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#247

熊谷6人殺害その後 遺族が問う“新たな矛盾”県警幹部の法廷証言

日曜スクープで繰り返しお伝えしてきた「熊谷6人殺害その後」です。妻と2人の娘の命を奪われた加藤裕希さんは、当時の警察の対応を問う裁判の控訴審に臨んでいます。2023年1月22日『BS朝日 日曜スクープ』は、加藤さん側が「当時の埼玉県警幹部の証言には矛盾がある」と指摘した、新たに問題提起を特集しました。司法は、連続殺人事件の被害者の訴えにどう向き合うのでしょうか。

■“最初の殺人”後も明らかにしなかった「逃走」

妻と2人の娘の命を奪われた・加藤裕希さん(50)

「一番大事なのは本当に亡くなった妻と娘たち2人にこの裁判で勝ってちゃんとした報告ができることが目的なので、それにしっかりと司法と向き合っていい判決が出ればなと思いますけど」

加藤さんが当時の埼玉県警の対応を問う裁判の控訴審、第2回口頭弁論が1月18日、東京高裁で行われました。

加藤裕希さん提供の2014年2月の映像です。

美和子さん「すごーい、かまくら」

美和子さん「美咲さん、春花さん」

美和子さん「どうですか、中は?」

春花さん「えー気持ちいいよ!」

美和子さん「気持ちいいですか?」

春花さん「うん!」

撮影しているのは妻の美和子さん。撮影当時、長女の美咲さんは9歳、春花さんは5歳でした。

去年10月の控訴審第1回口頭弁論で加藤さんは、こう訴えていました。「まさかその日の朝まで一緒に過ごした家族3人の命が、一瞬のうちに奪われるとは思っていませんでした。仕事を終えて帰宅すると、家族の中で生きているのは私1人だけでした」

2015年9月、埼玉県熊谷市の住宅街で6人が相次ぎ犠牲となった連続殺人事件。

9月13日、民家の敷地に侵入したとして熊谷警察署で聴取されていたジョナタン受刑者が逃走。その翌日、50歳代の夫婦が殺害され、16日には84歳の女性の遺体が発見。さらに加藤さんの妻と2人の娘が、相次いで犠牲となりました。

ペルー国籍のジョナタン受刑者は、死刑判決が取り消されて、無期懲役が確定しています。

加藤さんが問題にしているのは、加藤さん宅での事件が起きる前の埼玉県警の対応です。埼玉県警は熊谷署から逃走中だったジョナタン受刑者を最初の殺人事件の「参考人」として全国に手配していました。しかし、ジョナタン受刑者の逃走は、加藤さんの事件が起きるまで明らかにしていませんでした。

■「警察官が誰1人、発信せず、残念でならない」

加藤さんは、〝最初の殺人事件後、埼玉県警の周囲の住民への注意喚起が不十分だった〟として埼玉県を相手取り、裁判を起こしました。

しかし、去年4月の1審判決は、「加藤さんの自宅に襲撃の危険が切迫していたとは認められず、埼玉県警の対応には問題がなかった」と、加藤さんの訴えを退けていました。

妻と2人の娘の命を奪われた・加藤裕希さん(50)

「今までの中でその当時の現役警察官、今の埼玉県警ですね、この事件でおかしいなと思って誰1人発信する者がいなかったということが、すごく残念でならないです」

1月18日の法廷で加藤さん側が改めて問題視したのは、埼玉県警の当時の幹部の証言です。1審の証人尋問では、〝最初の殺人事件が起きても連続発生するとは判断できなかった〟として、その理由をこう証言しました。

■当時の県警幹部「屋内1件では…」去年12月の対応と“矛盾”

加藤裕希さんの代理人・髙橋正人弁護士

(事件当時の埼玉県警幹部は)「屋外での通り魔事件であれば1件発生しただけで同じ事件が再び起きる、連続発生が予見できる」と。しかし、「屋内で発生した事件については怨恨とかの可能性があるから2件以上発生しないと、その後の連続発生は予見できない」ということを唐突に証人尋問で言い出してきたんです」

この主張に「矛盾」があると加藤さん側が指摘するのは、去年12月25日に埼玉県飯能市の住宅街で起きた、殺人事件です。

この事件で埼玉県警は、60代の夫婦と30代の娘の3人が自宅敷地内で遺体発見されてから、1時間以内に防災無線やツイッターなどで警戒を呼びかけていました。

加藤裕希さんの代理人・髙橋正人弁護士

「この(埼玉県飯能市の)事件は屋内の事件であります。しかも、当初から犯人がほぼ想定されていて、怨恨でありました。にもかかわらず、埼玉県警は連続発生を予見して、『ただちに戸締まりしてください 屋外に出ないでください』ということを防災無線で言っているわけであります」

加藤さん側は、当時の埼玉県警幹部の〝屋内事件1件では連続発生を予見できない〟という主張に疑問を呈してきました。

加藤裕希さんの代理人・上谷さくら弁護士

「私も色んな警察の人に聞いてみたんですよ、そういう発想ってあるんですかと。『そうですよ』なんて人は一人もいません。これについても、こちらも散々、反論して、証言の信用性がないと言ったのですけれども、第1審は一切、そこに触れていないんです」

裁判長は次回の法廷を3月10日に指定し、埼玉県警側に反論書を提出するよう求めました。

■「裁判を通じて人間不信が募る中で…」

妻と2人の娘の命を奪われた・加藤裕希さん(50)

「だんだんだんだん民事も刑事も裁判を通して、人間に対して不信感みたいなものが募っていく中で、やはり温かい言葉をかけてくださる方もいらっしゃるんですよね」

加藤さんは裁判と並行して、犯罪ジャーナリスト、小川泰平さんのユーチューブチャンネルに出演。長期にわたる週刊誌の密着取材も受けて、自らの心境を包み隠さず明かしています(週刊新潮2022年12月15日号 「犯罪被害者遺族」という人生 第2回 熊谷6人殺害事件「警察との闘い」も強いられて…)

さらに、去年からはSNSに加えて、裁判費用向けの寄付を募り始めました。

支援の輪が加藤さんを勇気づけています。

妻と2人の娘の命を奪われた・加藤裕希さん(50)

「本当に寄付をしてくださった方、また応援のメッセージをくださった方に、感謝の気持ちでしか、今は本当にありません。埼玉県警に本当に心から3人に向かって謝っていただきたい、これが1番私の中では大前提で、それが1番今大事に思っています。」

■片山善博「本当に警察の信頼が損なわれる」

上山

2015年9月に起きた「熊谷6人殺害事件」。改めて事件の経緯を確認します。

菅原

2015年9月13日にペルー人のジョナタン受刑者が、埼玉県警の熊谷警察署から逃走したところから事件は始まっています。熊谷市内で14日に田﨑稔さんと美佐枝さん夫妻を殺害。15日から16日にかけて白石和代さんを殺害、さらに、加藤美和子さんと長女の美咲さん、次女の春花さんの3人を殺害した後に、身柄を拘束されました。

上山

加藤さん側は1月18日の控訴審の法廷で、VTRでもお伝えした通り、こちらの当時の埼玉県警幹部の主張を問題視しました。さらにこの日の法廷で加藤さん側は、もうひとつ疑問を投げかけました。

こちらの、埼玉県警が地域住民の防犯対策に役立てることを目的に、メールで配信している防犯情報についてです。これは「犯罪情報官NEWS」という、防犯のための情報メールということです。例えば凶悪事件、不審者情報、振り込め詐欺、空き巣、チカンなどの情報が事前に登録した人に対して配信されるものです。熊谷6人殺害事件が起きた2015年9月14日から16日の間に配信されていたもの、埼玉県内の防犯情報は53件あったのですが、その期間に熊谷市内の情報は、9月14日の車上ねらいと振り込め詐欺の2件だけで、熊谷市内で殺人事件が起きていることは全く配信されていませんでした。

裁判長は次回に指定した3月10日の法廷までに、埼玉県警側に反論書の提出を求めていますが、片山さんはここまででいかがですか。

片山

(埼玉県警側は)屋内ではどうだ、屋外ではどうだという意見を述べられているようですけれども、全く理解できないですね。最近の例でも博多の屋外の事件はストーカーですよね。それから関東周辺で起きている最近の連続強盗事件は屋内で連続ですよね。

だから全く理屈になっていない。みっともない屁理屈をこねていると、警察への信頼が本当に失われると思うんです。もっと正直になったほうが、警察のためになると思います。

 
(2023年1月22日放送)