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#144

新型コロナ&インフル 同時流行の懸念

秋から冬にかけて、新型コロナとインフルエンザの同時流行、ダブル流行が懸念されています。2020年9月27日の『BS朝日 日曜スクープ』は、最前線の現場でインフルエンザの治療に当たってきた医師に、同時流行への対処法を伺いました。

■入国宣言“緩和”での条件

山口

新型コロナウイルスで政府が懸念するインフルエンザとのダブル流行。どういう懸念があって私たちは何に気を付ければいいのでしょうか。きょうは最前線でインフルエンザの治療に当たってきた医師と具体的に見ていきたいと思います。ではゲストの方々をご紹介いたします。感染症専門医・呼吸器専門医として毎年多くのインフルエンザ患者を診察している国立病院機構東京病院・感染症科部長、永井英明医師です。どうぞよろしくお願いします。

永井

よろしくお願いします。

山口

そしてもう一方、政府の新型コロナ感染症対策分科会のメンバー東京財団政策研究所研究主幹、小林慶一郎さんです。どうぞよろしくお願い致します。

小林

よろしくお願いします。

山口

ではこちら世界地図で感染者の状況をみていきます。世界の感染者数ですが、3274万人を超えました。死者は99万2千人と100万人に迫っています。世界全体の日別の感染者はこのようになっています。24時間の感染者は、24日、36万人を超えました。ずっと20万人台で推移してきたのですが、9月に入り30万人を超える状況が出始めました。世界の感染者は減らずに、もう1段上がったという状況で各国が対応に追われています、上山さん。

上山

スペインでは21日1日の感染者が過去最多の3万人を超えました1日の死者数も160人を超えています。首都マドリードの一部地域を封鎖、全域封鎖の話も上がっています。さらにフランスでも1日の感染者が2万9千人を超えています。対策として月曜日から、マルセイユの全てのバーが閉鎖されパリの店舗は営業時間を10時までに短縮されます。そしてイスラエルでも1日の感染者が1万人を超え、国民の移動制限が強化されています。

東京オリンピック・パラリンピックの開催には日本だけでなく、世界の状況も影響します。小林さん、10月から入国制限がさらに緩和されますが分科会で懸念の声はなかったのでしょうか?

小林

入国者は、受け入れの団体がしっかりしていると、防疫処置が、入国した後ちゃんとできるという前提の人は、どこの国であっても受け入れようということになってきております。あるいは、日本に生活基盤がある家族がいる人、留学生のような方は受け入れようと。それは、日本でちゃんとモニターできるという前提だと思います。ただ、おっしゃるような懸念があることは確かなので、しっかり検査をやって且つ入国後の2週間程度の行動のチェックがちゃんとできる体制を作っていくこれが必要だと思いますね。

山口

WHOテドロス事務局長「全世界の感染者の約14%が医療従事者で、一部の国では35%に達します。感染リスクだけでなく、医療従事者は毎日、ストレスや燃え尽き症候群、汚名、差別暴力にもさらされています」。世界で医療従事者が大きな負担を強いられているということです。永井さん、世界中で様々な経済対策が始まっていますが、そうした政策のあおりを受けるのが医療従事者です。同じ医療従事者としては複雑な思いもあるのではないですか?

永井

テドロスさんがおっしゃてるような比率で日本の医療従事者に感染が広がっているとは思えないので、きっと、スタッフの方たちは熱心に感染対策をやってらっしゃるんですね。ただ、そういう状況ですけれども、さらに患者さんが増えて負荷がかかってくると、なかなか忙しい中で手が回らなくなってしまいますので、リスクが上がってきますね。ですから数は減ってほしいというところですね。

山口

世界中が感染対策に力を入れながら、一方で経済の支援もしなくてはいけない。その中で感染者を増やさないようにしなければいけない。相当、政治側も力量が問われる難しい問題だと思うんですが、このあたり片山さんはどういう風に感じてらっしゃいますか。

片山

とても難しい問題だと思いますね。ブレーキをかけて感染者数を減らす。だけど経済を殺してしまってはいけませんから、アクセルも適度に踏まなければいけない。この塩梅ですよね。ひとつ気になりますのは、ブレーキのかけ方は、もっぱら地域・地域で違うわけですよね。医療機関の力量、能力、キャパシティーも違いますし、感染状況も違う。ところが、Go To トラベル・キャンペーンのようなアクセルは、全国一斉にやりますよね、東京も一緒に加われば、名実ともに全国一斉になります。その際、やはり観光などは地域単位でアクセルをうまい塩梅で踏めるような、そういう風な仕組みにされた方がいいように思いますね。

山口

全国一律ではなくて状況に応じてっていうことですね。

片山

そうです。地域の状況に応じて、どこまでアクセルを踏んでいいかってことですね。それはもっと地域の判断、自治体の判断が尊重されるべきだと思いますね。

■「100人を超えないレベルで・・・」

山口

東京の現状について考えます。いよいよ東京もGoToトラベルに参加するということになるわけですけども、きょう、東京の最新の感染者数は144人と発表されました。ただ、昨日が270人、おとといは195人、23日は59人。こうやって見てくると、全体の流れとしては下がってきたように見えて、ちょっと横ばいなんですよね。それから、数にもだいぶ差があるように思えるんですよね。

この背景に何があるのか考えますと、検査体制という事が言えると思うんです。東京都の検査の実施件数の推移です。連休明けの23日(水曜日)、今月最多の6452件行われています。その前日の火曜日は1914件でした。今、東京都で表れている感染者数は検査の数によって大きく上下動しています。

そして26日の270人の感染者の年齢別データです。最も多いのは20代の62人、ついで30代が52人ですが、40代以上が137人と半分以上を占めています。 重症化リスクのある年代へ感染は広がっています。感染状況が分かりづらくなっているのですが、東京都医師会の猪口(いのくち)副会長は「感染拡大のリスクを高める機会の増加により、新規陽性者数が再び増加する傾向に転じ、急速に感染拡大することが懸念されます」 。急速拡大を懸念していると発言。さらに、厚生労働省のアドバイザリーボードは「減少傾向に鈍化がみられる」と、なかなか減っていかないと見解を示しています。

再び拡大するのか、減るのか、どちらに転ぶかわからないと警戒感を強めていますが、小林さん、分科会でも経済政策について議論する中で「減り切らない」現状は足かせのようになっていますか?

小林

一つは人の流れが増えること減ることと、感染者が増えること減ることの相関関係が7月以降弱まっているという結果が出ているんですね。携帯電話の位置情報を使った研究が今、進んでいまして、そうすると人出が増えても、みんなが気をつけて3密を避けるとか、飲酒だとか深夜までの飲食を避けることができれば、買い物だとか旅行が増えたとしても感染が増えないんじゃないか、というのが今、分科会の考え方でして、だからこそ行動に気をつけてください。特に先週の分科会で発表した資料の中では、7つの場面というのを挙げているんですけど、飲酒を伴う飲食とか、あるいは集団生活とか、そういう7つの場面を避けることができれば、人出が増える、経済活動が活発になるということが、必ずしも感染の増加につながらないから、気をつけながら経済を回していこう、そういう考え方でやっています。

山口

そこ大事ですよね。人が多くなったとしても、今、出ているようなことをしっかり気をつければ防げるんじゃないかということですね。ちなみに人数については、例えば東京で見ると何人くらいで抑えていれば、経済をどんどん進めて行っても大丈夫なのかという、目安みたいなものは、皆さん考えていらっしゃるんですか?

小林

人数の水準自体は、まだ分科会の中でこの数字という合意が出来ているわけではありませんけど、今の水準をもう少し、低い水準のところで安定してもらいたいということを我々は考えています。今はまだちょっと高すぎると。せめて東京で100人を超えないレベルで、ずっと安定的に推移するような、そういう感染の状況になってほしいということだと思います。

山口

永井さんにも色々伺っていきたいんですけど、新型コロナが全国に拡大する中で、国立国際医療研究センターから永井さんがいらっしゃる国立病院機構東京病院に協力の要請があったということですが、どのような要請だったのですか?

永井

うちは結核病床を100床持っていて、東京全体で450床くらいしかないんですけど、東京の中で一番大きい結核病床を抱えているんですが、第1波のときに、国立国際の方から、あそこも結核病床を持っているんですが、そこを閉鎖してコロナ病棟にするので結核患者を受けてくれと。それで当院も当然受けると。それに引き続いて都立病院が1つと、大学病院が2つ、結核病棟を持っているところがみんなコロナ病棟に変えるので、結核患者さんを受けてくれという話があって、我々のところはそれを受けているんですね。従って今、唯一と言っていいくらい大きな結核病床を持っているので、うちの病院の結核患者さんの中でコロナが出てクラスター発生すると、もうアウトなので今結核患者さんが入院する場合は、必ず一旦個室に入ってコロナ検査をしてから結核病棟に入るというような、それに注意しながら結核患者さん見ています。1つの感染症が流行しているんですけども、わが国では、結核はまだまだいますので、他の感染症にも目を配っていかなければいけないという思っています。

山口

同じ東京の中で病院として助け合ってなんとか今、乗り越えようとしているってことですね。

■秋以降に備えるべき、発熱者の来院増加

山口

こうした状況で懸念されているのが秋冬、インフルエンザとのW流行です。菅総理は 「秋以降、季節性のインフルエンザの流行期には、発熱等の症状を訴える方が大幅に増え検査や医療の需要が急増する恐れがあります」。田村厚労大臣も「例年より多くのインフルエンザとなれば1日30万件やそれ以上の発熱者が来るかもしれない」と、W流行が新型コロナ対策、喫緊の最重要課題になっています。永井さんはどうお考えですか?

永井

すでに冬のインフルエンザシーズンを凌いできた南半球のデータも出ていまして、インフルエンザの患者さんはだいぶ減っています。しかも、今年の2月、3月、冬の時期、インフルエンザの患者さん、もの凄く減っているんですね、日本でも。他の国でもだいぶ減りましたという報告は上がっていて、それはもうコロナ対策やっているからだと。一番のメインの理由はそうだろうというのは、どの国もそう考えていて、従ってこの冬も、実はインフルエンザ患者さんの数はそれほどでもないと予測はしていますが、ゼロではないんで、発熱の患者さんがきた場合は両方考えなくてはいけない。

山口

そこですよね。南半球では確かに今シーズン、インフルの流行があんまり起きてないとされていますよね。ただし北半球がこの後どうなるか分からないってところもありますし、ゼロではないわけで、もし患者が増えてしまったり、そういう方がくると、医療機関としてはいろいろ大変なことが起きてくるってことになるわけですね。このあたり小林さんにも伺いたいんですが、分科会の中でインフルとのW流行については、どんな議論になっているのですか?

小林

当然、Wの流行に備えた検査体制や医療体制を作っていくということは、田村厚労大臣が言われているようなことと一致しているわけです。順番としては、とにかく町のクリニック、開業医の皆さんのところに相談が電話でやってくると。その時に感染状況にもよりますが、例えばインフルエンザの方が流行していて、コロナがそれほど流行していないときであれば、まずインフルの検査をそれぞれのクリニックでやってもらって、それが陽性であればそのインフルの治療をやると。そうでなければ、検査が陰性なのに症状があるということであれば、コロナの抗原検査をやって、それで陽性が出れば確定。そうでなければ、さらにPCRの検査で確認する、そういうような流れになっていくんだと思いますけれども、きちんと、発熱した人に対応できる体制を各地の診療所などで作っていくということが課題になっていると。ですから抗原検査20万件やると、これは国の方針で来ていますが、それに加えてPCRを今6万件ほどできると、この能力でとりあえず現場は回るんじゃないかということ、そして今、技術開発でインフルとコロナ、両方を一度に検査できるという新しい技術も開発されていますので、それも早く実用化されて、確か、これは抗原キットだったと思いますので、それがもし普及すれば町の診療所などでも使えるようになるということなのではないかと思います。

山口

そのように想定して備えようということは、つまり議論されているわけですよね。インフルエンザの感染者の数ですが2017年から18年では推計で1400万人感染したといわれています。ほとんどが冬に集中していますので、流行すれば医療機関の大きな負担になるわけです。

流行しない可能性もあるのですが、流行しなければ安心というわけではありません。発熱者のこのような現状があります。 「いつもは発熱しても病院に行かず市販薬で治すが、今は会社から「病院で診断を受けなさい」と指示されている」。38度くらいまでなら、病院に行かず市販薬と寝て治すというような人たちも、今は会社や家族から「病院で検査してきて」と言われるケースが多くなっています。

永井さん、インフルエンザの流行だけでなくいわゆる風邪など発熱した人たちが増えるということに懸念があるわけですね?

永井

今おっしゃった、多分、そのような形で来られる人が増えるだろうと予測しています。一般の普通の感冒でもいますので、そういう方たちも当然、お家で今まで治していたのが心配で来るということで、多分、外来がそうとう増えるんじゃないか。ではその時の交通整理をどうするのか、というのは、今からいろいろ考えていますけども、これは各施設の発熱者の動線を考えると、一律に、すべてこうやりましょう、というのはなかなか難しいいと思っています。

上山

片山さん、この冬は会社などが発熱した社員に検査を義務付ける可能性もありますよね?

片山

それは会社もやはり業務を持続させようと思ったら、そういう自己防衛のようなことをされるところも増えると思いますね。その時に気になりますので、先ほど、永井先生が言われたように、医療機関に行ったはいいけれど、単なる感冒だったのにかえってインフルエンザとかに感染するリスクありますよね、そのリスクがないように安心して、その検査を受けられる、そういう体制をとっていただきたいというのが一つですね。もう一つは会社の方から行けと言われて、その結果陽性になりましたと仮になったときに、決してその人を白い目で見たりしないで、みんなで早く回復を祈ろうねと、そういう風な社内での環境、社会全体がそうですけど、会社の中でもそういう環境を作らないといけないと思いますね。

■新型コロナ&インフル 同時検査は!?

山口

やっぱり気になってくるのが検査ということになってくると思うんですよね。どのように検査するのか、永井さんは 「インフルエンザと新型コロナ、同時感染している可能性があるため、インフルエンザの検査だけでは不十分。新型コロナの検査は必ず必要」ということです。

同時感染の可能性ですが、日本でもこのようなケースがあります。40代の日本人女性です。4月、発熱と喉の痛みでかかりつけ医を受診し、新型コロナとインフルエンザの両方の検査を受けたところ、新型コロナ、インフルエンザ両方とも陽性と診断されました。女性は人工呼吸器をつけるなど重症化。その後、人工呼吸器を外すことができたということまでわかっています。永井さん、同時感染は重症化リスクが高いのでしょうか?

永井

重症化するリスクは上がりますね。我々もインフルエンザだけでもECMO(体外式膜型人工肺)を回すとこまで行った人も結構抱えていましたので、インフルエンザ=ECMOに行かないというわけではないので、両方でそういうリスクの高い感染症もらったら、やはり危ないと思っています。ですから鑑別は非常に慎重にならざるをえないかなと思っていますけど。

山口

なるほど、だからこそ検査をしっかりやらないといけないということですね。では実際に同時感染というのはどのくらいあるのか。中国ではこのような事例があります。中国・武漢市の病院、1月12日~2月21日、307人の新型コロナの患者を調べたところ176人がインフルエンザにも感染していたということです。インフルエンザの流行度合いによっては普通に起こり得るということです。

永井さん、同時感染があるとなると新型コロナの検査が非常に重要になってきますね。

永井

非常に重要だと思います。中国・武漢市の病院ほど高い比率とは考えにくいんですけれども、やはり両方、感染しているリスクを背負いながら、考えながら、日常、臨床に当たったていないと、難しい局面に遭遇すると思っていますので、うち(国立病院機構東京病院)では同時に検査するという方向で準備しています。

山口

具体的にどういう方法で同時にやるのですか?

永井

うちは検査そのものは違うんですけれども、1つは唾液のLAMP法は自前で出来る体制を整えたので。そうすると1時間くらいで結果が出るんです。同時にインフルエンザについては鼻かみ液を使う。鼻かみ液も今、迅速診断キットを使えるんですね。何しろ鼻咽頭に綿棒を入れるのが、一番、しぶきを浴びそうなんです。それにはフル装備で行かなきゃいけない。鼻咽頭から検体を取るってところが結構ストレスです。医療現場としても、その都度その恰好をしていられるかと。まあ1人がそのままで居ればいいんですけど、まあそれは無理でしょう。従って出来るだけ、それをなくす方法で動線が重ならないように考えています。

山口

なるほど、それは永井さんの病院ではできるということですけど、一般のクリニックではそういう事できるんですか。

永井

多分出来ないと思います。

山口

そうすると、どういう事が起きると想像されますか?

永井

やはり発熱者にどうするか、というところが決まってなくて、開業医の先生方も非常に心配していまして、発熱者が同時に来た場合に、1カ所にとどめておいていいのかという話も出てきますので。例えばインフルエンザ、後に出てくると思いますけど、インフルエンザとコロナの人がわからないのに同じ部屋の発熱者として一緒にしていいのか、現場は悩んでいます

山口

そうですね。そこ難しいですよね。

永井

非常に難しいと思います。

■「発熱患者」検査の懸念① 検査数と結果判明までの時間

山口

病院に訪れる「発熱患者」をすべて検査するとなった場合、2つの懸念があります。1つが検査数です。厚生労働省は1日の最大PCR検査能力を約7万件としていますが、 1日30万件の発熱患者が病院を訪れる可能性があります。これに対応できるのか、検査数が再び課題になります。さらにもう1つは永井さんの懸念で検査結果までの時間です。「病院によってはPCR検査を受けてから結果が出るまで2日~3日かかることも多く医師の対応が難しい」ということです。永井さん、先ほどLAMP法の場合にはすぐ出るということでしたけど・・・

永井

それは自前でやるからです。外注にするとだめです。

山口

そうすると2日~3日かかるとなった時に医療現場ではどういう事が心配されるのでしょうか。

永井

非常に強く疑う患者さんは隔離して経過を見る必要があるので、入院して頂いて結果を待っています。陰性になって初めて解除するという形をとりますので、うちの病院でも外注にすると翌日の夜の10時に結果が返ってきます。ですから間に合わないのでLAMP法を自前で準備したということになります。

山口

その検査結果までの時間が相当、鍵になってくるわけですね。上山さんお願いします。

上山

こちらが検査を受けて、結果が返ってくるまでの時間を調べたものです。地方衛生研究所、大学病院、医療機関、民間検査会社を対象にしていますが、地方衛生研究所は半日以内が14%、半日から1日以内が70.4%、大学病院と医療機関はほぼ同じで半日以内が37.5%、半日から1日以内が25%、1日から2日以内が37.5%。そして民間検査会社では半日以内がゼロで2日以上が30.8%と、民間の検査会社では検査から結果までに時間がかかっているのがわかります。

永井さん、民間検査に委託しているのは自前で検査できない町の病院だと思いますが、そういう病院では時間がかかるということですか?

永井

そうですね。お願いしないと、まず無理だと思います、確実な検査という意味では。

上山

そうすると、町のお医者さんにとってはどういったことが大変になるのでしょうか。

永井

そこがまさに議論しているところで、その間にその患者さんどうするか、ということなんですけれども、余裕、スペースがあるクリニックさんだと駐車場で(検体を)取ってきてもらうとか、考えてらっしゃるようですけれども、ビルの中のクリニックさんだと難しいわけで、まだ結論は出てないですね。医師会の先生方も非常に今、どうするか考えているところだと思います。

上山

小林さん、こういったこのPCR検査の結果が出るまでに時間がかかるというところ、これは大きな問題がありそうな気がするんですけれども、例えば、この検査のスピードを上げるということに関して、分科会では何か話し合いというのはあるんでしょうか。

小林

これは先ほども出た抗原、迅速抗原キットを使った検査を20万件に増やしていこうということですから、まずは町のお医者さんというか、クリニックなどでやる検査としては多分、迅速抗原検査でやるということになると思います。精度が悪いのでPCRなどに比べると偽陰性が出る可能性というのはありますが、ただ陽性が出れば、そこで擬陽性が出るかもしれませんが、陽性が出れば、一応そこでコロナだと確定して治療ができるところに運んでいくと。迅速抗原検査でまず町の病院は、そこでスクリーニングすることが考えられる手立てなのだろうと思います。

山口

その鼻の奥まで綿棒を入れなくても入り口だけでやるという話も今、分科会で出ているんですね。

小林

そうですね。分科会の方ではそういう技術が今、抗原検査で使えるようになったのでフル装備でやらなくても、患者さんが自分で取るというやり方ができると思われるので、それで普通の町のクリニックでもコロナの抗原検査ができるんじゃないかという話になっています。ただ、まだそれが広がっていないようですので、ちょっとどうなるのかっていうのは、まだこれからの様子を見ないといけないと思います。

山口

永井さん。そういうのがもし広まれば、町のクリニックでも随分、対応が違ってくるということですね。

永井

そうですね。

■「発熱患者」検査の懸念② 待合室の整備

山口

それでは次のポイント、先ほど、お話が出た流行期、待合室がどうなるのかということを見ていきます永井先生によりますと「インフルエンザや風邪が少ない春から夏は「発熱」を隔離すればよかったが、これからは発熱患者をひとくくりに隔離できない待合室をどう整備するか」。これまで待合室は発熱者と他の患者を分けることで一定の対応ができていたのが、インフルエンザや風邪のシーズンに入ると、発熱者の中で風邪やインフルエンザ、新型コロナの患者が発熱者の中で混ざるリスクが高まっています。当然、ここで感染し合うリスクもあります。

永井さん、そうなると待合室で1人1人分けなくてはいけなくなりますが、どうすればいいでしょうか。

永井

もう現実的には無理でしょうね。それをもう既に心配している開業の先生方、結構いらして、どうしたらいいかと頭を抱えているところですよね。動線を予約制にして、しっかり時間を決める、時間的な差をつける、空間的な差じゃなくて。1つはこの「ずらす」というようなこと、1つの方法としてはありますよね。

山口

永井さんのところではどうしようとしているんですか。

永井

うちはスペースを全部、個室までいかないんですけど、小さいくくりの所を7つくらい作ってありますので、順番に発熱者はそこに入って頂いて、全部その場で検査して帰って頂くなり対処するっていうことがあります。ある程度、スペースがある施設だからできることであって。

山口

片山さん、インフルを含む発熱者の来院増加に備えて病院も対応しなければいけないということだと思うんですが、一方で今までのコロナへの対応だけでも相当、この金銭面を考えても、疲弊している病院が多いと思うんですね。そういう中で発熱者の来院増加にも対応しなくてはいけない、これ相当大変だと思うんですがいかがでしょうか。

片山

やはりある程度の財政支援が必要だと思います。第1波の時にはPCR検査の件数の制約があって、発熱4日間待ってくださいとか、そういう話になっていましたが、今度は待合室が混雑するのでちょっと待ってください、というような話になりかねませんから。だからできる限り、永井先生が言われた動線の問題だとか、それから予約制なんかがスムースに行えるような、そういう体制を整えていただきたいですね。それには都道府県が私は中心になると思うのですけれど、医療機関の実情をよく調べて、ある程度の支援をする、財政支援することが必要だと思います。それに対して国は、都道府県にその裏打ちと言うか、しっかり財政支援する。そういうやり方が必要だと思います。

■永井医師が重視する「マスクと手指消毒」

山口

ではW流行が起きる場合にどういう所の対策が必要になってくるのか、やっぱり大事なのはインフルエンザのワクチン接種です。今年の量がどのぐらいあるのか見ていきたいと思います。厚生労働省によりますと、インフルエンザのワクチンは過去5年で最大量、およそ6300万人分を用意しているということです。接種方法ですが10月1日から高齢者や心臓などに病気のある人が優先的に打つことができます。そして26日から、医療従事者や基礎疾患の人に早めの接種を呼びかけていますが、誰も接種できるようになります。インフルエンザワクチンの接種も重要ですが、永井さんは対策として重要視しているのが「マスクと手指消毒」です。改めてお願いします。

永井

散々言われているので当たり前と思うかもしれませんけど、最優先と思っています。基本中の基本と思っていますので。飛沫で感染させますので感染させない、もらわない、という意味ではマスクが絶対必需品であって、マスクと手指消毒をがっちりやった体制で経済活動を動かさないと、ですね。クラスターが起こった場合に、ちゃんとしていましたというお話はよく聞くんですけど、どの程度ちゃんとしていたのか、マスクと手指消毒、いつもいつも気になります。感染のリスクから言ったら、この2つをしっかりすることが基本中の基本です。

上山

永井先生自身は毎日患者さんと向き合っていますが、ご自身の対策としてもマスク・・・

永井

サージカルマスクと手指消毒だけです。あと患者さんが感染しているかどうかわかりませんけども、全員同じ格好でしているだけです。ただ患者さんは必ずマスク。相手がマスクしているというのがポイントなので、色んな病気でマスクできない人がいる場合はフェイスシールドをします。目とか粘膜の防護・・・

上山

マスクに加えてフェイスシールド。

永井

はい、それだけです。ですから、やることは最大最小、一番良いのは2つをちゃんとしていれば、おそらくそんなに広まらない(感染しない)だろうと、個人的には思っていますね。

上山

みんながマスクをして、みんながきちんと手指消毒をしていれば、先生の考え方としてはかなり感染のリスクは…?

永井

病院の院内感染対策の基本中の基本がそれなんですよね。スタッフ全員マスクをしていますし、我々食事している時はしゃべらないように、しゃべると食べるを分けると、ちゃんと指示しているので。お昼もしゃべらないで、しゃべる時はマスクをして歓談してください、という指示を出しています。そのぐらい神経質にやっているんですね。病院で起こったらアウトなので。

山口

やっぱり基本を徹底するっていうところがものすごく大事だと思うんですけど、小林さんこの分科会で議論された中に出てきた7つの場面は改めていかがですか?

小林

やはり今まで3密とか大声を出さないとかそういうことを言ってきたんですけど、なかなか具体的なイメージが湧かなかったので、今回、7つの場面ということで、具体的にビジュアルにどういう状況なのかというのが、わかるような例を出したということなんです。もちろんこれだけではなくて、すでに7つの他にもっと8つめ、9つめという色んな場面がありうるんですけど、それをこれから国民の皆さんにわかりやすく提示して、それを理解して避けてもらうということがいろんな業種においても必要になってくることだと思いますね。

■新型コロナ感染のリスク「若い人でも・・・」

山口

そうですね。私たちは重症化を防ぐことが重要だと考えてきましたが、重症化しなくても新型コロナが体にダメージを与えるケースもわかってきました。こちらメジャーリーグ・ボストンレッドソックスのロドリゲス投手、昨年19勝した選手です。7月7日、新型コロナ陽性と診断、その後回復し18日にはチームに合流しました。しかし、そのおよそ2週間後、MRIで軽度の心筋炎の兆候が見つかりました。その後、ロドリゲス投手は今季の欠場を決めました。2週間程度で回復したのに、心臓に影響が出ていたということなんです。

実はドイツからこのような論文がでています。新型コロナから回復した100人にMRI検査をしたところ、心臓に異常所見が見られた人が78%、進行中の心筋炎が60%も見つかったということです。この100人は重症者だけではなく、半分以上が無症状や軽症・中等症です。

心臓の異常ですが、健康な人はこのような心筋をしていますが、新型コロナにかかり心筋炎になると、このように繊維が寸断されたような状態になります。ただ、これは心臓全体ではありません、まれな現象だが心臓の奥底のごく一部で起きている可能性があるということです。

慶応大学の香坂(こうさか)専任講師は「軽症や全然病院に来ないようなケースであったとしても、実は身体の奥まで入り込んでいた形跡があったというエビデンスがどんどん出てきている。ほとんどの人に症状はないと思うが、将来、他の臓器の調子が悪くなってきた時など、今は大丈夫でも長期的な影響が心配」としています。軽症で終わったように見えても臓器が傷ついていて、将来影響が出るかもしれないということなんです。

永井さん、重症化リスクの低い若者でも感染しないよう最大限、気をつける必要がありそうですね。

永井

そうですね、心臓が非常に有名で、子どもの川崎病みたいなものが起こっていますし、色んな臓器に影響が及んで、最近の報告では、男性の睾丸抗炎が起こるというのがわかってきている。研究が進んでどうなるかわかりませんけど、いわゆる生殖機能に影響が及ぶ可能性があるので、若い人も、ただの風邪だと思わないで、全身の色んな臓器に病気が及ぶ可能性があるので注意が必要だと思っています。

山口

今シーズン、インフルが流行するか、確かにわかりません。しかし、これから永井さんは病院で、ひょっとしたら大変な状況に立ち向かわければいけないっていうことだと思うんですよね。永井さん、ずっとインフルの方々を診ていらっしゃって、今年はコロナが感染しています。今、テレビを見ている方々にお伝えしたいこと、改めていかがでしょうか?

永井

コロナもインフルも感染対策は全く同じなので、しつこいですけど、マスクと手指消毒で身を守りながら、外に行く時はしっかりそれを守ってですね、行動して頂くのが一番大事だと思っています。

山口

やっぱりそこなのですね。小林さんは最後にいかがですか?

小林

そうですね、若い人にも影響があるかもしれないということなので、入院措置を重症者とか中等症の人に集中しようという動きがあるんですけれども、一方で若い人、無症状・軽症の人が自宅で療養すると、あまり管理されない状況になってはいけないと思うんです。なるべく若い軽症の人も宿泊療養でしっかり管理するという基本も、これからも続けていかないと、感染が蔓延して、症状がなくても色んな人に感染が広がって結果的に長期的な悪影響が広がっていく可能性がありますので、そうならないように感染の管理、蔓延の防止というのはしっかりやっていかなきゃいけないということだと思います。

山口

その体制づくりはしっかりやらなきゃいけないということですね。

小林

そうですね。ホテル療養の施設をちゃんと整備するということをしっかりやっていく必要があると思います。

山口

わかりました。永井さんと小林さん、どうもありがとうございました。

(2020年9月27日放送)