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#84

特集!!中国人民解放軍 弾道ミサイル配備の現実

香港の大規模デモでクローズアップされた「逃亡犯引き渡し条例」。読み解くカギは、中国政府が目指す「台湾統一」にあり、日本をも射程とする弾道ミサイルの配備にも密接に関係してくると専門家は指摘します。2019年6月16日のBS朝日は、謎に包まれる、中国の人民解放軍を特集しました。

■香港で200万人デモ 集結する市民たち

山口

今日は謎に包まれた中国の安全保障の実情、中国人民解放軍の軍事力をひも解いていこうと思います。ゲストの方々をご紹介いたします。

元陸上自衛隊東部方面総監、退官後ハーバード大学アジアセンターシニアフェローを務められました、日本戦略研究フォーラム、渡部悦和さんです。よろしくお願いします。渡部さんは本を出されています。「中国人民解放軍の全貌」という本です。中国の人民解放軍についてアメリカ国防総省の分析を精緻に研究されています。きょうは、そうした目線からの解説をお願いします。

そして、お隣は、朝日新聞国際報道部記者でワシントンと北京で合わせて9年特派員を務められました、峯村健司さんです。よろしくお願いします。峯村さんも本を出されています。「宿命 習近平闘争秘史」という本です。ワシントン、北京と米中の首都で英語と中国語を操り取材を続けていて、さらに、ハーバード大学フェアバンクセンター中国研究所で客員研究員も務めました。きょうは米中の現場で得た生の情報を元にお話し頂きます。宜しくお願い致します。

まずは1週間、世界中が注目したのが、香港でのこの動きでした。香港で6月9日、行われたデモ。参加者が主催者発表で100万人とも言われました。12日にはデモ隊と警官隊が衝突して70人以上のケガ人が出ています。そして、きょう(6月16日)も新たに動きがありました。きょう午後2時過ぎ、ものすごい人です。きょうもご覧のようにデモが行われました。現地からの報道によりますと、前回の103万人を上回る規模ではないかということです。結局、香港行政府が逃亡犯引き渡し条例の改正延期を決めましたが、今回は撤回を求めるとして今日もデモの動きが止まらない現状が続いている訳です。動きがありましたらすぐにお伝えします。

(この日、6月16日のデモには香港史上最多の200万人が参加したとされています)

山口

改めまして香港のデモです。中国政府は頭を痛めているものと思われます。今、お伝えしましたように、昨日、林鄭月娥・香港特別区行政長官は逃亡犯引き渡し条例について延期を決定しました。あくまでも延期ですから、撤回ではないということになるわけです。撤回ではないということについて、きょう、大きなデモにつながっているわけですけれども、渡部さんどうでしょうか。今回、延期を決定せざるを得なかった、大規模なデモを受けて、大きなうねりになってきている、それを無視できなくなったということになるのでしょうか?

渡部

そう思います。これ以上ゴリ押ししてやると、現在、米中は貿易戦争をやっています。トランプ政権に、さらなる中国批判の材料を与えてしまう。もう一つがG20だと思います。G20に向けてこれ以上のことをゴリ押しすると、中国が孤立化してしまう。それを避けたいという思いが大きかったと思っております。

山口

世界の目を意識しているということですよね。峯村さんに伺いたいんですが、香港政府の延期の判断というのを中国政府は支持を表明していますよね。つまり、延期の判断には中国政府が関わっていると見ていいのでしょうか。

峯村

その通りですね。中国政府が最終的な判断を下しているというふうに理解していいと思います。きょうのデモと先週のデモの画面を見ていただいて一つ違いが分かると思います。きょうのデモに関しては、皆さんが黒い服を着ています。先ほどデモの参加者に何人か電話をしたんですけれども、この黒い服の意味というのは、先週、デモの参加者にけが人が出たことに対する抗議の意味だそうです。参加者には、先週のデモで顔に怪我をされ流血された方の写真が配られました。このことを忘れるなと、我々は暴動ではないのだという意思表示をしたそうです。昨日の長官の会見で、あくまで暴動だと言っていることに対し、先週よりも怒りが爆発しているというのがきょうのデモの特徴だと思います。

大木

川村さん、今回の延期決定ですが、やはり中国としてはG20の前にまず一旦、沈静化という狙いがあるのでしょうか。

川村

今も話が出ていたように、基本的には、中国のチャイナセブンの中の7番目と言われている、香港担当の、ある種、監視している人が行政長官と協議をした上で、事実上の棚上げをしたということですから。今後、これ撤回ではありませんから、いつかまたタイミングを計って同じような条例が審議に入るかもしれないということで、こういう大きなデモになっているのだろうと思いますね。G20の時に、アメリカが中国の人権問題というカードで、他の首脳の間で持ち出すと、やはり習近平主席の立場が苦しい立場に追い込まれることは明らかですからね。

■「一国二制度」想定したのは「台湾統一」

山口

香港でデモが続いているわけですが、背景につきまして、峯村さんはこのように見ているんですね。香港だけではなく台湾統一のショーウィンドウであると分析しているんです。どういうことかと言いますと、香港の特徴として一国二制度が挙げられますよね。一国二制度は、そもそも台湾統一のため考案されたものだったということなんです。元は台湾を想定していたということなんです。では、そこを振り返っていきましょう。歴代トップが一国二制度による台湾統一の姿勢をずっと見せていました。まずは鄧小平氏ですが、1984年6月、一国二制度による台湾統一を表明しました。さらに、1993年に国家主席になりました江沢民氏も、鄧小平氏が打ち出した一国二制度による台湾統一を継続すると明言したのです。さらには、2002年国家主席に就きました胡錦涛氏も、一国二制度による台湾統一の方針の継続を打ち出しているわけです。つまり、35年にも渡って中国の歴代トップが受け継いできたということになるわけです。こうした中で、香港はまさに一国二制度の実験場であるとも言われてきたということですね。そして、習近平国家主席が掲げている「一つの中国」ですけれども、そこで目指しているものが任期中の台湾統一ということなんですね。まず2014年9月「平和統一・一国二制度」が、台湾問題解決のための基本方針であると明言しました。さらに、2017年10月、「平和的統一、一国二制度」という方針を引き続き堅持して、祖国の平和的統一のプロセスを進めていかなければならない。さらには、2019年1月、「一国二制度」を打ち出したのは台湾の現実的状況に配慮し、台湾同胞の利益と幸福を守るためだとも話しているわけです。いかに習近平氏が「一国二制度」による台湾統一に力を入れているかということなんですが、こんな分析もあります。大木さんお願いします。

大木

東京外国語大学大学院・小笠原欣幸准教授が中国歴代のトップと台湾向け重要講話でのキーワードの登場回数というのを比較しているんです。すると、「統一」という言葉は江沢民氏が33回、胡錦涛氏が27回に対して、習近平氏は46回なんです。さらに、「一国二制度」という言葉は、江沢民氏、胡錦濤氏が3回なのに対し習近平氏は7回と数が多いのがわかります。

山口

習近平氏が非常に強い熱意を台湾統一に出しているということが見えてくるわけですが、峯村さんにまず伺いたいのですけれども、そもそも台湾統一と言いますけど、今の時代で、これだけ世界中の目があるわけです。本当に中国がどれぐらい、それを現実的に考えているのか、いかがでしょうか。

峯村

かなり現実的に考えていると言うのは色々な中国の当局者、軍の関係者に取材すると見えてきます。特に、習近平国家主席がキーパーソンだと思います。最初に習近平氏の名前が出た時に、どんな方なんですかと中国共産党の幹部の方に聞いたら、台湾問題に最も詳しい中国共産党の幹部である、と。その背景として、17年間、福建省という台湾のちょうど対岸なんですけれども、地方の幹部を含めて勤務してきたと。そこで色んな台湾の企業の方、政府の方と交流をしてきて、台湾問題をどのように解決していくかということをずっと17年間やってきたと。そういう意味では、最も台湾問題に詳しい習近平氏が台湾の問題を解決しようと積極的に動くというのは、十分に私は有り得るというふうに見ています。

山口

これは時間軸では、どのくらいの時間で、それを成し遂げようとしているのがいかがですか?

峯村

彼の在任中というのは、皆さん、最近よく言うようになっています。習近平国家主席は昨年の全人代という会議で憲法改正して、今まで2期10年だった国家主席の任期を撤廃したんですね。これで、ひょっとしたら3期やるかもしれない、もしかしたら4期やるかもしれないという中で、かなり、台湾問題にこだわりを見せて任期を延長したという可能性も指摘できるのではないか、というふうに考えています。

山口

比較的、近い将来にはやるぞと。

峯村

そうですね。そんなに何十年も先という話では私はないと見ています。

山口

渡部さんにも是非、伺いたいんですけれども、今回の香港のデモ。これについても、結局、台湾統一のショーウィンドウだと考えると、台湾の人たちは、すごく意識して見ているわけですよね。逆に考えると、中国からは台湾の目も考えて、このデモへの対応を考えているということも言えますか?

渡部

その通りだと思います。私は、台湾の人と付き合って、つくづく思うのは「明日は我が身」という観点だというふうに思うんですね。このような状況になって、香港の自由と民主主義は犯されそうになっている状況。それは「一国二制度」と中国が言うところの台湾統一、台湾の方々にとっても自分たちの台湾の自由と民主主義が侵されてしまうのではないかということが一つ。そして、もう一つ恐れているのは、30年前に起こった天安門事件の再現というのは、例えば香港で起こったならば本当にぞっとしますよね。無慈悲に人民解放軍が学生たちを鎮圧してしまったあの状況というのは、最悪の事態だというふうに思うんですね。固唾を飲んで見ていると思います。

山口

峯村さんどうでしょうか、今回の逃亡犯条例に対する香港の行政府の動き。犯罪者を引き渡せるようにしないと、将来の台湾統一にも条件として逃亡犯条例が必要になってくるということを睨んでの動きなんでしょうか。

峯村

そういう側面はあると思います。1997年にイギリスが香港を中国に返還した時に、この問題、逃亡犯の引き渡しの問題は議論をされていた話なんですね。これは、いつか解決しなければいけないというのは、中国共産党なり、香港政府の中にはあったというふうに考えています。今は、渡部さんおっしゃったように、ただ、私が思うには今回、先週のデモで学生に向かって催涙弾やゴム弾を発砲してしまったということで、かなりフェイズが変わってしまったと思います。まさに、30年前の天安門事件の一番の反省というのは、学生の集団に向かって発砲したということで言うと、今回、中国共産党が割と早めに事態収拾したというのは、一つの教訓を生かしたんだと思います。

山口

学生に被害が出るようであると、それがより大きな動きになってきますから、それを警戒していると言うんでしょうかね?

川村

30年前に私も天安門事件を取材して、その後、アメリカやヨーロッパに亡命した学生たちがもう30年経って香港に入国しようとしても、拒否されているわけですね。そうすると、台湾もそれを見ていて、台湾の学生たちと香港の学生たちが連携をしている可能性も出てきていわけです。そこに対して、中国の、ある意味、指導部からすると、学生たち若い人たちは、30年前の天安門事件を知らないんだけれど、そういう人たちが今、非常に立ち上がってきていると。この前、日本に来た女子学生、雨傘運動をやっていた人が日本記者クラブで会見した時も、全く天安門事件は知らないんだけれども日本語はペラペラに学んできて。それで、自分たちがこれからやることを日本もきちんと支援してほしいと、人権を尊重してほしいということを訴えていましたから。世界的に、人権を含めた学生たちの行動が盛り上がってきたら、中国側にとって大変大きな人権的な問題になる。そこをうまく収めなきゃいけないということは、今、一時棚上げにしてきているということでしょうか。

■習近平国家主席「武力行使を放棄することはしない」

山口

そのあたりの駆け引きを中国側も考えている可能性があるわけですよね。続いて、台湾統一に向けての、もう一つのシナリオを見ていきます。今年の1月、習近平国家主席です。「平和統一を目指すのが基本だが、外部の干渉や台湾独立勢力に対して武力行使を放棄することはしない」と明言しました。つまり、平和統一が基本なんだけれども、武力行使も排除しないよという姿勢なわけです。さらに、魏鳳和・国防相がシンガポールで今月、「他国が台湾の分離を図るのであれば、すべての犠牲を支払って戦うという選択肢しかない」と発言しました。さらに先月、朝日新聞に掲載されました劉明福・国防大学教授の記事、インタビューが非常に興味深いです。読んだ方結構いらっしゃったのではないでしょうか?この「米国超え 中国の夢」という記事で、この劉明福さんに、まさに峯村さんがインタビューしているんですよね。中身が非常に興味深くて、どういうことが書かれているのか。劉明福さんですが「まずは平和的統一を試しつつ軍事行動の準備も辞さないでしょう」と語っているわけです。峯村さん、実際にインタビューして、どうでしたか?

峯村

劉教授とは、私が北京の特派員でいた時から付き合いがありまして、8年以上、付き合いがあって、ずっとインタビューを申し込んでいたんですが、今回、ようやく、それが実現して、8時間ちょっと、インタビューをさせていただくことができました。その中で、全体的な中国の戦略構想というのを色々聞いた中で、やはり、この台湾の発言というのは、思わずもう一度聞き直してしまうぐらい驚きの発言でありました。劉教授は1人の軍人、上級大佐ではなくて、実は、習近平指導部の発足した時に、「中国の夢」という政治スローガンを出した人物です。その元になる本を彼は2010年に書いているという意味では、普通の軍人ではなくて、習近平政権のブレーンの一人というふうにも言える重要な人物。

山口

習近平さんの思想にも影響を与えているということですか?

峯村

与えているというふうに考えても合理的だと思います。ですので、彼が言っている発言というのは、非常に私は重みがあるのではないかというふうに見ております。

山口

平和的統一が大前提だが、やっぱり軍事行動の準備もしているというあたりですよね?

峯村

2段階に構えて、最初は外交的なアプローチをしつつも、軍事の準備も同時に進めていくというやり方です。

大木

さらに、劉氏はインタビューの中でこのようにも話しています。「米国による軍事介入を恐れ、中国が国家統一を諦めることはありえません。米国にとって、台湾は中国を封じ込めるための一枚のカードに過ぎず、中国との全面戦争につながる軍事介入をする可能性は低いでしょう。しかも、中国が武力統一に踏み切る時には、米国による軍事介入を打ち負かす能力を備えています」。峯村さん、アメリカによる軍事介入は恐れないと言って、さらに、中国が武力統一に踏み切る時にはアメリカによる軍事介入は打ち負かす能力がある。この部分、非常に驚く発言なんですが、やはり、これは中国の軍関係者の中では主流の考えと捉えた方がいいのでしょうか?

峯村

そうですね、主流だというふうに考えて頂いていいと思いますね。私、記事にはタカ派というふうに書いたんですけれど、彼はタカ派の中でも、割と理性的な戦略的なタカ派なんですが、もっと強硬論の超タカ派が私が付き合った中にはおりまして、そういう中では、彼はまだ論理的に戦略的に話しているという人ですら、このぐらいのことを言っているというのが一つの驚きだと思います。

山口

峯村さん、結局、中国側は台湾武力統一しても、アメリカがもし介入するとなれば、全面戦争になる可能性が高いので、アメリカは軍事介入する可能性は低いと、この劉明福さんは指摘しているわけですよね。この言葉を峯村さんはアメリカ側にも当てて取材したんですよね。そこを教えて頂いていいですか?

峯村

ちょうど先月ですが、トランプ政権で安全保障の大統領補佐官をやっていたマクマスターさんにインタビューをしました。彼に、そのままこの劉教授の言葉を当てました。そうしたら青筋を立てて怒り始めまして、とにかくその軍の幹部に言ってくれと、中国は過去の歴史を忘れるなとマクマスター前補佐官は言っていました。

山口

歴史を忘れるなというのは具体的に何を?

峯村

彼が挙げた例は朝鮮戦争、1950年の朝鮮戦争を挙げています。これ、どういうことかと言うと、1950年に北朝鮮が韓国に攻めたとしてもアメリカは軍事介入してこないだろうというふうに計算をした上で、攻めてきたわけです。しかし、結果としては、アメリカが韓国の支援に回ったと。その歴史を忘れるなと。つまり、台湾も、もしそういうふうに見ていると、アメリカが軍事介入しないと思っていたら、間違いだよということを過去の例を出しながら説明をしていました。

山口

アメリカ側もやるときはやるぞと見せたわけですね。

峯村

逆に、この二人のギャップ、両軍の戦略化のギャップが非常に危ないなというのは二つのインタビューを通じて非常に強く感じました。

山口

アメリカが懸念するその武力統一について、アメリカのシンクタンクCSBAというところがこうしたことを発表しているのです。海洋プレッシャー戦略という、アメリカの戦略ですけども、どういうことかと言いますと、アメリカが恐れることというのは既成事実化であるということです。つまり、どういうことか。渡部さんに事前に伺いました、こういうことを恐れていると。ロシアによるクリミア併合が2014年にありました。これとちょっと、かぶってくるところが危険だということなんですね、渡部さん。

渡部

その通りです。2014年のクリミア併合に関しては、ロシアが正規軍を使わなくて非正規軍を使ってやった。俗にいうハイブリッド戦争というのを仕掛けたということなんです。それで、あまりにもクリミアの併合が早かったために、ウクライナの軍隊が何も対応できなかった。ロシアのクリミア併合というのは既成事実になってしまった、既成事実になったがために、どの国も世界もNATOもアメリカも何も対応することできなかったということで、台湾武力侵攻を考えてみても、アメリカが恐れているのは、やはり、この既成事実化がなされるのではないか、ということです。人民解放軍は、短期決戦を求めますから、短期決戦とはどういうことかと言いますと、米軍が来援する前に目的を達成してしまう。要するに、台湾占領を達成してしまう。それがもう既成事実になって、アメリカ側、米軍は、占領されてしまった台湾に対処することが、非常に難しくなるということです。

山口

つまり既成事実化してしまうと、もうそこから取り返しがつかなくなる恐れが高いというところですか?

渡部

その通りです。

大木

このシンクタンクというのはアメリカ内ではどういった存在なんですか?

渡部

CSBA、戦略予算評価センターと私は訳していますけれども、非常に有名なシンクタンク。一応、独立したシンクタンクと言われていますけども、国防省あるいは軍部と密接な関係があるんです。例えば、2010年に、有名なエアシーバトルと言って、中国のA2/AD、接近阻止・領域拒否の戦略に対抗する戦略、エアシーバトルという作戦構想を作ったんですね。それは、米海軍、米空軍と一緒に連携しながら作りました。それを2010年にCSBAが発表した。そして、さらにその後に第3次相殺戦略と言って、これまた難しいのですけれども、将来的にエアシーバトルを実行するためには、様々な装備品、例えば長距離のステルスの爆撃機とか必要だと。そのために、エアシーバトルを成立させるために、第3次相殺戦略を作った、非常に有名なシンクタンクで、私も数回行ってその研究者たちと会って話しました。非常に優秀な連中です。私が追いつかないぐらい沢山、研究書をあげている。

■砂漠に在日米軍基地と酷似の実験場

山口

中国人民解放軍の実態を知るために、押さえておかなければならない戦略があります。先ほど渡部さんからあったんですが、それが重要戦略です。中国人民解放軍のA2/ADという戦略で、この意味というのは、接近阻止・領域拒否というものなんです。つまり、アメリカ軍を中国の領域に近づけないぞという戦略です。実は、中国にはこの戦略に至るまでに苦い経験がありました。1996年の台湾海峡有事です。どういうことだったのか、ひも解いていきましょう。これは台湾の総統選で、李登輝氏が有利になると中国軍が軍事演習を始めた、圧力をかけるために軍事演習を行ったということで、実際に、この台湾海峡で沖合にミサイルを打ち込むなどの威嚇行為をしました。これに対して、アメリカです。クリントン政権ですね。空母・インディペンデンスやイージス艦を派遣しました。当時はアメリカの方が圧倒的に軍事力有利でしたから、中国は、このアメリカの動きを阻止することができなかったということがあったわけですね。渡部さん、やはり、中国のこのA2/AD戦略というのは、96年の台湾海峡有事が大きく影響しているんですか。

渡部

その通りです。臥薪嘗胆という言葉があります。1996年、第3次台湾海峡紛争で、中国側は人民解放軍が大恥をかいたわけですね。たった2隻の空軍に全然、敵わなかったということで、1996年を境として大軍拡を始めます。いずれ将来的に米軍に追いつき、追い越すような人民解放軍にするのだという、大きな契機になったのが、この1996年の台湾紛争危機であります。

山口

川村さんはこの時の台湾海峡危機、中国の動きどのようにご覧になっていますか。

川村

これはもう少し先の歴史で言うと、1958年にも台湾海峡危機があって、その時は、いわゆる台湾の金門島ってよく聞くでしょう、その支部隊に砲撃をかけたんです、中国が。それで、これは大変か?となったときに、それ以上は攻めなかった、収まったということがあるんですけれど、その苦い思いがありますから。中国側から例えば中距離弾道ミサイルを一斉に攻撃するというような案も色々あったようですけれど、それはできないということが当時の結果としてあるんですよ。だけど今、渡部さんがおっしゃったように、中国も空母とかそういうものをどんどん軍拡をしてきているので、その一環として今、トランプ大統領が危機を持っているのがこの海洋とそれからサイバー攻撃と宇宙。この宇宙に関しても中国の方が先を行っているという見方もありますから、そういうところがこれからの焦点になってくるのではないかと思います。

山口

そうですよね、そのあたり、ひも解いていこうと思います。まずは米軍を近づけない、その中心的な戦力となっているのが「中距離弾道ミサイル」です。代表的なものとしては、DF-26。グアムキラーと呼ばれるもので、最大射程が4000㎞。AIで頭に四つ羽がついていて方向を調整できるため、空母を攻撃できるとも言われています。そして二つ目、DF-21D。こちらは射程が1000㎞。さらにはCJ-20、こちらは射程が1500㎞ということで、これらのミサイルがどこまで射程に収めているのか地図で確認していきましょう。こうしたミサイルの射程距離を見るとこのようになっています。4000kmというのは完全にグアムが含まれます。さらに、日本列島もすっぽりとこの中に入るという事が見えてくるわけです。そして、中国の砂漠にミサイル実験場があったという朝日新聞の峯村さんが関わった記事です。これをひも解いていきます。中国ゴビ砂漠にミサイル衝撃実験場があるように捉えた衛星写真があります。船のような、岸壁のような形のものが見えます。さらに着弾した跡と見られるクレーターがあります。この形、左右が反転しているのですが、実は横須賀基地とそっくりなんです。岸壁の形、船、まさに、横須賀基地を想定しているかのように見えるミサイルの衝撃実験場が中国のゴビ砂漠にあると。さらには、もう一つ、沖縄にある嘉手納基地の構造に類似した施設もゴビ砂漠にあったということです。峯村さんはこの記事に携わられているという事ですが、解説をしていただいてもよろしいでしょうか。

峯村

はい、中国軍が嘉手納基地と横須賀基地を想定した、中距離弾道ミサイルの実験をしているということを表す証拠だと言えます。私と一緒にやっている上司に、ちょっと現場に行ってこいと言われました。さすがに、その現場は、近寄れないくらい機密性の高い方ところなので断りました。中国軍が中距離弾道ミサイルを実際の戦争でどのように使おうとしているのかがわかるある文献があります。2004年に中国軍が作った内部文書「第2砲兵戦役学」の中に、ある文言が記されています。そこには、我々が台湾に進行した場合、敵国、さすがに国名は書いていないのですが、空母艦隊、もしくは同盟国の基地を使って介入してくるだろうと。ならば、我々はそれを封じ込めるために弾道ミサイル、中距離弾道ミサイルが極めて有用だろう、というようなことが書かれていると。ここから言えることは、台湾に侵攻すると考えた時に、先制攻撃として、例えば、米軍の基地、日本にある米軍の基地とかグアムとかを攻撃する可能性というのを想定していると言えると思います。

山口

日本人からすると相当、衝撃的ですけれども、実際に、日本にある米軍基地が攻撃される可能性があるという事ですね。

峯村

想定はしていますが、先ほどの内部文書をよく見ると、色んなステップがあって、一つずつ、ステップを上がっていくんですね。最初はメディアに見せる。こんな形で衛星写真にわざと見えるよう出すと。その後、威嚇射撃をするようなことがあって、どちらかというと、心理的にプレッシャーをかけて、アメリカ軍に先ほど渡辺さんもおっしゃっていたA2/ADですね。まさに接近してくるなよということを、ミサイルを使って圧力をかけるというところが、まず一番主眼なんだと思います。

山口

最終形としてこういう形もあって、その前提で、抑止力として使っているということなんでしょうね。

峯村

そうですね。例えば、アメリカのシンクタンクの研究者と意見交換をしていると、例えば、あまり問題にならないような日本の領海に近い公海に、空のミサイルを撃つとかいう形で驚かせるというようなことを考えているのではないかと、この内部文書からは読み取れると言えます。

大木

渡部さん、実験場とはいえ、標的の形状が横須賀基地と嘉手納基地に似せていた。これは何か意味があるんでしょうか?

渡部

当然です。これを見せる、そして実際に、これは訓練をやっているんですよ。実際に、弾道ミサイルを撃ち込んで訓練をやるということは、実戦でも使う可能性があるということなんですよ。例えば、台湾紛争のシナリオを考えてみましょう。台湾を人民解放軍が奪取する作戦の中において、一番邪魔になるのが在日米軍基地ですよ。特に、嘉手納から台湾まで大体770kmあるんですね。770kmだったら、何とかF35、あるいはM15等で行けます。しかし、それは空中給油機も使ってやらなきゃいけないんですけれども、行くことができます。ところが、最も近い中国本土から嘉手納まで650kmぐらいですよ。100kmくらい近いんですよ。圧倒的に中国本土のほうが有利。さらに中国側は、優勢をさらに確実なものにするために、嘉手納を徹底的に叩くというわけですね。そして、横須賀に関しても、非常に重要な基地なんですね。これは、作戦実施する基地、そして、海軍の中心的な情報の基地。それと兵站の基地というのが重要なんですよ。艦船が故障したとき、それを整備する能力を、横須賀周辺は持っているんですよ。そして、あとは補給するとか非常に重要な基地であります。ただ、私が言いたいのは、嘉手納とか横須賀だけじゃなくて、日本にはもっと沢山の重要な在日米軍基地がある。岩国基地があるでしょう。そして、横田の基地もあるでしょう。三沢の基地もあるでしょう。これらすべてがここに書いているように射程内に入っているということです。中国が真剣に在日米軍基地を叩くということは日本の有事になるということなんです。

山口

中国軍がいかに中距離弾道ミサイルの配備に力を入れているかということを確認していこうと思います。2015年の末に、ミサイル部隊「第2砲兵」が陸海空軍と同列のロケット軍として創設され、引き上げられたという事です。習近平国家主席は、狙いについて、「ロケット軍は我が国の戦略的抑止の中核戦力であり、国家安全保障の礎だ。中長距離の精密な攻撃力を強化せよ」と発言しているんです。渡部さんに是非伺いたいんですけれども、仮に、中国の中距離弾道ミサイルが日本周辺の海域、接続水域とかEEZなどに落ちた場合、自衛隊はどういう対処をするのか、そういう事が想定されているのか、この辺りいかがでしょうか。

渡部

もの凄い、鋭い質問です、それは。例えば、在日米軍基地に弾道ミサイルが落ちてくる。これは日本の領土に対する攻撃ですから、武力攻撃事態になるんですけれども、今、ご指摘された接続水域とかEEZに関しては、実は対応決まっていないです。対応が決まってないから、今、早急に何らかの対応をしなければならないということで、研究を重ねているわけです。例えば、接続水域にいる日本の漁船にたまたま当たったら、何もしない手はないでしょう。北朝鮮が弾道ミサイルを飛ばしたときにEEZの中に落ちています。それに対して、自衛隊は対応できないんです、今のままでは。

山口

川村さん、もう一つ気になるのが、INFからの離脱を表明しているアメリカが中国からの中距離弾道ミサイルに対応するために、日本にミサイル配備を要求してくるということも考えられると思うんですが、いかがでしょうか。

川村

考えられなくはないでしょうけれど、今の状況から言うと、先日も、中国の習近平主席はロシアのプーチン大統領と会って、今、中ロで対アメリカということも具体的に話し合っているということですし、ロシアからすれば、INFの問題に関してはヨーロッパも関心を持っているわけです、ちょうど距離的にも。ヨーロッパと中国を含めた形で、INFのある種、次の段階に持って行きたいと。アメリカが勝手にINFから離脱するのであれば、自分たちは新たなINF構想というものを考え出していくぞということで、アメリカがこれに対してどういうふうな対応を取ってくるかは、今後の問題でしょうけれど、着々と中国とロシアはそれをにらんでいるということは言えるでしょう。

■「制天権」宇宙での覇権争い

山口

このまま米中が万一、仮に衝突した時に日本がどうなるのかというところを見て行こうと思います。まず、この台湾をめぐって、始まりは宇宙からなのではないのかということなんですね。宇宙からというのは「制天権」。宇宙を中国が思いのまま利用する力ということで、中国がこの「制天権」に非常に強い意欲を示しているということです。中国の軍事力に関する報告書がアメリカで出されたのですが、中国が宇宙分野で、「衛星などによる早期警戒能力の開発を行っている」という分析を国防総省が出しています。トランプ大統領も「宇宙における絶対優勢を確保しなければならない」と警戒感を示しています。実際に、中国の「制天権」に関する動きがあります。2013年5月、ロケットが発射されました。通常よりもはるかに高い軌道に達しており、アメリカは静止衛星の破壊実験と分析。さらに2か月後にも『長征4号』が打ち上げられました。このとき、3つの衛星が同時に打ち上げられたんですが、1基が一緒に打ち上げられた別の衛星に近づき2本のロボットアームを伸ばしてもう一方の衛星を捕捉したということです。アメリカ側は、他国の衛星を攻撃する攻撃衛星の実験だと分析しているんです。峯村さん、中国の「制天権」への技術、意欲も含めてどう捉えていますか。

峯村

かなり向上していると考えています。2005年にミサイルを使って自国の古くなった衛星を壊したというのが最初です。それから今、見ていただいた通り、2013年、静止衛星軌道というのは、一番重要なGPSとか、監視活動をしている衛星がいるところですが、そこも破壊できるようになっています。ロボットアームでアメリカの衛星を捕獲するというようなこともできるという意味では、今、非常にアメリカは危機感を抱いています。と言うのも、アメリカの今の作戦とか空母の運用から色々な軍事作戦が衛星によって、すべて使われているので、最初に狙われるのは衛星ではないかと、アメリカ側は警戒を強めています。

山口

つまり衛星が軍事上の目になるという事ですね。

峯村

そうですね、目になるし耳にもなるしというところはありますね。

山口

渡部さんは、この中国の「制天権」。宇宙への進出、技術力、どのように捉えていますか?

渡部

習近平主席は色んな夢を語っているんですけど、宇宙強国の夢を語っているんです。宇宙強国の夢というのは、宇宙で中国が世界一の国になるということなんですね。そして、アメリカが恐れているのは、エアシーバトルでも書いているんですけれども、もしも米中で軍事衝突があったら、その最初の戦いは宇宙空間で行われる。例えば、中国側あるいはアメリカ側の人工衛星を破壊してしまう、あるいは機能不全にしてしまう、その作戦を実施するだろう。なぜかと言うとC4ISRというのがあります。指揮、統制、通信、情報、そして監視、偵察とか、その中枢を担っているのが実は、宇宙に点在するプラットフォームなんですね。典型は人工衛星です。そこやっつけてしまえば、米軍は行動できなくなってしまうということですね。そのためにトランプ大統領も宇宙軍を作れということを言っていますけれども、本当に宇宙での戦いは非常に重要です。そして、私が強調したいのは、平時においてもやっているんではないかと。それはレーザー兵器なんですよ。地上からのレーザー兵器による攻撃なんですよ。地上からのレーザー兵器で、実は、日本の衛星も影響が起きているかもわからない。それを平素からやっている可能性があるというところを私は一番危惧します。それをアメリカも危惧します。

山口

もっと伺いたいところだったのですが、ちょうどお時間になってしまいました。また、是非次回お二人に来て頂いて続きをやりたいと思います。では渡部さん、峯村さん、きょうはどうもありがとうございました。

(2019年6月16日放送)