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#151

バイデン氏勝利で激変する米朝 カギ握る“北朝鮮の特権層”

2020年の米大統領選挙でバイデン氏の勝利が確実になっていますが、北朝鮮は沈黙を続けています。2020年11月15日の『BS朝日 日曜スクープ』は、バイデン政権誕生で激変する米朝関係の今後を分析。非核化交渉の進展を阻んだ、“北朝鮮の特権層”の存在に注目しました。

■求心力維持が狙いのトランプ大統領

山口

先週は、トランプ政権で激しく対立していた米中覇権争いの今後について見ていきました。きょうは、バイデン前副大統領の当選が確実となる中で、激変する朝鮮半島情勢、そして日朝関係の今後に及ぼす影響を専門家と一緒に分析していきます。ではゲストの方々をご紹介いたします。番組のアンカーでもあり、アメリカの政治外交を30年間取材してきました共同通信社特別編集委員、杉田弘毅さんです。どうぞよろしくお願い致します。

杉田

よろしくお願い致します。

山口

そしてもう一方です。朝日新聞編集委員で、前ソウル支局長の牧野愛博さんです。どうぞよろしくお願い致します。

牧野

よろしくお願いします。

山口

まずはこちらの写真を見ていただきたいんですね。牧野さんは、前列の左端にいる女性が今後の米朝間での非核化交渉のカギを握ると指摘しています。のちほど詳しくお伝えします。まずは、アメリカ大統領選挙についてお伝えします。上山さんです。

上山

トランプ大統領は13日、ホワイトハウスで行った新型コロナウイルスに関する演説の中で「どちらの政権になるかは時が経てばわかるが、これは言える。この政権は都市の封鎖をしない」と話しました。

敗北を認めなかった一方、これまでの「勝利した」という主張からはトーンダウンしています。アメリカの大統領選挙はCNNによりますと接戦で開票作業が続いていたジョージア州でバイデン氏が0.3ポイントの差で勝利を確実にしました。ジョージア州では手作業による再集計が行われる予定ですが、州の選管当局は大勢が変わる見通しはないとしています。一方、同じく接戦となっていたノースカロライナ州では1.4ポイントのリードでトランプ大統領の勝利が確実です。これですべての州などで選挙人の数が出そろい、バイデン氏は306人に増え、トランプ大統領の232人を引き離しています。

山口

そうですね。不正な選挙だったと主張するトランプ大統領ですが、各地で訴訟を担当する弁護団の撤退も報じられています。獲得する選挙人の数でも大差がつき逆転の望みは消えつつありますが、杉田さんは今の状況について、どのようにご覧になっていますか。

杉田

トランプさんもいつまでもホワイトハウスに居座り続けることはできないということは、理解しつつあるんだと思います。ただ敗北を認めない、選挙の不正を言い立てています。今回7300万票という非常に大きな、大統領選の共和党の候補としては、過去にない支持を得たのは、トランプさんの強さ、高い人気を示しています。やっぱりこの支持をそのままホワイトハウスを去った後自分が中心になって、つまり求心力を維持したまま、この人たちをまとめていって、そして政治的なムーブメント運動につなげていきたいと思っているのでしょう。場合によっては2024年の大統領選再立候補に向けた支持基盤として作り上げたいということでしょう。とにもかくにも求心力を維持するということが、彼の今、もっとも考えていることだと思いますね。

上山

そしてアメリカの株価も見てみたいと思います。こちらニューヨークダウ平均株価の値動きですが、今月3日のアメリカ大統領選挙の投開票日以降も値上がりを続けています。13日の終値は前日比、399.64ドル高の2万9479.81ドルでした。大統領選挙の混乱もあり、新型コロナの感染拡大も続いていますが、木内さん、マーケットの動きをどのようにご覧になっていますか?

木内

やはりバイデン氏の勝利を好感しているということだと思います。通常、株式市場というのは、民主党政権を嫌ってですね、つまり(民主党は)反企業的な性格というか考え方を持っているんで、普通は嫌うんですけども、今回については、バイデン氏であればそんなに左派ではないと。それから、予測不可能なトランプ氏よりはいいだろうということで、消去法としてバイデン氏が支持されたという面があると。さらに選挙の日以降の株価大幅な上昇はですね、結局、議会選挙では民主党は思ったほど票は取れなかった。まだ確定はしてませんけども、ねじれ議会の状況になる可能性が強まっているわけですね。そうするとバイデン氏が言っている、例えば増税、法人税率の引き上げとか富裕者増税、これは議会に阻まれて通らないんじゃないかと。一方でバイデン氏が言っているインフラ投資の方は通るだろうと。ちょっと良いとこ取りの都合のいい解釈で上がってきているという面があると。ただそれに加えて、もしかしたらそれ以上に、大統領選挙の後はすごく混乱が起こるというのは、もう市場もだいぶ意識していたので、混乱が起きてますけど、心配した以上ではないことからすると、そういう大きなイベントが過ぎることによって不確実性が下がる。イベント通過要因と言いますけども、やっぱりそこら辺が一番株価の上昇の要因としては大きかったかなと思います。

■「尖閣に日米安保」バイデン氏の真意

山口

そして日本への影響も見ていきたいんですね。バイデン前副大統領と菅総理が電話会談を行いました。

上山

12日、菅総理は初の電話会談を行い、その内容について「バイデン次期大統領からは、日米安保第5条の尖閣諸島への適用についてコミットメントする旨の表明があり、日米同盟の強化、インド太平洋地域の平和と安定に向けて協力していくことを楽しみにしている旨の発言がありました」と述べました。

山口

尖閣諸島にも日米安保が適用されることを確認したということですが、牧野さんは、中国によって緊迫する東シナ海・南シナ海でバイデン政権は日本に何を求めてくると、お考えですか。

牧野

最初、この発言について取材してみたんですけども、日本側はちょっと驚いていてですね、特に働きかけしていなかったのにバイデンさんがいきなり、リップサービスしてくれたんで驚いたと。それはオバマ政権の時に日本政府が散々、「この(日米安保条約で米の対日防衛義務を掲げた)5条に適用しますよね」ということを何回も繰り返しお願いした経緯があるので、バイデンさんにしてみると、言うのはタダだし、以前オバマ政権で認めている話だから、今回リップサービスして日本を引き寄せようと、いう考えがあるんじゃないかと見ているのが1つと、日本側は、タダより高い物はないと警戒しててですね、要するに、俺たちもちゃんと一緒にいるんだからまず日本がちゃんとやってくれよな、というメッセージだろうと。だからバイデン政権は別に、トランプ政権より中国に弱腰になることはないけど、まず日本が何をやるかが問題だと。例えば海上自衛隊、いま尖閣諸島専門の部隊を事実上編制して担当させていますけど、これを例えば南シナ海には専門の部隊を置いて、ちゃんとそのプレゼンスを示せと。そういう事を日本がやらないんだったら俺たちはグアムまで引いちゃうけど、それでもいいんだなと。そのようなメッセージの走りじゃないかという風に警戒していましたね。

山口

なるほど。

上山

杉田さんはやはりこのバイデン政権では、日本への要請がさらに強まってくるとお考えですか?

杉田

そうですね。いま牧野さんがおっしゃられた通り、トランプ政権は駐留米軍の経費負担を日本が今の何倍も多く払ってくれというような、いわゆるお金の要求をしてきたわけですよね。ある意味アマチュアの要求です。バイデンさんの場合は、同盟重視を掲げています。つまりアメリカの海外における展開、世界の安定維持を、同盟国と分担を分かち合う形で、分担というのはお金の事じゃなくて、実際の活動、軍事的な活動の分担を分かち合うことで立て直したいということです。このためお金ではなくて具体的な活動ということで日本に色んな要求をしてくると思います。それから今回の尖閣の発言ですが、バイデンさんの周辺にいるいわゆる外交チームの人々が、日本は、バイデンさんが中国に優しいんじゃないか、日本に冷たくなるんじゃないのかという懸念を持っているということをバイデンさんに伝えている。バイデンさんも日本の懸念は十分理解しているので、まず一番重要なこの尖閣問題をきちんと日本に表明したということで日本の懸念を解消した。バイデンさんは始めからかなりきっちりした日米同盟のプロとしてのメッセージを出てきているので、これからもプロとしての要求、つまり軍事的な活動を日本にもっとやってほしいという要求をしてくるんだと思います。

■「北朝鮮は米新政権発足時、必ず挑発行為」

山口

ここからは、アメリカの新政権と北朝鮮との関係、非核化の行方も分析していきます。

上山

歴代のアメリカ大統領と、そして北朝鮮の核をめぐる動きをまとめてみました。北朝鮮の核開発が発覚したのは1992年。クリントン政権は、核施設への空爆を準備する一方で、カーター元大統領が訪朝。北朝鮮が核開発を凍結し、重油や軽水炉の提供を受ける米中枠組み合意が成立しました。しかし、2002年、北朝鮮が「濃縮ウランでの核開発」を密かに進めていたことが判明。ブッシュ大統領は北朝鮮を「悪の枢軸」と非難しました。「6カ国協議」で核兵器の廃棄を求めましたが、北朝鮮は2006年、初の核実験を強行しました。オバマ政権のときも、北朝鮮は核実験を繰り返しました。さらに、トランプ政権が発足した2017年には、弾道ミサイルを立て続けに発射しました。2018年6月、トランプ大統領と金正恩委員長との間で、史上初となる米朝首脳会談が実現。翌年の第2回米朝首脳会談は物別れしたものの、北朝鮮は、トランプ大統領本人への批判は避けていました。

山口

そしてバイデン前副大統領は大統領選挙の最終討論会で、「トランプが悪党のお友達と仲良くしている間に北朝鮮が高性能なミサイルを手に入れてしまった。(金正恩委員長と会談する条件として)核能力の引き下げに同意すること朝鮮半島を非核地帯にすべきだ」と述べました。

金正恩委員長に対し厳しい姿勢を見せるバイデン氏、北朝鮮はアメリカに対する戦略の練り直しが迫られています。杉田さん、北朝鮮がどういう出方をしてくるのか、いかがでしょうか。

杉田

大きく分けて二つの出方があると思うんです。一つはバイデン政権がどんな北朝鮮政策を築き上げてくるのかということを見守るという選択肢ですね。もう一つはやはり、このままでは埋没してしまう、つまりヨーロッパやロシア、中国、中東、そういった政策の方がアメリカにおいては優先順位が高いということですので、北朝鮮が忘れ去られてしまうということで、年末あるいは1月20日の就任式に向けてミサイル実験あるいは核実験などを行うことです。これはオバマ政権が出来上がった2009年、あるいはトランプ政権が発足した2017年。こういった、政権が新しく発足した段階では必ず、やはり北朝鮮はいわゆる挑発行為に出ていますので、今回もそれと同じような行動に出て、そこでアメリカを揺さぶって危機感を煽って、そのうえで交渉のテーブルに引き込むというようなシナリオは十分考えられます。

上山

北朝鮮は、新型コロナ、水害、国連による経済制裁の三重苦に陥っています。それでも北朝鮮はミサイル発射などの挑発行為に踏み切るとの見方が強いわけですが、木内さんは、どのようにご覧になっていますか?

木内

やはり杉田さんがおっしゃったようなICBMの発射ですとか核実験の可能性は高いのかなと思いますね。そういった形でバイデン政権を揺さぶりかけるということだと思います。それに対してバイデン政権は挑発には乗らないというのは、とりあえず最初の姿勢なんだと思いますけども、ただオバマ政権の時の「戦略的忍耐」のときに単純に戻っていいのかというのはあると思います。この間、北朝鮮の軍事力は格段に進化したわけです。一方では今おっしゃられたように経済的に厳しくなってきている。北朝鮮にとっては強みになっている面と弱みになっている面と両方出てきているわけなんで、それに合わせてアメリカ側も、もうちょっと柔軟な新しい対応、少なくとも突き放すんじゃないような交渉をある程度は守っていくような姿勢のほうがいいのかなとは感じます。

■米政府関係者「あの女にやられた」

山口

牧野さんは、今後、米朝間で非核化交渉をしていく上で、北朝鮮の特権層が進展を阻んでくると指摘しています。そのカギを握っているのが金正恩委員長と同じ前列に座っている崔善姫(チェソンヒ)第1外務次官だということです。解説をお願いします。

牧野

私がその崔善姫さんの事をかなり意識したのは2019年2月の第2回米朝首脳会談の時でした。この時、米朝は決裂したんですけれども、その直後にアメリカ政府の関係者の人が、「あの女にやられた」と言って、崔善姫さんのことを結構、地団駄踏んで悔しがっていたんですね。どういうことなのか聞いてみたら、ハノイで実務協議を散々やって、アメリカ側は「寧辺だけ捨ててもダメだよと、寧辺核施設だけじゃなくてプラスアルファが必要だ」と、散々、崔善姫に説明をして、崔善姫さんもそこは認識してたんですけども、2月28日に首脳会談をやったところ、同じことをトランプさんが言ったところ、全く金正恩さん反応しなくて、かえってかなり戸惑ったような様子で、「寧辺だけでだめですか」っていうような話で結局終わっちゃったわけです。当時、崔善姫さんが金正恩さんにメリアハノイというホテルのスイートルームで説明する映像も流れてましたから、彼女が金正恩に会えなかったとことはないんですけれども、そこでちゃんと説明してなかったとアメリカは分析しているんですね。もちろん崔善姫さん1人が全部仕切れるほど力があるわけではないので、サイド情報として崔善姫さんというのは、朝鮮労働党の中央本部の3階にある金正恩さん付きの書記室の人たちと非常に急速に接近して、お互いに結託して、適度なところで安易な譲歩をアメリカにしないように、ハノイの会談を演出したんだと分析していたそうですね。

山口

しかし北の最高指導者に対して金正恩氏に対して、いわばちゃんと報告しない嘘の報告をしたってことになりますよね。そんなことできるんですか?

牧野

北朝鮮も一応、国家なので規模も大きいですし、最高指導者が一人で全部仕切るのは無理があるわけです。例えば金正日さんの料理人、藤本健二さんの本にも出てきますけども、北朝鮮がミサイルを発射した時に、金正日さんに報告に行ったら、金正日さんがもう発射しちゃったのかといって驚いたとか。あと崔善姫さん自身も通訳をやっていた時、2005年ぐらいの6者協議の時に、アメリカと協議をしていた席上で、その時の代表だった金桂冠さんが米朝協議に前向きな発言をしたんだそうですけど、そのとき崔善姫さんが通訳をして、英語で全く逆の表現をしたことがあったんですね。アメリカ側で、朝鮮語も英語もわかる人が聞いていて驚いて、何でこんなこと言うんだろうという話をしたことがあるんですけども、それは要するに、国が大きくなって、エリート層とか、そういう複雑な利益集団が出てくることによって、その最高指導者の言っていることを全てそのまま受け売りして指示を出すという形にはもうなってないという、それをハノイの会談が証明したんじゃないかと私は思います。

山口

そうすると、ハノイの会談がうまくいかなかった。そういう中で更迭された幹部もいたわけですよね。ところが崔善姫さんは更迭されなかった。これは何を意味するんでしょうか?

牧野

これはですね、金正恩さんもやっぱり経験も人脈もあまりないので、要するに彼にとって書記室の人たちと崔善姫さんというのは自分の目であり耳であるわけですよね。彼らを全部パージしちゃうと自分が本当に裸の王様になって何もできなくなりますから、だからお互いに、その運命共同体という、利益共同体という関係になるわけですよね。もちろん金正恩さんは最高指導者ですから、当然、崔善姫さんたちもあからさまに嘘をつくわけじゃなくて、北朝鮮には最高指導者のお言葉には100の意味があるという、ことわざがあるんですけれども、それは、受け取る側によって色んな解釈をしても構わないという意味なんですね。だから崔善姫さんたちは多分、「ここで安易にアメリカに妥協すると、金正恩さんの身に非常に良くないことが起こると判断したので、ああいう報告をさせていただきました」とか、そういうことを言って、金正恩さんも薄々わかってはいるけれども、そこは飲み込んで宜しくやっているということだと思います。

■『普通の国』を拒む“北の特権層”

山口

なるほど。そうすると崔善姫さんをはじめとする、いわば北朝鮮の中の特権層がいるわけですよね。この特権層がなぜこういう交渉を阻んだのか、その背景にはどういうことが考えられるのでしょうか?

牧野

これはですね、要するに特権層は、北朝鮮が本当は普通の国になってほしくはないわけですね。普通の国になって、例えば普通の民主主義の国になって、そうすると次は韓国と統一しますか?という話になりますから、その統一した後に、かつての東ドイツのように、北朝鮮の崔善姫(チェ・ソンヒ)さんとか書記室の人たちは仕事がなくなってしまうわけですね。エリートとしての権力を手放さなくてはならなくなるので、それは嫌なわけですよね。適度に孤立して、国際社会と対立していた方が彼らにとっては利益になるので。むしろ僕が聞いているのは、金正恩さんの方が無邪気に西洋化を進めたいと思っていて、その特権層の人たちが後ろから羽交い締めにして、まあそんなに急がないでと、という形でスピードを調整しているという風に聞いています。

山口

いわば抵抗勢力みたいなそういう感じですね?

牧野

そうですね。

山口

杉田さんは、この牧野さんの今、解説のあった北朝鮮の権力構造ですが、どうご覧になりますか?

杉田

崔善姫さんというのは、お父さんが北朝鮮の首相で、その分、彼女は普通の外務省の高官よりは行動なり言論の自由があって、誰もそれを制することができないというわけです。よく独裁国家というと、確かにそのトップの命令で国家全体が動くというようなニュアンスを我々受け取りがちなんですけれども、やっぱりトップはですね、独裁国家においては自分の権力基盤を強化するために、軍とか、あるいは情報機関、あるいは治安機関にある程度、利権を渡してですね、そこで自分に対して裏切らないという暗黙の了解を取り付けた上で彼らに利益を与えて国家統治に使うわけです。それは北朝鮮だけではなくて、かつての東ドイツなど旧東側の国々、あるいは今でも中東の国々はそういう構図になっていますよね。そうした軍や情報機関、治安機関がトップのお墨付きを得ることで利権を増やしていわば国家内国家になってしまう。やがてその国家内国家がどんどんどんどん拡大していって、ある意味、本当の指導者である元首は単なるお飾りとなってしまうわけです。そしてその国家内国家が自分たちの利権が奪われるのを恐れて、いわゆる西側というか自由社会に対して国を開くのを拒絶するわけです。そのためにできるだけ自分たちの利権の構造が長く続くようにあらゆる交渉を妨害するというのは、これはよくあることだと思います。

上山

木内さんはここまででいかがですか?

木内

非常に興味深い話だと思うんですけれども、もしその通りだとすると、米朝の先行きの交渉の行方はかなり暗いっていうことだと思います。米朝首脳会談の時に、アメリカ側でもいわゆる実務家がですね、安易にトランプ大統領が合意しないように画策した面があったと思うんです。そういう意味では米朝と共に同じような二重構造みたいになっていて、元々トップダウンで全てを決めていくのは難しかったんだなあという気がします。

■北朝鮮との交渉のために・・・2つの提言

山口

きょうのゲストの牧野さんはですね、北朝鮮と交渉するにあたって2つの方法を指摘しているのです。

上山

はい、こちらです。1つ目は北朝鮮に対して従来の常識から日本が脱却すること、そして2つ目は平壌に連絡事務所を設置するとしています。これを詳しく解説お願いできますでしょうか?

牧野

従来の常識というのは、要するに北朝鮮は独裁国家だから最高主導者と談判すれば何でも解決すると、これは2002年の日朝首脳会談で、拉致問題で進展を見たということで、日本で一番強い考え方ですよね。だから菅さんも今、無条件で首脳会談をやるという、そういう常識に囚われているわけですけれども、最高主導者と談判しても解決しないということがハノイの会談ではっきりしたので、そこの常識からは脱却しないといけないわけですよね。もちろん、2002年のときは、当時の田中均外務省アジア大洋州局長らが北朝鮮の柳敬国家安全保衛部第一副部長という実力者と1年以上にわたって、綿密な実務協議をしていました。そこで北朝鮮特権層も納得する形で金正日総書記に首脳会談の議題をあげたから、拉致問題でも進展を見ることができたんですね。最高指導者だけに話をしてもダメだということは、2002年の教訓からも読み取れますが、首脳会談の印象が強すぎてそのプロセスをみんな忘れてしまっていると思います。最高主導者だけではなくて、最高主導者を取り巻いている利権集団たちも合わせて、考え方を変えないと、我々はその目標を達成できないと。じゃあそれをどうするかっていうと、崔善姫さんはともかく、書記室にいる人たちというのは海外には行きますけど、日米韓のような西側の外交官とはほとんど接触しないんですよね。だから平壌にいて毎日晩御飯食べて、色々誘っていく中で、偶然会ったりとかですね、人に紹介してもらったりとか、そういったプロセスを経て人脈を作っていく以外は方法がないんですよね。過去の日朝協議はすべて、北朝鮮が望んだときにしか始まっていません。いつまでも一方通行では、進む協議も進みません。この2つをやらないと、日本が渇望している拉致問題の進展も私は難しいと思います。

上山

ただですね、素朴な疑問で牧野さん、平壌に連絡事務所を置いた場合にそこに日本人が行くわけですよね。例えば人質に北朝鮮がとるというような恐れはないのでしょうか?

牧野

北朝鮮はですね、非常に誇り高い国なので、駄目な人間は、朝鮮中央通信から2018年6月に名指しで非難された私もそうですけど、最初から受け入れないわけですよね。でも、きちんと一旦受け入れると言った場合は、その法律をちゃんと守っていればちゃんと接遇しますから、過去にも平壌駐在の外交官の中で、例えば何かすごく問題があってスキャンダル起こしたとかですね、追放になったとか、そういう問題というのはこれまで起きたことがないんですね。

山口

杉田さんは、北朝鮮との交渉の仕方、どんな事をお考えになっていますか?

杉田

とにかく北朝鮮はアメリカの政権が変わったことで、つまり、ラブレターを渡し合った大統領から今度は北朝鮮を悪党と呼びつける大統領に代わって、アメリカは譲歩してこないというわけですよね。孤独感の中にある北朝鮮ですね、ですので、日本としてはよく言われますけど、非常に大きなチャンスが巡ってきてるんだと思います。しかも韓国が今、アメリカと日本に対する関係があまり良くない、つまり力を失っているという中で、やっぱり日本が行動できる余地はすごく広がっていると思いますので、いま牧野さんがおっしゃられた、ちょっと大胆なですね、アプローチは進めてみる価値があるかなと思います。

■どう見る!?カマラ・ハリス氏「段階的緩和」

山口

ここからは北朝鮮の非核化に向けて、バイデン政権が打つ次の一手について考えていきたいと思います。上山さんです。

上山

次期副大統領が確実視されている、カマラ・ハリス上院議員なんですけども、「北朝鮮が核プログラムを撤回するために検証可能な措置を取るなら、北朝鮮住民の生活を改善するために選択的制裁緩和を考慮する」としています。思い起こせば、ハノイでの米朝首脳会談では、トランプ政権は完全な非核化で制裁解除としていましたが、北朝鮮は段階的な非核化で制裁の一部解除を求めていました。杉田さん、カマラ・ハリス氏の発言は段階的な非核化を容認しているようにも受け取れますが、北朝鮮のペースで交渉が進む恐れはありませんか?

杉田

そうですね、バイデン政権は結局オバマ政権時代の戦略的忍耐が全然効果がなくて、はっきり言って失敗に終わったということは理解していると思います、当時バイデンさん副大統領でしたけども。一方トランプ政権も首脳会談を3回やっても、結局北朝鮮は核兵器一つあるいはミサイル一発たりとも放棄していないわけで、これも失敗であり、アメリカ側の権威を貶めたということです。だからバイデンさんはトランプ流の首脳外交も拒否するわけですよね。

その中でどういう形で新しい対北外交が作られていくかといいますと、おそらく首脳会談はやらない。しばらくやらない。ただ実務協議をどんどん進めていこうということだと思うんです。実務協議を進めるにあたっては、当然ながら双方の主張の間を取って妥協点を探るというような事から始めざるを得ないので、そこでカマラ・ハリスさんの「選択的云々」という発言になっている。バイデンさん自身もテレビ討論の場で「北朝鮮が核能力を縮小し始めれば私は会ってもいい」というようなことを言っています。つまり全面放棄をしなくても途中段階でも会う用意があるということです。これはまさにカマラ・ハリスさんと同じ趣旨の発言になってしまうんですね。これは、いわゆる日本にとっては言うならば悪夢のシナリオになりますよね。全面的な核やミサイルの放棄をしなくとも北朝鮮への制裁の緩和や解除が始まるということです。ですので、ここのところはまだ、まだまだバイデンさんもカマラ・ハリスさんも、日本からのインプットが入ってない段階ですので、ちょっと強めの発言を日本はアメリカにしておかないと手遅れになってしまう可能性が出るのではないかなと懸念しているところです。

山口

牧野さんはバイデン政権、次の一手、どうご覧になりますか?

牧野

私も杉田さんのご意見に全く賛成ですね。要するに核軍縮は最初に全体的な数字が分かったうえで軍縮やらないと意味がないわけですよね。相手が騙して隠しているかもしれないわけですから。そうすると軍縮交渉というのが事実上に相手の核保有を黙認するという結果を招きかねませんから、実際、過去6者協議でそこが一番問題になったわけですよね。だから北朝鮮に核の申告をさせて検証させるということで北朝鮮がさんざん渋って、結局6者協議を飛び出して失敗したわけですけれども、そこをちゃんとやらずに軍縮交渉でいいですよといことになりますと、北朝鮮がパキスタンモデルのようになって事実上の核軍縮になっちゃうと。

もう一つ心配なのは、オバマ政権の時の2012年2月に米朝で一部核実験とか核軍縮、ウランの濃縮を停止するという、その合意をしているんですけど、その時長距離ミサイルの発射実験は停止すると言ってですね、当時日本外務省で中距離や短距離のミサイルが入ってない騒ぎになったことがあるんですね。だから同じことをまた繰り返すんじゃないかという心配はあります。

■激変する米朝 今後の重要ポイント

山口

きょうはバイデン次期政権で朝鮮半島情勢がどうなるのかを見てきたんですが。牧野さんは今一番大事な事、どのように考えていますか。

牧野

まず、ちゃんと日本が米朝協議に加わっていくためにも日韓関係ですとか東アジアの中での関係をきちんとしておくことだと思うんですね。最近も今週、朴智元国家情報院長が日本を訪問しましたけども、なんか非常に政治的なスタンドプレーに終始して、日本政府もかなり怒っていましたけども。

先ほどニュースでも流れていましたけど文在寅さんが国際会議で菅さんの名前を呼んだとかですね。これ、韓国の人の悪い癖で、論理的にうまくいかないと情に訴えようとするんですね。だから要するに、ああいうことやっているという事はうまくいってないという事なので、こういう状況が続いて、すぐ米朝協議が厳しい状況になるということは避けたほうがいいと私は思いますね。

山口

なるほど。朴智元さんが来て東京オリンピックで金正恩氏も呼んで四カ国で首脳会談という話があるんだけども簡単に乗らないほうがいいという事ですね今の話は。

牧野

そうですね。文在寅政権は南北関係の改善を唯一最大の政治課題としています。南北関係改善の踏み台として、東京五輪を利用されても、それは本当の日韓関係の改善都は言えないでしょう。

山口

杉田さんはいかがですか?

杉田

2021年は私は、なんとなく北朝鮮、朝鮮半島が再び大きな危機を迎えるのではないかと思うんです。その時やっぱり日本はきちんと原理・原則をはっきりさせて、そこでやっぱり忍耐力をもって北朝鮮がミサイルあるいは核実験しても核の全面放棄を求めるという態度を揺らがせないということが大事です。簡単には譲歩しないということだと思います。

山口

最後に木内さんお願いします。

木内

ハリスさんの発言というのは重みがあると思うんですね。今までにないほど重要な副大統領なので、ですからそういう意味では少し態度変わるかなという気はしますけど、一方で同盟国は重視すると言っているので、あんまり日本とかを無視した形で簡単に譲歩するような形にはやっぱりならないんじゃないかなと思います。

山口

きょうはどうもありがとうございました。

(2020年11月15日放送)