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#212

熊谷6人殺害“遺族の訴え棄却”判決の論理

熊谷6人殺害で、妻と2人の娘の命を奪われた加藤裕希さん(49)。ペルー国籍の男は、死刑判決が取り消されて、無期懲役が確定しましたが、加藤さんは今なお法廷での闘いに臨んでいます。最初の殺人事件が起きたのは、男が熊谷署から逃走した翌日。埼玉県警は男を全国に「参考人」手配しましたが、男の逃走は公表されることなく、連続殺人に至りました。加藤さんは、警察が最初の殺人事件後、無差別殺人の可能性を周辺住民に周知し、警戒を呼び掛けていれば、被害は防げた可能性があると訴えています。2022年4月17日の『BS朝日 日曜スクープ』は、加藤さんの訴えを棄却した判決の論理を検証。控訴して逆転勝訴を目指す加藤さんの決意を伝えました。

 
遺族の加藤裕希さん本人のブログや、支援の呼びかけはこちらです。
⇒ 熊谷市6人殺人事件遺族 加藤 裕希
⇒ 熊谷6人連続殺人事件 国賠訴訟でのご寄付の受付について
 
「熊谷6人殺害その後」の特集は、こちらもご覧になっていただけます。
⇒ 2023年3月12日放送 熊谷6人連続殺害 “警察の対応を問う”遺族 控訴審が結審
⇒ 2023年1月22日放送 熊谷6人殺害その後 遺族が問う“新たな矛盾”県警幹部の法廷証言
⇒ 2022年10月23日放送 熊谷6人殺害“警察の対応を問う”控訴審開始 遺族の決意と争点
「これ以上、遺族を見捨てないでください」熊谷6人殺害事件の遺族、加藤裕希さんの意見陳述全文
「地域の安全と安心を守るために…」熊谷6人殺害・国賠訴訟控訴審 橋本大二郎さん意見書全文
⇒ 2021年5月2日放送 熊谷6人殺害「証拠品」返却 今なお訴え続ける理由
⇒ 2019年12月22日放送 熊谷6人殺害で死刑破棄 遺族が出演「司法にも心を殺されました」

■“警察による注意喚起“問う遺族に司法は…

妻と2人の娘の命を奪われた 加藤裕希さん(49)

「小さい娘たちには、ほんとに、パパほんとに頑張ったよね、って言えるように頑張らなくてはいけない、と思うんですけど、これから控訴に向けて考えて、また家族と向き合って一つ一つ考えたいと思います。」

母親の美和子さん

「春花さん、歯が抜けそうです。さっき1本抜けました。またすぐ1本抜けそうです。はい、美咲さん応援です」

美咲さん

「せーの、がんばれがんばれ春ちゃん、がんばれがんばれ春ちゃん」

姉妹の仲睦まじい姿。幸せな家族の日常が突然断ち切られました。

2015年9月に埼玉県熊谷市の住宅街で起こった連続殺人事件。

犯人はペルー国籍のナカダ・ルデナ・バイロン・ジョナタン受刑者、当時30歳。死刑判決が取り消されて、無期懲役が確定しています。

妻と2人の娘の命を奪われた・加藤裕希さん(2019年12月22日放送)

「被告人にも心を殺されて、さらに今回、司法にも心を殺されました。(被告を)死刑にすることしか、父親として、家族3人のために、それしかできなかったので本当に今回は悔しいです」

刑事裁判に続き、今回も司法は加藤裕貴(ゆうき)さんの訴えを認めませんでした。番組は記者会見後、加藤さんを取材しました。

妻と2人の娘の命を奪われた 加藤裕希さん(49)

「本当に事実を明らかにしたかった なぜ3人が殺されなくてはならなかったのか」

2015年9月13日、民家の敷地に侵入したとして熊谷警察署で聴取されていたジョナタン受刑者が逃走。翌日14日に50歳代の田﨑さん夫婦が殺害され、16日には84歳の白石和代さんの遺体が発見。さらに加藤さんの妻・美和子さん、長女の美咲さん、次女の春花さんが相次いで犠牲となりました。

この間、15日未明に埼玉県警は、目撃情報などをもとにジョナタン受刑者を「参考人」として全国に手配していました。しかし、県警がジョナタン受刑者の逃走を明らかにしたのは、加藤さんの家族が犠牲になった後でした。

妻と2人の娘の命を奪われた 加藤裕希さん(2021年5月2日放送)

「やはり命の大切さ、尊さをやはり知った上で警察の方はやってもらいたかった。そうすれば3人の命は奪われなかったのではないか」

加藤さんは、埼玉県警が「事件や事情を知るとみられる外国人の逃走を周辺の住民に知らせていれば、被害を防げる可能性が高かった」と訴えていました。

これに対し、今回の判決は、「埼玉県警の情報提供の方法や内容に関して、国家賠償法上の違法があるとは認められない」として、訴えを退けました。

■遺族側は判決の法律解釈を問題視

加藤裕希さんの代理人 髙橋正人弁護士

「私たちは判決が間違っていると思っているんですよ。この判決は、予見しなきゃいけない危険というのは田﨑宅周辺で凶悪事件が発生するという危険じゃなくて、加藤宅でジョナタンが殺人をする、加藤宅で事件が発生する、加藤宅で子供2人を含めて3人を殺害する、それを予見しなきゃいけないとこの判決は捉えているんです。ここに大きな間違いがあるんですね、この判決の」

裁判は、最初の殺人事件が起きた後、埼玉県警がさらなる犯罪を予見できたかが争点になりました。

警察法 第2条1項、「警察は、個人の生命、身体及び財産の保護に任じ、犯罪の予防、鎮圧及び捜査、被疑者の逮捕、交通の取締その他公共の安全と秩序の維持に当ることをもってその責務とする」この「個人の生命、身体及び財産の保護」という規定について、判決は、「特定の個人の生命、身体及び財産が犯罪等の危険にさらされている場合」と解釈しました。

その上で、埼玉県警の責任を問うには「単に居住地域で同種犯罪が発生する危険があるというだけでは足りず、ジョナタン受刑者による加藤さん宅での住居侵入や殺人事件が発生する危険が切迫していたかどうかを検討する必要がある」と位置付けたのです。

加藤裕希さんの代理人 髙橋正人弁護士

「今回はジョナタンが無差別に人を殺しているわけなんですね。無差別殺人なんだから特定の個人であることを、特定の個人を殺すであろうという予見の可能性は必要じゃないんですね。無差別殺人だからこそ、無差別にまた周辺で起きることの予見でいいはずなんです」

加藤さん側は、判決がこの裁判での当時の県警幹部の証言に言及していないことも審理不十分だとしています。

加藤裕希さんの代理人 上谷さくら弁護士

「要は連続発生、殺人の連続発生が、屋内と屋外で異なるんだと。屋外だと一件発生すれば、連続殺人犯の危険性がある、ただ、屋内だと2件以上発生して初めて連続発生の危険があるとか、すごい変なことを言っていたんですけど、(判決は)その辺に対する評価もない」

2015年の事件発生時から取材し続けてきた犯罪ジャーナリストの小川泰平さん。

犯罪ジャーナリスト 小川泰平氏

「一言でいうと、非常に残念だと思ってます。加藤さん、私の目の前、1メートルの所にいたんですけど、顔が青ざめてましたよね。何とかいい結果が出ることを、私は、気持ちとしては、願っているところです」

遺族の加藤さんは、控訴する方針を固めています。

妻と2人の娘の命を奪われた・加藤裕希さん

「悔しいというよりか怒りの方が強く感じました。論点が本当にズレていて、今回の裁判は本当に何だったんだろうなと、ちょっと疑問に思います」

■「判決は議論を矮小化。納得できない」

上山

熊谷6人殺害事件の遺族、加藤裕希さんは警察の情報提供のあり方を問う裁判を起こしました。警察が事件や事情を知ると見られる外国人の逃走を周辺の住民に知らせていれば、被害を防げる可能性が高かったとして埼玉県を訴えました。

加藤さんの訴えに対して、おととい(4月15日)の判決は、「できる範囲での情報提供を行っていた。著しく不合理であるとは言えず、国家賠償法上の違法があるとは認められない」などとして、請求を棄却しました。

地図で改めて見てみたいと思うんですが、最初の殺人事件、田﨑さんの自宅から、加藤さんの自宅は直線距離で1.4kmほどだということです。加藤さんは「田﨑さん夫妻が殺害された事件、これが無差別殺人である可能性があると家族が知っていたなら、家族はもっと戸締りを厳重にして警戒していたであろう」と。そして加藤さん自身も、「自分も何日か仕事を休んで様子を見たと思う」と、このように話していたわけです。木内さんは今回の判決はどのように見ていますか。

木内

なかなか納得できない感じはしました。警察署の責任と対応が適切かが十分問われたようには思えないわけです。原告側は、地域住民という不特定多数の人が生命のリスクにさらされることをどのくらい予見できて、注意喚起などを対応したかどうかを問うているわけなんですけども、実際の判決は、加藤さん宅の事件が予見できたかというところに議論が矮小化されてしまっているところが大きな問題だと思います。

菅原

一市民として見ても、警察のこの広報の仕方で良かったのかと思ってしまうんですが、木内さんはどう見ていらっしゃいますか。

木内

やはり一市民としては、もっと注意喚起をしっかりして欲しかったなという感じはしますよね。もちろん、その時点ではどのくらい大きな問題が起こるかというのは分からないわけですけど、ただ、やはり最悪の事態を考えて、最大限の注意喚起を地域住民にしてほしかったと思います。この後、「熊谷モデル」というもので注意喚起は強化されたんですけど、熊谷だけじゃなくて埼玉、あるいは全国の警察に、そうした注意喚起を念のため最悪の事態を考えて強化するというのを徹底してやってほしかったなという感じはします。

上山

加藤さんは判決後、「絶対、控訴すると決めています」と語っています。今後も加藤さんの戦い、お伝えしていきたいと思います。失礼します。

(2022年4月17日)