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#126

ポストコロナ時代・・・日本の戦略 甘利明元大臣が生出演

新型コロナの感染拡大に対し、日本の社会・経済は変わることができるのか。2020年5月17日の『BS朝日 日曜スクープ』は、元経済再生担当大臣の、甘利明・自民党税調会長が生出演。日本の新たな戦略を議論しました。

■「レガシーが強いということは・・・」

山口

ポストコロナ時代、国際情勢が大きく変わり日本がどうやって生き残るのか議論を進めていきます。きょうのゲストをご紹介いたします。甘利明・自民党税制調査会長です。どうぞ宜しくお願い致します。

甘利

はい、こんばんは。

山口

甘利さんは東日本大震災の後、日本経済が厳しい状況が続いていた時に、安倍政権で経済政策の司令塔を担いました。きょうは、ポストコロナでの日本経済の新たな戦略を、しっかりと議論していきたいと思います。そして、岡田晴恵さんにもこのコーナーにも加わって頂きます。宜しくお願いします。

岡田

よろしくお願い致します。

山口

まず甘利さん、明日いよいよ緊急事態宣言が全国で全面的に解除されるとみられています。そうしますと、本当にポストコロナ、コロナとうまく付き合って経済活動を再開させる、非常に重要な局面だと思いますが、このコロナのパンデミックという未曽有の危機を迎える中で見えてきた、日本経済の強い面、もしくは脆弱な面、どんなところだったと思いますか?

甘利

日本経済だけでなくて日本社会の強みっていうのは、こういう危機に直面した時に、国民の皆さんが冷静に、政府の要請にしっかりと協力をしてくださるという国民性ですね。それから従来のシステム、例えば、国民皆保険システムとかですね、医療の現場がしっかりしているから、重傷者とか死亡者を世界が驚くぐらい少なく抑え込むことができているというところですね。逆にレガシー(注1)が強いっていうことは新しい体制を導入しづらいっていうことにもなるわけですよね。あとでマイナンバーの話も出ると思いますけど、新しいデジタルシステムを導入するのに旧来のシステムが、信頼性が高いから入れ替えづらいという点がありますよね。それから、個々の企業=ITベンダーの技術力が高いから、例えば、デジタル化でもユーザー仕様に特化した作りこみで、その会社にしか使えない仕組み、互換性がないとかですね、その個々の技術力の高さがクラウド化に移っていく際に一番、障害になっていて、日本がクラウド化で一番遅くなったと。良く出来ていることが逆に、新しいシステムを導入する時には障害になっている点があります。

(注1)レガシーシステム=レガシーは「遺産」時代の進歩に伴い旧型化したコンピューターシステム

山口

これまでだったら上手くいっていた、強みがあるからこそ、変化に対応する力が若干遅れてしまうのではないかっていうことですよね?

甘利

上手くいっていたから刷新が遅くなってしまうんですね。

山口

そういう意味で伺いたいのですけども、この多くの国民の間の中で、この自粛生活、皆さん、非常にストレスもたまっていると思います。実際、その商売をやっている中でも、月々の支払いが厳しいっていう方も多いと思います。政府に対しても、もっと早く対応してくれないのかという、スピード感への不満を抱く方、多いと思います。ただ、今回、確かに日本にとっても、戦後初めての経験です。これまでの災害と比べて、甘利さんは、どのように分析されていますか?

甘利

従来の災害は、災害が終わったらやるべきことは決まっていて、一挙に大量投入ができるわけです。コロナという病気は、経済をいきなり拡大すると、ウイルスも拡大してしまうわけです。コロナを抑えながら少しずつ経済を伸ばしていくということで、その片方をフェードアウトさせながら、片方をフェードインしていくという兼ね合いが難しいのです、一気にアクセルが踏めないと。アクセルとブレーキの加減を見ながら、少しずつ前へ進んでいくというのがやりにくいですよね。クリアカットじゃないという点です。

山口

そのあたり、アクセルの踏み方が難しいっていうことですね。

甘利

アクセルとブレーキの加減が難しいですね。

■「民主主義しかないので」

山口

甘利さんが先ほどおっしゃったと思うのですが、デジタル化っていう話がありますよね。日本がデジタル化の中で後れを取っているという実態が、例えば、後ほど詳しくやりますが、マイナンバーでの対応で見えてきた面もあると思うのです。これは海外と比較して、例えば中国と比較して、日本の今、立ち位置がどうなのか。これから中国のようなデジタル化が進んでいる国と向き合う上で、日本がどういうことをしないといけないのか、このあたりいかがですか?

甘利

中国みたいな国はですね、プライバシーを無視して個人の権利を無視して、いきなり、トップが決めたことで、明日からできるわけですよね。民主主義国家で個人の権利とか自由とか、あるいは個人情報保護に配慮しながらですね、全部の合意を取りながら進めていくのと、決めたら不都合があったら、その時、考えればいいよというやり方じゃスピード感が全く違うんですよね。これ民主主義の弱点でもありますけれども、独裁国家になるわけにはいきませんから、民主主義の弱点を抱えながら、しかし、民主主義しかないということで、少しずつ理解を得て進めていくしかないのかなと思いますけど。これは日本だけじゃない、自由と民主主義、法の支配を共通の価値観に感じている国家全体の悩みです。

山口

なるほど。その中国との付き合いという意味で考えますと、例えばマスクを1つ取っても、2月からずっと品薄が続いていて、最近ようやく店頭に出てきましたけど、マスクの生産は8割ぐらい中国で、そうするとサプライチェーンの問題っていうのが、今、非常に大きくなってきていると思います。その中国との付き合い方、サプライチェーンのあり方、このあたりはどうご覧になっていますか?

甘利

リスクをどうやって取っていくか、少なくしていくかということですよね。エッセンシャルワークが機能するために、それを支えるようなマスクであり、ガウンであり、色んなものがあります。そのサプライチェーンがリスクに耐えうるか、つまり考え方の違いのある国に依存していると、政治的な対応で供給が途絶えたりするわけです。できれば、どうしても必需品は国内でサプライチェーンが完結するようにする、あるいは友好国で完結するようにするサプライチェーンの複線化、こっちのラインが止まったらこっちのラインで調達するという安定供給、必須品目の安定供給をどう図っていくかっていうことは、今回、非常に反省しなければならないところです。

山口

そうですね、こういう中で中国はマスクの供給を始めていて、マスク外交というようなことも展開し始めているわけですが、片山さんは、こういう時にどんな点が大切だと思われますか?

片山

経済の関係で言いますとね、今、甘利さん言われたように、やっぱり、あまりのめり込まないで、うまく付き合わなきゃいけないですよね。複線化って言われましたが、私もその通りだと思います。一方、今回、WTOなんかの問題を見ていますと、いくらなんでもちょっとおかしいのではないかと思いますよね、中国のやり方を見ると。ただですね、私も長いこと中国を見てきましたが、トランプ大統領のようなやり方は必ずしも賢明ではないと思うんですね。中国はとってもプライドの高い国で、特に、国民にわかるかたちで、あからさまに政権批判をされると、余計に意固地で頑なになるわけですね。ですから、トランプ大統領のように、頭ごなしに攻撃するのは、中国を国際社会に引き出す時に賢明かどうかっていうのは、よくよく考えなくてはいけないですよね。多少やっぱり、あの手の問題というのは、少し顔も立ててあげながら、というのは変ですけど、一緒にコロナの期限なんかも調べてみましょうっていう、ソフトタッチでいかないと、なかなか国際協力の場にちゃんと出て来ないのではないかと思います。

上山

きょうは岡田さんにスタジオにいらして頂いているのですけども、甘利さんにご質問等ありますでしょうか?

岡田

アクセルとブレーキというお話ですけれども、今、アクセルと踏む必要のある政策を考えますと。私の友人の大学病院はオーバーシュートするかもしれないということで、都や国に協力して、大学病院の緊急な手術を延期して、やはり緊急性のない内科の診療も延期して、1000床のうち600床空けてコロナの病床を確保しています。しかし、そうしますと、前年の収益に関して月額で16億円ぐらいマイナスだということになってしまっています。その損益は大学病院でかぶっている訳です。現実的に 診療報酬が2倍、3倍になっても、それではとうてい足りない。肺炎診療そのものの点数が低いし、コロナの診療の協力を真面目にやるほどに経営が悪化するわけです。同じようなことが中小の病院も起こっているので、コロナの患者を受け入れることは経営上損、もしくは経営の悪化につながるということで、なかなかコロナのベッドが確保できないということになります。ニューヨークですと、コロナ感染患者の1人当たり500万円ぐらいの補助がございます。このような積極的な医療支援をしないと、ベッドの確保だとかが現実的にはもう無理だと思います。また、救命救急の発熱・呼吸症状のコロナ疑い患者のたらい回しのような悲惨な状況が起こってきてしまいます。やはり、医療機関に財政を積極的に投入して、医療を守ることかと。緊急事態宣言の要件の中に医療の切迫度があります。コロナ患者用のベッドを確保しておかないと、医療切迫度がすぐ上がって、緊急事態宣言を出すことに繋がる。宣言を出せば経済にも非常な悪影響がある、国民もまた自粛だということになってしまう。ですから、病院、クリニックへのコロナ患者対応への経済支援というのも拡充していただきたいと思います。これはアクセルを踏むべき問題と思うのですけれども、いかがでしょうか?

甘利

私事ですけど、私の周り、医者が多いのですが、身内に。大学病院の困窮具合からクリニックの大変さまで、全部、伝わってきています。このままいくとクリニック総倒れになりますし、昨日は地元の市長から市立病院が大赤字でどうにもなりませんという陳情を受けたばっかりですね。個々に私はきちっと手当をすべきだということで、陰圧室とか、装置を入れた場合には相当の400万、500万円とか、国費支援をやっているんです。それから、危険手当も出しています。でも、それだけではとても対応できないと思います。ですから、ポストコロナの時に、医療体制が疲弊して、倒れていないように、2次補正でもかなり積んでいきますけれども、自民党の厚労部会を中心に現場の声を具体的な予算に反映させていく。それから、予備費もまさかに備えて、かつてないくらいに大きい枠で取れっていうことも今やっていますから、新しい事態が次から次に起きた時に、それにすぐ対応できるような予算態勢を敷いていくことを心がけていくぞ、ということで、今やっています。

岡田

ありがとうございます。

■マイナンバーカードによる申請でも混乱

山口

医療以外でももちろん日本の経済への様々な現場への支援策、迅速な対応が求められているんですが、様々な現場で混乱が生じているんです。上山さんお願いします。

上山

経済対策でもトラブルがいくつか出ています。20日から始まった雇用調整助成金のオンライン申請では、申請した人の名前や電話番号など、個人情報がほかの申請者に見られるトラブルが発生しました。そして、マイナンバーカードを利用した、全国民への一律10万円の定額給付金のオンライン申請でも、混乱が起きています。申請を受けた自治体では、一件ずつ職員がデータを入力するアナログ作業を強いられています。このため、郵送による申請よりも時間がかかる可能性があると伝えられています。東京・調布市などオンライン申請の受付の一時停止を決めた自治体もあります。せっかくのマイナンバーカードというシステムがあるんですけど、なかなか上手く機能していないという現実があって、甘利さんは、こういった問題はどのように受け止めていますか?

甘利

今回の給付金の手続きは、世帯主さんが振り込みを受ける自分の口座を登録してください、ということを前提にやってきたわけですね。その際に私は、高市総務大臣に、届け出を受けた口座はきちんと保管して、次に備えて、個人名とつながるようにしといてくれっていうことを、要請しておいたんです。そしたら彼女から丁寧に手紙が来ました。それにきちっと対応してやっていくつもりですと、彼女が会見でいろいろおっしゃっています。私、マイナンバーの担当大臣をやった時に、個人情報保護について、日本国内がナーバスになりすぎていて、個人番号と、それぞれの口座を結びつけるっていうことができなかったんです。しかも、個人番号を活用するのは、社会保障と災害ということで、今回のコロナは災害の枠には入っていませんから使えないんです。私は、こんなの政令改正でできるんじゃないかと言ったら、法律で細かく縛ってあるんですと。個人情報に関しては。法律改正しないと、コロナの給付を、口座と個人番号とを結び付けできないんです。ただ、世帯主だけじゃいけないんです。マイナンバー、個人番号っていうのは一人ひとりに割り振ってありますから1億3000万人に。それに一人ひとり用の口座を届けて、紐づけすればですね、例えば、DV対策で、世帯主に行くのじゃちょっと困るっていう人にも、一人ひとりに振り込めるんです。ただ、これは法律改正が必要なんです。我々はそういう必要性もありますよって、随分言ったんですけど、口座と紐づけ、それから使うにも極めて限定してしか使えない、っていう縛りがかかってしまったんですね。だからこの機会に、個人情報保護はしっかりやりますから、もっとこれを(マイナンバーを)フル活用できるようにしましょうよと、いうことを共通の理解にしたいと思います。

山口

甘利さん、今おっしゃったように、2018年の1月から預金口座へ紐づけることは一応できるようになっているわけですよね。

甘利

ご本人の了解が取れないとダメなんですね。これですね、変なうわさが流布されてですね。国税が全部の銀行口座、紐づけして監視するみたいなニュースが出て、いっぺんにダメってなっちゃったんですね。そうじゃなくて、所得把握は大事になりますけど、少なくとも、自分がこの口座に、なんかあった時には入れてここに振込んでくださいというような紐づけを最初、それだけでもさせとけばよかったんですよ。

山口

それで先ほどお話がありましたように、今回のコロナに関しては、当時の法律で非常に厳格に決めているので、災害には当てはまらない、だからもう一回法律改正しなきゃいけない、ということになるんですね。問題なのは、第一段階ということになると思うんですが、国会に、マイナンバーを紐づけする、その法案を出される、ということですが、高市さんが先日おっしゃっていたのは、第二段階の話もされていまして、第二段階だと、すべての預金口座をマイナンバーと紐づけるという話が出ています。すべての預金口座とマイナンバーを紐づけるっていうことになってくると、これまたちょっとナイーブな方からすると、全部の口座を覗かれちゃうんじゃないかと、アレルギーを感じてしまう方もいると思うんです。このあたりいかがですか?

甘利

最初はですね、世帯主さんと、その口座を結びつけると。その世帯主、丸ごと4人いれば、40万円がその口座に行くわけですけれども、本当は家族構成員一人ひとりが持っている口座と結び付けるっていうことが大事なんですね。だからまず、世帯主と結び付ける、次の段階で一人ひとりと結び付ける、その次に協力をしてもえらえれば、その人が持っている口座と、全部の口座と紐づけができれば、色々な、要するに所得に応じて収入に応じて、資産に応じて、きめ細かい財政出動ができるということになっていきますけど、そこはまた少し理解をしてもらう必要があると思います。

山口

やっぱりそこは国民的な合意も必要ですよね。

甘利

そうです。

■混乱の要因 2つのポイント

山口

片山さんは、マイナンバーと口座が紐づけられていなかった、どうとらえますか?

片山

これは二つポイントがあると思うんですね。一つは、甘利さんが言われたように、今回のような、10万円を振り込むようなときには使えない仕組みになっているものを、どこで誤解されたのか、早期に10万円を支給するツールに使うという話をしたのは、これはまったくの勘違いですよね。私は総理が記者会見で言われたときに、あれあれと思って、気になっていたんです。でも、総務省とか誰かが、ちょっとそれは無理ですから訂正してくださいと言いに行くのかと思ったら、訂正されないまま話が進んでいってしまった。結局、現場の市町村が大混乱になって、それで初めて問題点がわかってきましたよね。

山口

片山さんは、もうその時に気づいていらっしゃったんですか?

片山

気づいていました。そんなことができないというのは。政府の中にもわかっていた人は多くいたはずなのに、総理の間違ったメッセージが全く訂正されない。ですから、そこまで政府は意思疎通を欠いていると、驚いた次第です。政策形成の過程でやっぱ不具合があり、それが失敗につながったと思いますね。こんなことはあっちゃいけないですよね。もう一つは、マイナンバーっていうのは、実はマイナンバーって言いますけどね、国民一人ひとりは、自分のためになる便利な制度だと実感する機会がなかったんですよ。

山口

メリットを感じてなかったと?

片山

役所のためじゃないか、ユアナンバーじゃないかという印象ですよね。ところが、今回のように、もしマイナンバーとそれから自分の口座、一つでいいと思うんですけど、当面は。一つを紐づけしておくと、あっと言う間に入金されますよっていうようなことが実際にあるとすると、もしそれが実感されるなら、おそらく任意でいいから紐づけされませんか?と問いかけたら、多分以前よりは応じる人は増えると思います。そうやってメリットがあるということを通じて、段々と合意を形成していく。制度や仕組みを充実させるときに、決して強引にやらないで、そうやって合意を形成するような努力をしたほうがいい。急がば回れだと思います。

山口

甘利さん、いかがですか?

甘利

マイナンバーと紐づけしようとしても法律上出来ないですよ、そういうふうにしようと思ったけど、したらダメということになったのでそれは共通の認識だと思っていたんですよ。だから、まず真っ先に法律改正して、コロナを災害に入れるという作業をしないと出来ないと。これは閣議決定で出来ないのか聞いたら、法律項目にしてあるから法律改正しないと出来ないと、そこからまずボタンの掛け違いがあったんです。それから、片山さんおっしゃったようにマイナンバーカードがすごく持っていると便利よ、ということがないと。だって何に使えるのって、コンビニで住民票って、それ年に何回使うの?って。私がマイナンバーを担当していたときから、保険証を搭載しろと、散々言ったんですよ。ただ現場が大変で何年かかるとか。来年の3月31日以降にようやく保険証。今、病院に私、定期的に行っていますけども、保険証と病院のカードと、それからもう一つ、高齢者の負担割合の紙と3つ持っていかなければいけない。1枚で全部済むキラーコンテンツが必要です、持っているとこんなに便利だというコンテンツを搭載することが大事だと、散々言ったんですけど、遅かったですね。

■“底値で買収”の懸念 資本注入で備え

山口

きょうは、甘利明自民党税調会長をスタジオにお招きして新型コロナに対する経済対策のあり方を議論しています。21日、自民党は第2次補正予算案に向けた提言書を安倍総理に提出しました。

上山

先月30日に成立しました第1次補正予算から見て行きたいと思います。感染の拡大防止や、雇用維持と事業継続、全国民への10万円の給付金、中小企業へ給付金などに予算が割り当てられました。対して、第2次補正予算案に向けた自民党の提言を見てみます。こちらでは、医療機関を支援する交付金の増額。生活や学びの継続のための支援として、就学が困難な学生への支援も盛り込まれました。地域産業への支援では、農業や漁業者への対応が挙げられています。そして雇用・事業継続の支援では、雇用調整助成金の拡充や、家賃の支援制度の創設、そして、大企業から中堅、中小企業まで資本性資金含め10兆円超の資金枠確保を求めています。甘利さん、どれも大切な支援ですが、大企業も対象に資本性資金も含めて資金枠を確保していく、この辺りの狙いは、どういうことですか。

甘利

まず、企業にとってまず必要なのは資金繰りですよね。資金繰りを対応していっても、次にやって来る危機は財務状況が悪化する、バランスシートが悪化して債務超過になったりすると、例えば上場企業なんて株価がドーンと落ちます、倒産の危機にもなる。そうすると海外勢がちゃんと回復したら元に戻る企業だと思ったら、買いに入るわけですよね。底値で買収されて日本の基幹産業が全部外国製になってしまう。そういう事を防ぐためには、まず手元流動性つまり資金繰りに対応すると。それでも次、財務状況が悪化するのを防ぐために資本性の資金を注入してあげる、そして、バランスシートをキッチリと健全に保つということが次にやらなければならないことなんですね。ただ、金額的には相当大きくなりますし、中小企業には渡しきりの資金で対応できても、中堅・大企業には額が大きくなりますから、資本として入れて、回復したら返してもらうということですね。まず資金繰り、次にバランスシート対策ということで、手を打っていく、その枠をしっかり取っていくと。10兆、20兆単位でコミットしておくということはとっても大事なんです。海外勢から買収の対象にされないということも大事ですね。特に基幹産業とか機微技術を持っている企業は買収攻勢に入りがちですからね、こういう時は。

■「保険制度や準備金でリスク分散を」

山口

今回のコロナウイルスの影響はあまりに大きすぎて、国がどこまで支援をすべきなのかという議論も、財源も含めて出てくると思うんです。日本の財政状況を考えれば先進国の中で最悪というレベルにありますよね。甘利さんの中で例えば、コロナウイルスのような、ある意味、災害と言っていいと思うんですが、社会に大きな影響を与える出来事は、これからも引き続き、あり得ると思うんです。国がその時にどのように対応していけばいいのか、もしくは、国だけじゃないかもしれませんが、社会としてどう対応していくべきなのか、いかがでしょうか。

甘利

大事なことは、このコロナ禍の中で日本社会、日本経済社会の中でどういう脆弱性があるかというのを、全部洗いだして、対策をどう打ってと、個々に決めて行くことだと思うんです。国が赤字公債を発行してドーンと資金を出していくと、これは例えば30年50年に1回ならともかく、この種のパンデミックというのは、何年かに1度やって来るということを想定していた方がいいと思います。そうすると、国がすべてのリスクを全部背負ってということではなくて、民間と分担してリスクを背負っていく、民間には、保険制度を作るとかですね、あるいは準備金を作るとか、どういうふうに公と私でリスク分散をして、日本経済全体の財政体力を保っていくか、ということを考えた方がいいと思います。ですから今回、どういう点が日本経済の脆弱性があるのかと、全部、洗い出す機会にしなければいけないです。

山口

それはつまり民間の中で、ある程度、保険的なお金のプールみたいのを作っておくべきということですか。

甘利

何かに対応する準備金で、それを税制対応するとか、そうやって雇用を守る、下請けを守るという装置を持っている企業は、例えば投資機関からランク付けを高く、ESG投資の対象とか、そういう社会の安定に貢献しているっていう評価を持たせるような、評価基準も必要になってくると思います。

山口

確かにそういう意味ですと、持続可能性というのは、今、欧米の企業も非常に重要なポイントにしていますよね。やっぱり株主がすべてだっていう考えが多かったと思うんですが、ここにきて持続可能性、それはもちろん会社の企業の社員も大事にする、地域も大事にする、それを続けていかなければ意味がないわけですから。そうすると今、災害も増えています。去年の台風の15号・19号で支払いきれなかった保険金もあると聞いています。そうすると、社会全体で企業の在り方を変えて備える仕組みを作るということが大事ですね。

甘利

そうですね。

山口

片山さんこのあたりの議論、どのようにご覧になっていますか?

片山

災害の時によく、自助、共時、公助と言うじゃないですか。今回のコロナ危機における企業の対応を見ていまして、やっぱりこの考え方は今回のような時にも通用するんじゃないかと思って見ていました。というのは、比較的規模の大きい企業で、自己資金を持っているところはかなり強いわけですよね。皮肉なことに、内部留保をたくさん持っているところはやはりある程度、余裕があるわけです。そういうところはさらに、コミットメントラインと言って、お金を借りる必要がある時には借りられますよと、金融機関と約束しているわけです。皮肉なことに、と言ったのは、これまで政府は内部留保に対して目の敵みたいに批判してきたわけですね、非効率だと。投資に回すか、配当に回せと。ですけど、今回はそれが本当に大きな力になっているんですよね。さっき甘利さんが言われたのは、共助に該当すると思うんですけど、そういう共助、公助も含めて、自助の部分で内部留保というものも再評価をして、これまでの通りでいいとは思いませんけども、もう少しスマートな形で内部留保を位置づけるというのは、あっていいんじゃないかなと思います。もう一つは、大企業はある程度、体力があるんですが、中小企業はひとたまりもないってところが多いですよね。やはり規模の小ささっていうのはこういう時にはウィークポイントですよね。日本の中小企業というのは、とても規模が小さいですから、これを少しずつ規模を大きくして、M&Aとか譲渡とかいろいろあるんでしょうが、そうしたことを通じて体力をつける、財務面の体質もよくする。そうするとIT化とかが進みますから、そういうこともこれからの政策課題にあがってくるんじゃないかと思いますね。

■「検査しながら経済を回す」

山口

岡田さんも甘利さんに是非きょう、検査のあり方でもお伺いしたいことがあると。

岡田

検査についてなんですけれども、理論物理学の先生で九州大学の小田垣先生という方がこういうことをおっしゃっているんですね。「今の検査の状態のままだと、8割自粛して23日間、経たないと10分の1の感染者数にはならない。でも2倍になったら5割の削減で14日間で10分の1の患者さんまで抑えられる」と推計しています。これは大事な知見でございまして、コロナっていうのは35%くらい症状を出さない無症候性のキャリアがいるわけです、そういう人は当然、市中で見えない状態で感染源になっている可能性がある。検査数が少なければ、軽症、無症状の感染者は発見できなし、有症症状の人も他の疾患に隠れてしまっているかもしれない。こういう人たちが水面下でウイルスを広げているという状況があります。ですから、流行が大きくなる度に、自粛ですとか、緊急事態宣言ですとなってしまうと、経済が非常に大きな打撃を受けます。やはり、理論物理の先生なので理論的なシミュレーションなんですが、検査の件数を増やすことによって、陽性者と陰性者を分けましょう。そして、陽性者は隔離をしましょう、陰性者は、通常通りの生活で経済を回してくださいという、21世紀型の感染症対策っていうのが、現実的に求められるのではないかと。今後、このコロナウイルス問題が収まっても何年かに1回は何かの感染症でパンデミックが起こるという環境下にある現代では、グローバル化の社会の中でそのような対策を模索していくべきではないかと思います。

今の、海外で言うロックダウンですとか、自粛という措置は、スペイン風邪を投入した時代の、100年前の政策でございまして、当時はウイルスもわかってないし、検査もできないし、ワクチンもできないし、薬もないという時代でした。誰が感染者か区別できなかった時代でした。今の場合は検査ができる。で、抗原検査もできるようになった。PCRもできるようになった。しかも唾液でもできるようだ、というようなカードがそろってきますと、今年の秋冬のインフルエンザとコロナがダブルでかかるかもしれない、他の冬季の呼吸器疾患もあり、臨床的な鑑別は難しいという中で、流行に備えるとしましたら。このように検査数を増やすことで、陽性者は隔離し、陰性者は経済を守る。そのようにして、私たちは経済を回せないかと思っております。今年の秋冬になりますと、もしかしたらこのままでいくとクラスターを見つけて、クラスターを追えなくなったら自粛というのが専門家委員の先生方のお考えではないかと。そうしますと、最悪の場合を想定しますと、11月くらいから、11,12,1,2と、4カ月くらいの自粛になってしまうかもしれない。日本経済を守るためには、経済重視かもしれませんけど、検査をしながら経済を回すことを前向きにとらえていきたいと思うのです。

甘利

そうですね、韓国がうまくいったのは、そのやり方ですね。症状が出ない若い人を片っ端から検査して、陽性が出たらどんどん隔離施設に入れておいたということですね。中等症以上の者を病院に送る、ということで濃厚な治療ができるということですよね。私も早くからこれ提案していまして、ビジネスホテルを棟ごと借り切って、そこに全部、検査して陽性の人を入れてですね、ただ急激に変化すると、あれですから、医師を一人立ち会わせると。今、指につけて、パルスオキシメーター、酸素濃度、あれは簡単にできますから、それで変化を見て、これは病院に送った方が良いという人はすぐわかりますから、そうして送っていくっていう、この役割分担ですよね。それから連携、これは非常に有効だと思います。

岡田

ですから、クラスターをつぶしてというようなことは、初期の頃はいいのですが、秋冬だとぐっと患者さんが一気に上がる環境因子がそろうので。流行が大きくなりやすい。ですからこの夏の時期、あす解除になるというこの期に、解除になったっていうことから、今度はキックオフとして、検査を中心にした対策を政府で打っていただけないかというのをお願いしたいと思います。

甘利

そこはすごく大事で、総理も検査数を増やせということを、かなりおっしゃっています。

岡田

どうぞ宜しくお願いいたします。

山口

徹底した検査と隔離、それで経済の再生ということにつながると思います。

■日本の今後「戦略的不可欠性」

山口

自民党の甘利税調会長が今、掲げているキーワード、それが「戦略的不可欠性」という言葉なんですね。甘利さん、これは何を意味するんでしょうか?

甘利

日本が世界にとってなくてはならない国、日本と連携をしないとうちが困る、そういう存在の国になることなんですね。これは例えば、資源国でいえば、中国はレアアース、中国にしかないと。そうすると中国から輸入をしないと成り立たない、というところで、中国の存在感をひとつ持っているわけですよね。あるいはデジタルプラットフォーマー、GAFA(Google、Apple、Facebook、Amazon)を抱えている国なんかは、世界のインフラになって、あれがないと世界中が困っちゃうというのを持っているわけです。だから日本も、バーチャルデーターのプラットフォーマーじゃなくて、リアルなデータ、日本はですね、いろんな分野でリアルの現場の医療とか、あるいは介護とか、モノづくりとか、材料・物質とか、そういう面で世界に冠たる国になっているんですね。そういうリアルなデータのプラットフォーマーとして、世界に、日本と組まないとうちの発展はないな、と思われるような不可欠な国にしていく。東北大学がやっていますバイオバンク、これ、三世代のゲノムを三世代の人に協力してもらって30年間、後を追っていく。これは日本にしかできないんです。イギリスでやろうとしたけれども協力してもらえなかった、米国でやろうとしたって、全体が同じ地域に住んでいるわけじゃない、おじいちゃんはアーカンソー、孫はフロリダとかですね、追っていけないと。日本にしかできないんですね。

そういうデータ、データドリブン(注2)の社会になりますから、解析できるデータ、分析できるデータ、関連付けられるデータをベースにしていくような、日本にしかできない仕組みを持っている。日本は不可欠な国であると、色んな枠組みから日本を外せないということで、ポストコロナでは強みをしっかり掲げていくことだと思うんです。第二次世界大戦が終わって、世界の金融とか財政の安定のために、IMFとか世界銀行ができました。ブレトンウッズ体制と。コロナ後にはですね、米国と中国の差がさらに縮まります。両者の、さらなる覇権のぶつかり合いが出てきます。じゃあ間をとって繋げていくのはどこだ。その時に日本の発言力が無視されないような、不可欠な要素をしっかり持っていくことが、世界の国々をしっかり繋いでいく、繋ぎ役になる日本の条件だと思うんですね。だから21世紀のブレトンウッズ体制ができてくるっていうぐらいの想いでですね、日本はしっかり世界を繋ぐ、立ち回りをしていかなきゃいけないと思っています。

(注2)データドリブン=得られたデータを総合的に分析し、未来予測・意思決定・企画立案などに役立てること

山口

その中で米中の対立が、今、先鋭化しています。確かにトランプ大統領なので、どういう行動をするのか読めないところもあるんですけれども、でも日本は、中国とこの位置関係ですから、上手く付き合っていかなくてはいけないわけで、その米中の狭間でいる日本の今の立ち位置、どのように日本がこの荒波を乗り越えていくべきなのか、このあたりいかがですか。

甘利

まず米国はですね、トランプさんは極めて特異でですね、同盟国と喧嘩しちゃうわけですよね。中国と喧嘩しているだけじゃなくて、ロシアとしているだけじゃなくて、EUとしちゃうと。もう、めったやたら喧嘩売って回っているわけですから、少なくとも自由と民主主義、それから法の支配という共通の価値観の国は、しっかり連帯していかなきゃならないと。その繋ぎ役を日本がやっていくと。そして中国は、もちろん考え方が違う、覇権主義にはしっかり対抗していかなくちゃいけないですし、色々、対峙していく部分はあるんですけれども、その中国を民主的な考え方の中に巻き込んでいくっていう努力もしていかなくちゃいけないと思うんですね。そういうことができるのはやっぱり日本だと思いますし、それが日本の役目だと思いますし。その日本に発言力をしっかりつけるためにですね、戦略的な不可欠性、日本がないとうちも困るなあ、という力をつけていくことだと思っています。

■今、最優先すべきこと

山口

新型コロナ対策で今、最優先になすべきことは何なのか、皆さんに伺っていきます。まず甘利さんからお願いします。

甘利

コロナの克服から経済の復興まで、タイムラインをちゃんと示すことですね。健康の不安、生活の不安、そして経済の不安、復興、こういう手順でやっていきますっていうことをもう一度ですね、時間軸に沿って、きちんと示していく、それがやっぱり不安を解消することだと思います。

山口

デジタルニューディールっていうこともおしゃっていたかと思うんですが、そこいかがですか。

甘利

はい。あの日本はですね、良いところがいっぱいあるんですが、個々に良いところがあって繋がっていかないわけなんですね。それをきちんと互換性のあるものにしていくっていうことです。それから、紙とハンコの文化がしっかりしすぎていて、デジタルを導入しても途中でハンコを取りにいかなきゃいけなくて、ですね、そうするとデジタルが途中で止まっちゃう、というところがあります。ここは思い切って新しいフェーズに行くと、それから日本の強みは何だっていうことをですね、国民が皆、認識して、日本もいいとこがあるよと、大学のシーズは世界で一番優れていますけれども、それがニーズと上手く結びついてないだけなんです。そこの絵図もしっかり示す、ということが大事です。

山口

岡田さんはいかがですか。

岡田

秋冬の流行の対策として、インフルエンザのワクチン、今から作るんだと思うんですけど、これの量を増やすってことが国民のためには大事じゃないかと。

山口

インフルエンザの?

岡田

はい、そうですね。せめてインフルだけでも、発症阻止までいかなくても、重症化阻止をしたいと。オーストラリアではインフルエンザのワクチンを増産して1カ月前倒しするって言うんです。インフルエンザのワクチンの方を、まずは量を増やしていただけたらと思っております。

山口

片山さん、今、最優先にやるべきことは、なんだと思いますか。

片山

私はちょっと今の時期に言うのは的外れかもしれませんが、こういう時にやはり人づくり、教育が重要だなと、つくづく思いますね。未知の事柄が起きてくるわけですね。これに対してどういうふうに立ち向かうか。日本はどうしても正解を探すという教育をずっとやってきていますよね。入試テストなんかもそうですけど。そうじゃなくて、新しいことにどうチャレンジしていくのか、しかも、それは蛮勇を振るうんじゃなくて、きちっと筋道を立てて、先を見通して、人の痛みもわかってという、そういう人が沢山いなきゃいけないんですね。そのためには、例えば自然科学なら基礎科学をもっと重視するとか、人文科学でも歴史とか哲学とか倫理学とか、あと芸術ですね、そういう分野にもっと力を入れる必要がある。今回のコロナ騒動を体験して、つくづくそう思いました。

山口

人を育てるっていうことですよね。はい、あの本当にこのコロナ後の世界がいよいよこの緊急事態宣言、あすにも全面解除ということで、新しい世界に向き合っていく、そこに進んでいくことが必要になると思います。きょうは甘利税調会長にお越しいただきました。どうもありがとうございました。

(2020年5月17日放送)