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#199

オミクロン株“監視体制強化のカギ” 下水サーベイランスの導入は!?

世界で拡散する新型コロナのオミクロン株、日本国内でも市中感染が確認されました。英国政府はオミクロン株について「医療機関にとって脅威」とする報告書を公表しています。2021年12月12日の『BS朝日 日曜スクープ』は、下水の中のウイルスを調査する下水サーベイランス(下水PCR検査)特集し、監視態勢強化のポイントを議論しました。

 
⇒ 2021年3月21日放送の下水サーベイランスの特集はこちら
感染再拡大を防ぐために… 新たな武器「下水PCR検査」

■日本の感染者数減「ワクチン接種と感染対策」

菅原

世界各国で感染が拡大しているオミクロン株が日本に迫ってきています。イギリスの報告書は、感染力の強さによって入院患者が急増すると警鐘を鳴らしています。今後、日本での感染拡大をどう抑えていけばいいのか、きょうは考えていきます。では本日のゲストをご紹介いたします。政府の専門家会議や厚生労働省のアドバイザリーボードで新型コロナ対策にあたってきました、東邦大学の舘田一博教授です。よろしくお願い致します。

舘田

よろしくお願いします。

菅原

そしてもう一方です。北海道大学、北島正章准教授です。よろしくお願いします。

北島

よろしくお願いします。

菅原

北島さんには今年3月にもご出演いただきました。「下水サーベイランス」(下水PCR検査)という下水を採取し、その中から新型コロナウイルスを見つけ出す研究をされています。

地域の中に10万人に1人、感染者がいれば、その下水から検出することができるということで、変異株の監視に非常に有効であると期待されています。この研究について北島さんは去年4月、海外の研究者と共同で、下水中の新型コロナウイルスに関する世界初の総説論文を発表し、注目を集めました。この後、詳しくお伺いしていきます。よろしくお願いします。

北島

よろしくお願い致します。

菅原

では、ここのところ感染が収まっている日本の状況から、まずは確認します。きょうの全国の感染者数見て行きますが、例えば北海道では3人、大阪で6人、東京で13人とあります。きょうの午後5時半時点でゼロという地域が多くなってきております。全国の新規感染者の推移ですが、第5波とされた8月のピーク時は1日2万6000人を超えていましたが、現在は149人です。

一方、世界では厳しい状況が続いています。韓国では1日の新規感染者がおよそ7000人、アメリカでは17万人、そしてドイツでも5万人を超えています。舘田さん、日本と感染者数、かなりギャップが生まれてきていますけれども一体、なぜだと思われますか。

舘田

おそらく複数の要因が関与していると思われてますけれども、その中の一つは、やはり日本ではワクチン接種が7月から10月の4ヶ月間で64歳以下の人たちに、非常に沢山の人の接種が一度に進んだということ、それともう一つは、これやっぱりメディア効果もあって、基本的な感染対策が徹底してますよね。それ以外にもいくつかの要因があるかと思いますけども、その二つが大事なのかなと思っています。

■「下水のウイルス濃度は低下 ですので…」

菅原

感染者が少ないことについて、こんな指摘があります。ワクチン接種が進んだ影響で、無症状・軽症という見つけにくい感染者がいるのではないか?「見えない感染者」がいるのではという声なのですが、北島さん、どうお考えですか?

北島

確かに、実際には感染者がいるんじゃないかという声があるんですけれども、本当に隠れた感染者がいるのかいないのかということを判断できるのが、実は下水検査なんですね。我々、全国の主要都市で下水調査実施していますけれども、こちらにその一例として札幌市のデータをお持ちしました。こちらに示しているのは、去年の5月から直近までの下水中のウイルスのデータですね。それは丸のプロットで示しているものです。その平均値を示したのが赤の線。それから新規感染者数、札幌市の新規感染者数を日ごとのデータで示しているのが縦の青い棒ですね。こちらを見ていただいてですね、お伝えしてしたいのは2点あります。まず1つ目ですけれども、こちら見ていただくと、お分かりの通り感染者が増える時には下水中濃度も上がると。感染者が下がる時には下がるということで、感染者の動向と下水中のウイルスの濃度の動向は連動しているとことが分かると思います。

菅原

そうですね、上がっている時に同じように青いグラフ棒グラフも上がって、というように見えますね。

北島

そうです。もう一点お伝えしたいのが、これ感染小康期ですね、第3波第4波の間、それから第4波第5波の間、札幌市は大体200万人ぐらいの人口がいますけれども、そのうち1日あたりの新規陽性者数でいくと10人とか20人とか、だいたい10万人当たり1人ぐらいの感染者数でもウイルスは検査できているということは分かると思います、下水から。この下の谷の部分ですね。これから言えることなんですけど、直近のデータを見て頂きたいんですが、ここですね。ここはかなりウイルス濃度が低くなっています。ですので、これから言いますと、やはり今の感染者はかなり少なくなっているということがこの下水調査から分かるということですね。

菅原

点線の所が下限になっていますけれども。

北島

これは検出下限です。濃度が低すぎて検出できないということです。

菅原

つまり、点線にちょうどかかるような部分ですと、ほとんど感染者もいないと見ていいんでしょうか。

北島

ほとんどいないです。ただゼロとは言い切れないですけれども、かなり低いレベルに抑え込むことが今はできているというふうに考えてよろしいかと思います。

菅原

こちらのデータは札幌市ということですけれども、他の地域でも同じような相関関係があるとみていいんでしょうか。

北島

他の都市でも同様の結果が得られております。

菅原

ちなみに今年の東京オリンピックでも、このような検査されたと伺ったんですが。

北島

そうですね。今回の東京オリンピックではこのデータを裏打ちするような非常に重要なデータが得られました。どういうことかと言いますと、東京オリンピックの選手村では基本的に毎日全員が検査を受けます。ですので、人の間で感染者が本当にいるのかいないか、ということがわかって、そこで下水調査をすると、下水で陰性だった時には本当に人で陰性なのかということを調べることができます。その結果、下水から検出を試みていて陰性だった場合には、かなり高い確率、概ねそのエリアでは感染者が、人の検査では見つからなかったということが分かっています。

菅原

選手村などでもエリアを分けて検査をした結果、そういったものが得られたと。

北島

そうです。ですので、このことを実証する、下水から非検出であれば感染者はかなり少ないということを実証するような、貴重なデータが得られたということになります。

菅原

感染者の増加について関連性があるということで、後ほど、このデータを詳しく伺っていきます。

■「水際対策は今のところ奏功 ただ誰が見ても」

菅原

そうした状況の中、今、押し寄せているのがオミクロン株です。これまで13例が確認されています。日本はG7で最も厳しいと言われる水際対策で食い止めていますが、確実に迫ってきています。

おととい(12月10日)確認された8人のうち2人には、これまでになかった特徴があります。それは1例目の濃厚接触者だったことです。到着した時、どちらも検査では陰性で、10歳の男児は到着して6日後の4日に陽性、30代女性は10日後の8日に陽性となりました。30代女性は施設待機期間ギリギリ、自宅待機になる直前に陽性が確認されました。

さらに、昨日(12月12日)確認された13例目の方は4例目の濃厚接触者で、到着時の検査は陰性でした。そして、その後の行動に、懸念材料があります。4日、成田空港到着後検査で陰性となり、自宅待機のため知人の車で成田空港から岐阜県の自宅に移動。そして3日後、自宅で発熱。翌日入院。この方は自宅で発症しました。これは初めてのケースです。その後、PCR検査で陽性となり「オミクロン株」と判明しました。成田空港から岐阜までこの男性を車で送った知人男性、濃厚接触者となっているということです。

舘田さん、G7の中でも日本はかなり厳しい水際をとっていると言われますが、結果的にそれをする抜ける形にも見えますが、この対策の中で難しいところはあるのでしょうか?

舘田

これは予想されることが見えてきているんだろうなということで、今、やっぱり非常に日本は厳しく水際対策やっている中で、沢山の人が一度に入ってくるということは抑えられています。しかし、こうやって、どこで感染したのか。この飛行機に乗る前に感染した可能性も当然あるわけですよね。潜伏期間が5日から10日くらいだと考えると、乗る前に感染した人が来た時には陰性だったけど、日本に着いて滞在している間に陽性になってしまった、そういう可能性もありますから。予想されたようなことが起きていますけど、今のところはかなり効果的に抑制が効いていると理解していいと思います。

菅原

確かに飛行機に乗っていた人全員が濃厚接触者になっていますが、飛行機内での感染拡大というのも可能性としてはやはりありうるのでしょうか。

舘田

当然その可能性もあります。それに対して備えているわけですけども、その場合は潜伏期間を考えると、着いてから5日10日してから発症してくる、そういうケースが出てくると飛行機の中での感染かな、ということを考えていくということになると思います。

上山

一方で海外から入国した後、待機する施設について、政府は「待機施設の確保」に力を入れています。1週間で待機施設を7350室から1万室に増やしました。さらに施設待機の対象を変更。10日間待機が必要な国は変更がないのですが、6日間、3日間の待機が必要な国についてオミクロン株以外の変異株で待機を求めていた20カ国については施設待機を無くし、14日間の自宅待機に変更しました。オミクロン株のリスクが高い人に優先的に待機施設を回す形です。杉田さん、政府は水際対策に力を入れてきましたが、限界がありそうですね。

杉田

そうですね。今、舘田先生が言われた通り、水際対策とりあえず今までのところは効果をあげてると。ただ、誰が見ても、これはやっぱりじわじわと広がるんだろうなと。水際対策では足りなくなるだろうなということだと思うんですよね。やっぱり今じわじわ増えてるわけですけど、今の時期にどれだけ機動的に機能的に対策をとれるかということが、今後の勝負の分かれ目になってくるんだと思うんですよね。これまで日本は比較的、本来やるべき時にちょっと緩んでしまってやれずに、その後大変なことが起きてますので、今こそまさに、この緩んだ体勢を引き締める意味でも、少なくとも機動的にぱっと待機施設を増やせるような、そういうような仕組みを作って行く、これはもう政治がやるしかないと思います。

菅原

13例の方々のワクチン接種の状況ですが、13例目の方は7月と8月にファイザーのワクチンを接種済み。おとといの8例については、10歳未満の男の子を除いて他の7人はファイザー、モデルナのワクチンを6月から10月の間に接種完了しています。さらに最初の4例も全員ワクチン接種済みでした。

13例のうち、12例がブレークスルー感染。しかも多くの国民とほとんど同じ時期に済ませています。舘田さん、この状況から見てどういったことを感じますか。

舘田

このオミクロン株の非常に一つの嫌な特徴として、免疫からのエスケープ現象ですね、免疫回避が見られて、まさに、ここで見ている例は少ないですけれども、ワクチンを打っていても、それを逃れるような形で感染が起きてしまうという特徴を示していると思います。

菅原

2回ワクチンを打っていたとしても感染する可能性はあるんじゃないか。そういった疑いを持って見ていく必要があるということですね。

館田

そうですね。

国内でオミクロン株への感染が確認された人は12月20日、合わせて80人を超えました。22日には大阪府が、海外への渡航歴がない家族3人のオミクロン株感染を発表、市中感染に当たるとしています。自宅待機中の感染確認をめぐっては、12月8日、米国から帰国した東京都内在住の女性もオミクロン株の感染が確認されました。この女性は、新型コロナの感染が判明する前、自宅待機中に都内在住の面会しており、男性もオミクロン株に感染しました。男性の家族や職場の同僚が濃厚接触者に認定されたほか、男性がサッカー天皇杯の準決勝を感染していたことが判明し、東京都は、男性の席の周辺で感染していた80人に検査を受けるよう、呼びかけています。

■英国が警鐘“重症度が低下しても入院者増の恐れ”

菅原

そういった中でオミクロン株では、これまでの変異株と何が違うのか、少しずつわかってきました。まず今週、注目を集めたのがこちら。9日、WHOがアフリカの感染状況を発表し「感染しても重症化しにくい傾向があるようだ」としました。さらに、アメリカのファウチ首席医療顧問は「重症化しにくい可能性がある」と発言。こうしたことから、オミクロン株の危険性は低いのではないか、そんな印象が強まりました。

そうした中、オミクロン株に強い懸念を表明した国があります。この1週間、オミクロン株が急増し始めたイギリスです。イギリスは現在、1日の新規感染者が5万4073人とデルタ株による感染拡大が続いているのですが、その中でオミクロン株が急激に増加しています。先月27日に最初の感染者が確認されると、このように2週間で1898人まで急増しました。11日には1日で633人増加。まさに今、オミクロン株の急拡大に直面しています。

そのイギリスの諮問会議がオミクロン株について報告を発表しました。その内容ですが、まず「イギリスでのオミクロン株の広がりは南アフリカで見られるのと同様の軌道をたどっているようだ」として、国の状況や環境による「感染拡大」を否定、南アフリカと同じことが他の国でも起きうるとしています。さらにイギリスでのオミクロン株の広がり方ですが、倍加時間、感染者が倍になる時間がおよそ3日だとしています。これまでの日本での感染拡大と比較しますと、日本ではデルタ株による第5波の時、7日で倍になっていました。それよりも速いペースで、今、イギリスではオミクロン株の感染が広がっていると言います。

舘田さん、やはり先週もお話にありましたが、オミクロン株の感染拡大のスピードは相当警戒した方が良いようですね。

舘田

そうですね。今、得られているデータで、まさにこのオミクロン株の感染性の強さ、そしてその速さというものが証明されてきているわけで、これから世界でオミクロン株がどのように置き換わっていくのかを注視していく必要があると思います。

上山

舘田さん、イギリスでは8割の人がワクチンの2回接種が完了している状況だと思うんですけども、そういった中でもこれだけの速さで感染が拡大している。改めて、これはどのように見たらよいのですか。

舘田

ワクチンによって誘導される抗体、それが一定の効果があるのかもしれませんけども、このオミクロン株ではそれをすり抜けてしまって、そしてワクチンを打っている人にも感染が広がるという、そういった兆候が見られてきていると考えられると思います。

菅原

さらにイギリスの報告書では医療機関への影響についてこのように予測しました。イングランドではオミクロン株の入院患者が年末までに1日1000人以上に達する可能性がある。感染者ではなく、入院患者が1000人以上になるとしています。重症化リスクが低いとされる中、なぜなのか?理由として「感染者の増加率が非常に高いままだと、重症度がわずかに低下しても入院者の大幅な増加を抑えることにつながらない」。重症化リスクが低下しても感染者の増加率が高いと入院患者は増えるとしています。さらに「入院の総数に対する感染性と免疫回避の変化の影響は、重症度の変化の影響よりも遥かに重要である可能性が高い」。入院者数は、重症化リスクよりも、感染性と免疫回避の変化の方が影響を受けるとしています。報告書では医療機関を守るため、感染対策を緊急に検討する必要があるとしています。

舘田さん、こういった報告書の内容を見ていきますと、やはり母数が増えて行けば当然、入院者数も増えていくということで、重症化リスクが低ければ良いというわけではないんですね。

舘田

そうですね。重症化のリスクに関しても、まだこのオミクロン株に関してははっきりと言うことはできない。そういう中で、もう一方の感染性が非常に高まっている。これは明らかになってきているわけで、そういう意味では、どのくらいのインパクトをもたらすのかということに関しては、重症化のリスクと感染力の掛け算でこれを見ていくということが大事になってくるかと思います。

菅原

リスクが低かったとしても、元の数字が大きければ(入院患者の)総数が多くなってしまうということですね。

舘田

そうですね。まさにイギリスで1日に5万人を超えるような感染者が出ている、そういった状況が日本でも起きたとすると、これはかなりの医療の負荷を考えておかなければいけないと思います。

菅原

日本でも医療への逼迫、入院患者1日1000人というイングランドの予測もありますが、そこに備えておく必要は当然あるわけですよね。

舘田

そうですね。最悪の事態を考えて、これは今、しっかりと対策を整えていくということが大事になると思います。

英国の保健当局は21日、「オミクロン株」の感染は新たに1万5363人確認されたと発表しました。ロンドンのカーン市長は「重大事態」を宣言していますが、ロンドンでは入院患者が1週間で約30%増加しており、最近の感染の約90%をオミクロン株が占めているとみられています。英国での新型コロナ全体の1日あたりの新規感染者は20日以降、9万人を超えています。

■オミクロン株の感染速度がもたらす危機

上山

さらに「オミクロン株」の感染力の強さによってどのような問題が起きるのか、イギリスの報告書はこう指摘しています。「人に感染する速度が速く、濃厚接触者の調査が追い付かなくなる恐れがある」。濃厚接触者にコンタクトした時には、すでに別の人に感染させている、それくらい感染が早い可能性があるとしています。さらに介護施設などでの集団感染のリスクが高まる恐れ。院内感染のリスクが高まる恐れ。舘田さん、感染してはいけない人を守ることがさらに難しくなるということでしょうか?

舘田

はい。まさにこれは避けなければいけない一番大事なケースになるわけですけども、爆発的な感染者の増加が見られてしまうと、どうしても保健所が逼迫、そしてクラスター対策ができないという状況になる。それがどんどんどんどん広がっていくと、今度は感染者が介護施設とか病院の中に入り込む形で、弱い人たちにそれが広がってしまうという、そういったリスクを高める。これをとにかく避けなければいけないということで、まずは感染者数をしっかり抑えていくということが大事になると思います。

上山

そして、重症化リスクが低い可能性のあるとされていますが、ワクチン接種済みの人でそうなのか、未接種者でも低いのか。このあたりもきちんと精査して対策に反映していく必要があると思うんですが、どうですか?

舘田

はい。この点は非常に大事なところで、今、見つかっている患者さんの多くは旅行して動き回るような人たちで、多くはワクチン接種を受けている若い人が中心ですから、このオミクロン株がワクチンを受けてない高齢者、免疫不全宿主の人たちの間に入った時に、どれだけのインパクトを示すのかということに関して、注意して見ていく必要があると思います。

上山

杉田さん、オミクロン株が上陸して広がり始めたイギリスの報告、医療機関を守るための対策を緊急に検討すべきとしています。日本でも病床は増やしています。今月7日の時点では3万9000床、今年の夏のピークに比べますと約1万2000床は増加させてはいるんですけども、ただ大元の感染者の増加を抑える対策も同時に必要になってきそうな気がしますね。

杉田

私もこのイギリスの諮問委員会の報告書を読みました。オミクロン株については基本的には南アフリカのお医者さんへのインタビューとか、ある意味エピソードベースの報告しかなかったんですけども、初めて包括的に30人くらいのイギリスの専門家の方が分析しているということで、非常に信頼性が高いものだと思います。私も関心持つのは、感染対策をしても結局、感染者を減らすまでには、どうしても時間がかかるんだということを強調していて、感染者の広がり、あるいは重症者が増えた、あるいは感染爆発みたいなことが起きた段階で、慌てて対策をやっても間に合いませんよということをかなり強く言っています。ですので、病床を増やすということも早め早めに手を打っておく必要があると思うんです、他の感染対策も含めてですね。

先ほど数字が出てましたけれども、あの数字を見ると1万2000床ですか、増えたんだなということは分かるんですけども、これが本当にどれくらい緊急時にちゃんと稼働するのか、頼りになるのかっていうところが、若干ちょっとこれまでの例、これまでの経験からすると、ちょっとクエスチョンマークが出てくるんですよね。ですから、そういうことも含めて、実際のシミュレーションとして、これからの段階ではこれくらい使えるんだということを、もうちょっと分かる形で示してほしいと思います。舘田先生に一つ質問があるんですけども、要するに、我々はまだオミクロン株について本当のところはよく分かってないと。先ほど、重症化と感染の広がりを両方掛け合わせて判断することによって、初めてオミクロン株の脅威というのが分かってくるんだというお話があったんですけども、それは具体的に言うと、いつ頃の段階でオミクロン株が、例えば今のワクチンのペースと合わせて考えた時に、どのくらい恐ろしいものなのかということが判断できるものなんでしょうか。

舘田

そうですね。イギリスの例を見ても倍化時間が3日ということを見ると、多分、1週間2週間経つとそれが倍になってくるということですから、さらに増えてくるわけです。そうすると、これ先ほど言った、ワクチンを打っていないような高齢者、あるいは免疫不全宿主の人に感染して、その人たちがどのような経過を取るのか、それが見えて来る。その時に初めて、この変異株のインパクトというものが分かってくるんだろうかなと思います。

杉田

それは例えば今後2週間とか、そういう具体的な数字。

舘田

おそらく1週間とか2週間すると、大体分かってくるのかなと思います。

■下水サーベイランス…ウイルスを早期発見

菅原

年内のうちにどこまで実態が分かってくるのかという「オミクロン株」ですが、市中感染に対する監視体制をどう強化すればいいのか。そこで期待されるのが「下水サーベイランス」です。排せつ物にウイルスが含まれることから、下水から新型コロナウイルスを見つけ出す技術です。特徴として10万人に1人、感染者がいれば、検出可能です。さらに、無症状者から排出されたウイルスも検出可能です。わかりやすく図で説明すると、このように下水処理施設がありますが、毎日下水を検査している中で陽性が確認されます。そうするとこの地域に感染者がいることがわかります。そうなった時にこの地域に重点的に検査をしたり、人の接触を減らしてもらったり、対策が立てられるというものです。北島さん、エリアごとに市中での感染があるのか、ないのか、こういった事が分かる検査ということで理解はよろしいでしょうか。

北島

そうですね、その通りですね。この下水サーベイランスというのは、下水道の特性を生かした検査で、どういうものかと言いますと、都市の中には下水管網が張り巡らされていて、各家庭とか施設とかから出てきた下水が下水処理場に集まってきます。大都市ですと、一つの下水処理場が集めているエリアに住んでいる人は数十万人ぐらいいます。ですので、一回の検査でその集団レベルの感染状況を把握することができる。我々検査する側が人の検体を取りに行かなくても下水処理場に流れ込んでくる下水を待ち構えて検査していると、その地域の感染状況は分かる。非常に少ない検査数で効率的に感染状況がわかるというような検査になっています。下水から比較的、早めにウイルスを検知することができる。その効率の良さと、もう一つは、人が感染して症状を出す前に下水中にはウイルスが排出されている。一方で人の検査は症状が基本的には出てから検査を受けて、それから報告されるまでにタイムラグがあります。ですので、下水は早めに検知できると考えています。

菅原

実は、この検査は新種の変異株に関しても有効だという実際のデータがあります。例えば去年12月に拡大した変異株・アルファ株、北島さんが調査している地域で最初に感染者が確認されたのが3月でした。しかし、下水からは3カ月以上前の去年12月4日に採取した検体から確認されました。さらにデルタ株でも、調査地域で最初に感染者が確認されたのが6月。しかし、下水からは5月19日と、およそ1か月前に検出されていました。つまり変異種、アルファ株やデルタ株などでも、下水からの検査で分かってしまうんですね。

北島

そういうことですね。我々、PCR で下水中のウイルスを検出しているんですけれども、下水からPCRで検出された場合には、その一部の試料をゲノム解析という、塩基配列を解読する解析を行っています。これは人の検体で言うところの確定検査に当たるものなんですけれども、これを実施すると、どの変異株がその下水の中に入っていたかというのが分かるというような検査で、そのような手法を使って、ここに示しているようなアルファ株とデルタ株を下水から早く検知するということを可能性として示したということになります。

菅原

オミクロン株でもこれは分かると、検出できるいうことですか。

北島

そうですね。基本的にオミクロン株でも、今、我々が使っている手法で検出可能ですので、ゲノム解析を使うと、同様に検出可能であると考えています。

■「政府の基本対処方針に…一刻も早く導入を」

菅原

お伝えしている「下水サーベイランス」。実際に世界では、オミクロン株の監視体制に下水の検査が使われています。アメリカです。カリフォルニア州のサクラメント郡、マーセド郡では、オミクロン株の感染者は未確認だが、下水からオミクロン株が検出されたと言います。研究者は「検査結果は8時間で出るので、ほとんどリアルタイムだ。下水から検出されたことで、地域に対して『注意してください、新しい変異株が出現しました。異例の速度で増加しているので気を付けて、接触を減らすようにしてください』と伝えた。早い段階でアラートを出せる」ということなんです。この研究者の報告は全米のニュースにもなっています。

サンタクララ郡の保健所の所長は「(下水の検査は)オミクロン株の広がりを理解するための重症な早期警戒システムの第一段階。視野を広げて様々な監視手段を駆使することは意味のあることです。結果的にとても役立っている」と。こういった形で北島さんの研究が世界でも活用されているといますが、北島さんに伺いたいのは、実際に、この検査を日本で行う中でオミクロン株は見つかっているのでしょうか。

北島

そうですね。今、私の手元、それから私が知る限り、下水から日本でオミクロン株が検出された、見つかったという報告はありません。ただ、下水からオミクロン株を検出することは、技術的には可能ですので、これから継続的に監視していくということが重要になってくるという風に思います。

菅原

舘田さん、海外でも活用されている下水の検査、どのようにご覧になっていますか?

舘田

改めて、この下水サーベイランスの重要性というものを認識しました。まさに世界中でそれが行われてますけども、日本はオミクロン株が今、市中には広がってないような状況ですけれども、いつ広がり出すか、それをいち早く察知できるのがこの下水サーベイランスになるわけですから。これは、政府の基本的対処方針の中に下水サーベイランスを応用するということがもう書かれてます。ですから、もう一刻も早く、とにかく大都市圏においては、このサーベイランスを導入して実施していくということが大事になると思います。

菅原

確かに、日本でも今後の導入がどうなっていくのか気になるところです。海外では活用が進んでいます。最近ではアメリカ・ボストンでもこういった形で活用されました。下水中のウイルス量が増えたというときに研究者がSNS上で「来週ボストンで感染者が増えそうだ。この数値は去年の冬のピークより高い。今すぐ対策を!」こうしたやり取りを行いました。さらにオランダでは、このようにオランダ全土にある300以上の下水処理場で新型コロナウイルスを検査。地域ごとの濃度をこのようにホームページで公表し、どの地域の感染状況が厳しいかを把握する1つの情報として活用しています。北島さん、日本では現状、どのくらい普及しているものなのでしょうか。

北島

そうですね。日本ではやはり欧米諸国に比べますと、人口当たりの感染者数が少なくて、これまで、これはいいことだったんですけれども、それは下水中のウイルス濃度が低いので、我々下水サーベイランスをする側からすると、なかなか検出が難しいという状況にありました。そのような中で、我々技術を開発して、高感度で検出できる方法を開発しましたので、先ほどお見せしたようなデータが得られるようになってきています。

ですので、これまで我々研究者が進めてきたこの調査ですけれども、今はもう実用化段階に入ってきていると考えておりまして、実際に民間企業でも、例えば検出調査、それから最近は塩野義製薬がゲノム解析、これはオミクロン株も含めたゲノム解析ができるというような下水調査サービスを開始しておりますし、これから普及が期待されるところかと思います。

菅原

こちらご覧頂いてるのは札幌市のデータですけれども、まだオミクロン株は市中では見つかっていない、こういった中では見つかっていないという話ですが、他にはどういった都市で行われているんでしょうか。

北島

そうですね。他、国内では数十自治体で行われておりまして、その自治体が日本各地の主要都市、それから地方都市も含めて、かなりの数でもうすでに実証実験が行われています。

菅原

まさに現段階でも政府や自治体などと協議が進んでいると見ていいんでしょうか。

北島

その通りです。

■導入への懸念“縦割り行政の壁”

菅原

杉田さんは、ここまでご覧になって、下水サーベイランス、どのようにご覧になっていますか。

杉田

大変、効果があるんだなぁというのが改めて分かりました。やっぱりちょっと日本での広がりが、せっかく北島先生が始められたのにも関わらず、広がりが遅いなという気がしてまして、よくある縦割り行政と言うか、下水となるとやっぱり中央省庁でも国交省、あるいは医療となると厚労省という、そういう縦割りの壁があるのかなということ。あと地方自治体をどう巻き込むかということだと思うんですけども、要するに官僚、あるいは公務員の人々は新しいことをやるのは抵抗があると。基本的には昨日と同じこと、あるいは去年と同じことをこの時期だからやるという発想ですので、かなりリーダーシップを持って突破力を持ってやらないと、全国的な広がりまで至らないのかなと。そうしないと、やっぱり全国的なレベルでの感染の広がりを予測するということが難しい。特にオミクロン株が始まりつつあるので、そういう部分ではもうちょっと活用してほしいなという感じがしています。

菅原

確かに舘田さん、こういった形でアメリカだったり、オランダだったり、海外では活用されていますけれども、その研究をされた北島さんのいらっしゃる日本ではまだなかなか広がっていないという現状もあるようなんですけども、今後の市中感染の予測を立てる意味でも活用していく、この辺りはいかがでしょうか。

舘田

これはまさに、日本の危機管理の一つの方向性として、今、ご指摘がありましたけれども、これは政府だけでもできないですよ。政府と自治体とそして研究者、一緒になってやってかなければいけないわけで、それは今、まさにオミクロン株がいつ市中感染を起こすのかという、こういう危機ですから、一刻も早く動かしていくということが大事になると思います。

菅原

そして上山さん。日本には現在2200カ所の下水処理場があるということで、まだまだ可能性を秘めているんですよね。

上山

ここは是非、積極的にアピールしたいなと思っているんですけども、この下水サーベイランス、検査の効率が良いというところで、今、菅原さんからもありましたように、日本全国に約2200か所の下水処理場がありますが、北島さんによりますと、そのうち都市部のおよそ150カ所の下水処理場で検査を行うことで、人口の3分の1をモニタリングできる、ということなんです。北島さん、150カ所の下水を毎日調べることは可能なんですか?

北島

まず150カ所ですけれども、これは、東京都それから政令指定都市にある下水処理場の数がだいたい150カ所になります。そこがカバーしている人口が約4000万人ですので、人口の1/3。1日に150検体の PCR 検査できるかということですが、150回分というのは現実的に十分可能です。ただ、大学、我々研究者がやろうとすると、なかなか検査数の上限がありますので、ここは民間の検査サービス等も活用しながら進めていくと、1日150カ所程度は十分に実現可能な数だと思います。

上山

非常に効率的だということで、そういった面から是非普及していくといいなと思います。

菅原

先ほど、縦割り行政の話もありましたけども、北島さん。やはりそういったところで下水サーベイランスを広めていく上で、何かご自身の中で感じている壁、そういったものはあるでしょうか。

北島

そうですね。この下水サーベイランスは、そこで下水を流れている水を汲むっていうことはできない。これはやはり下水道を管理している自治体、特に下水道部局の理解が得られるか、ということが一つ。それから、そのデータをどのように活用していくか。感染対策につなげる、社会経済活動を回すというところについては、地方自治体の保健衛生部局の管轄になります。やはり先ほど縦割り行政の話も出てきましたけれども、自治体の中でもその横の連携が上手くいっていて、下水の調査ができて、かつそのデータを活用するというところの道筋が出来ていくということがこれから必要になってくると思います。

■「3回目のワクチン接種の必要性を」

菅原

それが進めばこの下水サーベイランスを全国でということも考え得るということでしょうか。そして今後のオミクロン株への対策を改めて考えていきたいんですが、杉田さん。ワクチン3回目の接種、これを急いで行くという政府の方針がありますけれども、その点ではどういったところがカギになるのか、『アンカーの眼』でお願いします。

杉田

やっぱり3回目の接種の必要性、重要性というのが国民に広く、我々も含めてですけども、理解されていないんじゃないかという懸念があるんですよね。これはやっぱり、今の新規感染者数が少ないということ。それからオミクロン株もなんとなく水際でうまく行けているのかなという気持ち。あと最大のことはコロナ疲れですね。このこともあって、なんかもう終わったんじゃないんですか、みたいな発想がちょっと皆さんあるんじゃないかと思う。3回目について言うと、やっぱり副反応の話がありますので、私の周りに聞いても、特に若い方、女性の方、いや3回目はもう良いでしょうと、コロナ終わったんじゃないですかみたいな気持ちを皆さん持ってらっしゃると。私はこれが一番、3回目接種の障害だと思うんですよ。自治体は過去2回やってますので、なんとなくやるだろうと。ワクチンも入手できてると。だけども人々が打ちに来ないと。やっぱり政府がもうちょっとデータを示して、3回目がなぜ必要かっていうことを国民に訴えていく、その啓蒙活動が必要だと思います。

菅原

確かに2回セットというのは広く日本中に広まりましたけれども、舘田さん、やはりこの3回目の接種が非常に重要そうですね。

舘田

そうですね。まさにアメリカで一日10万人、イギリスでも5万人、そういう感染が起きてしまっているわけですから、ブースター接種はいかに進めていくのかということが、今からこの冬をどうやって乗り越えていくのかにおいて非常に重要だと思います。

菅原

3回目のワクチン接種、そして、きょう、改めてご紹介しました、市中での監視体制を強める下水サーベイランス、進んでいくことを本当に願っております。舘田さんと北島さんはここまでのご出演です。ありがとうございました。

(2021年12月12日放送)

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