番組表

広告

スペシャルアーカイブ一覧

#76

最新鋭機『F35A』墜落事故 “機密の塊”めぐる攻防

青森県沖に墜落した航空自衛隊の最新鋭ステルス戦闘機F35A。“機密の塊”と言われるほど最先端の技術が詰まっており、日米が異例の捜索チームを組んだ。2019年4月21日のBS朝日『日曜スクープ』は、日本の防空態勢の今後にも影響を及ぼしかねない、この墜落事故“知られざる危機”を特集した。

■「空間識失調(バーティゴ)の可能性も」

山口

本日のゲストを紹介します。航空自衛隊元空将で戦闘機のパイロットのご経験も豊富な東洋学園大学・客員教授 織田邦男(おりた・くにお)さんです。よろしくお願いいたします。

織田

お願いします。

山口

そしてもう一方、日本の防衛・安全保障に詳しい軍事ジャーナリストの黒井文太郎(くろい・ぶんたろう)さんです。よろしくお願いします。

黒井

お願いします。

山口

今回墜落したのがこちらF35A戦闘機です。性能は全長が15.6m、全幅10.7m。最高速度がおよそマッハ1.6、時速にしておよそ2000㎞。東京から大阪を単純計算でおよそ13分で到着することになります。巡航速度は推定マッハ1.2ほどだということです。乗員は1名、アメリカのロッキード・マーチン社製です。F35の後ろに「A」とありますが実はF35には3つのタイプがあります。Aが空軍、Bが海兵隊、Cが海軍。今回はF35Aが墜落したことになります。購入価格はおよそ140億円と言われています。ポイントは第5世代と呼ばれる最新鋭の戦闘機なんです。何が第5世代なのか、詳しくは後ほど説明しますが、現状の世界の戦闘機の中で最も高度な技術が詰まった機体です。この最新鋭戦闘機F35Aが墜落したのが4月9日でした。青森県の三沢基地を飛び立ったのが午後6時59分でした。その後東におよそ135キロ離れた太平洋上で午後7時27分に消息を絶ちました。大変気になるのはパイロットです。乗っていたパイロットは細見彰里(ほそみ・あきのり)3等空佐、41歳です。航空自衛隊三沢基地・第3航空団・302飛行隊に所属、経験豊富なパイロットでF35Aの飛行経験はおよそ60時間。そのほかの戦闘機はおよそ3200時間も飛行経験のあるベテランだということです。現在、懸命の捜索が続いていますが、まだ発見できていません。川村さん、厳しい状況ですが、何とか無事に見つかってほしいですね。

川村

最後の発生したメッセージが“訓練中止”ということを言って、その後、行方が分からなくなっているということですけど、さまざまな角度から捜索していると思うので、早く細見さんを探し出してほしいですね。

山口

その細見さんが参加していた訓練がどういうものだったのか確認しておきます。対戦闘機戦闘訓練ということで、F35A戦闘機が2対2に分かれて行う訓練だったんですね。4機をまとめる編隊長が細見さんだった。消息を絶つ1分前に残した言葉がありました。それが「ノック・イット・オフ」訓練中止ということなんですね。「ノック・イット・オフ」には2通り使い方があるそうです。織田さんによると、ひとつは「緊急事態での訓練中止」。もう一つ「予定の訓練が十分に行えたので中止する」という意味も含まれているそうですが、織田さん、今回の事故原因まだわかりませんけれども、可能性としてはどんなことをお考えですか?

織田

その前に行方不明の細見さん、一刻も早く見つかってもらいたいと思います。事故原因についてはいろんな可能性が考えられますが、断定的に述べるのは問題がある。ただ言えるのは、脱出してないというのは、脱出する暇がなかったということが考えられますね。先ほど言ったように「ノック・イット・オフ」がどういうシチュエーションでかかったかということ。それは、(訓練参加者が)あと3人いますからこれは分かると思うんですが、エンジンの故障とか、低高度であればバーティゴ、いわゆる空間識失調も、ベテランでもかかりますから、そういった可能性もあります。いろんな可能性を一つ一つつぶしていくことが必要だと思います。

山口

このバーティゴ、空間識失調、こういうことがあるんですか?

織田

これは誰でもかかります。私もベテランになってスクランブル、夜中に上がった時にぞっとした経験があるんですけど。夜中の2時ごろ、ソ連機に対して上がっていって、すごい天気がよかった。チラっと上を見たわけです。そしたら満点の星空です。そのまま下を見たらぞっとした。つまり日本海のイカ釣り船の漁火がまったく星と同じように見えるんです。その瞬間、自分の姿勢がわからない。パイロットは常に水平線を仮想して飛んでいるんです。でも、それはバーティゴだから。ベテランの人はバーティゴから抜ける術を持っている。初心者と違うところはそれですから。自分の感覚が間違っているんだと自分に言い聞かせて計器を信じて飛ぶのが正解なんですね。

山口

黒井さんは事故原因の可能性をどう考えていますか?

黒井

2つですよね。先ほど織田さんもおっしゃいましたけども、いわゆるパイロットの体調の問題。もう一つは機体の方ですね。これはまだ見つかってないからわからないんですよ。フライトデータレコーダーが水中に沈んでいますのでそれを回収して解析しないと今の段階でこれだとは言えない。

■異例 捜索に米軍参加の意味

山口

改めて確認しますけど、この消息を絶った場所、青森の東の海上135キロという場所ですね。ここの海がどういう海域になるのか確認しておきます。水深が1500mもあるということで、結構深いんですね。海底の地形が入り組んでいる、凹凸が激しいということです。もしこういうところに機体があるとすれば、引き上げられるのかどうか。岩屋防衛大臣はこう話しています。「過去の実績から引き上げは可能」であると話しています。過去の事故はこういうことがありました。2017年、青森沖で起きた海上自衛隊のヘリコプター墜落事故。その際海底2600m、今回よりも深いわけです。海底2600メートルから引き揚げた事例があったんです。そしてこんな動きがあります、大木さんお願いします。

大木

那覇軍港にこのような船が到着したと報じられています。深海捜索船「ファン・ゴッホ」です。最先端の深海潜水作業のサポート船で、船体の中央には開放部があり、そこから潜水艇などが出入りできる。また水深3000mまで対応可能な沖合クレーンを備えているそうです。織田さん、現在捜索中ですが、見つかれば引き上げることは可能ということですか?

織田

そうですね、どのような速度で海面に衝突したか、によると思う。ただ言えるのは、エンジンは普通、残っているんです。エンジンは海底に絶対あると思います。2600メートルから引き揚げた例があります。日本のサルベージ技術はかなり高いと思います。ですから見つかり次第、引き上げることは可能だと思います。

山口

どういう状態になっていると思いますか?

織田

そこはちょっとわからないですね。機体自体はバラバラになっている可能性が大きいですけど、エンジンは損傷はあっても、エンジンとして残っているはずです。そうすると(墜落の原因が)エンジンの故障かどうかは分かると思います。

山口

今回の機体の捜索には注目すべき点があります。異例の捜索チームが組まれています。参加した国のポイントがこちらです。「アメリカ軍」が今回派遣されている。空と海の精鋭が終結しています。アメリカ軍のイージス駆逐艦「ステザム」。それから高高度偵察空機「U2」。戦略爆撃機「B52」。そして海上哨戒機「P8」など、空と海のこうした捜索チームが派遣されたと。黒井さん、自衛隊の墜落事故の捜索に米軍がここまで大きな組織で加わってきた。これはどういう意味があるのでしょうか?

黒井

今までに無いことですよね。ですから、それだけ米軍としても新型機ですから。やっぱりどうしても見つけたいという気持ちが強いんでしょうね。

山口

特に、この中でB52戦略爆撃機が来ているというのは非常に気になるのですが、川村さん、このあたりの動きどんな風にご覧になりますか?

川村

それは他の周辺諸国もさまざまな形で捜索をしている可能性もありますから、そういうことに対する警戒を含めて、言わば他の戦闘機についての護衛も含めて行っている可能性もありますけど。今どこまで捜索の手がかりがつかめているかというのは分かってこないですよね。

山口

非常に他国の動きが気になるところです。織田さんに伺ったんですが、実はF35Aは「中国やロシアにとってF35の機体はのどから手が出るほど欲しい」ということなんです。つまりF35は世界中の軍関係者が欲しがる最先端の技術が詰まっていて、万が一でも墜落した機体が他国に渡ると非常に危険だということなんです。実は、軍の世界では「墜落」によって技術が流出することは珍しくないんだそうです。織田さんによると、過去の墜落事故ではこんな事があったそうです。フランスの関係国で行われた航空ショーでロシアの最新鋭戦闘機が墜落。ところが、この事故を境にその後、フランス空軍の赤外線センサーの技術が飛躍的に向上したそうなんです。つまり、フランス空軍は墜落したロシアの戦闘機の部品から情報を得た可能性があるということなんです。
織田さん解説して頂けますか。

織田

1989年と1999年。パリ・エアショーが2年に1回あるんですね。89年にはミグ29という第4世代の戦闘機がデモフライト中に堕ちた。その10年後にはスホイ27が落ちた。ロシアというのは赤外線の探知能力が非常に高い訳。それを西側は喉から手が出るほど欲しいんですね。エアショーで落ちますと、管轄はフランスですからと残骸を全部とって分析する。それはインヴェスティゲーションチームと言っているんですが、我々はハイエナチームと言っているんですけど。私も2005年だったかな、パリ・エアショー行きましたよ。インヴェスティゲーションチームがもうしっかりと。最新鋭の飛行機がフライトしますので落ちたりしたらすごいチャンスなんです。

山口

いやーそれは墜落するのを待っているっていうことですよね。

織田

ハイエナチームと呼ばれるがゆえにね。

■“機密の塊”と言われる理由

山口

中国やロシアなど他国が情報を欲しがっているとあれるF35、その機体の何が欲しいのかを見ていこうと思います。そこにはF35Aの3つの技術があるということです。順番に見ていきましょう。まず欲しがる技術一つ目です。ステルス性ということで、つまり相手のレーダーなどから探知されない。探知されづらくなる技術だということになるわけで、具体的なものとしては形状や塗料などの素材だということです。つまりF35Aにはレーダーを吸収する特殊な塗料などが使われているわけですね。これが回収されると大変危険なわけです。つまり破片が仮に一つでも、この塗料の成分などが渡ると、その技術が流出する恐れがあるということになりますね。では欲しがる技術二つ目に移ります。ポイントは情報収集、そして処理技術だということです。具体的なものとしてはこうです。レーダーや赤外線センサー、そしてコンピューターシステムなど、つまりF35には最先端の情報技術が満載されています。ですから、これが回収されますと、それによって技術が流出する恐れが高いということです。F35の情報に関します技術の高さを象徴しているものがあるんです、それを確認しておきます。ヘルメットですね。パイロットが装着するものですが、これが驚きますよ。価格がなんと4400万円もするヘルメット。なかなか聞いたことがないんですが、大変な高性能なんです。この映像を見てください。

山口

パイロットがつけるヘルメットの前面にある透明な部分、実はディスプレイされるようになっているんです。ここには計器類、敵機の情報、それから見えるはずもない方向も可視化されて映されます。機体の後ろ、下も情報処理されます。バーチャルで見えるようになっているんですね。それから夜でも映像処理をして、あたかも昼見ているようにあらゆる情報がパイロットに掲示されるんです。なんとこのヘルメットを織田さんは装着したことがあると。

織田

2回装着させてもらいました。2006年に現役だった頃、ワシントンに行きまして、これを見させてもらって、シミュレーターにも乗りました。リタイアした後は、米空軍年次総会が年に1回ありまして、その時にエキシビションでみんな見られるんですけど、それで見させてもらいました。ちょうど10年後ですから、だいぶ進化しているなという感じがしました。

山口

かなり当時でもすごかったですか?

織田

写真:航空自衛隊

元々どういうものかと言うと、第5世代戦闘機ということになるんですが、レーザー情報、あるいは赤外線、光学センサーそういったセンサー全てを取り込んで、コンピューターで融合処理して、パイロットに提供する。ヘルメットに提供するんですね。ですから、どこを見ていてもその情報が分かる。しかも、赤外線情報、コンピューター処理しますので、360度見えるわけですよ。ただ、自分の床下が見えるというのはゾッとしますけども。それだけ情報をパイロットに提供すると、それが第5世代の戦闘機ですね。

大木

やはり、このF35Aの凄い所というのは欲しがる技術の2つ目、情報収集処理技術、ここでしょうか?

黒井

そうですね。自機のセンサーで捉える情報だけではなくて、F35Aの一番の売り、優れているところは、それ以外にネットワーク対応オペレーションって言うんですが、他の戦闘機のセンサーだったり、艦艇だったり、衛星であったりと、いろんな情報をいっぺんにリアルタイムで処理できるんですね。そうすると、自分の所だけじゃなくて、色んな所に目があるのと一緒ですから非常に有利になる。ヘルメットだけがすごいのではなくて、なんでこういう風にできるかって言うと、機体の6箇所に赤外線カメラを積んでいて360度死角が無いんです。カメラの情報を融合して見られる仕組みですよね。ですから、ここに映し出すのがすごいのではなくて、そういうその情報を可視化して、しかも360度死角がない。戦闘するときは非常に有利ですよね。もちろん武器のシステムにも組み込まれていますので、今までの戦闘機とちょっとレベルの違う戦闘機と言ってもいいと思います。

大木

それを伺うと、どの部分を他国にとられてしまっても何かしらの情報が取られちゃうのかなっていう印象があるんですけど。

黒井

いわゆるそのソフトウェアとかですね、そういった一番の頭脳的な部分が抜けちゃうと非常に危険なんですけれども、ただ、今回は海なので、壊れた時点で、電気の供給が止まれば、中のソフトウェアが消却されるんですね。だから、ある程度大きな塊で見つからないと、頭脳的な部分までは多分大丈夫だと思うんですけども、それ以外の部分ですよね。

山口

なるほど。織田さん、あのステルス性能については、やっぱりすごいんですか?

織田

F22がありますよね。F22よりF35は10年新しいんですね。そうしますと、ステルスのいわゆる塗料の素材だけじゃなくて、機体にアンテナとかセンサーを一体化して組み込んで複合材が覆うわけですが、複合材の中にステルスの素材を入れる。だから、塗っているだけじゃないわけです。だから、そこはかなり進歩していると。そういう所を取られますと塗る塗料はほとんどわかっているんですね、どこの国も。しかしながら、それに加えて複合材の中にステルスの素材を入れるといった所がちょっと違うんですね。

■空中戦を一変させる最新鋭機F35

山口

このF35によりまして戦闘機の戦い方にも変化が現れるということを確認していこうと思います。まず、これまでの戦闘機の戦いを見ていきましょう。太平洋戦争の頃からそうですけれども、従来の空中戦というのは、いわゆるこのドッグファイトと言われるもので、例えば、敵の機関銃とかミサイルをかいくぐって、例えば、相手の後ろに機体をつけて、前にいる敵を撃ち落とすという一対一の勝負が主なポイントになると思うんです。これがF35が導入されますと全く違う戦いだということです。いわゆる情報戦になってくるわけです。F35Aは例えばレーダーやセンサーで、敵の飛行機の数、位置、兵器の能力などを丸裸にして、自分はこのステルス性能があるから敵からは把握されないということになるわけです。そして、相手の武器の射程距離などを把握して、相手が届かない、射程に入らない場所から、敵を攻撃して殲滅するということで、非常に強いということも言えますし、敵と相対しても絶対に負けないということなんですが、織田さん、こういうことでよろしいでしょうか。

織田

まず戦い自体がドッグファイトじゃなくて情報戦なんですね。戦闘機がいる戦域の情報を全部掴んで、相手に対してはほとんど(自分の情報を)やらない、あるいは一部しかやらないとなると、もう百戦危うからず、そういう状況を作るわけですよ。先ほど言いましたように、レーダー、センサー、あるいは赤外線センサー、光学センサー、そして黒井先生が言ったように、他機が持っている情報までリンクして、戦域の情報を全部握ってしまうわけですよ。それで、こちらの情報を相手に渡さない。相手に渡さないための一つのツールがステルスです。ステルス=第5世代じゃないんですよ。情報戦の戦いで相手にその情報やらないということですから、そうすると有利なんです。それで見て、コンピューター処理してパイロットに情報を与えますと、これは不利だと思ったら戦わなきゃいいんですから。

山口

戦う前にも全部わかってしまうということですか?

織田

まさに百戦危うからずの状況を作ると。だから情報戦なんです。いかに相手の情報をとって、自分の情報を与えないかということ。この格好を見たらF22みたいな格闘戦をやったりするような飛行機ではないと、分かると思うんですけど。

山口

黒井さんどうですか?そのぐらい凄い戦闘機、格が違うんですか?

黒井

スマホのバージョンアップとかに例えてくれればいいなと思うんですけど、やっぱり新しい。前のとは一回り二回り違ってくる。ガラケーとスマホぐらい違う。

川村

これだけの性能を持っているとなると、例えば北朝鮮だって、こういう情報があるって事は、自分たちで手に入れたら様々なルートを使って、それを解明したいと思うでしょうし、ロシアにしても中国にしても、自分たちより性能が優れているという解明に少しでも役に立てるということですから。これはもう機密情報の塊みたいなものですよ。

山口

今、お話がありましたように、世界はやはりこのF35を目標にするわけです。各国がこの第5世代を実は開発中なんですね。中国は、殱20という戦闘機、ステルス戦闘機を開発しました。そしてロシアもSU57、こちらもステルス機があるわけですけれども、このF35の機体が回収されると技術が漏れて、こうした国々の飛行機、戦闘機を技術的に躍進させてしまうのではないかということが言えると思うんですが、黒井さん、この中国・ロシアのステルス機、F35と比べてどうでしょうか?

黒井

やっぱり一つ遅れているとは思いますね。殱20の方はもうすでに実戦配備されているんですけれども、形状を見てもステルス性能、おそらくそんなにすごくない。SU57の方は戦闘能力が非常に高いですけど、やっぱりステルスの部分、ソフトウェアの部分ははっきりわからないんですが、第5世代なんですけれども、そこまでF35クラスまでは、おそらく行っていないという風に思います。

織田

まずはステルスだけを追求して、いわゆるシチュエーションアウェアネスという、SAっていうんですけど、空域の情報を掴むまでは行ってない。ステルスも、J20を見ても洗練されてないですよね。カナードが付いているんですから。カナードというのは、前に小さな翼がコックピットの下の所に線が見えるでしょ?カナードという機動性をよくするためのものです。カナードを付けるというのはレーダー反射の面積が増えるわけですから。形状あるいは表面を見ても、まだまだ洗練されてないなという感じですね。

■“秘密を持って飛ぶ”パイロットたち

山口

中国やロシアなど他国が欲しがっている、墜落したF35Aの機体に残された機密。織田さんが指摘する3つ目とは「自衛隊の機密情報」。具体的な中身は「パイロットが装備していたのではないかというタブレット」。どういう事かと言いますと、こちらの写真を見てください。2008年当時ですが、パイロットの左の足の太もものあたり、これ拡大すると、実は情報が書かれている書類が貼り付けてあるんです。10年以上前の写真ですけれども、今は紙からタブレットになっているのではないかということなんです。これが回収されると危険だと。つまり、タブレットの中のデータが破損していなければ暗号などの機密情報が流出する恐れがあるという事です。非常に意外だったのですが、織田さん、パイロットというのは当時は紙で、今はタブレットを装着しているんですか?

織田

今回、タブレットを持って飛んだかはどうかはわかりません。ただ、私が飛んでいた時には、膝のボードにいっぱい紙の資料を持っていたんです。秘密の資料も入っていますので、それはハードコピーで見ながら参考にしながら飛ぶわけですが、アメリカではもうタブレット端末化しているわけです。iPadみたいなものです。今回はどうかは私は知りません。ただタブレットにしろ、紙にしろ、その中には秘密が入っています。第二次大戦の時も、兵士の日記それを解読して、日本軍の作戦までわかったという事なんですね。だから所持品というのは、本当に気をつけなければいけない。タブレットだったとしたら、その衝突の衝撃で壊れている可能性があると思いますから、それは分かりませんね。いずれにしても秘密を持って飛んでいることは確かです。

山口

川村さん、どうでしょうか。F35Aだけではなくて自衛隊の機密も漏れてしまう、そういう世界だということですよね。

川村

それだけに喉から手が出るほど欲しいわけですよね。そういう意味では今、どれぐらい海流が流れていて、どの辺にそういうものが流れているかという事の予測が逆の意味ではつかないのかなという感じがします。これだけの最新鋭のものが、あらゆる危険性があるわけですから、その時にどういう風な対応するのかということがアメリカの中でどこまでそれが機密として行われているのかどうか、というのも他の国には分からない訳ですからね。

山口

こうした中で非常に気になる情報が入ってきました。大木さんお願いします。

大木

アメリカ国務省のサマーズ報道官代行は現地時間の18日、F35A墜落事故について、アメリカ軍による捜索活動は終了させたと発表しました。今後は後方から日本側の捜索活動を支援していくという事です。

山口

黒井さん、確認ですけど、今回この墜落した場所がちょうどこのあたりということですが、日本の領海がこの黄色い部分。接続水域があって、その外の排他的経済水域に当たる訳です。という事は中国やロシアの船が航行することは当然自由ということになってくる訳ですから。そのことを考えますと、今の段階でアメリカ軍が捜索から手を引いてしまうとは大丈夫なのかという疑問もあるんですが、いかがでしょうか。

黒井

日本の目の前ですからね。特に中国、ロシアの動きがなかった。今のところは無いだろうと思うんですね。今、2つ可能性があって、この話は、かなり難しいだろうと見て、長期戦なのでということで手を引いた可能性もありますし。ある程度、もし情報が入っていれば、軍の動きがなくなりましたけど、先ほどファン・ゴッホという探査船。パナマ船籍の民間船なんですけど、米軍がチャーターしたらしいです。そういった物を回してきて、メインで捜索しているのは日本ですから、それを後ろの方で協力するという形に引いたという可能性もある。ただ現時点では分からないです。

山口

こういう船を持ってくるという事はより具体的な捜索に入っている可能性がありますよね、手順として。織田さん、どうでしょうか、捜索をいつまで続けるのか。尾翼の一部しか見つかっていないという情報ですよね。バラバラになっているとすると、どこまで回収するのか?いかがですか。

織田

間違いなく言えるのは、エンジンは残っていると思う。エンジンを特定して、エンジンをサルベージで引き上げるというところまではやらなきゃいけない。あとは、分散しているのは海域の状況とか海流の状況は分かっているはずですから、引き続き捜索していくという事だと思います。

(岩屋毅防衛大臣は5月7日、海上自衛隊が現場付近の海域で現場付近の海底でフライトレコーダーの一部などを発見し、引き揚げたと発表しました。海洋研究開発機構の海底広域研究船「かいめい」が機体の一部が沈んでいる場所を特定、米軍がチャーターした深海活動支援船「ファン・ゴッホ」が引き揚げたということです。ただ、飛行記録を保存するメモリー部分は含まれておらず、その語も捜索を続けましたが、6月3日、機体の捜索活動を縮小。そして、6月7日、岩屋大臣が操縦士の細見3等空佐の死亡を認定したと発表しました。周辺海域で遺体の一部が見つかったということです。岩屋大臣は「まことに残念で痛恨の極みだ。ご冥福を心よりお祈りする」と述べました)

■次期主力戦闘機の墜落 日本の防衛に影響は!?

山口

写真:航空自衛隊

今回の墜落が日本の安全保障にどんな影響を与えるのかを考えていきます。日本へのF35の配備状況を確認しておきます。自衛隊はF35Aを13機持っていまして青森の三沢基地に全て配備しています。在日アメリカ軍はF35Bです。F35Bを16機、山口の岩国基地に配備しています。つまり、今、日本には合わせて29機のF35が配備されています。さらに日本の自衛隊の導入予定ですね。合計147機を配備する方針で、F35Aが105機、F35Bが42機だということです。現在の配備状況を見ていきますと、今はF4、F2、F15合わせて260機あるんですが、これを今後第5世代つまりF35に切り替えていくという流れがある訳です。織田さんに伺いたいんですが、配備計画がある中で今回F35への墜落事故があった。これは配備計画に、例えばスケジュール感とか、影響を与えることは考えられますか。

織田

これはF4の後継機なんですね、今入れているF35A。将来的には、F15には2種類あります。前期型、後期型。前期型については第4.5世代への改修はできないという事なので、それをF35で代替えしようという話ですね。F4については先ほど言いましたように、耐用年数に達しつつありますから、それに応じてF35をどんどん導入していかなきゃいけない。今どういう事やっているかと言いますと、データ集めをやっているんですね。運用試験と技術的追認です。つまり、所望の性能が発揮できるのかどうなのか。運用試験でどのような戦技戦術を確立したらいいのか。そして要員養成はどうするのか。パイロット養成、整備員養成といった訓練体制などを確立するために、データ取得を今、やっている。これが遅れると実戦配備が遅れる。飛行機はどんどん入ってきても、なかなかパイロットを養成できない。一方、F4は計画通り耐用年数に達していく。そうなると防空に穴が空く可能性があるんですね。F4が無くなった分、早く戦力化しなきゃいけない。そういう危惧があると思いますね。

山口

黒井さんにも伺いたいんですけど、F35の墜落というのは、例えばF35じゃなくて他の戦闘機を導入しようとか、そういう可能性は考えられるんですか。

黒井

F4を何に変えるかという話で検討した時に、最初はF22という、さらに高性能のラプターという飛行機を自衛隊としては欲しいと思うんですけど、アメリカは生産をやめたので、候補に上がったのがF35。それからスーパーホーネットというアメリカ製。それからタイフーンというヨーロッパ主要国が共同で開発したもの。その辺りから見て自衛隊は、米軍と一緒に共同でやっていますから、やはり米軍と一緒のものが良いだろうと。ただホーネットもタイフーンもいわゆる4.5世代で、いずれ変えていかなければいけないのに、新型があるのに、少し古いのを買っても将来的には予算もそれだけ掛かることになりますから。F35しか今のところ無いんだろうと思うんです。

山口

F35に関してはトラブルも指摘されているんです。日本で墜落したF35Aですが、機体は2017年、18年2度不具合で緊急着陸をしたという過去がありました。2018年9月アメリカでF35Bが墜落したという事故もあった。アメリカではこの事故を受け、全ての運用が一時中止されたこともありました。アメリカの調査で2018年アメリカ政府監査委員は報告書で966件の欠陥を指摘している。こう見ると、F35にも結構トラブルあるのかなと見えてくるんですが、織田さんはF35のこれまでのトラブルどう見ますか?

織田

F35だけを単体で見ても、評価できないと思うんですね。大体、飛行機は開発に伴うトラブルは当然あるわけです。我々、バスタブ曲線と言っているんですけどね。バスタブのように最初はトラブル多いんですけど、それが段々少なくなっていって、安定期になって終末期になりますとまた増えていく。バスタブのような恰好なのでバスタブ曲線というのです。例えばF15を空自が導入した時には、F15は既に安定期だったのでトラブルが少ないように見えていますが、実はF15も初期にはトラブルは多かったのです。F22の場合も、量産の初号機は確か2005年か2006年なんですけど、その2年後に飛行機2機が墜落し、パイロットも亡くなっています。開発に伴う宿命みたいなものがあるんですね。明らかになったトラブルは一つ一つ潰していっているし、これからもやっていかなきゃいけない。この時期に空自が次期戦闘機としてF35を入れなきゃいけないのはしょうがない、宿命だと私は思いますが。決してF35だけトラブル多い話ではない。

山口

一刻も早く機体そして、パイロットの方が見つかることを祈りたいと思います。ここまで織田さん黒井さんどうもありがとうございました。

(2019年4月17日放送)