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#184

五輪開会の東京で「過去最大の感染の波」デルタ株の猛威

オリンピックが開会した東京は、新型コロナウイルスは、感染力の強いデルタ株への置き換わりが進み、「過去最大の感染の波」 に直面しました。7月25日の『BS朝日 日曜スクープ』は、英国在住の専門家も交えつつ、医療の現場で何が起きているのか、特集しました。

■新規感染者数「2週間で2倍の勢いで増加」

菅原

東京オリンピックが開幕しましたがその裏で、かつてないスピードで新規感染者が増加しています。世界で猛威を振るうデルタ株が日本でも感染の中心になり、その影響が強く出始めています。「過去最大の感染の波」ともいわれる現状を詳しくみていきます。では本日のゲストを紹介します。イギリスから参加して頂きます。免疫学がご専門のインペリアル・カレッジ・ロンドン准教授、小野昌弘さんです。よろしくお願いします。

小野

宜しくお願いします。

菅原

そしてもう一方です。感染症・呼吸器疾患が専門の医師、加藤哲朗さんです。よろしくお願い致します。

加藤

よろしくお願いします。

菅原

まずは感染者が増えてきている東京の現状から確認していきます。きょうは1763人確認されました。日曜日としては過去最多の新規感染者数です。そして連休中、祝日の間ではあるんですが、昨日が1128人。そして一昨日が1359人ということで4連休の間も1000人を超えている状況が続いています。

最近の東京の感染者数カレンダーで確認しても、今日が1763人。先週が1008人でしたから700人以上増えていることになります。さらに火曜日が1387人。水曜日が1832人ですが、新規感染者数が2000人に迫る勢い。この1週間、土曜日までの移動平均で見ても1345人ということで、前の週が1010人ですから前の週よりも30%以上増加していることになります。

きょうで宣言が出てから2週間が経つわけで、宣言の効果がどうなっているのか、というところです。東京のモニタリング会議では今後どうなるのかという予測が出されていまして、およそ10日後の8月3日には2598人という予測が出ています。さらに3週間後の8月中旬には3000に近い数字が出るのではないかという予測が出されているんです。

では、ここ最近の新規感染者の年代別の内訳などを見ていきます。どんな傾向が出ているのかというと、ピンクが20代、そして黄色が30代ということで20代と30代合わせて56%、半数以上を占めているということがわかります。若い方が中心です。その年齢別の推移ですが、やはり7日間の移動平均で見ても、この水色、20代から30代が多いということがわかります。紫色が70歳以上ということですが、1月の時には20代から30代、40代から50代に次いで3番目に多かったんですが、ここ最近になって急にグラフが上がるということはなくなってきました。ワクチンの接種が進んでいる影響ということでしょうか。

では感染拡大はどこで起きているのか、厚労省のアドバイザリーボードによると医療機関や福祉施設のクラスターの割合は低下しているということです。ただ、その一方で職場、会食、学校、保育施設などでは感染の拡大が依然として続いているということです。

小野さん、予測では8月中旬には3000人という数字、こういったものも出てきましたが、これまでにない速さで東京の感染者が増えていますけれども、この勢いというのは今、どう見ていらっしゃいますか。

小野

大変心配しています。やはり日本は、ワクチンの接種率がまだ低いですし、話に出ていますけども、デルタ株ですね、流行を広げる勢いが大変強い株が広がっていて、オリンピックは開催されていて人の移動が増える懸念があると。あまり良い材料がないと思って見ています。

菅原

やはりこれからもまだまだ増えてしまう可能性を感じるということでしょうか。

小野

今、出ました予測というのは、やはり、そういったこと踏まえた上での予測で、実際に数字は2週間で2倍の勢いで増えていますから、驚くべき数字ではなくなってしまうのではないかなと懸念しています。

菅原

こういったものが現実味を帯びてきてしまうんじゃないかとないかということでしょうか。加藤さんにも伺っていきたいのですが、その増え方ですよね、改めて見ても先週が1008人、そして。きょうが1763人、一気に1.7倍以上ということです。きょうは、日曜日として過去最多となりました。これだけ急激に増えてきますと、今後どういった懸念があるとお考えでしょうか。

加藤

はい。やはり一番懸念されるのは、いわゆる医療の逼迫という形になるわけですけれども、当然、入院者数も新規要請者数とつられる形で増えてきていますので、まだ余裕があるという話もありますけれども、やはりですね、今後、入院病床利用率も増えてきて、医療に対する影響が大きくなるということがやはり懸念材料になりますね。

東京都の新規感染者は8月5日、5042人と、初めて5000人を超えました。18日の新規感染者数は、東京都で5386人で過去2番目の人数、全国では2万3900人を上回り過去最多を更新しました。政府は、緊急事態宣言の対象地域を20日から7府県、追加するとともに、東京や大阪など6都府県の期限を9月12日に延長しています。

■「すべてデルタ株に…多くの国がたどっている」

菅原

感染者、分母が増えれば当然、入院者数なども増えてくるということですね。では今回の感染に影響しているのは一体何なのか。改めてですが、小野先生もおっしゃるようにやはりデルタ株、これに置き換わりが進んできているということのようです。東京では、どれくらい置き換わりが進んでいるのか。スクリーニング検査の中で東京のデルタ株の割合は、ここのところ急激に、30.5%という数字にまで上がってきています。

一方で、もっと街中では広がっているんじゃないかという推計も出されております。こちらアドバイザリーボードの資料などによりますと、デルタ株、現在、東京では64%にまで置き換わっているんじゃないか、こういったデータが出されました。さらに1都3県、神奈川、千葉、埼玉も含めた状況になっても61%という数字です。これが今後、8月上旬にはそれぞれ8割まで置き換わる、さらに月末、あと1カ月でほぼ100%になるだろうという予測が出されました。小野さんは以前からデルタ株への置き換わり、やはり感染力が強いということで懸念を示されていましたけれども、これが100%に1カ月で置き換えるという予測も出ています。今後の感染拡大の影響を改めてどうお考えでしょうか。

小野

同じことが色々な国で起きていることですので、最初に流行が大きく広がりながらデルタ株がどんどんと流行、置き換わって、ほとんど全ての感染がデルタ株になると。そして、今までにない勢いで感染者数が増えていくという経過を多くの国がたどってきているということがあります。ですから、日本もそういう危険性を考えた上で対応が必要でないかと思います。

上山

新規感染者の増加が止まらない中で、感染者を抑制するポイントに挙げられるのが人の流れです。緊急事態宣言が発出されて減少傾向がみられますが、注目はこちら、夜間の人の流れがあまり減っていません。

片山さん、東京は、緊急事態宣言下で、今あるカードの中では一番強いカード切っているような状況、次に打つ手がないのかとも思うんですけれども、いかがですか。

片山

効いていません、緊急事態宣言が。当初のころよりは効いていませんよね。もう4回目になりますとね。それから、私が一番気になりますのは、ダブルバインドっていう言葉があるんですけれども。

上山

ダブルバインド?

片山

違ったメッセージ、相反する矛盾したメッセージが同時に届くんですよ。これは政府にしても東京都にしても、人流を抑えましょう、家にいてくださいっていうメッセージを出す一方で、先ほど小野先生も言われていましたけど、緊急事態宣言下でオリンピックをやると。もう始まっちゃいましたけど、来られたバッハ会長は、広島に行かれた、日本の関係者が広島に連れて行かれるわけです、公然と。それから歓迎会もやるわけです。そういうメッセージがどんどん伝わってくるわけです。そうしますと、家にいましょうと言っても、全然違うんだなと受け取りますよね。現に私の知っている人も、安全安心でオリンピックをやると言うなら、我々だって安全安心に旅行に行きますよと。もっと安全安心にと。そういう話になっちゃいますので、やっぱり、これは、国民の協力を得なきゃいけない時に、政府が出すメッセージの出し方として私は失敗したと思いますね、 ダブルバインドになって、効かなくなっている面が強いと思います。

上山

アクセルとブレーキも同時に押しているような感じということですか。

片山

オリンピックは特別なんですというメッセージ、意義とか目的とかを伝えるメッセージですね、それが発せられて、国民の多くが「それはそうですね、こんな時でもある程度リスクを犯しても、オリンピックやらないといけないんですねという認識が共有されていれば、また違ったと思うんですけど、とうとう最後まで、オリンピック何のためにやるんですかって言ったら、安全安心にやるんですということしか出てこなかったじゃないですか。安全安心が主目的なら、やらないのが一番、安全安心なんですよね。だからやっぱり政府は、こういう時にオリンピックやるんなら、もっときちんと国民に伝わるような、ちゃんとしたメッセージを出さなきゃいけなかったですよね。

■「地域を超え世代を超え感染拡大の恐れ」

菅原

この辺りのメッセージがきちんとなければ宣言の効果も薄れていますと言うことですね。さらに今後、心配となってくるのはやはり東京以外の地域でも感染者が増え始めているという点です。きょう(7月25日)の午後6時現在の数字ですが、首都圏を見ていきましょう。東京以外の埼玉で449人、千葉で279人、神奈川で519人ということで、だいぶ増えてきています。大阪に目を移しても471人。そして宣言が継続されている沖縄、こちらも209人となっているんです。

人口10万人あたりの新規の感染者数を特に感染状況が厳しい5都県で見ていきますと、このようになっています。10万人あたり25人以上となるとステージ4の水準ですが、東京、沖縄、神奈川、埼玉、千葉、全て25人を超えていてステージ4となっているわけなんです。宣言の目安となるステージに入っているという状況です。小野さん。こうした状況の中で4連休に入りました、きょう、4連休が終わりますけれども、これから今度は夏休みに移っていくわけで、このタイミングでの連休ですとか、夏休みというのはどう見てらっしゃいますか。

小野

例えば、まず学校が閉まるということ、そのもので、家にいるということになれば、実のところ流行は抑えてくれる期待があるような要因になるわけです。連休もそれで家にいるということでしたら、職場での感染を避けるかもしれない。ですが、多分、今、片山さんが懸念されていた通り、連休になった、夏休みになったで、人が外に出て行って、普段行かないところに行くようになるのではないかと。そうすると都会から東京などから違う地方に行く、普段、交流しない、違う世代の人に実家とか会うと。そういったところで、地域を越えて世代を超えて感染が広がってくということが懸念することなのかもしれません。

上山

今、ありました、全国的な蔓延の恐れという中で、一つ見ておきたいデータというのがあります。ワクチンの摂取に関する日本の現状ですけれども、ワクチンの接種率、各地域でかなり違いがあるということです。リスクの高い65歳以上で2回接種した方、全国平均では65.5%ですけれども、ただ、接種率が高い地域では、例えば、岐阜県、佐賀県は78%に届くような数字になっているんですが、一方で、接種率が低い地域、北海道、栃木、岩手は56%から58%前後ということで、本当に地域によって20ポイントくらい違う状況です。

ということは小野さん、懸念されるのは、この右側の摂取率が低い地域で、夏休みということもあって、かなり人が流入するということが懸念材料というになるんでしょうか。

小野

そうですね。例えば、北海道などは、夏の観光地であり札幌でも会場になっているはずですよね。そういうところが、摂取率が低いということはやはり心配な状況ですね。

■「40~50代の感染は増加 医療機関はひっ迫」

菅原

まだまだ2回の接種率が低いところもあり、全国に拡大する懸念が拭えないわけです。では医療現場の状況はどうなっているのでしょうか。東京の場合ということで、今回、練馬区を見ていきますが、練馬区で治療に当たっている大泉生協病院の齋藤院長に現状を伺いました。練馬区内のコロナ病床は事実上ほぼ満床になっているというのです。保健所からは病床を空けるために「少しでも退院を急いでくれ」と催促の連絡がきている状況です。さらに患者の状態ですが、ワクチンの影響でしょうか、「65歳以上の患者は少ない。一方で50代の中等症は特に多くなっている。症状は明らかに肺炎なんだけど、本人は気づいていないこともある。20代~30代の症状は肺炎もなく熱が長引く印象だ」と、このように話しています。実際に加藤さんも現場で医療に当たっているわけですけれど、今どのようになっているのでしょうか。

加藤

はい。おっしゃっていただいたように、40代、50代が増えてきていて、65歳以上の方は減っているとは思うのですけれど、40~50代の増加。あとは話を聞いたところですけれども、家庭内感染でお父さんお母さん、あと10代の方も皆、陽性になってしまってという事例も報告されています。おそらく感染力の強いデルタ株の影響だと思うんですけれど、以前にはなかったような10代、若い方もかかるというようなこともあり、それがより入院、病床利用率を上げていることにつながっているのではないかと思います。

菅原

練馬区の場合ということですけれど、事実上ほぼ満床の場所も出てきているということで、東京都は病床を拡充してきました。それでもなぜ、こういったことが起きてしまうと思いますか。

加藤

実際、いま病床に余裕があるように数値的には見えるかもしれませんけれども、実際ほぼ満床といいますか、ひっ迫した状況に変わりはないですし、ギリギリでやっているということが正直なところだと思いますので、数値と現場の乖離、そこはぜひご理解をいただきたいと思います。

菅原

乖離というのは、例えば以前から課題となっている人員の確保、こういったところでもあったりするのですか。

加藤

そうですね。当然病床を増やしただけでも、それに携わる医師や看護師といった医療従事者がいないと回らないという形になりますので、病床だけではないというところもお分かりいただきたいと思います。

菅原

実際に入院患者の年代別の推移、東京都を見ていきますが、紫の線が70歳以上ということになります。1月あたりは高い山になっていましたけれども、5月あたりからその山が小さくなりまして、今回だいぶ抑えられてきてはいるのです。ワクチンの影響でしょうか。一方で緑の40代~50代は、最近また急激に入院患者数が増えてきていまして、さらに青の20代~30代も同様です。どちらも過去最多の水準を更新している状況です。もちろん入院する確率自体は高齢者の方よりも若い方のほうが低いとは思いますが、数自体はだいぶ増えてきているんです。

加藤さん、こういったところを見ても、やはり若い方の入院が増えてきていることもあるようで、それ自体は現場に対してひっ迫といいますか、だいぶ負担が大きくなってくるわけですか。

加藤

はい。高齢者が減っているのは確かですけれど、高齢ではないからといって医療に負担がないというわけではありませんので、やはり20代、30代でも重症化して人工呼吸器等の医療措置が必要になる方もおられます。そういった意味では高齢者が減ったことと、ひっ迫が減っていることはイコールではないということは言えると思います。

■英国ではワクチンの職域接種を認めず

上山

こちらは年代別の重症者です。1月をみると、重症者で圧倒的に多かったのが70代、そして60代です。それが現在は、60代、70代、40代、50代がほぼ同じ水準になっているのがわかります。東京では昨日(7月24日)の段階で重症者が74人でしたが、そのうち60代以下が78.4%を占めています。

小野さん、デルタ株はこれまでよりも若い層でも重症化するリスクがあるのでしょうか?

小野

デルタ株はおそらく世代を問わず従来株よりも重症化しやすいだろうと考えられています。それ以上に、感染の流行を広げる勢いが速いので、懸念される今の状況は、特に若い人を中心に、すごく速い勢いで流行が広がっているのではないかということを考えるべきではないでしょうか。

上山

重症者の推移を見ると高齢者の方々は減っているということですけれども、日本でのワクチン接種の進め方、小野さんはどのようにご覧になっていますか。

小野

先ほど見せていただいたデータからしても、確かに6割、7割が接種されているんですが、逆の言い方をすると、3割、4割の方々はまだ接種されていないわけです。

上山

そういう見方にもなるんですね。

小野

その人たちは同じようにかかって、同じように重症化するリスクがあるわけですから、今、瞬間を見て、高齢者の方々の重症者数が少ないからと即座に言って、ワクチンのおかげだと考えて油断しないほうが良いのではないかと感じています。

上山

ワクチン接種の進め方、イギリスではどのように進められているのでしょうか。日本との違いというのは、あるんでしょうか。

小野

イギリスの場合には純粋に医療の必要性に応じて順番を決めていましたので、高齢者から順番に接種が始まっていたんです。介護施設、医療従事者。第一線の医療従事者というのもありましたけども、基本的に80代、70代、60代、50代と順番にやっていったおかげで、上の世代に行くほど接種率が非常に高くなっています。

上山

職域接種のようなものはないということですか。

小野

職域接種は要望が業界からあったのですが、科学的に決めた順番は変えないと、政府がそうしました。

上山

リスクの高い方から打っていったということですね。

小野

はい、その通りです。

新型コロナの重症者は8月18日、全国で1716人。6日連続で過去最多を更新した。この日、東京都では、都の基準で集計した重症者が275人。8月1日の時点では101人でした。

■「新規感染者の増加は以前ほど問題ではない」は本当か

菅原

新規の感染者が全国的に拡大されることが懸念される中、今、日本で大きな議論になっていることがあります。それがこちら「ワクチン接種が進んでいるから新規感染者が増えることは以前ほど問題ではない」という声です。

本当にそういえるのでしょうか。現在の新規感染者、1週間平均が1386人ですが、同じような水準だったのが1月7日、1261人です。この時、入院者数は3154人、重症者数は121人でした。この時と比べて、現在は入院患者は2558人と19%減少、重症者数は68人と44%減少しています。何が違うか、ワクチンの接種率が違います。現在、高齢者の2回接種は64.2%が終わっていますが、1月は0%、まだ始まっていませんでした。こうした状況から、新規感染者よりも重症・入院者数を状況判断に使うべきという声が強まっています。

その理由に挙げられるのが規制解除に踏み切ったイングランドです。イングランドは新規感染者が1日2万8968人を超えていますが、その一方、入院患者は4401人、1日の死者は74人、ピーク時よりもかなり抑えられていることから規制を解除しました。つまり新規感染者よりも入院患者や死者が抑えられていることを基準に考えたわけです。

ただ、イングランドと日本、ワクチン接種を比べてみると、高齢者の2回目終了、同じデータがないのでイングランドは50代以上でみると93.9%、一方で日本は65歳以上で65.5%、国民全体でもイングランド69.5%、日本は20.0%、接種率に大きな差があります。小野さん、ワクチン接種が進んでいるので日本では新規感染者が増えることは以前ほど問題ではないという声があがっていますが、どうお考えですか?

小野

まず数字から明らかですけれども、日本とイギリスの接種率の差は圧倒的です。ですから、同じように考える状況にはまだないわけです。今、イギリスがこれだけやって、重症化した人たちの数がおそらくワクチンのおかげで4分の1くらいまで下げられているはずだという報告も出てきています。イギリスはそれだけやったからこそ、そこまで下げられて、それでもゼロになるわけではないわけですから、これからイギリスもどうなるかというところを多くの人が非常に心配をしながら見守っている状況です。ワクチンが始まったという言葉だけでつられて、数字を見ないと逆に大変危険なのではないかと、ワクチンで半分の人を守っても、2倍流行が増えてしまったら、結局キャンセルされてしまうわけですから。

菅原

そうですね。イギリスが今後どうなるかも含めてキチンと見ていかなければいけない状況ではあります。

■「現在の流行は未接種者の感染、重症化 さらに…」

上山

加藤さんは、ワクチン接種が進んでいるから新規感染者が増えることは、それほど問題ではないのではないかという意見については、どのようにお考えですか。

加藤

やはり小野先生がおっしゃったように、まだ未接種者がおりますので、現在の流行は未接種者でのパンデミックという言い方もされていますけれども、未接種の方の感染、未接種の方の重症化というところがありますので、まだ接種率の数値が低い以上、それを当てはめることができないと思います。もう一つは後遺症の問題もあって、仮に軽症だったとしても、その後、例えば味覚、嗅覚が戻らないとか、だるさが続くという症状が3カ月から半年くらい続くということもあります。そういう意味では医療の影響だけではなく、個人の生活の質、そういったものにも関係しているというところも理解しておかなければならないと思います。

上山

高齢の方々が減っているから医療機関の負担が減っているという考え方はどうなんでしょうか。

加藤

高齢者の方が減っているのは確かですけれども、40、50代の方は先ほどもありましたけれども、過去最多を更新しているということになりますので、40、50代も、当然、重症の方の医療の必要な人員とか必要度は変わらないということになりますので、必ずしもその考え方はイコールではないという風に思います。

上山

片山さん、やはり新規感染者数というのは、これも大事に見ていかなければいけない。新規感染者数はそうすると、どう抑えるか、ここが大事なんですね。

片山

いま国の方針を見ていますと、ワクチン1本足打法だといわれていますけれども、ワクチンだけが頼りで、それ以外、打つ手はないという、そんな印象を受けるんですね。でも、そうではなくて、ワクチンをちゃんと打っていくことは必要ですが、並行して有効な感染症対策は何だろうかということをもっと科学的に、1年以上経ったんですから、分析して、国民に知らせる必要があると思うんです。例えば、飲食店が原因だということが言われますけれど、どんな飲食店の環境だったのか。いま飲食店全部、十把一絡げに扱っているんですが、例えば、店によって換気の状況はどうだったか。感染したのは換気の悪いところだったという情報が分かると、換気の良し悪しを区別すればいいわけです。換気のいいところは行ってもいいけれど、換気の悪いところはダメとか、そういう科学的根拠に基づいて、どこをどういう風に抑えれば感染が減るのかということをもう少し研究とか調査とかを進めておくべきです。

上山

一般的な情報としては、政府からもアドバイザリーボードからも出ているような気がするのですけれど、もう少し研究が進んで細かく情報を出してほしいなというところはあります。

片山

飲食はダメ、酒はダメの1本やりでずっと来ているのですけれど、そうではなくて、どういうところがいけないのかということを示すべきだと思います。

■ワクチン不足…個別接種を進めている医師は!?

菅原

頼みの綱のワクチン接種の状況はどうなっているのか見て行きます。全国のワクチン接種、一時は1日100万回を超えていた時期もあったんですが、ここ最近では、タイムラグもあると思うんですけれども、だいぶ下回ってきました。

こうした中で、自治体もワクチン接種見直しが迫られているわけです。中野区の現状で見ていきますけれども、7月19日から8月15日までの4週間で、1回目の接種の新規の予約が停止するなどの影響が出ているということです。その中野区で個別接種を勧めてきたのが「みやびハート&ケアクリニック」です。こちらでは、これまで平日は1日およそ100人、1週間では合わせて1000人以上の接種を進めてきました。それが今後は大きな打撃を受けていくということです。

きょうは中継で渡邉院長にお話を伺っていきます。渡邉さんどうぞ宜しくお願い致します。

渡邉

よろしくお願いします。

菅原

渡邉さん、2カ月前に出演してくださった時には、週に500人から700人打ってきたと話していましたが、最近では1000人も打ててきたということです。ただ、今後はこれどのようになっていくということなんでしょうか。

渡邉

現状、私たちは64歳以下ということで、前回の放送の時にもお話ししましたけども創意工夫という意味で、就学就労されている方々が打ちやすい環境を作る、つまり土曜日ですとか日曜日、こういったところも接種態勢を強化しまして、現在では1週間に1000人のキャパシティを確保しております。

菅原

中野区全体でこの個別接種を進めてきたということですよね。

渡邉

はい。特に中野区は約140の個別の医療機関が皆さん、それぞれ色々な所で創意工夫、言葉を変えると今かなり無理をしながら接種体制を維持しているということになります。これは140の医療機関がそれぞれの地域に渡って、きめ細やかにスピーディーにやっている。これはある意味で非常に素晴らしいことなんですが、ワクチンが供給されるという前提で、皆さん、努力をしている。これがワクチンの供給が遅れる、あるいは絶たれるということになりますと、なかなかその態勢を維持することが困難になると思います。

上山

一つ一つの医療機関で努力されて体制を築いてらっしゃると思うんですけど、その中で渡邉さんのクリニックなんですけれども、このワクチンが一旦供給が止まったということで、現場ではどういう状況に今、なっているんでしょうか。

渡邉

はい。本日、日曜日も我々のところは9時から夕方の6時まで接種を行っていました。これに携わるスタッフというのが実に多いんですね。本日は約400名弱程度の方に接種を行ましたけれども、誘導などをする事務の方が10名弱。看護師に関して本日は4名態勢で行っていますが、延べで申しますと約10名の看護師の臨時雇用を行っております。それから私の出身大学などから応援を受けまして、ドクターも臨時雇用で10名、こういった方々を雇用させて頂いて接種を推進しております。特に事務職員の中には、応募の段階でブライダル業界に行って仕事が無くなってしまったとか、あるいは大学生でアルバイト先が無くなってしまって困っているとか、そういった方々がしっかりと、自分たちのこの腕で、コロナとしっかりと戦いたいという確固たる意思をもって応募してきてくれている。志が高い方が多いです。ワクチン供給が止まると、こうした臨時雇用を打ち切らざるを得ず、だから非常に断腸の思いで今、おります。

上山

つまり土日の接種などを確保するために、普段クリニックにはいない方を新たに雇い入れているということなんですよね。

渡邉

ええ、おっしゃる通りです。

■「個別接種のための臨時雇用 維持が困難に」

上山

ワクチン接種、一旦供給が止まった後、再開されると思うんですけれども、それで雇用は維持されるとか、そういうことにはならないんでしょうか。

渡邉

この再開の時期が明らかであれば、例えば我々のような小さい医療機関であったとしても融資を受けてですね、その雇用を維持するとかそういったことが見込めるんですが、現状ですと、やはり通常の診療体制とのバランスもあり、全てを医療資源をワクチン接種のみに注ぐことができません。ですので、一度、ワクチンの供給が絶たれ、ワクチンの接種が出来なくなった時にはですね、やはりその雇用の維持はできず、ワクチン接種体制は明らかに後退すると思っています。

上山

あの確認ですけれども、今、新たに雇用された方々というのは、基本的には、クリニックの持ち出しで雇っていらっしゃるということになるんでしょうか。

渡邉

はい、ありがとうございます。おっしゃる通りでございまして、クリニックの持ち出しにて雇用させていただいております。

上山

そういった中で、今、ワクチン供給がなかなか進んでいないという中で、国、自治体、それぞれに対してどんなことを、どんなサポート態勢があったらいいとお考えですか。

渡邉

国としては菅総理大臣が、1日に100万人の摂取を行うとお話をされて、これを実行、実現されたわけです。これは大きなリーダーシップで成し遂げられたことで、私自身はこれを賞賛したいと思いますし、現場の医療者にも強いエネルギーとして伝わってまいりました。国の行った、1日100万人の接種推進はですね、先ほど一本足打法というような話もありましたけども、私個人としては心強く、接種を受ける側の患者さまもにも非常に心強く感じられたんじゃないかなと思いまして、評価をいたしております。ただ他方で、これを政府だけの責任にするのではなくて、実際に今、必要なのは、目詰まりを起こしている箇所に関する正確な情報です。我々は日々、患者さんと直接対峙をするわけで、患者さんたちに正確な情報をお伝えして安心していただくことが重要です。一番大切なことはワクチン接種を行うという、今の順調な接種体制をそのまま継続すること。それから、接種を受けたい患者さん達が希望を失わないようにすることが我々の大切な仕事になります。そのために一番欠けているのは、やはり正確な情報です。それからやはり、今度は国だけではなくて自治体都道府県のレベル、それから今度は区のレベルですね、それぞれ横櫛を入れて、創意工夫をして、接種が早い区があれば、その接種が早い区を中心に、周りの区も巻き込んで接種を行う。つまり、すべての区の接種体制を拡充すること目的ではないのです。国民すべてがいち早く接種を完了することすることが命題なわけですから、迅速に状況に即した自治体間の密で現場の空気感に即した連携が必要であると考えております。

菅原

そして渡邉さん、ワクチンを打ちたいという焦りから、限られた枠の中で重複予約をする方も出てきていると伺いました。そういった中で、まだ区民の方、打ってない方、どういったことをメッセージとして伝えていきたいですか。

渡邉

はい重複予約の問題は深刻です。お気持ちとして非常によくわかります。焦る気持ちですとか、こういったワクチン不足の報道がありますと、やはり何とかしたいとかですね、あるいは孫に打たせたいからと言って、おばあちゃん達が複数の医療機関にわたって予約を入れるということもあります。これは心情としてはよく理解ができるものです。ただ、我々が行うべきは、効率を良く多くの方にワクチン接種を行うということです。いざ接種の時になってみたら、重複予約されていて当日お越しになられないなど、ワクチン接種の現場が大きく混乱しますので、そういうところは是非お控えいただきたいと思います。ワクチンの総数は事前に政府が準備をしていて、国民は皆、必ず打てるように仕組みが作られてます。今、若干の目詰まりを起こしているというところですので、是非冷静にご対応頂きたいと思います。

菅原

きょうもワクチン接種の診療をされた後に出演してくださいました。渡邉さん、どうもありがとうございました。

渡邉

ありがとうございました。

■「現場の実態を見て、現場の声を聞いて」

菅原

片山さん、このワクチン接種、政府の説明不足などもあるんでしょうか。現場でも重複予約など混乱が生まれて来ているようですけれども、今後のワクチン戦略どうして行けばいいのか、『アンカーの眼』でお願いします。

片山

今も現場から生の声が聞こえてきたわけですけどね。私、見ていまして、政府のこれまでやってきたことですね、初めてのことですから、最初から全部きちんと作戦を立ててやるというのは、それは難しいことだと思いますけどね、一つ気になるのは、やっぱり現場のことを知らない。国が号令をかければすぐに思い通りに動くと、そういうような意識がひょっとしたらあるんではないかなと懸念しています。このたびのような作戦をやる時には、大勢の人を動員して、その人たち、自治体も含めて、物凄い作業をやんなきゃいけないんですね。人を集めたり場所を確保したり。そういう苦労が現場にあるということを、政府の皆さんがあまりご存じないんではないかと。ですから、やはり、こういう大作戦をやる場合には、ちゃんと現場の実態を見て、現場の意見を聞いて、本当にこれでうまくいくんだろうかということを踏まえて、作戦計画を練ってもらいたいなと思いますね。

菅原

同じく加藤さん、現場で診てらっしゃる医師として今の話、どのように感じましたか。

加藤

はい。やはりワクチン、非常に重要な対策になると思うんですけれども、それを進めてきた中で、いきなり今、物がないから打てませんと言うのでは、非常にやろうと思っていた方にとっては、ちょっと出鼻をくじかれたと言いますか、そんな形になってしまいますので、やはり安定供給があってこそ、要となるワクチンが進むという形になりますので、片山さん、仰っていただきましたけれども、現場の苦労、それからなるべく限られたワクチンをいかに有効に使うかっていうのも含めて、いろいろ工夫しながら使ってやっているというところもですね、ご理解いただければという風に思いますね。

菅原

そして小野さん、先月出演の時には東京オリンピックやるんだなと話していらっしゃいましたけれども、この五輪開催が重なる中で、日本は感染対策をこれからも続けなければいけません。今、イギリスからどんなことをお伝えしたいですか。

小野

そうですね。オリンピック、デルタ株、ワクチン接種の遅れと、あまり芳しくないニュースが多いわけですから、やはり、なるべくその中でできること、社会の中で人が動き回るってことを減らしてくというところ。できればそのオリンピックというものも臨機応変に状況を見て考えて頂きたいなと思っています。

(2021年7月25日放送)