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#196

蓮池薫さん「北朝鮮に事前に…」拉致解決へ提言

北朝鮮による日本人拉致。被害者の蓮池薫さんが帰国して19年が過ぎました。岸田文雄総理大臣が「国民大集会」で拉致問題解決への決意を述べたのを受けて、2021年11月14日『BS朝日 日曜スクープ』は、蓮池薫さんとともに改めて問題解決の突破口を探りました。蓮池さんは、岸田総理大臣が金正恩総書記と“無条件での首脳会談”を行うにしても、蓮池さんは「〝拉致問題を解決すればこういうことができる〟と北朝鮮に事前に伝える必要があるのではないか」と提言しました。

⇒蓮池薫さん出演の放送内容は動画でもご覧いただけます。
テレ朝NEWS
ANNnewsCH

⇒2020年10月18日『BS朝日 日曜スクープ』はこちら
「蓮池薫さん「首脳会談、待つだけでなく・・・」拉致問題解決の訴え」
⇒2019年10月13日『BS朝日 日曜スクープ』はこちら
「帰国17年 蓮池薫さんと今年も考える!!拉致問題の今」
⇒2018年10月14日『BS朝日 日曜スクープ』はこちら
「蓮池薫さんと考える!!拉致問題解決の突破口」

■「我々の心理状態より何倍もつらい状況」

上山

5人の拉致被害者の方々が帰国したのは2002年の10月15日、それから19年です。1人の拉致被害者の方も取り戻せていません。そんな中、水曜日に発足した岸田新内閣はこの状況をどう打開していくのでしょうか。そして迫られる選択について、蓮池薫さんを迎えてきょうは考えていきたいと思います。蓮池さん、どうぞよろしくお願いいたします。

蓮池

よろしくお願いいたします。

上山

蓮池さんには2018年から毎年日曜スクープにご出演いただきまして、拉致問題が解決に向かう突破口がないのか、お話を伺ってきました。今回は4回目ということになります。改めてよろしくお願いいたします。そしてもう一方です。

北朝鮮の現代政治がご専門の慶応義塾大学教授、礒﨑敦仁さんです。よろしくお願いいたします。

礒﨑

お願いいたします。

上山

土曜日(11月13日)ですが、全拉致被害者の即時一括帰国を求める国民大集会が開かれました。拉致被害者家族会、そして岸田総理大臣と松野官房長官も出席して「岸田内閣の最重要課題だ」と話しました。そして横田めぐみさんの母親、早紀江さんも「13年間しか育ててあげられなかったことが本当に悔しい」とその胸の内を語りました。

蓮池さんは帰国されて19年ということですけれど、帰国を待っていらっしゃる拉致被害者の家族の方々、それから国民の中での拉致問題に関する関心、この辺りも含めて今、どんなことをお感じになっていますか。

蓮池

私が帰国して19年ということは、残された方々がまだ19年間ずっと帰って来れないでいるという、同じ意味であるわけで、その間のご家族の思いというのは、年々ますます重苦しい、つらいものになっていると、そういう現状の中、進展が見えないというのは非常にもどかしいなと、そう思っております。

上山

早紀江さんも85歳ということで、本当に時間が無限にあるわけではないとことを感じるわけですけれど、日本政府が認定している拉致被害者の方々、その中で帰国できていない方々です。今も12人の方が北朝鮮に残されています。いずれも1970年代後半から1980年代の前半にかけて北朝鮮によって拉致されて、40年以上が経っています。そして拉致の可能性を排除できない、特定失踪者の方も873人いらっしゃるわけです。

そして、横田めぐみさんの弟、拓也さんは先月、お姉さんのめぐみさんが拉致された時のことをこのようにお話しになっています。『脱北した工作員は「姉は工作員の船の底で出してくれと泣き叫んでいた 扉をかきむしって指先が血で染まっていた」と証言。この話を聞いて私たち家族は心が張り裂けそう、つらくてたまらない。もしそのような残酷な恐怖の思い、大人が男性が体験しても怖い。それを13歳の少女が経験したのは想像を絶する恐怖。今でも繰り返し思う』と、このようにお話しになっているわけです。杉田さん、改めて拉致事件の残酷さ、どのようにお考えになっていますか。

杉田

そうですね、本当に国家というか独裁国家、そういう国家が非常に残虐、残酷な心が張り裂けるような行為を行うという冷酷さに驚くんですけれど、同時に我々平和で豊かな日本で日本国民は平和を享受して暮らしているわけですけれども、こういう中において拉致事件というものがかつて起きて、そして、その被害者の方々がまだ向こうで暮らしていらっしゃると、帰れないと。このことを我々は心に刻んで忘れずに、国民広くがどうしたら解決できるのかということを常に考えていかなくてはいけないと、そういう思いを改めて思っています。

上山

蓮池さんご自身も、昭和53年に突然拉致されて船で北朝鮮に連れていかれました。残された12人の方が、北朝鮮から戻ってこられない状況にあるわけですけれど、今、どういった思いでいらっしゃいますか。

蓮池

私が拉致されて24年間という期間、もう帰れないんじゃないか、まずは北朝鮮が拉致というものを認めるわけもないし、帰国させるわけもない。そういう諦めの気持ちをある意味、心の片隅に置いて、割り切って暮らしていた部分もあったんですけども、我々が帰ってきた19年前の事件というものが余りにも大きい事件ですので、残された方々にもリアルタイムに伝わっていると思うんです。いくら情報統制しても、そういうのは伝わるものなので、その情報を、ニュースを聞いた時に、残された方々は割り切った思いが崩れてしまう。帰れるんだと、だけどなんで我々は帰れないんだ、という新たな重い思いの中で今まで19年を暮らしてきているんだという、我々の時の心理状態よりもっと何倍もつらい、そういう状況で過ごされているんだ、ということを考えざるをえないですね。

■「北朝鮮に事前に伝える必要。呼び水なければ」

上山

本当にその方々の思いに馳せてですね、何とか解決策を見つけて行かなければいけないなという風に思いを新たにするわけですけれど、そういった中で1つの転機となるんでしょうか。水曜日に第2次岸田内閣が発足しました。岸田総理と拉致問題について菅原さんお願いします。

菅原

岸田総理ですけれども、2012年12月から17年の8月まで外務大臣として拉致問題に取り組んできました。任期中の取り組みとしては2014年5月のストックホルム合意があります。北朝鮮が拉致被害者を含む全ての日本人に関する包括的かつ全面的な調査の実施を約束。その見返りとして日本は制裁を一部解除しました。しかし、2016年2月です。北朝鮮が核実験や弾道ミサイルの発射を相次いだとして日本が独自の制裁をかけました。これに対抗する手段として北朝鮮が一方的に調査の中止と特別調査委員会の解体を宣言しました。

礒﨑さん、岸田総理は5年近く外務大臣だったわけですが、その時の取り組みはどう評価されていらっしゃいますか。

礒﨑

この日本人拉致問題を始めとする日朝関係、日本と北朝鮮との関係は、事実上、総理の専権事項なわけです。外務大臣としてどの程度の役割を担われていらっしゃったのか存じ上げませんが、ただ、安倍政権の前半、初期の段階における2014年のストックホルム合意は、やはり評価できるものであったと思います、その時点ではですね。米朝関係でも南北関係でも実は北朝鮮とは合意に至ることはあるんです。何らかの合意に至ることはあるんですが、その合意を履行していくのが非常に難しいわけですね。このストックホルム合意もそうであったように思います。どんなに難しい相手であっても継続して北朝鮮と向き合っていくという覚悟が総理には必要なのではないかと思います。

上山

岸田総理ですけれど所信表明演説で拉致問題についてはこのように話しています。「拉致問題は最重要課題です。全ての拉致被害者の一日も早い帰国を実現すべく、総力を上げて取り組みます。私自身、条件を付けずに金正恩委員長と直接向き合う決意です」。注目はこの部分です。「条件を付けずに金正恩総書記と直接向き合う決意です」と。この「条件を付けずに金正恩委員長と直接向き合う」という言葉、これについて蓮池さんはどのようにご覧になっていますか。

蓮池

色々な話が出来るという意味で話していらっしゃると思うんです。もう1点は、前提条件を付けないよと、つまり拉致問題が必ず話し合わなければならないという、そういう前提条件を出さずにやろうという話なんですけれど、今の北朝鮮の考え方、姿勢とか見ますと、上から目線の発言のように彼らは受け取りかねない、そういう可能性がありますね。ですので私は、金正恩委員長が首脳会談に出る以上は何らか、なにがしかの自分の成果を上げなきゃならないわけですよね。それが見えない限り、応じてこない可能性がある。

我々は拉致問題を解決すればこういうことが出来る、これをある意味、事前に彼らに伝える必要があるんじゃないか。そういう呼び水がなければ、なかなか彼らは応じて来ないんじゃないかなと。

■「非核化と拉致問題 時間的なポイント合わない」

上山

そういった中で土曜日(11月13日)、「国民大集会」の中で岸田総理は、このような発言をしました。「我が国自体が主体的に動き、トップ同士の関係を構築していくのが、極めて重要であります。そのため私は条件を付けずに金正恩委員長と直接向き合う決意です。日朝平壌宣言に基づき、拉致問題の諸懸案をしっかりと解決し、その上で不幸な過去を精算して北朝鮮との国交正常化を目指していく」。我々としては少し踏み込んでいるのかと思ったのが、「トップ同士の関係を構築していく」。こういったあたりも岸田総理は踏み込んでいるように見えますが、この発言、蓮池さんはどのようにご覧になっていますか?

蓮池

基本的には私は方向性としては良いと思います。特に「日朝平壌宣言に基づき」という平壌宣言の中には、国交正常化を目指した交渉の中で、お互い諸懸案を解決するために努力するという内容がちゃんとあるので良いと思うのですが、ただ現状からいってですね、核問題・ミサイル問題・拉致問題という3つをセットに解決をして、いわゆる国交正常化という道筋と取れるわけですよね、平壌宣言。

しかし、今の非核化の問題の現状を考えた時と、それから今、拉致問題の切迫した状況、時間的なポイント、2つ合わせた時に時間的に合わないなと思うんですね。いわゆる拉致問題は本当に急を要する、いわゆる核問題というのはかなり長期的な目でバイデン政権も見ていると思うし、それに合わせていったら、果たして親子の再会というものが今、最大の懸案なんです、拉致問題の。それがどうなってしまうのかな、そういう不安が強いですね。ですから平壌宣言、方法は良いのですけれども、もっと具体的にどういう段階でどういう風にやっていくというところまで入っていくべきではないのかなと思います。

上山

礒﨑さんはいかがでしょうか?この岸田総理の発言ですね、蓮池さんからもっと具体的にというような話ありましたけれども、どのようにご覧になってますか。

礒﨑

やはりこの北朝鮮に対する動機づけの部分、小泉総理と金正日国防委員長との間でサインをされた国交正常化の問題、これを究極的には目指していくということを繰り返したということ、そして、これまで日米韓の連携ですとか、核・ミサイル・拉致問題のパッケージといったことを推進してきたところが大きかったように思うんですけれど、「主体的に」ということがきちんと入っているということですね。これは安倍総理以降、安倍総理、菅総理がおっしゃったことを同じように述べているように見えても、やはり期待をせざるを得ないですね、総理だけができる仕事ですから。何しろ安倍総理に対しては、北朝鮮側は不信感を募らせてきたわけです。2018年に米朝首脳会談があった時も米朝首脳会談にブレーキをかけたのは日本側だったわけですし、しかし、シンガポール・ハノイと米朝首脳会談が重ねられた上で、その段階で安倍総理が2019年5月にようやく無条件対話ということを言い始めた。

こうなると北朝鮮側からすると、日本は結局、アメリカの追従勢力なのではないかという考え方をしてしまうんですね。米朝関係が進めば、日本は自然についてくると思ってしまうと、「日本人の生命と安全に関わる問題」というのはなかなか前に進みませんから、やはりこの問題を抱えている以上、日本は「主体的に動く」というこのメッセージは重要であるように思います。

■岸田総理が発言…「主体的に」動く意味

上山

拉致問題解決のために条件をつけずに金正恩総書記と向き合う、これをどう実現していけば良いのでしょうか。ここ最近の日本の北朝鮮に対する動き、内閣府の拉致問題対策本部のホームページにはこの3つが掲載されているわけです。2018年2月、平昌・東京オリンピックの開会式のレセプション会場で、当時の安倍総理大臣が北朝鮮の金永南最高人民会議常任委員長に拉致問題の解決を強く申し入れたとされています。それ以降ですが、2018年の6月、2019年の2月と、これは米朝首脳会談の中で当時のトランプ大統領を通じて、金正恩総書記に提起した形になっているわけです。

杉田さん、この2~3年、日本の北朝鮮へのアプローチはほとんどアメリカを通じて行われているわけです。今後のこういったアメリカのチャンネル、追従という形なのか、こういった形でいくのかどうか、どのようにお考えになっていますか。

杉田

まさに蓮池さんが先ほどおっしゃった通り、結局、アメリカは核・ミサイル交渉を、非核化を重視するわけですね。しかし非核化交渉というのは、やはり北朝鮮にとってみれば体制、やはり国家を守る最大の切り札でしょうから、核・ミサイルを放棄するということは非常に難しい話だと思います。非常に時間がかかる話だと思います。日本がアメリカを通して交渉すると、核・ミサイル・拉致という形で3つのセットになっていきますよね。日本政府もその3つが国交正常化の条件と掲げているわけですけれども、ところが、3つをセットにして解決するとなると、核・ミサイルが前に進まなければ、、拉致問題についても同じように前に進まないというように、要するに非常に悪い影響が出てしまう可能性がありますよね。やはり、ここは岸田総理も「主体的に」という言葉をお使いになられているのですから、やっぱりアメリカとちょっと距離を置いて、この拉致問題は日本にとっての最重要問題であるので、ここはアメリカに対して、日本として「主体的に」やりたいんだということをアメリカに伝えてですね、そのために独自のパイプで動きますのでそこの所はご了解くださいというようなことを、まずはアメリカに言う。その上で先ほど蓮池さんがお話になられた、首脳会談の前に拉致問題で具体的にどういうオファーができるのかを示していく。こういう戦術・戦略を取るべきかと私は思っています。

ですから、日本の対北朝鮮アプローチをかなり抜本的に変えていく必要が今来ているのではないのかと思うのですけれども、蓮池さんどう思われますか?

蓮池

全く私も同意見で、だからと言ってですね、アメリカの路線と対立をするとか、非核化に反対するとか、そういう話は全くなくて、日本は独自に北朝鮮と交渉をする、拉致問題の解決を中心に行いつつも、非核化がもし進展があれば、その非核化の進展に応じたカードはまた日本は切れるわけですので、それと連動はしつつも、ただそれに引きずられていくのではなくて、先手先手で日本は動きながら、そういう進展があれば、それに応じたまた新たなモノを出せると。それを日本側に有利な形で利用するというか、それが大事だと思うんですね。実は、トランプ大統領の時の完全な非核化という場合には、一挙にそれが実現すれば、国交正常化というものも見えてきますので、日本側としては北朝鮮の交渉が非常にやりやすくなった、一挙に拉致問題の解決まで持っていく可能性があったわけですが、実際問題として北朝鮮は非核化、完全な非核化は受け入れられなかったわけですから、現状に合わせた場合には、そのように日本としては独自にやりつつもこちらと連動させる。アメリカに今のように事前に伝えて、日本はこれのためにこれをやりますよと、是非伝えるべきだと私は思います

■北京五輪が対北朝鮮外交の舞台に!?

上山

朝鮮に対しては交渉の場を持たなければいけないことだと思うのですけれども、そうした中で一つ注目されているのが、3カ月後に行われる北京冬季オリンピックということなんです。中国の王毅外相が、「北京オリンピックが南北改善のきっかけになるよう努める。積極的な態度で政治的意思さえあれば1日でも歴史的なことが成し遂げられるだろう」と発言するなど、つまり北京冬季オリンピックがこの北朝鮮を巻き込んだ外交の舞台になる可能性が出てきているわけです。さらに、今月の2日には、中国の外務省が、国連安保理に対して、北朝鮮への制裁を緩和するよう働きかけていることについて、「各国が早急に対話を起動させるよう雰囲気を作るためだ」と話しています。

中国が北京冬季オリンピックに向けて、北朝鮮と他国が対話する環境を作っているかのようにも見えるわけですけれども、そうした中で朝日新聞外交専門記者の牧野愛博さんは、このような問題提起をしていらっしゃいます。「このオリンピックをきっかけとして、中国が日本に対して『金正恩総書記と会わせますよ』と声をかけてきたら、岸田総理はどのような選択をするのか」、確かにこういった可能性も指摘はされているわけですね。

杉田さんこうなりますと、中国を窓口にして、北朝鮮との交渉を進めていく、これは国内にも様々な意見がありそうですし、ここで岸田総理がどのような選択をするのか、どのようにお考えになっていますか?

杉田

これは大変難しい問題だと思うんですけれども、私の立場は基本的には、拉致の問題は日朝間で交渉しなければいけないので、仮に中国を通してであってもやっぱりパイプを作るという意味で、会うべきだと思います。もちろん、蓮池さんがおっしゃった通り、会うのであるならば、その前に具体的にどういう話をするのかと。挨拶程度で終わるのか、もうちょっと踏み込んだ話をするのか、そこは実務レベルでかなり詰めておく必要があると思います。ただ、中国が会いませんかと言って金正恩さんも会っていいというような環境づくりになった時に、その時に日本が中国を通すのは嫌だとか、あるいは日本としては日米同盟を大事にすべきだから中国を通しては会うべきではないというような、言うならば旧来的な発想をするのであれば、この問題はなかなか解決しないんだと思うんですよね。ですので、折角もしそういうチャンスが訪れるのであれば、そこはやっぱり賭けてみるというのが1つの重要な選択肢です。岸田総理が「主体的に動く」というのであれば、それくらいの事を示して欲しいなというのが希望ですね。

上山

蓮池さんはいかがですか、中国側がこういった提案をして来た場合は…。

蓮池

もう絶好のチャンスだと私は思いますね。アメリカも中国と対立しつつも環境問題等々で協力する部分あるわけで、日本も中国とそういう協力できる部分あるわけで、日本側が拉致問題で中国の協力を得る。また、他の分野でも日本が協力をする。隣国ですので、大きな国家的利益、アメリカとの関係を損なわない範囲ではそれは絶対にやるべきで、それが日本の独自外交、拉致問題を解決する1つの重要な要素になってくるんじゃないかなと私は思います。

■「前進を国民全体で応援」「前に進んで良かったねと」

上山

礒﨑さんはどのようにお考えでしょうか。政府としてはあらゆる方策を検討するという風にしていますけれども、中国を窓口にする、これもあらゆるという事に含まれるのかどうか、この辺り、どうお考えですか。

礒﨑

もうトップ同士で、日朝首脳会談も、もう2004年以来17年間に渡って開催されてないわけですから、どうしても実現するとなればどういう過程を経たにせよ、国民の期待度というものは高まってしまうわけです。日本人拉致問題というのは、蓮池さん始め皆さんに何の落ち度もない、日本人が100%被害者で向こうが100%加害者と問題がはっきりしているので、どうしても感情をぶつけたくなってしまいますし、全ての拉致被害者が即時に一括で奪還できるっていうのは、これは当然本来あるべき姿であり、究極的には全面的解決を目指すわけですが、しかし、きちんと物事を前進させるというご意思が岸田総理におありなんだとすれば、その一回の首脳会談で全てを賭けるという期待値の上げ方をせずにですね、きちんと解決に向けて前進することを国民全体として応援するような空気があっても良いんではないかなとは思います。

上山

どうなんでしょう、杉田さん。北朝鮮に対しては拉致問題では一歩も譲歩する必要というのは、本当に今、礒﨑さんがおっしゃったように、こちらとしては落ち度がないわけですから、する必要は無いとは思うんですが、しかし,19年間ほとんど動いていないという中で、その1歩も譲らない厳しい姿勢のままで良いのか、あるいは、ここまではという線引きをした上で交渉していくのか、ここを岸田総理がどう選択していくのか、非常にカギだと思うんですが、どう思われますか。

杉田

そうですね。まさに、おっしゃる通り、拉致問題については全く日本は何の非もないし、もちろん被害者の方々は一方的に被害を受けて、それがずっと続いている。それはそうではあるんですけど、やっぱり国家同士の交渉となりますと、現実的な着地点というのを探していく作業になっていくと思うんですね。ですので、100対0で日本が徹底的に勝って、向こうを降参させるんだという発想であっては、なかなかこの着地点は見つかってこない。その結果、今後さらに何年も、あるいは10年を越えて拉致被害者は帰ってこず家族と会えないということになって来ると思うんですよね。小泉総理が2002年に訪朝して、この時、アメリカは反対したんですよね。でも彼は行ったと。その時の彼の気概と言うか胆力と言うか、それが蓮池さん入れて5人の方がお帰りになられて、という事で突破口を開いたわけですよね。

ですから、やはり突破口を、この膠着状態において突破口を開くためには、これまでの常識的な考え方をちょっと越えるような動きをする必要があると思うんです。あの時は、既にその前にチャンネルを使って、ルートを使って交渉がありました。だから、そういう様な事も含めて全力でぶつかっていくと。トップがそれなりの気迫を持って動かすんだという、そういうものがまさに今、必要だと思いますね。

上山

何らか行動を起こした時に、もちろんハレーションもあるかもしれないけれども、それを受け止めつつ前に進める。

杉田

そうですね。だから、それは当時もハレーションありました。日米関係もハレーションあったし、国内世論も色々ありました。だけれども、前に進めた。今になってみると、あの時、前に進んで良かったねと。これからもハレーションがあっても進まないよりは進んで良かったね、という事に当然なって来ると思うんですね。

■「内向きな経済計画 念頭にあるのは…」

上山

北朝鮮が拉致問題の協議に応じるのか、大きなカギとなるのが「北朝鮮の経済状況」です。蓮池さんはご自身の北朝鮮での経験もふまえて北朝鮮の内情の分析・研究を続けています。まず金正恩体制によって北朝鮮がどのように変化したのか。それを知るポイントが「5カ年計画」です。

菅原

今年1月、労働党大会で新たな「5カ年計画」が発表されたのですが、その場で、それまでの「5カ年戦略」について「目標のほぼ全ての部分で遠く達成できなかった」と目標が達成できなかったことを認めています。先月10日には労働新聞が「経済5カ年計画」の目標達成を求める社説を発表しました。

蓮池さん、金正恩体制になって10年、「5カ年計画」から金正恩総書記が何を目指していると分析されていますか。

蓮池

北朝鮮の経済5カ年計画を見ますと、非常に内向きだなっていうのがすごい強い印象を持っています。それで、やはり今がハノイ会談でアメリカとの関係が上手くいかず挫折をして、そういった中で、とにかく内向きで、、なんとか自立の経済を作っていかなければと。ただ、そこに必ず成功できるという保証がないまま、そこに入っていたような感じがしてならないんですね。ひとつはですね、事業体形の改善という意味で、社会主義体制の経済を中心に、また回復を元に戻してですね、市場経済経済発展でかなり起爆剤となっていた、その市場経済を抑制する、そういう動きがひとつ入っております。

そういう中でのバランスという感じと、あとは自力更生とか自給自足という話なんですが、これもやはり海外との関係がなかなか解決しない上手くいかないというのも念頭に置きながら、内向きの経済になっていると思うんです。ところが、自給自足の経済というのを私が見て、今回のですね、原材料が非常に不足しているというのが度々話に出てきます。国産化するとともにリサイクルと言うんですけれども、私は北朝鮮ほどリサイクルができている国はないと思うくらい、ほとんどですね、廃品、廃棄物が出ないぐらい回収されてました。ですので、いわゆる生産物、流通物が少なければ少ないほど、リサイクルに出てくるのも少ないわけですよね。それを国家政策の中に出すということは、非常に今、追い詰められているというひとつの表れかなと思っているんです。ですので、何か作りたくても原材料がない、じゃそこからどうするかというのは今のところ見出していないと言うか、それは明らかにされていない計画なのかな、そういう風に見ています。

上山

さらに具体的に見てきますと、番組が独自に入手した2015年~2020年の5カ年戦略では、これまで最も国内総生産が高かったのが1980年代で、それを越えられていないんだと書かれています。蓮池さん、どうなんでしょうか。蓮池さんがいらっしゃった1980年代がピーク、そこから、厳しい状況から脱却して再び成長できると思われますか?

蓮池

私は国内の力だけでは無理だと思うんです。彼らが今、考えているのは何かと言うと、やはり中国やロシアとの貿易を拡大したい、そこで経済の発展をさせたい。そのためには安保理の経済制裁を一部でも解除させたいというのが念頭にあると思うんです。おそらく一部解除すれば、なし崩し的に中朝貿易というのは一挙に拡大するんじゃないか、あってないようなものになってしまうんじゃないかという、そういう風に私は思うんですね。ですので、それはアメリカとの外交でなんとか一部解除までは持っていく。それを元に中朝貿易を拡大させながら経済を立て直していこうというのが、北朝鮮の表には出ない経済路線、戦略なんじゃないかなって考えてます。

上山

まずは、蟻の一穴というか、なんとか経済制裁をちょっとでも緩めたいところに、向こうとしては、力を尽くしてくんだと。

蓮池

そうですね。

■「完全な非核化は彼らの頭の中にない」

上山

そして軍事面では9月にミサイル発射が相次ぎました。非核化の意思があるのか、このあたりはどう分析されていますか?

蓮池

今はないと思いますね。なぜかと言いますと、いわゆるこの9月にですね、ミサイル、短距離、せいぜい中距離までで、朝鮮半島の周辺に対する戦術兵器ですね、この戦術兵器とアメリカの戦略兵器というものを二つに分けてるような気がするんです。

これを今後の交渉の中で、アメリカとの交渉でいわゆる戦略核を交渉のものに上げてですね、こちらの戦術核の問題は当然のものにして、国際社会が認めざるを得ないような方向に持ってきたいと考えてるようにしか見えないんです。その一つの口実として、理由として、二重基準と言って韓国はミサイルの距離を伸ばしている、色々なSLBMやってる、それについて北朝鮮になんで文句つけるんだと。正常な国家が平和のためのものなんだから、これは認められるべきだと言っている。これは、結局は戦術だけど核を認めさせようという流れだと思うんですね。ですので完全な非核化っていうのは、ちょっと私は、彼らの頭にはない。

上山

それはない。

蓮池

そう見ていいと思います。

■「アメリカ頼みから脱却を」

上山

今年もお話を伺いました蓮池薫さん。とにかくですね、その北朝鮮の非核化の見通しに対しては、かなりはっきりと見通しは立たないとおっしゃっていました。そういった中で、非核化の実現を待っていたらこの拉致問題の解決というのは、さらに遠のいていくばかりだと、ご指摘もなさっていました。杉田さんは、この拉致問題の解決に向けてどんなことが必要だというふうにお考えでしょうか。改めて『アンカーの目』でお願い致します。

杉田

私はですね、蓮池さんのお話にまさに尽きてると思うんですけど、アメリカ頼みの交渉スタイルを脱却する必要があると思うんですね。これは具体的にどういうことかといいますと、まさに非核化あるいはミサイルの問題。それと拉致の問題というのは、時間軸が全く合わないわけですね。非核化とミサイル廃棄は簡単には、実現しない。しかし、その非核化と拉致の問題を一緒に合わせて交渉すれば、拉致の問題は一緒に長期化してしまいます。拉致問題は一刻も早い解決が必要なわけですから、これをやっぱり分離する必要があると。アメリカと一緒になってやっていると、その3点は、一緒のバスケット、一緒のグループとして交渉しなくちゃいけないというわけですので、そういう意味では、アメリカ頼み脱却。すなわち3つの問題のうち、核・ミサイルと、拉致問題を分けて、拉致だけは日本が最優先事項として、やっぱり直接北朝鮮と交渉すると。経済は、お話あったように大変うまくいってないというわけですね、北朝鮮経済は。ですから、そこはやっぱり北朝鮮は日本に経済支援を求めてくと思いますので、そういう意味では、そこが突破口のひとつになるのかなという風に思います。

上山

土曜日の集会で岸田総理は、「とにかく私の手で必ず拉致問題を解決しなければならない」という決意おっしゃっていました。ご家族の方も期待を寄せていると思います。

(2021年11月14日放送:蓮池薫さん出演部分は11月13日に収録しました)

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