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#88

北朝鮮問題・イラン情勢…“自衛隊制服組トップ”河野克俊・前統合幕僚長が語る日本の防衛

朝鮮が相次いで、弾道ミサイルを含む、飛翔体を発射、また、イラン情勢では米国が日本に有志連合への参加を求めています。2019年7月28日のBS朝日『日曜スクープ』は、歴代最長4年半、自衛隊制服組のトップを務めた河野克俊・前統合幕僚長を招き、日本の防衛の今に向き合いました。

■前統合幕僚長が生出演 北“新型”ミサイルを分析

山口

北朝鮮が短距離弾道ミサイルをまた発射しました。一方、イランを巡っては日本が有志連合への参加を求められています。きょうは日本の防衛について深く考えていきたいと思っています。では、ゲストの方をご紹介いたします。歴代最長となる4年半に渡りまして自衛隊の制服組のトップでした、統合幕僚長として国防を担ってきました河野克俊さんです。どうぞ宜しくお願い致します。

河野

お願いします。

山口

そして共同通信社でテヘラン支局長、ワシントン支局長を歴任しました、特別編集委員の杉田弘樹さんです。どうぞ宜しくお願い致します。

杉田

お願い致します。

山口

6月30日の、電撃的な米朝首脳会談から1ヶ月も経たない7月25日、北朝鮮が短距離弾道ミサイルをまた発射しました。

大木

ミサイルは、25日の午前5時34分と57分、2回、北朝鮮東部の元山から日本海に向けて発射されました。ミサイルは、高度およそ50kmという低い高度で、飛行距離は2発とも600 kmだったと韓国合同参謀本部が分析しています。5月に発射した弾道ミサイルの最大射程は420 km。今回のミサイルが射程距離を延ばしているのが分かります。そして、北朝鮮の国営メディアは、米韓の合同軍事演習が8月に行われる予定であることを警戒して、ミサイル発射の翌日26日に「我々の度重なる警告にもかかわらず、南朝鮮地域に先端攻撃型兵器を搬入して軍事演習を強行しようと熱を上げている。南朝鮮軍部交戦勢力に厳重なる警告を送るための武力示威の一環だ」と韓国を非難しています。

山口

河野さんは統合幕僚長としてまさに在任中、北朝鮮の核、そして、ミサイルに対処していらっしゃいました。当時、本当に大変だったと思うんですが、それは後ほど詳しくお伺いします。まずは今回の短距離弾道ミサイル発射、これはどのように受け止めていますか?

河野

ここのところ2回実施しておりまして、トランプ大統領は問題視しないという姿勢を示しています。十分承知の上で撃っていますから、米朝協議をちゃぶ台返ししようという意図は全くない。これを見ていますと、韓国に対して相当強い態度に出ているということで、米朝協議というのは、我々は直接アメリカとやるんだと。韓国の仲介は必要ないということと、北と南とで合意した経済的な協力がなかなか進んでいないということに対する苛立ちということで、あくまでも韓国に向けられたデモンストレーションだと思いますのと、やはり、米朝協議を一歩でも進めたいという一つのシグナルを送ったんじゃないかと思います。

山口

アメリカ側にもシグナルを送っているということですね。杉田さんはどうでしょうか、弾道ミサイルということになりますと、国連の決議違反ということになりますよね。北朝鮮のこの行為、どう捉えていらっしゃいますか?

杉田

トランプさんが短距離ミサイルは問題視としないと言っているので、米国を怒らせないレッドラインの内側、レッドラインを踏み外さない範囲でミサイル能力を向上させています。北朝鮮としては早く実務者協議を北朝鮮ペースで進めたい。つまり、段階的非核化ということを前提にした話を進めたいということのメッセージだと思います。それからもう一つは、8月に予定されている米韓合同演習。今ところ予定通り行うということですけれども、これに対する不満の表明ということだと思います。

川村

6月に板門店でトランプ大統領が軍事境界線をまたいで北朝鮮側に行って、なお且つ、米朝首脳会談をやった時に、実務者協議については7月中に新しいチームで行おうと。ボルトンはその場にはいなくて、ボルトンはむしろ外した形でイラン危機にボルトン氏を専念させるという流れを作って、北朝鮮側もおそらく金英哲氏が外されて、前の元ベトナム大使が今回は出てくるという流れの中で。しかし、7月が終わろうとしているわけです。そうなると、軍事演習が8月に待ち構えていると。それを牽制する意味でも、その前にきちんと実務者協議をまずやりましょうと。それに応じてくるかどうかというメッセージが今回のミサイル、短距離で弾道ミサイルであるということは、アメリカもある程度、情報は、既に河野さんが統合幕僚長時代にアメリカと密接なやり取りをしていて言えないような情報までお持ちだと思いますけれど、そういうのは日本側も分かっているけれど、アメリカ側は、短距離はもう問題としないという、中距離及びICBM、そして、核実験をやらないということであれば、アメリカは事実上、そういうものに対しては強硬に安保理にかけるとか、そういうことを今はしない状況になっていることを見据えた上で、北朝鮮側の今回の強硬実験だったのだと思います。

山口

すべて計算した上でということになると思います。そして、今回の短距離弾道ミサイルですが、新型だという分析があります。

大木

軍事に詳しい東京大学先端科学技術研究センター特任助教の小泉悠さんの分析では、今回のミサイルはロシアの『イスカンデル』がベースで、北朝鮮独自の改良が施されているそうです。特徴としては、軌道が変則的で、補足・迎撃が難しいとされているということでした。こちらが通常の弾道ミサイルの軌道なんですが、『イスカンデル』に関してはこのようなイメージです。度重なる実験で性能を進化させているこのミサイルですがやはり河野さん、迎撃が難しいというところが気になりますが。

河野

普通の弾道ミサイルであれば、最終的にはある程度、推進力がついて、あとは重力でも力学的に落ちていきますから、着弾点も計算でき、撃てるということになる。それが途中でコースを変えられるというのは、確かに迎撃する上では難しいということは言えます。

山口

杉田さん、北朝鮮のミサイル開発の与える影響、世界的に見ても、色んなことが言えると思うのですが、いかがでしょうか。

杉田

北朝鮮のミサイル能力は、国の規模、発展度合いの割には、非常に高度です。これまで中東を中心に、北朝鮮はその高度なミサイルを売っていたわけですので、今回、こういう『イスカンデル』のような、迎撃しにくい新たなミサイルを開発したということになると、北朝鮮にとっては、潜在的に高い価値を持つミサイルとして売り込めるわけです。こういったミサイルを求めている国が世界には沢山あるわけですから、北朝鮮とこれらの国のミサイル技術の売買の関係作りもウォッチしないといけないと思いますね。

■「北朝鮮問題、根本的には一切、解決していない」

山口

先ほどありましたように、トランプ大統領は、短距離弾道ミサイルであれば問題視しないということなのですが、ただ、我々日本からすると、この今回の新型ミサイルも日本に届くと言われています。これは、やっぱり日本としては無視できない存在になりますよね。河野さん、このあたりどう捉えてらっしゃいますか。

河野

まず、この対北朝鮮問題における日米、韓国もそうだと思いますが、検証可能、且つ、不可逆的、且つ、完全な撤去を訴えていた。これが短射程であろうが中距離だろうが長距離だろうが、すべて全部駄目だということで臨んでいるはずでした。これについて、アメリカが放棄したと私は今の段階で思いませんが、ただ、トランプ大統領としては、米朝の間でこの核交渉を話し合いで進めている路線でいっている関係上、ここのとこは一時許容しているのではないかとは思いますが、日米でその辺のすり合わせは当然やっているのだろうとは思います。

山口

一方、日本の自衛隊としての対応としてはいかがですか?

河野

自衛隊としては基本的に北朝鮮問題というのは、一時期に比べると、核実験はない、ミサイルは現実に飛んできてないということで、そういう面の変化はあるんですが、じゃあ根本的に解決しているかと言うと、一切解決していませんので、自衛隊は常に警戒、大事万全を期する態勢に変化はないと思います。

山口

改めて確認ですが、まさに河野さんが統合幕僚長に在任中、北朝鮮は挑発行為をエスカレートさせていました。

大木

弾道ミサイルの実験を繰り返してきた北朝鮮ですが、2017年にはミサイルの射程を伸ばし、5月以降に発射した「火星12」型はグアム到達可能と言われていました。さらに11月にはアメリカ本土も射程に捉えるとされる、「火星15」型を発射実験、北朝鮮の弾道ミサイルの脅威が格段に高まりました。

山口

まさに、この2017年がピークでしたが、その時に河野さんは統合幕僚長として、北朝鮮の脅威に向き合っていらっしゃったわけですよね。当時2017年というのは、記者会見のときに、朝鮮半島の有事を想定していたというようなこともおっしゃっていますよね。当時のことを改めて伺いたいのですが、自衛隊として、どんな準備をされていたのでしょうか。

河野

まず北朝鮮問題の構図は、基本的に北朝鮮が国連決議違反である核実験とか弾道ミサイルの発射をやっているということで、これに対して日米、あるいは日米韓で対応している、あるいは国際社会で対応しているということなんですね。従って、我々から仕掛けるなんていうことは、一切ないわけです。この問題は、北朝鮮の対応如何なんです。北朝鮮がある一定レベルを超えてエスカレーションさせるということは、非常に危険な状況に入るということなんですね。我々がエスカレーションさせていることは一切ないわけですね。まさに北朝鮮がグアム、さらに11月に(2017年11月29日午前3時17分頃)、軌道の高いロフテッドという打ち方で撃って、それを計算すると、どうもワシントンまで入ると。こういうところまで行ったわけなんですね。従って、2017年は、一方的に北朝鮮はエスカレーションさせておりましたから、なお且つ、アメリカは、すべてのオプションはテーブルにあるというのがスタンスですから、ここの兼ね合いということですね。ですから、もう絶対軍事オプションだという可能性が決して高いという話ではないのですが、可能性としては当然、北朝鮮の出方によってはあり得たということなんです。

山口

つまり、そういうことも想定されていたということですね。

河野

少なくとも我々自衛隊は、そういう前にどうするかという組織ですから。当然、経済制裁、外交である、これはそちらの部分がもちろん、やるわけですから。我々は我々で、そういった可能性はあり得るという、北朝鮮の出方によっては、認識はありました。

大木

2017年8月北朝鮮が米軍基地のあるグアムの包囲射撃を予告したとき、小野寺防衛大臣はこのように答弁しています。「北朝鮮がグアムを狙って弾道ミサイルを撃った場合、集団的自衛権を行使できる『存立危機事態』に認定。自衛隊のイージス艦が迎撃することは法的に可能」との認識を示しました。この『存立危機事態』というのは「日本と密接な関係にある他国への武力攻撃により日本の存立が脅かされる事態」ということなんですが、これはまさに戦争状態寸前だったと言い換えられる状況なのでしょうか?

河野

これは、あくまでも大臣はそういった場合の仮定を言っておられたわけであって、現実に攻撃したという事案はないので、それは、あくまで仮定で言われている話であって、これはもう切迫していたという事ではありません。

山口

もちろん、そこまで事態は進んでいなかったわけですけれども、当時のことを振り返ってみると、そのぐらいの緊張感というのはあったわけですね?

河野

私としては緊張感がありました。

大木

アメリカ側と何か直接やり取りをしたり、というのは、当時はどの程度されていましたか?

河野

最悪の場合の軍事オプションという場合も、「やる」、「やらない」というのは政治レベルの話です。最終的に、おそらくトランプ大統領と安倍総理との間の相談はあるだろうと思うんですが、私どもがあくまでコンタクトを取っているのは米軍の方ですよね。米軍の役目というのは、トランプ大統領からGOをかけられたら、やらないといけないわけですから、その準備を彼らは進めるわけですね。ちょっと中身は言えませんけれども、我々としては米軍と色んな話はしております。

■レーダー照射「隊員の命に関わる」

山口

きょうは統合幕僚長を務められました、河野さんをお招きしています。日米韓の連携で北朝鮮に向き会うという基本方針があると思うのですが、ちょうど河野さんの在任中、韓国のレーダー照射問題、去年12月にありました。このあたりの対応も大変だったと思うんですが、いかがだったでしょうか。

河野

まず、レーダー照射、去年の12月ですけれども、最初報告を受けましたときは、友好国ですから、これは何かの間違いではないかと思いました。ただ、第二報が数回、数分間に渡りやったということで、これは意図的だと感じざるを得なかった。ここで提示して間違っていたら大変なことですから、慎重に慎重を期して、飛行機の上での解析で大体間違いはなかったのですが、飛行機を一旦降ろして、専門の部署に持って行って、もう一回、解析させたんです。でも間違いないということでしたので、やはりここは、隊員の命に関わる話ですから、従って、何故こういうことが起きたのか、原因究明と再発防止、これを求めたわけです。これについては、北朝鮮問題が目の前にありましたから。日韓の防衛協力は非常に重要でしたので、我々としては速やかに解決したかったわけです。従って、韓国側に誠意のある対応を求めたわけですが、我々の考えとはちょっと予想を超えるような方向に行ってしまったという訳です。

山口

そのあたり、ねじれがどんどん激しくなっているということですか。

河野

率直に申し上げて、韓国側が説明されたことは全く理解ができない説明。最終的には、何もこっちはやっていないんだと、日本が悪いんだと、こういう話に最終的に行ってしまったので、防衛省、自衛隊としては、断腸の思いと言いますか、打ち切ったわけですね、我々の見解を示して。

山口

もっとおっしゃりたいことはあったわけですか。

河野

この問題を引っ張るのは、全般の東アジア情勢を踏まえた場合、やはりプラスにはならないだろうということですね。

■「日本の船は日本が守るという原則」

山口

イラン情勢にお話しを移していきます。アメリカの核合意からの離脱で始まり、イランの緊張が高まっているわけですが、先月、6月には日本の企業が運航するタンカーがホルムズ海峡の近くで攻撃されるという事態がありました。7月19日、イギリスのタンカーを拿捕したとイランが発表したということもありました。こうした緊張の高まりに、まずアメリカはどう対処しようとしているのでしょうか。

大木

トランプ大統領は、先月24日ツイッターで「米国へ向かう船舶がほぼ不在のホルムズ海峡において、米軍が莫大な負担をしてまで、他国の船舶を守る義務も根拠もない。各国は自国の船舶は自国で守るべきだ」と発言しました。これを受けて、アメリカはホルムズ海峡で、アメリカ軍を中心に監視活動を強化し、各国が自国の船舶を護衛する“番人作戦”への各国参加を要請。ポンペオ国務長官は25日、既に日本、韓国、イギリス、ドイツ、フランス、オーストラリアなどに有志連合への参加を要請していることを明らかにしました。

山口

河野さん、有志連合への参加を日本が今、求められています。日本としてどう対応すべきか。河野さんいかがでしょうか。

河野

現時点において、私も現役を外れましたから、最新の情報はなかなか分からないのですが、見ている感じでは、今のホルムズ海峡において危険が急速に高まっているようには見えませんので、まずは、外交優先で事を収めるのがベストですから、そういう段階ではないかなと思います。ただ、それとは別に、日本の船の危険が増してきた場合、どうするかという話ですが、以前からホルムズ海峡は日本にとって非常に重要な海峡だと言われ続け、1987年にイランとイラクが戦争していて、非常にホルムズ海峡を通るタンカーに危険が及んだんですね。それを見たら、ほとんどは日本の船だったと。こういう状況で、日本は何もしないのかと、こういう命題を突きつけられた。当時、中曽根内閣だと思いますけれども海上保安庁を出す、あるいは掃海部隊を出す、色々と考えは出されたみたいですが、最終的には基本的にお金ですね。後方施設を建てるということだったのですけれども。次は湾岸危機になり、この時もホルムズ海峡をどうするんだという話になり、これもお金で処理した。こういう歴史があり、最終的に日本が学んだことは、もう日本のように国力がついてきて、なお且つ、自分の船は自分で守る能力を持っている国がお金で処理をするということは、もう国際社会に通用しないということ。非常に苦い経験として日本は学んだと、私は認識しているわけです。従って、今回も同じですね、アメリカにお願いします、であるとか、お金出しますから、というような対応は、ここまで日本も経験を踏まえてきていますから、日本の船がそういうことになれば、日本の船は日本が守るという原則は崩してはいけないと思います。

山口

大木さん、日本政府の対応を確認しておきましょう。

大木

6月26日、菅官房長官の発言ですが、日本政府としては「関係国と連携しながら現地の情勢を注視しており、今後の対応について予断をもってお答えすることは差し控えたい」と明言は避けました。杉田さんは有志連合への参加要請。どのようにお感じになりますか?

杉田

今、河野さんがおっしゃった湾岸危機、湾岸戦争というのは、私も中東で随分取材しました。その時、日本のプレゼンスが全然ないということは、非常に残念に感じて、トランプさんの言う、自分の船は自分で守れというのは、これはある意味、原則として確立されている話だと思います。日本のような国際関係を重視して発展してきた国が自衛隊の国際的な活動をもっと増やして行くというのは、これは、まさに賛成すべきことだと思います。それは大前提であるのですけれども、今回の場合は、いくつか気になる点があります。一つは、アメリカの本音がどこにあるのか、もう一つ分からないことです。アメリカはイランと敵対するような行動・政策を取りつつ、今回はペルシャ湾の安全確保と航行の安全確保という点を強調して、非常にニュートラルの話をしているわけです。イラン封じ込めと航行の安全のどちらに力点があるのかな、ということです。日本はイランという国家から攻撃を受けたと確認されたわけではないので、イランと敵対する動きは避けるべきです。二つ目は、アメリカ国内でも色んな動きがあって、やっぱり外交を優先させるというグループもあって、トランプさんも外交を盛んに語っている。また、イランも色んな動きをしていて、外交で何とかしようとも動いています。そうした外交の動きを見極めたいと思います。日本の場合は、安倍総理がせっかく6月にイランへ行かれたのだから、日本は今、特使を任命してアメリカとイランとそれからヨーロッパの関係国、あるいは中国などへのシャトル外交をして、平和解決に向けた何らかの外交的イニシアチブを発揮すべきだと、私は考えています。今はいくつか様子を見なければいけない状況が動いています。そして、次のヤマ場は9月の初旬ですよね。9月初旬にはイランがもう1回、核合意を逸脱する行為に踏み切ると予告しています。9月中旬からは国連総会が始まって、そこでイラン問題に関する首脳外交が始まる。そのあたりまで、もうちょっと事態の推移を見極めるべきです。同時に、実際、日本が船を守ために、どういったオペレーションが可能なのか、法的な規制は何なのかということを詰めていく、今はそういう段階だと思います。

川村

独自に日本が拙速な形で動かないというのが今、一番、肝要な点だと思います。私も湾岸戦争、イラン・イラク全部ペルシャ湾を自らコンボイを組んでいくタンカーの中で20日間過ごしたこともあって、そういう所では船団を組むことによって、イランの、当時は革命防衛隊の動きとか、レーダーによって探知したり、様々な形で自己防衛はしていっていたわけです。なお且つ、空から見ると、日本のタンカーは甲板に大きな日の丸があって、日本と分かるようになっていて、それをイランが特別狙ってくるという状況ではなかった。むしろ、アメリカがイランの民間機を誤射して300名近くの乗客乗員がホルムズ海峡周辺で亡くなるということもあって。緊急事態が発生することを踏まえた上で、何か動くのであれば連携をする形で、防衛という中でやっていかないと。今のままだと海上警備行動でどこまでできるのか。そうでなければ新たな特別措置法を作るとか、国会で十分審議をしなければいけないという意味では、先ほど杉田さんが言ったように、アメリカ側の真意は戦争をしたいのか、それとも、ある程度緊張を高めトランプ大統領の再選戦略に活かしていくということであれば、ボルトン氏が実際にイラン危機を煽っていくというのは、流れの中でトランプ大統領自身挑発しても、それにイランが乗ってこない限りは、自ら、自分たちの船がホルムズ海峡をほとんど通らないんです。アメリカ自身の船をアメリカが守るというよりは、むしろ自分たちの国は自分たちで守りなさいよという形で、逆に言えば、押し付けてくることもあり得るのだということを考えないといけないと思います。

■どうする!?派遣の法的基盤と「有志連合」参加

山口

河野さんに確認しておきたいんですが、仮に、もう少しこの緊張感が高まってきて実際に自衛隊を派遣するとなったときに、どういう法的な基盤が必要なのか、このあたりどのように捉えていらっしゃいますか。

河野

前提は外交でやるべきだと思います。仮定として緊張が高まったとき、日本の船を守らなくてはいけないという場合の根拠ですが、川村さんがおっしゃったように海上警備行動というのがあります。ただ、今、海賊対処行動でやっています。ある種の護衛をやっています。

山口

ソマリア沖ですね。

河野

最初、海上警備行動で出したんです。海賊を対処する上において、武器の使用において、海上警備行動だけの法、規定だけでは不自由だということで、海賊対処法という法を作り、切り替えたんです。日本の場合、法律に基づいて自衛隊はすべて行動しますので、従って、今回どういうことが想定されるか、もう1回、吟味をして、海上警備行動でできるのか、あるいはプラスα必要なのかということを検討する必要があって、今の段階では、私としても、明確なことは言えません。

山口

実際に海上警備行動、海賊対処法という法律を作ってきているわけですけれども、現行法で対処できるのか。例えば、海賊対処法というのは、あくまでもソマリア沖の海賊行為に対する法律なわけですね。当然限界もあると思うんですが。

河野

これをホルムズ海峡に適応するのは、常識では無理だと思いますよ。海上警備行動ができるのかという話ですが、ここは、よくよく吟味をして、海上警備行動は、武器の使用がかなり制限がかかっていますので、それで対応可能なのかどうかを、もう1回吟味をして、もちろん出すとなったら、政府もやると思いますけれど。そして、十分かどうか、あるいはプラスα必要かどうか、検討は必要だと思います。

山口

有志連合に参加を求められている日本ですが、どのような判断をしていくのか、大変難しいところにあると思います。まず杉田さんに伺いたいのですが、イランを訪問した安倍総理は6月13日、最高主導者のハメネイ師と会談をしました。ここで有志連合に参加するのかどうか、非常に、このアメリカとイランとの間での、難しいバランスといいますか、求められている点はあると思うんですね。そこはどう考えてらっしゃいますか。

杉田

最近、イラン政府の高官と話をする機会があって、その人は有志連合に日本が参加するのかどうか非常に気にしていました。イラン政府がなぜ気にしているかと言うと、おそらく、ここまでのところは、アメリカが核合意から一方的に離脱したということで、アメリカが今回の危機を起こしてしまったという国際世論の認識があると思うのです。だから、ヨーロッパは、アメリカとイラン問題で距離を置いている。日本も6月にタンカーが被害にあったけれど、アメリカがイラン犯行説をとっても、それに同意せずに証拠を出してくれとアメリカに求めて、アメリカとは同じ立場をとってないわけです。日本も、まだイランの肩を持ってくれているのではないかというのが、イランの見立てです。これが有志連合に参加するとなると、やっぱりアメリカ側に立ったと、イランからすると、敵対する側に日本も回ってしまったのかということで落胆する。だから日本はけしからんということよりは、イランがこれから進めていく外交の中で、イランが段々孤立しているなという目安として考えるということだと思います。そういう意味で、日本がどちらに付くかを彼らは非常に気にしているということですね。日本が参加するにあたっては非常に重要なのは、イランへの説得ということがあると思うのです。航行の安全目的であり、イラン封じ込めではないと理解を得てもらうということが大事です。それから、二つ目は、今のようにアメリカだけがトップにいて、その下に日本が入るという形ではなく、国際的な枠組み、安保理決議があればベストですが、それはちょっと無理だと思いますが、もうちょっと参加国を広げる努力が必要です。ヨーロッパ、さらにできればインドあたりが入ってもらうと一番良い。インドは入らないと言っていますけれども、枠組みが広がらないと、日本とアメリカとイギリスだけだと、あまりにも反イランという色が鮮明に出てしまうと懸念があります。

川村

イギリスの場合は、逆に離れていっていますからね、アメリカとの共同作戦は取らないと。ヨーロッパだけでイギリス連合みたいな形をとりたいということですから。今、杉田さんおっしゃったように、日本がアメリカとの有志連合にすんなり応じるということは、これまでのイランとの関係を含め、緊張関係をさらに深める、高める方向に日本が行ってしまう。イランとのこれまでの友好関係が壊されるのではないかと、緊張関係を高めたという形で、日本を見る可能性があります。

河野

有志連合ということですけども、中身は全部聞いていませんからわかりません。私の今の経験から、想像として聞いていただききたいんですが、中央軍というのがアメリカにありまして、中央海軍というのがバーレーンにあります。その下にCTFという、いわゆる有志連合と言っても良いと思うんですが、151、152、153(部隊)というのが並列にあるんです。151というのが海賊対処の枠組みとしてあります。だからと言って、アメリカ海軍の指揮下にあるわけではなく、この151の指揮官を海上自衛官3名が務めております。これはコーディネーションです。それぞれで助け合うという意味合い。非常に緩いネットワークです。それとは別に、EUの枠組みでも並列でやっています。以前はNATOも来ておりました、帰りましたけど。EUという枠組み、アメリカが音頭を取っているCTF151という枠組みが並行しています。確か、152か153というのは守備範囲がペルシャ湾なんです。おそらく、それを一つの緩いネットワークとして、情報共有であるとか、効率的にあっちにあれがありますとか、行った方がいいのではないですかとか、そういう情報共有をやろうとしているのではないかと思うんです。だから、少なくとも情報は提供するけど、自分たちの船は自分たちで守って下さいよというのがアメリカの主旨だと思います。逆に言えば、やるということになれば、ネットワークに入っていた方が情報は取れるし、非常に他の国との協力はできますから、私はその方が得策ではないかと、やる場合はですね。あんまり何かこういうのが来ると、アメリカに引きずり込まれるという見方をする方が多いんですけども、逆に、そういう見方も必要なのではないかと思います。

山口

河野さんに是非伺いたいんですが、仮に有志連合に参加し、最前線に自衛隊が行くことになります。仮の話なんですが、ひょっとしたら攻撃を受ける可能性もあります。今まで自衛隊の歴史の中で交戦した事はなかったと思うんですけど、その可能性を想定しておかないといけないと思うんです。いかがでしょうか。

河野

それは当然そうです。ただ、これはいわゆる、日本国民の死活的に重要な『仕入れ』を守るオペレーションですね。タンカーを守るオペレーションですから、それは当然、危険も伴いますが、守るという以上は、回避すべきではない、
そのリスクは。

山口

もしそうなった場合には、世論の支持も必要でしょうし、法律上の指示も必要でしょうし、そのあたり大きな要素になってきますか。

河野

国民生活に直結する話ですから。ここは当然、我々というか、自衛隊の活動に対する、国民的な支援は得られるのではないかと思います。

■ロシア機の竹島領空侵犯 背景に日韓対立か

山口

先日、竹島の上空をロシア軍機が領空侵犯し、韓国が威嚇射撃するという事案がありました。河野さん、どう捉えていらっしゃいますか。

河野

竹島は日本の領土ですから。そこで勝手に韓国が領空侵犯対処行動をやること自体、絶対、受け入れられません。ロシアは認めていませんが、入ったのが空中管制機という、プロペラ機で、コントロールする飛行機でその飛行機が自分のポジションを間違うということはないと思いますから。なお且つ、航空自衛隊もつかんでいたみたいですから、これは領空侵犯で間違いないと思います。それに対して、韓国側は360発警告射撃をやったということですが、これは、おそらく数秒です。機関砲の性能からして「ブルッブル」みたいな話です。やはり領空に入ってきたわけですから、当然、警告射撃は国際法的にも認められた処置ですので、対応については特段、特異な対応ではないと思います。

山口

ただ、背景として、確かロシアと中国の合同訓練という話が出ていますよね。このタイミングであそこに入ってきたということについては、どんなふうに分析されていますか。

河野

憶測の域を出ませんが、タイミング的に間違って入ったわけではないという前提に立てば、何らかの反応を見たということだと思います。日韓が今これだけになっていますね。日韓で争っている竹島の領空を侵犯したときに、韓国あるいは日本がどういう対応をするのかということについてのチェックは見込んでいたのではないかと。

川村

中国とロシアは、今回初めてあそこでの合同演習。なお且つ実効支配を韓国がしていると、竹島は。日本はおそらく緊急発進はしたのでしょうけど、スクランブル発進をして何ができたのかということは、どういうふうな教訓を得ているんですかね。日本の自衛隊はどういう教訓をあそこで得たんでしょうか。

河野

教訓というか、完全に向こうは対応しましたから、航空自衛隊も近くに来ていますが、上がっていると思いますけども、領空の件は航空自衛隊としては見送ったと。

川村

今後もそういうことになるのですか。

河野

あそこの地域は、防空識別圏に入っていないんですね。基本的に、政治的な配慮から入っていない。実効支配されていますから、現実に。そこに日本が入っていくということは、相当政治的なエスカレーションも考えられますので、これは我々だけの判断だけではできない。

(2019年7月28日放送)