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#248

ロシア“新たな攻勢”本格化へ…ウクライナ東部“2つの激戦地”

ロシア軍は、ウクライナに対する新たな攻勢を本格化させています。欧米諸国からの戦車がウクライナに到着する前に、激戦地での攻撃を激化させています。2023年1月29日『BS朝日 日曜スクープ』は、ロシア軍が攻勢を本格化させる直前の状況を特集。戦場となっているウクライナの地域を立体模型地図にして分析しました。ウクライナ、ロシアそれぞれが東部の“2つの激戦地”をどのように位置づけているのか、読み解くと、今後の展開が浮かび上がってきます。

番組後半の放送内容はこちらです。

⇒ ウクライナ国防次官が訴える“領土奪還”の重要性

ウクライナのハンナ・マリャル国防次官の番組独自インタビューは動画でもご覧いただけます。

⇒ テレ朝news
⇒ ANNnewsCH

■ロシア軍ミサイル攻撃の異変①出撃拠点の基地

上山

日曜スクープです。今週のアンカーは、日本経済新聞本社コメンテーターの秋田浩之さんです。秋田さん、どうぞよろしくお願いします。

秋田

よろしくお願いします。

上山

欧米からは、ウクライナに対して戦車を提供することが決定しました。ウクライナの戦いが新たな段階を迎えようとしています。きょうは、この激戦地の立体地図を用いまして、詳しい戦況と、そして両軍の狙いを見ていきたいと思います。

では、本日のゲストです。国際安全保障、現代軍事戦略がご専門、防衛省防衛研究所、高橋杉雄さんです。よろしくお願いいたします。

高橋

よろしくお願いします。

上山

そして、もう一方です。ヨーロッパの国際関係、国際政治がご専門、筑波大学教授の東野敦子さんです。よろしくお願いいたします。

東野

よろしくお願いいたします。

菅原

最初のテーマです。「“戦車提供”への報復か ロシアが迎撃難しいミサイルで各地を攻撃」。

まずはこちらから詳しく見ていきたいと思います。1月26日、欧米が次々と戦車の提供を発表する中でのことです。ロシア軍がウクライナ各地にミサイル攻撃を行いました。55発のミサイルを発射しまして、そのうち47発は迎撃できましたが、残りのミサイルの影響で11人が死亡したということです。今回のロシアのミサイルは、航空機Tu-95、Su-35、MiG-31K、そして、黒海にあるロシア軍の艦艇から発射されたということです。つまり地上からではなく、空からそして海から発射されたことになります。

こうしたミサイル攻撃につきまして、ロシア軍のあることが注目されています。それがミサイルを発射した航空機が飛び立った空港なんです。その一つがこちらです。セベロモルスクという場所にあります。ウクライナからは、国境から北に1850km離れています。そしてもう1か所がさらに離れた、極東にあるアナディリという場所の空港から航空機が出撃していました。距離にして約7000km離れていて、アメリカのアラスカ州にも近い場所です。

これまでのミサイル攻撃は、例えば約500km離れた、エンゲリス空軍基地から発射されていましたが、高橋さん、今回、かなり遠い空港から飛行機が飛び立っています。これは一体なぜだと思いますか。

高橋

特にTu-95のような長距離爆撃機であれば、本来は目的地まで500kmぐらいの近い基地から飛ぶ必要はないんです。ウクライナとの国境から500kmの基地、エンゲリス基地がウクライナのドローン、あるいはドローン改造型の巡航ミサイルによって攻撃を受けたことで、ウクライナの手が届かないところまで虎の子の戦略爆撃機を下げて出撃の拠点にしたと、そういうことだと思います。

■ロシア軍ミサイル攻撃の異変②迎撃の難易度

菅原

そしてもう一つ、こうしたミサイルに対して、ウクライナが強い警戒感を示しています。ウクライナ側の発表によりますと、26日のミサイル攻撃では、Kh-101、Kh-555とともに、極超音速ミサイルと言われているキンジャール2発が発射されたということです。MiG-31K戦闘機から発射されたキンジャールについて、ウクライナ空軍の報道官は、「このような極めて高速な物体を撃ち落とす手段がないため、撃ち落とすのは事実上不可能である。ウクライナでは迎撃できない」と話しました。迎撃できない理由として、キンジャールはMiG-31戦闘機が大気圏の上層から発射し、そのままものすごい速度で降下してくるためだとされています。

また、ロシアのショイグ国防相も「マッハ10で約2000kmを飛行できる。そのために、ウクライナのレーダーや防空システムを回避することができる」と説明をしています。高橋さん、このキンジャールはやはり、実際に発射されると迎撃は難しい、不可能ということでしょうか。

高橋

キンジャール自体は、イスカンデルという弾道ミサイルを空中発射に変えたものなので、イスカンデルを迎撃できるかどうかという問題なんですよね。イスカンデルというミサイルは、もともと射程500kmぐらいですから、弾道ミサイルとしてはそれほど射程が長いものではないです。なので、例えばウクライナが使っている迎撃ミサイルのS300の新しいバージョンであれば、撃墜は可能。あるいは、これから許容されるパトリオットのPAC-2でも撃墜は可能。ただし、範囲が狭くなります。

これは北朝鮮でも使われているのではないかと言われている変則弾道のミサイルではあるので、その意味で、迎撃自体は西側の装備があっても難しいということは確かに言えます。おそらく今、供与が計画されているパトリオットはPAC-2だと思うのですけれども、もしこのキンジャールが大量に使用されるようなことになれば、PAC-3の供与も議論はされる可能性というのは出てくると思います。

菅原

西側から供与されている、または、これからされる防空システムをどこに配備するのかも非常に重要だと思うんですが、例えば、これまでなかった大統領府への攻撃、行政府への攻撃、こういった場所への攻撃にも用いられる可能性もあるということですか。

高橋

そうですね。攻撃していないのは、技術的に不可能なのか、政治的に攻撃していないのかわからないですけれども、やる気になった場合には可能ではある。ただ、地上発射のイスカンデルでもそれはできるけど、これまでやっていなかったということですね。

■“迎撃困難”ミサイル使用の意図は…

菅原

東野さん。1月26日のミサイル攻撃に関しては、欧米からの戦車の提供が決まったことで、その報復じゃないかという指摘もあります。そういった中でのキンジャールを使った攻撃、どう見ていますか。

東野

もともとこのキンジャールを本当に報復に使おうと思っていたのかどうか。たまたまタイミング的に合致して、ロシアが狙っていた政治的な効果が最大限に発揮されたのかどうか、ちょっとそこはわかりません。

ただ、ロシア側からすれば、どんなにウクライナに対して戦車などが提供されても、絶対ウクライナ側には迎撃もできない、反攻できないものがあるということをしっかり印象づけたかったんだと思います。

菅原

秋田さんは、お2人のご指摘も踏まえて、今どう見ていますか。

秋田

1歩俯瞰してみますと、これまでウクライナに対してロシアがやってきた戦争は、国家が民間人に対して拷問を続けて、もうこれ以上痛いのは嫌だから、戦うのをやめると、戦意を喪失させるという、拷問戦争に近いようなことをやっていると思うんですよね。

今回こういった飛び道具を新たに持ってきたことが、高橋さんのおっしゃっているように政治的な理由で、今まで大統領府とかへの攻撃を避けていたのを、今後は政治的な理由からそれを変更するのか、それとも今回は脅しで、基本的には拷問的な戦争によって戦意を喪失させる路線で行くのか。そこは注目をしたいと思います。

■立体地図で読み解く東部“2つの激戦地”

上山

では最新の戦況について、こちらのテーマで見ていきたいと思います。「プーチン大統領が執着する 東部“2つの激戦地”の行方」。

こちら目の前にありますのが、ウクライナ東部の立体地図です。激戦が続く東部のエリアを立体的に再現をしてみました。地形の起伏などを今回、表現しています。きょうはこの立体地図をもとに解説していただこうと思います。高橋さん恐れ入りますけれども、立体地図の横に移動していただいてもよろしいでしょうか。

今回、この立体地図ですが、東部の激戦地、東西が約120km、そして、南北は約80kmの地域をピックアップしました。どの地域なのか、改めてこのパネルのウクライナ地図で確認しますと、ウクライナの東部の赤い枠で囲っているエリアを立体的に再現しています。

ウクライナ全土で、現在最も激しい戦闘が行われている地域です。この立体地図を上から見ますと、赤い線が通っています。これが最前線を表しています。ですから、この線の東側がロシアの支配地域、そして西側がウクライナの支配地域になります。

それでは各都市を詳しく見ていきます。南側のバフムトという地域。ここでは半年以上戦いが続いています。この白いラインが道路を示しているんですが、東西、それから南北に道路が集まっている、まさにこの交通の要衝であることがわかります。

この赤の矢印がロシア軍の動きを示していて、ロシア軍としてはこういった形でバフムトへの攻勢を強めている。さらに、その先のウクライナ側、西側を見てみますと、このようにスロビャンスク、そしてクラマトルシクという、ドネツク州の主要都市があります。

さらに、バフムトから40kmほど北、ここにはウクライナ軍が奪還を強めている、もう一つの激戦地、ルハンシク州のクレミンナがあるわけです。このクレミンナという地域ですが、ロシア軍の東部戦線を支える重要な補給拠点となっています。鉄道の駅、それから道路なども交錯している、まさにここは結節点ともなっているわけです。

ウクライナ軍としては、この青の矢印ですけれども、クレミンナに攻勢をかけて、ロシア軍の補給路を断ち切ろうということで、このクレミンナを攻めています。クレミンナのすぐ南東を見てみますと、皆さんも覚えていらっしゃるでしょうか、セベロドネツク、そしてリシチャンシクという都市があるんですね。ここはロシア軍が去年6月から7月に制圧したルハンシク州の主要都市です。

ですから、ウクライナとしては、クレミンナを奪還した後は、このように進軍して、セベロドネツク、リシチャンシクを狙いに行く、取り戻しに行くのではないかといったことが推測されます。国土の広いウクライナですが、バフムトとクレミンナ、距離としては約40kmほど、本当にこの狭い地域で、クレミンナはウクライナが攻勢をかけている青の矢印、そしてバフムトは赤の矢印、ロシア軍が攻勢をかけている、制圧しようと攻めている。2つの動きが交錯し合っている、お互いが攻勢をかけ合っている状況です(1月29日の時点)。

高橋さん、比較的狭いエリアで行われているウクライナ軍と、そしてロシア軍の都市制圧作戦ですけれども、この状況はどのようにご覧になっていますか。

高橋

それぞれ、やや違う背景があって展開している戦いです。まずクレミンナの攻防は、去年9月、ウクライナの大反攻がここまで行ってロシア側が食い止めた場所なんですね。クレミンナという場所自体は、去年4月、ロシアが第2次攻勢をかけたときに最初に陥落した町で、ロシア軍が北から降りてきてクレミンナ、ルビージュネ、セベロドネツク、リシチャンシクと攻めてきたわけです。今、ウクライナは可能であれば、それを逆にたどってやっていきたいと考えているんだとは思います。

あともう一つ、このエリア、ルハンシク州の北部のエリアはロシア本土に結構近いので、この辺りのウクライナの活動に対しては、ロシアとしては反応せざるを得ないといったところも見ながら、攻勢をかけているのではないかと思いますね。

一方バフムトですが、これも去年5月からずっと攻勢をかけている町ではあるんですが、特に先ほどの9月のウクライナの大反攻が成功した後でも、このバフムト方面での攻勢は全く緩めずに進めてきていたと。理由を考えると、この辺り、スロビャンスクとかクラマトルシクといったドネツク州北部に対してロシア軍が進軍していくためには、バフムトを突破する必要がある、そういう形での攻勢ということで、お互い多分、全然違う思惑の中で、2つの戦いが戦われているということだと思うんですね。

■東部“2つの激戦地”40キロの距離どう見る?

上山

バフムトに関しては、ロシア軍としては、まさにこの先ドネツク州に関して制圧域を広げたいということで、入り口になるのはバフムトだというお話がありました。このバフムトとクレミンナですけれども、2つの地域は先ほどから言っているように40kmほどしか離れていないわけですね。どちらかの戦況がどちらかに影響を与えるようなことがあるのか。この辺りはいかがですか。

高橋

特に、もしバフムトでロシア軍が突破することに成功すれば、クレミンナ周辺のウクライナ軍が孤立する可能性があるので、下がらなければいけなくなる可能性はありますね。一方でクレミンナ周辺はロシア本土に近いというところもありますから、ここでロシア軍が負けるようなことがあると、またこちらに兵力を集めなきゃいけない。そういう意味で、お互いの兵力をどちらの戦場に割り振るかという関係はあるような感じがしますね。

上山

もう一つ、確認ですけれども、このバフムトからロシア軍、さらにどんどん西に進みたいとことはあるんでしょうか。

高橋

あると思いますね。ですから、現状ルハンシク州はほぼ制圧している。ところが、ドネツク州の北部はほとんど手つかずであるということを考えると、ドネツク州を制圧するためには、バフムトを攻略してそこから進軍していく必要があると。そういう意味で、まさにそれこそがバフムト攻防戦のロシア側の目的ではないかと思いますね。

■ロシア軍がバフムトを突破したら…

上山

きょうは立体的に再現した地図を作ったということで、手元にカメラを一つ用意しまして、目線を変えてお伝えしてみたいと思います。こちらあるように赤の矢印、バフムトに対して、ロシア軍が攻勢をかけているわけですけれども、このバフムトを突破した場合どうなるのか。

この先に白いライン、高速道路が北西に延びていて、それに沿って行きますと、行き着く先がドネツク州の主要都市、スロビャンスクが見えてくるというわけです。高橋さん。ロシア軍はこういった高速道路を使いながら、スロビャンスクに向かって進軍していく。バフムトを攻略した後は、こんな展開が予想されるんでしょうか。

高橋

そうですね。それがイメージだと思います。逆にウクライナ側は、今は市街で守っているわけですけれども、バフムトを失うと、丘がある地形の中で、路上で守っていかなければいけない。その意味では、攻める側が有利、守る側が不利な展開になりますから、何とかロシアとしてはバフムトを突破したいということではないかと思いますね。

上山

バフムトを突破した後、少し起伏があるような地形が見えていますけれども、これは基本的に高速道路を利用しながら、スロビャンスクに行くのか。こういったところで面でザーっと行くのか。

高橋

山ではなくて丘なので、戦車部隊であれば進むことは可能です。ただ、補給線ですね。補給を運ぶトラックは、高速道路を使った方が便利ですから、基本的に中心は高速道路を軸に左右に広がりながら進んでいくんだと思いますね。

上山

こういったラインを使いながら、補給しながら進軍していくんじゃないかというふうなお話ですけども、東野さんにも政治的な狙いというのを伺いたいんですけれども、ロシア軍としてはこの東部2州のうちの一つですね。ドネツク州の制圧地域、これをやはりこのバフムト含めて拡大していきたいという意図があるんでしょうか。

東野

そうですね。戦争が始まって、そろそろ1年になりますけれども、先ほどご説明あったように、ドネツクの北部が全く手付かずの状態だということは、非常に戦果として、プーチン大統領はアピールがしにくい状態だと思います。なので、何とかこの辺りを2月ぐらいまでに攻め取ってしまいたいと思うことは、ロシア側としては自然だと思いますね。なので、それをやらせないように、ウクライナ側は今、必死の攻勢をかけているんだろうと思います。

■バフムト撤退か市街戦か ウクライナの決断は

上山

バフムトにおけるロシアの攻撃の中心にいるのはどういった兵隊たちなのか、見てみたいと思います。ロシア軍の赤の矢印、徐々に前進していって、さらにはこのバフムトを包囲するような動きを見せています。

まずはウクライナ軍のバフムトの北側での動きですけれども、ウクライナは防衛戦力の兵員の命を守るために、ソレダルから撤退し、事前に準備していた防衛ラインを強化したとしています。つまり、バフムトの北では、ウクライナ軍が後退しているという話が入ってきています。

続いて、バフムトの南側の動きですけれども、クリシチフカの西に侵攻しているということで、ロシア軍はバフムトの南側から西に向けて進軍している状況が見えてきています。

さらに、バフムトの市街地です。民間軍事会社ワグネルが4~5人の突撃部隊で市街地を攻撃して潜入していると、アメリカの戦争研究所が分析しています。つまり、バフムトの市街地にも、ロシア兵が入り込んで戦闘になってきている状況が見えてきているわけです。

高橋さん、このバフムトに関しては、この数週間、1週間ごとにやはりロシア軍の進軍が強くなってきている、徐々に前進しているようにも見えます。ウクライナ軍としては守るのが難しくなってきているのでしょうか。

高橋

下がっているからには、持ちこたえられなくなったというのは事実だと思いますね。一方で、包囲について言えば、バフムトが交通の要衝であるわけなんですけども、交通の要衝である理由は、道路の結節点だからなんですね。ウクライナからすれば、バフムト守備隊への補給というのは、このルートが活きている限りは維持することができる。ですから、ロシアとしては360度包囲しない限り包囲したことにはならない。

上山

ここが残っている限り、バフムトとしては維持できるということですか。

高橋

そうですね。そこは市街ですから。市街の防衛戦になってしまうと、本当に建物の1つ1つを巡る攻防になってくるので、攻める側としてもスピードはどんどん遅くなってこざるを得ない。しかも、損害も出てくるということで、バフムト周辺の郊外の展開は、ある程度は進んでいくと思うんですけど、その後、市街戦になったときにどうなっていくのかというのは、一つのポイントではないかと思いますね。

上山

バフムトで市街戦を選ぶのか、あるいは、バフムトからウクライナ軍は後退するのか。どちらの方が戦略的に有利、また、どっちを選択すべきなのか、この辺りはどうなんでしょうか。

高橋

他の戦線との関係もあると思うんですよね。前に市街戦になったマリウポリとの違いは、完全に包囲されているわけではないということなんですよ。退路を確保しながら下がっていくというのは、可能性としてはもちろんあります。一方で、守りやすいのは市街なんですよね。市街を放棄してしまうと、例えばこの辺り、この辺りとかで、下がりながら陣地を作って守らなければいけないと。

だから、そのどちらを選ぶかということなんだと思うんです。例えばウクライナ側として、別の場所で攻勢をかけて、ロシア側の撤退というか圧力を分散させることが期待できているのであれば、もう市街を死守すると、市街にできるだけ多くのロシア軍を引きつけるという戦い方になるでしょう。そうではなくて、文字通り、ここで決戦を挑むという形であれば、一旦、町を放棄するとか、この辺りで野戦を仕掛けていくような形というのも考えてもおかしくはないと思いますね。

上山

ウクライナ軍にとっては軍事的にバフムトを1回放棄する。こういった戦略は痛手というわけではないんですか。

高橋

この辺りの防御陣地がどれぐらい準備されているかによると思います。ここで下がっても守り切れると確実に思えるのであれば、市街を放棄するという選択はあり得ます。ただ、バフムトはもともと70000人ぐらいの市街地で、今まだ数千人の民間人が残されているということですから、その民間人を見捨てて、ということには、多分ならないんではないかなと。基本的には街を守りに行くんだと私は思いますね。

■バフムトの重要性…ロシアによる侵略の中で

上山

ウクライナ政府としての判断も関わってくるわけですね。東野さん、バフムトを今、放棄するかもしれないという選択肢も示されましたけども、政治的には、都市を捨てるというイメージもあります、残っている方ももちろんいらっしゃる。これをどうするのかといった話もある。バフムトから撤退するかどうか、ウクライナ政府、ロシア政府双方の政治的な思惑、この辺りはどのようにご覧になっていますか。

東野

おっしゃる通り、ウクライナ政府、ロシア政府、そしてウクライナを支える米欧諸国、アドバイスを行う立場の国々、思惑が結構もう分かれているということだと思うんですよね。ロシア側としては確かにソレダルを獲得したわけですけれども、それに比べて、やはりバフムトの政治的な重要性というのがあらゆる意味で高いんだと思うんですよね。これだけ長い間バフムトにこだわって、しかも今、バフムトは取れるという前提のもとにロシア軍は動いているんだろうと思います。かなり強気に攻めているんだろうと思うんですね。

ウクライナ側は米欧からのアドバイスも受けながらなんですけれども、先ほどもありましたように、今、8000人が残っているんですね。でも、どうしても逃げられない、仮に人道回廊のようなものが準備されたとしても、逃げないという選択をする人がおそらく多いだろうという8000人なんですね。それを見捨てて逃げていくのかという話もあります。ただ、米欧側としては、これはもう本当に建て直した方がいいということで、積極的に退避することもあり得るだろうということがどんどんメディアに伝わっているような状態なので、そういった面でもウクライナ政府に圧力がかかっている側面もあります。ただ、これをどれだけ飲めるのかというと、非常に難しいと私は思っています。

上山

様々な思惑が絡み合っているようですけれども、秋田さんにもお話を伺いたいと思います。このバフムトの戦況をどのようにご覧になっていますか。

秋田

まず非常に重要なことは、これは全てウクライナの領土内で起きているということ。戦争という、けんかをしているように思っちゃいがちなんですけれども、あくまでもロシアがウクライナを侵略している中で起きている戦況であるということは、改めて強調したいと思います。

その上で、例えはよくないかもしれませんけれども、あえて言えば将棋がありますよね。将棋というのは、あるツボを取ると戦況がガラリと変わる、全てのマスが大事なんじゃなくて、やはり、ある意味、ここを押さえたら崩れちゃうよとかですね、ここを押さえるとどうしても相手が崩れないというポイントがあると思うんです。ある意味ツボというんでしょうか。この番組でも、すごく詳しく戦況を伝えているというのは、おそらくツボを取り上げて、そのツボがどうなるかということを伝えていくというところに意味があると思うんですが、高橋さん、バフムトというのは、そういうツボというか急所があるとした場合、どの程度重要なツボと考えたらいいんでしょうか。

高橋

ドンバス地方だけを見れば、かなり重要だと思います。ただ、全体の戦況を見たときに言えば、ランクとしては中ぐらいではないか。もっと重要な戦線は他にもあります。なので、このバフムト方面で、例えばウクライナの機甲戦力であるとか、今後供与されるであろう西側の戦車などが消耗していくのは、たぶん展開としては望ましくない。ただ、ここを守っている限り、ドネツク州北部への道は開けないので、このドンバス地方だけを見た時には、やっぱり非常に重要ではあるということだと思いますね。

■ワグネル囚人兵“第1陣として突撃”

菅原

バフムトの戦況を見ていきましたけれども、なぜロシア軍がここで優位に立っているのか。その戦い方が分かってきました。1月24日、CNNは、民間軍事会社ワグネルの戦術について分析した文書を入手したということです。その分析によりますと、ワグネルの戦い方の特徴として、12人以下の機動部隊を展開すると。先ほど~,5人の突撃部隊の話がありましたけれども、少人数で展開していく特徴があるようです。さらに、ロケット砲を使用する。ドローンで、リアルタイムの情報を活用する。こういったことが挙げられていました。

さらに攻めていく時のスタイル、戦い方として、こういったものが挙げられていました。まず、第1陣、先陣として、何万人ものワグネルの囚人兵が突撃していく。そして、その後方から暗視装置などを装備した経験豊富な戦闘員が後に続いていく。暗い中でも進んでいくことができる装備などを備えているということです。しかし、この第1陣、先陣を切っていく囚人兵は、80%が犠牲になるという指摘があり、その多くが命を落としてしまっているということです。高橋さん、命を軽視しているということも言えると思うんですけれども…。

高橋

そうですね、特にバフムト周辺は結構、洞窟があるような地形と言われているのと、市街をめぐる戦いとなると、まずウクライナ側に撃たせてどこにウクライナ兵がいるかを特定する。その上で、そこに本命の攻撃をかけていくということになるわけです。まず撃たせるというのは、要するに囮ですから、当然死傷率が高くなります。そこの、まず撃たせるという任務を囚人兵であるとか、動員兵を使っていると、そういうことなんだと思いますね。

菅原

まさに捨て駒のような使い方だと思うんですけれども、ただこういった囚人兵を強制的に第1陣として突撃させる。ロシアだからこそ、あるいはワグネルだからこそ、こういったことができると見ていいんでしょうか。

高橋

ワグネルだからこそというのはあると思いますね。さすがに連邦軍がそこまで割り切った戦術を取れるかというと、そこはちょっと疑問符が付くとは思います。また、囚人兵ということですから、破格の条件で雇ってきているわけで、ここでもし生き残ればというところで、囚人自体にも多分インセンティブがある中で、戦って死んでこいと、そういうことなのではないかと思いますね。

■空挺部隊をフル活用“ゲラシモフ戦術”

菅原

そしてもう1つ、最近のバフムト周辺でのロシアの戦い方について、ある変化が見てとれます。バフムト戦線でロシア軍の空挺部隊が配置され、砲撃の有効性が向上した、空挺部隊が投入されたことで、優位に立ったという分析が出ています。この空挺部隊、精鋭部隊とされており、基本的にはパラシュートなどで降下していきまして、相手の陣地深くに入っていき攻め込むのが本来の役割ですが、ロシア軍の場合は、優秀な歩兵として使われている側面があるということです。

こうした空挺部隊の投入について影響を与えたのが新司令官に就任したゲラシモフ参謀総長です。ウクライナの情報機関によりますと、ゲラシモフ新司令官は、より積極的に空挺部隊を活用しているということで、歩兵としてなど、色々な形で使っているという指摘です。この空挺部隊の歩兵としての使い方ですが、高橋さん、かなり特殊だと見ていいんでしょうか。

高橋

空挺部隊の花形はパラシュート降下なんですけども、歴史を見ると、パラシュート降下はほとんど行われていないんですね、第2次世界大戦後は特に。その代わり、米軍も空挺部隊を積極的に使うことがあります。それは航空機で移動できるので、機動性が高いんですよ。

だから早く戦場に投入できるので使われることがあって、特にロシアの空挺部隊の場合には、T-72B3という、比較的新型、近代化がされた戦車も使っているので、こういった前線での火力の戦闘にも対応できる。空挺部隊はある種、軍の花形ですから、エリート兵士が入っていたり、装備の状態が良かったりするんですよね。そういった意味で能力は高いということで、使っていくという判断をしたということではないかと思いますね。

菅原

東野さんはゲラシモフ参謀総長が新司令官に就任して以降、どういった点に注目されていますか。

東野

ゲラシモフの再登用といいますか、おっしゃる通り、元に戻ったような形になったわけですけれども、ロシア国内の軍事ブロガーたちの意見を見ると、やはり、これは新機軸を打ち出せるのではないかとか、これまでの陸も空もバラバラの状態で、しかも、ワグネルと正規軍が全く統制が取れずに同士討ちのようなことまで起こってしまっているというような、そういった状況が改善されるのではないかという、期待の声があるのは事実なんですね。

ただ、その通りに行くのかどうかということと、最初の時にロシア軍としては様々な失態を犯しているわけなので、本当にそこが全て改善される状況になっているのかというのは、ちょっとよくわからないですね。

■東部“もう1つの激戦地”クレミンナでの攻防

上山

ここまでは、東部の激戦地、バフムトについて主に見てきましたが、続いては、東部のもう1つの激戦地、ルハンシク州のクレミンナを見ていきたいと思います。ここは、ロシア軍の東部戦線の重要な補給拠点となっています。このクレミンナを奪還するために、ウクライナ軍、この青い矢印ですが、去年10月からもう3カ月以上、攻勢をかけているという状況です。

ウクライナ軍は、クレミンナの市街地に到達してロシア軍と激しい戦いになっているという情報があります。それについてロシア側からの反応です。連合ロシア総評議会書記、「クレミンナは前線の中で最も困難な区間である」と、ロシア側の捉え方としては、クレミンナでかなり苦戦しているということです。

では、このクレミンナについての戦況です。ウクライナ軍が製材所を占領して、クレミンナの西側にある寄宿学校のキャンパスに侵入したということで、ウクライナ軍がクレミンナの市内に入って徐々に前進していると見られています。

ウクライナ軍の攻勢に対してロシア軍は、クレミンナにはロシア軍の空挺部隊が配置されている。さらに、西部軍管区の部隊がベラルーシから撤退して、ルハンシク州に配備されたということで、先ほどゲラシモフ総司令官が重要な局面で使うという情報がありましたロシア軍の空挺部隊、さらにはベラルーシにいた第1親衛戦車軍なども増援して配置して、ロシア軍としてはクレミンナを守ろうとしているということなんです。ただ、ロシア軍の航空機やヘリコプター、ウクライナ軍が次々と撃墜しているという情報も入ってきています。高橋さんは、クレミンナにおけるウクライナ軍の攻勢、前進。これについてはどのようにご覧になっていますか。

高橋

こちらもバフムトほどではないですけども、3カ月間、クレミンナの周縁に取り付いてから、ずっと戦い続けているわけで、少しずつは前進しているようですが、決定的な戦果はないと。そういった意味で、ロシア側としては、かなり巧妙な強固な防衛ラインを張ることに成功したんだと思います。結局、クレミンナを落とされると、セベロドネツクまで前進される可能性があるので、先ほどバフムトがドネツク州の入り口だという話をしましたけれども、逆に言えばクレミンナはルハンシク州の入り口なので、そこはロシアとしては守りたいということですね。

この航空機をめぐる情勢というのは、この戦争の非常に特徴ですけれども、お互いの対空ミサイルの能力が非常に高くて、相手の上空での航空作戦がかなり難しくなっている。逆に言うと、撃墜されているということは、ロシア側がリスクを冒した航空作戦をやったということではあるんだと思うんですけど、この戦争のこれまでのパターン通りに決定的な効果にはならなかったということですね。

上山

ウクライナ軍の方は空軍としては機能し得るんですか。

高橋

ウクライナ側の戦闘機の行動がよくわからないんですよ。こちらもこちらで、ウクライナ側も一部、ヘルソン方面で空爆をした時期がありますけれども、この辺りでの積極的な航空作戦の形跡はないので、ウクライナはウクライナでロシアの対空ミサイルを恐れているということなのではないかと思います。

■ドンバス地方 ロシアはどう見ているのか

上山

東野さんに伺いたいのですが、今、バフムトそしてクレミンナ、この2つの地域を見てきたわけですけれども、ロシアが制圧を目指すのが東部の2州ということです。ドネツク州はロシアの支配地域が半分程度で、ロシアが拡大しようとしている。一方でルハンシク州というのは、ロシアがほぼ全域を支配していますが、ウクライナ軍に奪い返そうとしている状況です(1月29日での時点)。東部の2州はロシアにとっては、それぞれ微妙に色合いが違う、意味合いが違うことはあるのですか。

東野

大きな政治的な意味合いとしては一緒だと思います。この2州の解放がこの戦争の目的なんだということはずっと言い続けていましたけれども、細かい戦況はおっしゃる通り、また異なるんだと思います。

特にルハンシクが押し返されている状態というのは、ロシア側からすればもちろん由々しき事態なんですけれども、まさにこういった事態は先に想定しておいたかのように、9月21日の4州の併合という政治的な宣言をしてしまって、たとえ軍事的に劣勢になったとしても、ここはもうロシアなので法律も変えてロシアになりました、決めましたという既成事実化を、こういった事態のために行っていたとも言えます。ウクライナ側からしても非常に厄介な事態だと思います。

上山

秋田さんにも伺いたいです。バフムトと、そしてクレミンナを見てきました。この2つの地域40kmほどしか離れていないという非常に狭い地域で、ウクライナ軍が攻勢をかけているところ、ロシア軍が攻勢をかけているところ、かなり入り乱れているわけですけども(1月29日での時点)、この状況、秋田さんはどのようにご覧になっていますか。

秋田

今の解説を聞いていて、ふと思ったのは、あえてまた将棋に例えますと、将棋のせめぎ合っている状態のイメージでいきますと、このバフムトをロシアが取った場合と、クレミンナをウクライナが取った場合、それぞれロシアがバフムトを取るのは、将棋でいうと「金」を取る。ウクライナがクレミンナを取ると「飛車」「角」を取るぐらい、そういうような価値なのか。それとも、ほぼ「金」と「金」の等価交換みたいな感じなのか、もしくは逆なのか。それをちょっと知ることによって、今後の戦況の予想というのは多少役に立つのかなと思うんですが、あえて聞くといかがですか。

高橋

ルハンシク州北部の奪還をウクライナ側がどれくらいの価値を見出しているかによると思いますね。あとで話すと思いますけれども、南部攻勢を重視している可能性もあって、南部攻勢を重視するのであれば、ルハンシク州北部というのは、実は多分ロシアを引きつけて拘束するための作戦であると。一方でルハンシク州をとにかく奪い返すのだと、去年の激戦の象徴であったセベロドネツクまで奪い返すのだということを政治的に重視しているのであれば、「金」にはなり得るということ。そうでなければ、もっと「銀」とか「桂馬」とか、それぐらいでしかないということですね。

もう1つはロシアが仮にここに戦力を集中してきたとすると、ロシア側が押し戻す可能性もないわけじゃないんですよね。去年の春の攻勢ですけれども、ロシアはクレミンナを取ってからセベロドネツクを目指すだけじゃなくて、リマンの方にも来たわけです。この辺りを占領してドネツクを狙ったわけですよね。ですから、ロシア側としてはここから押し戻そうとする意図も、もしかしたらあるかもしれないというところはありますし、そうだとすればウクライナはここを守らなきゃいけないですねということになるので、全体のピクチャーの中で、これが駒としてどれぐらいの重要性なのかというのは変わってくると思います。

奪還を目指してウクライナが攻め込んでいたルハンシク州のクレミンナでは、一転してロシア軍が攻勢をかけ、クレミンナ西側の地域にまで前進しました。進軍したロシア軍は、ドネツク州の要衝リマンの奪還を狙っているとみられていますが、ウクライナ軍の抵抗を受け、リマン周辺には至っていません。(3月22日現在)

■戦車到着前にロシア“新たな攻勢”か

菅原

続いてのテーマです。「欧米の戦車が到着する前にロシア軍が攻勢をかける可能性」。

非常に気になる情報が入ってきています。1月27日のブルームバーグは、ロシア大統領府に近い関係筋の話として、ロシア軍は欧米が供与を発表した戦車がウクライナに到着する前、2月か3月に新たな攻勢をかける可能性があるという見方を示したと、このように伝えています。場所に関しては東部2州の可能性が高いという分析もあるようです。

東野さん、戦車の供与については後ほど詳しく伺っていきますけれども、、欧米からの戦車が届く前にロシア軍が攻勢をかける可能性については、どのように見ていますか。

東野

あり得ると思います。というのは、戦車の提供が、ロシア軍が想定していたよりもずっと早くドイツ側が決定してしまったと言われているんですね。ロシア側としては、まだまだドイツが迷い続けるだろうという見通しがあったんでしょうけれども、意外と早く来たということは、やはりそれに合わせて変えてくる可能性があります。

菅原

高橋さん、東部2州の制圧を目指すロシアとしましては、やはり欧米の戦車が供与されると、その目標が難しくなる。ではその前に、という考え方になっていると見ていいんでしょうか。

高橋

元々気温が上がって地面が乾けば攻勢をかけるだろうと言われていたわけで、その意味では欧米の戦車の戦力化は、いずれにしても間に合わないんですね。間に合わないという前提で、どうせなら、それが来る前にやはり攻勢をかけた方がよいという判断には多分なっていくんだと思いますね。

 
(2023年1月29日放送)

番組後半の放送内容はこちらです。

⇒ ウクライナ国防次官が訴える“領土奪還”の重要性

ウクライナのハンナ・マリャル国防次官の番組独自インタビューは動画でもご覧いただけます。

⇒ テレ朝news
⇒ ANNnewsCH