番組表

広告

スペシャルアーカイブ一覧

#68

ゴーン被告に“無罪請負人”特捜部との攻防は

特別背任などの罪に問われている前日産会長、カルロス・ゴーン被告。その弁護人が交代し、“無罪請負人”の異名を持つ弘中惇一郎弁護士が務めることになった。2019年2月17日のBS朝日『日曜スクープ』は、弘中弁護士を中心とする弁護団を特集、特捜部との今後の攻防を占いました。

■ゴーン被告「強力な弁護を期待」

山口

今日のゲストの方々をご紹介いたします。まずは元東京地検特捜部副部長で現在は弁護士の若狭勝さんです。どうぞよろしくお願い致します。

若狭

お願い致します。

山口

そしてそのお隣です。弘中弁護士が担当した裁判を取材してきました、ジャーナリストの江川紹子さんです。どうぞよろしくお願い致します。

江川

よろしくお願いします。

山口

それではこちらのパネルを使って説明していきますね。この1週間、ゴーン被告を巡って大きな動きがありました。弁護人が交代となりました。辞任となったのが元東京地検特捜部部長でした、大鶴基成弁護士でした。そして大鶴さんに代わって新任となりましたのが弘中惇一郎弁護士ということになるわけですね。大鶴さんは元東京地検特捜部長ですから古巣との対決かと思われましたが、その前に辞任となったわけです。ゴーン被告なんですが、交代の理由についてこういうことを言っています。「私の無実を証明するだけでなく不当な勾留につながった状況を明らかにするプロセスが始まった」さらに新任弁護士への期待です。「裁判が始まる段階になり弘中先生を弁護人に決めた。強力な弁護を期待している」ということで、若狭さんまさにこの裁判を意識した交代だと言えると思うんですけれども、裁判に入る前に弁護人が交代する、こういうことはよくあるんでしょうか?

若狭

大きな事件の場合はずっと通して弁護人をやるという方が多いので数は少ないと思いますね。

山口

では珍しいですかね?

若狭

そうですね。

山口

捜査段階とこれから裁判の段階に入りますよね。捜査段階と裁判で弁護士の役割というのは変わってくる面はあるんですか?

若狭

変わってきますね。捜査段階の時というのは検察がどういう証拠を持っているのかというのは必ずしも弁護団の方にはわからないんですよね。ですから五里霧中というか試行錯誤的にいろいろやっていくと。だからある意味、防戦なんですよね。ところが裁判になると証拠関係は基本的に全部開示されるので、明らかになった上で一斉に今度は攻めの姿勢に移るということでかなり変わってはきますね。

山口

そういう意味では弘中さんが弁護人になったというのは向いているかなという感じもしてきますね。

若狭

これは弁護団としては最強の布陣じゃないかなと私は思いますね。

山口

江川さんにも伺いたいんですけれども、このゴーン被告の声明、特にこの部分ですね。「不当な勾留につながった状況を明らかにしたいんだ」ということでまさに長期に及んでいる勾留についても訴えたいのではないかというニュアンスが伝わってくるんですが、そこはどう思いますか?

江川

それは早く出してくれということだと思うんですよね。無実かどうかというのはこれから裁判をやってみなきゃわかりませんけれどもこの勾留というのは前々から人質司法なんていうのも言われて刑罰の先取りみたいなものですよね。有罪か無罪かわからないうちにとにかく止めようっていくわけですからそういうことが問題になっていた上、今回は司法取引事案ですよね。だからむしろ日産が積極的に証拠を検察に出し、必要な証拠は全部検察が押さえているわけで、それを証拠隠滅するような可能性というのは具体的にないんじゃないかと思うと、この勾留の問題を言っているということは一定の説得力はあると思うんですよね。

山口

それでは新たに弁護人となりました弘中さんを詳しく分析していこうと思います。まず弘中弁護士のプロフィールを確認しておきます。1945年、山口県生まれ。現在73歳です。広島県内の高校を卒業した後、東京大学法学部を卒業。在学中に司法試験に合格もしているんです。その後、法律事務所を開設して現在も弁護活動を続けていらっしゃいます。その仕事ぶりを端的に表すような2つのあだ名があるんですね。人呼んで〝カミソリ弘中〟、さらに〝無罪請負人〟ということで、まさに日本屈指の敏腕弁護士という風にも評価されているということです。弘中弁護士は就任した理由につきまして、このように話しています。「経緯は詳しくは話せないが、ゴーン被告本人や家族と話し合って弁護人を引き受けた」んだと。さらに「特捜部と争う方向については一貫している」ということなんですね。実は弘中弁護士なんですが、その信念が伺える本があるんです。まさにその通りなんですけど、言われているあだ名の通り、本のタイトルも「無罪請負人」。そこから読み取れるような情熱の源ではないかというようなことが記されているんです。「依頼人の事をなんとか助けたい。どうにか無実の罪を晴らしてあげたい。その思いこそが弁護の努力や工夫・アイデアにつながる」という風にも記しているんです。この言葉からするとひょっとしたら、弘中弁護士はゴーン被告の無罪を確信しているんじゃないか、という風にも読み取れてくるわけです。ここで気になる方がいまして元依頼人でもあった堀江貴文さんです。堀江さんが今回の交代についてこういうことを話しています。「さすがカルロス・ゴーン、正解に気付くのが早い。徹底抗戦なら弘中惇一郎。カルロス・ゴーンならワンチャンあるかも。」堀江さんは最高裁に行った上告審で弘中さんにお願いしたので実は自分は遅かったという認識があるみたいですね。ですからカルロス・ゴーンさんは正解に気付くのが早かったという風にも評しているわけですけれども・・・若狭さんは検察にもいらっしゃった、弁護士でもいらっしゃいました。司法の世界でやっぱり弘中さんの存在は知られている方なんですね?

若狭

そうですね。一目、二目置かれていると思いますし、検察の方から見ても弁護士としては非常に嫌だなという風に思うとは思います。

山口

なるほど、嫌なタイプ。それだけ手ごわいということですね。江川さんも弘中弁護士の裁判を取材されていますけれど一言でいうとどんな印象がある人でしょうか?

江川

「カミソリ弘中」というのは、その通りだなと思うんですけれども、「無罪請負人」というのはご本人も嫌がっていますし、それは常に無罪というわけにはいかないけれども、相手の言うことを依頼人の言うことをものすごく信じる人ではあると思います。

山口

依頼人からすると信頼できる?

江川

そう。だからゴーンさんが「自分は無実だ」って言ったら、とことんそれを信じてやっていくんだろうなと思います。今までもそういう感じ。

■“無罪請負人”と呼ばれる理由 ロス疑惑

山口

ご本人は嫌がっているということなんですが、「無罪請負人」とも呼ばれている弘中弁護士、その特徴をこれから見ていこうと思います。その戦術というのがまずはこうです。「検察側の立証の矛盾点を突く戦術」なんだということなんですね。それにつきまして3つのケース、3つの裁判で検証していきたいと思うんですね。まず1つ目のケース。「疑惑の銃弾」です。みなさんご存知ですよね?1981年11月の「ロス疑惑」です。ロサンゼルスで日本人夫妻が銃撃されまして妻が死亡、夫は重傷を負うという事件がありました。この事件ではこの人物に殺人の容疑がかけられたんですね。大木さんお願いします。

大木

三浦和義さんが別の実行犯に依頼し、妻を殺させたとして、殺人の罪に問われました。弘中弁護士はこの三浦和義さんの弁護を担当しました。

山口

三浦和義さん、今はもう亡くなっています。無罪は確定しています。この裁判の内容を見ていこうと思うんですが、まず1審判決はこうでした。「無期懲役」だったんです。判決理由が、判決は2人組の強盗に襲われたとする三浦氏の主張を虚偽と認定しました。狙撃した人と共謀して被害者を装って妻を殺害したと1審では判断したということになるわけですね。しかし、この点につきまして弘中弁護士は実際に現地調査を実施したんですね。そして2つの疑問点を浮かび上がらせたんです。まず1つ目に浮かび上がってきた疑問点が「時間」についてなんですね。まず検察の証拠から計算しますと三浦夫妻が到着してから銃撃されるまで20分以上はある、という計算になるということだったんです。一方、弘中弁護士が検証したところ、実際に犯人が現場にいたのは長くて十数秒間だったんじゃないかということが判明したわけです。さらに、疑問点の2つ目はこちらです。「目撃者」についてなんです。検察側の主張はこうでした。4人の目撃者がいたが2人組の強盗を見ていない。だから2人組の強盗はいなかったんだというのが検察側の主張です。一方の弘中弁護士の検証の結果、こういうことがわかってきました。4人の目撃者は作業をしていたのでずっとその現場を見ていたわけでは無いんだ、ですから2人組の強盗は見ていなくてもそれ自体はおかしいことではない、という風に検察側の主張を切り崩していったわけですね。このようにして検察の矛盾をついて言った結果、二審の判決はこうなりました。1998年東京高裁で逆転無罪判決が出たわけですね。さらにその後、最高裁の判決も、2003年に無罪で確定したわけですなんです。弘中弁護士はこの二審の判決後に、こういうコメントを出しています。もともと銃撃事件で逮捕された時点からこれはもう無理筋の事件だという風に思っていたんだと。これで無罪が取れなきゃ、おかしいという気持ちは持っていました、というふうにも話していたわけです。若狭さんどうでしょうか、この弘中さんの戦い方ですね、どんな風にお感じになられますか。

若狭

この殺人事件などはやはり現場に行って、どういう風に見えるかとか。あるいは目撃者がどういうような状況でそこにいたのかとか、そういういのって結構ポイントなんです。ですから、このやはり殺人事件の無罪を獲得、勝ち得るためには何が大事かということを十分に知り尽くしている、という弘中先生の戦略勝ちだと思いますね。

大木

普通、殺人事件とかを弁護する弁護士さんは現場には、かなり足を運ぶものなんですか?

若狭

少なくとも現場に行くということは、今まで見えなかったことが見えてくるということはありますね。

山口

やっぱり若狭さんどうでしょうかね、この現場意に足を運んでから矛盾点を追及されるというのは検察側からすると非常に痛いところというか、やりづらいことになりますか?

若狭

目撃者の話が本当に信用できるかどうかっていうのは、かなりそこもポイントなんですよね。そこを真正面から検察の証言をつぶそうというようなことをしてくるっていうのは非常に検察としては嫌だと思いますね。

山口

川村さんはこのロス疑惑の裁判についてはどんな印象を持っていますか?

川村

私はその時は、海外で仕事をしていたんで、よくわかりませんが、結果的にその時の新聞などをずっと見ていますと、かなりメディアも思い込みが激しくて、こう決めつけていったような形で、実際にそのメディア自身も現場に足を運んで、現場100回というような言葉が言われますけれども、そういう風な立体的な報道がなされていたのかどうか。それから検察の方も、本当にキチンと現場検証を含めて、起訴事実の中に具体的にキチンと確証がある、説得力があるそういう起訴であったのかどうか、結果的に、ですけれども、今から思うとやっぱり弘中さんの方が説得力のある取材というか検証をしたんだなというのが今の説明でわかりました。

山口

江川さんはこの裁判についてはどのような印象を持っていらっしゃいますか。

江川

そうですね、今おっしゃたようにやっぱりそのマスコミが先にわーと盛り上げてですね、絶対にこいつが悪いんだっていう風にして、検察がそれに押されるみたいな感じでですね、あの起訴をしたという事件だったと思うんですね。だからそもそもが無理筋だと思いますし、この一審判決っていうのがとんでもない判決で実行犯の人を無罪にしていて結局実行犯がいなくなっちゃって、そうすると指名不詳の第3者がやったんだみたいな。検察もこれはおかしいぞということで検察も無期懲役になっているのに控訴したんですよね。くらい変な判決だったんですけども、でも、その変だってことを言うだけじゃなくて、弘中さんたちまた現場に行くんですね、だから判決の可笑しさをいうだけじゃなくてもう一回ちゃんとその場に行って物事を見直そうという、それこそ現場100回っていう感じだと思います。この時は三浦さんからお金もらってないんですよ。だから三浦さん、マスコミにその名誉棄損の裁判をいっぱい起こしたんですよ。それでもらったお金などを基にして海外でその現地調査やったりそんな感じで本当に大変だったみたいです。

若狭

無罪が取れなきゃおかしい気持ちは持っていましたって言っていますけども、これ刑事事件で無罪を勝ち得るための弁護人としてはここいう気持ちを強く持たないと。場合によってはここで有罪かな、と思うと、やっぱりどうしてもそこは弱くなる。

大木

でも逆に、警察側としてはむしろ江川さんがおっしゃっていたように、ちょっとマスコミにあおられてみたいな部分があるとすれば。自分たちのウィークポイントみたいなものはやっぱり感じる部分は?

若狭

実際は本当の殺人事件を捜査している際にやっぱり弱いところってあるんですよ。その弱いところをいかに強くできるか、証拠的に、というのが一つの捜査のポイントなんですよ。だからどの事件でも弱いところはあるんです。その弱いところをどこかっていうのを見つけ出すのが無罪にするための一つ。

■立証の“弱点”を見出す 薬害エイズ事件

山口

やはり弘中さんっていうのは非常にこの目が優れてるのかなっていうのが見えるんですよね。それがまた非常によくわかるケースが2つ目です。薬害エイズ事件です。1985年、非加熱濃縮血液製剤を血友病患者に投与してHIVに感染させて死亡させたという事件でした。この事件の依頼人です。

大木

当時帝京大学医学部付属病院の第一内科長だった安部英さんです。業務上過失致死の疑いで起訴された安倍さんの弁護人に弘中弁護士が付きました。

山口

という安部英さん、無罪が確定しましたが、当時の検察の主張を確認していこうと思います。起訴内容はこうでした。外国由来の非加熱製剤の投与を継続すればHIVに感染して死亡させることを予見し得た、という風に検察側は主張したわけです。ここで弘中弁護士が着目したポイントがあったんですね。それが別の裁判での出来事だったんです。それを見ていきましょう。厚生省の幹部、当時のですね。裁判を傍聴していた弘中弁護士がHIVを発見した世界的な研究者の証言に着目しました。その内容がこうです。1984年から85年の時点では、抗体陽性の意味について国際的なエイズの治療専門家もまだ理解していないんだと。明確な危険性の認識は浸透していないんだというこの証言に着目したわけです。しかし一方で検察側は、このお話を日本の検察官にも話していますということをこの証人の方はお話したわけですね。つまり日本の検察側は明確な危険性の認識は浸透していないというこの検察側からすると不都合な事実について、これを証拠としていなかったということを突き止めたわけです。そして検察が裁判所に提出していないこの供述の調書を証拠として開示させたということなんですね。これがまさに突破口となりまして判決を見てみましょう。2001年に東京地裁で無罪が出ました。そしてその判決理由はこうでした。予見の可能性はあったが、その程度は低く過失があったとは言えない、というものでこの無罪判決も当時としては非常に大きな衝撃で受け止められたと思うんですが川村さんはこの判決はどんな風に感じていますか?

川村

今の起訴内容から考えても予見し得たのか、し得なかったのは一つの論争だったと思うんですね。しかし予見の可能性はあったが、その程度は低く、というのは当時の安倍被告とどういうような因果関係があったのかというのが非常にわかりにくい。やっぱりその科学的なきちんとした分析といいますか、そういう意味では起訴内容自体がちょっとあやふやだったんじゃないかだとすれば、それは安全だということをきちんと確認して使用していたのかどうか、安全だということはまでは確認し得たのかどうかってことまでですね、追及をし得ていたのかちょっと私は疑問なところですね。

江川

この事件もやっぱりマスコミと被害者、そのたくさんの方が亡くなっているのは事実です。そういうような人たちとそれからマスコミも同情もあるし、だれか犯人を作らないと納まりがつかないみたいな感じで、じゃあ誰なのかというと一番ターゲットにしやすかったのが安倍さんで、ただこの事件というのは本来この人が悪かったからこうなったんだというよりも、やっぱりいろんな医学の進歩の過程の中で起きた非常に不幸な出来事だったと思うんですね。何が何でも犯人を作らなきゃ、おさまりが付かないっていう風潮そのものがやっぱり問題なんだよってことを明らかにした事件だと思います。ですからこういうものは、なぜこういうことが起きたのかってことをちゃんと解明するのが大事で誰か犯人作るのがいい方法だとは思えないですね。

若狭

ロス疑惑と、今回の薬害エイズの無罪になるわけですけどやっぱり無罪にするためのポイントっていうのを弘中さんは非常によくわかっている。ロス疑惑は要するに目撃者だとか、ということの信用性だったんですがそれに対する薬害エイズは結局、危険性を予見できたかどうかというポイントだったんですが、そこにおいてやっぱり専門家の述べる事っていうのはかなり重みのあるというところにポイントをおいて、専門家を中心にこの裁判の戦術を考えていた。だからその事件ごとにそのどこをつつけば無罪になるかというのを非常に心得ている。

山口

その事件ごとの核心を突くのが非常に長けているといえると思うんです。

大木

やっぱり検察側としてはこれ痛い敗北というか無罪判決?

若狭

無罪がでるというのはかなり痛いんですが、それに加えて有名でマスコミも着目している。国民も着目している事件で無罪っていうのはかなり痛手ですね。

■調書の供述を翻す法廷に 郵便不正事件

山口

それでは3つ目のケースに移りたいと思います。こちらはまさに江川さんがずっと取材されてました厚労省官僚に関する事件なんですが、郵便不正事件ですね。2009年、障害者団体向けの郵便割引制度を悪用し実態のない団体名義で企業広告が格安で大量発送された事件なんですけどこの事件の依頼人だった人がこの方だったんです。

大木

当時、厚生労働省局長だった村木厚子さんです。虚偽有印公文書作成、同行使の罪に問われました。弘中弁護士は、逮捕のおよそ一か月前に村木さんに出会い、その話から無実の話は信用できると思ったと言います。

山口

この事件なんですけど検察の主張を確認していきます。起訴内容はこうでした。村木さんが不正を部下に指示したんだ、という事なんですけれどもそれを、具体的に見て行きたいと思います。部下への指示の段階で、弘中弁護士はあるポイントに着目していたんですね。それが不自然な供述、それはどういう事か村木さんが「ちょっと大変な案件だけど宜しくお願いしますね」と部下に対して5年前村木さんがかけた言葉、周囲にいた職員全員の供述調書に記憶していると書かれていた。みんなが揃ってこの言葉を覚えている、しかも5年前。一方でこちら、一転曖昧になったとありますが、その内容が日時なんですね。村木さんから指示を受け文書を作成したとされる日付が「6月上旬」という風に曖昧だった、その前の言葉については、みんな揃って覚えているのに、日付は6月上旬と、ややあやふやに感じた、ここに弘中さんは攻めどころを見い出したとのことです。続いて文書作成記録を調べてみると、フロッピーディスクに残された書類の保存記録が6月1日の午前0時になっているんですね。という事は書類は5月31日深夜より前に作成したものではないかという事が分かったわけです。つまりこの記録から、その前の6月上旬というのは矛盾してくるということが分かったという事なんです。判決が出ます、この矛盾を突破口に弘中さんが攻めて行った結果、2010年大坂地裁は無罪判決を出しました。判決後に弘中弁護士はこう語っています。ここまで確信を持って臨めた無罪判決は本当に少ないんだ。逆に言うと、検察がそこまで無理をした事件だったともいえるということなんですね。江川さんこの裁判ずっと傍聴していて、どんなところが印象に残りましたか。

江川

どういう事件かと言うと、自称障害者団体が国会議員に依頼してこういう事になっているんですけど、そのポイントが国会議員、証人で呼ぶわけです。ご本人は依頼が有ったとされる日に、実は自分はゴルフに行っていたという風に言っていて、その方の手帳もある、提出されたたわけですね。証人尋問は弁護側がやって、その後、検察側が反対尋問するんですけども、ゴルフの話をしている時に、検察官がその日は「インのスタートでしたよね」と言ったんですよね。それまで弘中さんメモも取らず半分目をつぶって宙を見ている感じで聞いていたんですけど、いきなり立ち上がって異議を言うんですね。それは「インのスタート」はどこにも証拠にも出てないじゃないかと言うんです。その時はあまり深追いしないで終わるんですね。証人尋問終わった後に、弘中さんは検察側にゴルフ場にいろんな記録があるはずだから、国会議員はクレジットカードで払っていますから、全部それを調べてくれと、調べているはずだからそれを出しなさいと言ったんですね。そしたら、検察はいやまだ十分捜査していませんからと言って先延ばしにしようとしたのに、でも弘中さんがさっき「インのスタート」って言いましたよねって。それは全部調べているからからわかっているんでしょって、だから早く出しなさいって。異議出した時、私なんでこれ異議出したの、よく分らなかったですけども裁判官にちゃんと調べているんだよね、検察は、っていうのを印象付けて最後にそういう事を言うですね。本当に細かいところまで聞いて、読んで矛盾点を探している、鋭いなと思いました。

山口

その一言で閃くのですかね。

江川

しかも細かい所を「インのスタート」なのか「アウトのスタート」か、あんまり気にしないじゃないですか。だけど小さい事も積み重ねて行くって事なんだなとすごく思いました。

大木

若狭さんはこの事件の弘中弁護士の戦い方はどういう風にご覧になっていますか?

若狭

全部違うんですけども無罪の。今回の郵便不正は部下の供述にポイントがあるので、そこをかなり徹底して攻めて行ったという所が大きいと思います。

江川

それだけではなく厚労省の関係者、いっぱい調書取られているんですよ、有罪方向の調書を。それを一つずつちゃんと全員確かめて、結局ほとんどの人が裁判でひっくり返す事になっているんですね。関係者を一人一人丹念に当たってその人たちの話をちゃんと聞くという事だったんだと思います。

山口

そのあたりの、弘中弁護士の周到さというか、丁寧が。

川村

元々、検事の調書に不正があったという事もこの事件にはありましたよね。その検事は捏造したという部分があったので、その後ある意味で処分されていますけどね。

■最強弁護団の結成 保釈も視野に

山口

弘中弁護士だけではないんですよね。実はゴーン被告の元には最強弁護団が結成されたという内容があるので、そこを見て行きたいと思います。異例の人数なんですね。10人にも及ぶ弁護団が結成されました、この弁護団の主任弁護人は河津博史弁護士という事になります。この方、主な担当事件は郵便不正事件、「陸山会」事件を弘中さんと一緒に担当した方です。もう一方「アメリカ通」とも言われている刑事弁護界のレジェンドとも言われている、高野隆弁護士ですミランダの会の元代表で、ミランダの会というのは被疑者の人権を守るために取り調べの立ち会いや黙秘権の行使を求める、まさに被疑者の身の回りの人権についてずっと訴えている、そういう代表をしていた方だということなんですね。

1980年代から司法の世界を取材している元朝日新聞の村山治さんに今回の弁護団を分析してもらいました。すると、弘中弁護士と高野弁護士が組むのは珍しい。高野弁護士はアメリカの司法制度の専門家。つまり今回、高野さんが入った狙いは、ゴーン被告の保釈で頑張ってもらうという事ではないか。アメリカの司法制度と日本の司法制度の違いを非常にわかっているのでそこで保釈について訴えていこうということではないかという分析でした。もう一人グレッグ・ケリー被告弁護人はどうなったのか、喜多村洋一弁護士、この方なんですが弘中弁護士の盟友で、担当した事件がロス疑惑だったり薬害エイズだったり。まさに最強とも言える布陣だと言えるんですが、若狭さんこの布陣どう思われますか。

若狭

まさしく最強の布陣だと思います。これで無罪を本当に獲得するためのシグナルというかゴングが鳴ったと言ってもいい。

山口

若狭さんこの後の流れを考えていったときに無罪になるのかどうか可能性はどのぐらいだと思いますか?

若狭

これからの弁護団の戦術いかんだと思うんですが、これまでの刑事裁判というのは、昔は検察が証拠を握っていて、それを、なかなか全部見せないという所に問題点があって、なかなか無罪を勝ち取れないという事が多かったんですが、最近は制度が変わって検察が持っている証拠のリストを全部出しなさいよと。そこでこの証拠を開示しなさい、ちゃんと明らかにしなさいと言えるような制度になってきたので、これからの戦いでそこをうまく突けば無罪の可能性は出てくると思うんです。特に有価証券報告書の関係は評価の問題で、退任後の報酬をそもそも有価証券報告書に書く必要があるかどうか。法律的な面の評価の問題なので、これは専門家を出すことによって無罪になる可能性があると。特別背任は、ジュファリさんは重要人物なんですが、その人が今後、裁判で実際出てきて説得力がある証言をすれば無罪になる可能性が出てくると思います。

山口

江川さんはこの後の流れどんな風に推測されていますか。

江川

弘中さんはチーム作るの、すごい上手いと思うんですね。弘中さんは人の話を聞く人だし、「俺のやった事が正しんだ」みたいな押しつけがましくないし、威張らないですよね。だから色んな弁護士の良い所を引き出していくと思うんですね。高野さんに対する評価はちょっと私、違うと思うんですけど、何も保釈だけじゃなくて彼自身が無罪を争っている事件で、すごく強力な弁護をしていますので。そういう様な力を最大限に引き出していく感じになるのかなと思います。

山口

この後の流れもしっかりと見ていきたいと思います。若狭さん江川さんありがとうございました。

(2019年2月17日)