょうけれども、勝てない戦争は中国しませんので、そういう意味でこの結論が正しいと思います。

他方、勝てると踏んでもし台湾有事が起きた場合には、やはり沖縄の在日、在沖米軍基地を含めて、沖縄と台湾の一番近いところで、おそらく110キロぐらいだと思うんですよね。当然のことながら、すぐに日本有事に一気にならないまでも、もう「存立危機事態」ですよね。いわゆる2015年の安保法制で、自国がやられていないけれども、自国への攻撃とみなして同盟国と一緒に戦うと。

そこでは、反撃能力という今回の問題とは違って、あの時の安保法制では、日本もアメリカと一緒に部分的に戦うんだと、一部集団的自衛権の行使容認でありましたよね。今回それに対して、要するに装備という面、運用の面で内実を入れるということですよね。

ただこれが、バイデンさんと岸田さんの間では話されていても、国会でも与野党議論もありませんし、我々、こういうことを話していますけれども、これは完全に国権の最高機関たる国会の議論を抜かしてということは、やはり今後、進める意味でも、国民の多くの理解とか反対意見があるにしても、国会で議論しないということで、どんどん進んでいくということには、私は一抹の懸念を抱いていますね。

■「台湾有事のとき日米の立場は違う」

上山

木内さんはいかがでしょうか。今の久江さんのお話にありましたけども、まずは外交、それから抑止が大事で、中国に対して勝てると思わせないことが大事だということなんですけど、ただ万が一のことがあったときの、こういったシミュレーションも行われているということです。ここまでの議論でどんなことをお感じになっていますか。

木内

台湾有事になったとき、やっぱり日本は大変ですよね。軍事的な面とか人的な損害が出るだけじゃなくて、やはり経済的にもかなりのダメージが及ぶので、そこはアメリカと日本と置かれた立場がちょっと違うんではないかなと思いますね。アメリカにとって、例えば台湾有事でアジアとの貿易が止まってしまうことのダメージと、日本がアジアとの貿易が止まる、例えば台湾との貿易は止まるだけでも、日本のGDPは1.4%ぐらい下がるという計算になっています。

アジア地域との貿易が戦闘によって阻害されたり、日本が中国の相手方になるということで、中国が制裁として貿易を止めたりしたときに、日本経済に与える影響は非常に甚大ですから、そう考えたら当たり前ではありますけど、戦争はしない方がいいということですし、戦争をいかに防ぐかということをアメリカ以上に日本はやはり考えなくてはいけない。そして、私も久江さんがおっしゃったように、国民は防衛費増額に賛成するという回答、世論調査は多いんですけれども、やっぱり非常に色んな紛争に巻き込まれるリスクもあるわけですし、これだけ防衛費を増やしたときに果たしてどれだけ抑止力が効くものなのかどうかと、やはり国民も議論すべき、そういう余裕をやはり政府は与えるべきじゃないかなとは思います。

■「“中国敗北”シミュレーション公表したのは…」

渡部

ちょっとよろしいですか。このシミュレーションは、抑止をするためにシミュレーションをやるんです。私が今回のCSISのシミュレーション結果を見てびっくりしたのは、いずれの場合も中国人民解放軍が敗北するという結論です。

こんなシミュレーションは今までなかったんですよ、今まで。昨年までのシミュレーションは、どんなに頑張っても米軍が台湾有事の際には負けるみたいなシミュレーションをどんどん公表してきました。

上山

どうして変わったんですか。

渡部

私は抑止のためだと思います。今、一番大切なのは何かと言うと、ターゲットはやはり習近平国家主席ですよ。習近平国家主席に、台湾を攻撃できると、人民解放軍は米軍を打ち破って台湾を攻撃できると思わせてはダメなんです。プーチン大統領がウクライナ攻撃した。プーチン大統領はウクライナに勝つと思ったから攻撃したのです。勝つと思わせてはダメなんですよ。だから今回のCSISのシミュレーションに画期的な意義があるのは、20以上のシナリオにおいて、全て人民解放軍が負けました。これは習近平国家主席に対して、「台湾攻撃したならばあなたは負けるんですよ、だからやめなさい」という抑止のためにやったシミュレーションです。

上山

でも去年までは、アメリカが負けるシナリオもあったわけですよね。

渡部

沢山ありました。

上山

確かにCSISはかなり信頼度の高いシンクタンクで非常に評価が高いと思うんですけれども、そこで今回、ちょっと言い方は悪いかもしれませんが、都合の良い結果のものだけ集めたということにはならないんですか。

渡部

例えばアメリカのランド研究所がありますよね。ランド研究所が実施した昨年までのシミュレーションは、ほとんどは中国側の勝ちでした。それはなぜかと言うと、ランド研究所は、シミュレーションをやって、参加者に米軍の問題点を分からせるのが目的です。シミュレーションをする際の目的が違います。

上山

アメリカに対する問題提起なのか、中国に対するメッセージなのかというところで。

渡部

その通りです。

上山

答えも違ってくるということですね。

渡部

その通りです。

■「岸田総理“防衛費増額”最後の決め手は…」

上山

改めて日米首脳会談の内容に戻りたいと思いますが、岸田総理としては日本の防衛力強化、そして防衛費増額の方針を説明して、それに対してバイデン大統領としては非常に高い評価を与えました。岸田総理の、こういった判断に至った背景に注目したいと思うんですけれども、実は、久江さんの取材によりますと、岸田総理がこうした方針を打ち出すまでには、かなり日本の水面下で激しいやりとりがあったということです。この辺り、どういうことだったのですか。

久江

要するに、8月ぐらいから水面下でこの問題が始まって、9月、10月ぐらいまでは、財務省が防衛費、純粋防衛費で、5年間で35兆円が最大という話だったんですよね。そういう数字が水面下で出始めたもので、防衛省としても我々は48兆円だという話になって、その争いがあった中で、岸田さんは簡単に言うと、財務省にかなり寄っているような形に見えたわけです。有識者会議が官邸にできましたよね。あれも財務省主導なので、幅広く国民から税金負担が必要だ、みたいなことが出ると。

要するに、財務省主導で行くと最大35兆円。防衛省は48兆円で、こちら側(防衛省側)に萩生田さんですとか、あるいは元防衛大臣の小野寺さんがついて、岸田さんを何とかこちら側にという、そういう構図だったわけです。11月9日に小野寺元防衛大臣が岸田さんと一対一で会って、11月24日のお昼には浜田防衛大臣が総理と会って、バイデン大統領との(5月の)日米首脳会談の時に抜本的強化ということを言っていますよねという話が、一連の会談の中で当然話題になると。

そのときに(岸田総理が)自分で言った言葉、これは英語でSubstantial Increaseと伝えているんですけども、相当な増額という訳だったんですが、実質的に増やしてくださいと、その言葉の内実が伴わなきゃいけませんよねということが、推進側からは伝えられたというのが大きな流れなんですけれども、実は知られざる動きがありました。それは日米関係でよくあることなんですけれども、まさに9.11の後に小泉さんが給油で、護衛艦をインド洋に派遣したときもそうだったんですが、アメリカ側から日本のワシントンの大使館を通じて、いわゆる公電というんですけども、バイデン政権の高官はこういう意見ですよと、期待してますよとか、これだとちょっとアメリカが満足できないんじゃないでしょうかという、アメリカ側の高官の意見が外務省から、そしてNSS(国家安全保障局)を通じて、総理や官房長官、官房副長官のところに届くわけですよ。それを見ると、アメリカはこういうことなのかということで、いわゆる見えざる外圧、牽制というか、そういうものが大体この手のものにはつきもので、今回、私も取材して、やはりそれが最後の決め打ちとなって、財務省に寄っていた岸田さんが、どーんと43 兆円にしたと、私の取材では聞いていますね。

■『核の傘』抑止力を“確認”する理由

上山

きょうのゲストの久江さんは、今回の一連の日米協議の中で、アメリカの、核による日本の防衛への言及について注目をしているんです。

日米首脳会談でバイデン大統領は、「アメリカは核を含めてあらゆる能力を用い、日米安保条約上の日本の防衛の責務を果たす」としています。さらに首脳会談に先立って行われた、外務・防衛の閣僚協議、いわゆる2プラス2では、アメリカの核の傘による抑止力について、「日米両国が日米拡大抑止協議及び様々なハイレベルでの協議を通じて、実質的な議論を深めていく」としています。久江さんが注目したのは、「ハイレベルでの協議」という、この2プラス2で盛り込まれた内容だそうですが、これはどういう理由からなんでしょうか。

久江

一言で言うと、「拡大抑止」というのは、核の傘、いざというときには、日本のためにアメリカが核を使うんですよということで、端的に言いますと、日米同盟というのはずっと冷戦から日本がアメリカの戦争に巻き込まれてしまうのではないかと「巻き込まれ論」、あるいはアメリカが日本から引いていってしまうんじゃないか、あるいは日本を最優先にしないのではないかという「見捨てられ論」、この2つがあったわけですね。ずっと日本の防衛省、自衛隊、外務省の中で、これを専門にやっている人の中では、いつかアメリカが引いていってしまうんじゃないか。とりわけ核の傘がどこまで日本に有効に働くのか、というのは日米といっても距離も違う、脅威認識も違いますし、国益が一致するわけではない。

例えば、日本で尖閣諸島もしかりですけれども、本当にアメリカが日本のために?という懸念が常にあるわけです。全く同じではないんですよね。そういう中で常に、アメリカさん、ぜひ核の傘で私をということで、2010年から外務省や防衛省の審議官級の中で「拡大抑止」協議、大丈夫ですね、核の傘ですよね。これを念押ししていくわけです。そこで具体的に色々詰めるというよりも、まずこういう枠組みがあることが大事なんですよ。それをさらにハイレベルで、事務次官なのか局長なのか、あるいは副大臣なのか、もっとハイレベルで常に確認し合いましょうね、というようなことを文言で入れている。

ということは、裏返して言うと、それだけ日本のやはり危機意識。どこかにアメリカとの齟齬が生じるんじゃないかという憂慮がある。それに対する一種、結果としてバーター関係で、我々は3文書で、防衛増額で、我々自身のためでもあるんだけれども、これはアメリカのためにもなるでしょうという、そこで一種のディールがあるわけですよね。だから、アメリカの核の傘が日本に、それをしっかりと保証して欲しいということは、常に言っておかなきゃいけないんですよ。何となくアメリカと仲良くて一緒になってという、そんな話ではなくて、同盟国と言っても国益のぶつかり合いですからね。ということがここに如実に表れているわけです。

上山

「ハイレベル」と一言入れるだけで、やはり釘を刺す意味合いというのは違うんでしょうか。

久江

違いますね。しかも今回は、「拡大抑止」というのを2プラス2の文書内で一つの項目で入れています。「拡大抑止」をやっているのは、まさにこれは中国に見せている側面もあるわけですよ。念押しをお互いに、日米で念押しすると同時に、裏返して言っちゃうと、アメリカは、分かりました。ウェルカムで常にハイレベルやりましょうと、日本が思っているほど向こうが乗り気かどうかは定かではありません。むしろ日本の方が強く求めていると思います。

■総理の欧州歴訪…“地域を越えた”安全保障は

菅原

この日米に限らず、木内さんは今回、岸田総理がG7各国を訪問したことにも注目されていると伺いましたが、これはどういうことですか。

木内

日本はG7の時の議長国なわけですね。その地ならしのために歴訪の旅に出たと思ったら、どうもそれ以上に安全保障分野での連携の強化を非常に打ち出しているということで、これは今、久江さんの話にもありましたけど、本当にアメリカだけが頼りになるかどうかもわからないということで、もっと幅広く先進各国と協調するという、アメリカが言っている「統合抑止」の考えをむしろ受け入れて、アメリカだけじゃなくて、他の先進国とも安全保障面で協力することによって、それで中国、ロシア、北朝鮮に対する抑止力を発揮したいと。多分、そういう狙いがあるということだと思います。

特にイギリスに対しては、準同盟国に近いような取り決めにもなってきているので、今までと本当に違う、地理の離れたところとの安全保障上の協力を強化するというのは、新しい動きだと思います。ただ、その結果として、欧州での問題に対しても日本は関与することも強いられると、交換条件ですから。そこまでの覚悟ができているのか、国民がそこを理解しているのかというところは、問題としてはあるかなとは思います。

菅原

新しい安全保障の枠組みということですけども、渡部さんは地域を越えた枠組みをどう見ていますか。

渡部

非常に重要な枠組みだと思っています。まず、今回の安保3文書の中で明確に言っていることがあって、「日本の防衛は、まず日本が主体的にやります」と書いています。日本の主体性をものすごく出したのが、今回の安保3文書なんですよね。その次に日米同盟、これも重視をしてやります。今までだったら、日米同盟、日米同盟と言ってきたんですよ。しかし、日本の主体性でもって日本の防衛はやりますと。そのときに日米同盟、そして日本も主体的に積極的に地域、世界のグローバルな平和と安定に関しては貢献しますよということを言っているんですね、それが一点。

二点目は今回のロシア・ウクライナ戦争がものすごく大きな要因となって、今回の歴史的な日本の安全保障政策の転換ができたと私は思っています。結局、ああいう事態がアジアでも起こるんだということなんですよね。ですから、そういう中でヨーロッパとアジアは、実は戦略的なことを考えてみれば一体なんですよと。お互いに自由と民主主義の価値観を持った国々が協力しなければいけませんと。地域を超えて、これは明確に今回のロシア・ウクライナ戦争で明らかになったと思います。

■日本の安全保障…今後の重要ポイント

上山

日本の防衛、そして安全保障政策の今後を見ていく上で重要なポイント。まず、渡部さんはどんなポイントに着目していますでしょうか。

渡部

今回、発表になった安保3文書、国家安全保障戦略、国家防衛戦略、そして防衛力整備計画なんですけれども、実はもう上の方の戦略が決まっているんですが、防衛力整備計画は最後までは煮詰まっていません。例えば、統合司令部を作ると言っているんですが、どのように作りますか。極超音速ミサイルを開発すると言っていますけれども、それは誰が本当にできるんですか。

例えばトマホーク500発、これをどの部隊が担当しますか。自衛隊、いま募集がものすごく難しい状況なんです。その中で沢山のお金をもらって、沢山の部隊を作らなきゃいけません。募集が難しい状況でどのように作るんですかという、具体的な作業をこれからしなければいけません。それが私が一番懸念するところです。

久江

久江さんはどんなところに注目していますか。

久江

私は装備の充実さ、トマホークについてはいろいろ賛否両論があると思います。他方やはり岸田さんが異次元の少子化対策。これは全く別のニュースのように取り扱われていますけれども、完全にコインの表裏というか、一体の問題なんですね。どんなに戦闘機が充実してイージス艦船、潜水艦がいても、渡部さんはよく御存じのとおり、自衛隊の充足率、募集定員はものすごく少ないんですよ。国家安保戦略というのは、10年後をにらんでいる。10年後を睨んでというのは、10年後にどうなっていますかですから、極端に言えば20年先ぐらいまで睨んでやると。

では今回の一連の3文書を含めて、政府がトータルとして将来の人口減と、例えば自衛隊のパイロットを一人作るのに3億円とも5億円とも言われている。分母が多くなかったら、優秀な自衛官、幹部自衛官も出てこないわけですよね。そういう中で、今の処遇でいいのか含めて、少子化対策と連動させて考えないと、物だけあるけども人がいないよという、そういう事態は本当に20年後、30年後に起きてくると思いますよ。そうすると今やっているこの盛り上がりは、一体何なんだということになると思いますので、本当の国益を考えるんだったら、そういうことを考えるべきですよね。

上山

防衛費の問題に目が行きがちですけれども、実は日本の、国家としてまずどうあるかということをきちっと見ていかなきゃいけない。反撃能力、防衛費増額の方針が示されましたけど、この後、国会の議論もしっかり見ていきたいと思います。

 

(2023年1月15日放送)