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#118

新型コロナとの闘い 韓国の方針転換

ヨーロッパやアメリカで新型コロナウイルスの感染拡大が深刻化する中、韓国では、新たな感染者の確認が鈍化傾向にあります。新興宗教団体の集団感染で医療崩壊の危機に直面し、方針転換に踏み切った韓国。2020年3月22日の『BS朝日 日曜スクープ』は、韓国がどのような方法で新型コロナウイルスに向き合ったのか検証しました。

■巨大な集団感染となった「新天地キリスト教会」

新型コロナウイルスの感染拡大に直面した韓国。21日12:00現在、感染者は8,799人を超え、死者は102人と、アジアでは中国に次いで2番目に感染者が多い国となっています。

そんな韓国で最初の患者が確認されたのは1月21日でした。その後、感染者は大きく増えることなく2月13日の段階では28人。文在寅大統領は「新型コロナから遠からず終息するはず」と事実上の終息宣言を出しました。そうした状況を一変させたのが、31番目に感染が確認された61歳の女性でした。その女性は症状が出ていたにもかかわらず検査を2度にわたって拒否。さらに入院中の病院を抜け出し2度にわたり礼拝に参加していたことがわかったのです。彼女は、新興宗教「新天地イエス教会」の信者だったのです。

疾病本部はこの女性の接触者を検査したところ翌日、新たに20人の感染者が確認。その翌日には190人、23日の朝の時点では前日から123人増加し感染者数は556人に跳ね上がりました。その多くが、「新天地キリスト教会」の信者だったのです。この日、事態を重く見た文在寅大統領は政府対策会議を開き、こう語りました。

文在寅大統領 2月23日

「特に集団感染の発信地になっている新天地の信者に対しては特段の対策を取っています。感染者を迅速にみつけ治療し外部と徹底して隔離し保護することで拡散を遮断するためです。」

しかし、その後も「新天地キリスト教会」に関連した感染者は増え続け、およそ5000人ともいわれる巨大な集団感染となったのです。

■感染拡大を引き起こした“礼拝”

国を揺るがすほどの「巨大な感染源」となった「新天地イエス教会」。正式名称は「新天地イエス教 証しの幕屋聖殿(あかしのまくやせいでん)」で信者は推定で21万人いるとされています。

新天地教会のPRビデオには、創立記念日の式典の様子が収められています。壇上で話している人物が教祖の李萬煕(イ・マンヒ)氏です。

李萬煕総会長「新天地(教会)は、人間の考えで想像されたのではありません。」
信者「アーメン」
(新天地創立30周年記念行事の様子)

新天地イエス教会は、伝統的なキリスト教団からは異端視されています。李萬煕(イ・マンヒ)氏は信者に対し自分はキリストの生まれ変わりで決して肉体的な死を迎えないと話しているといいます。なぜこの教団でこれほどの感染が広まったのでしょうか?5年前に脱退したという元信者の男性は礼拝の仕方に問題があるといいます。

元信者の男性

新天地はとても狭い空間に多くの人が寄り添って、床に座って礼拝をします。礼拝中には「アーメン」と大きい声で叫ぶのが新天地ならではの伝統です。他の教団でもアーメンと言いますが、小さい声で言います。新天地は、声の大きさを争いながら叫ぶので飛沫感染が起きやすい環境だと思います。

集団礼拝では、信者たちは、床に直接座り、肩が触れ合うほどの距離で礼拝をおこないますこの状態で、教祖の言葉に合わせ、何度もアーメンと叫ぶというのです。さらにこんなことも

元信者の男性

新天地では体の病気は罪に当たります。救いが来るまで今の痛みを貴重に思い、我慢し、仕事を続けなさい。とまで言うので本当に倒れて点滴を打つほどではない限りは薬飲んで、痛み止め飲んで、耐えて、普通に布敎活動もするし、礼拝もするし、集まりもします。なんか症状が出たらすぐに隔離させないといけなのに、仕事をしないといけないので隔離もできなかったため、拡大されたんだと思います

症状がありながら、病院を抜け出し2度も礼拝に通った60代の女性の行動は教団の教えに関係していたというのです。

■感染防止の検査に教会は抵抗

こうした実態を把握した韓国政府は「新天地イエス教会」の信者に対する徹底した検査を指示。しかし、教団は不可解な行動を見せます。1100カ所の宗教施設をすべて消毒したとし、施設のリストをホームページに公開その一方で、429か所の拠点は組織保護のために公開せず政府の検査を妨害している疑いが浮上したのです。「新天地イエス教会」を長年取材している韓国YTNニュースアンカーのビョン・サンウク氏を訪ねました。

韓国YTNニュースアンカー ビョン・サンウク氏

「新天地は身分を隠し、ほかの教会の人たちを引き抜くという手口で勢力を広げてきました。身分を隠すことに慣れていますし、そういう行動を非道徳的だとも思っていません。なぜなら、新天地の基本教理の中でに謀略というものがあり、組織のためなら、人を騙したり、法律を犯しても構わないのです。実績さえが良ければそれでいいのです。」

強引な勧誘や、入信後に家族と引き離すなどのトラブルで社会問題となっておりそれが“隠ぺい”につながったというのです。こちらは新天地の信者が集団生活していたアパート。住人141人中94人が新天地イエス教会の信者が占めていました。しかも信者はなぜか35歳以下の女性ばかり。このアパートでは、80人の感染が確認されました。

信者の名簿を巡っては検査対象を把握したい政府と、全容を知られたくない教団の間で激しい攻防が繰り広げられたと言います。

韓国YTNニュースアンカー ビョン・サンウク氏

「名簿を一回出したときに、まだあるでしょってなって二回目も出して、三回目も出したんです。時間稼ぎですね。名簿には、かなりのセレブや有名人、記者または国の事業を担当してる人などが名を連ねているらしく、信者であることを知られれば社会的地位も危うくなるため、すべての名簿を公開することはできないんですよ。」

■若者を標的に・・・教会の戦略

なぜ、多くの人が「新天地イエス教会」に引き込まれたのでしょうか?教会の役員も務めていたという女性に話を聞くことができました。

元信者の女性

「私が入信したときは、就職のことでとっても悩みの多い時期でした。当時、新天地に入って1年くらい経っている高校の友たちに誘われ入りました。その時は新天地ということは知らずに友たちに誘われました」

高校生の時に入信したという女性。入信すると教団の態度は一変したといいます。

元信者の女性

「献金をかなり要求してきます。信仰人の基本は献金だといいながら、献金や十分の一税、青年献金などいろんな献金を求めてきます。」

若者を標的にして、信者を増やした「新天地イエス教会」。巨大なスタジアムでイベントを行えるほど宗教団体へと勢力が拡大したのです。こうした組織の全容をなんとか隠そうとし検査に協力しない教団に韓国社会は猛反発。大統領府のホームページでは「新天地イエス教会の強制解散を求める」書き込みに対し4日間で76万人が賛同。ソウル市は1日、教祖の李萬煕(イ・マンヒ)総会長と団体幹部を殺人罪や傷害罪、感染病予防・管理に関する法律違反などの疑いでソウル中央地検に告発しました。今月1日、これまで姿を隠してきた教団の教祖、李萬煕(イ・マンヒ)氏が初めて姿を見せました。すると…

「家出させた私たちの子供達にコロナ検査をさせろー」「詐欺師イ・マンヒ、家出させた私たちの子供を今すぐ返せ!!」

凄まじいヤジの中現れた

李萬煕(イ・マンヒ)総会長
「国民の皆様、なんと謝罪すれば良いのでしょう本当に面目がありません。謝罪のために身を付して許しを請います。」

李萬煕(イ・マンヒ)氏は2度の土下座をして謝罪。質疑応答では

「この人をそばに呼んだのは、耳が遠いからです。理解してください」

反省の言葉を述べたイ・マンヒ氏ですが、会見が終わると…記者団に対して満足げに親指を立ててみせました。韓国では他にも新興宗教団体での集団感染が発生。ソウル近郊の「恵みの川教会」でも46人というクラスター感染が発生。この教会では、月に2回の礼拝で「消毒」と称して信者の口にスプレーで塩水を吹きかけていました。

「新天地イエス教会」元信者の女性
「誰かが必要だけどいない人に新天地の人は近づき、一緒に相談を受けよう、一緒に話そう、一緒にお茶しようと誘われた時には行かざるを得ないと思います。」

■集団感染で直面 医療体制の危機

山口

では韓国第3の都市、人口およそ250万人の大邱での集団感染の発生から、「医療体制の崩壊」の危機に至った状況を見ていきます。

大木

韓国で最初の感染者が確認されたのは1月20日。2月11日以降、5日連続で新たな感染者が確認されなかったことから13日、文在寅大統領は「新型コロナウイルスは遠からず終息するだろう」と発言。ところが2月18日、韓国南東部の都市・大邱で「新天地イエス教会」の集団感染が発覚。翌19日には、「清道(チョンド)テナム病院」でも集団感染が発覚。後に、この病院の感染源も「新天地イエス教会」だったと判明します。以降、新規感染者が一日約200名ずつ発生。22日、韓国政府は、感染病予防法に基づき教会を閉鎖。25日、緊急措置として「新天地イエス教会」の全員検査を決定。検査で陽性となった人は全員、病院での隔離措置が取られました。26日、感染者が1100人を突破。韓国内の陰圧病床1077を超えてしまいます。同じ日、韓国政府は「感染症予防・管理法」「検疫法」「医療法」の改正案を可決。入院や隔離措置に違反した場合は、1年以下の懲役または1000万ウォン(約90万円)以下の罰金。また、ドライブスルー検査をこの日から開始しました。

大木

しかし、病床不足で自宅待機中に死亡する感染者が相次ぎます。その中の一部ですが、紹介させていただきます。

2月27日
20年前に腎臓移植を受けるなど持病を持つ74歳の男性が入院待機中に呼吸困難になり緊急搬送中に死亡。
28日
陽性が確認され自宅隔離中だった70歳の女性が呼吸困難を訴え病院に搬送され死亡。
3月1日
陽性の判定を受けた77歳の女性が病床不足で入院を待ちながら治療を受けられずに死亡。同じ日には、高血圧の持病を持つ86歳の女性が病床不足のため待機していた自宅で死亡しました。

山口

感染が急拡大した大邱の医療状況について、韓国の国会議員で医師でもあるパク・インスク議員が、2月28日、地元テレビのインタビューで次のように話しています。

「公共保険医師50名あまりが先日大邱に派遣されたが、急に決まったので宿泊する場所がないようだ。国立病院からも医師100人が派遣されるそうだ。医師不足で病院の救急救命室を閉めるしかない。新型コロナウイルスに感染していない普通の患者はどこに行けばいいのか。医療が崩壊しつつある」

■韓国政府が方針転換 軽症者や無症状は・・・

山口

病床不足が原因で、持病を持つ高齢の感染症患者が病院で治療が受けられないまま次々に死亡するという深刻な事態を受け、韓国政府は、治療方針の転換に踏み切ります。

大木

韓国政府はそれまで、検査で陽性となった人について全員入院させていましたが、3月1日、新しい方針を打ち出しました。感染者を症状の重篤、重症、軽症、無症状の4段階に分け、重篤者や重症者が優先的に国指定の入院治療病院などで治療を受けられるようにするもので、軽症や無症状の場合は、新たに設けた「生活者治療センター」または自宅隔離としました。

山口

韓国は政府の施設や宿泊施設を活用、「生活治療センター」にしたわけですが、どんな施設なのでしょうか。

大木

軽症者を病院以外の施設で隔離する施設です。医療スタッフが常駐して毎日2回の体温と呼吸器の症状の有無をチェック。そして、必要に応じて胸部エックス線検査も行います。 政府の呼びかけで、サムスンやLGなどが社員用の施設を次々と提供18日の集計で、16施設、約3800人を収容できる態勢です。

日本の厚生労働省も4月2日、新型コロナウイルス感染患者が増加し、重症者に対する入院医療提供に支障が出る恐れがある場合には、軽症や無症状で重症化の恐れが小さい患者について「都道府県が用意する宿泊施設」や「自宅」での療養を可能とする考えを全国の自治体に連絡しました。

(2020年3月22日放送)