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#102

「交渉加速」合意から1年 日ロ関係の今後

安倍総理とプーチン大統領が日ロ平和条約締結交渉を加速させることで合意してから1年です。2019年11月17日の『BS朝日 日曜スクープ』は、番組が独自取材したロシア議会の重要人物のインタビューを紹介するとともに、スタジオにビリチェフスキー駐日ロシア公使を招き、日ロ関係の今後に向き合いました。

ロシア連邦院コサチョフ国際問題委員長インタビューの全編はこちら

■「ロシア外交のビジョンを表す人物」

山口

安倍総理とプーチン大統領がシンガポールで日ロ平和条約交渉を加速させることで合意してから1年。きょうは日ロ問題について考えていこうと思います。きょうのゲストは、駐日ロシア公使のドミトリー・ビリチェフスキーさんです。どうぞ宜しくお願い致します。

ビリチェフスキー公使

こんばんは。宜しくお願いします。

山口

番組では独自にコンスタンチン・コサチョフ ロシア連邦院国際問題委員長を取材しました。G20国会議長会議で訪日した際、11月4日にお話を伺いました。コサチョフ国際問題委員長は、日本との地域間協力支援協議会の会長も務めていて、来日経験も豊富だということです。公使に伺います。コサチョフさんは、ロシア議会の非常に重要な人物で、ロシアの外交、その考えを発信する方ととらえていいということですね?

ビリチェフスキー公使

はい、おっしゃる通りです。コサチョフさんは、もともとロシア外務省の方でした。その後、下院の国際委員長をやり、今は上院、連邦院の国際問題委員長です。外交分野を担当し、政府に近く、優れた政治家です。それから、ロシアの政治エリートには、外交について共通のビジョンがあります。大統領と政府のビジョンで、コサチョフさんはこのビジョンを表しています。すごく大事な方です。彼の息子は日本と関係もあります。今年(2019年)8月まで、彼の息子は、駐日ロシア大使館で頑張っていました。

山口

ロシアの外交をしっかりメッセージを語れる方だということで、大変興味深いインタビューだったのですが、きょうは、このインタビューの内容をご紹介しながら、公使に日ロ平和条約交渉の行方もしっかりと伺って参りたいと思います。まずは、この1年、ロシアとアメリカの間で、新たな緊張が生まれつつあるということです。

大木

平和条約締結交渉の加速で合意した日ロ首脳会談(2018年11月14日)から3ヶ月後です。アメリカがロシアに対して条約違反を指摘、INF=中距離核戦力全廃条約の破棄を通告します(2019年2月1日)。G20サミットでの日ロ首脳会談(6月29日)を挟んで、8月2日にINF全廃条約が失効しました。その翌日、エスパー国防長官が中距離ミサイルのアジア配備に前向きな発言をします。8月18日にはアメリカはINF条約で禁止されていた地上発射型巡航ミサイルの発射実験を行いました。

■「米ミサイル受け入れ国は、報復攻撃の標的にも」

山口

INF全廃条約の失効と、アメリカによるアジアへのミサイル配備の可能性、それが日本とロシアの関係にどんな影響を与えるんでしょうか。それではロシア議会の重要人物、コサチョフ国際問題委員長の見方をご紹介します。

ロシア連邦院 コサチョフ国際問題委員長

INF全廃条約が締結されたのは、ソ連時代の1987年のことだ。当時は冷戦の最中で、緊張緩和の兆しが見え始めた時期だ。すべての核兵器の廃絶を目指し両国が締結した初めての条約だ。なぜなら中距離ミサイルが最も危険な兵器だからだ。中距離ミサイルが危険なのは、飛行時間が短いため迎撃準備が困難だからだ。そのため両国はこのミサイルの全廃を決め、原則的にミサイルは全廃された。この条約の失効により、安全保障分野における軍事対立が激化するリスクを望まない。これがロシアの原則的立場だ。

東西冷戦終結の象徴とされた、INF=中距離核戦力全廃条約。アメリカとソ連は中距離ミサイルの全廃を決め、ソ連崩壊後も継承されてきました。今年に入り、アメリカは、このINF条約の破棄を表明。アメリカとロシアの新たな緊張は、日ロ平和条約交渉にどのような影響があるのでしょうか。アメリカの破棄の理由についてコサチョフ氏が興味深い見解を示しました。

ロシア連邦院 コサチョフ国際問題委員長

米国が配備の必要があると考える地域に、中距離ミサイルを使用できないと困るからだ。米国は中距離ミサイルをヨーロッパではなく、アジアに配備するつもりだ。アジアには北朝鮮の脅威と、いくつかの火種があるという。私は火種とは、中国をさすのではないかと推測する。米国は中国の近くである日本や朝鮮半島、アジア太平洋地域の国々に、中距離ミサイルの配備をもくろんでいる。米国の地政学的問題を解決するのが目的だ。

そして、万が一、日本への配備があった場合、報復攻撃の対象となり得ることを指摘しました。

ロシア連邦院 コサチョフ国際問題委員長

もしこれらの国々にミサイルが配備されたら、ロシアにとって脅威となるのは明らかだ。この脅威を取り除くために対応するのは当然だ。中距離ミサイルが配備される国は、報復攻撃の標的となり得ることを理解すべきだ。これはロシアの攻撃性を示すものではない。中国も同じ措置を執るはずだ。いかなる措置にも対抗措置がつきものだ。これは安全保障の基本だ。配備を受け入れた国は、その判断を下した限り、それがもたらす結果も理解すべきだ。ロシアは日本や関係諸国の動向を注意深く見守る。

日本はミサイル配備を拒否すべきということですか?

ロシア連邦院 コサチョフ国際問題委員長

新型ミサイルが配備され、ロシアの安全が脅かされればロシアは自動的に対抗措置をとる。ロシアが最後通告をすることはない。

■「ロシアの極東はアジア太平洋地域」

山口

ロシア議会の重要人物、コサチョフ連邦院国際問題委員長は、私たちのインタビューの中で、アメリカが日本を含むアジアに中距離ミサイルを配備する可能性を指摘していました。

大木

コサチョフ氏は、アメリカがINF全廃条約を破棄したことについて、「私が推測するに火種とは中国を指すのではないか。アメリカは中国の近くである日本や朝鮮半島などに中距離ミサイルを配備しようとしている」という見方を示しました。そしてロシアの対応については、「中距離ミサイルが配備される国は、報復攻撃の標的となり得ることを理解すべきだ」と強調しました。さらに、「これはロシアの攻撃性を示すものではない」としつつ、「ロシアは日本をはじめとする関係諸国の動向を注意深く見守る」と述べました。

山口

アメリカが中距離ミサイルを仮に配備したとすれば、その国は報復攻撃の標的になり得るんだというご指摘ということですよね。日本も例外ではないということですが、公使に伺います。アメリカとロシアの間での新たな緊張がINFの破棄を巡って生まれているということですね。

ビリチェフスキー公使

まあそうですね。アメリカとロシアの関係はそんなに良くはないと言ってもいい。これからどうなるか予測できませんけれども、中距離ミサイルの分野は、地域安全保障のために、大事なことじゃないかと思っております。なぜかと言うと、ロシアの極東は、アジア太平洋地域になりますね。北東アジアにも入っています。日本から、あるいは韓国からすごく近いですよね。だから我々は、コサチョフが言った通り、見守ります、重視しています。

川村

私もコサチョフさんの言うことは、その通りだと思いますね。ただ、問題なのは、アメリカがなぜそれを破棄したのか、アメリカの、一方的な通告なんですね。それは、アメリカの論理で言うと、「ロシアがもうすでにINF条約を守っていないからだ」という言い方をしているわけです。だったら、それをもう1回元に戻す努力を、米ロ間でなぜできなかったのか。私がヨーロッパから聞いている話では、ヨーロッパ諸国はアメリカに対して非常に困ると言っていて、むしろヨーロッパと旧ソ連、ロシアの距離の方が近いわけですから。そういう意味では、このINF条約を破棄することによって、ヨーロッパの危機は高まるということで、ヨーロッパとアメリカもギクシャクし始めているということなのですけど、今、実際にプーチン大統領の戦略も含めてどのようにロシア側としては考えているのでしょうか?

ビリチェフスキー公使

アメリカは、事情を歪曲したと思っております。お互いに告発がありますよね。ロシア側は、「是非、ロシアの中距離ミサイルを自分の目で、軍人の目で見に来てください。ご覧になってください。」と何回も言いましたが、誰も来ていません。アメリカやヨーロッパの軍人は、誰も来ていないのです。だから、INF条約がなくなった理由はアメリカが出た、アメリカは無制限で武器を配備するというイメージです。アメリカは8月2日、INFから出ましたが、2週間後にはもう発射実験、中距離ミサイル発射実験をしました。これは、もうちょっと待っていた方がいいですね。でも、日本政府は、アメリカがINFを止めた時に、理解を示しましたね。だから、ロシアはこれを重視しないといけないですね。

■「米国が配備しなければロシアは配備しない」

山口

そして、コサチョフ国際問題院長の指摘をもう少し確認しておきます。
「ロシアは中距離ミサイルの配備に猶予期間を設けることを提案した」
「この提案に対し回答はない」
「この条約の失効により安全保障分野における軍事対立が激化するリスクを望まない」
としています。ロシア政府としては、一貫して日ロ平和条約の締結には、日米同盟に起因するロシア側の安全保障上の懸念の解消が必要だとしています。INF全廃条約が失効するということは、今後の日ロ平和条約締結交渉に、どのような影響を及ぼすと、公使はお考えですか?

ビリチェフスキー公使

それは、日ロ平和条約の話だけではなく、安全保障の話ですよね。ロシアは、アメリカがこのINF条約を止めたとしても、アメリカが、アメリカ産の中距離兵器をアジアに配備しない間は、ロシアは中距離ミサイルを配備しません。それは、大事なプーチン大統領の発言です。もう一つは、平和条約交渉の中でも、安全保障は大事な分野の一つであります。それは、中距離ミサイルだけではなく、防衛ミサイルはイージスアショアも含めての話でございます。

山口

川村さん、中国も当然この問題に関しては絡んでくると思うのですが、どのように思われますか?

川村

先ほど申し上げましたように、多少、アメリカはトランプ政権になってから、例えばロシアとヨーロッパの関係というよりも、ヨーロッパよりもむしろアジアを重視すると、対中国を睨んだ形でINFを破棄した方がやりやすいと。それが、失効してすぐ、中距離ミサイル発射実験をやったりしているわけです。今後の、北方4島帰属問題を含めての日ロ平和条約交渉においては、ロシア側からしてみれば、例えば、日ソ共同宣言に基づいて、歯舞・色丹の2島を返す時に、中距離ミサイルが日本のどこかに設置されている、あるいは設置される可能性があるのであれば、拒否しますという論理になりますよね。日ソ共同宣言において、平和条約締結時に2島返還という宣言ができましたけど、その後1960年に、日米安全保障条約が締結されたとき、旧ソ連としては、日本から全アメリカ軍の基地が撤去しない限り、2島は返さないという条件が付けられ、その後、交渉を経て、今、歯舞・色丹返還時、歯舞・色丹に米軍基地が置かれる可能性もあると。その米軍基地が置かれる可能性が全くないと100%保証されなければ、交渉は事実上進まないという、今の安全保障関係から見たら、INFの問題が片付かないと、結果的に2島も帰って来ないということになるのでしょうか?

ビリチェフスキー公使

そうですね。INF失効のことは、もちろん安全保障にポジティブな影響を与えないと思いますね。

■「日本のスタンス、基本的に変更はない」

山口

ここで、ロシア議会の重要人物、コサチョフ連邦院国際問題委員長が日本との平和条約締結交渉をどのように見ているのか、インタビューをご覧ください。

ロシア連邦院 コサチョフ国際問題委員長

ソ連が崩壊した後、ロシアの国連安保理での立場は弱体化した。弱い国家であり、1990年代は国際政治の中で他国に依存していた。1990年代前半、ロシアは米国や欧米の国々に気に入られれば、すべてうまくいくと思っていた。残念ながらそれは幻想だった。ロシアの国益を譲歩するだけで得るものはなかった。

1991年に誕生したロシア。しかし、経済的混乱の中、国力の低下は否めませんでした。新たなロシアのリーダーになったのが、2000年に大統領に就任したプーチン氏でした。

プーチン大統領

「我々にはロシアを本格的に改革し 変換する力があることを信じる」

ロシア連邦院 コサチョフ国際問題委員長

ここ15~20年でロシアは独立し国益を追求し、強い国として認めさせることができた。我々は国際社会全体の利益を目指して行動する。自国の利益のためだけではない。これがロシアの国際政治におけるスタイルだ。ロシアにとって日本は強力な貿易経済分野でのパートナーだ。

領土問題を含む日本との平和条約締結交渉を、コサチョフ氏は、どのように見ているのか。

ロシア連邦院 コサチョフ国際問題委員長

1956年の日ソ共同宣言にも関わらず、1991年までソ連は一貫してこの問題の存在も認めなかった。1991年にソ連が崩壊し民主的ロシアが誕生したときに、この問題が動き出したと私は理解している。我々のパートナーである日本がこれを問題視しているのなら、ロシアが問題の存在を無視せず、話し合いを始めるべきだと思う。

同時に、コサチョフ氏は、領土問題が平和条約締結交渉を妨げていると指摘します。

ロシア連邦院 コサチョフ国際問題委員長

交渉の主な支障は、ロシアは,第二次世界大戦の結果として南クリルの帰属が決まったことを基礎に,交渉に臨んでいることだ。これは国際法で保証された第二次世界大戦の結果だ。日本は第二次世界大戦の結果を否定し認めようとしない。

日本政府は、北方領土は日本固有の領土として4島返還を求めています。去年11月、安倍総理とプーチン大統領は、「1956年の日ソ共同宣言を基礎として平和条約交渉を加速させる」ことで合意。日ソ共同宣言には、平和条約の締結後に歯舞諸島と色丹島を引き渡すと記されていて、「2島返還」論が取りざたされました。この日本側の「2島返還」論についてコサチョフ氏は…。

ロシア連邦院 コサチョフ国際問題委員長

私は交渉の当事者ではないが、今のところ日本のスタンスは、基本的に変更はない。私は4島返還から2島返還への変更を示す、いかなる正式な確認書も見ていない。もしそれが出たら、我々は協議する準備がある。私の理解では、日本は、2島(歯舞・色丹)は、すでに1956年に決定済みで、残る2島(国後・択捉)について協議しようという姿勢だ。ロシアは日本のこの姿勢に同意してこなかったし、今も同意しない。

コサチョフ氏は、その上で、安倍政権はこれまでの政権とは違う、と指摘しました。

ロシア連邦院 コサチョフ国際問題委員長

安倍政権以前は、歴代政権は1956年の日ソ共同宣言に進展がない限り、関係正常化も経済協力もあり得ないと言ってきた。平和条約締結もされず、領土問題も解決してない状況で、姿勢を転換させた安倍政権を歓迎する。

コサチョフ氏は、将来、国民の意識の変化が起こる可能性に期待をよせました。

ロシア連邦院 コサチョフ国際問題委員長

数十年前の、私が学生だったソ連時代、当時日本は、非友好国であると学んだ。それから30年で、ロシアも日本も、人々の意識に変化が起こったはずだ。人々は、互いをより深く理解するようになり、互いの懸念を受け止めるようになった。まだ大多数の国民が相手国を友好的とは捉えていないが、意識の変化が起これば、交渉中の問題も解決するだろう。

■「ロシアと中国は軍事同盟に反対」

山口

時間が経てば、両国の国民の意識も変わってくるのではないか、という指摘だと思いますが、振り返ると、ちょうど1年前、日本でも、平和条約交渉への期待が高まったということがありました。ただ、その後に米中の問題がだんだん浮上してきて、ロシアと中国の関係がどうなんだという指摘も出てきたと思うのです。

大木

10月29日に共同通信が報じた内容を見てみましょう。「両国(中国とロシア)が事実上の軍事同盟締結を検討しているとの見方が強まっている。アメリカが中距離ミサイルのアジア配備を検討する中で、軍事協力強化を急ぐ」という内容です。公使、ロシアと中国の軍事面での協力関係、新たな段階に入ったと言えるのでしょうか?

ビリチェフスキー公使

はっきり言いたいのは、ロシアと中国の間に軍事同盟はありません。もっと言えば、ロシアと中国は、軍事同盟に反対しています。軍事同盟は、20世紀の冷戦時代ですよね。21世紀は,新しい安全保障の構築を作らないといけない。軍事同盟はポジティブな影響を与えないと思います。役に立たないと思っております。でも、軍事協力は、ロシアと中国は続けたいと思っていますし、プーチン大統領が、先月言った通り、弾道ミサイル早期警戒システムをロシアは中国にあげるつもりであるという話もありました。ロシアと中国は共通の国益がたくさんありますので、これから貿易の分野、それから国際場面で、ロシアと中国は緊密的に協力したいと思っております。

川村

その面で一点だけ。この間も、ロシアと中国の軍事協力ということで合同軍事演習を行って、竹島上空を通過して警告されていますけれども、そういうことが今後続くことは、日本にとっては非常に困るわけですが、そういう関係はさらに進めていく考えなのでしょうか?

ビリチェフスキー公使

ロシアと中国の軍隊は、予定通りの訓練はこれからも続けると思いますが、でも、これは、竹島の問題には全然関係ありません。

■「私も立場の変更があったとは聞いていない」

山口

お話を平和条約交渉、日ロの関係に戻していきたいのですが、領土問題に関して、ロシア連邦院のコサチョフ委員長が言及した点を改めて確認します。日本政府は、北方領土が日本固有の領土として4島返還を求めていますが、去年(2018年)11月14日、安倍総理とプーチン大統領は、「1956年の日ソ共同宣言を基礎として平和条約交渉を加速させる」ことで合意しました。この日ソ共同宣言(第9条)には、平和条約締結後、「歯舞群島及び色丹島を日本国に引き渡す」と記されています。ということから、日本側は領土交渉における立場を、4島返還から2島返還に変更したのではないかという、「2島返還」論が取りざたされるようになりました。

大木

領土問題に対する日本の立場について、ロシア議会の重要人物、コサチョフ氏は私たちのインタビューの中でこう語っています。
「日本の立場に基本的な変更はない」
「少なくとも私は4島返還から2島返還への変更を示す、いかなる正式確認書も見ていない」
「もしそれが出たら我々は協議する準備がある」

山口

つまり、2島返還への正式な方針変更があればロシア側も協議する準備があるということですよね?公使は、どのようにとらえていらっしゃいますか?

ビリチェフスキー公使

とりあえず、「領土返還」という言葉は、コサチョフも使わなかったと思います。「南クリルの引き渡し」という言葉を使ったかもしれないのですけれども、それ(領土問題)はそんな簡単な問題ではないですよね。とりあえず、4島とか2島、立場の変更は、日本側から正式的に聞いたことがない。元外務大臣、河野大臣に聞いても、今の茂木大臣、あるいは安倍総理、副総理、官房長官、いつも、発言では「4島返還」という言葉を使っていらっしゃいますね。私はずっと日本に住んでいますが、日本政府の公式な立場の変更があったとは一度も聞いたことがない、外務省からも聞いたことがありません。

山口

公式にはそうですよね。今、公式ではそうなんですけど、仮に2島返還という、ロシアから見ると、2島引き渡しということになると思うのですが2島引き渡しという交渉になれば、コサチョフさんは準備するとおっしゃっています。公使はどう捉えていらっしゃいますか?

ビリチェフスキー公使

私が思うには、とりあえず1956年の日ソ共同宣言に書いてある通り、平和条約締結をしないといけない。それは、どういう意味かというと、日本は、この南クリル4島はロシアの領土であると認めないといけないですね。それは第二次世界大戦の結果であるからです。

川村

日本の立場をより正確に言いますと、エリツィン大統領のときの東京宣言以来、ずっと4島の帰属について、はっきりさせると。4島の返還という言い方は、現在も、きちんと交渉の場では言っていない。4島の帰属についてという形で。しかし、1956年の日ソ共同宣言においては、平和条約が結ばれたら、2島は引き渡されるよということで、現在、日本とロシアの間では、国境確定委員会も、共同経済活動委員会もできていますから、その中で交渉は進んでいるという形で、事実上、2島は最初になるのか、そこでおしまいになるのか、ある意味では、もう交渉の段階には来ていると、政府当局の間で言う人はかなり出てきましたね。

ビリチェフスキー公使

そうですね、第二次世界対戦の結果を認めることと、安全保障の分野を含め、日ロ次官級とか閣僚会議でも議論されていますが、一番大事なのは、ロシアと日本の間に適当な雰囲気を作るということです。それは、政治対話、経済協力、それから他の順道レベルの交流ですね。もう一つ大事なことは、南クリル辺りの共同経済活動で、そこは進展が結構ありますね、最近は。

■「日ロ関係は進展 未来はすごくいい」

山口

公使、最後にお話しを伺いたいのですが、2005年から駐日ロシア大使館に勤務されていて、一旦ロシアに帰った後も、日ロ関係を担当、2015年から、駐日公使になられていますよね。ずっと日ロ問題に取り組んでいらっしゃる。そういうお立場からして、日ロ関係の現状をどのようにとらえていますか?

ビリチェフスキー公使

最近、安倍政権のとき、日ロ関係は結構うまく進展しています。2005年に全然思わないことが今、事実ですよ。首脳会談は年に3回4回ぐらい、それから防衛大臣、外務大臣、2+2はもう2年間ぐらい続いていますし、安全保障局長間の話もですね。それから、エネルギーの安全保障、アークティックLNG(Arctic LNG2プロジェクト)日本の参加とかですね、総合交流年、来年は地域交流年、本当にうまくいっていますよね。でも、一番大事なのは、これからです。日本とロシアは共通の国益もあります。それはエネルギー安全保障、パリ協定です。イランの核開発問題、CTBT、麻薬対策など、それは、それは結構ありますよね。戦略的なパートナーシップの関係を作らないといけないと思っております。

山口

そういう意味ですと、やっぱり日本とロシアの両国民の間の、意思疎通というか、そこの関係性もすごく大事ですね?

ビリチェフスキー公使

やっぱりそうですね。今、ロシア人は、日本へ本当に関心が高まっていますし、日本人も私が見ている限り、観光の方が増えていますし、ワールドカップとかウラジオストク経済フォーラムの参加者は増えていますし、日ロ関係の未来はすごくいいと思っております。

川村

経済協力関係も進んできましたからね。国後・択捉での合同的な経済協力もかなり進んでくるという方向にはなっていますよね。

山口

本当にこの長い年月をかけて、日ロ間の懸念が、懸案が、少しずつ解消されるように願いたいと思います。
きょうは公使、どうもありがとうございました。

ビリチェフスキー公使

ありがとうございます。

ロシア連邦院コサチョフ国際問題委員長インタビューの全編はこちら

(2019年11月7日放送)