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#278

熊谷6人殺害その後 最高裁に「理由書」提出 “狭き門”上告の行方は

埼玉県熊谷市で起きた連続殺人事件、熊谷6人殺害の遺族、加藤裕希さんは、当時の埼玉県警の対応を問い、最高裁に上告しています。2023年9月10日『BS朝日 日曜スクープ』は、加藤さん側が最高裁に提出した「理由書」に焦点を当て、上告審の行方を特集しました。

放送内容は動画でもご覧になっていただけます。

■【熊谷6人殺害国賠訴訟】上告理由書を提出“警察裁量”不当性の存否

⇒ テレ朝news

⇒ ANNnewsCH

■日曜スクープが放送した「熊谷6人殺害その後」の特集は、ページの最後にご案内しています。

■月命日に供養「事件後、時が止まっている」

上山

日曜スクープで繰り返しお伝えしてきた「熊谷6人殺害事件その後」です。妻と2人の娘の命を奪われた加藤裕希さんは、当時の警察の対応を問う裁判に臨んでいます。1審、控訴審ともに訴えを退けられた加藤さんは、最高裁に上告し、上告の趣旨を取りまとめた「理由書」を9月5日に提出しました。しかし、その最高裁で上告が受理されて審理の対象となるのは2022年の場合、わずか「1.3%」です。加藤さんは、この狭き門を突破することができるのでしょうか。

8月16日、加藤さんは熊谷市内にある寺を訪れていました。2015年に葬儀を終えた後、亡くなった妻と2人の娘の遺骨をこの寺で安置してもらい、月命日の16日に必ず、供養しているといいます。

妻と2人の娘の命を奪われた 加藤裕希さん(50)

「結果的にはわからないですけど、最後の最後まで諦めないで、勝訴に向けて、『パパは頑張るよ』という形で、報告しました」

加藤さんは、毎年、地元の夏祭りに家族で出かけるのを楽しみにしていました。

SNSには、「事件後から時が止まっている」と投稿しています。

2015年9月、埼玉県熊谷市の住宅街で6人が相次ぎ犠牲となった連続殺人事件。9月13日、民家の敷地に侵入したとして熊谷警察署で聴取されていたジョナタン受刑者が逃走。その翌日50歳代の夫婦が殺害され、16日には84歳の女性の遺体が発見。さらに加藤さんの妻と2人の娘が、相次いで犠牲となりました。

犯行に及んだペルー国籍のジョナタン受刑者は、死刑判決が取り消されて、無期懲役が確定しています。

2018年、加藤さんは、埼玉県警による地域住民への注意喚起が不十分だったとして裁判を起こしました。最初の殺人事件が起きた際のことです。埼玉県警は熊谷署から逃走中だったジョナタン受刑者を「参考人」として全国に手配していました。しかし、県警はジョナタン受刑者の逃走を公にせず、防災無線などを用いて注意を呼びかけることもありませんでした。そして、連続殺人に至ったのです。

しかし、1審、控訴審ともに訴えを退けられ、7月、最高裁判所に上告。そして9月5日、上告の趣旨を取りまとめた「理由書」を提出しました。

■理由書での反論①「防犯情報“提供” 国民が期待」

加藤裕希さんの代理人・髙橋正人弁護士

「なんか控訴審っていうのは、結局最高裁に判断を丸投げしちゃったのかなと、自分たちではもう判断したくないから最高裁にやってくれと」

控訴審判決は、ジョナタン受刑者が最初の殺人事件を起こしたのを受けて、同種の凶悪犯罪を引き起こす危険性が切迫していたと認定しました。しかし、埼玉県警はその危険性を認識できなかったとして、対応に問題はなかったと結論付けました。

加藤裕希さんの代理人・髙橋正人弁護士

「控訴審は、危険の切迫性は認めたんです。しかも無差別殺人。つまり田﨑事件(最初の殺人事件)と同種の無差別事件が発生する危険の切迫性はあったと認めたんです。ただ、それは(埼玉県警が)予見できなかったということで棄却されているんです」

控訴審判決は、埼玉県警が危険性を予見できなかったとした理由を主に2つ挙げています。ひとつは、最初の殺人事件が起きた時点では、ジョナタン受刑者を殺人事件の容疑者とまでは特定できなかったことです。

この点について加藤さん側の弁護士は、最高裁に提出した書面で、論理のすり替えに過ぎないと指摘しました。防犯対策の情報は、容疑者が特定されていなくても警察が提供することを国民は期待していると主張しています。

加藤裕希さんの代理人・上谷さくら弁護士

「防犯対策情報、どのように防犯すればいいか、どういう事件が起きているかという情報は警察が100%握っているわけですよね。住民はそれを正しく提供してもらわないと、自分たちの身を守ることができない。」

妻と2人の娘の命を奪われた 加藤裕希さん(50)

「当時 妻・美和子は危険の切迫性に対して、第1事件の田﨑事件(最初の殺人事件)のときは『身内の犯行かね、怨恨かね』という話を私に当日の朝していたんですよね」

加藤さんは、事件当日の美和子さんとの最後の会話を裁判で証言してきました。

妻と2人の娘の命を奪われた 加藤裕希さん(50)

「やっぱり危険の切迫性を、私の妻は(当時の警察の対応では)全然 感じていなかったんだなと本当に思います」

■理由書での反論②「県警幹部の証言の信用性は!?」

さらに控訴審判決は、埼玉県警が事件の連続発生を予見できなかったと認定するにあたって、もうひとつ理由を挙げていました。

加藤裕希さんの代理人・上谷さくら弁護士

「(当時の県警幹部は法廷で、)屋外の通り魔事件、外での通り魔事件であれば、1件発生しただけで連続発生を想定すべきだけども、屋内の事件ですね、住居侵入殺人とか、そういう屋内の事件だと、2件続けて発生しない限り、連続発生を想定できないと」

これは、1審の証人尋問で、事件当時の埼玉県警幹部が発言した内容です。この発言を前提にして、控訴審判決は加藤さんの訴えを退けていました。

加藤裕希さんの代理人・上谷さくら弁護士

「色んな書籍を調べたけど(そのような見解は)ありません。私も髙橋弁護士も色んな警察官、検察官に知り合いがいますから、聞いてみたけど、そんな話は誰も聞いたことがない」

加藤さん側は最高裁に、当時の県警幹部の証言の信用性も判断するよう訴えています。

妻・美和子さん「春花さん、歯が抜けそうです。さっき1本抜けました。またすぐ1本抜けそうです。はい、美咲さん応援です」

長女・美咲さん「せーの、がんばれがんばれ春ちゃん、がんばれがんばれ春ちゃん」
妻・美和子さん「さぁ、どうでしょう。」

主に加藤さんの妻、美和子さんが撮影係として担ってきた映像の数々。そこには、仲睦まじい家族の日常の姿が記録されています。

妻と2人の娘の命を奪われた 加藤裕希さん(50)

「どうにか公正な判断を司法に求めて、勝訴に向けて頑張っていければとは思いますけど」

■去年は上告受理1.3%・・・「狭き門」での闘いに願うこと

上山

「熊谷6人殺害事件」の遺族、加藤さんがおこした裁判について、お伝えしています。加藤さんは、最初の殺人事件が起きたとき、埼玉県警の近隣住民への注意喚起が不十分だったと訴えています。

飯村

まず事件の経緯です。最初は左上です。2015年9月13日、午後3時半ごろです。ペルー人のジョナタン受刑者が埼玉県警の熊谷警察署から逃走したところから事件は始まっています。そしてジョナタン受刑者は熊谷市内で14日に田﨑稔さんと美佐枝さん夫婦を殺害。15日から16日にかけて白石和代さんを殺害。さらに加藤美和子さんと長女の美咲さん、次女の春花さんの3人を殺害した後に、身柄を拘束されたという事件です。

上山

加藤さんは7月、最高裁に上告し、9月5日に上告の趣旨を取りまとめた書類を提出しました。この最高裁への上告に関してですが、上告できるのは法律上、憲法違反や判例違反、法律解釈の重要な違反などに限られています。このため最高裁への上告にあたっては通常、上告受理申立てという手続きを行い、最高裁での審理の対象であることを主張します。しかし、ほとんどの上告は最高裁に受理されていないのが実情です。

2022年の場合、2701件の上告受理申し立てのうち、上告が受理されて審理の対象になったのは、わずか1.3%という「狭き門」でした。一方、97%の2629件は上告が受理されていません。その時点で、敗訴が確定となっています。加藤さんの上告も、最高裁での審理の対象になるのか、つまり、上告が受理されるかどうかが最初の関門となります。加藤さんの訴えが認められるかどうかは、上告の趣旨を取りまとめて今回、提出した「理由書」を最高裁がどう判断するかにかかっています。杉田さんは、この裁判の意義をどのように見ていますか?

杉田

そうですね、予見可能性をあまりにも狭く、厳しく解釈して、その上で警察の対応に問題はなかったという判決になっていると思うのですけれど。やはり、国民の生命を守る、あるいは、国民の生命に影響を与えるような警察、あるいは災害の時の対策にあたる省庁、役所というのは、広く広く予見して危険性、危険の可能性を国民に知らせてほしいと思います。

災害の場合は、最近は可能性を広くとらえる方法が徹底されていると思います。ただし、こういった事件の場合、これも同じように広く広く徹底して伝えるということをしてもらわないと、加藤さんが先ほどおっしゃっていましたけど、我々が判断できないんですよね。そもそもの情報がないと。そこはやっぱりこれから、改善してほしい点だと思います。

【杉田弘毅】共同通信社特別編集委員
テヘラン支局長、ニューヨーク特派員、ワシントン支局長、論説委員長などを経て現職
明治大学で特任教授 2021年度「日本記者クラブ賞」を受賞
著書「国際報道を問いなおすーウクライナ戦争とメディアの使命」など多数

上山

たとえ、(事件の発生が)屋内であったとしても、屋外であったとしても、そんなことは関係なく、殺人事件があったとしたら近隣住民としたらまず知りたいということですよね。

杉田

そうですね。それによって我々は身を守るために何をすべきか、わかってくるわけですからね。

上山

引き続きこの裁判の行方、しっかりとお伝えしていきたいと思います。今週もご覧いただいてありがとうございました。

 
(2023年9月10日放送)