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#74

ゴーン容疑者4度目の逮捕 問われる“私物化”

保釈から一転、4度目の逮捕となった前日産会長のカルロス・ゴーン容疑者。新たな特別背任の逮捕容疑となったのは、オマーンルートの資金還流で、まさに会社の“私物化”を問うものだった。2019年4月7日のBS朝日『日曜スクープ』は、専門家を交え、捜査の行方と企業統治のあり方を検証した。

■ゴーン容疑者の妻キャロル夫人聴取も焦点に

山口

新しい動きをお伝えしたいと思っています。今日明らかになったんですが、ゴーン容疑者の妻キャロル夫人なんですけれども
5日金曜日の夜、ゴーン容疑者が逮捕された翌日に出国してパリへ向かったと。そして現在はパリに滞在しているということです。なぜ出国できたかという事なんですが、実は二つパスポートを持っていて、レバノンのパスポートはゴーン容疑者が逮捕された時に押収されたんですが、アメリカのパスポートも持っていました。そのアメリカのパスポートで出国したということなんですね。このキャロル夫人が出国したという情報が今日入ってきたわけですけれども、この情報は後ほど詳しくお二人に今日のゲストの方々に伺います。それではゲストの方々をご紹介いたします。おなじみですね、弁護士で元東京地検特捜部の検事、井康行さんです。今日もよろしくお願いしますお願いします。そして、もうひと方です。自動車業界を長年取材しゴーン氏へのインタビューも何度も行ってきました、経済ジャーナリスト井上久男さんです。どうぞ宜しくお願いいたします。まずですね先月(3月)6日、勾留108日目に保釈されたゴーン容疑者ですが、今回まさかの4度目の逮捕となりました。大木さんお願いします。

大木

その構図を振り返っておきましょう。まずは、今年1月に起訴されていたいわゆるサウジアラビアルートの特別背任事件です。ゴーン容疑者が自分の為替取引で評価損を抱えた時に、信用保証の形で協力した友人のサウジアラビアの実業家に、CEOリザーブと言われる資金から1470万ドル当時のレートで12億5千万円を支払ったとされています。中東での不審な資金の流れというのはこのサウジアラビアルートだけではありませんでした。井さん1月にこの番組に出演していただいた時のご指摘振り返ってみましょう。

■1/13の放送

「例えばレバノン、オマーンの分は適正だったということになると、同じ形態のサウジアラビアの分も適正だったんではないかという一般的な推測が働くことになるわけです。捜査当局としてはレバノンの分、オマーンの分もきちっと捜査をして、適正なものなのか違法なものなのかをはっきりさせると。違法なものであれば当然追起訴する。」

大木

まさにこの時の井さんのご指摘通り、東京地検特捜部はゴーン容疑者の保釈中もこのレバノンやオマーンの捜査もしていました。それが新たなルートと書かれた部分になります、今回の逮捕容疑によりますと、ゴーン容疑者はCEOリザーブを使ってオマーンの日産販売代理店であるスヘイル・バウワンオートモビルズに3年間でおよそ1500万ドル、日本円にして17億円を支出していました。このうち500万ドル、およそ5億6300万円を自身が保有する投資会社グッドフェイスインベストメンツに送金させ、日産に実質的に損害を与えたとされています。さらに関係者によりますと、オマーンルートのこの資金というのはゴーン容疑者の妻の会社ビューティーヨットと、息子の会社とみられるショーグンインベストメンツに数億円ずつ送金されていました。

山口

井さんにまず伺いたいですが、これがその逮捕容疑の通り、妻だったり息子にこの資金が流れていたということになりますと、これまでの事件と比べても非常にこの私物化というのがはっきり見えてくると思うんですが、いかがでしょうか?

その通りですね。厳密に言うと、還流させる目的でその分を上乗せした金を中東の代理店に払った時点で背任が成立するということですからね、理論的には。

大木

そして、注目なのが今日入ってきたニュースだと思います。東京地検特捜部が聴取を求めていたゴーン容疑者の妻キャロル夫人が海外に出国しました。キャロル夫人は2016年にゴーン容疑者と結婚、12歳年下になります。そして先ほど、お話がありましたが、ゴーン容疑者の逮捕時には携帯電話とパスポートが押収されました。この時二つパスポートを持っていて押収されたのはレバノンのパスポートでした。今回、アメリカのパスポートで金曜の夜に出国したという情報ですが、井さん、これちょっと言葉は悪いですが、検察としては逃げられたみたいな印象なんでしょうか?

まあ端的に言えばそうですね。今回は、先ほど出ましたように、還流した金の一部が奥さんの方に回っているということなので、当然、重要参考人になるんですね。検察官としては是非とも事情聴取をしたい。もし仮に事前にその流れを知っていたら、奥さんは共犯ですから。非常に共犯っぽい重要参考人だからどうしても聞きたいという状況だったんですが、当然そういうことは向こうも分かっているわけですから。さっさと回避して出国してしまったということなんですね。ただ一方で言うと、そもそも3月末の時点で弁護団側にはどうも検察の動きがおかしいと、強制捜査で来るんじゃないかってことは想定していたはずなのに、何で4月の4日まで日本にいたんですか、奥さんはと。しかもゴーン氏と一緒の部屋にいた。普通だったらホテルがどっかに住まわせるんじゃないのと。だから弁護側の動きもちょっと解せないなという感じもしますけどね。

山口

木曜日の早朝、ゴーン容疑者の今の住んでいるところに踏み込みましたよね。当然この時にキャロル夫人もいて、キャロル夫人の携帯電話それからパスポートを押収したということがありました。今おっしゃったように重要参考人であるということは、そこに携帯電話に何らかの重要な情報が入っていたり、パスポートを押収したということは出国されたらやっぱり困るということだった訳ですよね?

そのパスポートで奥さんの動きを追っていけば、それが今回の事件と結びついてくるという要素もありますから。そういう意味では非常に本件に絡む証拠であることは確かですね。

山口

この第一報を聞いて、どうやってあのキャロル婦人が出国したのか本当に大きな疑問だったんですが、二重国籍でつまりアメリカのパスポートも持っていたと。特捜部としてはやっぱりこのアメリカのパスポートも押さえておきたかったということはありますよね?

当然ですよね。だから何で1つそのアメリカのパスポートが残っていたのか。もしかしたら捜索現場のところにはなかったのかもしれませんね。そうすれば押収できないので。

山口

ということは井さんの話によりますと、弁護側も何らかの動きがあるんじゃないかと推測していたとすれば、ひょっとしたら、この出国できる状態にしておくことも想定して、もう一つのパスポートを別のどこかに保管していたとか、ということも考えられますか?

そこまで配慮するんだったら本人を出国させてしまいますよね、それ以前に。ですからこの辺は弁護団何考えていたのかなっていう感じはしますけどね。

大木

キャロル夫人の事情聴取の重要性が高まってきたのが最近だったんですか。

それはこのレバノンルートの話もかなり前から報道されているわけですから。弁護団も夫人の置かれた立場は重々承知の上だったと思いますよ。

山口

これは、しかし出国ということになりますと、検察としては当然この証拠隠滅とかそういうことに繋がると困るわけなんですけれども。出国してしまうとどうにもならない?

どうにもならないですね。今の段階では参考人ですからね、どうしようもないですね。ただ一方で言うと、夫人もゴーン氏も無実と声高に主張されているわけですよね。だったら、せっかく検察側が事情聴取すると言うんだから、そこに行って潔白であるという供述をして夫と共に戦えばいいのにという気もしますけどね。

キャロル夫人は4月11日、東京地裁での証人尋問で検察側の質問に答えた。弘中惇一郎弁護士は「(前会長の)無実につながる尋問だった」と説明している

■還流した資金の一部が妻の会社にも

山口

今、捜査が進んでいるオマーンルートですとか、今後の捜査への影響は?

この事件は奥さんを共犯で起訴しなければもたないという事件ではありません。それから、お金の流れはその奥さんがそれを事前に知ってとかどうかは別にして、客観的に中東に支払われたお金の一部が奥さんの会社の方に行ったという、客観的事実が証明されれば、それで検察としてはもう必要最小限度の立証はできる状況ですから。奥さんがいなくなったから検察の捜査が非常にやりにくくなった、あるいは起訴が難しくなったということにはなりません。

大木

以前から井上さんはゴーン容疑者の取材ずっとされていますが、キャロル夫人の存在というのは日産にとってどういう存在だったんでしょうか?

井上

ゴーン氏の再婚相手です。前妻と離婚して、キャロルさんと一緒に住むようになった頃に、ゴーン氏は、日産の会社のお金で豪邸を世界各地に買っているんですね。これは事件にはなっていませんが、豪邸の取得時期がキャロルさんと一緒に生活し始めた頃と重なるわけでありまして、日産の社内では若い奥さんに良い格好するために、会社のお金で世界各地に豪邸を買ったのではないかということが言われていますし…。これも事件にはなってないんですけども、キャロルさん自身が日産に対してベイルートの豪邸のシャンデリアが壊れたので、修理代を日産に払ってほしいっていうメールを送っていまして、そういうことが日産社内調査では捕捉されています。おそらく検察側も日産が大々的に協力しているわけですから、そういう情報は把握していると思いますね。

山口

キャロル婦人が二つパスポートを持っているという情報は結構あったんですか?

井上
キャロルさんはレバノン系米国人ですから二つ国籍を持っています。レバノンとアメリカのパスポート2つ持っている可能性は十分ありましたので、朝、特捜部が踏み込んだ時に、パスポートが押収されたという報道があったんですけど、その時に2つ押収したのかな?というのが頭をよぎりました。

大木

それは2つあなた持っていますよね?もう一つはどこですか出しなさいということは言えないんですか?

あれは捜索令状で押収していると思うんですけど、捜索令状というのはその場にあるものを押えるものですから。その時にないと、もう一つどこにあるんですか、例えばどこかにありますよと。じゃあ持ってきてというのはいいんですよ。その場合は任意提出してくださいという話ですから、そうなると、本人が嫌だと言えば、それで終わりですよ。

山口

川村さんいかがですか?今回のキャロルさんの出国ですが。

川村

これはキャロルさん自身が実際にこういう時には別のパスポートを使って意図的に出国しようという風に思っていたのか、あるいは、急きょ強制捜査の中で夫のゴーン会長が再逮捕されたっていうことを自分自身にもその後、実際に参考人としての事情聴取ということが分かっていたわけですから、それでなんとか対応しなきゃいけないってことなのか分かりませんけど。いずれにしても今の状況だったら、例えばフランスに出国して、フランスにいるんであれば日本は当然のことだからフランスの司法当局に対しても捜査協力の要請は出来るわけですね。その時に、じゃあ今度はキャロル夫人がどういう対応するのかというのも出てきますよね。

■会社のメールで改築費用支払いの催促

山口

ゴーン容疑者の4回目の逮捕なんですけれども、私物化の舞台となりました中東ルートですね。これをゲストの井上さんの独自情報を中心に深掘りしていこうと思います。まずですね、注目したいのはレバノンにあるフォイノスインベストメンツという会社です。ゴーン容疑者はフォイノスインベストメンツを通してゴーン容疑者の妻の会社に資金を流していた、キャロル夫人の会社にこのクルーザーを所有しているんですが、そこに資金を流していたという疑惑がありますね。

大木

さらに、井上さんの独自取材で:、このフォイノスインベストメンツを受け皿に不当な資金調達指示のメールが送られていたことがわかりました。2017年ゴーン容疑者から幹部に会社メールでこのフォイノスという会社の口座に150万ドル、レバノンの物件の改築費用として振り込んでくれと指示されたというのです。しかし、この改築費用はなかなか振り込まれず、レバノンの物件のことで頭がいっぱいですという催促とも受け取れるメールが来たということなんです。

山口

非常にこの生々しいメールなんですけど。

井上

もう少し正確に申し上げますと、支払いの遅れの督促が私のところに来ているという文言まで入っていますね。おそらく特捜部もそういうメールは多分つかんでいると思います。ある意味、私物化を象徴する文言だなと思いますね。私は刑事事件の問題は横に置いてみても、経営者としてゴーン氏が不適格だなと思いますのは、ちょうど2017年10月は、日産自動車が完成車検査の不正問題で大きく揺れていた時ですね。それで「日産何をやっているんだ」と大きな批判をお客さんからも受けていた時に、当時の日産の会長だったわけですけども、そういうことの事態の収拾に図ることに協力するわけではなくて、自分の個人的な邸宅の修理とかそういう対応に終始していたということはいかがなものなのかなという風に私は感じてしまいますね。

山口

そしてこのフォイノスインベストメンツという会社なんですが、今回のこの特別背任事件で登場してきますグッドフェイスインベストメンツ・GFI。ここと密接なつながりがあるということなんですね。

井上

そうですね。そのGFIという会社はゴーン氏の非常に親しい弁護士さんが代表を務めていたんですけど、その弁護士さんが亡くなった後にゴーン氏が実質的に管理する会社になっているわけですね。そこと同じ場所に、フォイノスインベストメンツという会社があるわけです。もともと、このフォイノスインベストメンツも非常に怪しげな会社でして、実はフォイノスインベストメンツの親会社の親会社の親会社にジーアという会社がありまして、これもよく報じられているんですけども日産がベンチャーに投資するために子会社として作ったんです。それがいつのまにか日産本体の連結から外されてベンチャーの投資ではなく、こういう形でフォイノスインベストメンツなんかを作ってゴーンさんの豪邸を所有する会社になっていたと。フォイノスインベストメンツ自体も口座を持っていてですね、そこにゴーンさんが日産に送金を指示していたということで、本来の目的から外れた使い方がされた会社になっていたということでは非常に怪しい会社ですね。

大木

この特捜部もGFIに関しては実質的にゴーン容疑者本人が保有する会社だと指摘しているんですが、新しく出てきましたこのフォイノスインベストメンツというのも同様なのではないかと考える?

井上

誰が代表かってことは確認してないんですけども、実質ゴーン氏が管理した会社だという風にみられます。

大木

ある意味実態はなくてペーパーカンパニーみたいにお金を通すための会社みたいな?

井上

ペーパーカンパニーでお金を通すための会社だと思います。これ以外にも租税回避地のバージン諸島なんかにもゴーンさんは会社を持っていて、それも一種のペーパーカンパニーだと思いますし、そういう形で中近東に複雑な形でそのお金が流れていまして。ちょっと強い言い方かもしれないんですけど、その専門家の中にはマネーロンダリングの手法に近いんじゃないかっていう指摘もあるんですね。

山口

さらにですね、井上さんが独自の情報を持って来て頂いたんですね。

■隠し口座の計画まで社内メールで

大木

2010年10月、豪華豪邸の資金源となっている会社の設立時、UAEに隠し口座を作り、ゴーン氏の報酬を払う計画というのがあったそうなんです。この隠し口座はゴーン容疑者の指示で作るという社内メールが回ってきたということなんです。しかしながら、最終的にこの口座が実際に開設されたかは不明だということなのです。

山口

井上さん、これは2010年の10月ということですから、この頃から中東を舞台にして不透明な資金のやりくりをする、そういう動きがあったということなんでしょうか?

井上
そうですね、その頃からあったという風に見ていいと思います。具体的にはUAEの一角であるアブダビに口座を作ろうというような指示が社内メールで流れていまして。目的もそのメールには書かれていると言われていまして。これは、ゴーン氏の最初の逮捕容疑である虚偽記載と実は絡んできて、連結を外した会社に口座を作れば開示義務がなくなるので。開示義務を回避するためにアブダビに口座を作ろうというような指示が流れているわけですね。CEOオフィス室が絡んだメールだという風に言われていまして、そこのトップは今回の事件で検察側と司法取引した人物です。検察側もそういう情報は完全に掴んでいますし、裏取りも含めてお金の流れを確認できているんだろうという風に私は見ています。

山口

司法取引をした人がそういうポジションにあってそこから出ていたメールじゃないかということですか?

井上
そうですね。それとメールだけで本当にお金がどういう風に動いているのかっていうのはなかなか裏を取るのが中近東を舞台にしていて難しいわけですけど、これは、おそらくアメリカの捜査共助により裏取りしたのではないかと。アメリカは今テロ対策で中近東のお金の流れを非常に細かく見ているということが言われていますので、そういうところから情報を取っている可能性もありますね。

山口

井さんにもぜひ教えて頂きたいんですけれども、ちょうどこの2010年というのは、日本で1億円以上の報酬に関しては開示することが義務付けられた、その時期にあたります。ということは最初の逮捕容疑、金融商品取引法違反がありましたけれども、あの頃からやっぱり自分のお金を私物化しよう、会社のお金を私物化しようというような意図が垣間見えてくると思うんですが、どのようにお感じになりますか?

先ほどの話は1億円以上の報酬の開示義務を何とかして回避したいということの表れでいろんなこと考えていたんだなということですね。それから会社の資産の私物化はいつ頃から考えるようになったのか。CEOリザーブってありますよね。CEOリザーブができたのがいつ頃なのかなと。少なくともCEDリサーブができた頃から彼は今回のことを考えたんじゃないかと。そういう意味では捜査する側としてはCEOリザーブがどういう経緯で誰の発案でどのようにできたのか。CEOリザーブとされた資金は誰がどのように管理し、それが使われたときはどのような経理処理をされていたのか、というようなことに非常に強い関心がありますね。その捜査をする過程で、彼があわよくば正常な取引に乗じて日産の資金を私物化しようという意思がその頃から発生していたということが認定される可能性もあると思いますね。

大木

CEOリザーブは2008年に創設されました。通常予算に計上されない資質を補うための予備費で災害などの緊急事態への対応に使用するための資金。ただゴーン容疑者の裁量で支出先を決めることができることから今回の一連の事件では不正の温床となったとされているんです。

山口

このCEOリザーブというのが様々な温床のスタート地点に関係しているのかなとも見えてきますね。

川村

ゴーン容疑者の自由裁量でその資金の流出ができるということであれば名目上、これは国の政府の予備費なんかでもそうですけど、緊急事態に対応するための防災とかあるいは災害とかそういうものに対する措置というようなことを今も謳っていましたよね。しかし実際には、その裁量権は全て自分にあるということだと、その流出の過程はどこまできちんとお金の流れがある意味公明正大に開かれたものになっているのかというあたりが問題だと思いますよね。

山口

井さん、そうするとこのCEOリザーブの具体的な中身ですよね。これがどういう意図でどのように使われていたのかこの辺りが重要なってきますか?

基本的にはCEOリザーブの資金が流れているわけですよね、レバノンにもオマーンにも。フランスのルノーの調査によれば、フランスのルノーから出るのもフランスのルノーのCEOリザーブから出ているということですから。CEOリザーブというのは全ての出発点のような感じがしますね。

■ゴーンマジック復活の功罪

山口

ゴーン被告の20年の歴史の中で私たちがターニングポイントとして注目したのはリーマンショックと東日本大震災です。先ほどから話題に出ているCEOリザーブが設けられた経緯にも絡んでくるんですね。

大木

日産とゴーン容疑者の歩みを振り返ってみましょう。1999年、日産とルノーが資本提携しましてゴーン容疑者が来日し、日産の社長に就任します。リバイバルプランで経営の立て直しに成功しました。大胆なコストカットを駆使したこの経営手法というのは賞賛されまして、カリスマ経営者として称えられました。そして2005年にはルノーの社長兼CEOとなります。しかし、2007年、就任後初の減益となりました。現場に不満が募りゴーン采配に疑問の声も上がりました。この頃取材しました井上さんの話では、この頃のゴーン容疑者は少し自信を失っているようにも見えたということでした。ただ、2008年のリーマンショックで各社とも収益が厳しくなる中日産は損失というのを最小限に抑える。ここでゴーンマジックの復活と言われたんです。CEOリザーブを創設したのも実はこの2008年でした。ゴーン容疑者はこの時期に最初の特別背任事件に手を染めたとされています。リーマンショックで評価損の出た自分の為替取引を日産に付け替えたり、サウジアラビアの友人に不正な支出をしたということです。さらに2010年からは報酬を少なく見せかける虚偽の記載も始めています。

山口

井上さん今こうやって見てきますと、まずリーマンショックが一つのターニングポイントに見えてくるんですが。そもそもゴーン容疑者はリーマンショックをどうやって乗り切ったんですか?

井上

これはですね、1999年のリバイバルプランと同じことをやりまして。まず車種を減らす。それによって開発コストを落としていく。あと人員を減らしていくということで労務コストを減らしていく。主にこの二つをリーマンショックの後にやりました。

山口

コストカットですね。

井上

そうですね、コストカットを繰り返したわけです。

山口

そうするとこのリーマンショックをコストカットで乗り越えたことによって、それがいわゆるゴーンマジックってことになるのかもしれませんが、それによって社内での求心力を高めたっていうことですか?

井上

当時そのリーマンショックはどのメーカーにも同じ条件で襲いかかってきたわけですから。トヨタ自動車やホンダもリーマンショックで業績が大きく落ち込みまして、特にトヨタは戦後初の赤字になったわけなんですね。日産の場合は、赤字にもならず、トヨタやホンダよりも非常に早く回復しましたので、ここでさすがゴーンさんだという声が出ました。2007年に初の減益になって少し力が陰ってきたうえ、ゴーン氏流経営の限界が見えていたんですけど、そのへんを覆い隠して、やはり凄腕の経営者だという評価が社内外で私は高まっていったんだという風に思いますね。ですから、益々権力を持って社内で逆らえる人がいなくなったんだと思います。

山口

ここでゴーン容疑者側の弁護人であります弘中惇一郎弁護士ですね。会見を開いた中で弘中さんこういう発言をしているんです。「これらの事件はほとんど10年以上前の話です。また日産の方でも10年以上前から知っていたことばかりです。何のために今の時点でこれを刑事事件として検察の方に届け出たのか大変奇妙な感じがします」と弘中さんは話していたんですが、ただ、今のお話を重ね合わせていきますと、ちょうど10年あまり前にゴーンマジックが復活した時期と重なってくる。社内での立場を強めた、それが犯罪の色々なことの行き過ぎたことに繋がっていったということも考えられると思うんですが、井さんはこの10年前の出来事、この弘中さんの発言、どんな風にお感じになっていますか?

ゴーンさんが権力をさらに強化したというのは今おっしゃっている通りだと思うんですね。一旦欠けていたものがさらに復活すると。前にも増して力をつけるということはよくあることですから。それは十分おっしゃる通りのことだったと思います。その時点では権力が非常に強いわけですから、それ知ってもなかなか言えないということは十分あったと思いますね。ただ、それは会社の役員としてこれは違法だということを知りながら怖くて言えませんでしたということで通るかという問題はありますよ、もちろん。そうではありますが、人間の行動としては、その時はもう言いたくても言えなかった、しかし、言える状況になったから言った、あるいは、言わざる得ない状況になったから言ったということは、それほど不自然なことだとは思えないですね。

山口

さらに、この後の動きがあるわけですよね。

大木

続いて、鍵となってきそうなのが2011年の東日本大震災です。この時も、自動車業界全体が収益を落とす中、日産は増収増益を果たしました。さらに、2012年には翌年には販売台数が過去最高の485万台を記録。営業利益がトヨタを抜いて1位になりました。ただ、この2012年です。オマーンの会社への不正な送金を始めたとされています。

山口

ここもまと色んな事が重なってくるんですけれども、まず井上さん東日本大震災の時も乗り切った。これもやっぱりコストカットってことなんですかね?

井上

そうですね、やはり意思決定の速さなんですね。ゴーン氏は果敢な経営判断をしますね。一例を挙げますと、震災の時にICチップを作っている工場が大きな被害を受けて、それが止まったわけなんですね。その時にゴーンさんは何をやったかって言うとカーナビゲーションに使うICチップとエンジン制御に使うICチップが同じICチップを使っていたんですね。そしたら、カーナビはなくても車は売れる地域はあるだろうと、カーナビ用のICチップをエンジン制御のICチップにすぐに回せという判断をしたことで、日産は生産がそれほど止まらなかった。ですから震災の直後なのに485万台と過去最高記録を達成できた。一方でトヨタやホンダは大きく落としてしまうわけですね。そこでまた、さすがゴーンさんということになりました。私も当時から取材しましたからゴーンさん褒めましたね。それは経営者としては優れた力量だといってもいいんだと思うんですね。ですから、ゴーンさんは優れた救急救命医なんですね。危機に陥ると、とっさの判断で手術をしてその人を救うという意味で企業がピンチに陥ると、とっさの判断で対応策を打ち出して救うということですね。

■時期が重なる権力集中と“私物化”

山口

そういうような救急救命医のような才能がある一方で、この時期、またこの私物化に手を染めていくような事実が今どんどん浮かび上がってきているわけですね。この相反するゴーンさん像はどんな風になりますが?

井上

これは、権力の一極集中が進んでゴーン氏自身にもおごりが出てきたということなんだと思うんですね。例えば、業績が落ち始めた2013年に志賀COOを更迭しましたが、業績悪化の原因はゴーン氏自身が立てた戦略ミスの部分がかなりあるんですけど、そういうのを部下に押し付けるようになりました。これも権力の一極集中の一つの象徴でして、あなたおかしいですよっていうことが言える人が社内にもいなくなったと。じゃあ株主がいるじゃないかという視点もあるんですけど、ゴーン氏はものすごく配当をたくさん出すんです。だから株主から文句は出ないという、そういう意味ではうまいわけですね。

山口

ゴーン容疑者は4度目の逮捕となったわけなんですが井さんは以前この番組で有罪になるかどうか五分五分だと指摘されていました。今回の4回目の逮捕を見て、どのように感じていますか?

結論から言うと、かなり検察が有利になりましたね。その理由は、今回のオマーンルートというのは、筋から言えば、間違っても無罪にならないような特別背任の綺麗な筋なんです。もちろん事実関係が立証されなければダメですよ。ただ、前の二つは事実関係はその通りに立証されても、評価が割れて無罪になる可能性もある程度あったわけですから。今回のこの立件で、その確率がかなり減ったということなんですね。両方ともCEOリザーブから出ていますから、前のサウジルートも。だから、CEOリザーブの持っている意味が解明されれば、今回のオマーンルートの流れで、その影響はサウジルートの背任にも必ず及んでくるんですね。そういう意味では弁護団はかなり厳しい状況ですねという感じですね。

川村

ただ、やっぱ素人目から見るとね、やっぱりなんでこんなに時間かかったのと、逮捕から。ある種、最初の逮捕となんか別件のような形でようやく筋の高い本筋にたどり着くまでに、どうしてこんなに時間がかかったんですか、証拠集めも含めて。そういう不満はゴーン容疑者自らも持つだろうし、ある意味では、もっとしっかりした、徹底した捜査を逮捕時において、きちんと掴んでいなきゃいけないんじゃないのかという、そういう意味での海外からの人質手法とかそういう形の批判はあえて甘んじて受けなきゃいけない部分もあると思います。

ただ、この今のルートの証拠は、最初の捜索で集めてきた証拠を分析して見つけたものですから。最初の捜索の前にここまでやっておけよというのは、それはちょっと捜査側に不可能を強いることだと思います。

川村

それはそうだと思いますけど、やっぱり司法取引ですから、すでに告発した人は全て日産の中でのこういうルートを含めて、予備費のおかしいなっていうのは分かっていたと思うんです。

山口

いろんな見方が分かれると思いますが。

川村

きちんと立証されるだろうと思いますけれども。

(2019年4月7日)