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#198

世界で急拡大…オミクロン株 日本が今すべき対策

新型コロナウイルスの変異株、オミクロン株が世界で急速に広がっています。大阪府は日本国内初のオミクロン株の市中感染を発表しました。2021年12月5日の『BS朝日 日曜スクープ』は、政府の対策分科会のメンバーでもある東邦大学・舘田一博教授と、英国で免疫学の研究を続けるインペリアル・カレッジ・ロンドン小野昌弘准教授とともに、オミクロン株の実態を分析しました。2人とも、日本国内でも市中感染が起こることを前提に、水際対策で時間を稼ぎながら対策を進める重要性を指摘しました。

■「世界を席巻したデルタ株に置き換わる可能性」

菅原

日本の検疫でも感染が確認された「オミクロン株」新たな脅威なのか、それとも共存可能な変異株なのか。今日は世界中で行われている最新の研究、分析からその実態をひも解いていきます。本日のゲストを紹介します。政府の専門家会議や厚生労働省のアドバイザリボードで新型コロナ対策に当たってきた東邦大学・舘田一博教授です。よろしくお願いします。

舘田

よろしくお願いします。

菅原

そしてイギリスから参加して頂きます。免疫学がご専門のインペリアル・カレッジ・ロンドン准教授の小野昌弘さんです。よろしくお願いします。

小野

よろしくお願いします。

菅原

オミクロン株が世界で急速に拡大しています。1週間前、オミクロン株が確認された国は、9か国でした。それがきょう(12月5日)正午現在で、43カ国で感染が確認されています。1週間で34カ国、増えたことになります。

世界ではワクチン接種が進み、対策が緩和されるなど「ウィズコロナ」に向けた動きが進んでいました。しかし、オミクロン株の登場でアメリカでは…「渡航ルールを強化」アメリカへの入国者は出発前24時間以内に検査が必要となりました。この前までは72時間でした。イギリスでは、「規制再強化」緩和政策を見直し公共交通機関や店舗利用時にマスク着用を義務化しました。そして韓国でも「規制再強化」11月1日から始めた「段階的な日常生活の回復」を見直し会合の人数制限を強化しました。日常を取り戻そうとしていた中、一気に警戒感が高まりました。

舘田さん、やはり世界的に見ましてオミクロン株への警戒感、どうご覧になりますか?

舘田

まさに世界が身構えた、そういう状況が見えると思います。これまで世界中で席巻していたのは、デルタ型の変異ウィルスですよね。それに置き換わる可能性があるものとしてオミクロン株が出てきたというところで、これからどういう情報が出てくるか、注意しなければいけないと思います。

菅原

まず、最初の警戒を始めている段階ということでよろしいでしょうか。

舘田

そうですね、まだこの変異ウイルスに関してよく分かりません。ですから、そういう意味ではこれからどういう情報が出てきて、それに対して、より適切な対応をとっていくということが大事になると思います。

菅原

そして小野さんもいらっしゃるイギリスですけれども、ここのところ多少の感染者が増えたとしても規制を緩和していた中で、再び今度は再強化ということになりました。やはりオミクロン株が登場してから、相当イギリスも警戒しているということですね。

小野

はい。そうですね、今のところ、わかっているデータは限られているのですけれども、イギリスの方も南アフリカを非常に注視しつつ、既にイギリス国内でも少数ながらそのオミクロンの数・報告は少しずつ増えているので、その2つの点を非常に注意して見ているところだと思います。

世界保健機関(WHO)は12日、オミクロン株の流行規模が、デルタ株を上回る可能性が高いとする見解を公表しました。さらに、テドロス事務局長は14日、「77カ国でオミクロン株が報告された。まだ確認されていない国でも、ほとんどの国にすでに存在する可能性が高い」と指摘しました。英国の保健当局は21日、「オミクロン株」の感染は新たに1万5363人確認されたと発表しました。ロンドンのカーン市長は「重大事態」を宣言していますが、ロンドンでは入院患者が1週間で約30%増加しており、最近の感染の約90%をオミクロン株が占めているとみられています。英国での新型コロナ全体の1日あたりの新規感染者は20日以降、9万人を超えています。

■「第一波の経験あり早めに水際対策を強くと」

菅原

そして日本の状況なんですけれども、国内3例目のオミクロン株感染となるのでしょうか。先月28日にナミビアから成田空港に到着した10歳未満の男の子が新型コロナウイルスに感染しているということが既に確認されていますが、現在、オミクロン株かどうか国立感染症研究所が分析を進めている段階だということです。この男の子は、日本国内で1例目となりました、ナミビアの外交官と同じ日に成田空港に到着したということです。

国内ではこの1週間、2例の「オミクロン株」の感染者が見つかりました。1例目が、先月30日に確認された、ナミビア人外交官は、先月28日、ナミビアから韓国の仁川空港経由で成田空港に到着しました。この男性、当初は、発熱の症状がありましたが、現在は「軽快」、つまり症状は治まっています。そして2例目が、1日に確認された、20代男性です。先月27日、ペルーからドーハ経由で成田空港に到着をしました。こちらの方も当初、発熱、咽頭痛、つまり、のどの痛みが出たものの、現在は回復しているということです。

この2人についての濃厚接触者はどうなったのかということですが、同じ飛行機に乗っていた184人全員を濃厚接触者に認定しました。この184人の現在の状況ですが、松野官房長官は、「現状では発熱を含む有症状の人は3人いるが、いずれも検査の結果陰性と判明している」。陽性者はいないと話しています。舘田さん、今のところ国内の2例とも空港検疫での感染確認となっていますけれども、このあたり、今どう見ていらっしゃいますか。

舘田

今の段階では、水際対策は一番大事になるわけですけども、思い出されるのは、去年の4月の第1波ですよね。あの時はヨーロッパから沢山の感染者入ってきてしまったわけですけれども、なかなか水際で止めることができなかった。おそらく、そういった経験があるから、今回は、早め早めに水際対策を強く取るという対策に出たと思います。

1例目のナミビア人外交官と同じ航空機に搭乗していた10歳未満の男の子もオミクロン株の感染が確認されました。国内でオミクロン株への感染が確認された人は12月20日、合わせて80人を超えています。22日には大阪府が、海外への渡航歴がない家族3人のオミクロン株感染を発表、市中感染に当たるとしています。自宅待機中の感染確認をめぐっては、12月8日、米国から帰国した東京都内在住の女性もオミクロン株の感染が確認されました。この女性は、新型コロナの感染が判明する前、自宅待機中に都内在住の面会しており、男性もオミクロン株に感染しました。男性の家族や職場の同僚が濃厚接触者に認定されたほか、男性がサッカー天皇杯の準決勝を感染していたことが判明し、東京都は、男性の席の周辺で感染していた80人に検査を受けるよう、呼びかけています。

■「時間を稼ぎながら効果的な対策を」  

菅原

確かに今回、非常に迅速だったなという印象が皆さん、お持ちと思うんですけれども、日本の現在の水際対策ですが「外国人の新規入国を原則禁止」「アフリカ南部10カ国からの外国人の再入国を原則拒否」など、G7で最も厳しい措置を取っているとされています。今回の日本政府の対応ですが、その早さが注目されています。上山さん。

上山

オミクロン株への対応ですが、南アフリカの研究所が公表したのが先月25日でした。それを受け翌日、日本政府は南アフリカなど6カ国からの帰国者に指定施設で10日間の待機を求める対策を発表。その後でWHOがオミクロン株を「懸念される変異株」に位置づけました。つまり、WHOが懸念を示す前に対策を打てたということです。さらにその後も、全世界からの外国人の新規入国を原則禁止。そして、国交省が国内外の航空会社に国際線の新規予約停止を要請。しかし、これは2日に撤回することになりました。舘田さん、今回の日本政府の対応についてどう評価されますか。

舘田

危機管理の鉄則ですよね。最悪のことを考えて対応を取るということで、そういう意味では少し厳しすぎたと後から出てくるのかもしれないけど、最初の段階ではこの対策で良かったんじゃないかと思います。

上山

感染症という観点では、こういった対策が厳し過ぎるかもしれないけれども、まずはこれでいいということですね。

舘田

そうですね、この変異ウイルスに関しては、まだよくわからないというのが正直なところで、そういう意味では、これによって少し時間を稼ぎながらですね、診断法とか感染性とか病原性とか、そういったことの情報を集めて、そして、より効果的な対策を取る、そういう時間稼ぎだったと思います。

■日本の対策「市民の良識ある行動に力点」

菅原

迅速に動き出したと思われました日本の水際対策ですけれども、悩ましい問題点が指摘されているんです。外国人の新規入国やアフリカ南部10カ国からの外国人の再入国は、原則できなくなっているのですが、日本人や在留資格のある外国人はこうなっています。

南アフリカ、ナミビアなどは10日間、国指定の施設で待機した後、PCR検査で陰性であれば4日間、自宅などで待機となります。イギリスやドイツからは6日間の施設待機の後、PCR検査で陰性であれば8日間の自宅待機。トルコやフィリピンでからは3日間の施設待機した後、PCR検査で陰性であれば11日の自宅などで待機と、このようになっているわけです。国によって施設での待機の日数に違いがあります。オミクロン株の感染が多数確認されている南アフリカは、10日間待機になっていますが、6日間待機のイギリスやドイツでも感染者は確認されています。3日間待機のノルウェーでは市中の集団感染が起きています。小野さん、1週間で感染が確認された国が34カ国増えている状況で、国ごとに施設待機する日数を設定する方法で対応できるのか。どのようにお考えですか?

小野

このオミクロンが世界的に拡大している中で、現実的に、できるところで対策を立てているんだと理解しています。ちなみに、この日本の対策は、イギリスの対策に比べてかなり厳しいし、隔離期間も長いとは思っています。

菅原

特にその中でも10日間はかなり長く感じるかもしれませんが、施設待機が3日間というケースもあるんですね。その後自宅待機に移るわけで、その場合、本当は感染していたのに、まだ潜伏期間で、これが陰性となってしまった、その後、陽性者となっている可能性もあるわけで、この一番短いケースで言うと3日間、こういったところはどうでしょうか。

小野

日本のこのルールの特徴を言えば、自宅待機が長い14日間で、その間に市民の人たちに良識を持って行動してやってもらうところに多分、対策のある程度の力点があって、これはイギリスにはないんですね。南アフリカなどの危険国以外からは帰国後2日目にPCR検査をして、陰性だったらそれでよしということになっているので、それに比べると、この自宅待機のところがポイントになる政策なんだろうなと私は理解してます。

菅原

確かにこの自宅待機に関しては、アメリカ国内でも違いが出ていまして、すでに感染が確認されているカリフォルニア州やハワイ州に滞在していたら、3日間の施設待機になりますが、それ以外の地域は施設待機がなく、14日間の自宅などでの待機になります。例えば対象外の地域に住んでいても、1日だけ対象のカリフォルニア州に行っていた。こういう細かい行動については自己申告となっています。途中、カリフォルニアやハワイなどに滞在、あるいは中継地となったとしても、それを申告しなければこっちになってしまうということになるわけですね。思い出されるのは5月の対応でこちら、自宅待機などを確認するフォローアップセンターで健康状態の確認業務でおよそ5000人が応答せず、位置情報の確認ではおよそ6600人が応答せずと、どこにいるのか把握できていないことが問題になりました。舘田さん、これまでに比べれば早い対応ですが、オミクロン株の感染拡大のスピードも速い中、施設に限りがある中で、自宅待機、この辺りについてはどうお考えでしょうか。

舘田

これは本当はですね、できれば全員ですよ、隔離して最終的な安全を確認してからリリースするというそれが取れれば一番いいわけですけども、限りがありますよね。そういう意味では、ゼロリスクは求めないで、できるだけ効果的な、今あるできるもので対策を取って行こうと、そういった戦略だと思います。

菅原

連絡が取れなかった、健康状態確認できなかった、この辺りの改善策は、何か話し合われているんですか。

舘田

これはやっぱり日本の特徴だと思いますけど、日本はですね、これまでも一般市民の人たちにお願いをして、感染対策を徹底するということを努力してきましたよね。それが通じる国としての一つの戦略の方向性だと思います。

上山

小野さんに伺いたいこととしましては、この入国してくる方々の区分けですね。今の日本の対策。日本人と外国人と在留資格のある外国人と分けての対応となってますけれども、この点について、小野さんはどういうお考えをお持ちですか。

小野

私は、非常に問題ではないかと思っております。というのはですね、国籍が違っても、同じように日本に住んで学業してたり働いて納税してたりしてる人たちで、そういう人たちが、その故郷に帰って何か事務的なことしなきゃいけないとか、いろんな事情はあると思うんですね。そういう時に、国籍だけでその人たちは行っちゃだめ、日本の人は故郷に帰ってもいいと言うのは、ちょっとあまりフェアではないなと。非常に困ってる人たちが多いのではないかと私は心配しています。

■「危機管理の王道」「市中感染が起こる前提で」

上山

河野さんは、日本のここまでの水際対策についてはどんなお考えをお持ちでしょうか。『アンカーの眼』でお願いいたします。

河野

はい。これはいつも言われていることで、これが王道だと思うんですけど、先手必勝ですよね。皆さんが言われている通り、基本的に大きな網をかけて、そして徐々に緩めてくというのが危機管理の王道だと思います。今回については、今までの経験を踏まえて最初から厳しいことを課していますので、それは今までの経験が生きているなと思います。予約制限かけて日本人の方が帰国できなくなった件がありました。これについては、厳しめにやった意思は分かるんですが、担当の大臣が知らなかったということについては、これは別の意味で問題あると思いますが、ただ、政府全体としては、先手先手で行うというモメンタムが働いている、ひとつの表れだと思いますし、最高責任者の総理がそこ(予約制限の件)は、ちょっと待てと言うブレーキもかけておりますから、私は非常に、今のところは、回っている状況じゃないかと思います。

上山

コミュニケーション不足はあったけれども、最悪を想定するところで。

河野

経験を踏まえて相当、先手で行かれていると思います。

菅原

そしてオミクロン株に対する監視体制の強化も進んでいます。東京都は、オミクロン株を判定するPCR検査を整備。24時間以内にオミクロン株を判定できるようにすると言います。さらに民間企業と連携し、オミクロン株を見つけるゲノム解析も強化するということです。東京都だけでなく、全国の自治体がオミクロン株の監視体制を準備しています。舘田さん、先ほど水際対策は時間稼ぎのために重要であるという話がありましたが、続いて市中感染対策も重要なポイントになっているんでしょうか。

舘田

そうですね、もうすでにオミクロン株が日本の国内に入って市中で広がりつつあるんじゃないかという、そういった可能性も考えながら、できるだけ検査を広くできるような体制づくりを今やっていると。最初の段階は全ゲノム解析みたいな形でやると、ただ、時間がかかっちゃうんですよね。それを PCR 検査で(オミクロン株かどうか確認を)やることによって数時間、1日以内に結果が分かるような、そういった方向性が見えてきた。これが出来ると、もっと広く早くそれを検出できるようになってくると思います。

菅原

そういったものが各自治体で準備をしているということなんですけども、ただ東京以外の自治体などで格差が出てしまう。そういったことはないのでしょうか。

舘田

基本的には PCR 検査の応用ということになりますから、地方の衛生研究所等々ですね、おそらくそれはスムーズに出来るようになっていくんじゃないかなと思います。

菅原

普及がこれから進んでいくということですね。

館田

そう思います。

菅原

小野さんは、この市中の感染に関してはどんなお考えでしょうか。

小野

はい。舘田先生もおっしゃっていた通り市中感染は起きるという前提で、準備していくというのが今、大事な時期だと思います。南アフリカでの感染の広がりも非常に速いですから、それがどういう状態になるかと言うのは、まだわからないんですけども、できることを、対策を、今のうちに準備しているというのは、とても良いことだと思います。

■懸念①感染力「南アはデルタ株流行の直後に…」

菅原

水際対策を強化する中でも、どうしてもすり抜けてしまうものがあるという前提で対策を進めることが必要だということです。このように世界が警戒するオミクロン株ですが、最初に南アフリカで確認されたのが先月19日と、まだおよそ2週間しかたっておらず、全容がわかっていません。

ただ、そういった中でも徐々に情報が入り始めています。きょうはオミクロン株3つの懸念について検証していきます。まずは、最初に発見した研究者はこのように話しています。「ゲノム配列解析を見て、その光景にひどくショックを受けた。これからこのサンプルが非常に大きな問題を引き起こしていくと沈痛な思いだった。ゲノム解析専門家に電話をかけ『私には新しい株に見えるんだけど』と伝えた」と、発見した瞬間ショックを受け、沈痛な思いになるほど脅威を感じたということなんです。これまでの変異株と違いがあります、上山さん

上山

こちら系統樹というものなんです。新型コロナウイルスが時間の経過とともにどう変異していったかを示す、いわば家系図のようなものになるんですけれども、ブルーのところがデルタ株、そしてオレンジ色の線がオミクロン株です。この2つなんですけども、さかのぼってみますとデルタ株、オミクロン株、去年2月、早い段階で枝分かれして別々に変異をしていったしていったということが分かるんです。だから大きく異なるのかなと素人目では思ってしまうんですけども、この辺り、小野さん、こういう理解でよろしいですか。

小野

はい。合っていると思います。その系統樹というのは、線を辿って長い距離のところほどタンパクの構造が違う、変異が違うということを意味してますので、要するに、デルタ株に入っている変異とオミクロン株に入っている変異は非常に違うと。オミクロン株は、しかもウイルスの大事なスパイクタンパクというところに32箇所変異が入っていると、非常に多い数の変異が入っているものです。南アフリカの研究者の方が言われていた通り、その変異の入っている部分を見ると、その部分が今まで問題にされてきた特有の部分に沢山、変異が入っているので、非常に心配になるのがよく分かります。

菅原

そのデルタ株ともアルファ株とも違うというオミクロン株ですけれども、では三つの懸念について暫定的に分かっているものを見ていきたいと思います。まずこちら1つ目の懸念が「感染力」です。WHOの主任科学者は、「伝染性は非常に強い」と話しています。さらに、集団感染が起きているノルウェーの保健相も「このウイルスは非常に容易に伝染する」と、口をそろえて感染力が強いと話しています。

オミクロン株が発見された南アフリカの1週間平均の新規感染者を見ると、11月18日には276.57人だったのですが、6982.14人と2週間あまりで25倍以上に急増しました。同じタイミングでこのようなことが起きていました。

10月、感染者の92%がデルタ株だったのが、11月には74%がオミクロン株と、1か月で置き換わりが進んでいたのです。感染者が急増する南アフリカ・ハウテン州の担当者は、「これまで見られなかったスピードで市中感染が加速している。感染力の強い変異株による置き換わりと整合する」。オミクロン株が原因だと話しています。デルタ株との感染者の増え方を比較すると、このようにデルタ株よりもオミクロン株が早いスピードで感染者が増えているのがわかります。

小野さん、現状のデータなどで評価して頂きたいんですけども、感染力が非常に強いという見方が強まっているようです。小野さんは現状をどう見ていらっしゃいますか。

小野

現状を考える上で、まず南アフリカという国がものすごく酷いデルタの波を経験した直後だったというところを考えておくべきです。国民の大多数がデルタにかかっただろうと、ワクチンをしている人以外は、と考えられている状況で、その中でこのように急速に増えてくるということは、まず感染力の中身として、一旦デルタに感染した人にも感染する力が強い、再感染の力が強いんだろうという事が、まず第一に考えられています。その理由は免疫をすり抜ける力が従来のデルタなどよりも非常に強いんだろうと想像はされています。

菅原

なるほど。さらに感染の強さというところの中身を伺っていきたいんですけれども、香港では実際に宿泊者の感染者、向かい側の部屋にいる方まで感染したなるほどというケースがありました。つまり、これまでのデルタ株やアルファ株では感染しなかったようなシチュエーションでも感染しやすいということが言えるということなんでしょうか。

小野

その例だけで何が言えるか難しいんですけれども、デルタ自体も、換気を良くしないと感染してしまうぐらい感染力は強い株で、今の限られたデータの中からオミクロンは、せいぜい感染力と言ってはデルタぐらいなんだろうと。ひょっとするとデルタより感染力が低いかもしれない。ただし、今まで一旦、自然感染したり、あるいは、もしかするとワクチンをした人にもかかる力が強いがゆえに、その感染力は総じて大きく見えるのではないかと考えられています。

■「今までにない広がりを示す」可能性も

上山

舘田さんはいかがでしょうか。このオミクロン株については感染力が強いのかどうか、この辺りの評価はどのように見ていらっしゃいますか。

舘田

そうですね。私も今、小野先生がおっしゃったことに賛成です。本当に、このデルタ株にどういう形で置き換わっていくのかということは、しっかりと見て行かなければいけないわけですけれども、ただ、今、得られている情報を見ると、ワクチンを打った人にも感染を起こすし、1回かかった人にも、もう1回感染を起こすような、そういったことを見ると、今までにないような広がりを示して行くんじゃないかということを注意していかなければいけないと思います。

上山

そうしますと、やっぱりこれまでとは違う対応、対策なども求められるのかなと思ったりするんですが、これまでとは明確に違う対応というのを考えていた方が良いということなんでしょうか。

舘田

そうですね。まず一つは、ワクチンの有効性に関してということ。非常に有用な効果の高いワクチンができているわけですけども、それをスルーしてもう1回感染を起こしてくるようなこと、ブレークスルー感染が起きているわけですけど、そういうこと考えると戦略も少し変えていく、考え直す必要があるんだろうなと思います。

上山

河野さんはどうでしょうか。この感染力についてオミクロン株、まだ分からないところばかりですが、これまでとはどうも違うというところで、国民の皆さんが社会的に不安のようなものに繋がっていく、これも懸念材料な気がしますけれども。

河野

政治が国民に対して、正確かつ正直にメッセージを発信するというのは、やっぱり大事だと思います。併せてこういう対策を取って行くという、それとセットで、そうなればこういう道筋が見えてくるというようなことも含めて、国民にメッセージを出して欲しいな思います。それによって国民も自分たちがやるべきことも分かってくると思いますから、あらぬ噂が立つとか、色んなネットでエキセントリックな話になるということを抑えなくちゃいけませんから、そういった政治のメッセージ、重要だと思います。

上山

正確なメッセージ発信と、併せて対策をと。

河野

下手に噂を起こさせないように、ですね。

■懸念②病毒性“重症例が出ていない段階”の意味

菅原

そして2つ目の懸念材料、最も気になることかもしれません。「病毒性」、重症化そして死亡につながるリスクです。EUの公衆衛生担当者は「オミクロン株による死者は出ていない、感染者は軽症だ」。死者は出ていないと話しています。一方でWHO技術責任者はこう話しています。「症状について、軽症との報告があるが、最初のクラスターの報告は大学生で、若者は軽症となる傾向がある。重症化するまで時間がかかるので、判断するのは尚早」。まだ判断できないとしています。

確かに最初の症例が確認されておよそ2週間しか経っていません。舘田さん、現時点で重症化リスクについてはどう見ていますか。

舘田

おっしゃる通りで、まだ重症化に関しての情報は揃っていないと思います。今の段階は若い人であったり、ワクチンを打った人であったり、あるいは海外旅行して動き回るような人たちが感染を受けて、重症例は出てないということですけど、このウイルスが例えば高齢者のワクチンを打ってない人たち、免疫不全の人たちに感染したときに、どのくらいの病原性を発揮してくるのかということを、しっかりと見て行かなければいけないと思います。

菅原

わからないことが多い病毒性ですが、オミクロン株が猛威を振るっている地域で何が起きているのか、見てみたいと思います。南アフリカのハウテン州です。南アフリカの1日の新規感染者1万6055人のうち1万1553人がこのハウテン州の感染者です。オミクロン株が最初に確認されたのもハウテン州の感染者で、現在、感染者の90%がオミクロン株となっています。ハウテン州の入院患者は3週間でおよそ8.6倍になっています。全員が軽症・無症状というわけではなさそうです。そして乳幼児でこんなことが起きています。452人が新型コロナで入院しているのですが、うち2歳未満が52人、0歳から4歳の29%が重症化していると言います。

あくまでこれはハウテン州で起きている現象なのですが、小野さん、どうご覧になっていますか。

小野

まず非常に広く感染が広がって流行がひどくなった時に、子供や乳幼児も重症化する人というのは、母数が増えてくると稀に重症化する子というのも集まってきますから、おそらく、そういう状況なんだろうなと思っていますけれども、何分、データが少ないので、年齢による違いがあるのかとか、重症化の率は高いのか低いのかということについては、本当にこれから、まだ2週間、3週間は待たないと何とも言えないのではないかなと思います。

■懸念③免疫回避「最初の速報値まで辛抱して」

菅原

そして3つ目の懸念がこちらです。「免疫回避」です。つまり、一度感染した人やワクチンを打った人が感染しないか、重症化しないか、という点です。WHOの主任科学者は「過去にワクチンを接種した人でもすり抜けて感染症を引き起こす可能性がある」と話しています。さらに、南ア疫学モデリング分析センター責任者は「再感染はどの時期に感染した人でも起きているが、特にデルタ株に感染した人が再感染するケースが多い」と話しています。南アフリカの研究チームは「再感染のリスクはベータ株・デルタ株の3倍」と話しています。

ワクチンに期待できる効果ですが、このように「感染予防」「発症予防」「重症化予防」の3つがあります。それぞれがオミクロン株に対して効果が維持できるのか、ここが大きなポイントです。ただ感染予防については不安がありまして、日本で確認された1例目の方は、7月にモデルナのワクチン接種済み。2例目の方も10月にファイザーのワクチン接種済みでした。さらにノルウェーで確認されたオミクロン株の13人の集団感染、参加者100人程いると言われている中で、全員が2回ワクチンを接種済みでした。ブレークスルー感染が多発しています。ただ、南アフリカの研究者は「再感染やブレークスルー感染では重症化しないと考えている」と話しています。

小野さん、先ほどオミクロン株に関しては再感染もあるんじゃないかという、この特徴のことに対して話していらっしゃいましたけども、ワクチンの3つの予防効果、現状ではどうお考えですか?

小野

まずデルタまでの話をしても、ワクチンの効果は第一には重症化予防だったんです。重症化予防っていうのは非常に高い確率で、9割以上の人の重症化を予防できるというとても良いワクチンを我々打ってるわけです。その感染予防については実はデルタでさえも完璧ではなくて、予防効果が6割からもしかすると4割ぐらいなんじゃないかと言われていたわけです。オミクロンに関しては、今までの状況証拠から感染から、防御する力はある程度落ちている可能性は高いと考えられています。ただ一方で、重症化の予防については、これまでの経験からは、感染予防効果より重症化予防効果というのはいつも高いので、ある程度、重症化予防は効くだろうと期待はしているわけです。これはあと3週間ぐらい見れば最初の速報値が出てくると思うので、それまでは辛抱して待つべきことかなとは思います。

菅原

確かに重症化予防というのは、ワクチンを打つ上で非常に重要になってくると思うんですが、その結果が出るまでには、まだまだ時間が足りていないと。舘田さん、情報が少ない中でワクチンが今後も非常に重要になってくる、この点は変わらないということなんでしょうか。

舘田

そうですね。今、小野先生がおっしゃった通りだと思いますけれども、これからワクチンで、このオミクロン株の感染で重症化をどれだけ抑えられるのかというそのデータ、これが一番大事になってくるわけですけども、私もある程度、期待をしています。というのは、抗体が下がってきたような、そういった宿主に対しても、抗体に寄らない免疫で感染防御が付与されているということをデルタ株で確認していますから、そういう意味では、このオミクロン株においても重症化予防効果どうなのか、注意して見て行かなければいけないけれども、そこがポイントになってくるかなと思います。

上山

そしてもう1つ、免疫回避で気になるのがこちらです。早いタイミングで使えば重症化を7割削減できる抗体カクテル療法。第5波では、新型コロナ対策の大きな武器となりました。特効薬ともいえるような薬だったのですが、抗体を利用するこの薬が、免疫回避能力が高いとされるオミクロン株に効くのか、小野さんは現段階でどうお考えですか。

小野

この抗体カクテル療法の少なくとも一部の抗体は、効きが低下している可能性は結構あると考えています。

■3回目のワクチン接種と世界での“格差”

菅原

オミクロン株に対して、重要になる3回目のワクチン接種。岸田総理はあす(12月6日)の所信表明演説の原案で、3回目のワクチン接種について8か月を待たずにできる限り前倒しするとしています。3回目のワクチン接種のスケジュールですが、今月から医療従事者への接種が始まりました。来月から高齢者などへの接種も始まります。高齢者であれば1月は61万人、2月は1160万人の接種が予定されていますが、これが早まる可能性があります。舘田さん、3回目のワクチン接種は早めた方が良いとお考えですか。

舘田

これは医学的な見地から言うと、やっぱり高齢者や免疫不全の方に対しては、6ヵ月を過ぎたら3回目のブースター接種を進める方が良いと。ただ、現場が混乱しないように、接種する現場が混乱しないようにという、そこをしっかりと注意しながら粛々と進めていくという、そういった方向性が大事になるじゃないかなと思います。

菅原

確かに菅総理の時に1日100万人という大号令を出したのは良かったんですが、なかなか現場難しい判断だったと思うんですよね。この辺りが混乱なく進めることができるのかどうか、非常に大きなポイントとなりそうですね。

舘田

まさにそれが、私たちの今までの経験が試されていると言っていいんじゃないかなと思います。

菅原

ワクチンについてはこのような問題が指摘されています。世界全体の接種率ですが、接種完了が44%、1回目の接種済みが11%となっています。しかし、アフリカでは接種完了が7.3%、1回目接種済みが3.8%となっています。南アフリカのラマポーザ大統領は「オミクロン株の出現はワクチンの不平等を許すべきでないという警鐘だ。ワクチン格差は接種の進まない国の人々を犠牲にするだけでなく、パンデミックを乗り越える世界の努力を脅かす」と指摘しています。

小野さん、自国の接種のためにワクチンを確保する一方で、貧困国にワクチンを供給する、この2つ、どう考えればいいのでしょうか?

小野

それは先進国が今、ワクチンをかなり独占してる状況ではあるんですけれども、結局、先進国の人たちの事を守るためにも、その他の世界の人たちを守らなきゃいけないということが言えるのではないかと。現状ですと、南アフリカはアフリカの中で一番進んでいて、変異株のモニタリングなどができている国ですけれども、それ以外のところがかなり状況が見えなくて、変異株のゆりかごみたいな状態になっている事が懸念されるわけです。ですから、この格差というのは見た目にも大きなものですし、これからの大きな課題として、来年の大きな課題として、先進国が取り込む必要が高いのではないかと考えています。

菅原

根本的に新型コロナを克服するためには世界全体にワクチンを供給する、これが不可欠なのでしょうか。

小野

はい、そうですね。ワクチンを行き渡らせれば、全く無防御の状態よりも、ウイルスが色んな人で複製していくという回数は抑えられていくわけですから、そうすると変異が入ってくる可能性も抑えられていくと。そういう中で、やはり世界の全ての国でパンデミックを終わらせるまでは、そのパンデミックっていうのは終わらないのではないかと考えるべきなんじゃないかと思います。

■国産ワクチンの開発は!?

上山

世界にワクチンを行き渡らすためにもワクチンをどう確保するのか、注目されているのが国産のワクチンです。松野官房長官は「より強力な変異株や今後脅威となりうる感染症にも対応できるよう、国産ワクチンの研究開発体制と生産体制を強化する必要がある」と、国産ワクチンの重要性を話しています。現在、開発中の国産ワクチンですが、厚生労働省の発表ではこのように3つの組織で開発が行われています。舘田さん、政府としては国産ワクチンの重要性に言及していますが、薬も含めて開発の壁、どのようにお考えですか?

舘田

そうですね。今回のパンデミックの中でmRNAワクチン、世界で初めて作られたわけですけども、それがまさにゲームチェンジャーとして機能しているわけですよね。じゃあ日本で何で出てこないのかということになるわけですけども、mRNA の技術は10年前から海外では危機管理の視点で進めている、そういう戦略的な方向性があった。残念ながら日本は、それが足りなかったということが今のこの結果に繋がっているんじゃないかなと思います。

上山

その辺りを、今後、先を読んで開発していく必要があると。

舘田

そうですね。また必ず次のパンデミックが来るという、そういう危機意識の中で、それに対する投資、そして製薬企業、アカデミアも含めてですが、対策を整えていくということが大事になると思います。

菅原

小野さんはこの国産ワクチンに関してはどういったお考えでしょうか。

小野

大事な点としてワクチンなのですから、まず有効なワクチンであるかどうかというところが第一に大事なわけです。もちろん国産でやっていくことは色んな意味で良いことでありますから、その時に、その技術を育てるということを考えると、国産だからと言って甘いこと言うのではなくて、きっちりと評価して、きっちりとした臨床試験をして、そういう過程そのものの中で、国が日本の中で新しいワクチン、薬を開発する力を育てる機会だと見てもいいんじゃないかと思います。

■今後の対策 重要ポイント

菅原

まだ詳細がわかっていないこのオミクロン株、舘田さん、これからどういった情報が入ってくるのかわかりませんけれども、今後の対策として日本、どういった点が重要になってくるとお考えでしょうか。

舘田

まさにこれからの2週間3週間で新しい情報が入ってくる。それを元に、さらに強めなければいけないところは強めるし、緩めてよいところは緩める、そういう形が大事ですし、特に診断とか、ワクチン治療薬に関する有効性等々をしっかりと評価して、そして対策を取っていくということが大事になると思います。

菅原

小野さんは、このオミクロン株の特徴などがわかってきた後の段階ですけれども、我々日本人どういった行動をとっていけばいいというお考えでしょうか。

小野

大事な点は、このコロナというのは本当に知識を武器にして、ウイルスと戦っていると思うんです。その変異株デルタが出てきて、オミクロンが出てきて、それぞれ違う性質、おそらく違う性質なので、それに合わせて柔軟に考えて柔軟に対策を立てていけるようにできたらいいのではないかなと思います。

菅原

河野さんはいかがでしょうか。

河野

先ほどのワクチンの話なんですけど、モデルナというのはアメリカの国防総省がお金をつぎ込んで開発させたと聞いています。米国ではワクチンというのは危機管理、安全保障という観点、日本にはこれが全くないですよね。やっぱりその観点というのは、国家的な事業として必要じゃないかと思うのと、先生方のお話だと3週間ぐらい経てば速報値が出て、オミクロンの性格も分かるということですので、少なくともそれまではきっちりと今の水際対策をやって、時間を稼ぐということは大事じゃないかと思います。

菅原

先手を打って最悪を想定するということですね。舘田さんと小野さんはここまでのご出演です。ありがとうございました 。

館田・小野

ありがとうございました。

(2021年12月5日放送)