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#134

列島を襲う豪雨被害 温暖化の影響は・・・「大気の川」の猛威

⇒2019年10月20日『BS朝日 日曜スクープ』放送内容はこちら
台風19号の猛威 温暖化と巨大台風
 
令和2年7月豪雨は、九州で線状降水帯が発生し、甚大な被害をもたらしました。2020年7月12日の『BS朝日 日曜スクープ』は、温暖化の影響や「大気の川」の猛威を特集しました。そして、これまでの観測値だけでなく、将来起こりうる降水を予測して治水に結びつけようとする、最新研究も合わせて紹介しました。

■線状降水帯の出現・・・“降雨”独自分析

山口

九州を中心に各地に甚大な被害をもたらしている令和2年7月豪雨です。政府は激甚災害に指定することを決めました。きょうは温暖化、気候変動の影響と合わせて、専門家の方に参加して頂きまして、この問題を考えていきます。ではゲストの方々をご紹介致します。地球温暖化の台風への影響や日本への影響などを研究している気象庁気象研究所 主任研究官 高薮 出(たかやぶ・いづる)さんです。どうぞよろしくお願い致します。

高薮

宜しくお願い致します。

山口

そしてもう一方です。きょうはリモートで参加していただきます。気候変動を踏まえた治水計画などを研究している北海道大学大学院 工学研究院准教授 山田朋人(やまだ・ともひと)さんです。どうぞ宜しくお願い致します。

山田

宜しくお願い致します。

山口

まずは被害の状況を確認していきます。

上山

今回、数日間にわたって起きた令和2年7月豪雨です。被害の状況を九州南部・北部、そして中部地方と、大きく3つに分けて見ていきます。まず7月4日です。熊本県の南部が被害に遭いました。熊本県の7か所で24時間降水量が観測史上最大を記録、球磨川が氾濫しました。高齢者施設「千寿園」では、14人の方が亡くなっています。また流域の人吉市でも市内で大規模な浸水が起きまして19人の方が亡くなり、また下流の芦北町では土砂崩れが相次ぎました。10人の方が亡くなっています。この被害から3日後、今度は九州の北部が被害に遭いました。福岡県・大分県など5つの県で24時間の最大雨量を記録、一級河川の筑後川が氾濫するなどしました。その翌日、7月8日、今度は中部地方、岐阜県・長野県で記録的な豪雨となり、7つの河川が氾濫しました。一級河川の飛騨川も氾濫しました。そして国道も崩落しました。こうした一連の災害によりまして、これまでに68人の方が亡くなって、心肺停止の方お一人いらっしゃいます。さらに未だに12人の方が行方不明、そして家屋の全壊も42棟で床上浸水も6365棟。本当に甚大な被害・爪痕を残しています(2020年7月22日現在)。

山口

そして新しい情報として、樹齢1000年以上とされている神社の御神木も倒れてしまったということです。昨日の午後10時半頃ですが、岐阜県瑞浪市の大湫神明神社で高さおよそ40mの杉の大木が倒れました。怪我人はいなかったのですが境内の施設や住宅の一部が壊れました。さらに電線が切れて周辺の住宅20戸が停電しました。大雨の影響で倒れたと見られています。この杉の木は樹齢およそ1200年~1300年と推定され、神社の御神木として県の天然記念物に指定されていました。このように非常に広範囲で今も大きな被害が出続けているわけですけれども、高薮さんはこの温暖化の研究問題をずっと続けてらっしゃいます。そして今年もまた梅雨の末期に大きな被害が出てしまいました。どのようにご覧になっていますか?

高薮

まず今回また大勢の方が亡くなられてしまいまして、非常にお悔やみを申し上げます。今回の日本の豪雨ですけれども、広く見てみますと非常にアジア域全体で、モンスーンに伴う降水がものすごく活発です。梅雨前線というのは、実は西の方にいきますと韓国ではチャンマ、それから中国ではメイユーフロント、メイユー(梅雨)前線と言われているのですけれども、そのメイユー(梅雨)前線でも長江の三峡ダムのある所ですね、非常に降っておりまして被害が出ております。そういう全体の大きな流れの中で日本でもこういうことが起きているということです。

山口

山田さんはですね、今回の一連の豪雨の特徴の分析を既にされています。まずは、日本列島全体で山田さんの分析を見ていきたいと思います。映像を流してください。この動画ですね。3日の午前0時頃からの動きになります。そして九州方面に雨雲がかかって、4日、球磨川が氾濫したわけです。

続いて7日午前からの動画を見ていきたいと思います。九州北部に雨雲が残っているのですが、中部地方にも雨雲がかかりました。7日夜になって岐阜県・長野県の上空に雨雲がかかった様子が確認できたと思います。

そしてもう一つ、九州の球磨川が氾濫した九州南部の状況の動画を見せてください。山田さんこの動画を見てですね、やはりこれ球磨川水系に非常に多量の雨が降ったことがわかるのですが、山田さんはどんな特徴を捉えましたでしょうか?

山田

そうですね、まず、最初の動画にありました通り、全国的に梅雨前線が多くの雨をもたらして、広く且つ局所的な雨だというのが見てとれると思います。また、この地域(九州南部)に見ていきますと、線状であり、長い時間、同じような所に停滞していることがわかります。それがこの地域の球磨川の上にずっとありますので、それが川の水位を短い時間に上げてしまって、それが大きな災害につながったものと考えております。

山口

まさにその線状降水帯がはっきりわかるということですよね。

山田

そうですね、線状降水帯自身の色々な物理的定義に関しては、今後分析が必要ですが、線状で同じ所に継続して停滞することが洪水・土砂災害を考える上で非常に危険であるということをはっきりと示す情報です。

山口

大きな被害が出ているわけですが、杉田さんはこの一連の災害どうご覧になっていますか?

杉田

やっぱり非常に残念だったのが、今回の球磨村で「千寿園」という高齢者施設で14人の方が亡くなられたことです。毎回、こういった大きな水害がある時に高齢者施設にいる方々、災害弱者の方が犠牲になるんですね。高齢者施設は大きな面積が必要ですし、家族の方の来訪のために大きな駐車場が必要ということで、広い土地を確保できるところ、つまり川沿いとか、山間部という、言うならば災害の犠牲になりやすい土地に作らなければいけないわけです。ですから災害が予想される時に、高齢者施設から入居者にどう避難してもらうかという避難のあり方というのは、本当に皆で考えていかなくてはならないことだと思います。

山口

本当にそうですね。毎年同じように被害が出てしまうわけで、それを何とか減らしていく必要があると思います。

■「予測の精度向上、喫緊の課題」

山口

今回の豪雨災害で熊本県の人吉市では19人(2020年7月22日現在)の方が亡くなっています。「暴れ川」という異名もある球磨川が氾濫するまでの水位の変化を見ていきます。上山さんです。

上山

はい。こちらのグラフは降った雨の量と球磨川の水位の変化をグラフにしたものです。棒グラフが1時間あたり人吉市で降った雨の量、そして折れ線グラフが球磨川の水位の上昇を示しています。振り返ってみますと午後11時でした。この時に一部の地域に避難勧告が出されました。この時には水位は1mほど。そして降っていた雨も10mmぐらいで、ザーザーとした強い雨が降っているような状況が午後11時ぐらいだったわけです。ただ、ここから日付が変わりまして状況が一変します。午前2時、雨量が増えているのが分かります。これは時間60mmなので、滝のような雨が降ったことになるわけです。これを受けまして球磨川の水位も上がっていきます。午前3時30分、水位が3.2mを越えました。これは避難判断水位3.2mを越えたということですが、この避難判断水位というのは、自治体が避難の勧告や指示を考えるときの基準になる、目安になるような水位なんです。これを午前3時30分に越えた。そして午前4時50分、これは大雨に関する最大レベル、最高レベルの警報、大雨特別警報が出されまして、午前5時15分、市の全域に避難してくださいという強い指示、避難指示が出されました。球磨川が氾濫したという発表は午前5時55分、この避難指示が出てから40分ほど経ってのことでした。

山口

この球磨川流域というのは、いわゆるタイムラインを作ってどういう水位になった時にどういう避難行動を取るのか、そういう訓練も重ねてきた、非常にこの災害の先進地域、対策の先進地域だったと言われています。そういう場所でも今回はこういう大きな被害が出てしまったわけですね。山田さん、これ考えていきますと、今回のようなものすごい雨が短時間に降ってしまうと今のこの治水インフラ、対策では受け止めきれなくなってくるんでしょうか。

山田

今回の雨の量、降雨量というのは、現在のインフラ施設で守ることが可能なレベルを超えた、非常に大きな値です。例えば計画雨量というのがあるんですが、それに対して1.1倍~1.3倍程度の量が降っています。そうしますと、当然施設には限界があるわけですから、その分は災害に繋がる。また、球磨川流域は日本の中でも非常に急峻な地形、三大急流河川の一つです。このように短時間に大雨が降ると、短い時間で川の水位が上がる。特にその特徴を有したところです。

山口

実際に球磨川はこれまでも氾濫を繰り返していました。ただ、今回の被害は今までの被害をはるかに超えていたんです。球磨川が氾濫した際の浸水の被害を熊本大学くまもと水循環・減災研究教育センターが緊急の現地調査を行ったんです。上山さんお願いします。

上山

はい。こちらが人吉市中心部の浸水の深さを示したものになります。被害の多かった人吉市中心部で浸水の深さは各地点で0.6mから最大4.3mに達しています。4.3mを記録したのは支流の山田川との合流地点です。周囲の浸水も3m以上です。比較的標高が高い人吉駅周辺でも1m前後の浸水があります。球磨川沿いの標高の低いところでは浸水がより深い傾向にあることがわかります。


提供:熊本大学 石田桂助教

こちらの写真見ていただきたいんですが、戦後最大の被害を出したのが1965年の7月の水害でした。この時には昭和40年、この電柱に記してあるここの部分まで浸水が来ていた。ところが今回はここですね、「令和2年4.3m」と2m以上上回った地点もあった、本当に過去にない、想定以上の規模の浸水被害だったということが分かります。

杉田さん。やはり大雨が降った時、それから大雨特別警報が出た時が未明で、この辺りがやはり避難行動を促すのに難しいところだったとも思いますが、いかがですか?

杉田

そうですね、明らかに雨の量がもうこれまでとは桁違いなわけですよね、1.1倍、あるいは1.3倍の量が降っている。そうなると今回も悔やまれるのは夜の11時の段階で一部の地域で避難勧告が出ましたよね。ただそれは人吉市の一部に限られていた。なぜもっと広く出さなかったかというと、もう少し様子を見ようということだったと思うんです。ただ、この雨の量が、想定を超える量が降るんだという今の気象状況を考えると、これからは、分かりやすく言うと、外れてでもいいから早め、広め、強めの勧告を出して避難をしてもらうと心構えが原則になるのかなと思います。

上山

高薮さん、避難を的確にするためにも、大雨の予想の精度を上げる、これは大事ですよね。

高薮

その通りですね。実は気象庁でもですね、これは喫緊の課題としておりまして取り組んでおります。とにかく予測が上手くできませんと、なかなかタイムラグを持って避難勧告が出せないということがございますので、その辺は頑張っているということでございます。

上山

これは、近々実現できそうな気配というのはあるんでしょうか。

高薮

気象庁も重点課題として取り組んでおりますし、内閣府の方でもSIP(戦略的イノベーションプログラム)というのがございまして、その中でもその課題をやっております。内閣府の国家レジリエンス(防災・減災)の強化ということで取り組んでいるところでございます。

山口

その点は後ほど詳しく、山田さんも交えて、お話展開していきたいと思います。もう一つ、予測に絡んでダムのことも指摘しておきます。川辺川ダムの建設予定があった、でもそれを建設しなかった、という事が一つテーマとして挙がっているんですが、それ以外にも、課題が浮き彫りになりました。実は去年の10月、関東も襲った台風19号の被害を受けまして、国は新たに発電などを目的にした利水ダムでも事前放流を行うとしていたんです。ところが今回、この球磨川水系にある5基の利水ダムでは事前放流は実施されなかったんです。この理由につきまして、やはりこの突発的な豪雨、それが想定を超えていたということなんです。国土交通省は今後の課題として検証するとしています。

■水蒸気の流れ「大気の川」の猛威

山口

さらに番組ではこの深刻な被害をもたらしている豪雨災害について上空の水蒸気の量、水蒸気の動きに注目してこれから考えていきたいと思うんです。筑波大学の釜江陽一助教が作成した動画を見ておきましょう。

上山

まず、この画面上の青い部分が空気中に含まれている水蒸気を表しています。1日の段階では日本列島の南側に位置しているんですが、熊本で豪雨が発生した3日、西太平洋を北上する水蒸気と、もう一方は南シナ海と中国南東部から回り込んだ水蒸気と2つの水蒸気の流れがあって、それが合流して九州に流れ込んでいる様子というのがこの動画から分かります。


提供:筑波大学 釜江陽一助教

山口

こちら静止画で改めて確認したいんですが、この九州から東日本にかけて非常に水蒸気の量が多い。濃いほど多いところを示しています。矢印は大気の下層の風を表しているという事になるわけです。熊本の豪雨が発生した時なんですが、このあたりですね、西太平洋を北上する水蒸気の流れ。それからこちらですね、南シナ海から回り込んでくる水蒸気の流れ、これが合流して丁度この九州のあたりに流れ込んでいったという構造が分かるわけです。釜江助教によりますと、4日の午前3時の段階なんですが、西日本から東日本の上空、1.5km付近に長さ3000kmにわたって、いわゆる”大気の川”と呼ばれる水蒸気の流れが存在していたという風に分析しているんです。さらにこの水蒸気量なんですが、水に換算した場合に、日本最大の流量を誇ります信濃川のおよそ800倍にも相当する水が、この日本の上空を流れていたという事になるわけですね。高薮さんはこの水蒸気の量と動き、どうご覧になりますか。

高薮

これはやっぱり凄く大変な量だと思います。ただ、これが入ってきて、水蒸気ですから目に見えないものなんですけれども、これが雨粒になって落ちてくるという、そこの仕組みですね、そこが必要なんですね。そこが梅雨前線ですとか、日本の地形ですとか、上空にやってくるトラフとか、色んな要因がありますので、そのあたりの研究は今後やっていかなきゃいけないことであると思います。

上山

これだけの水蒸気量に関係してくることなのかもしれないですが、こちらをご覧ください。高薮さん、日本周辺の海域の海面水温ですね。これ左側が1990年ですけれども、ピンクのところが30度なんですが、この海域が2020年6月のものを見るとじわっと北上してきているようにも見えます。つまり、この海面水温が高いところが北上してきているわけですけれども、こういった状況が水蒸気量を増やす要因になっていると考えられるのでしょうか。

高薮

それはその通りです。実はこれ図が小さくて、もうちょっと南が欲しいのですが、フィリピンの
西側の東シナ海、それからもっとフィリピンの西側にある南シナ海。ここの海水温が非常に高くなっているということが報告されています。先ほど釜江さんが示した画の通り、そこから延々と大気の川というのがやって来るわけです。そうしますと、フィリピンの東、青くなっていますけど、あそこから流れ込んでくるわけです。

高い海面水温の所というのは海面の気温も高いですし、気温が高いと1℃あたり7%水蒸気量が増えるということが分かっていますので、そうすると大気の川がより分厚く強力になってやって来ると、そういうことですのでSSTが非常に大事な要素だと思います。

山口

SSTというのは?

高薮

海面水温です。

上山

ずっと上がってきて、下がる気配はないということなんですが?

高薮

実は、この海面水温が上昇すると言ってもトレンドとして温暖化はあると思います。ただ、日々の変動もございますので、そういうことも加えたものとして“見えている”ということですので、温暖化の難しいところなんですが、ここの温度が高くなったからといって、それがすべて温暖化のせいだとは言えません。

上山

様々な要因があると。

山口

そうですね。増減を繰り返しながら、でも100年という単位で見て行くと大気温も日本近海の海面水温も1℃以上、上がっているということになるんですよね。

高薮

その通りでございます。

■温暖化で降水量は・・・ 日本の将来

山口

杉田さんは温暖化との関係というのは、いまの日本の災害について考えることは、いかがでしょうか?

杉田

先ほどお話に出た、中国では80年に一度と言われている豪雨が起きているわけですが、揚子江にある三峡ダムという中国の産業にとって非常に重要な巨大なダムが本当にもつのか、決壊するのではという懸念が出ています。中国におけるGDPの6割ぐらいが、この地域で作られているし、日本の企業もたくさん工場を持っている。中国の今回の豪雨はほんとに注目すべきと思うですけども、今回の日本の豪雨と連関するものと考えた方がよろしいんですか?

高薮

その通りでございます。先ほど釜江助教が出した画ですけども、確か、中国大陸から迂回してくる流れが見えていますね。ですので今回、日本に水蒸気をもたらした流れと一連の流れとして長江のほうにも流れ込んでいるということですので、東アジア全体で考えていただくと物事が見えてくるかと思います。

杉田

海面水温が今後もどんどん上がっていくと、この後どうなるんですかね。大気の川がどんどん出来ていって、雨が果てしなく降り続けるみたいな状況が想定されるんですか?

高薮

ただ、7%増えると言いましても、循環が、つまり流れがどう変わるかということもございます。今回は太平洋高気圧が南に張り出しているということがあります。そのために、その縁辺を流れる流れが中国を狙い撃ちしたということなんですが、それがなぜ起きているかというと、実はちょっと話が大きくなってしまうんですけど、インド洋です。インド洋で対流活動が非常に活発です。インド洋で対流活動が活発になるとシーソーのようにフィリピンの周辺は対流活動が抑えられます。そうすると、そこは晴れるわけです。晴れれば海面水温は高くなりますから、そういうこともあるかなと思います。色々な時間差、スケールの現象がお互いせめぎ合いながら起きているということが事実でございます。単純に温暖化したからどうなるというふうには言えないところがございますが・・・。

山口

山田さんはいかがですか。今回の水蒸気量、大気の川という話がでました。これと西太平洋の水温の高さインド洋の水温の高さなどありますがこの辺りの関係どう捉えていますか?

山田

水蒸気の量と雨の関係ですが、先ほど高薮さんがおっしゃられたことにつながります。例えば1℃温度が上がりますと7%水蒸気が増えうるということです。実際に起きた雨を分析してみますと、おおよそ、この関係に従うんですね。私たちは気象モデルを用いてこれからの天候、気候を予測しているんですが、この結果を見ますと、例えばこれから1℃、2℃上がった将来というのは、例えば1.2倍ほど大雨の程度が大きくなるとか、4℃上昇という予測があるんですが、それぞれ1.3倍~1.4倍という値です。今回のような大雨が非常に常態化するのでないかという予測になっています。

山口

気温が上昇する。海面水温が上昇するということが水蒸気量を増す、それが災害につながると言えるかと思います。温暖化について本当に温暖化しているのかどうかという風な疑問を持つ方もいらっしゃるかと思いますが、ただ、国連の気候変動に関する政府間パネル・IPCCの中でも、地球温暖化は疑う余地がないという報告がされているんです。高薮さんはこうした研究にも参加されていると伺っております。今後、日本の災害が、どのようになっていくのか、どんなふうにご覧になってますか

高薮

先ほど山田先生が言われたことが、非常に良いイントロダクションになるんですけど、確かに将来2℃温度が上がった時、4℃上がった時に、どのぐらい降水量が増えるかというのは計算で出すことは可能です。そうしますと先ほどの7%かける2とか7%かける4ということでかなり増えるということが分かっています。いま図が出ておりますのでそれに従って説明させていただきます。色々な研究がございますが、その中で一つだけ引っ張って参りました(図は横山千恵・東京大学大気海洋研究所特任助教らの2019年発表論文より)。気候変動に伴う降水特性の変化ということで、左側に日本列島があって赤とか黄色とかありますが左側が1980年~2005年、つまり今回のような広域豪雨が、どのぐらいの頻度で起こり得るかということを、気象庁で作成した大規模な気象の再現データ(JRA-55)と、それからGPM(全球降水観測計画)と言ってレーダーを搭載した衛星があるんですけども、それとの結果を融合して作ったものでございます。それから右側に2075年~2100年と言いますのが、先ほど山口さんからご紹介ありました、IPCCで使う基礎データであるシーミップ(結合モデル相互比較プロジェクト)という全世界で作っている全球規模の大きな予測結果があるんですが、それに紐づけまして将来、日本付近の雰囲気がどのぐらい広域豪雨を起こしやすくするかというのを示したものでございます。そうすると左側と右側を比べますと、左側の画は確かに九州とか四国、そのあたりに豪雨が限定されておりまして、今の状態と非常によく対応するんですけども、右側の画を見ますと、それがものすごく広がっておりまして関東地方、日本海側、東北地方、こちらの方に住んでいる方にとっても今後このような災害をもたらすような豪雨の起こる可能性が高いという結果でございます。

山口

これを見ると本当に東の方にも影響が出てくる。ですから去年の台風15号、19号でやっぱり他人事ではない、どこでも水害が起きる時代になったのかなと思いますが、これをみると豪雨に関しても関東、東北、日本海側にも広域の豪雨が広がってくる可能性が高いということが見て取れるわけです。

■「将来予測も加えて治水を」

山口

こうした災害が増えていることを受けまして、国土交通省は6日、気候変動に伴う激甚な災害に備えるために防災・減災総合対策を公表しました。

上山

具体的には、ダムの整備だけではなく、土砂災害の危険がある地域は開発を規制し、住宅移転を促進します。さらに、調整池、ビルの地下にある貯水施設を整備して雨水をためる。また、既存のため池や田んぼなどの貯水機能も活用するとしています。そして、農業用・発電用などの利水ダムでは大雨の前に放流します。

山口

この流域治水という考え方なんですが、つまり、ダムだけに頼るのではなく、地域で様々な物を組み合わせてカバーする、そういう方向にシフトしていくという考え方になると思うんですが、山田さんに伺います。今後もちろん、この流域治水という考え方があります。それから今、コンピューターの性能が上がっていますよね。シミュレーションがどのくらいできて、どのように対策に結びつくのか、これからの将来像をどのように捉えていますでしょうか?

山田

そもそも治水というのは、おおもとは国造り、地域づくりですね。今もそれは変わらないものなんですが、その流域治水というのは、これまでの行われてきたインフラ対策、河川、ダム、遊水地等がありますが、それを基本としながら地域・流域全体で守っていこうというものなんですね。またそうしますと、それは住んでいる人たちが自分たちもそこに、どういうふうに役割を果たすべきかというところがより問われるということになります。そのぐらいでないと、今回起きた豪雨、昨年もそうですが、そのような近年起きている大雨、また今、私どもが予測しているような温暖化の状況における、将来考えられる雨、これに対応する術というのがなくなってしまいます。今、私も高薮さんも委員を務めました国土交通委員会や、関連する委員会において、これからは流域治水と将来予想される降雨の両方を考えて治水に取り組むとしている。気象モデルの精度・再現性が上がってきました。これによって、これまでは観測してきた雨の量や、それを統計的に考えたものからこのぐらいの程度の雨まで守ろうと考えてきたんですが、それに加えて、気象モデルによる計算結果から得られる、将来物理的に生じ得る降雨現象も含めて議論しようと。今後の治水を進める上で。より後悔を最小化するような方法を先手先手で探していこうと、そういう動きになってきました。

山口

高薮さんはどうですか?特にヨーロッパなども色々研究を進めているようですが、各国もやはり温暖化対策に力を入れる、そのくらい追い込まれていて、そしていろいろな対策を実際にもうやっているということなんでしょうか?

高薮

例えば、イギリスですと、もう2002年からそのようなデータを作ってやっておりまして2018年にリリースされました第3回の予測データの中では、特にこういった極端な現象に注目したような細いモデルも動かし始めています。また、オランダはちょっと別のユニークな方法をとっていますが、シナリオを作ってそれに対する対応をやるとか、そういうことをやっております。我々日本でもこういうようなことに対応しまして、さっき紹介しました内閣府の SIPのプロジェクト(線状降水帯観測・予測システム開発)ですとか、あるいは温暖化に関しましては文科省の研究プロジェクト(統合的気候モデル高度化プログラム)、とかでやっておりますので、できるだけ国民に貢献していくようにしていきたいと思っております。

山口

本当に私たちもなるべく温暖化を防ぐように、CO2を少しでも出さないような取り組みをしていくことが大事なんじゃないかと思われるわけです。高薮さんと山田さん、どうもありがとうございました。

(2020年7月12日放送)